認知症の人を支える 取 組 事 例 集

認知症について学び始めた方へ
認知症の人を支える
取
組
事
埼玉県のマスコット
例
集
コバトン
埼玉県福祉部高齢介護課
【埼玉県認知症地域支援体制構築モデル事業推進会議】
彩 の国
埼 玉 県
はじめに
認知症の人(認知症自立度Ⅱ以上)の約 50%は在宅で日常生活を送りながら地域で
生活しております。
認知症の人がその人らしく地域で生活していくためには、まず正しく認知症の事を理
解して、認知症に対する偏見をなくす努力が求められます。
特に認知症の初期は、日常行動では認知症と思われずに、一般社会で普通に生活をし
ておりますが、本人は認知機能障害の進行に従って様々な不安、戸惑いなどを持ちなが
ら生活しております。
認知症は初期に発見し正しい対応をすることが大切で、的確な対応をとれば後に発生
する行動心理症状(BPSD)を軽減することが可能であり、その結果認知症の人と介
護者の生活の質(QOL)改善に役立つと思われます。
認知症の人の行動範囲は広いために、地域において認知症の人と家族を支える支援体
制作りが必要となってきました。そこで埼玉県や各市町村では、地域のあらゆる職種の
人々に認知症サポーター(認知症について正しく理解し、認知症やその家族を温かく見
守る応援者)養成講座を受講していただき、認知症の人への支援の輪を広げています。
認知症の地域の支え手である認知症サポーターの県内数は平成23年3月末現在で
およそ7万5千人となり、医師や介護の専門職だけでなく、認知症の方やご家族を支え
る地域支援の体制が整ってきています。
この事例集は、認知症についての基礎的なことを学んだが、もっと認知症について学
びたいとお考えの方に読んでいただくことで、認知症の方を支える地域力をアップする
ためにつくられたものです。
最後に、本書の作成に協力して事例を紹介していただいた事業者の皆様をはじめ、作
成の際に御協力いただきました全ての皆様に心から感謝申し上げます。
平成23年3月
埼玉県認知症地域支援体制構築モデル事業推進会議議長
湯澤 俊
この事例集について
この事例集は、平成21年度に県内の介護保険施設・事業所の事例を調査し、平成22
年度にまとめたものです。
19ページ以降の個別ケアの事例については、平成21年度の調査時点の内容となっ
ています。
この事例集をまとめるにあたり、埼玉県認知症地域支援体制構築モデル事業推進会議
の平成21年度と平成22年度の委員のうち、次の方々にご尽力いただきました。
役
職
氏
名
21・22年度
属
社団法人埼玉県医師会
湯
議
所
澤
俊
長
介護保険・在宅医療等推進委員会
21・22年度
委員長
公益社団法人認知症の人と家族の会埼玉県
花俣 ふみ代
委
員
支部副代表
埼玉県立大学保健医療福祉学部看護学科教
21年度
野川 とも江
委
授
員
※埼玉県立大学は平成22年度に公立大学法人化しています。
公立大学法人埼玉県立大学保健医療福祉学
22年度
部看護学科教授
大塚 真理子
委
員
公立大学法人埼玉県立大学大学院保健医療
福祉学研究科教授
21・22年度
委
西村 美智代
員
協議会
21・22年度
員
会長
特定非営利活動法人埼玉県介護支援専門員
野呂
委
埼玉県認知症グループホーム・小規模多機能
牧人
協会副理事長
なお、紹介している事例については、ご本人やご家族の同意を得ています。
目
次
項
目
ページ
Ⅰ
認知症と医療の取り組み
1
Ⅱ
認知症ケアと取組事例集
4
この事例集を読むために必要な用語集
【事
6
例】
昔からの近所づきあいのような関係をめざして
~地域連携の事例 1~
10
住民の助け合い運動から介護事業に発展して ~地域連携の事例 2~
13
世代間交流の機会をつくって
~多機能施設の事例~
15
~認知症啓発活動の事例~
17
認知症の早期受診に向けて
こころ落ちつけて生活ができるように
認知症の人からケア方法を学んで
~被害妄想がある方への対応~
19
~昼夜逆転などのある人への対応~
22
専門医の助言により安心のケアへつなげて ~自傷行為がある方への対応~
25
ご本人の望む支援を皆で共有して
28
~お一人暮らしの人を支援した事例~
ご家族や地域に認知症への理解を働きかけて ~若年性認知症の方への対応
生活習慣を尊重したケアに努めて
~若年性認知症の方への対応 2~
1~
32
35
Ⅰ
認知症と医療の取り組み
平成21・22年度埼玉県認知症地域支援体制構築モデル事業推進会議議長
湯澤
1
俊
認知症とは
認知症を診断する際、日本の精神科医が指針のひとつとしているものに、アメリカ
精神医学会が定めた「精神疾患の分類と診断の手引き」の第 4 版改定版(「DSM-4-TR」)
があります。
それによれば、認知症の診断基準の第1として、「記憶を含む複数の認知機能障害が
ある」といっています。
「記憶障害」とは、新しい情報を学習したり、以前に学習した情報を想起する能力の
障害があることで、その他の認知機能障害には、B)失語(言語の障害)、失行(運動機
能が失われていないのにもかかわらず、動作を遂行する能力)、失認(感覚機能が失わ
れていないのにもかかわらず、対象を認識または同定できないこと)、実行機能障害(計
画を立てる、組織化する、順序立てる、抽象化する)があり、これらは中核症状と呼ば
れているもので、認知症を引き起こす原因疾患により直接引き起こされるものです。
そしてこれらの症状により、「病前と比較して社会的・職業的な機能の障害/病禅の
機能の著しい低下」も診断基準のひとつとなっています。
それに対し、中核症状に本人の生活、環境等の要因が関連しあって「不安・焦燥」、
「徘徊」、
「幻覚・妄想」等が引き起こされることがあります。これらを総称して「BP
SD(行動・心理症状)」と言います。
認知症の原因となる疾患は「脳血管疾患」、
「アルツハイマー病」
・
「前頭・側頭型認知
症」・「レビー小体病」
・「パーキンソン病」等の「変性疾患」、正常圧水頭症など様々で
す。
しかし、原因の半数を占めるのはアルツハイマー病です。
2
認知症の原因と最近までの認知症治療の取組
アルツハイマー病は、1907年にドイツの精神医学者アロイス・アルツハイマー博
士が大脳の中に神経原線維変化と老人斑を発見した事から原因が明らかとなった病気
です。
-1-
アルツハイマー博士の発見は、その後の認知症研究の著しい発展へとつながりました
が、大脳の病的変化により引き起こされる病気であることが明らかとなったアルツハイ
マー病は治らない疾患であると思われてきました。
病気を診るということは、「問診より浮かび上がった疾患を診断しその最善な治療法
を探して治療を行う」ということです。
ですから、治らない病気と思われてきたアルツハイマー病についての医療の役割は、
「最善の治療法」として認知症の進行の抑制と予防を施すこと、正確な診断をして、ケ
アプランに沿った介護を受けていただくことに重点が置かれていました。
しかしこの対処では徘徊などの個々の行動・心理症状が改善されないことが、最近明
らかとなってきました。
3
最近の認知症医療・ケア
そこで、新しい医療・ケアではアルツハイマー病等の認知症については、疾患を診る
だけではなく、病気を持った人にそのものに焦点を当て、人対人の関係に基づいたケア
を行うことが不可欠であると言われるようになりました。
認知症の方が発病前と同様な生活を送ることが出来るように、良い医療・介護を提供
する事が大切で、そのためには医師自身が認知症の新しい知識と対応を理解し、ご家
族・介護職員・ケアマネジャーなどと共に治療・ケアを実践していくこと事が必要です。
認知症を診るということは、個々の生活歴(生育歴、個性、健康状態、環境、人生観
など)全てを診ていくということす。
「病気を診ずして病人を診よ」とは、日本の近代医学の先駆者で東京慈恵会医科大学
を創設した高木兼寛(喜永2年(1849年)~大正9年(1920年))の言葉ですが、
認知症を診るにはまさにこの精神が必要です。
4
認知症を地域で支えるために(さいたま認知症ケアネットワーク)
最後に、県内で行われている医療による地域支援の一つをご紹介します。
さいたま市では、市内の 4 医師会(大宮、浦和、さいたま市与野、岩槻)が認知症診
療の独自の取組を行ってきましたが、各医師会で方向性の違いが若干あり、市内一律の
認知症対策が行われていませんでした。
そのため 4 医師会に呼びかけ、平成 20 年 3 月さいたま市 10 区で平準化した認知症対
-2-
策を行うため「さいたま認知症ケアネットワーク委員会」を発足しました。
認知症ケアネットワークの目的は、①認知症の早期診断・早期治療、②かかりつけ医
と専門医の連携、③かかりつけ医と地域包括支援センター、ケアマネジャーとの連携、
④医療と福祉の連携でありました。認知症ケアネットワークの第一歩ならびに基礎とし
て、なるべく多くの「かかりつけ医」の先生方に診療科目に関わらず「もの忘れ相談医」
として登録していただくように呼びかけましたところ、約160名の先生が登録されま
した。
その後、地域包括支援センターの認知症担当者との連携強化の目的で、各区に 1 名の
認知症サポート医を「認知症連絡担当医」として登録し、地域でのケアマネジャー等と
の認知症疾患医療連携会議や研修会を開催しております。
一方、地域では「どこで認知症を診てくれるのか分らない」「BPSDを含めて認知
症患者をどのように治療してくれるか」などの問い合わせが医師会に来ることがあり、
市内にある認知症疾患センター(埼玉精神神経センター)を中心にして、認知症診断医
とかかりつけ医との連携強化を行っております。
もの忘れ相談の研修会は毎年2回開催され多くの関係者が参加されておりますが、今
後の課題としては、地域での認知症の啓蒙活動(行政との協力)、さいたま認知症スク
リーニングテストの作成、コメディカルとの連携、かかりつけ医のいない患者さんへの
支援などがあります。
-3-
Ⅱ
認知症ケアと取組事例集
平成21年度埼玉県認知症地域支援体制構築モデル事業推進会議委員
野川
1
とも江
認知症ケアの特徴
認知症は、その中核症状による知的能力の障害により、記憶・見当識・実行機能の障
害、失語、失認、失行や人格障害が生じます。また、BPSD(行動・心理症状)とし
て、心理症状(精神症状うつ状態、妄想、意欲の低下、不安や焦燥感など)や行動症状
(徘徊や迷子、暴言・暴力、不潔行為、異食、火や水の不始末など)が起ります。
それらの中核症状やBPSDによって引き起こされる生活上の支障や問題状況が、周
囲の人々、とりわけ家族との間に心理的な摩擦を生じることになり、また、生活及び介
護上の困難や悩みをもたらします。
そして症状の現れ方は、高齢者、若年性等の年代別やライフサイクルの段階、また、
家族状態・介護者の状況によって、社会や家族における本人の位置づけや役割が異なる
ため、人によって違いがみらます。
したがって、認知症ケアの特徴は極めて個別的なものとなります。
2
認知症ケアの内容
認知症の人をケアする上での基本的な生活条件は、①活動や歩き回るのに十分な場
所、②規則正しい毎日の運動、③日々に季節感や変化をもたせる行事、食事、活動(ア
クティビティ)④安全で静かな、しかも適度の刺激のあるなじみの空間、生活環境、⑤
家族関係や対人交流が良好等です。
そして、①生活の質(QOL)を維持・向上できるようにする、②人間性や人権の尊重、
の観点から認知症ケアに重要となる方法は、以下の5点です。
A
認知症の人の失われた能力(できない部分)ではなく残されている能力(できる部
分)に着目し、それを認め助長し、自尊心や自己効力感が強化できるように働きかける
ことです。
B 残されている記憶や技術を楽しい体験の反復によって強化し、できる限り長く保てる
ようにします。認知症の人のプロフィ-ルを知るために情報を収集し、特技、趣味活動、
-4-
嗜好品、語り等を日常生活の場面に意図的に取り入れ、創造的な自己表現が可能となる
ような状況をつくり、ほめたりして認め、反復することで安心感を助長します。
C 過去の経験から可能な役割を見守りながら遂行するなど行動を強化し、セルフケア能
力を高め、達成感・満足感が得られるようにすることが重要です。
D 自己認識を保つためにも生活上の役割を果たせるようにする又は新しい役割を見つ
ける、習慣を守る、ユ-モアのセンスを忘れない、社会的な体面を保てるようにするこ
となどは大切です。
E 繰り返すと効果があるのは、散歩、指示行動、生活習慣、身振りなどであり、言葉や
行為の意味を強調するには五感を使うようにするとよいでしょう。
また、認知症の人と家族への支援は、日常生活を営む上での個別的な問題状況に応じ
て展開されなければなりません。
認知症の病期、程度および認知症状によってもたらされる日常生活行動上の障害や日
常生活動作能力(自立度)、家族状況、介護状況、介護者の心身のストレスや生活の支
障等の介護上の問題を総合的に理解し、認知症の人および家族介護者の問題が改善でき
るようなアプロ-チを考える必要があります。
3
認知症ケア向上のヒントとして
この事例集では、認知症ケアの具体的な内容として、昼夜逆転、医療との連携の必要
性、独居者への支援若年性認知症者への支援を取り上げ、事例への取り組みを具体的に
取り上げ認知症ケアの事例化に資することができるようにしています。
また、認知症の支援や資源は、一様に整備されているものではなく、地域特性を持っ
ています。したがって、認知症の人への支援活動は、具体的、個別的に支援や資源を適
応させて、さらに地域資源を開発する必要があります。
地域連携事例については、事業所と地域との連携についての一般的なものから、地域
の有償ボランティア活動を基に発展したもの、併設保育園等の園児との交流といったユ
ニークなものまで紹介されています。
認知症ケアを考え、
支援のヒントを得る方法の一つとしてこの取組事例を活用してく
ださい。
-5-
この事例集を読むために必要な用語集
【介護保険サービス】
65歳以上の方が寝たきりや認知症等で常時介護が必要になった場合(要介護状態)
や、そのような状態の軽減や悪化の防止のために介護予防の支援が必要になった場合
(要支援状態)に利用できます。
65歳未満であっても、40歳以上であり、政令で指定された特定疾病であれば介護
保険サービスを利用することができます。認知症も特定疾病の一つなので、認知症の人
は65歳未満であっても40歳以上であれば介護保険サービスを利用できます。
【要介護(要支援)状態区分】
要介護は5段階、要支援は2段階に区分されています。
【障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)】
平成3年11月18日付け大臣官房老人保健福祉部長通知により、保健師等が何らか
の障害を有する高齢者の日常生活自立度を客観的かつ短時間に判定することを目的と
して示されたものです。
日常生活自立度(寝たきり度)と判定基準は次の表のとおりです。
生活自立
ラン
クJ
準寝たきり
ラン
クA
ラン
クB
寝たきり
ラン
クC
何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出す
る
1.交通機関等を利用して外出する
2.隣近所へなら外出する
屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない
1.介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて生活する
2.外出の頻度が少なく、日中も寝たり起きたりの生活をしている
屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体で
あるが、座位を保つ
1.車いすに移乗し、食事、排泄はベッドから離れて行う
2.介助により車いすに移乗する
1日中ベッド上で過ごし、排泄、食事、着替において介助を要する
1.自力で寝返りをうつ
2.自力では寝返りもうてない
【認知症高齢者の日常生活自立度】
平成5年10月26日付老人保健福祉局通知で、認知症高齢者の介護の必要度を保健
師、介護士、社会福祉士、介護福祉士等が客観的にかつ短期間に判定することを目的と
-7-
して示されたものです。
日常生活自立度とその判定基準、見られる症状や行動の例は次の表のとおりです。
ランク
Ⅰ
Ⅱ
Ⅱa
Ⅱb
Ⅲ
Ⅲa
Ⅲb
Ⅳ
M
判定基準
何らかの認知症を有するが、日常生
活は家庭内及び社会的にほぼ自立し
ている。
日常生活に支障を来すような症状・
行動や意思疎通の困難さが多少見ら
れても、誰かが注意していれば自立
できる。
見られる症状・行動の例
たびたび道に迷うとか、買物や事務、金銭管理
などそれまでできたことにミスがめだつ等
家庭内でも上記Ⅱの状態が見られ 服薬管理ができない、電話の応対や訪問者との
る。
応対など一人で留守番ができない等
日常生活に支障を来すような症状・
行動や意思疎通の困難さが見られ、
介護を必要とする。
着替え、食事、排便・排尿が上手にできない・
時間がかかる。
日中を中心として上記Ⅲの状態が見
やたらに物を口に入れる、物を拾い集める、徘
られる。
徊、失禁、大声・奇声をあげる、火の不始末、
不潔行為、性的異常行為等
夜間を中心として上記Ⅲの状態が見
ランクⅢa に同じ
られる。
日常生活に支障を来すような症状・
行動や意志疎通の困難さが頻繁に見 ランクⅢに同じ
られ、常に介護を必要とする。
著しい精神症状や問題行動あるいは せん妄、妄想、興奮、自傷・他害等の精神症状
重篤な身体疾患が見られ、専門医療 や精神症状に起因する問題行動が継続する状態
を必要とする。
等
家庭外で上記Ⅱの状態が見られる。
【ADLとIADL】
ADLは日常生活動作(Actibities of Daily Living)、IADLは手段的日常生活動作
(Insutrumental Actibbities of Daily Living)のことです。例えば日常生活を送るには、
「食事ができる」という「日常生活動作」が必要ですが、在宅生活を送るためにはそれ
だけでは足りず、「食事の準備」というより高次な動作「集団的日常生活動作」が求め
られます。このことから、介護の必要な状態を判断するために、ADLとIADLとい
う二つの尺度が使われています。
【介護保険サービスの種類】
介護保険で利用できるサービスは、訪問サービス、通所サービス、
短期入所サービス、
地域密着型サービス、施設サービスなどがあります。
-8-
このうち、施設サービス(介護老人福祉施設・介護老人保健施設・介護療養型医療施
設)は、在宅介護が困難な人へのサービスで、要支援の人は利用できません。
また、地域密着型サービス(認知症対応型共同生活介護、小規模多機能型居宅介護、
認知症対応型通所介護等)は、認知症の人などが、住み慣れた地域で介護を受けられる
ように設けられた在宅型サービスです。
【介護老人福祉施設】
入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話、機能訓練、健康管理及び療
養上の世話を行うことを目的とする施設です。
一般には、老人福祉法上の「特別養護老人ホーム」という名称で知られています。
【介護老人保健施設】
看護、医学的管理の下に在宅復帰を目指して、必要な医療並びに日常生活上のサービ
スが提供される施設です。
【認知症対応型共同生活介護】
認知症の人が、共同生活を営みながら、入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生
活上の世話を受け、機能訓練を行うものです。
認知症介護に必要な、なじみの関係が築けるよう、共同生活の単位は5~9人程度の
少人数です。
一般には「認知症高齢者グループホーム」という名称で知られています。
【小規模多機能型居宅介護】
介護や支援の必要な方が、人が在宅生活を継続するのに必要が入浴、排せつ、食事等
の介護その他の日常生活上の世話を、「通い」、「訪問」、「泊まり」の複合的なサー
ビスの提供によって行うものです。
同一の事業所からのサービス提供であるため、利用者と事業者との馴染みの関係が築
くことができます。
-9-
【認知症対応型通所介護】
認知症の方専門の通所介護(デイサービス)で、日常生活上の世話や機能訓練を通所
により行う施設です。
-10-
昔からの近所づきあいのような関係をめざして
~地域連携の事例 1~
認知症対応型共同生活介護事業所
ひだまりの丘
所在地:比企郡嵐山町大字平澤309
定
員:定員9名
地域連携の
地域連携の目的・
目的・課題
認知症の方が穏やかに過ごせる場であるグループホームが嵐山町にはありませんで
した。
そこで、今まで地域の中で不安をかかえて生活をしていた認知症の方が、安心して住
めるところとして、周囲の人も職員も自分の親のような目線で入居者を見ていただける
グループホームをつくろうとしました。
しかし、地域の方々は、認知症やグループホームについて正しくご存じでなかったの
で、当初ご理解が得られませんでした。
認知症やグループホームについて地域の方々に理解をしてもらう必要がありました。
課題への
課題への対応
への対応
・ 運営推進会議(区長、健康福祉課、家族、選定委員会会長、職員)で認知症につい
て理解を得るための話を行いました。
・ 認知症について正しく理解されていないことによる苦情が多かったので、その都度
理解を得られるように丁寧に説明しました。
・ 入所者を施設に閉じ込めておくのではなく交流を主体とした取り組みをする事を職
員間で話し合い、共有の目標として持ちました。
・ 土地の所有者に了解を得て畑で収穫作業をしていた時に、事情をご存じでない方が、
見知らぬ高齢者が勝手に収穫していると勘違いしたことがあったので、外出する際
は施設名の入った車を使うことにしました。
・ 今までしてもらう事が主であったため、やって貰うだけではなくこちらからも恩返
しが出来るようにという事で散歩の際は、座れる人は草を1本でも良いからとりま
しょうと職員が手袋とごみ袋を持っていくようにしました。
-10-
・ 母体が社会福祉協議会ということ、施設長がヘルパー、ケアマネジャーと地域に顔
が知れていたこともあり徐々に理解を得られました。
現在の
現在の連携状況
・ 福祉の実習などで高校生がボランティアに来てくれます。それがきっかけで1年以
上も続いてボランティアに来てくれる学生もいます。
・
警察や消防等はできるときだけですが、夜の巡回に施設の横の道を通ってもらい、
月1度はパトロールの連絡メモをポストに入れてもらい安全確認をしています。
・ 町の社会福祉協議会や町の福祉課に連携について相談に応じてもらっています。社
協の行事にも参加しています。
・ 地域の商店街から協力が得られ、例えば美容院や理髪店で入居者をきれいにしてい
ただけるよう協力していただいています。
・ 地域のボランティアが三味線の演奏や話し相手として来てくれます。また、散歩先
の公園の草取りや、散歩の際トイレを貸してくださるなどして助けてくださいます。
事例からの
事例からの学
からの学び・伝
び・伝えたいこと
開設して地域の人との交流やボランティア、道で会うと気軽に声をかけてくれたり、
とれた野菜を持ってきてくれたりと、開設前の準備から地域の一員として認知されてき
ていると実感するまでに5年かかりました。
認知症があっても、
地域で暮らしていけるようにと当たり前の事をしてきたことが評
価されたのだと思います。
職員が少しずつ入れ変わっても「お年寄りが住んでいる少し大きな家」として地域の
方に馴染んでいけるよう今後も取り組みを継続していきます。
事例に
事例に関する補足説明
する補足説明
【認知症を
認知症を地域に
地域に理解していただくために
理解していただくために】
していただくために】
認知症を患っても、
その人らしく暮らし続けるためにはより柔軟なサービスを提供し
ていくことが求められますが、私たちが当たり前にしている普通の暮らし方を支援する
のに、事業所の中だけでこれに取り組む事には困難があります。
そこで、本人が住み慣れた地域で仲間になってくれそうな支援者たち、友達・商店や
-11-
近所の人・地域のボランティア団体・老人会や自治会・幼稚園の園児・小中学生など。
より多くの方を巻き込みながらネットワークを広げて本人の地域生活を応援してもら
えることが望まれます。
散歩や買い物の時に隣近所の方と挨拶を交わすことに始まり、事業所での認知症ケア
の実践経験を活かし、地域の様々な行事、研修や会合に関わりながら地域との相互交流
を図り、地域の人々を対象に認知症の理解や接し方の勉強会や、地域包括支援センター
と協働した「認知症サポーター養成講座」等を開催することで、徐々に地域の方に認知
症への誤解や偏見をなくすことに努めることが大切です。さらには地域住民からの認知
症相談への対応、介護の不安や負担軽減へのアドバイスの提供など、地域の方が気軽に
立ち寄れ、地域における認知症ケアの拠点として機能することにも期待します。
-12-
住民の助け合い運動から介護事業に発展して
~地域連携の事例 2~
小規模多機能ホームきらり姫宮
所在地:南埼玉郡宮代町川端3-8-25
<事業>
介護保険関係事業
グループホーム喜楽里 定員 18 名
デイサービス喜楽里 定員 10 名
介護支援事業所 あいあい
ヘルパーステーション あいあい
自立支援法関係事業
ケアホーム:グループホーム喜楽里 定員 5 名
ふれあいサロン(地域交流スペース)
キッズルームきらり
(1歳から小学生までの一時保育)
ふれあい活動(会員相互の助け合い)
有償ボランティア/福祉有償運送
地域連携の
地域連携の経緯
住民ニーズの多様化が進み、行政サービスがそれに細かく応えることができなくって
きました。そこで宮代町役場の福祉課長であった故
井上恵美理事長が町の広報で町民
に呼びかけ、「困ったときはお互いさま」を合言葉に、会員間の双方向の助け合いサー
ビス(有償ボランティア)を平成10年4月に開始しました。
また、町や町の社会福祉協議会、有志の方々の協力で介護人材養成のための研修事業
も行いっていきました。
こうして培われた地域や人との繋がりを生かして、平成17年 3 月に認知症高齢者や
知的障害者の全室個室のグループホーム、デイサービスセンター、一時保育スペースを
併設した小規模多機能ホーム「きらり姫宮」をオープンしました。
連携状況
・
デイサービスの休日に無料開放(その運営は地域の人たちが行っています。)
・
地域の防災訓練に参加(事業所は避難場所になっている)を年2回
・
町内会行事の参加(花見、盆踊り、いも煮会等)
・
ボランテイアの受け入れ(デイでのクリスマス会への参加等)
-13-
・
講座の開催(男性の介護教室、ヘルパー講習、救命救急講習等)
・
行政との連携(地域の福祉を考える会に参加)
・
認知症の家族との懇談会開催
・
AEDの開放(非常時、施設にあるAEDを住民が自由に使ってもらう)
・ 地元大学との相互支援協定を締結(会員管理システムの開発、学生の教育の場の提
供)
伝えたいこと
自分達が知らず知らずにつくっている壁を壊すことです。
地域との連携という事はわかっていても何をしたらいいのかわからず、ついつい日常
の仕事に追われる事が多いのではないでしょうか。
いきなり大きな事はせず、小さな事(挨拶等)から初めて行くと良いと思います。
また、地域の人たちを良い意味で巻き込むことも考えるべきでしょう。
事例に
事例に関する補足説明
する補足説明
【地域で
地域で暮らすために】
らすために】
事例は高齢者グループホームだけではなく、障害者福祉事業、保育事業など活動が多
岐にわたっているのは、地域住民のさまざまなニーズを解決しながらの結果だと思いま
す。
さて、皆さんが暮らしている地域は、認知症になっても地域で支えてもらえる地域で
しょうか。まず、自分たちの暮らしている地域をチェックしてみましょう。そして、自
分たちがどのような状態になっても暮らしていけるために何が必要なのかをもう一度
考えてみましょう。
-14-
世代間交流の機会をつくって
~多機能施設の事例~
三俣保育園併設みつまたデイサービスセンター
所在地:加須市北小浜572
定
員:30名
多機能施設となった
多機能施設となった経緯
となった経緯
30年前から保育園を運営していますが、その周辺の土地提供の話がありました。
ちょうど高齢者福祉施設へのニーズの高まってきた時であり、地域からは多機能施設
を希望する声が上がりました。そこで、職員が介入しなくても世代間交流が図れるコミ
ュニティの場はできないないか、垣根の無い施設で地域との連携を図れないかと検討し、
平成10年にデイサービスセンターと児童館を開設しました。
デイサービスには、介護施設という特別な場所ではなく「自分の別宅」に遊びに行く
という感覚で利用していただきたいと思っています。
世代間交流の
世代間交流の状況
高齢者と児童の交流は、保育園の行事にデイサービス利用者が参加するような形での
ものもありますが、日常自然発生的に見られています。
例えば、昼休みなどの休み時間には児童とデイサービス利用者が共に散歩や会話を持
ったりしています。
お孫さんが保育園に通っているので、同じ敷地内にあるデイサービスを利用したとこ
ろ安心を提供できたという事例もあります。
また、核家族化の影響で家庭に高齢者がいない児童にとっては高齢者を理解する良い
機会にもなっています。
デイサービスに通う利用者にとっては児童に接することで癒しにもなり、喜びでもあ
るようです。
デイサービスを利用している高齢者の中には認知症の方もいますが、交流の壁にはな
っていないようです。
デイサービスの前にグランドがあり子供が動く姿を高齢者が眺め、
-15-
子供も意識することから、お互いに面識が生まれ、徘徊のある高齢者の動きを子供がス
タッフに知らせてくれることもあります。
インフルエンザなどの感染が心配される場合は、スタッフ全員で協議して交流の中止
や再開を決めています。
今後の
今後の展開として
展開として考
として考えていること
平成21年には敷地内に「憩いの場」を設立し、地域住民に開放しています。介護
保険導入で自立と判定された方や生きがいデイサービスの廃止(平成18年)により高
齢者の利用が限定されることで行き場のなくなる高齢者がいらっしゃいます。その方々
に自由に来て楽しんでいただける場の要望が地域からもありました。デイサービスの利
用者とも交流を持っていただいています。
今後は、中高年にも憩いの場を利用していただき、コミュニティを広げていきたいと
思っています。
参考情報
【共生型サービス
共生型サービス】
サービス】
事例は、敷地内の高齢者と子どもの施設があり交流を図っているものですが、さらに
別々のサービスを受けていた高齢者や障害者等に、一緒のサービス提供するものを共生
型サービスと言います。
今までケアを受ける一方だった高齢者にケアする役割も与えられることで、生きがい
などのプラスの効果が期待されます。
そうしたサービスとして、平成22年度に小規模多機能型居宅介護支援事業所におい
て、障害者自立支援法の生活介護対象者の受入れが可能となりました。
-16-
認知症の早期受診に向けて
~認知症啓発活動の事例~
介護老人保健施設ビッラ・ベッキア
所在地:秩父市大字寺尾2744
定
員:入所100名、通所20名
啓発活動実施の
啓発活動実施の経緯
併設の秩父中央病院の外来データによると、精神科外来を受診した認知症患者におけ
る重度認知症の割合は全国が11.3%であるのに対し、秩父地域は61.8%でした。
秩父地域では認知症が重度になってからでないと認知症専門医療機関を受診しない
傾向が非常に強く、地域住民に認知症の知識が不足していることが明らかでした。
そこで、地域住民の認知症について啓発するために、平成20年度に秩父市社会福祉
協議会と連携して地域の公会堂等で認知症の講座を開催することになりました。
講座の
講座の内容
参加者は高齢者が予想されるため、認知症予防を中心に、1時間程度の簡単で分かり
やすい内容にしました。教授方法はパワーポイントによる講義が中心ですが、あきない
ように途中で「脳トレ」をはさんだりしました。
また、中高年層に人気のある有名司会者の説明の仕方を研究したり、秩父弁を使用す
ることで、楽しくおかしく、ためになる講義になるよう工夫しました。
開催の
開催の結果
平成20年度の9月から開催し、平成22年3月までに44会場で約2,500名
の方に参加していただきました。
参加人数は20名から100名以上まで様々でしたが、どの講座も関心が高く、「ま
た開催して欲しい。」と多数の方から感想が寄せられました。
また、近隣の自治体から「うちでも開催して欲しい。」との依頼がくるようになり啓
発活動が秩父地域でも広がりを見せています。
-17-
他に伝えたいこと
認知症の人は地域全体で支えることが必要です。そのために地域住民に認知症をもっ
と知っていただきたいと思います。
認知症について伝えるためには、地域に出向いていくことが必要です。なるべく地域
の人が集まりやすい地域の集会所や公会堂で行なう必要があります。
また、事業所の理解も必要になります。
認知症についての知識が地域に広がるように、認知症についての講座をぜひ色々な方
法で開催して欲しいと思います。
参考情報
<認知症啓発のために>
認知症啓発のために、最近では県内各地で講座や講演会が開かれるようになりまし
た。
その代表的なものが、
「認知症サポーター養成講座」です。
「認知症サポーター養成講座」は、認知症に関する正しい知識と理解を身に付けた
「認知症サポーター」
を養成するための90分を標準とする講座です。厚生労働省の「認
知症を知り地域をつくるキャンペーン」の一環である「認知症サポーターキャラバン」
として、全国各地で実施されています。
また、平成21年度には、小学生向けと中学生向けの副読本も作られました。
くわしくは、市町村の介護保険担当課にお問い合わせください。
-18-
こころ落ちつけて生活ができるように
~被害妄想がある方への対応~
グループホームあかつき
所在地:寄居町鉢形3178-8
定員:18名
事例の
事例の内容
十数年前にご主人と死別したAさん(80歳代前半・女性)は、息子さんと二人暮ら
しでしが、被害妄想などが激しくなった1年半前ほどから日中お一人でいることがむず
かしくなりました。
そこで、同じまちに住む娘さんのご家族と同居しましたが、お孫さんに対しても被害
妄想が激しくなってしまいました。そのため、3か月ほど前にグループホームに入所し
ました。
グループホームでは被害妄想や帰宅願望による徘徊が見られました。
課 題
被害妄想がひどくなり不穏状態(落ち着かない様子)になってくると、帰宅願望が強
くなり徘徊が始まることから、Aさんが心落ち着けて生活ができるように支援する必要
がありました。
Aさんの
さんの情報
要介護度:要介護2
障害高齢者の日常生活自立度:A
認知症高齢者の日常生活自立度:Ⅲa
既往歴:血管性認知症とアルツハイマー型認知症の混合型、多発性脳梗塞、変形性股
関
節症、心房細動、甲状腺機能低下
性格等:しっかりしていて几帳面。友だちが多い。食べ物の好き嫌いはないが、特に
おまんじゅうが好き。
-19-
ケアの内容
ケアの内容
・
できる限り被害妄想を少なくするため、ご自分の居室の鍵をご本人の首に下げて、
自己管理してもらったところ、ものがなくなったとの被害妄想がなくなりました。
・ 不穏状態になると帰宅願望が強くなったら、車で1時間ほど外出しました。その時々
の花や風景を見たりAさんの好きなおまんじゅうを買ったりすることで、気分転換
を図りました。
・ Aさんは社会的に認められている人との関わりを求めているので、不安になった時
は事務長や責任者が話を聞くようしました。
・ Aさんの生活への意義(生きがい)が保てるよう、ご自分でできること(おやつ作
りや食器の片付け等)を手伝っていただきました。
ケア実践
ケア実践後
実践後のAさん
日々感情の起伏があるものの、ほぼ落ち着いた生活ができるようになりました。
事例からの
事例からの学
からの学び・伝
び・伝えたいこと
その人の状態に合わせてケアしていかなければならないことの重要さを改めて学び
ました。課題を解決するには本人がしたいことについての話をよくことが大切です。
事例に関する補足説明
する補足説明
【その人全体
その人全体を
人全体を知ることの大切
ることの大切さ
大切さ】
家族関係、近隣関係、そして病歴など既往歴から喪失体験も含め「その人全体を知る」
ことで、現状の姿の理解につなげていくことが大切です。
Aさんの入居は、被害妄想がきっかけになっています。老年期はさまざまな妄想が
みられますが、多くは心因性の妄想であり、特に認知症高齢者の妄想は、認知症の枠
に収まりきる問題ではありません。高齢期の心情を踏まえて考えると、妄想の発端に
家族との同居など生活環境や人間関係の変化、そして配偶者が亡くなった孤独や同居
してからの役割の喪失感(立場の逆転)があることがわかります。すなわち、そのこ
とが心に不安と葛藤を生み、妄想を生み出します。
Aさんの場合は、家族との同居による被害妄想の発症、そして家族関係の悪化とい
う事実に基づき、病気の特徴を押さえたアセスメントをしておくことが重要です。
妄想は、積極的、仕事熱心、負けず嫌い、人の面倒見がよい人に多いとされていま
す。
-20-
妄想のケアの基本は「否定も肯定もしないこと」、すなわちそれが事実かどうかを
吟味することより、本人の言い分を聴き、気持ちをわかること、そして病的症状に対
しては、精神科での専門的な治療が不可欠であることも捉えておかなければなりませ
ん。
参考情報
【徘徊の
徘徊の分類】
分類】
精神科医の小澤勲氏は、徘徊を五つに分類しています。
①徘徊ではない徘徊:外出すると迷子になったりするために、外に出るだけで徘徊と
名づけられたり、入院の際にベッドから離れるだけで徘徊といわれてしまうような場
合。
②反応性の徘徊:なじみのない場所に置かれることによって生ずる見当識障害と不安
から、固く、不安げな表情で歩き回る徘徊。
③せん妄の徘徊:「寝とぼけ」にイメージが近い意識障害の一種であるせん妄によっ
て生ずる徘徊。
④脳因性の徘徊:脳障害の直接的なあらわれとして生じる徘徊。
⑤「帰る」「行く」に基づく徘徊:認知症の中期にさしかかった頃に見慣れる徘徊で
「帰えらせてもらいます」あるいは「これから……へ行く」といって自宅から出て行
こうとする。このような行動が入院、入所している人たちにみられると「帰宅願望」
という。
* 小澤
勲著『痴呆を生きるということ』岩波新書、2003、p127-137
-21-
認知症の人からケア方法を学んで
~昼夜逆転などのある人への対応~
特別養護老人ホーム フェリス
所在地:草加市長栄町658
定
員:100名
事例の
事例の内容
Aさん(90歳代後半・女性)は息子さん(他界)のお嫁さん(70歳代)と二人暮
らし、
歩行が困難なため車いすを使用し居室内は這って移動しています。
Aさんに、認知症による自宅での昼夜逆転、夜間這っての家中の徘徊し冷蔵庫を開け
て中のものを食べてしまうなどの症状が見られるようになったため、当初は訪問介護を
利用していました。
しかし、介護負担からお嫁さんの腰痛がひどくなったため、デイサービスの利用に変
更しました。
すると今度は、Aさんはデイサービス利用中に帰宅願望から大声で叫んだり、利用中
に着ている和服を脱いだりするようになりました。
デイサービスの利用では対応が難しいことから、1年ほど前からショートステイの利
用に切り替えました。
課 題
ショートステイでは昼夜逆転や、脱衣行為、生まれ故郷に連れて行ってほしいという
帰宅願望、ポータブルトイレによる排泄介助がうまくいかないという課題がありました。
そこで、Aさんの生活パターンを見し、Aさんが何を望まれているのか把握する必要
がありました。
Aさんの
さんの情報
要介護度:要介護5
障害高齢者の日常生活自立度:C
認知症高齢者の日常生活自立度:Ⅴ
-22-
既往歴:認知症
性格等:穏やかで人見知りがあるが、人の中にいることはいやでなない。寂しがり屋。
若いころ和服の仕立屋をしていた。
ケアの内容
ケアの内容
・ 昼夜逆転には、生活リズムの改善のため24時間シートを活用しました。特にAさ
んが他の利用者と交流する機会をつくり、どんなときに会話へと発展するのか、レ
クリエーション活動に参加していただき、どんな者に興味があるのか観察しました。
また、Aさんの訴えに細やかに対応や声かけをすることで施設の中で安心感が得ら
れるように配慮しました。
・ ポータブルトイレによる排泄介助がうまくいかないのはAさんがご自身でトイレに
行きたいと考えられている可能性があるので、排泄にも24時間シートにより排泄
パターンを把握し、トイレで排泄できるように誘導しました。
・ Aさんから、
「服がきつくていやだ。」との訴えがあったことから、ご家族にお願い
して肌ざわりの良い服を用意していただきました。また、居室の温度管理にも配慮
しました。
・ 帰宅願望があった時は、たれかが必ず傍らにいるようにして、声かけやAさんの訴
えを傾聴するようにしました。職員の人員が手薄な時間帯には、職員がそれぞれ声
をかけるようにしました。
ケア実践
ケア実践後
実践後のAさん
ショートステイ利用後3カ月くらいからAさんの表情は穏やかになりました。
生活リズムが整い、馴染みの他の利用者との交流も生まれ、施設を「人のお家です。」
と話されています。
また、ショートステイの定期的な利用で介護者の負担軽減にもつながりました。
事例からの
事例からの学
からの学び・伝
び・伝えたいこと
本人のペースで生活を支援していくことで、Aさんの変化が予想以上に見られまし
た。
-23-
事例に
事例に関する補足説明
する補足説明
【当事者から
当事者から周囲
から周囲が
周囲が学ぶ】
ケアを行う時、高齢者の特長である「ますます個性化すること」
、そして「不安や淋し
さが増大すること」を念頭に置かなければ、高齢者の多様な行動を問題行動としてとらえ
てしまいます。
認知症ケアを学ぶ人にとって「先生」は、認知症という障害を抱えた人です。
事例は困難なケースでしたが、認知症の中枢症状は治らないがBPSD(行動・心理症
状)が環境を整えたり、適切なケアをすることによって改善することを職員が良く理解し、
昼夜逆転を問題視するのではなく、Aさんのそれまでの暮らしに近づいていくことで、A
さんは安心感が得られ、Aさんに豊かな表情が生まれたと思います。
参考情報
【24時間
24時間シート
時間シート】
シート】
当事者の1日の詳細な情報を記録するシート。その結果をアセスメントすることで、当
事者が望む暮らし方を当事者から教えてもらうことができます。
-24-
専門医の助言により安心のケアへつなげて
~自傷行為がある方への対応~
グループホーム
たのし家
所在地:さいたま市見沼区大字中川302
定
員:18名
事例の
事例の内容
十数年前に夫と死別したAさん(80歳代後半・女性)は、娘さんのご夫婦と同居し
ていました。
10年ほど前から認知症の顕著な症状が見られるようになりましたが、主な介護者の
娘さんが仕事をしているため、Aさんはヘルパーを利用して在宅生活を維持していまし
た。
その後、Aさんはガンで入院・手術し在宅介護が困難になり、グループホームに2年
ほど前に入所しました。
グループホーム入所後、Aさんは「家に帰ってご飯の支度をしなくては」と帰宅願望
を訴えるようになりました。
特に職員の手薄な夜間にAさんの訴えが激しくなり、職員は十分に対応できなくなる
と、Aさんは柱やドアに自分の頭をぶつけたり自分の顔を自分で叩いたりする自傷行為
をするようになりました。
課 題
Aさんの帰宅願望が強くなった時は「Aさんは家事で疲れているだろうからたまには
休んで欲しいとの娘さんの意向なので、ここでゆっくりしていってください。あす迎え
に来てくれます。」と言って説得していました。
しかしAさんは職員の手薄になる夜間に自傷行為を起こしてしまいました。Aさんの
自傷行為を止めるためには、Aさんの状態を医学的に理解し、帰宅願望への対応等Aさ
んへのケアを見直す必要がありました。
-25-
Aさんの
さんの情報
要介護度:要介護3
障害高齢者の日常生活自立度:A~B
認知症高齢者の日常生活自立度:Ⅲa
既往歴:認知症、脳梗塞、膝関節痛、大腸がん
性格等:生真面目で几帳面な専業主婦。
ケアの内容
ケアの内容
・
家族と相談し心療内科を受診したところ、「脳萎縮の進行」と「動脈硬化の進行に
よる血流の悪化」との医師の診断でしたが、
「理解力はある」との見解も示されまし
た。そして、医師からAさんに、娘さんの幸せを邪魔しないために、グループホー
ムで生活するよう話してくださいました。
・
また、医師からその場しのぎの対応はダメとの助言をいただきました。
・
医師の助言に基づき、帰宅願望が出た時は、その場しのぎの対応ではなく、「娘さ
んの幸せのためにもここで暮らしましょう。
」等入居までの経緯をきちんと話すよう
統一しました。
・
あわせて、血流を良くするため水分を多く取っていただくようにしました。
ケア実践
ケア実践後
実践後のAさん
Aさんの自傷行為が止まりました。またAさんの帰宅願望は繰り返されましたが、こ
の対応を続けたところ、「そうね、ここでみなと一緒に暮らしましょう。」、や「ここに
居ていいのよね。」と、Aさんの反応に変化が見られました。
事例からの
事例からの学
からの学び・伝
び・伝えたいこと
医療的な情報やケア方法への助言により、Aさんへの対応で職員が抱えていたスト
レスが減りました。
医療的な助言は、認知症の人の生活の質を向上させただけでなく、職員の安心感に繋
がりました。
-26-
事例に
事例に関する補足説明
する補足説明
【認知症高齢者と
認知症高齢者と医療】
医療】
事例はAさんのBPSD(行動・心理症状)に心療内科の助言に基づき対処したも
のですが、このようなケース以外でも認知症高齢者の介護には医療との連携は重要です。
一般的に身体的な疾患を合併している事が多いと言われる高齢者が認知症の場合、そ
の人自身が病気の症状をうまく説明出来ないため、疾病の発見が遅れるという傾向があ
ります。
また、認知症の進行に伴って、BPSDへの対応や、身体管理とケアの割合が増加
します。特に認知症の終末期は、ADLが寝たきり状態となり、肺炎、脱水、褥瘡など
の医療処置が必要となると同時に、コミュニケーションをとることも困難になります。
認知症高齢者を安心してケアするために、医師や訪問看護ステーションの看護師と
の協働を進める必要があります。
-27-
ご本人の望む支援を皆で共有して
~お一人暮らしの人を支援した事例~
小規模多機能型居宅介護支援事業所
ふれあいの家
所在地:三郷市岩野木41-1
定
員:定員9名 宿泊2名
事例の
事例の内容
認知症のAさん(80歳代後半・女性)は一人暮らしです。慢性気管支炎の悪化防止
と体調維持の必要もありました。しかし、ご自宅での生活を望んでいたため、娘さんの
週3日の訪問(掃除、夕食の準備、朝食用のバナナやパンの準備)とデイサービスを週
5日利用することで在宅生活を続けていました。
ところが、自宅で食事を取らないことが多くなり、デイサービスがお休みの週末の一
人の時間をとても不安がるようになりました。
そこで、1年前から小規模多機能型居宅介護支援事業の利用を開始しました。
課 題
Aさんが一人でいることに不安を訴えるのは、認知症の進行に伴い、これまで以上の
環境の変化に順応できていない可能性があります。また、他者に対しての配慮や遠慮に
よりAさんも意識しないうちにストレスの蓄積が大きくなっている場合も考えられま
す。
そのため、Aさんが一人でいる時間をできるだけ少なくし、介護者である娘さんの介
護負担も軽減する必要もあります。
健康維持には欠かせない食事を取っていないことが多いので、食事摂取量、水分補給
など本人が気をつけることができない面を支援する必要もあります。
体調が悪化しても自覚症状がなく、慢性気管支炎が悪化する可能性があるため、服薬
管理や体調の維持を支援する必要もあります。
Aさんの
さんの情報
要介護度:要介護3
-28-
障害高齢者の日常生活自立度:A
認知症高齢者の日常生活自立度:Ⅱb~Ⅲa
既往歴:慢性気管支炎、認知症
性格等:我慢強く穏やかであるが、認知症の進行に伴い自分の感情を抑えることがで
きなくなってきている。家事や買い物が好き。
ケアの内容
ケアの内容
・ Aさんの一番の願いである「自宅で生活を続ける」ために、心身、環境ともに安定
し、家族や近隣住民の理解を深め、自分らしく自宅で暮らし続けるためのケアが重
要です。そこで、通所を毎日に変更し、送り時には職員が訪問(ただし、娘さんが
来訪する日曜日は、娘さんがご帰宅する夕方に訪問)して、Aさんが一人になり、
混乱する時間を減らしました。そして、連絡ノート等を活用しながら、ご家族、ホ
ームヘルパー、職員がお互いに密接に連絡を取り合い、食事内容や量、水分量、部
屋の状態等、Aさんの状態の把握に努めました。
・ 通所中は、Aさん宅では安全のため使用できないガスを使用できるようにして調理
の味付けをお任せし、Aさんの「居場所」と「役割」を大事にする支援を行いまし
た。
・ 夜中はAさんが一人になってしまいますが、Aさんは不安が強くなると娘さんの家
に何度も電話をしたり、電話の時の声の調子がイライラしていつもと変わります。
そんな時は、娘さんから連絡をいただき、Aさんのご自宅を臨時訪問しました。ま
た、娘さんが外出のため連絡が取れない日はAさんに泊まりを利用していただきま
した。
・ また、娘さんの心の負担、ストレスを軽減するために、職員へ連絡や相談があった
ときには良く傾聴しました。
・ 職員がAさん宅を訪問した際に、娘さんが用意した夕食をご本人と一緒に食べやす
いようにセットしその内容を連絡ノートに記録しました。翌朝に通所に迎えに来た
職員がノートを基に夕食や朝食の摂取量、水分摂取雨量を確認しました。また、記
録することで、腐敗した食べ物は破棄することできるようになりました。朝食を取
らなかった場合は、Aさん宅に準備してあるパンを通所時に持ってきて食べていた
だき、栄養確保のために補食も促しました。
-29-
・ 慢性気管支炎の服薬については主治医に相談して、昼食後の昼食後のみとし、事業
所看護師が対応しました。冬の低温や乾燥については、夕方のホームヘルパーの訪
問時に、暖房機のタイマー機能の利用や、加湿器の水の量を確認することで対応し
ました。
ケア実践
ケア実践後
実践後のAさん
娘さんと職員に支えられながら自宅と事業所を行き来し、自分自身が得意とする「う
どんづくり」や、買い物など、自身でできる「生活」を継続しています。そして、そこ
に生きる喜びをも感じ、笑顔で生活しています。
事例からの
事例からの学
からの学び・伝
び・伝えたいこと
認知症の症状の進行に伴い、自分のニーズを思うように伝えることができなくなっ
てきます。しかし、ふっと漏らす言葉や表情、動作から、ご本人が発信している言葉に
ならない「言葉」があります。その「言葉」をいかに受け止めるかが大切です。
ご本人が何をしてほしいのか、どういう支援が必要なのか。何か会議をして方針を出
すとかではなく、利用者のご様子を見ながら自然に利用者にとっての支援が方向づけら
れ、きめ細かなサービスや方向性を職員みんなが共有し、一致させることの重要性を実
感しました。
「あれしてください」「これしてください」と命令するのではなく、自分から「しよ
う」という気持ちになるようにしていく、それが認知症の支援ではないでしょうか。
自分の意思、意欲を引き起こす支援。どのような声かけをして、何をどこにどのよ
うに置いておけば自分からやろうとする気持ちに自然になれるのか。そのような視点か
らの支援の検討が常にスタッフ間で話し合える態勢であることも重要です。
参考情報
【独居者を
独居者を支援するために
支援するために利用
するために利用できる
利用できる制度
できる制度について
制度について】
について】
事例は「通い」
「訪問」
「泊まり」の3つのサービスの中で変わらぬ顔なじみの関係が
つくれる小規模多機能型居宅介護支援施設の特徴を生かし独居の方を支援したもので
すが、独居の方を支援するために利用できる制度についてご紹介します。
「要援護高齢者等支援ネットワーク」では、認知症の人・一人暮らしで援護を必要と
-30-
する高齢者・虐待を受けている高齢者等を見守り活動の中で早期発見し市町村のネット
ワークを活用して適切な支援をして行こうと取り組んでいます。
認知症高齢者等の援護を必要とする高齢者が安心して暮らせるよう、民生委員や在宅
福祉事業者等に加え、地域で高齢者と接する機会の多い電気・ガス・水道・新聞・牛乳
及び乳酸飲料販売・郵便局・金融機関等の事業者の協力を得てそれら地域の情報を市町
村に集約し、高齢者に関わる様々な問題を未然に防ぐ為のネットワークが構築されつつ
あります。今後更に協力体制の整備とその活用が期待されます。
また福祉サービス利用援助事業に「あんしんサポートねっと」があります。
物忘れなどのある高齢者や、知的障害、精神障害のある方などが、安心して生活が送
れる様、生活援助員が定期的に訪問し次の日常生活の手伝いをしてくれます。
「あんしんサポートネット」は、①福祉サービスの利用援助・②日常生活の手続き援
助・③日常的金銭管理・④書類等預かりサービスについて契約に基づき一定の利用料金
を払って援助を受ける仕組みです。利用についての相談や詳しいことは、お住まいの市
町村の社会福祉協議会へお問い合わせください。(サービス利用は有料ですが、相談は
無料です。)
-31-
ご家族や地域に認知症への理解を働きかけて
~若年性認知症の方への対応 1~
小規模多機能型居宅介護支援事業所
舞姫
所在地:深谷市小前田2671-1
定
員:通所15名 宿泊9名
事例の
事例の内容
Aさん(60歳代前半・女性)は、事業所の近所にお住まいの方でご主人や成人した
お子さんたち(2人)
、とご主人のお母様の5人暮らしです。
1年ほど前、Aさんが事業所に来ていないか確認するために、地域の方が来所されま
した。地域の方は、「Aさんは家の近くをふらふらしている。家に帰れない。精神病で
はないか。」と心配していました。
Aさんは夕方、近所のスーパーマーケットで発見されましたが、数日後Aさんのご主
人とお子さん2人(ともに成人)が来所して、ここでみてほしいと相談を受けました。
仕事のあるご主人の希望を受け入れ、早朝から遅い時間になるまでデイサービスで預
かることにしましたが、デイサービスの利用が早朝から夕方遅くまでに至ることで、A
さんが不穏(落ち着かない状態)になり、徘徊が頻繁になりました。
また、デイサービスの利用者によって帰宅時間が様々であることから、Aさんは他の
利用者のご家族に会うとイライラし、ご自身の出入りについて理解できずにパニック状
態になることもありました。
課 題
初回面接時に対応したスタッフは、Aさんやご家族に面識があったため、以前のAさ
んの印象が強く残っており、Aさんご家族に対して、現状を正しく捉えアセスメントす
ることができず、結果としてAさんにとってデイサービスは居心地の悪いものになって
しまいました。
また、ご家族や地域の方が若年性認知症を理解していないこともAさんのケアにとっ
ては好ましくないことでした。
-32-
Aさんの情報
さんの情報
要介護度:要介護4
障害高齢者の日常生活自立度:B
認知症高齢者の日常生活自立度:Ⅳ
既往歴:高血圧、若年性アルツハイマー型認知症
性格等:明るく働きものの、元介護施設職員。自分がまだ現役であると錯覚していま
す。
ケアの内容
ケアの内容
・ ご家族に若年性アルツハイマー型認知症がどういうものであるか理解していただき、
今後Aさんにどういうことが予測されるかの情報を提供しました。
・
また、ご家族の了解を得て、地域の一番親しい人にAさんの病気についてお話し、
近隣の理解を求めました。
・ Aさんが安心して主体的に過ごせる居場所についてご家族と話し合い、認知症対応
型グループホームをお勧めしました。また、グループホームに移るに当たって、環
境の変化に慣れていただくために、見学から初めて少しずつ時間を長くして本人の
様子を見ながら移っていただきました。
ケア実践後
ケア実践後の
実践後のAさん
グループホームに移動してからのAさんは、自分の決まった居室と日々変わることの
ない顔ぶれで、穏やかな生活の中でゆっくりと過ごせるようになり、徘徊についても少
しずつ落ち着きを取り戻りつつあります。
地域の方がAさんに面会に来てくれるようになり、グループホームの他の利用者とも
触れ合うことで、一層認知症についての理解が深まっているようです。
事例からの
事例からの学
からの学び・伝
び・伝えたいこと
認知症ケアには、ご家族や地域の理解と協力が必要です。
また、安心して生活できる場はご本人にとってどこなのかの選択を間違えると、ご本
人の状態を悪化させる恐れがあります。
-33-
事例に
事例に関する補足説明
する補足説明
【若年性認知症の
若年性認知症の人への支援
への支援について
支援について】
について】
認知症を地域の人々に理解してもらうという取り組みは、ご本にとご家族の両者へ
の支援が欠かせない若年性認知症の場合は特に重要です。
また、早期にご家族やその関係者が、若年性認知症の特徴を理解することで、その時
の状態に合わせたご本人とご家族への支援体制づくりにつながります。
若年性認知症の人へのより社会的な対応として、外出、買い物、散歩などの野外活動、
社会参加や地域活動など数名の小集団の活動が良いと言われています。また、若年性認知
症の人の行動特性を考慮した対応として、以前従事していた職業に類似した作業やリハビ
リなど職業的な対応と、運動や肉体的作業も大切です。
-34-
生活習慣を尊重したケアに努めて
~若年性認知症の方への対応 2~
グループホーム
わこうの丘
所在地:和光市下新倉3-7-7
定
員:9名
事例の
事例の内容
会社員だったAさんは(50歳代後半・男性)は、2年ほど前から物忘れがひどく、
仕事上のミスや、金銭管理、日付が分からなくなり、翌年には物盗られ妄想も現れるよ
うになりました。
自覚症状もあり会社の上司と専門病院を受診したところ「アルツハイマー型認知症」
との診断で、告知も受けました。
ご家族は特別養護老人ホームに入所中のお母様お一人だけで、頼れる親族は一人もい
ない状態です。
退職を余儀なくされ、精神不安も強く、記憶障害、妄想とで独居生活を続けることが
困難になりました。
主治医の勧めもあり1年半ほど前にグループホームに入所しました。
課 題
ADLは自立しているもののIADL全般には声かけ、同行支援が実用です。趣味の
登山や母親の面会、好きな外食等が一人でできなくなっています。
また、女性の高齢者ばかりのグループホームで地域の若年性認知症の情報や社会資源
の乏しい中、意欲向上を求める生活プランづくりは大きな課題です。
Aさんの
さんの情報
要介護度:要介護1
障害高齢者の日常生活自立度:J-1
認知症高齢者の日常生活自立度:Ⅲb
既往歴:アルツハイマー型認知症
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性格等:人当たりが温和ですが、柔軟に物事の受け入れができない頑固な面がありま
す。一人での登山を好み、賑やかな雰囲気はあまり好みません。
ケアの内容
ケアの内容
・ 進行性の早さから日常生活習慣に支援が必要になりますが、Aさんは過剰支援と怒
り出すため、
「具体的にできていること、見守りでよいこと、声かけでよいこと、同
行支援が必要なこと」など、本人の自尊心を大事に試行錯誤しながらスタッフ間で
統一した支援をしました。
・ 趣味や楽しみについては、外食の際に一人で注文や食券を買うことができないため、
週1、2回はスタッフが個別対応で同行支援を行っています。山登りへは年2回ス
タッフ10名ほどで遠方までハイキングに出かけています。映画やボーリンング、
好きな小江戸散策、ゴルフ打ちっ放しも継続して同行支援を行っています。
・ お母様に面会に行く際は、電車の種類が各駅停車か急行かわからないため、ホーム
まで同行しています。また、携帯電話が使用できなくなったので、訪問先の特別養
護老人ホームの職員に連絡連携をお願いしました。
・
「思い出せない」、
「できていたことができない」ことから生ずる混乱や精神不安、
頼れる親族のいない寂しさへは、寄り添い話をじっくり聴き、険しさが増大し継続
する場合は、主治医に相談して服薬調整や対応へのアドバイスをもらうことにしま
した。
・
近隣の若年性認知症の会を見つけて何度か参加しました。しかし、「周りがうるさ
い」と強い拒否があり、一時休止しています。
・ハローワークや福祉センターに就労先やボランティアについて相談に行きました。し
かし、就労先もボランティアも見つからない状態です。
ケア実践
ケア実践後
実践後のAさん
一人暮らしができない悔しさについての認識はあるものの、「スタッフがいつでも傍
らにいて、できなくなったことへの質問にていねいに答えてくれ、助けてくれている。
山登り(ハイキング)や母親の所へも一緒に行ってくれるからよかった。」と話をされ
ています。精神不安と混乱は軽減し、妄想が見られなくなりました。しかし、Aさんの
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毎日の生活が充実するプランづくりが課題として残っています。
事例からの
事例からの学
からの学び・伝
び・伝えたいこと
根気よく、きめ細かく向き合って、一緒に悩み、考え、実行、見直しすることへの
試行錯誤を繰り返す、
そんな手探り状態をスタッフ全員が受け入れ達成していくことで
す。家族による精神的な支援もないAさんのような若年性アルツハイマー型認知症の人
への支援は介護だけでなく心理的、社会的要因に左右されることが大きく、生活の全局
面で一つひとつのことを他の職種にも丁寧につなげていく支援が必要です。ご本人への
洞察を行い、ストレスのない一日をいつも心がけることが大切です。
事例に
事例に関する補足説明
する補足説明
【若年性認知症の
若年性認知症の人へのケアについて】
へのケアについて】
若年性認知症の方への支援は、まだまだ試行錯誤の状態です。しかし、「自尊心を傷
つけない」
「感情を無視しない」
「残存機能に働きかけ、役割を認める」といった基本的
な援助の視点は変わらないと思います。
事例は、Aさんの生活習慣の継続を大切にし、一つ一つ丁寧に関係者をつなげ、あき
らめることなく取り組んでいます。
ケアスタッフはケアによる変化を求めがちですが、何らかのケアを行って変化がなか
ったとしても、それは大切な結果です。それらの情報を積み重ねることがケアの質の向
上につながるでしょう。
認知症の人のケアは介護スタッフだけでできるわけではありません。専門医のアドバ
イスや服薬調整も大切なポイントです。そのためには本人の日常生活、変化の様子を医
師に正しく伝えることが重要です。
認知症の早期発見・早期治療が大切なことは言うまでもありません。若年性認知症の
人のケア充実のためにも、職場や産業医の協力によって若年性認知症の早期発見・早期
治療が進むことが望まれます。
また、事例では、Aさんの毎日の生活が充実するプランづくりが課題として残ってい
ます。そのためには介護家族や介護サービス事業所に、専門的で幅広い情報が提供され、
身近な社会資源により支援を受けられることが望まれます。
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