三菱重工技報 Vol.51 No.3 (2014) 機械・設備システム特集 製 品 紹 介 32 BCP 対応可能 高耐風性太陽光発電設備用貯水タンク式架台 “MSソーラータンクベース” MS Solar Tank Base -The Water Tank Type Supporting Structure for Photovoltaic Power Generation Facilities that has Higher Resistance to Wind Pressure and Suits the Business Continuity Planning - 三 菱 重 工 メ カ ト ロ シ ス テ ム ズ (株) 営 業 本 部 環 境 プラント営 業 部 機 器 ・輸 出 営 業 課 機械装置及び環境装置を手掛ける三菱重工メカトロシステムズ(株)(以下,MHI-MS),立体駐 車場を手掛ける三菱重工パーキング(株),鉄構装置及び橋梁を手掛ける三菱重工鉄構エンジニ アリング(株)の鉄構装置事業の3社を再編・統合し,2014 年4月に新会社(存続・継承会社は MHI-MS)が発足した。MHI-MS は,環境装置事業の一環として再生可能エネルギーの更なる普 及拡大に貢献すべく,三菱重工業(株)と特許使用許諾契約を締結した太陽光発電設備用貯水タ ンク式架台(以下,MS ソーラータンク)の基本コンセプトを継承しつつ,高耐風性,且つ軽量化を 実現した BCP(Business Continuity Planning 事業継続計画)対応可能な太陽光発電設備用架 台(以下,MS ソーラータンクベース)を市場投入した。 |1. 新型架台開発のねらい 太陽電池モジュールを工場やマンションビル等の陸屋根(傾斜のほとんど無い平らな屋根)に 設置する工法は,主に鋼製架台とコンクリート等の重量物による置き基礎架台が一般的である が,それぞれ種々の課題がある(表1)。MS ソーラータンクは,太陽電池モジュール設置のために 開発した貯水タンクを置き基礎架台として,それらの従来工法が抱える課題の解決を狙ったもの であったが,MS ソーラータンクの貯水重量が既築陸屋根の耐荷重を超える場合は,設置が制限 されることがあった。 そこで MHI-MS は,MS ソーラータンクの基本コンセプト(重機不要・基礎工事不要等)を継承し ながら,形状・デザインを一新する改良を加え,高耐風性と同時に軽量化を実現するとともに,太 陽光発電設備用架台としての機能だけではなく,災害時におけるタンク内貯水の利用という,新 たなコンセプトを加えた次世代型(BCP 対応型)の太陽光発電設備用架台 MS ソーラータンクベ ースを開発した。 表1 鉄鋼架台と置き基礎架台の課題 鋼製架台 重量置き基礎架台 ○既存建物の屋上陸屋根に設置する場合,工期が長い。 ○重量物の設置に重機が必要となる。 ○基礎工事を要するため,防水層を痛め建物の雨漏りの ○重量物設置位置の微調整等が容易でない。 懸念がある。 ○防水層の状況によっては,基礎の打込みができない。 ○設置後の移設,撤去が容易でない。 ○架台が長大物となり,設置場所周囲の景観を損なうケ ースがある。 ○設置後の移設,撤去が容易でない。 ○重量負荷が大きく,屋根の耐荷重を超過し設置できな い場合がある。 三菱重工技報 Vol.51 No.3 (2014) 33 |2. MS ソーラータンクベース開発成果および特徴 2.1 開発の成果 施工性等を考慮するとともに,風洞試験・CFD 解析(図1)を駆使しながら,極力風の抵抗を受 けず,浮き上がりを抑えた形状・デザイン(表2外観写真)にしたことで,以下の成果を実現した。 (1) 優れた耐風性 設置可能地上高を約 40%向上。 (『平成 12 年建設省告示第 1454 号』に定められた,基準風速 34m/s,地表面粗度区分Ⅲ, の区域において,地上高 30mまで設置可能)。 (2) 軽量化 設置荷重を約 55%低減(タンク1個当たりの必要水量は約 40%低減,及び太陽電池モジュ ール設置枚数当たりのタンク数量は約 25%低減)。 (3) 容易な施工性 連続給水可能な構造にする等,施工性の向上を図る(図2)とともに,各サイズの太陽電池モ ジュールに対応できる形状としている。 図1 CFD による解析結果(MS ソーラータンクベース) 表2 MS ソーラータンクと MS ソーラータンクベースの仕様比較 MS ソーラータンクベース 2012 年度グッドデザイン賞受賞 MS ソーラータンク 外観写真 材 質 高密度ポリエチレン樹脂 サイズ(幅×奥行×高さ) 290mm×1 150mm×740mm 1 350mm×1 200mm×235mm 貯水容量,単体重量 150L,14kg 90L,16kg 床面/屋外への設置方法 基礎工事不要(固定不要)で陸屋根,平地上に配置するのみ 地上設置に適する 陸屋根に適する 推定耐用年数 20 年以上 ※設置場所・条件により異なる 耐用温度 設置可能地上高 -30℃~+60℃ 基準風速 34m/s 地表面粗度区分Ⅲの条件下 地上高 22m 以下 対応太陽電池モジュール 太陽電池モジュール取付方法 太陽電池モジュール傾斜角度 地上高 30m 以下 各種・サイズ対応可 M16 ボルト固定 M8 ボルト固定 (別途アタッチプレートが必要) (別途アタッチプレートが必要) 10° 三菱重工技報 Vol.51 No.3 (2014) 34 図2 MS ソーラータンクベースでの施工手順 2.2 その他特徴 (1) 優れた耐久性 タンク材質は,剛性,耐衝撃性だけでなく,海岸地帯における塩害などに対する耐食性にも 優れている高密度ポリエチレン樹脂を使用することにより,推定耐用年数は 20 年以上で,長期 にわたって使用することが可能。 推定耐用年数は,設置後7年経過したタンクの劣化調査(引張強度・曲げ強度等)により確 認した。(最長使用実績 11 年以上) (2) 水質劣化の防止 タンクは,光を通さない黒色にしており,藻や微生物の発生等による水質劣化を防ぐ。 設置後7年経過した貯水の水質分析を実施し,水質基準値内を維持していたことを確認した。 ただし,貯水を生活用水に利用する際には,各市町村の条例に準拠した浄水処理が必要。 |3. 製品に対する反響 3.1 お客様の評価 お客様名:(株)近藤組 ご担当者:宮島雄一郎様 『コスト・施工性・漏水リスクなし・災害時に備えた貯水の4点において,優位性が高いということ で,本社の屋上に設置しました。特に施工に携わる弊社において,今後お客様に提案していく 中で,すべての工程を電気工事業者でできる施工性の高さと,床面にアンカーを打たないこと で,漏水の心配がなく,安心してお客様に提案できる陸屋根用架台として,おすすめできる商 品と考えています。』 3.2 2012 年度グッドデザイン賞の受賞 MS ソーラータンクベースは,2012 年度グッドデザイン賞を受賞し,社外の高い評価を受けた。 グッドデザイン賞審査委員の評価 『ビル屋上に焦点を絞った架台であり,貯水型のユニットに分け,運搬性,設置の容易さ,既存 屋上面を傷つけない,などの点が優れている。また耐風性能が高いこと,防災貯水機能を持つ ことも優れている。この方式なら,大規模型の太陽光発電設置だけでなく,小面積のビルでも 手が出せそうな簡便さであり,太陽光発電の普及に役立つと思える。また太陽光発電パネルの 劣化や性能向上に際しての交換も容易そうで,簡便でありながら,長期の使用にも耐えそうな 点が嬉しい。』 三菱重工技報 Vol.51 No.3 (2014) 35 |4. 今後の展開 MHI-MS では,太陽光発電設備施工者を対象に,以下の優位性を PR して,2014 年3月末時 点で累計 4650 台(31 設備)を納入している(表3)。 ○基礎工事が不要(防水層へのダメージ無し) ○設置工事,撤去/移設が簡単 現在は,企業 BCP の重要性がクローズアップされており,貯水の有効利用について PR を強化 し,ビル・マンションオーナー及び企業向けに BCP 対応型システムとして拡販中である(図3)。 表3 MS ソーラータンクベース納入実績 № 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 納入先施設 企業事務所建屋 企業事務所建屋 企業事務所建屋 賃貸オフィスビル 個人邸 個人邸 集合住宅 展示用 企業オフィスビル 集合住宅 病院 商業施設 企業事務所建屋 学校 学校 学校 学校 学校 宿泊施設 学校 学校 学校 個人邸 一般社団法人建屋 個人邸 研究施設棟 商業施設 試験設備 集合住宅 企業事務所建屋 企業工場建屋 設置場所 愛知県刈谷市 宮崎県延岡市 神奈川県横浜市 大阪府大阪市 大阪府大阪市 静岡県浜松市 兵庫県西宮市 滋賀県守山市 三重県四日市市 静岡県浜松市 佐賀県佐賀市 愛知県豊田市 愛知県名古屋市 愛知県刈谷市 愛知県刈谷市 愛知県刈谷市 愛知県刈谷市 愛知県刈谷市 岩手県釜石市 愛知県刈谷市 愛知県刈谷市 愛知県刈谷市 愛知県刈谷市 大阪市北区 新潟県新潟市 神奈川県横浜市 愛知県刈谷市 東京都武蔵野市 愛知県名古屋市 京都府京都市 愛知県知立市 発電容量(kW) 10.1 9.9 5.8 15.1 4.1 4.3 10.0 - 33.6 21.0 30.1 46.2 3.8 41.0 49.1 56.2 36.9 56.2 20.3 43.7 56.2 42.3 10.9 3.0 5.2 61.2 10.0 0.1 10.3 102.9 21.3 総納入台数 図3 BCP 対応型 10kW システムのイメージ図 納入台数 68 60 32 101 24 23 55 8 172 111 156 243 16 253 299 346 221 338 107 260 338 251 53 16 26 326 60 6 54 515 112 4 650 納入年月 2012年5月 2012年5月 2012年9月 2012年10月 2012年10月 2012年10月 2012年10月 2013年1月 2013年2月 2013年3月 2013年5月 2013年6月 2013年6月 2013年6月 2013年7月 2013年7月 2013年7月 2013年7月 2013年7月 2013年8月 2013年8月 2013年8月 2013年9月 2013年9月 2013年10月 2013年12月 2014年1月 2014年2月 2014年2月 2014年3月 2014年3月
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