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印度學佛教學研究第39巻第2號
Abhayakaragupta
の マ ン ダ ラ 儀 軌
森
I. Vajravali
卒成3年3月
(VA)は,
雅
Vajravali
秀
イ ン ド後 期 密教 を 代表 す る 学 僧 Abhayakaragupta
(11c後 半-12c前 半)に よる大 部 の マ ンダ ラ儀 軌 であ る。 マ ンダ ラの 制 作 方 法 と灌
頂 儀 礼 の次 第 が 主 要 な部 分 を 占め, そ の前 後 に補 足 的 な 儀 礼 が 解 説 され て い る。
当時 の密 教 儀 礼 体 系 を 知 るた め の, も っ と も基 本 的 な 文 献 の ひ とつ とい え る。
VAに
は, これ ま で十 数 本 のサ ンス ク リ ツ ト写 本 の 存 在 が 確 認 され て お り, 西
蔵 大 蔵 経 に はそ の チ ベ ッ ト語 訳 も含 まれ て い る1)。し か し, これ ま で全 体 を 通 し
た 批 判 的 校 訂 テ キ ス トは発 表 され て お らず, 翻 訳 もな され て い な い2)。
こ の小 論 で は, VA研
究 のた め の予 備 的 段 階 と して, VAの
執 筆 年 代 と執 筆 の
目的 とい う基 本 的 な事 項 の確 認 を 行 いた い。
H.
は じめ にVAの
VA中
執 筆 年 代 につ いて考察 して み よ う。
に は年 代 に関 す る 明確 な記 述 は含 まれ な い。 これ は他 の文 献 に も見 出 す
こ とは で きな い よ うで あ る。
Abhaya
の 著 作 の 中 で 完 成 年 が 記 され て い る もの が三 点 あ る の で, これ を てが
か りにVAの
執 筆 年 代 を 検 討 して み る。 三 点 とは, Samputatantra
釈 書 Amnayamanjari
Abhayapaddhati
(TTP,
No. 2328), Buddhakapalatantra
に対 す る註
に対 す る註 釈 書
(TTP, No. 2526), そ して Munimatalankara
(TTp, No 5299)で
あ る3)。い ずれ も, 当時 ベ ンガ ル地 方 を 支 配 した パ ー ラ朝 の 王 Ramapala
年 が 基 準 に な って お り, 順 に第37年,
25年, 30年 であ る。Ramapala
に は 諸説 あ るが, 西 暦1077-1120年,
つ ぎに, Abhaya
の 作 品 の 中 でVAに
(TTP, Nos. 3962, 5023), Jyotirmanjari
(TTP,
No. 2213)の
ddhati,
Nispannayogavali,
よ って 言 及 され るテ キ ス トと, 逆 にVA
Nispannayogavali
(TTP, No. 3963), Siricakrasamvarabhi-
四 点 が あ り5),
後 者 に
Jyotirman jari,
Amnayamanjari,
Upadeeaman jari
の 少 な く と も 五 点 を 数 え る こ と が で き る6)。 こ れ よ り, VAに
か つVAに
王 の在 位 年
1084-1126年 の二 説 が有 力 であ る4)。
に言 及 す るテ キ ス トを調 べ て み る。 前 者 に Amnayamanjari
samaya
の即 位
Abhayapa-
(TTP, No. 5024)
よ っ て 言 及 され,
言 及す る Amnayamanjari, Nispannayogavali, Jyotirmanjari
-858-
の
Abhayakaragupta
三 点 は, VAと
中 にVAが
の マンダラ儀軌 Vajravali (森)
(198)
平 行 して執 筆 され た こ とが推 測 され る7)。また Abhayapaddhati
言 及 され て い る こ とか ら, Abhayapaddhati
暦 年1102年 か1109年 以 前 には, す でに Abhaya
の 完 成 年, す な わ ち 西
はVAに
着 手 して い た とい うこ
とが で き る。
と こ ろ で, Amnayamanjari
Abhaya
の 完 成年 で あ る西 暦1114年,
の最 晩 年 に あた るが8), VAの
れ な い。 そ の理 由 として, VA中
Amnayamanjari
あ る い は1121年 は
完 成 が こ の時 期 に ま で及 ん だ とは 考 え ら
で 指 示 され る Amnayamanjari
の前 半 に集 中 し9), 逆 に Amnayamanjari
が後 半 に あ る こ と, VAの
の参 照 箇 所 が
中 のVAへ
の言 及
チ ベ ツ ト語 へ の翻 訳 と第 一 回 の 校 訂 が Abhaya
にす で に行 わ れ て い る こ と10), この時 の校 訂 者Shes
般 若 経 』 へ の広 潮 な註 釈 書Marmakaumudi
(TTP,
の生 前
rab dpal と一 緒 に 『八 千 頒
No. 5202)の チ ベ ツ ト語 訳 を
行 って い る こ とが あ げ られ る。
これ らの こ とか ら, VAの
執 筆 時 期 を, Abhaya
が Abhayapaddhati
を執 筆,
完 成 させ て い た1100年 前後 に 想定 す る こ とが で き よ う。
III. つ ぎに, VA執
筆 の 目的 に つ い て述 べ る。
羽 田野 伯猷 氏 は, Abhaya
がJnanapada
説 書 を 著 し, さ らに これ を も とに してVAを
冊 史 』Deb ther sngon po
の 『マ ン ダ ラ儀軌 四百 五 十 頒 』 に解
著 した と述 べ て い る11)。これ は 『青
中 の記 述 に した が った もの と思 われ る が12), Abhaya
の著 作 の 中 に該 当す る解 説 書 は存 在 せ ず, VA中
に も 『四 百 五 十 頚 』 へ の 言 及 は
み あた らな い。 『青 冊 史』 や プ トン の テ ンギ ュル 目録 『如 意 宝 珠 自在 王 量 』(東北
No. 5205)に よれ ば, Jnanapada
の 『四百 五 十 頬 』 自体, 早 い 時 期 に カ シ ミール
に散 侠 し, イ ン ドに は存 在 しなか った とい う13)。
Abhaya自
身 はVAの
帰 敬偶 の 中 で, VAを
執 筆 す る 目的 と して, マ ンダ ラ
に関 す る儀 軌 類 を 可 能 な 限 り収 集 し, これ を順 序 だ て て解 説 す る こ と, 他 の阿 闊
梨 た ち に よ る もの が 不 完 全 で あ るた め修 正す る こ との二 点 を あ げ て い る14)。
Jyotirmanjari
と とも
に密 教 儀 礼 に関 す る三 部 作 を 構 成 して い る。 この うち 他 の二 著 作 がVAの
よ く知 られ て い る よ うに, VAはNispannayogavali,
補完的
な立 場 に あ る こ と は Abhaya
spannayogavali
マ ンダラ
自身, VAの
中 で 明 記 して い る が, 同 じ箇 所 でNi-
を 著 した 理 由 を あ げ て い る15)。そ れ に よれ ば, VAで
これ は約30種,
尊 格 数 は のべ1600以 上 にお よぶ
の 観 想 法, す な
わ ち 諸 尊 の形 態, 身 色, 面, 壁, 持 物, マ ン トラ につ い て は, VAが
ず ぎ るの を 危 惧 して 詳述 す る こ とを避 けた。 そ してVAで
-857-
解説す る
大 部 にな り
はな く Nispannaayo-
(199)
Abhayakaragupta
gavali
のマ ンダラ儀軌 Vajravali (森)
の 中 で 諸 尊 の観 想 法 を解 説 した とい うの で あ る。 さ らに別 の箇 所 で は,
護 摩 儀 礼 に関 して は Jyotirmanjari
を 参 照 す る よ うに指 示 し, VAで
は護 摩 の炉
の形 態 や 規 格 につ い て 簡 単 に述 べ るに と ど ま って い る16)。
こ の よ うに, Abhaya
が 意 図 した と こ ろ では, マ ン ダ ラに 関す る儀軌 を 網羅 的
に集 め て 修 正 を 加 え な が ら系 統 だ て た うえ で, そ こか らマ ン ダ ラの諸 尊 の観 想 法
と護 摩 の儀 軌 を 除 い た もの がVAで
あ る とい え よ う。
1)
塚 本啓 祥 他 編 『梵 語仏 典 の 研 究IV密 教 経 典編 』平 楽 寺 書店1989,
2)
これ まで の 研 究 に つ い て は 塚 本 他 編 前 掲 書参 照。 筆 者 は ロ ン ドン大 学 提 出 予定 の学
位 請 求 論 文 の 一 部 にVAの
3)
4)
5)
6)
7)
pp. 379-380参 照。
梵 蔵 テ キ ス トと翻 訳 を 準 備 して い る。
い ず れ もチ ベ ツ ト訳 テキ ス トの 巻 末 に示 され る。 該 当 箇所 は 以 下 の とお り。TTP,
Vol. 55, 248, 5, 5; Vol. 58, 102, 1, 4-5; Vol. 101, 277, 2, 7.
Dutt, S., Buddhist Monks and Monasteries of India, London,
1962, p. 354.
TTP, Vol. 80, 87, 2, 8; 83, 3, 3; 122, 5, 2; 119, 5, 7 etc..
TTP, Vol. 55, 212, 5, 4; Vol. 58, 91, 5, 1; Vol. 80, 126, 3, 7;
Vol. 86, 78, 1, 1 etc..
こ の こ と は,
Abhaya
『青 冊 史 』 が 紹 介 す るVAの
は Vajrayogini
そ し てVAを
cutta,
成 立 事 情 を 想 起 さ せ る。 そ れ に よれ ば,
の す す め に し た が い,
Amnayamanjari,
執 筆 し た こ と に な っ て い る(Roerich,
1949,
P. 1046)。
159, 2, 6;
G. N.,
Abhayapaddhati,
The
ま た 別 の 伝 承 で は Nispannayogavali
Blue
と
Annals,
Cal-
Jyotirmanjari
も
この と き著 した と され る (Das, S., Contribution
on the Religion, History &c. of
Tibet, Jounal of Asiatic Society of Bengal, Vol. 51, No. 1, 1882, p. 17)
8)
Abhaya
の没年 は
Abhayakaragupta,
9)
た とえ ば
TTP,
Ramapala
王 退 位 の三 年 前 と いわ れ る
Indian Culture,
Vol.
55,
159,
チ ベ ツ ト訳 テ キ ス トの コ ロ フ ォ ン に よ る。TTP,
11)
羽 田野 伯 猷
12)
13)
N.N.,
Vo1.
80,
126,
2, 6f..
「チ ベ ッ ト仏 教 形 成 の 一 課 題 」 『チ ベ ツ ト ・イ ン ド学 集 成1』
法蔵館
p. 270
Roerich,
ので
Gupta,
5, 5fL。
10)
1988,
(Dass
Vol. 3, 1936, p. 372).
op. cit., pp.
Jannapada
Roerich,
Bu-ston,
op. cit.,
part
371-372.
26, New
p. 371; Lokesh
Delhi,
は な く 『二 百 五 十 頒 』(Nyis
TTP, Vol. 80, 81, 1, 5ff..
TTP, Vol. 80, 83, 3, 1ff..
16)
TTP, Vol. 80, 122, 5, 1f..
Abhayakaragupta,
1971,
brgya
14)
15)
<キ ー ワ ー ド>
た だ し 同 書 で はVAが
流 に 属 す る と述 べ る だ け で,
Chandra
f. 35b,
lnga
bcu
『四 百 五 十 頒 』 に も と つ く
解 説 書 を 著 し た と い う記 述 は な い。
ed.,
The
Collected
Works of
1-4. た だ し プ ト ン は 『四 百 五 十 頒 』 で
pa)と
よ ん で い る。
Vajravali
(名 古 屋 大 学 助 手)
-856-