GC/MS の材料開発への応用 Application for material development by GC/MS 樋口哲夫 Tetsuo HIGUCHI 日本電子株式会社 〒100-0004 東京都千代田区大手町 2-1-1 大手町野村ビル 13 階 Tel:03-6262-3568, E-mail: [email protected] GC/MS is bearing the important role in material development. Especially the combination of thermometric analysis (TG) and mass spectrometer (MS) can acquire the detailed material information by the physical information acquired from thermometric analysis and the mass information acquired from MS. We started the development of the TG-MS system in 1994. This report describes the various applications of TG-MS. はじめに 熱分析( TG/DTA、マルチショットパイロライザー、キューリーポイントパイロライザ ーなど)は、材料のみならず薬物などの研究開発部門、品質管理部門等、幅広い分野で不可 欠な分析手法として利用され、日本の科学技術・製造技術の向上に貢献している。そのなか でも TG/DTA は、長い歴史を有し、試料の加熱による重量変化と示差熱分析(DTA)による、 発熱・吸熱など物理情報を取得可能であることから、標準的な熱分析装置として活用されて いる。しかしながら、重量減少に伴い発生する物質の同定については MS との接続を必要と する。1994 年、我々はこの二種の異なる装置を接続し、試料の詳細を得ることが可能な TG/DTA-MS の開発に着手した 1)。 装 置 図1に装置の構成を示す。TG/DTA は日立ハイテクサイエンス社製 STA7200、GC/MS は日 本電子社製ガスクロマトグラム四重極質量分析計を用いた。加熱炉の温度上昇に伴い発生 したガスは、加熱炉先端に装着されたオープンスプリットに挿入されたブランクチューブ (内径 0.25 mm、長さ 2 m)を介し、MS の真空と大気圧の差圧により移動する。キャ リアガスの移動量は、3~10 ml/min である。 トランスファライン 3~10ml/min ブランクチューブ スプリット 100~200ml/min TG/DTA Q1050GC 図1 TG/DTA-MS の構成 定量性の検討 TG/DTA の標準物質であるシュウ酸カルシウム約 1 mg を用い、キャリアガスにヘリウムを 用い、連続 3 回の測定を行った。加熱炉の温度上昇により三段の重量減少で発生する水(m/z 18)、一酸化炭素(m/z 28)および二酸化炭素(m/z 44)の抽出イオンクロマトグラムの面 積(重量補正)について変動係数を求めた(表1参照)。 表1 シュウ酸カルシウムの再現性(重量補正) 水(m/z 18) CO(m/z 28) CO2(m/z 44) 1 1031749 2136218 7283340 2 1258049 2296317 7810675 3 1200353 2071639 7485713 Av. 1163384 2168058 7485713 σ 96014 94447 218173 変動係数(%) 8.3 4.4 2.9 各成分の変動係数は、水 8.3%、CO 4.4%、CO2 2.9%であり概ね良好であり、定量的な取 り扱いが可能であることが分かった。 水は CO と CO2 に比べやや再現性に欠ける。この傾向は、TG/DTA と MS の接続に用いるブラ ンクチューブの内径を細くすると(キャリアガスの MS への導入量が減少)顕著になる傾向 が見られた。 酸化雰囲気における分析 分析対象物の大気圧下における挙動について知見を得たい場合、酸化雰囲気下における分 析の可否は重要である。図 2 にシュウ酸カルシウムを酸化雰囲気で測定した結果を示す。キ ャリアガスにはヘリウム:酸素=4:1 の混合ガスを用いた。 136℃ TG 470℃ 抽出イオンクロマトグラム 656℃ (m/z 18) 抽出イオンクロマトグラム(m/z 44) DTA Scan モード (m/z 10 - 800) [スペクト ル] 7 01-295 BP = 1 8[3 71 10] TIC = 553 98 R.T = 11: 45 18 3.0E+0 4 136℃での発生成分のマススペクト 2.0E+0 4 1.0E+0 4 252 0.0E+0 0 m/z--> 100 [スペクト ル] 200 300 2 673-1956 400 BP = 500 600 4 4[5 76 20] 700 TIC 800 = 644 41 R.T = 44: 37 44 4.0E+0 4 470℃での発生成分のマススペクト 2.0E+0 4 0.0E+0 0 m/z--> 100 [スペクト ル] 200 300 400 3 746-3182..3 187 500 BP = 600 700 4 4[1 28 10] 800 TIC = 169 89 R.T = 01: 02: 3 44 1.0E+0 4 656℃での発生成分のマススペクト 5.0E+0 3 738 413 141 254 444 478 536 562 649 696 72 117 226 300 327 344 372 394 497 515 601 796 0.0E+0 0 m/z--> 100 200 300 400 500 600 700 800 拡大図 m/z 18 スペクト ル] 7 01 18 .0E+0 4 .0E+0 4 .0E+0 4 .0E+0 z--> 0 スペクト 100 ル] 2 2 67 44 m/z 44 .0E+0 4 .0E+0 4 .0E+0 z--> スペクト 0 100 ル] 2 3 74 44 m/z 44 .0E+0 4 .0E+0 3 117 141 72 .0E+0 0 z--> 100 2 図2 酸化雰囲気におけるシュウ酸カルシウムの TG/DTA-MS 測定結果 3 ヘリウムを含む不活性雰囲気下における測定では、シュウ酸カルシウムの TG/DTA 情報は、 三段階の重量減少は全て吸熱を示す。それに対し、酸化雰囲気下の測定では、二段目の重量 減少で発生する CO が酸化したと推定される発熱現象が観測された。MS の測定結果において も CO2 の質量スペクトルが観測され、酸化反応が進行したことが確認された。 応用例 酸化雰囲気下における TG-MS による臭素化難燃剤含有量の異なる ABS 樹脂の分析 臭素化難燃剤の添加量が異なる標準試料(ABS 樹脂:PBDE 1000 wt.ppm=3.71 mg および 98000 wt. ppm=4.07 mg)を実験に供した。ABS 樹脂を含む製品が我々の生活空間で燃焼す ることを再現するため、酸化雰囲気( 酸素:ヘリウム= 1:4)を用い分析を行った。 TG 条件は、60℃- 15℃/分 -> 1000℃(5 分保持)とし、キャリアガス流量は PBDE 1000wt ppm=120 mL/min,98000 wt.ppm = 140 mL/min とした。スプリット比が変化しないと仮定し た場合、ほぼ同一発生ガス量が質量分析計に導入される。MS 条件は、高濃度イオン源を用 い、スキャン範囲 m/z 10~1000 を一秒繰り返しで測定を行った。図 3 に TG/DTA-MS で観測 された PBDE の質量スペクトルを示す。臭素の個数を表すスペクトルパターンが明瞭に観測 された。 臭素 6 個を含むフラグメントイオンを用い、重量減少と PBDE の挙動を検討した。 C12 OBr10 PBDE の一般構造式 図3 ABS 樹脂(PBDE Decabromodiph ノミナル質量: 950 1000 wt.ppm)から検出された PBDE の質量スペクトル m /z 104 = Styrene monomer DTG TG m /z 641 Gain x 10 TG m /z 104 = Styrene monomer m /z 641 DTG 図4 ABS 樹脂(PBDE 1000 wt.ppm 上、98000 wt.ppm 下)の TG/DTA-MS 結果 TG/DTA-MS の結果から、PBDE を大量に含む ABS 樹脂は 1000 wt.ppm に比べ比較的低温で 重量減少が観測されることが分かった(図 4)。その際、重量減少に伴い発生している物質 は大過剰に添加されている PBDE ではなく、スチレンモノマーであることが確認された。 以上、TG/DTA-MS はそれぞれの装置から得られる異なる情報を補完し合うことにより、試 料に関する詳細な情報を取得可能であることが分かった。 参考文献 1) 小野寺 潤、市村 裕、他、質量分析連合討論会要旨集、86-87(1995)
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