NMR による物性研究~Eu 化合物を中心とした物性研究~
琉球大理 二木治雄, 比嘉野乃花, 黒島裕子, 通事樹, 與儀護,
仲村愛, 辺土正人, 仲間隆男, 大貫惇睦
神戸大理
A
播磨尚朝 A
NMR Studies of Eu intermetallic compound
Univ. of the Ryukyus and Kobe Univ.A
H. Niki, N. Higa, H. Kuroshima, T. Toji, M. Yogi,
A. Nakamura, M. Hedo, T. Nakama, Y. Ōnuki and H. HarimaA
希土類元素の Eu を含む金属間化合物は,Eu が 2 価(J = S = 7/2, L = 0)の状態が安定で
Yb 化合物に似ている。他の希土類化合物は 3 価が安定なので,Eu と Yb 化合物の格子定数
はランタノイド収縮から大きくずれているのが特徴である。しかし,Eu 化合物の場合,2
価と 3 価の電子状態のエネルギー差が小さいために,温度や外部磁場や圧力で2価の電子
状態を 3 価の電子状態に近い状態に価数転移させることが可能である。また,その電子状
態は重い電子状態になっている場合が多い。2 価の Eu は磁気モーメントを持ち,Ruderman,
Kittel, Kasuya, Yoshida (RKKY)相互作用で磁気秩序化する。3 価の Eu は,J = 0, S = L = 3 で
磁気モーメントを持たず,非磁性状態にある。EuNi2P2 は,重い電子状態を示す物質として
知られているが,室温では,Eu の価数は約 2.2 価であるが,降温によって低温では約 2.5
価程度まで変化し,3 価の電子状態に近づいている[1]。これは,RKKY 相互作用とモーメ
ントをスクリーニングする近藤効果の二つの相互作用が拮抗することで,反強磁性状態か
ら重い電子状態へ移り変わったことに対応すると考えられる。
Eu 化合物の降温過程や外部磁場や圧力を加える過程で生じる価数変化や重い電子のよ
うな強相関状態の発現機構を明らかにするためには,先ず,Eu が 2 価の状態の物性を明ら
かにする必要がある。これまで、重い電子系や超伝導が見出された物質の中には、BaAl4
型結晶構造(空間群 I4/mmm)の派生形が多い,そこで,我々は,はじめに BaAl4 型結晶構造
の Eu 金属間化合物を中心に研究を進めることにした。
EuGa4 は,図 1 のような体心正方晶の BaAl4 型結晶構造を示し,Eu は,体心正方晶のコ
ーナーとセンターに位置する [2]。Ga は結晶学的に異なる 2 つのサイトに存在する。EuGa4
は,TN = 16 K 以下で反強磁性(AFM)を示し,Eu の磁気モーメントはほぼ a 軸方向を向き,
ab 面内では強磁性(FM)的に配位した Eu 層が c 軸方向に連なりに AFM を示す。また,AFM
相において外部磁場を約 7 T 以上にすると FM 相に転移する。TN = 16 K 以上では,常磁性
(PRM)を示す。PRM 相では, 磁化率 χ は,キュリーワイス則 χ = C/(T – θp)を示し,θP は+3 K
で強磁性的なカップルをしていると考えられる。また,常磁性モーメントの大きさ µeff は
7.86 µB で Eu は 2 価(7.94 µB)であると考えられる。Ga の自己フラックス法で育成した純良
な EuGa4 単結晶を粉末化し,AFM・PRM 状態での Ga と Eu の NMR 測定を行った [3]。Eu
は中性子の吸収率が良いため,中性子回折による研究に困難が生じる。これらを補完する
ためにも NMR による微視的研究は重要であると考えられる。
(1) AFM 相での 153Eu と Ga のゼロ磁場 NMR
(i) AFM 相の 153Eu の信号を見出した (図 2)。この磁気モーメントを持つ 2 価の Eu の信号
をとらえたのは,パルス NMR 法では初めてと考えられる。
(ii) AFM 相での Ga と Eu のゼロ磁場 NMR から Eu は 2 価であり,その磁気モーメントは
ab 面内にあること,Ga と Eu の NQI の主軸は c 軸方向を向くことを見出した。Eu 核で
の内部磁場 Hin は 27.09 T,核四重極相互作用(NQI)の大きさを示す核四重極共鳴周波数
νQ は 30.4 MHz であった。内部磁場は,メスバウワーの測定とも一致する。Ga の 2 サ
イトのうちサイト II の Ga の信号を見出した(図 3)。Ga 核での内部磁場 Hin は 3.05 T,
νQ は 5.1 MHz であった。
(2) 常磁性状態では,サイト II の Ga 信号を見出した。Ga のナイトシフト K は, Eu の f 電子に
よる RKKY 相互作用によって,温度が下がるにつれて, 負側に大きくシフトし,その温度変
化はキュリーワイス温度が θP = + 3 K のキュリーワイス則で説明でき,磁化率 χ の温度変化と一
致する(図 4)。ナイトシフトは異方性を示し, 磁化率との関係を与える K-χ プロットから,等方的
な hypefinefield Hhf_iso は -6.5 kOe/µB,は非等方的な Hhf_aniso は-0.36 kOe/µB であった。
EuGa4 と同様な結晶構造を示す EuAl4 は,TN = 16 K 以下で反強磁性を示し,磁化容易軸
は [001] 方向である。常磁性相では,磁化率はキュリーワイス則 χ = C/(T – θP)に従い,θP
は+ 14 K で,有効磁気モーメント µeff は 8.02 µB である[3]。また、EuAl4 は,150 K 付近で
CDW 転移を起こす。EuAl4 の単結晶を粉末化し,反強磁性状態では 153Eu のゼロ磁場 NMR
を測定した。
153
Eu の信号をパルス法 NMR で見出した(図 5)。153Eu の場合,通常 5 本のピークが見出さ
れるが,今回の測定では,5 本以上のピークが観測され,2 組のスペクトルが重なっている
事が分かった。解析によって電場勾配の z 主軸と内部磁場のなす角 θ は,0°と 90°の 2 組あ
ると考えられる。Eu の核四重極相互作用の主軸は c 軸方向を向くことから,Eu の磁気モ
ーメントは c 軸に平行なものと,ab 面内にあるものが存在することが分かった。スペクト
ルの解析から Eu 核での内部磁場の大きさはそれぞれ,27.86 T(θ=0º),と 28.09 T(θ=90º),
核四重極周波数νQ の大きさは 27 MHz(θ=0º)と 27.8 MHz(θ=90º)であった。
次に,EuGa4 と EuAl4 の基礎物性を研究するために,同一の結晶構造をもつ非磁性の SrGa4
と SrAl4 についての NMR や NQR の測定を行った。
SrGa4 の Ga NMR では,核四重極相互作用が存在するが,核スピン I = 3/2 に対応した,
典型的な粉末パターンが観測されず,実際には図 6 のような鋭い共鳴線が観測された[4]。
その解析から,試料が一方向に配向していることが分かった。これは磁化率に異方性があ
ることを示し,外部磁場と ab 面が平行で,磁化容易軸が ab 面内にあることを示唆してい
る。
SrAl4 の粉末試料と単結晶試料の 300 K における Al NMR スペクトルを図 7 に示す。粉末
試料のスペクトルでは,H0 ⊥ VZZ に対応するサテライトピークが強調されていることがわ
かる。これは試料が配向していることを示し,磁化率に異方性があることを示している。
このことを確認するために,単結晶の ab 面に外部磁場が平行になるように単結晶試料をセ
ットし,Al NMR を行った(図 7)。粉末試料のスペクトルのピークと単結晶のスペクトルの
ピークの周波数がよく一致することが分かった。結晶構造から VZZ // c 軸であることをふま
えて解析を行った結果,磁化容易軸が ab 面内にあることが見出された。CDW 転移を研究
するために,単結晶を用いて Al(II)の第一サテライトのスペクトルを 300 ~ 120 K の温度範
囲で測定した(図 8)。300 K では 1 本であったスペクトルが,TCDW = 242 K 付近から温度が
下がるにつれて, 2 つに分かれる。このスペクトルの変化は,CDW によって原子核が変
調を受けるためである。
上記のように,2 価の Eu 化合物である EuGa4 と EuAl4 を中心とした微視的見地からの
NMR による研究によって,様々な物性が明らかにされた。今後,3 価の Eu 化合物も含め
た研究を通して,より多くのことを NMR によって明らかにしていきたい。
[1] Y. Hiranaka et al.:J. Phys. Soc. Jpn., 82 (2013) 083708.
[2] J. H. Wernich et al.: J. Phys. Chem. Solids 28 (1967) 271.
[3] A.Nakamura et al.: J. Phys. Soc. Jpn. Conf. Proc. 3 (2014) 011012.
[4] H. Niki et al.: Hyperfine Interactions to be published (2014).
図 1. (a) EuGa4 の結晶構造
(b) EuGa4 の磁気構造
EuGa4 4.2 K
Eu : ZF NMR
Intensity (arb.units)
153
100
120
140
Frequency [MHz]
図 2.
EuGa4 の 153Eu ゼロ磁場 NMR スペクトル
160
EuGa4
Ga_ZF NMR
T =4.2 K
28
30
32
34
Frequency [MHz]
EuGa4 の 69Ga のゼロ磁場 NMR スペクトル
図 3.
0
θP = + 3.0 K
Kaniso
Knight shift [%]
Intensity (arb.units)
69
-5
θP = + 3.0 K
-10
Kiso
69
-15
-20
図 4.
71
50
100
150
Kiso
Kaniso
Kiso
Kaniso
Ga
Ga
200
250
Temperature [K]
EuGa4 のナイトシフトの温度依存性
300
EuAl4 4.2 K
153
Intensity (arb.units)
Eu : ZF NMR
80
100
120
140
160
180
Frequency [MHz]
図 5.
EuAl4 の 153Eu のゼロ磁場 NMR スペクトル
Ga (II)
69
Intensity (arb.units)
Ga
4.2 K
60
Ga (I)
62
64
66
68
Frequency [MHz]
図 6.
70
SrGa4 の 69Ga NMR スペクトル
72
T = 300 K
71.5
Intensity (arb.units)
Intensity (arb.units)
SrAl4
72.0
72.5
SrAl4
H0 // ab plane
T = 300 K
73.0
71.5
72.0
Frequency [MHz]
Frequency [MHz]
(b) 単結晶
(a) 粉末試料
図 7. SrAl4 の T = 300 K での Al NMR スペクトル
SrAl4
300 K
240 K
230 K
220 K
200 K
180 K
160 K
120 K
71.96
72.5
71.98
72.00
72.02
72.04
72.06
Frequency [MHz]
図 8. 単結晶の Al(II)第一サテライトの
スペクトルの温度依存性
73.0