マーケットウィークリー・818号 産業ニュース 2015.3.6 15年中に、バラスト水規制管理条約発効か 作成者:冨ケ原信久 日本政府はバラ スト水規制管理 条約を批准 日本政府は14年10月、国際海事機関(IMO、加盟国170カ国)が採 択した国際条約「2004年の船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管 理のための国際条約(以下、バラスト水規制管理条約)」に批准した。 IMOは国際的な航海が安全に行われるためのルール作りを行う国際 機関。関水康司氏が代表を務める(任期15年末)。平成26年通常国会 において、同条約の枠組みを国内法に取り入れるための「海洋汚染等 及び海上災害の防止に関する法律の一部を改正する法律」が成立。こ れに伴う関係政省令の一部改正も行った。14年10月13-17日に開催され たIMOの第67回海洋環境保護委員会の場において未批准国に早期発 効を促したほか、国土交通省が国内事業者に対して説明会を行うなど 周知に努めている。 バラスト水規制 管理条約は一定 の条件で発効 バラスト水規制管理条約は環境や人の健康、経済活動に対して有害 な水生生物及び病原体の移動を防止し、持続的な海洋利用ができるこ とを目的とした国際条約だ。発効条件は30カ国以上の国の批准と、経 済活動に従事する100総トン以上の合計商船船舶量が世界の全商船船 舶量35%以上で、クリアした日を基準に12カ月後に適用する。14年に 商船船舶量が世界13位(シェア1.713%)の日本のほか、トルコ、コン ゴ、トンガ、15年1月にグルジアが批准。総計44カ国がバラスト水管理 条約に批准し、合計船腹量は全世界の商船全体の32.57%となった(15 年1月時)。イタリア(世界14位、シェア1.712%)など欧州勢も批准に 前向きと見込まれ、15年に発効条件が整う可能性が高そうだ。なお、 IMOの主な会合は15年に9回あり、そのうち海洋環境保護委員会の次 回会合は15年5月11-15日の予定となっている。 バラスト水は船 舶に内蔵。国際間 移 動 は 30 億 ト ン 以上 バラスト水とは船舶を安定するために用いる水のこと。貨物船や客 船などの商船は総積載重量で設計され、無積載量で出港する場合、停 泊港の水を重石として内蔵タンクに積んでバランスさせる。一方、寄 港時に貨物などを積載した場合は安定化に余分なバラスト水を船外へ 排出する。往復路で共に貨物を満載しない限り、バラスト水が必要と なる。IMOによると船舶によって年間30億トンから50億トンのバラ スト水が国際移動していると推定。また、日本海難防止協会の調査で は日本において年間約1,700万トンのバラスト水が持ち込まれ、約3億 トンが持ち出されていると推計している。 環境問題の解決 策。発効は時間の 問題 バラスト水に含まれる水生生物が、排出された水域の生息条件に適 合した場合、外来種として当該地域の生態系に影響を与える問題が発 生。黒海でのアンチョビ漁獲減少など漁業被害や、米国で貝が異常発 生し発電所の取水口を塞ぐなど人的被害が報告された。この事実を重 く見たIMOは十数年の議論を経て、04年に最終合意した。それから 10年以上経過したが、まだ発効条件が整わない状況にある。船籍国上 位10カ国のうち批准したのは2位のリベリアと3位のマーシャル諸島だ けで、この条約に対して政治的・経済的な障害がありそうだ。一方、 米国は批准を行っていないが、米国海域を航行する13年12月以降の新 造船にバラスト水処理設備の搭載を義務付けた。ブラジルやペルシャ 湾沿岸国、マレーシアも独自の規制を設定しており、発効条件が整う のはもはや時間の問題といえよう。 マーケットウィークリー・818号 2015.3.6 バラスト水規制 管理条約発効で 特需に期待 バラスト水規制管理条約の発効後は、新造船のほか既存船も5年ごと の定期点検で、バラスト水を排出する際に水生生物を一定基準以下に することが義務付けられ、フィルターのほか薬剤や紫外線などで殺滅 する処理装置の設置が必要となる。日本海事協会によると、14年12月 現在でIMOが基本承認、または各国主官庁が承認したバラスト水処 理装置は国内企業を含め73機種(下表、国内企業参照)。国内各社は 造船会社と提携し、受け入れ準備も進めている。国交省によると、条 約の対象となる世界の船舶は8万隻と推定。一隻当たりの処理装置と設 置作業を3億円と仮定し、発効後6年間で最大24兆円の市場が生まれる と期待。造船業界は5兆円規模と装置メーカーも含め控えめな見通しだ が、ビジネスチャンスと捉えているのは同じだ。 造船各社は新造 船受注を狙うが、 既存船もケア 内閣府発表の機械統計によると14年の船舶受注は2兆274億円、前年 比37%増。14年7月のIMO船内騒音規制強化前の駆け込み需要があっ たが、円安による受注環境の好転や付加価値の高いLNG船などの需 要増も寄与した。造船業界はリーマンショックと円高で建造船がなく なる「2014年問題」が懸念されたが、危機を回避したようだ。名村造 (7014)が生産能力を増強し、今治造船(未公開)が大型ドック建設 計画を発表。三井造(7003)も生産能力増強や休止中のドックの再開 を発表した。既にJFEHD(5411)、IHI(7013)、日立造(7004) の造船事業を統合した ジャパンマリンは総合造船化を進め、三菱重 (7011)、川崎重(7012)も国内外の造船会社との提携強化に動くな ど、最近は前向きな話題がでてきた。受注残を背景に建造量が増加に 転じる中で、バラスト水規制管理条約の発効間近も加わり、経営マイ ンドは改善に向かっているようだ。 ◇バラスト水処理装置の搭載スケジュール ◇バラスト水排出基準 対象生物 50μ m以上の生物 (主として動物プランクトン) 10-50μ mの生物 (主として植物プランクトン) 病毒性コレラ 細菌 (O1及びO139) 大腸菌 腸球菌 排出濃度(生存個数) 10個/m3未満 起工日 2009年より前 10個/ml未満 1cfu/100ml未満 又は、動物プランクトン 1g当たり1cfu未満 250cfu/100ml未満 100cfu/100ml未満 (注)cfu:colony foming unit(群体形成単位) (出所)国土交通省資料を基にCAM作成 2009年以降、 発効日より前 2012年以降 条約の発効日より前 条約の発効日以降 バラスト水容量 V(㎡) 処理装置の搭載期限 1500m3≦V≦5000m3 条約発効後の最初のIOPP(国際油 汚染防止証書)更新検査まで V<1500m3又は 5000m3<V 2016年の引き渡し基準日後の最初 のIOPP更新検査まで V<5000m3 条約発効後の最初のIOPP更新検 査まで 5000m3≦V 2016年の引き渡し基準日後の最初 のIOPP更新検査まで 5000m3≦V 条約発効後の最初のIOPP更新検 査まで 全船 完工日まで (出所)日本海事協会資料を基にCAM作成 ◇バラスト水処理装置承認状況(14年12月末現在) 製造者 三井造 日立 JFEHD 銘柄 コード 処理方法 キャビテーション+オゾン フィルター 6501 フィルター+凝集剤 フィルター+塩素+キャビテーション 5411 フィルター+薬剤注入 3405 フィルター+次亜塩素酸カルシウム 未公開 薬剤注入 5802 フィルター+UV 6752 電気分解 7003 クラレ 日本油化 住友電 パナソニック エコマリン技術研究組合 住友 未公開 フィルター+海水電解 電工と日立造船(7004)が出資 栗田工 6370 薬剤注入 三浦工 6005 フィルター+UV (出所)日本海事協会資料を基にCAM作成 承認状況 IMOによる承認 主管庁 基本承認 最終承認 承認 75-300m3/h ○ ○ ○ 50-900m3/h ○ 200-2400m3/h ○ ○ ○ 17.5-4500m3/h ○ ○ ○ 17.5-4500m3/h ○ ○ ○ 125-4000m3/h ○ ○ ○ 25-34000m3/h ○ ○ ○ 100-1000m3/h ○ ○ 容量 - ○ - - 200-6000m3/h ○ - ○ - ○
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