INCバイオリアクタ

株式会社 アイ・エヌ・シー・エンジニアリング
微生物入りスポンジが
やさしく排水処理
溶接工場の難分解性排水を少ない廃棄物で
効率的にバイオ処理 INC バイオリアクタ
溶接工場の探傷検査工程で発生する有機排水は,従来,凝集沈殿と生物処理の組み
合わせで処理されてきた.新開発のバイオリアクタによって沈殿処理が不要になった
ことから余剰汚泥のない高効率な処理が実現した.
INC の排水処理システム
蛍光浸透探傷剤洗浄排水とは
色・蛍光の性質があり発泡性もあることから代表的な
難分解性排水の元になる.
地球環境を保全・保護するために産業排水処理の重
従来,この排水は生物処理のみでは処理できなかっ
要性が高まっている.排水中の有機物は通常,生物処
たので,凝集沈殿を生物処理で補う形で処理されてき
理によって分解・除去されてから外部環境に放出され
た.しかし,沈殿過程で発生する余剰汚泥が産業廃棄
る.しかし,有機物の中には生物処理が難しい「 難
物となるため改善が待望されていた.そこで株式会社
分解性 」のものがあり技術課題となっていた.難分
アイ・エヌ・シー・エンジニアリング ( INC ) はこの
解性排水の一つが溶接工場から排出される「 蛍光浸
難分解性排水を生物分解のみで処理するシステムの開
透探傷剤洗浄排水 」である.
発に取り組み,この度完成に至った.
蛍光浸透探傷剤は機械部品の溶接部などに発生する
微細な傷の非破壊検査でしばしば用いられる.鉱物
油,蛍光染料,界面活性剤などの有機物を含むので着
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INC の排水処理システム
新しい排水処理システムは① 原水タンク,② INC
IHI 技報 Vol.54 No.3 ( 2014 )
我が社の看板娘
バイオリアクタ,③ 後処理リアクタ,④ 活性炭吸着
槽,⑤ 下水タンクから成り,従来不可欠であった沈
( b ) 生物処理水
( a ) 蛍光浸透探傷剤
洗浄排水( 原水 )
( c ) 活性炭処理水
殿槽のない点が最大の特長である.これによって装置
全体がコンパクトになり,沈殿槽で発生する余剰汚泥
をなくすことができた.このようにコンパクトな構成
を可能にした最大の要因は新開発の INC バイオリア
クタである.
INC バイオリアクタ
バイオリアクタの主役は有機物と反応して分解する
微生物である.微生物を排水中に固定するために担体
と呼ばれるものが使われる.担体の材料としては多孔
質ガラスや高分子材料が用いられる.INC バイオリ
排水処理前後
アクタでは内部の空隙が大きく均一であるなどの特徴
からスポンジ担体を採用した.
従来のスポンジ担体を用いたバイオリアクタは排水
② スポンジ担体はセルに固定されているので流動に
中にスポンジが浮遊する流動床方式であったが,INC
伴う物理的損傷が少なく,流動床方式よりもスポ
バイオリアクタでは多段に積み重ねた仕切り( セル )
ンジ交換の頻度が激減した.
の間に立方体のスポンジ担体を保持して半固定床方式
③ INC バイオリアクタ中でスポンジ担体の偏りがな
とした( 特許出願中 ).従来の典型的スポンジ担体は
く多くの微生物が均一に保持される.流動床方式
直径 10 mm 程度の球状であったが,さまざまな担体
の場合はスポンジ担体の分布が時々刻々変化し偏
を比較・検討した結果,INC バイオリアクタでは一
りも大きかった.
辺の長さが 25 mm の立方体スポンジ( EMW 社:ド
④ 処理量に応じてリアクタのスケールアップ設計が
容易にできる.リアクタ内の担体と排水の分布す
イツ )を採用した.
INC バイオリアクタの特長
INC バイオリアクタは以下の特長がある.
① 担体流動床方式よりもスポンジ充填密度を大幅に
増やすことができ,大きな反応表面積が得られて
処理能力が倍増した.
なわち反応の分布が均一であることによって可能
になった.
まとめ
新開発の INC バイオリアクタがこれまで生物処理
単独では処理できなかった「 蛍光浸透探傷剤洗浄排
水 」を廃棄物を出さずに高効率で処理できることを
実 証 し た. 代 表 的 な 探 傷 剤 で あ る ZL-37,ZL-67
( Magnaflux 社:カナダ )と A-7X7( Cee-Bee Chemical
社:アメリカ )を含む排水の処理量 2 m3 /日を達成
した.今後,他の難分解性排水へ適用範囲を拡大し排
水処理を INC の新事業として育てたい.
問い合わせ先
株式会社アイ・エヌ・シー・エンジニアリング
技術本部 環境技術部
電話( 03 )3360 - 3228
INC バイオリアクタのスポンジ担体
URL:www.ihi.co.jp/inc/
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