企業の参入によるネットワークの変化とその分析 Analysis of Network Change by Entrants 制度設計理論 (経済学) プログラム 12M43138 熊岡 知行 指導教員 武藤 滋夫 Economics Program Tomoyuki KUMAOKA Adviser Shigeo MUTO Abstract In this paper, I consider a network formation among consumers and study how the network is affected when a new firm enters. An agent-based simulation is conducted where players’ decisions are based on neural network models. And weights and threshold values in the neural networks are determined by a genetic algorithm. As a result, it is shown that a formed network includes some center-sponsored star networks and users of its center enjoys more social network servise. So there are two groups:(1) users who want to share their information with others (2)users who only receive the information. 二つのグループに分かれ、中心支援スターネットワークの 1 はじめに 中心となるユーザーとそれらのプレイヤーから情報を享受 するだけのユーザーに分かれることが示された。 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を提供 する企業が増えることにより、インターネット上の人間関 係・コミュニケーションの変化が生じている。例えば日本 において、以前 mixi が盛んであったが twitter や Facebook などが参入によりユーザー間の SNS 利用状況に変化が見ら れる (図 1)。 本研究の目的は、意思決定者がネットワーク形成を自発 的に行う状況を考え、使用できる SNS 企業を増やした場合 におけるネットワークの変化をシミュレーションによって 捉える。ネットワークの変化度合いとして、繋がっていた 図 1 出典:「 (株)リスキーブランド/マインドボイス調査」 リンクがどの程度消失するかという維持度と密集度合いを 表すクラスタ係数を用いて分析を行う。またネットワーク の形状の特徴の把握も試みる。 本研究ではネットワークのリンクを結ぶかどうかの意思 決定は、ニューラルネットワークによる意思決定を採用し、 重みおよび閾値の更新を遺伝的アルゴリズムによって行う。 これは神原(2009)を参考にした。 2 モデル 2.1 ニューラルネットワークによる意思決定 以下で、用いる記号を与える。 スターネットワークと呼ばれるネットワークを含むネット • プレイヤー (ユーザー) の集合:N • 完備ネットワーク:gN = {i~j|i, j ∈ N, i , j} ワークが形成されることが得られる。中心支援ネットワー • ネットワーク全体の集合:G = {g|g ⊆ gN } クとは、有向ネットワークにおいて、あるプレイヤーが他の • ユーザー i の中心支援スターネットワーク (図 2): gistar = {i~j| j ∈ N\{i}} シミュレーションによって得られる結果として、中心支援 すべてのプレイヤーに対しリンクを結んでいる状況にある。 これは、その中心となるプレイヤーがリンクを結ぶことで 情報発信をしている状況を表している。また、ユーザーが • プレイヤー i の能動隣人:Nia (g) = { j ∈ N|i~j ∈ g, j , i} • プレイヤー i の受動隣人:N p (g) = { j ∈ N| ~ji ∈ g, j , i} i • 既存の SNS 企業の集合:K 今回用いるニューラルネットワークは二層モデル及び隠 • 追加する SNS 企業の集合:A れ層を入れた三層モデルとし、本研究では、入力される情報 • プレイヤー i ∈ N のサービスの利用状況: を以下に限定する。 |K∪A| l ∈ {0, 1} , ∀i ∈ N 1, i~j ∈ g • δij (g) = 0, それ以外 i ユーザー i, j ∈ N 、i , j に関して、i の入力情報として、 • i が誰とリンクを繋いでいるか:Nia (g) および Nip (g) • i がどの SNS を用いているか:li • j がどの SNS を用いているか:l j プレイヤーに関する情報と今選ばれている他のユーザー に関する情報から、リンクを結ぶかどうかの意思決定及び、 どのサービスを用いるかの決定を出力する。入力に対する 重み及び中間層の出力に対する重みは-1 から 1 の一様分布 に沿って決定する。出力に対する閾値は 0 から 1 の一様分 図 2 中心支援スターネットワーク 布に沿って決定する。三層モデルの場合、隠れ層のノード の数を H = 20 とする。二層モデルに比べて、この隠れ層 を導入することで、入力パターンに対する出力パターンが、 定義 2.1 維持度 ユーザー自身の利得関数を最大化するようなものになるよ 0 g ∈ G の g ∈ G に対する維持度 q とは、 ∑ ∑ i i 0 i j δ j (g)δ j (g ) q= ∑ ∑ i i j δ j (g) うに重みと閾値が決定されるようになる。 二層モデル: • 入力に対する重み:wi ∈ (−1, 1)2(|N|+|K∪A|)×(1+|K∪A|) • 出力に対する閾値:θi ∈ (0, 1)1+|K∪A| である。 今回は参入前と参入後のネットワークに関して調べるこ とになる。維持度が高いほど、企業の参入前後でのリンク の減少は少ないことになる。 三層モデル: • 入力に対する重み:wi ∈ (−1, 1)2(|N|+|K∪A|)×H • 中間層の出力に対する重み:w0 i ∈ (−1, 1)H×(1+|K∪A|) • 中間層に対する閾値:hi ∈ (0, 1)H 定義 2.2 クラスタ係数 g ∈ G のクラスタ係数 CL(g) とは、 1∑ CL(g) = cli (g) n i∈N ∑ δkj (g) ここで、cli (g) = , ∀i ∈ N |Nia (g)|(|Nia (g)| − 1) j,k∈N a (g), j,k i クラスター係数はあるユーザーに対して、リンクを結ん でいるユーザー同士が、リンクを結んでいるかどうかを表 す指標である。ネットワークの密集度合いを表すと考えら れる。 • 出力に対する閾値:θi ∈ (0, 1)1+|K∪A| また入力に関しての伝達関数として、シグモイド関数を 採用する。伝達関数は以下のシグモイド関数を採用する。 1 1 + e−x 0 < f (x) < 1, ∀x ∈ < sigmoid function : f (x) = さらに、今回は重みおよび閾値を遺伝的アルゴリズムに よって更新を行う。各プレイヤーが自身の分身となるエー ジェントを 50 人用意して、彼らの重みと閾値を用いて意思 決定を行い、利得の大きいエージェントをルーレット選択を 2.2 ニューラルネットワークによる意思決定 し、残ったエージェントでの交叉、および微小確率 = 0.001 での突然変異を行わせることにする。そして、最終的に残っ ニューラルネットワークとは、人間の脳機能を計算機上 てくるエージェントから一人の重み・閾値を採用し、その後 で表現する数学モデルであり、ユーザー i は以下で述べる の意思決定を行うプレイヤーを考える。この重みと閾値の i ような入力に対してその入力に関する重み w を考え和をと 更新過程を学習と呼ぶことにして、最初の時点及び企業が り、ある一定の閾値 θ を超えたとき、アクションを起こす。 参入した時点において学習を行うものとする。 i また、意思決定に際し、複数のアクションを同時に決定(出 力)することが可能である。 ルーレット選択の際の選ばれ方について、各エージェン ト i0 ∈ {1, 2, · · · 50} は以下の利得関数及び確率によって選ば 係数を計算する。その後、企業数を追加し、学習 れるものとする。 する場合には 3、そうでなければ 4 に戻る。 • time < 2T であれば 4 に戻る。 payoffi0 (g) = a(|Nip0 (g)| + |Nia0 (g)|) − c|Nia0 (g)| • そうでなければシミュレーションを終え、クラ この利得関数は、リンクを結んだ時のコストを払わない スタ係数、維持度を計算し出力する。 といけないが、リンクを受動的に結ばれているとき、多く の利得を得るとしている。すなわち、隣人からの情報価値 a を享受できる一方、リンクを繋ぐときのコストを c を支払 うという構造になっている。 シミュレーション人数について |N| = 6, |K| = 3, |A| = 1, 2, 3。今回は流れの 5.6. における意思決定をニューラル ネットワークに従って行う。 今回はシミュレーションを行う上で、a = 3.0, c = 2.0 と 3 した。 分析 各エージェントの利得を利得の和によって除した値を確 率 αi0 とし、その確率分布に従って次期に残すエージェント 多くの場合において、あるユーザーが他のユーザーにリ ンクを結ぶ、中心支援スターネットワークを内包するネッ 50 人を選択する。 トワークが形成される。二層モデルでは主に 2 人のユーザ α i0 = ∑ payoffi0 j∈{1,2,··· ,50} payoff j が他のユーザー全員と繋がることが多く観察される (平均 2.47 人)。三層モデルでは、1 人のユーザが他のユーザー全 員と繋がることが多く観察される (平均 1.11 人)。しかしな がら、どのユーザーが中心になるかは初期の重みや閾値に 依存している。 シミュレーションで分かることは、参入前後で中心ユー ザーが推移していることや、その際中心となるユーザーが 多くの SNS を利用していることである (表 3.1)。また、使 用される SNS の数も増えている。 これは実際の社会でも情報価値を持つユーザーが、幅広 いサービスを使って配信している状況を表しているのでは ないかと考えられる。すなわち、情報価値のある人間が多 くの SNS を利用することでネットワークの形が形成されう 図 3 二層のニューラルネットワークモデル るのではないかという結論を得る。また、新しい SNS を評 価しているユーザーが現れることから、SNS 使用数の平均 2.3 シミュレーションの流れ が増えると考えられる。 既-参 (前) (後) 3-1 2.492(max 3) 3.297(max 4) 1. 参入企業数の決定、time = 1。 3-2 2.415(max 3) 4.087(max 5) 2. ユーザーのエージェント 50 人の重みと閾値が一様分 3-3 2.522(max 3) 4.702(max 6) 実際のシミュレーションの流れは以下の通りである。 布に従って決定される。 表 3.1 三層モデル:中心プレイヤーの SNS 使用の平均 3. 遺伝的アルゴリズムを用いて、ユーザーのニューラ ルネットワークに関して学習を行う。 参入後に学習期間を設けるかどうかで、維持度に関して 4. 等確率でプレイヤーを二人選ぶ。 変化が現れる (表 3.2, 表 3.3)。これは重みに関して最適化が 5. 選ばれたプレイヤーは他方のプレイヤーとリンクを 行われるか否かの問題であり、参入してきた SNS に対する 結ぶかどうか意思決定する。 6. 選ばれたプレイヤーは使用するサービスに変更を加 える。 7. time を増やす • time = T であれば、この時点におけるクラスタ 評価値を変更可能であることが維持度に影響を与えている。 これにより、学習によるネットワークの変化が大きいこと が示唆される。 参入前後での維持度に関しては、4 割及び 5 割ほどである (表 3.3, 表 3.4) から、リンクがいくつか削除されていること がわかる。これは先ほども述べた理由と同様で、多くのリ ンクが中心ユーザーの推移によって切られるからである (図 4)。また、クラスタ係数や密度に関しては参入前後での変化 はあまり見られず、それは中心ユーザーの推移だけであっ て、基本的な構造に関しては変化しないということから言 える。 図5 表からわかるとおり、参入企業数に関しては特に影響を 得られるネットワークと 2 グループの例 受けないことが示唆される。また、中心支援スターネット ワークを含むネットワークは、シミュレーション回数の 9 4 割程度現れてくることがわかった。 おわりに 本研究において最も興味深い結果として、2 タイプのユー ザーのグループに分けられることが観測される。すなわち、 4.1 研究の成果 中心支援スターネットワークの中心ユーザーとなるグルー 中心となるユーザーが変化することと、その中心となる プ (図 5 におけるユーザー 0, 1) と、自分からのリンクを結 ユーザーが多くの SNS を利用する状況が現れてくることが ばず、一方的に利益を享受するユーザーのグループ (図 5 に 得られた。 おけるユーザー 2, 3, 4, 5) に分けられる。 ニューラルネットワークの更新が参入後に行われるか否 既-参 クラスタ (前) クラスタ (後) 維持度 かで、ネットワークの構造の維持度合いが異なることがわ 3-1 0.306 0.324 0.841 かる。これを考えると、ユーザーが新たに使用できる SNS 3-2 0.365 0.337 0.813 に対して、適切に判断し使用を検討できるか否かで、ネッ 3-3 0.345 0.333 0.828 表 3.2 二層モデル:参入後学習なし:クラスタ係数維持 トワークの構造の変化は大きくなることが示唆される。遺 伝的アルゴリズムによる学習を試行錯誤の結果と捉えれば、 ユーザーが試行錯誤を繰り返すことによって、既存のネッ 度の平均値 トワークは大きく変化する。 既-参 クラスタ (前) クラスタ (後) 維持度 3-1 0.304 0.292 0.426 3-2 0.290 0.292 0.488 実際の社会において、合理的なユーザーが多いほど、大き 3-3 0.295 0.305 0.510 く構造が変化すると考えられる。しかし、実際にはシミュ 表 3.3 二層モデル:参入後学習あり:クラスタ係数、維 持度の平均値 4.2 今後の課題 レーションで行った人数ではなく、もっと大きな集団を対 象にしなければならない。また、新しい SNS が認識される までの遅延を考慮しないといけない。 既-参 クラスタ (前) クラスタ (後) 維持度 3-1 0.198 0.225 0.428 3-2 0.205 0.259 0.523 3-3 0.254 0.223 0.431 表 3.4 三層モデル:参入後学習あり:クラスタ係数、密 度、維持度の平均値 参考文献 [1] 林田 智弘, 西崎 一郎, 片桐 英樹 (2007) 「社会的評判を考 慮したネットワーク形成に関するエージェントベースシ ミュレーション分析(不確実性を含む意思決定の数理と その応用)」 『数理解析研究所講究録』 1548, 170-177. [2] 神原 李佳, 林田 智弘, 西崎 一郎, 片桐 英樹 (2009) 「ネッ トワーク形成に関するエージェントベースシミュレー ション分析」 『広島大学大学院工学研究科研究報告』 58, 1. 図 4 中心プレイヤーの移動
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