総合型環境認証の特徴と BELS の有用性

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総合型環境認証の特徴と
BELS の有用性
中里 望
ケネディクス不動産投資顧問株式会社
オフィス・リート本部 投資運用部 マネジャー
(ARES マスター M0903304)
度の運営主体が設定した基準・規格
わゆる総合型であり、特定の環境性
に基づき認証活動が行われている。
能を評価するものではなかった。これ
本邦における主要な評価制度も市場
は環境というテーマが非常に大きく、
当社が運用する「ケネディクス・オ
において既に一定の認知が為されて
必然的に評価項目も多岐に亘るため
フィス投資法人 」が保有する「 KDX
おり、J-REIT 各社の開示資料等で環
当然のことではある。しかし、総合型
武蔵小杉ビル」にて2014 年 10月22
境認証の取得について記載される事
は多面的な評価が可能である反面、
日付でBELS( 建築物省エネルギー
例も年々増えてきていると感じられる。
総花的で具体性に乏しい印象もあ
性能表示制度 )
の評価を取得した。
本投資法人では、これまでに個別物
る。例えば、総合的な環境性能とい
本投資法人では環境、省エネルギー
件においてはCASBEE 不動産マー
う表現は、その性能が誰に対してど
に関する取組みを推進しているが、
ケット普及版、DBJ Green Building
のような点でプラスの影響を与えるの
本取組みはその一環であり、J-REIT
認証、東京都中小低炭素モデルビル
か分かりにくい。また、各制度によっ
においては第1号の評価取得となった
等の認証、投資法人としてはGRESB
て認証範囲も異なるため、認証を取
ものである。これをきっかけに本紙を
の 評 価を取 得している。 他 には
得する制度毎になぜその認証を取得
借りてこれまでの取組みを振り返る機
SMBCサステイナブルビルディング評
するのか、或いはなぜこの物件で取
会を得たことから、本投資法人におけ
価融資制度を活用して資金調達を
得するのか、というテーマを個別に検
る環境、省エネルギーに関する取組
行った事例もあるなど、環境、省エネ
討する必要があった。本投資法人の
みの考え方を実務担当者の視点から
ルギーに関して、積極的な取組みを
例で言えば、2013 年に総合的な環境
述べてみたい。
推進している。
性能評価を目的として、CASBEE 不
Ⅰ.はじめに
動産マーケット普及版を4物件で取得
2. 本投資法人の実績
3.これまでの環境認証に
対する取組み
環境、省エネルギーに関しては国
内外に様々な認証制度があり、各制
しており、次頁の表の評価を得た。
築年の新しいKDX 小林道修町ビ
ルをベンチマークとして、大よそ同等
従来から存在する評価制度は、い
規模の物件において、築年がやや経
March-April 2015
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物件名
竣工年
延床面積
評価結果
KDX 小林道修町ビル
2009 年 7月
10,841㎡
☆☆☆☆☆( Sランク)
KDX 新宿ビル
1993 年 5月
10,707㎡
☆☆☆☆( Aランク)
五反田TGビル
1988 年 4月
4,863㎡
☆☆☆☆( Aランク)
13,014㎡
☆☆☆☆( Aランク)
烏丸ビル
1982 年 10月
過している物件( KDX 新宿ビル)、
は、実際の対応としてはなかなか難し
ての側面を備えることになるかもしれ
更に経過している物件( 烏丸ビル)
い。良い悪いというよりもこれは総合
ない。J-REITを運用する立場として、
で、評価結果にどのような差異が生じ
型の特徴・限界とも言える。
投資主価値の最大化を目指していく
るか、また烏丸ビルは築年が相応に
経過しているものの一定の改修をお
という観点からも整合的と考えられ、
3.BELSの意義
取組む意義は大きいものと考える。
こなっており、それがどの程度の効果
4.おわりに
を見込めるか、という観点からこれら
BELSは、既に各方面において詳
の物件を選定したものである。また、
細な制度の説明が為されているが、
五反田TGビルは規模が半分程度に
端的に言えば、省エネルギー性能の
市場の環境に対する認識は常に
なったら差異が生じるか、という観点
評価に特化した制度である。物件の
変化を続けており、今後、必要条件と
から加えている。 結 果としては、
規模や築年に係わらず単一の指標
して求められる水準は更に高まってい
KDX 小林道修町ビルがSランク、そ
に基づいた評価を行うため、個別に
くであろうことは想像に難くない。サス
れ以外はAランクであり、総合的な環
テーマを見出す必要がなく、単純比
ティナビリティという概念もよく聞かれる
境性能評価という意味では、
さほど大
較において優劣を判定できる点は分
が、どういった要素をどこまで含むの
きな差異は生じなかった。しかし、こ
かりやすい。エネルギーは物件の収
か定義と理解が進むとともに、従来の
の評価項目の1つであるエネルギー・
益性に直結する要素であるが、この
環境認証が果たす役割は、機能別
温暖化ガスのスコアを単体で比較し
取組みを通じてエネルギーコストの適
に再編されていくのではないかとも考
た場合、僅差ながら、最も築年の経
正化が進めば、物件の収支も改善す
えられる。
過している烏 丸ビルがSランクの
る。また何よりも、取組んだ結果が可
KDX 小林道修町よりも高いのであ
視化される点は、経費の削減を求め
ハード的な性能の向上はもちろんのこ
る。
るテナント等に対して強い発信力を伴
と、これを補完する運用が不可欠で
この意外な結果を含め、高い評価
うことも期待されるだろう。これまで環
あるが、環境認証はこれを支えるツー
を得たことは一定の成果として受け止
境への取組みはコストとしての認識が
ルとして有用であり、本投資法人とし
めており、認証取得の意義はあったと
強かったとしても、経済的価値の側
ては今後も積極的に取り組んでいく
考えているが、この詳細をテナントに
面へアプローチするツールとして積極
方針である。
説明して一定の理解を求めていくこと
的に活用することで、今後は投資とし
不動産の価値創出にあたっては、
参考文献
株式会社ザイマックス、平成 26 年 11 月 11 日、
「これからのオフィスビルに求められるエネルギーマネジメント~省エネ性能が可視化される時代に向けて~」
なかざと のぞみ
野村ビル総合管理株式会社(現・野村不動産パートナーズ株式会社)勤務後、
株式会社シンプレクス・インベストメント・アドバイザーズ、グローバル・
アライアンス・リアルティ株式会社等にて不動産私募ファンドの組成、運用
業務を担当。現職ではアセットマネジャーとしてケネディクス・オフィス投
資法人の運用業務に従事。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了、MRICS。
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ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.24