東北沖日本海溝域の地震発生地層記録: 過去の地震の最良の地層記録はどこに保存されているか? ○池原 研・宇佐見和子(産総研),金松敏也・中村恭之・小平秀一(海洋研究開発機構)・ Michael Strasser(ETH, Zurich) 2011 年東北地方太平洋沖地震では,震源近傍の日本海溝底に大きな地形変化があったことが報告さ れ(Fujiwara et al., 2011, Science) ,構造運動とそれに関連した斜面の地すべりがこの変化を引き 起こしたと考えられた(Kodaira et al., 2012, Nature Geosci.; Strasser et al., 2013, Geology). また,この近傍の日本海溝底では,2011 年の地震によって堆積したイベント堆積層が確認されている (Oguri et al., 2013, Sci. Rep.).これらは,日本海溝底の堆積物に地震の記録が残されている可 能性を示唆するが,東北沖日本海溝域のどこにどのような地震イベント堆積層が堆積し,保存されて いるかはまだよく分かっていない. 我々は,2011 年の地震後から,日本海溝底から前弧域にかけての東北沖海底堆積物中の過去の地震 記録の探索を行ってきた( 「みらい」MR12-E01, 「ゾンネ」SO219A, 「なつしま」NT13-02 及び NT13-19, 「新青丸」KS-14-16,「よこすか」YK14-E01 航海).また,日本海溝軸周辺の詳細地質構造の把握のた め高分解能反射法地震探査も実施してきた.これらの調査はまだ継続中であり,日本海溝の全域をカ バーできていないが,これまで得られた堆積物試料と反射断面記録をあわせると,過去の地震記録を 細粒タービダイトとして保存している堆積物として,以下の3つが候補としてあげられる.1)日本 海溝軸部の海盆埋積堆積物,2)沈み込む海洋プレート上のグラーベン埋積堆積物,3)海溝陸側斜 面下部の平坦面(mid slope terrace: MST)上の小海盆埋積堆積物. 日本海溝底の海底地形は,海溝軸にやや斜交した伸長軸をもつ沈み込む海洋プレートのホルスト−グ ラーベン構造の凹凸に対応した小海盆の連なりで特徴づけられ,これらの小海盆には水平によく成層 した堆積層が認められる.このような音響的層相はタービダイトによる埋積を想像させる.実際,い くつかの海盆から採取されたコアには厚いタービダイト泥をもつ細粒タービダイトの累重が確認され ている.タービダイト間には生物擾乱を受けた半遠洋性泥が堆積し,そこには火山灰層が挟在し,良 好な時間目盛を与えている.いくつかの小海盆では,成層した音響的層相の中にカオティックな層相 が確認できることがあり,斜面崩壊堆積物が時折挟在することを想像させる.以上の反射断面記録の 層相と堆積物採取結果は,海溝域の小海盆埋積物が過去の地震を細粒タービダイトとして記録してい る可能性が高いことを示唆する.過去の地震をきちんと記録しているもう一つの候補地は,斜面域の 平坦面である MST である.ここから採取された堆積物コアにも多数の細粒タービダイトが挟在してお り,東北地域で報告されている過去の津波記録と整合的な結果が得られている(宇佐見ほか参照). これらの場所が過去の地震をよく残している理由としては,1)細粒タービダイトが繰り返し堆積 しやすい地形を有していること,2)イベント堆積物を効果的に覆うだけバックグラウンドの堆積速 度が速いこと,3)速い堆積速度のため,地震の度ごとに斜面に堆積した未固結堆積物が再移動でき ること,4)水深が深く,底生生物の活動が小さいので,生物擾乱によるイベント層の破壊が浅海域 よりも小さいこと,があげられる.今後,これらの場所の詳細な調査を行うことで,東北沖日本海溝 域での地震発生履歴がより詳細に明らかになることが期待される.
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