マーケットの底 流 を読 む 株式会社ジャパンエコノミックパルス Japan Economic Pulse Co., Ltd. 格差是正に「原油急落」の即効薬 [email protected] 地方経済を支援、1-3 月の消費と GDP を底上げへ アベノミクスでは都市部と地方、大企業と中小企 業、富裕層と低所得者層といった格差拡大が問題と なっているが、原油急落は格差是正の即効薬となる ものだ。とくに円安などでコスト負担が増大してき た地方経済には、一部製造業の国内回帰とあいまっ て支援材料となりやすい。1-3 月期の個人消費や GDP を押し上げるほか、日本株市場では消費税増税 などで出遅れてきた内需株に追い風となる。4 月の 統一地方選でも与党にプラスとなり、今春の春闘で の賃上げ機運との相乗効果で好循環に期待感をつな ぐ。 地方小売株、昨年の逆風から出直り機運 「初売り商戦の底堅さは、昨年 4 月の消費税増税 を契機とした国内消費減速の一段落を示すシグナル として注目される」――。 国内証券のストラテジストは、このような期待感 を示す。百貨店大手 4 社が 5 日にまとめた初売りの 売り上げ状況によると、2 社が前年比プラス、2 社が マイナスとまちまちの結果となった。しかし、前年 比-1.4%のマイナスとなった J・フロントは、松坂 屋上野店が建て替えのため一部閉鎖中の影響を受け たほか、前日比で休日が 1 日減ったことなどが原因 としており、消費税増税や駆け込み需要の反動、物 価上昇と賃金伸び悩みなどを受けた消費の落ち込み に一服感が見られている。 また、JR 各社によれば、年末年始の鉄道利用者は 前年比+2%の増加となった。さらに航空機では国内 線が+1.6%、国際線が+13.3%のプラスを記録。訪 日外国人の増加が影響しているとはいえ、12 月 28 日に開催された中央競馬・有馬記念の売り上げが前 年比+10.7%の大幅増となるなど、局地的ながらも アベノミクスの「トリクルダウン(滴り落ちる)効果」 が散見されつつある。 とくに原油急落を受けたガソリンなどの資源エネ ルギー下落は、円安と消費増税などで企業・家計の コスト負担が増加する一方、アベノミクス効果の波 及が遅れている地方経済に干天の慈雨となる。最近 は一部製造業から国内への生産回帰が見られ始めて おり、安倍政権による地方創生策が遅れる中でも、 「都市部との格差是正」で即効薬となり得るものだ。 4 月の統一地方選に向けて与党のプラス要因となり、 今春の春闘での賃上げ機運や今後の地方創生策の発 動余地とあいまって、国内経済のバランスの取れた 好循環入りに期待をつなぐものだ。 実際に宮城県仙台市に本社を置く河北新報社によ ると、 「初売りで東北の大型店の多くが前年並みの売 2015/1/9 上高を維持したことが、7 日までの取材で分かった」 (8 日付け同紙)という。昨年は消費税増税前の駆 け込み需要で押し上げられたが、その反動減は限定 的となっている。地方経済でいえば、日本株市場で は地方銀行株が「再編期待」という投資テーマが残 る一方、直近 1 カ月では低迷が続いてきたが、その 中でも群馬銀行、長野銀行、北日本銀行、八十二銀 行、宮崎銀行、島根銀行などの株価はこの 1 カ月で 打たれ強さを保ってきた。 また、東証の小売業指数でも、直近 1 カ月間の個 別・上昇率ランキングの上位には、北陸を拠点とす るクスリのアオキ、中・四国地方を地盤とするスー パーのイズミ、中部地方の外食チェーン・物語コー ポレーション、イオン北海道――が食い込むなど、 苦境にあった「地方の内需関連株」に出遅れ修正が 見られている。直近の 12 カ月間では-4.3%と低迷 してきた愛知地盤の総合スーパー大手、ユニーグル ープ・ホールディングスも、この 1 カ月では+4.2% と出直りに転じてきた。 日本国内での生産コスト低減に関しては、資源エ ネルギー庁によると、原発停止と火力発電の増強に 伴う国内での燃料コスト増加分は、2012 年度が約 3.1 兆円、2013 年度が約 3.8 兆円の増加と試算され てきた。今年は 4 月の統一地方選が終了すると、芋 づる式に原発の再稼働が見込まれ、火力燃料の調達 コスト低下と二重の効果により、企業や家計の電力 料金などの負担を和らげていく。 また、昨年夏場に 1 バレル=100 ドル近辺だった 原油相場が 50 ドル割れへと半値近くに急落してき たことで、政府試算によれば、原油 3 割安で輸入代 金が約 4.5 兆円、LNG(液化天然ガス)と合わせ約 6.7 兆円、消費税 3%減税分のリフレ効果があるとさ れている。 NT 倍率に調整低下の余地、TOPIX 出遅れ修正焦点 現在の円安地合いが維持された中での資源エネル ギー下落は、1-3 月期 GDP の支援材料となりやすい。 とくに日本の GDP は昨年 4-6 月、7-9 月と 2 期連 続でのマイナスが続いただけに、テクニカルな反動 回復のエネルギーを秘めている。 すでに足元で NY 原油先物は円換算ベースで、前年 同期比-48%の大幅下落となってきた。最近では 2009 年 10-12 月に-44%という急落ケースがあっ たが、同期の実質 GDP では家計最終消費支出が前期 比+1.6%という高い伸び率を記録している。その前 では 2001 年 10-12 月期に-48%という原油急落が あったが、同期の消費支出も+0.5%とプラス化を示 した。 資源安による内需株への支援効果は、日本株市場 での「NT 倍率」にも影響を及ぼしやすい。外需依存 度の高い日経平均株価を内需寄与度の高い TOPIX で 割ったものだが、昨春の消費増税ショックや円安打 撃などによる内需株の低迷が続くなかで、最近では 12 月 25 日に 12.53 倍へと上昇した。11 月 13 日の 12.52 倍や 2013 年 12 月の 12.72 倍、さらにさかの ぼると 1999 年以来の高水準となっており、円安頼み の株高のバランスの悪さや外需株の過熱感が示唆さ れている。 その後は全体株の下落もあり、NT 倍率は低下へと 転換。8 日には 12.45 倍の方向に小幅低下している。 過去には昨年末からのケースのように、全体株の下 落に伴い、NT 倍率が低下するケースがある一方、内 需寄与度の高い TOPIX に出遅れ修正の上昇が進む形 で、NT 倍率が健全化の低下を辿る例がある。 例えば TOPIX が 2014 年 5 月の 1143 ポイントから 7 月の 1300 まで+13%上昇した局面や、2012 年 12 月の 776 から 2013 年 5 月の 1289 まで+66%の上昇 となった局面などは、 「NT 倍率の上昇行き過ぎ修正」 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000 10,000 11,000 上値余地↑ ↑原油急落 Dec-14 Nov-14 Oct-14 Sep-14 Aug-14 Aug-14 Jul-14 Jun-14 May-14 Apr-14 Mar-14 Feb-14 Jan-14 Dec-13 Nov-13 Oct-13 Sep-13 Aug-13 12.7 12.6 12.5 12.4 12.3 12.2 12.1 12.0 11.9 11.8 11.7 11.6 円 1,450 NT倍率(日経平均/TOPIX)とTOPIX 1,350 TOPIX上昇↑ 倍率↓ 1,250 TOPIX↑ 1,150 1,050 倍率低下↓ NT倍率(左軸) 950 850 TOPIX(右軸) 750 Dec-14 Nov-14 Oct-14 Aug-14 Jul-14 Jun-14 May-14 Apr-14 Mar-14 Jan-14 Dec-13 Nov-13 Oct-13 Sep-13 Aug-13 Jun-13 May-13 Apr-13 Mar-13 Feb-13 Dec-12 Nov-12 Oct-12 倍 小売業(左軸) バンド上限 13週線 原油(右軸) 東証・小売業指数の13週移動平均線を 中央値のボリンジャーバンド 円換算のNY原油先物(軸を上下反転) 原油安↑ 原油高↓ 970 950 930 910 890 870 850 830 810 790 770 と「TOPIX の出遅れ物色」が重なり合う形で TOPIX の上昇モメンタムが後押しされている。現在はギリ シャ不安や原油安によるリスク回避相場の先行き不 安は残るものの、潜在的に NT 倍率の調整低下に連動 した TOPIX の底上げ余地が残されている。 なお、米国株市場でも昨年 12 月からは原油安が株 安材料となる場面が見られているが、内需関連株に は着実にプラス要因となってきた。S&P500 の直近 1 カ月における業種別・上昇率ランキングでは、上位 20 セクターの中に、百貨店(+8.66%)、家具・装 飾小売り(+8.50%) 、薬品小売り(+8.37%) 、衣 料小売り(+5.80%) 、専門店(+5.64%) 、食品小 売り(+4.76%、 )自動車小売り(+4.74%)、スー パーマーケット(+3.98%)、住宅関連用品小売り(+ 3.71%)など、消費関連株に逆行高の場面が見られ てきた。 S&P500 平均の-1.67%を大きくアウト・パフォ ームするものだ。日本でも外部環境に不透明さが続 く中にあって、原油安を受けた内需関連株の相対的 な打たれ強さが投資テーマとして注目されよう。 お客様は、本レポートに表示されている情報をお客様自身のためにのみご利用するものとし、第三者への提 供、再配信を行うこと、独自に加工すること、複写もしくは加工したものを第三者に譲渡または使用させる ことは出来ません。情報の内容については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありませ ん。また、これらの情報によって生じたいかなる損害についても、当社および本情報提供者は一切の責任を 負いません。本レポートの内容は、投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的とし たものではありません。投資にあたっての最終判断はお客様ご自身でお願いします。
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