資料2 医学部麻酔科学講座元講師萩原聡氏 研究活動に係る不正行為の疑義に関する調査結果について 平成 27 年 2 月 27 日 国立大学法人大分大学 【要約】 大分大学では、平成 24 年 4 月 3 日に文部科学省からの調査依頼を踏まえ設置された研究 不正調査委員会により本学医学部麻酔科学講座所属の元講師萩原聡氏(以下「萩原氏」と いう。 )の 19 編の指摘論文における 15 項目の疑義と萩原氏が著者(共著者を含む)となっ ている他の論文 44 編に対して調査を行った。 その結果、萩原氏が発表した 5 編の論文に関して、研究不正行為の事実があったと認め られたので公表する。調査委員会の調査内容については、以下のとおりである。 1)調査対象論文数:63 編(通報分 19 編,他の論文 44 編) 2)研究不正行為があると認定された論文数:5 編(捏造 2 編,改ざん 3 編) 3)萩原氏及び共著者の不正への関与:全て萩原氏単独による不正行為 他共著者の不正行為は認められなかった。 第1 経緯 1 研究不正調査委員会が設置されるまでの経緯 (1)研究不正に関する通報 平成 24 年 4 月 3 日に文部科学省から不正行為の疑義の調査依頼があった。 (2)研究公正委員会の開催 平成 24 年 5 月 15 日に第 1 回研究公正委員会が開催され、予備調査の報告を受け審 議した結果、研究不正調査委員会を設置して調査を行うことを決定した。 (3)研究不正調査委員会の設置 平成 24 年 7 月 23 日に国立大学法人大分大学研究不正調査委員会規程第 4 条に基づ き、学外委員 2 名を含む 13 名の委員が任命された。 2 研究不正調査委員会での審議 (1)平成 24 年 7 月 31 日:第 1 回研究不正調査委員会: これまでの経緯の説明があり、今後の調査の進め方等について討議した。 (2)平成 24 年 8 月 30 日:第 2 回研究不正調査委員会 告発内容の確認と告発内容に係わる調査資料の提出を萩原氏に要求することを決 定した。 1 (3)平成 25 年 1 月 11 日:第 3 回研究不正調査委員会 提出された資料の調査に基づいてヒアリング等の今後の進め方等について審議した。 (4)平成 25 年 3 月 5 日:第4回研究不正調査委員会 被告発者等から新たに提出された資料の取り扱いについて審議し、新たに提出され た資料を含め、調査を行うこととなった。 (5)平成 25 年 5 月 20 日:第 5 回研究不正調査委員会 新たに提出された資料を検証した結果を踏まえ、 「これまでの調査内容」について説 明があり, 「動物の出納状況」も含めてヒアリングを実施することとした。 (6)平成 25 年 5 月 30 日:第6回研究不正調査委員会 ヒアリングを実施し,その結果に踏まえて今後の調査の進め方等について審議を行 った。1)当日出席できなかった1名のヒアリング対象者に対し,後日,早急にヒア リングを実施すること,2)各対象者に対し, 「これまでの調査内容」に対する意見等 について,書面による提出を依頼すること,3)新たに提出された資料のDVDデー タのうち,内容が確認できなかったデータについて,書面による提出を依頼すること, ) 4)当日のヒアリング内容及び2) ,3)を踏まえた上で「これまでの調査内容」の修 正を行うこととした。 5 月 30 日に実施できなかったヒアリング対象者 1 名について,6 月 17 日にヒアリ ングを実施した。 (7)平成 26 年 12 月 16 日:第 7 回研究不正調査委員会 調査報告書(案)の審議を行い、研究公正委員会へ報告することが決定された。 第2 調査の実施及び解析方法 1 画像及びグラフに対する調査・解析方法 (1)画像に対する調査・解析方法 本調査にあたり、該当論文をジャーナル HP からダウンロードした。PDF 形式でダ ウンロードした論文から告発された画像をそれぞれ JPEG 形式で保存し、解析ソフト にて展開し、解析し評価した。画像の解像度が低く解析がしにくいものについては明 るさ・コントラストを調節することで画像を鮮明にした。 (2)グラフに対する調査・解析方法 グラフの解析方法は、解析ソフトで展開した図を「レベル補正」によって赤(R)、緑 (G)、もしくは青(B)を強調し色調補正した。この操作によって元の黒色のラインが赤、 緑もしくは青の単色のラインに変換した。類似であることが指摘されている画像につ いて、画像ごとに個別のレイヤーを加え、上下のレイヤーと完全に一致していれば、 画像の二色が重ね合わさり、同一の画像であると判断した。それぞれのレイヤーの結 合は、レイヤーの「結合プロパティ―」で「増殖(透過タスク)」を選択し、透過性 を持たせた。グラフの拡大と縮小は、グラフの縦軸もしくは横軸のスケールに合わせ 2 て行った。また、グラフの傾きが類似するものについては、一点のピークに合わせて 図を拡大、縮小しレイヤーを結合した。 (3)画像及びグラフの比較 画像は解析ソフトで展開し、画像を白黒にし、レベル補正によってレイヤーごとに 赤(R)もしくは青(B)を強調し色調補正した。その後、赤色に変色した画像があるレイヤ ーと青色に変色した画像があるレイヤーを重ね合わせ、拡大、縮小、回転、または反 転等の操作をし、比較した。レイヤーは「結合プロパティ―」で「増殖」を選択し、 透過性を持たせた。重ね合い一致する画像は、結合後は黒く表示される。 2 萩原氏及び関係者への事情聴取・提出資料等の解析の実施 (1)事情聴取 対象論文の筆頭著者、責任著者、last author に対して、以下のとおり事情聴取を実 施した。 平成 25 年 5 月 30 日及び 6 月 17 日に事情聴取 ① (1)対象論文の役割分担、(2)具体的な論文作成方法、(3)論文作成に使用した資料の保管 方法 (2)提出資料等の解析 ① 対象論文 19 編の画像及びグラフのダウンロードによる類似性の確認 ② 対象論文の提出された資料の解析 ③ 本学全学研究推進機構動物実験部門の動物出納帳による麻酔科学講座のラット購入 実績の調査 (3)萩原氏を著者(共著者を含む)とする他 44 編の調査 ① 画像及びグラフのダウンロードによる類似性の確認 第3 調査結果 1 不正行為の有無 対象論文 19 編の 15 項目の疑惑箇所及び萩原氏が著者(共著者を含む)となっている その他の 44 編に対する調査の結果、5 編について不正が認められた。 2 不正行為の内容と種類 対象論文 3 編については、提出された実験資料を基に解析した結果、画像の流用が行 われたもの考えられ、改ざんに該当すると判断した。 対象論文 1 編については,提出された実験資料を基に解析した結果、組織像を捏造し たものと判断した。 対象論文 1 編については、2011 年に掲載されており、本論文に関する生データや組織 標本は保存されているべきであるが、紛失した合理的な説明がないことにより、捏造と 3 判断した。 調査対象論文以外の萩原氏を著者(共著者を含む)とする指摘論文以外の 44 編につい ては、相互の類似性を有する画像及びグラフは認められなかった。 3 萩原氏及び共著者の不正への関与 本研究不正調査委員会では、2 編の論文における不正行為(捏造)及び 3 編の論文に おける不正行為(改ざん)のすべてを萩原氏が直接実行したものと判断した。他の共著 者については、不正行為は認められなかった。 4 研究不正行為が認定された論文 研究不正行為が認定された論文 5 編について、別表にまとめる。 5 当該分野への影響及び社会的影響 2013 年時点での学術雑誌のインパクトファクター(IF)及び当該論文の被引用数を別 表に示す。調査対象論文はいずれもインパクトファクターの付いた欧米の英文雑誌で、 国際的にある程度の評価を得ている学術雑誌であるが、主な研究領域は麻酔学や外科手 術領域の炎症疾患に限定している。 調査対象の学術雑誌のインパクトファクターは比較的低く、研究不正を認定した論文 の被引用件数も少ないため、当該分野の研究領域への影響は限定的であり、社会的影響 は軽微であると判断した。 研究不正を認定した5論文は撤回を要すると考える。 6 研究不正が発生した背景 2007 年より 2011 年の期間は萩原氏が中心となって研究を行っていたが、同時期に数 件の研究テーマを並行して行っており、実験データは萩原氏が中心となって管理してい た。かかる状況下では、データの混同や紛失が起こりうるものと思われた。今回の調査 では、研究不正と断定できるデータは組織標本の写真であったが、組織標本の作成は実 際に行われているのが確認されていることから、生データの適切な整理保存と解析がな されていなかったことが原因と結論した。 第4 講ずべき措置 1 公的研究費の取扱い 公的研究費の取扱いについては、資金配分機関の指導に基づき適切に対応する。 2 論文取り下げ 不正行為が認定された 5 編の論文について、取り下げが確実に講じられるように対応 4 する。 3 再発防止 国立大学法人大分大学では、 「大分大学における科学研究上の行動規範(平成 18 年 9 月 20 日制定) 」や「大分大学における公的研究費使用に関する行動規範(平成 23 年 2 月 28 日制定) 」を策定し研究者倫理向上のための啓発活動を行うとともに、 「大分大学にお ける研究活動に係る不正行為防止等に関する規程 (平成 19 年 10 月 1 日制定) 」を制定し、 不正行為の申し立て窓口や調査体制の整備、調査の手順等を確立しているが、今回のこ のような事案が生じたことは誠に遺憾である。研究不正が発生した要因を精査し、適切 な対策を講ずることが再発防止につながることであると確信する。従って、公正な研究 のより一層の徹底を図るため、次の方策を着実に実施することが重要であると考える。 1)今回の調査において、研究者のモラルの著しい欠如が浮き彫りになった。これを 受け、研究倫理に関する研修教育プログラムの拡充が重要であると考えられる。既に、 大学院医学系研究科の博士課程で研究倫理セミナーが開講されることになり、当該大学 院生はこれを受講しないと学位審査を受けられない仕組みに改めている。今後は、この ような研究倫理に関する教育を、学部学生や教員等へも広げるために「研究倫理教育責 任者」を設置し、全学的な取組みへと発展させる必要がある。研究倫理教育責任者を中 心とした研究倫理教育委員会(仮称)を編成し、教育内容を吟味して定期的な研究倫理 教育を実践するべきである。また、若手研究者にはメンターを配置することで研究倫理 教育の徹底を図ることが肝要である。 2)今回の調査において、実験ノートや資料の保管体制にも問題があることが明らか になった。研究の客観的事実を証明する実験ノート等を提出できない場合、その研究が 捏造であると疑われても反証することは困難である。本学では、研究に係る実験ノート や資料を一定期間保管する体制作りを検討している。大学院生には大学院修了時に、ま た、教職員(研究者)には研究が終了した時点に実験ノートや資料のコピー等を提出さ せ、大学が研究データを保管する。大学院生および教職員に研究データを提出させるこ とは、研究不正の抑止を期待できるだけでなく、将来に渡りその学位や研究論文を保護 することにもつながると考えられる。 3)また、共同研究における個々の研究者の役割分担・責任の所在が曖昧であること も明らかになった。本事案においては、研究を主導した萩原氏が複数の研究を同時進行 させ、一人でほぼ全てのデータを管理しており、主任教授や共同研究者によるデータの 吟味が十分になされていなかった。講座の主任教授は、講座内の研究活動の全容を把握 する立場にあり、研究不正行為が生じないようにする責務を負う。また大学は、組織と しての責任体制を確立して管理責任を明確化し、不正行為を事前に防止しなければなら ないと考えられる。 4)以上の方策をより実効性の高いものにするためには、本学の関係規定の改正が必 5 要である。平成 26 年 8 月に「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライ ン」が新たに大臣決定されたことを受け、これに対応する学内の規定改正を本年度中に 進める。 6 第5 研究不正調査委員会委員名簿 国立大学法人大分大学研究不正調査委員会委員名簿 設置年月日 平成24年7月23日 調査対象 平成24年3月30日付け 研究活動の不正行為に係る調査について 委員 国立大学法人大分大学研究不正調査委員会規程第4条第1号,第2号,第 3号,第4号,第5号,第6号) 委 員 所属・職名 氏 名 藤 岡 利 生 理事(委員長) 大 橋 京 一 2号委員(関連分野の教員) 医学部教授 小 野 克 重 2号委員(関連分野の教員) 医学部教授 鈴 木 正 志 3号委員(非関連分野の教員) 教育福祉科学部教授 山 下 3号委員(非関連分野の教員) 工学部教授 豊 田 昌 4号委員(研究公正委員会委員) 経済学部教授 安 岡 正 義 4号委員(研究公正委員会委員) 経済学部教授 城 戸 照 子 4号委員(研究公正委員会委員) 経済学部准教授 藤 村 賢 訓 1号委員 (理事(医療・研究担当) ) 理事(委員長) 1号委員 (理事(研究・国際・医療担当) ) 備 考 平成25年9月30日 理事退任 平成25年10月1日 理事就任 茂 宏 5号委員(研究協力課長) 課長 千々松 範 朗 5号委員(研究協力課長) 課長 比江島 孝 司 文 彦 平成26年3月31日 退任 平成26年4月1日 就任 平成26年3月31日 退任 平成26年4月1日 就任 6号委員(学長が必要と認める者) 医学部教授 濱 田 6号委員(学長が必要と認める者) 医学部教授 西 園 6号委員(学長が必要と認める者) 医学部教授 三 股 浩 光 6号委員(学長が必要と認める者) 公立大学法人大分県立 看護科学大学教授 市 瀬 孝 道 外部委員 6号委員(学長が必要と認める者) 国立大学法人 佐賀大学医学部教授 徳 永 藏 外部委員 平成25年4月1日より 佐賀大学名誉教授 7 晃 別表 番号 1 2 3 4 5 著者名 Hagiwara S, Iwasaka H, Matsumoto S, Noguchi T. Hagiwara S, Iwasaka H, Matsumoto S, Noguchi T, Yoshioka H. Hagiwara S, Iwasaka H, Noguchi T. Hagiwara S, Iwasaka H, Hasegawa A, Hidaka S, Uno A, Ueo K, Uchida T, Noguchi T. Hagiwara S, Iwasaka H, Hasegawa A, Hidaka S, Uno A, Kaori U, Uchida T, Noguchi T. 論文タイトル名 Introduction of antisense oligonucleotides to heat shock protein 47 prevents pulmonary fibrosis in lipopolysaccharide-indu ced pneumopathy of the rat. Coexpression of HSP47 gene and type I and type III collagen genes in LPS-induced pulmonary fibrosis in rats. Nafamostat mesilate inhibits the expression of HMGB1 in lipopolysaccharide-indu ced acute lung injury. Filtration Leukocytapheresis Therapy Ameliorates Lipopolysaccharide-Ind uced Systemic Inflammation in a Rat Model. Continuous Hemodiafiltration Therapy Ameliorates LPS-Induced Systemic Inflammation in a Rat Model. 発表雑誌名、巻号、 不正の種類 ページ(出版年) 論文取り 下げにつ いて IF 被引 用数 Eur J Pharmacol. 564. 174-80(2007) 改ざん 取り下げ を要する 2.684 11 Lung 185 31-7(2007) 改ざん 取り下げ を要する 2.171 9 J Anesth. 21 164-70(2007) 改ざん 取り下げ を要する 1.117 12 J Surg Res. 171 777-82(2011) 捏造 取り下げ を要する 2.121 3 J Surg Res. 171 791-6(2011) 捏造 取り下げ を要する 2.121 3 8
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