塩化メチル/Methyl chloride

急性曝露ガイドライン濃度 (AEGL)
Methyl chloride (74-87-3)
塩化メチル
Table
AEGL 設定値
Methyl chloride
74-87-3
(Final)
ppm
10 min
30 min
60 min
4 hr
8 hr
AEGL 1
NR
NR
NR
NR
NR
AEGL 2
1,100
1,100
910
570
380
AEGL 3
3,800
3,800
3,000
1,900
1,300
NR: データ不十分により推奨濃度設定不可
設定根拠(要約):
塩化メチルは、ほぼ無臭の無色の気体で、中程度の引火性と爆発性がある。現在、製造され
た塩化メチルの大半は、中間体化学物質として、シリコーン、農薬、メチルセルロース、第
四級アミン、ブチルゴム、四エチル鉛などの製造に使用されている。かつては冷却システム
に使用され、偶発的な曝露によって死者も出たことがあった。1880 年代後半には、塩化メチ
ルは、全身麻酔薬や局所麻酔薬としてのみ使用されていた。ヒトに対する毒性のデータは、
偶発的曝露や職業曝露、臨床試験によるものが得られた。動物(主にラットとマウス)を用い
た試験は、ほとんどが反復曝露によるものであった。致死および亜致死の濃度、神経毒性、
生殖・発生への影響、遺伝毒性、発がん性に関するデータが得られた。塩化メチルの代謝は速
い。ヒトや動物における試験によって、急性曝露および慢性曝露の標的が、中枢神経系であ
ることが示されている。動物における試験では、腎臓や精巣など別の器官についても、反復
曝露による影響が示されている。
臨床試験では、塩化メチルに 200 ppm の濃度で 3~3.5 時間単回曝露された健康な成人におい
ても(Putz-Anderson et al. 1981a,b)、150 ppm の濃度で 1 日 7.5 時間、2 日間反復曝露された運
動中の成人においても(Stewart et al. 1980)、有害な神経毒性作用は認められていない。被験者
には、塩化メチルの代謝が「速い」人と「遅い」人が両方含まれていた。これら 2 件の曝露では、
生理学的、神経学的、行動的、臨床的な症状はいずれも引き起こされていない。また、それ
ら 2 つの濃度では、臭気が明確に認識されないため、被験者は、対照日と曝露日を区別する
ことができていなかった。いずれの曝露においても、AEGL-1 の規定に整合する一過性で軽
度の影響を生じなかった。塩化メチルは、神経毒性を生じる可能性のある濃度においても、
明確な臭いや警告的特性を示さないため、AEGL-1 値の設定は推奨されない。
1
AEGL-2 値は、ラットを用いたいくつかの試験に基づき、さらに、1 件のモニタリング調査を
その裏付けとした。AEGL-2 値は、1,500 ppm で 1 日 6 時間、1 日曝露(Dodd et al. 1982)または
90 日間曝露(Mitchell et al. 1979)されたラットで、臨床徴候が認められなかったことを出発点
とした。化学物質の血中取り込み率は、げっ歯類のほうがヒトよりも高いため(Landry et al.
1981, 1983; Nolan et al. 1985)、種間不確実係数として 1 を適用した。塩化メチルを代謝する速
度には個人差があるが、この差は毒物学的に有意ではないと思われる(Nolan et al. 1985)。ヒ
トの集団での取り込みと代謝の差に関し、種内不確実係数は 3 で十分であると判断した。式
Cn × t = k を用い、短い曝露時間については n = 3(デフォルト値)、長い曝露時間については n =
1 として、時間スケーリングを行った。導出の根拠とした試験での曝露時間が長かったため、
10 分間値は 30 分間値と同じ値とした。MacDonald(1964)のモニタリング調査によると、1,000
~2,000 ppm での偶発的曝露と、2,000~4,000 ppm での反復曝露において、作業者に、かすみ
眼、浮動性めまい、頭痛、および悪心が、一過性に現れている。曝露時間は報告されていな
いが、就労時間全体を通して曝露されたものと思われる。この職業曝露モニタリング調査に
おける塩化メチルの平均濃度(1,500 ppm)に、種内不確実係数として 3 を適用すると、先に導
出した AEGL-2 の 4 時間値と 8 時間値に近い値(500 ppm)が得られる。
致死データは、特に感受性の高い種であるマウスの半数致死データ(LC50)しか得られなかっ
た。2 件の試験(Morgan et al. 1982; Chellman et al. 1986a)から、ラットを 5,000 ppm の塩化メチ
ルに 1 日 6 時間曝露しても、最初の 4 日間に死亡がみられなかったことが報告されている。
5,000 ppm での 6 時間の単回曝露を、致死の閾値の出発点として選択した。AEGL-2 値を導出
した場合と同じように、種間不確実係数として 1、種内不確実係数として 3 を適用した。式
Cn × t = k を用い、短い曝露時間については n = 3、長い曝露時間については n = 1 として、時
間スケーリングを行った。導出の根拠とした試験での曝露時間が長かったため、AEGL-3 の
10 分間値は 30 分間値と同じ値とした。
Table に、導出した AEGL 値を示す。
----------------------注:本物質の特性理解のため、本文書の最後に、参考として国際化学物質安全性カード(ICSC)を
添付する。
2
国際化学物質安全性カード
ICSC番号:0419
塩化メチル
塩化メチル
METHYL CHLORIDE
Chloromethane
Monochloromethane
(圧力容器)
CH3Cl
分子量:50.5
CAS登録番号:74-87-3
RTECS番号:PA6300000
ICSC番号:0419
国連番号:1063
EC番号:602-001-00-7
災害/
暴露のタイプ
火災
爆発
一次災害/
急性症状
応急処置/
消火薬剤
予防
引火性が高い。
裸火禁止、火花禁止、禁煙。
加熱すると、破裂の危険を伴う圧
力上昇が起こる。
気体/空気の混合気体は爆発
性である。
身体への暴露
供給源を遮断する;それが不可
能でかつ周辺に危険が及ばなけ
れば、燃え尽きるにまかせる;その
他の場合は、水噴霧を用いて消
火する。
密閉系、換気、防爆型電気およ 火災時:水を噴霧して圧力容器
び照明設備。
を冷却する。
防爆用工具を使用する。
安全な場所から消火作業を行
う。
作業環境管理を厳密に!
吸入
よたつき歩行、めまい、頭痛、吐
き気、嘔吐、痙攣、意識喪失。
「注」参照。
換気、局所排気、または呼吸用 新鮮な空気、安静。人工呼吸が
保護具。
必要なことがある。医療機関に連
絡する。
皮膚
吸収される可能性あり!
液体に触れた場合:凍傷
保温用手袋、保護衣。
「皮膚」参照。
安全ゴーグル、顔面シールド、ま
たは呼吸用保護具と眼用保護
具の併用。
眼
凍傷の場合:多量の水で洗い流
し、衣服は脱がせない。
経口摂取
漏洩物処理
貯蔵
・危険区域から立ち退く!
・耐火設備(条件)。
・専門家に相談する!
・床面に沿って換気。
・換気。
・液体に向けて水を噴射してはならな
い。
・(個人用保護具:自給式呼吸器付完
全保護衣)。
包装・表示
・EU分類
記号 : F+, Xn
R : 12-40-48/20
S : (2-)9-16-33
・国連危険物分類(UN Haz Class):
2.1
重要データは次ページ参照
ICSC番号:0419
Prepared in the context of cooperation between the International Programme on Chemical Safety & the
Commission of the European Communities © IPCS CEC 1993
国際化学物質安全性カード
ICSC番号:0419
塩化メチル
重
要
デ
|
タ
物理的性質
物理的状態; 外観:
無色の液化ガス
暴露の経路:
体内への吸収経路:吸入、経皮
物理的危険性:
この気体は空気より重く、地面あるいは床に沿って
移動することがある;遠距離引火の可能性があ
り、天井が低い場所では滞留して酸素欠乏を引
き起こすことがある。「注」参照。
吸入の危険性:
容器を開放すると、空気中でこの気体はきわめて
急速に有害濃度に達する。
・沸点:-24.2℃
・融点:-97.6℃
・比重(水=1):0.92
・水への溶解度:0.5 g/100 ml(25℃)
・蒸気圧:506 kPa(21℃)
・相対蒸気密度(空気=1):1.8
・引火点:引火性ガス
・発火温度:632℃
・爆発限界:8.1~17.4 vol%(空気中)
・log Pow (オクタノール/水分配係数):0.91
短期暴露の影響:
この液体は凍傷を起こすことがある。中枢神経系
化学的危険性:
に影響を与えることがある。意識を喪失することが
燃焼すると分解し、塩化水素、ホスゲンを含む有 ある。許容濃度をはるかに超えると、肝臓、心血
毒で腐食性のフュームを生じる。粉末アルミニウ
管系、腎臓に障害を生じることがある。医学的な
ム、粉末亜鉛、三塩化アルミニウム、エチレンと激 経過観察が必要である。
しく反応し、火災および爆発の危険をもたらす。湿
長期または反復暴露の影響:
気の存在下で多くの金属を侵す。
中枢神経系に影響を与え、行動試験を用いた観
許容濃度:
察に影響を生じることがある。動物試験では人の
TLV:50 ppm(TWA), 100 ppm(STE); (皮膚); A4 生殖に毒性影響を及ぼす可能性があることが示
(人における発がん性が分類できていない物質)
されている。
(ACGIH 2004)
MAK:50 ppm 100 mg/m3; ピーク暴露限度カテ
ゴリー:II(2); 皮膚吸収(H); 発がん性カテゴリー:
3B; 妊娠中のリスクグループ:B; (DFG 2004) (訳
注:詳細は DFG の List of MAK and BAT
values を参照)
環境に関する
データ
注
・中毒患者に対しては48時間は注意深く経過観察を行わなければならない
・区域内に入る前に酸素濃度を測定する。
Transport Emergency Card(輸送時応急処理カード):TEC(R)-20S1063 または 20G2F
NFPA(米国防火協会)コード:H(健康危険性)2;F(燃焼危険性)4;R(反応危険性)0;
付加情報
ICSC番号:0419
更新日:1999.03
塩化メチル
© IPCS, CEC, 1993
国立医薬品食品衛生研究所