事例に学ぶ! 処方箋監査 vol.1 下 平 秀夫 先生 帝京大学薬学部実務薬学教室 / 富士見台調剤薬局 このシリーズでは、新人薬剤師ハツミさんの失敗談を例に処方箋監査を学びます。 おやおや? ハツミさん、なにか困っていますね。どうしたのでしょうか? 事例 処方箋 氏 名 山本 太郎 生年月日 昭和45年9月1日(43才) 交付年月日 平成 ○ 年 × 月 △ 日 医 療 機 関 アルシス総合病院 渋谷区******* 電 話 番 号 03-6861-**** 保 険 医 川村 次郎 処方箋の使用期間 変更不可 1) クラリスロマイシン 錠(200mg) 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 30日分 処方箋をみた新人薬剤師のハツミさんは、クラリ スロマイシンの処方量や処方日数に疑問をもち、 処方医に疑義照会をしました。医師からは『びま ん性汎細気管支炎に対して少量長期投与をしてい るのでこのままでお願いします』と回答が・・・ 支炎? びまん性汎細気管 処 方 マクロライドの少量長期 投与? 解 説 ? ? マクロライド系抗生物質は抗炎症作用を期待して、びまん性汎細気管支炎の治療に 用いられる。 新人薬剤師ハツミさんの対応について クラリスロマイシンの用法用量は、成人に対して通常 1 日 400mg あるいは 800mg を 1 日 2 回に分けて服用します。 ヘリコバクター・ピロリ感染症には、アモキシシリンとプロトンポンプ阻害薬の併用で本剤 1 日 400mg または 800mg を 1 日 2 回に分けて服用します。今回の処方は添付文書にない内容なので、ハツミさんは単純な処方ミスと思って疑義 照会をしてしまいました。疑問点を医師に確認することは悪いことではないですが、患者さんへの聞き取りや先輩薬剤 師へ尋ねるなど、事前に情報を整理しておいたほうが良かったと思います。 びまん性汎細気管支炎 びまん性汎細気管支炎(DPB)は、びまん性の呼吸細気管支領域の慢性炎症のために咳、痰が出たり、息苦しくなる疾 患です。男女差はほとんどなく、発病年齢は 40 ∼ 50 歳代をピークとして若年者から高齢者まで各年代層にわたります。 マクロライド系抗生物質の少量長期投与 DPB は 1970 年代には 5 年生存率が 63% と大変予後の悪い病気でしたが、マクロライド系抗生物質の少量長期投与が 普及した後の調査では 5 年生存率が 91.4% と飛躍的に改善し治癒する人が多くなりました。今日、エリスロマイシン 療法が DPB の基本療法となっています。エリスロマイシンで副作用が出たり無効な例では、同じ 14 員環のクラリスロ マイシン 、ロキシスロマイシンへの変更が試みられます。通常は2∼3ヶ月以内に臨床効果が認められ、最低6ヶ月 間投与して効果を判定します。自覚症状および臨床検査所見が改善し、症状が安定したら通算2年間で終了となります。 マクロライド系抗生物質の作用機序 マクロライドは本来は抗生物質ですが、DPB に対する有効性は抗菌作用ではなく、気道上皮の粘液分泌抑制、インター ロイキン 8 の好中球遊走因子抑制などによると考えられています。 保険適応について 2011 年 9 月、「クラリスロマイシン(内服薬)」を DPB などの「好中球性炎症性気道疾患」に対して処方した場合、 当該使用事例を審査上認めるとの通達が厚生労働省より通知されています(保医発 0928 第 1 号)。 2014年2月作成
© Copyright 2024 ExpyDoc