アモルファス WO₃ 系薄膜のエレクトロクロミズムに関する研究: その

SURE: Shizuoka University REpository
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アモルファスWO₃系薄膜のエレクトロクロミズムに関
する研究 : その劣化機構と長寿命化および発色機構
橋本, 哲
静岡大学大学院電子科学研究科研究報告. 15, p. 164-166
1994-03-28
http://hdl.handle.net/10297/1722
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氏名 0(本 籍)
橋
本
学 位 の種類
博
士
学 位記 番号
工博 乙第
学搬 与の日付
平 成
の要件
学位1壁 ル
学位規則第 4条 第 2項 該当
学位論文題ロ
アモルフ ァス W03系 薄膜 のエ レク トロク ロミズム に関す る研究
哲
(工
学)
43
4年
(広 島県 )
号
10月 23日
―その劣化機構 と長寿命化 および発色機構 ―
論文審査 委 員
(委
員長 )
教 授
福
教 授
藤 安
助毅
喜多尾道 火児
田 安 生
洋
教 授
論 文 内 容 の 要
畑
中 義 式
旨
アモルファス W03薄膜を用 いたエ レクトロクロ ミック表示素子 は、高 コン トラス ト比やメモ リー
性 など様々な利点 を有す るにもかかわらず、短寿命、低応答速度 などの欠点 のため、広 くは使われて
いない。
そこで、アモルファス W03系 エ レク トロクロ ミック表示素子 の問題点である劣化機構 を明 らかに
し、 この劣化機構 に基づいて、長寿命のエ レク トロクロ ミック表示材料用薄膜を設計す ることを目的
として研究 を行 った。その際、繰 り返 し発色をさせた W03薄 膜 の結晶構造や電子構造 などの変化を、
物理解析手法を用 いて調べ、エ レクトロクロ ミズムの劣化現象 に寄与す る要因を明 らかにした。 さら
に、エ レクトロクロ ミズムの発色機構 についても考察を行 った。
以上 の目的のため、真空蒸着法を用 いて成膜 したアモルファス W03薄膜を発色極、ITOあ るいは
Ptを 対極 とし、lM LiC104 プ ロピレンカーボネー トを電解質 とするエ レクトロクロ ミック素子 を
作製 した。
これまでに、アモルファス W03薄 膜のエ レク トロクロ ミズムについては、様 々な発色機構が提案
されてきた。XPSに よる占有状態 の価電子帯 の測定 と 01sEELSに よる非占有状態 の伝導帯 の測定 か
ら、青色発色 したアモルファス W03薄 膜 において、成膜ままの ものでは、完全 に非占有 の伝導帯 の
底 に電子が注入 されることが明 らかとなった。また、発色 したものの フェル ミ準位 はヽLiの 注入量
に対応 して増大すること、バ ン ドギ ャップ中には、新 しい準位 は生成 しないことが明 らかとなった。
この様 な発色 による電子構造 の変化から、アモルファス W03の エ レクトロクロ ミズムは、発色時 に
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伝導帯 の底 に注入 された電子 と、 これよ り高 い非占有の準位 との間にバ ン ド内遷移 のため生 じた もの
と考えられる。
ついで、アモルファス W03薄 膜 のエ レク トロクロ ミズムの劣化機構 について考察 した。 X線 回折
による測定 の結果、劣化 した薄膜 には結晶性化合物が生成 して いることが明 らかとな った。 また、
SIMSに よる測定 の結果、繰 り返 し発色す ると伴 に、Liが 薄膜中に蓄積す ること、消色 した薄膜中 に
も、発色 したものの 1/3程 度 の量 のLiが 存在す ることがわか った。ついで、薄膜 に Liを 蓄積 させ
るため、 1回 の発色で 75mC/耐 以上の量 のLiを 注入す ると、青色発色 か ら黒褐色 の ものに変化 し
た。黒褐色 を呈 した薄膜 には、Li2W04が生成 していることがわか った。以上 の結果から、繰 り返 し
発色す ると、 アモルファス W03薄 膜 に蓄積 した Liが プレカーサーとな り、結晶性 の Li2 W04が 生
成す るものと思われる。 このため、アモル ファス W03薄膜のエ レク トロクロ ミズムが劣化す るもの
と考 えられる。
この劣化機構 に基づ くと、繰 り返 し発色させて も、Liが 蓄積 しない薄膜 の エ レク トロクロ ミック
な発色 は、寿命が長 いことになる。そこで、W03よ りも安定 な酸化物あるいは Liの 拡散 サイ トの空
洞 を有す る酸化物 と、W03と の
W03 MOX二 次系酸イヒ物薄膜 (MOx:A1203,Si02,MgO,N
b205,Ta205,Zr02,NiO,Cr203'Ti02)の 寿命を調べた。その結果、W03 Ti02薄膜の寿命は、
W03薄 膜 の数倍以上であることが明 らかとなった。X線 回析およびラマン分光 による測定 の結果、
W03 Ti02薄 膜 の構造は、W03薄 膜 のそれと同様であることがわか った。XPSと EELSに よる測
Ti02薄 膜 も、W03薄 膜 と同 じく、バ ンド内遷移で発色す ることもわか った。
最後 に、W03 Ti02薄 膜 の長寿命化機構 について考察 した。X線 回析 による測定の結果、繰 り返
し発色 させても、W03 Ti02薄膜 には結晶性化合物が生成 しないこと、加熱 して も、アモル ファス
構造 は W03薄 膜 に比べ、安定 に存在す ることがわか った。SIMSお よび XPSに よる測定の結果、消
色 した薄膜 0-Liと して存在す る Liの 量 は、W03薄膜 に比べ、W03 Ti02薄 膜の方が、少 ないこ
定 の結果、W03
とが明 らか となった。
以上 の結果か ら、アモルファス W03
T102薄 膜では、W-OH、 W=0な どのよ うなLiの 蓄積 サ
イ トが少 ない「 ネットワーク強化型構造」 を有す るため、繰 り返 し発色時 に蓄積す る Liの 量 が少 な
く、結品化 しにくいものと思われる。その結果、長寿命化 したものと考えられる。
以上 の結果 は、長寿命のエ レクトロクロ ミック表示素子用薄膜 を設計す る上で、貴重 な薄膜作製方
針 を与えるものであり、短寿命 との欠点があるエ レクトロクロミック表示素子に関け る:難調化のプレー
クスルーを与 えるものである。
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論 文 審 査 結 果 の 要 旨
本論文の第一章ではアモルファス W03エ レク トロクロミズムにおける発色機構、劣化機構 につい
てのこれまでの研究 を概観 し、それ らの機構 に定説のないことが述べ られている。又、エ レク トロク
ロ ミズム素子の短寿命が実用化を遅 らせている現状 も指摘 されている。以上 のことに鑑み、本研究 に
おいては発色機構、劣化機構を解明 し、長寿命材料 を開発す ることを目的と した。
第二章 においては再現性 のあるデータを得 るために、再現性のあるアモルファス W03薄 膜 の作製
法を種 々検討 し、その作製条件を詳細 に述べてある。
第二章では、発色前後の電子構造変化を解析 し、アモルファス W03薄 膜 の発色機構 を推定 した。
即 ち、XPS(X線 光電子分光法)に よる占有状態 の価電子帯の測定 とEELS(電 子 エネルギー損失分
光法)に よる非占有状態の伝導帯の測定から、発色 したアモルファス W03で は伝導帯 の底 に電子 が
注入されることを明 らかにした。以上の結果 よ り、 この注入された電子のバ ン ド内遷移 によ り発色す
ると推定 した。
第四章ではエ レク トロクロミズムの劣化機構 について検討 した。X線 回析 の結果か ら、劣化 した薄
膜 には結晶性 の化合物が生成 していることが明かとなった。又、SIMS(二 次イオ ン質量分析計 )に
よる分析 よ り、繰 り返 し発色 させた膜中のLi量 が増加す ることを明 らかにした。以上 の結果 か ら、
アモルファス W03薄 膜のエ レクトロクロ ミズムの劣化 は Liの 蓄積 による構造変化 に起因す ると推
定 した。
第 5章 では、前章をふまえた長寿命材料 の開発結果 について述べている。W03と の二元系 のアモ
ルファス材料を種々作製 した結果、W03
Ti02薄 膜 を用 いた素子では W03の みの場合 に比 べて、
数倍以上 の寿命 を有す ることを見出 した。
第六章 では開発 された W03
Ti02ア モルファス薄膜 を繰 り返 し発色 させ、結晶構造 や蓄積 Li量
を調べた。その結果、結晶性化合物 は存在せず、Li量 も少 ないことが明かとな った。
第七章 では以上 の結果 をまとめている。
以上 のように、本研究ではアモルファス W03薄膜の発色機構 と劣化機構を種 々の物理解析機器 を
用 いて明かにした。 これ らの機構 に基づいて長寿命薄膜材料を設計 し、W03に 比 して数倍長寿命 な
W03 Ti02薄 膜 を作製 した。 この一連 の研究 は、 これまで短寿命 の点で実用化が遅れていたこの分
野 に一つのブレークスルーを与えるもので、今後その実用化を図 るうえで意義深 いものである。よっ
.
て、本論文 は博士 (工 学 )を 授与す るに充分 な内容であると認定す る。