はじめに What should we do now? 東洋大学 国際哲学研究センター長 村上勝三 三年目、石の上にも三年と言います。三年は刹那であるとともに水滴が岩を穿つ歳月でもあります。本センター は2011年に開設され三年が経過しました。道中の一歩は既に半ばとはギリシャの賢人の言と聞きます。五年のうち の三年が過ぎました。幼児語を用いれば、 「ぎったんばっこん」の釣り合いはとうの以前に膝をついています。残 す二年を越した三年の凝縮として価値の豊饒なる剰余を世に還すべく努めます。 いま、私たちは研究員22名、客員研究員27名、研究助手 3 名、PD 1 名、RA 2 名、計55名を数えます。本年度の 事業は、研究会、研究集会、シンポジウム、WEB国際会議など全体で20を越えます。第 1 ユニットの中軸をなす 国際井上円了学会は昨年度の設立総会いらい、本年度は 5 月にアメリカでの研究集会を成功させ、 9 月には第二回 学術大会の開催、学会誌『国際井上円了研究』の公刊、研究会も 5 回と、順調な発展を遂げております。第 2 ユニッ トの方法論研究は研究会 4 回、WEB国際会議 1 回、シンポジウム 1 回、 「ポスト福島の哲学」については研究会 5 回を開催しました。この成果を最終年度に『越境する方法』及び『ポスト福島の哲学』 (仮題)として出版する予 定です。第 3 ユニットは多文化共生を核に据えて多面的な活動をしております。とりわけイランでの研究集会の開 催は昨年度の本邦での開催と相俟って両国連携の大きな基盤になるでしょう。また、宗教間の共生などシンポジウ ム・研究会も数多く開催されました。以上の活動を反映して、『年報』は年々嵩が増え、別冊へと流出しております。 これらの事業についてはホームページをご覧下さい。成果を世に還すことは私たちにとって最重要な課題の一つで す。 設立の趣旨は以下の通りでした。 「グローバル化が進み、価値観の多様化とともに、未來への方向性を見極めか ねている現代社会にあって、人間と社会のあり方を根源的に問い直す哲学的探究が求められています。本センター はこの地球的課題に応えるために哲学研究の国際的ネットワークを形成し、井上円了哲学の現代的役割を国際的に 発信するとともに、東西思想の差異するところを踏まえつつ世界的連携を創出することを目指します」。 しかしながら、 「グローバリズム」が空間的広がりを無効にすることを通して、むしろ人間的社会の霧消に終着 することはもはや明白です。それとともに「価値観の多様化」も見失われがちになっています。「未来への方向性」 はあたかも人としての尊厳を蔑ろにする方向へと向けられているかのようです。日は既に傾きはじめ釣瓶落としの ようにがらがらと音を発して時代は腐敗し始めました。それを発条にしてどれほどのインターナショナリズムを、 つまりは小さな共同体の別個性をゆたかにしつつ合従連衡のすえに、世界という共同体を構築できるのか、哲学は 背に重い荷を負いながら、この世界を裏返す、裏返し方を見出すという希望を胸に抱くことになります。 「次」で はなく「今」すべきことが問われています。そのための用意を私たちはしてきたのだと考えます。洋の東西を問わ ずに議論を重ねてきました。そのなかで私たちは東洋系哲学の研究者と西洋系哲学の研究者とが協力して企画を仕 上げるという場を作ってきました。このことは成果の交流では得られない経験を与えてくれると確信しております。 相手への到達不可能性を常に考慮の内に組み入れながら国際的な活動を続け、新しい始まりである終局へと進んで 行きたいと考えております。今後とも皆様方のあたたかいご支援をお願い申し上げます。 国際哲学研究 3 号 2014 1
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