EM による環境浄化活動との決別に関する陳情書

平成26年
7月
*日
EM による環境浄化活動との決別に関する陳情書
鈴鹿市議会議長
陳情者
住所 鈴鹿市***********
氏名 白 井
達 也
印
(必ず押印してください)
EM による環境浄化活動との決別に関する陳情書
陳情の趣旨
『EMTM を用いた取り組みに鈴鹿市は今後一切関わらないと公的に宣言して頂きたい』
鈴鹿市では平成14年度から10年間に渡り EM 活性液を無料配布する環境浄化
の活動を後押ししてきました.この件に関する問い合わせについては 2013 年 4 月に
環境政策課より電子メールにて事業終了の報告を頂いています(参考資料1,2).
一方,河川課においても平成 18 年度から継続している「渚排水機場貯水池 EM 菌散
布投入活動」
(年 160 万円)の補助が行われています(参考資料3)
.
以上のように鈴鹿市は環境活動等において少なからず EMTM と関わっています.本
陳情では,鈴鹿市が EMTM と今後は一切関わらずに,完全に決別すると公的に宣言す
ることを要望します.
以下,本陳情の背景となる情報を記載します.
1.EMTM とは
1) EM は一般名称ではない
2) EM は特別な微生物でも単独の微生物でもない
3) EM は“何にでも良い効果を発揮する万能性を持つ”と言われている
4) EM は疑似科学(科学的な用語を用いて非科学的な効果や原理を説明)である
1)EM は一般名称ではない
いま広く EM 菌と呼ばれている微生物資材は EM 研究機構の製造・販売している
EMTM 関連商品のことです.特に多く用いられているのは EM-1 という商品です.
EMTM とは,開発者として知られる琉球大学名誉教授の比嘉照夫により命名された
Effective Microorganisms(有用微生物群)という造語の短縮名です.同時に EM 研
究機構が登録商標権を持つ商標であり,他社が自由に用いることができる一般名称で
はありません(参考資料4,5,6).
2) EM は特別な微生物でも単独の微生物でもない
誤解している方が多いのですが,EMTM とは,光合成細菌・乳酸菌・酵母を中心と
した様々な微生物の複合体であり,何らかの特別な機能を持つ新種の微生物を発見し
た訳ではありません.さらに,膨大な種類の微生物の内,具体的にどの微生物や酵母
がどのような割合で含有されているのかは明記されていません.
3) EM は“何にでも良い効果を発揮する万能性を持つ”と言われている
元々は沖縄県のサン興産業が開発した農業用微生物資材に対して,比嘉が環境浄化
や抗酸化作用といった様々な機能があると講演会,書籍,Web などで宣伝し,市民生
活に広がっていきました.その“万能性”の中には,『がんに効く』,『放射性物質を
無害化する』といった看過できないものが含まれます.これは陰謀論ではなく,調べ
て頂ければ分かりますが比嘉自身が広く公の場で述べていることです(参考資料7).
4) EM は疑似科学(科学的な用語を用いて非科学的な効果や原理を説明)である
喧伝する効果(=万能性)以上に,本陳情で問題視しているのは『EMTM が疑似科
学である』ことです.その明確なサインは EM の作用機序の中心に“波動”が関わっ
ているという主張であり,これをもってして陳情者は『EMTM=疑似科学』と断定し,
行政が関わることに警鐘を鳴らします. Wikipedia に比嘉が述べている EMTM の原
理の説明をまとめた文章がありますので引用します.
《
「常識的な概念では説明が困難
であり、理解することは不可能な、エントロピーの法則に従わない波動」である「重
力波と想定される縦波」が「低レベルのエネルギーを集約」し「エネルギーの物質化
を促進」する、この「魔法やオカルトの法則に類似する、物質に対する反物質的な存
在」である「蘇生の法則」ことシントロピー現象が EM の本質的な効果であると比嘉
は推定している。また、EM に結界(聖なるものを守るためのバリア)を作る性質があ
ることは EM 関係者の間では広く知られていると比嘉は語る。》
(参考資料8)
確かに,現代においても全ての物理現象のメカニズムが解明できた訳ではありませ
ん.しかし,一つ一つの検証可能な事実を積み上げて現代の科学文明が構築されてい
るその根底を科学的な用語を用いて神秘主義にて安易に覆す行為は極めて危険な風
潮を生みます.近年は,放射性物質(セシウム)の無害化(バリウムへの元素転換)
の機能があるとも比嘉は主張しています.化合物の分解・合成でも,生物凝縮の話で
もなく,微生物自身の力により放射性物質の核分裂を促進し,放射線を発しない安定
した元素に変換するという意味です.このような理論は現代の科学では比嘉も含めて
メカニズムを説明し,証明することはできません(参考資料9,10).この『EMTM
の疑似科学性』が与える影響については後述します.
2.EMTM による環境浄化の問題点
陳情者は,EMTM の河川や湖沼等への投入(EM 活性液,米のとぎ汁 EM 発酵液,
EM 団子)による環境の一時的な清浄化について全否定しません.環境を逆に汚濁す
るという指摘もありますが,効果があるか無いかも含めて本陳情では重視していませ
ん.EMTM 以外の微生物資材や化学薬品でも同程度の効果は期待できるでしょう.問
題は,
1.
EMTM は疑似科学である(前述)
2.
EMTM による環境浄化が対症療法であり根本的解決ではないこと
3.
EMTM による環境浄化の効果が一時的でしかないこと
4.
以上3点をもって公教育における環境教育に用いてはいけないこと
の4点にあります.1については前章と次章で述べますので割愛します.2について,
河川や湖沼の汚濁の原因とその対策は流入側(家庭や工場の廃液の規制,下水道網と
浄化槽の整備)と流出側(護岸の整備など)にあり,結果的にいま現在,汚濁してい
る場所を対策しても意味はありません.3については,比嘉も述べているように「効
果が出るまで投入し続ける」必要があります.なぜ EM 団子という方式を取るのかと
いうと,液体で投入しても希釈され,流されていってしまうためです.EMTM 自体は
その環境に生育するのに適した菌ではないため,その環境に留まり続けることもでき
ません.以上のように EMTM は正しい環境保全の手段では無いにも関わらず,1) EM
団子を作って投入する,2) 家庭の米のとぎ汁を捨てずにペットボトルで発酵させる,
のように児童でも積極的に参加できる手段であることから環境保護意識が涵養と言
われて全国の小中学校の環境教育に導入されています.汚れて淀んで異臭を発する河
川を綺麗にするために,行政は様々な対策を上流と下流で行っているでしょう.その
結果,河川が綺麗になったにも関わらず,
“善玉菌”を投入し続けた児童たちの活動
の結果であると結論付けて満足感を与える教育は間違っています.
今回,EMTM を用いた環境浄化と決別することを市に要請する契機となったのは,
新潟県新潟市により発生した『EM 発酵液を小学校で児童が飲食した事例』が発覚し
たことにあります(参考資料11,12)
.
EMTM を用いた環境教育を行おうとする地域ボランティアや,飲食を認めてしまっ
た学校関係者は共に善意に基づいて行動していると思います.ただ,その善意に対す
るブレーキを掛ける者がおらず,十分な情報収集を行わなかったために非常識な行動
に至ったものと思われます.新潟県新潟市が EMTM の利用を推奨していることも現場
において危険性を配慮しなかった一因であると思います(参考資料13)
.
鈴鹿市内でもかつて EMTM を用いた環境教育を行っていた事例が複数あります(参
考資料14)
.近年の事例は Web 上では見付かりませんが,実施していない保証はあ
りません.鈴鹿市よりも EMTM を用いた環境活動が活発な隣市の四日市市立海蔵小学
校では今年も実施しています(参考資料15)
.
3.EMTM の盲信が招く市民生活に対する脅威
・EMTM が人の健康にとって安全である保証は無い
・“善玉菌”信仰が招く神秘主義への傾倒
繰り返しますが,鈴鹿市民自身の管理する地所内における EMTM の農業用資材とし
ての活用を行政が禁止して欲しいとお願いしている訳ではありません.
EMTM の危険性は先に述べた疑似科学であることに加えて,“善玉菌”という用語
の濫用による思考停止が生じる点にもあります.元来,善玉菌とは人間の腸内環境に
おける微生物の分類に対してのみ用いられる用語です.EM 研究機構も用いる“善玉
菌”という用語は,EMTM の“万能性”を人々に信じさせる要因の一つです.自然環
境に対して“これは人にとって善い菌・悪い菌”と二分する発想が危険であることに
加え,微生物が人や環境に対して良い働きをするか否かは微生物の生息する環境と状
況に左右されます.土壌に対して有用な働きをする微生物が人の体内でも良い働きを
するという保障はありません.皮膚表面の常在菌が体内に取り込まれて安全だという
保証も無く,免疫力が低下した状態では日和見感染を起こすこともあります.市販さ
れている EM-1 という製品が,人にとって危険な微生物を含まないように厳密に培養
と検査がされた上で出荷されていると仮定しましょう.しかし実際に EMTM を用いる
際には,EM 研究機構も推奨するように《製品は、このままでも使用できますが、EM
活性液や EM ボカシを作り増やしてから使用することをお勧めします。》
(参考資料5
中の EM-1 の説明中)のように利用者がそれぞれ家庭で『EM 活性液』や『米のとぎ
汁 EM 発酵液』に培養します(参考資料16)
.その際に雑菌が混入して培養に失敗
することがあります(参考:EM 研究機構は EM-1 を殺菌処理した EM-X GOLD と
いう飲用可能な製品を販売しています)
.新潟県の小学校での EMTM 飲食の問題点は,
『EMTM は化学薬品ではなく善玉菌であり,人や環境に対して安全である』という思
い込みから,その発酵液も適切に培養すれば安全であると判断した結果でしょう.さ
らに新潟市は鈴鹿市同様に EM の利用を行政が後押ししていますので,教育現場でも
危険性を軽視したものと思われます.EMTM は市民生活に溶け込んでおり,洗剤の代
わりに,消毒薬の代わりに,空間除菌のために加湿器で散布,そして発酵ジュースを
作って日常的に飲用する段階に来ています(参考資料17,18).
確かに深刻な健康被害が出ることは少ないでしょう.しかし,この“善玉菌”とい
う解釈が浸透し,それを行政も認めることでより深刻な問題が生じます.例えば化学
薬品に対する過剰なまでの忌避(ケミカルフリー)です.プール清掃に EMTM を利用
するメリットとして新潟県十日町立下条小学校では《従来は塩素などによる消毒や殺
菌、洗剤を使った汚れの除去等を行ってきました。しかし、この処理後の廃水がまた
環境を汚染する結果となっていたのです。》
(参考資料19)と説明しています.塩素
は危険な化学薬品でしょうか? 日本の水道水は塩素消毒されています.東京水道局
も《日本では、蛇口から出る水道水の中に 0.1mg/L 以上の塩素が残留していることが
義務づけられています。水道水中に塩素が残留していることは、適切に消毒が行われ
ていることを示しており、安全の証なのです。
》
(参考資料20)と述べている通りで
す.過剰な化学薬品忌避の思想は公衆衛生に対する脅威となる恐れがあります.EMTM
の疑似科学性に加えて,このような極端に偏った安全意識を児童が家庭内や小中学校
の公教育で身に付け,誤った知識を持ったまま成長することの危険性を危惧します.
疑似科学を信じる人々は,児童に限らず,科学的な根拠の乏しい様々な神秘的な事物
をも疑うことなく信じます.血液型性格診断,星占い,パワーストーン,パワースポ
ット,ゲルマニウム,マイナスイオンといった非科学的な事物を半信半疑ながらも日
常生活の潤いの一つとして楽しむことを否定しません.しかし,UFO,守護霊,チャ
ネリング,ホメオパシー,ケムトレイル,断種ワクチン,人工地震兵器といった日常
生活やコミュニティの平安に対する脅威となるオカルトや陰謀論を本気で信じてし
まう素地にもなることはご理解いただけると思います.
4.結言
鈴鹿市は海と山の自然環境にも恵まれた素晴らしい街です.さらに市内には鈴鹿医
療科学大学,鈴鹿工業高等専門学校,鈴鹿国際大学の3つの高等教育機関を擁します.
特に鈴鹿医療科学大学は薬学部に続いて看護学部が新設されるなど近隣地域に対し
て存在感を増しています.加えて鈴鹿市は《1 工場当たりの従業員数や製造品出荷額
はいずれも県内 1 位》http://www.city.suzuka.lg.jp/city/profile/industry/index1.html
という工業都市でもあります.残念なことに,EMTM の疑似科学性に気付かずに後押
しをしてしまったのだとしても,将来に渡って『鈴鹿市は非科学的な特定商品の宣伝
の片棒を担いでしまった』という汚点を残したことは事実であり,いまさら消すこと
はできません.この負のイメージを払拭するには,EMTM との関係を鈴鹿市として見
直し,問題点を整理した上で他の自治体に先んじて完全に決別することを宣言する必
要があります.重ねて申し上げますが,本件の問題点は「EMTM に効果があるかどう
か」ではありません.
「EMTM のもつ効果と作用機序の説明に見る疑似科学性と,
“万
能性”を謳うことによる市民生活への悪影響」の観点から危険性を判断して下さい.
2016年7月8日(火)
三重県鈴鹿市在住
白井 達也/博士(工学)
参考資料リスト
【参考資料1】「広報すずか」, No.1287 (2009.3.5), pp.16
http://www.city.suzuka.lg.jp/kouhou/gyosei/open/shiryou/hakkobutsu/koho2008/pdf/20090305/2009030514-19.pdf
【参考資料2】「広報すずか」, No.1391 (2013.7.5), pp.13
http://www.city.suzuka.lg.jp/kouhou/gyosei/open/shiryou/hakkobutsu/koho2013/pdf/20130705/2013070510-19.pdf
【参考資料3】「補助金等シート一覧【平成 26 年度当初予算】」,土木部河川課,
(様式1)補助金等シート,
予算事業名:渚排水機場貯水池 EM 散布投入活動,
http://www.city.suzuka.lg.jp/gyosei/plan/zaisei/index7_7.html
http://www.city.suzuka.lg.jp/kouhou/gyosei/plan/zaisei/data/pdfs/hojyoh26_24.pdf
【参考資料4】《EM とは?》EM 研究機構,www.emro.co.jp/em/
【参考資料5】《EM 商品の紹介》EM 研究機構,www.emro.co.jp/em/product/
【参考資料6】《EM 商品紹介》EM 生活,http://www.em-seikatsu.co.jp/products/
【参考資料7】「新・夢に生きる」
(比嘉照夫)
,第 21 回 EM 万能性の再確認,
WebEcopure,http://www.ecopure.info/rensai/teruohiga/yumeniikiru21.html
【参考資料8】《有用微生物群》Wikipedia,
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%89%E7%94%A8%E5%BE%AE%E7%94%9F%E7%89%A9%E7%B
E%A4
【参考資料9】《第 61 回 EM による放射能対策の新知見》
,
Digital New Deal, (株)DND 研究所,http://dndi.jp/19-higa/higa_61.php
【参考資料10】
《第 78 回 EM の波動作用》
,
Digital New Deal, (株)DND 研究所,http://dndi.jp/19-higa/higa_78.php
【参考資料11】
《授業で EM 菌を飲食する子供たち》
,togetter,
http://togetter.com/li/683245
【参考資料12】
《ニュース/平成 24 年 4 月 27 日更新》
,
新潟市立早通小学校公式 Web ページ
(2014 年 6 月 23 日に当該ページは削除.以下 URL は削除前のデータをバックアップしたもの),
https://archive.today/Uu0LM
【参考資料13】
《EM ボカシ容器減額販売精度利用者アンケート集計》,
新潟県新潟市公式 Web ページ
http://www.city.niigata.lg.jp/kurashi/gomi/recycle/namagomi/h16_19emankeito.html
【参考資料14】
《EM 活動を年間授業に導入 / 三重県鈴鹿市・白子小学校》
,
WebEcopure (2008.1.5)
http://www.ecopure.info/rensai/elnet/elnet11.html
【参考資料15】
《6 月 16 日 EM 団子作り》,
四日市市立海蔵小学校公式 Web ページ,2014.6.16,
http://www.yokkaichi.ed.jp/kaizo/diarypro/diary.cgi?no=885
【参考資料16】
《EM リーフレット No.1 EMTM の増やし方》,EM 研究機構,
http://www.emro.co.jp/download/pdf/leaflet1.pdf
【参考資料17】
《超ワイルドな『EM 発酵ジュース』の作り方動画》
,togetter,
http://togetter.com/li/464752
【参考資料18】
《EM 発酵ジュース》,高坂早苗, 2013.2.28 に公開,YouTube,
https://www.youtube.com/watch?v=mTsgKx74c0s
【参考資料19】
《EM ってなあに?》新潟県十日町立下条小学校公式 Web ページ
http://www.edu.city.tokamachi.niigata.jp/els/gejo/5/
【参考資料20】
《トピック第 20 回 塩素消毒の効果》
,
東京都水道局公式 Web ページ,
https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/water/w_info/s_kekka_topi20.html