危機管理・安全管理の要諦 (一社)日本在外企業協会 萩 隆之介 元・海外安全アドバイザー 不安定な中東アフリカ情勢、エボラ等の感染 ダや IS といった組織的なテロ攻撃に加え、ホー 症の流行、自然災害の多発、大気汚染等による ムグローン(自国育ち)やローンウルフ(一匹 健康問題など海外安全対策の対象が多様化して 狼)テロリストという、治安当局がその動静を いる。こうした状況下で今後の海外安全・危機 把握しにくい過激思想に染まったテロリストの 管理担当者対応のポイントについて触れたい。 存在が、ロンドンの地下鉄等同時多発テロ、ノ 全世界に拡散するテロの脅威 従業員に頻発性のある海外リスクは一般犯罪 ルウェーの極右主義者のテロ攻撃やボストンマ ラソン爆弾事件で浮上してきた。テロの手段も、 銃撃型から爆弾攻撃や自爆攻撃へ、さらには化 被害。犯罪内容や危険度は国や地域によって多 学兵器やサイバー攻撃といった形態に深化し、 様で、海外安全担当者は事例に基づく注意喚起 最新の通信技術が駆使されている。企業にとっ を渡航者や駐在員、帯同家族に発信し続けるこ てテロ対策の困難さは、そうした高度化、多様 とが肝要だが、被害の防止はひとえに渡航者等 化したテロ形態以外に、一義的には、そのター の自助努力によるところが大と心得るべきだ。 ゲットが日本人や日本の権益に向けられること 次はテロ問題だが、最近の傾向として注目す が少なく、被害のほとんどが巻き込まれリスク べき点は、その脅威が全世界的に広がっている であるということだ。従って海外安全担当者は、 ことだ。中東、アフリカはもとより、欧米やア 世界各国のテロ情勢に常に目を配り、テロの標 ジア諸国でもテロの危険性が高まっている。こ 的となり得る場所などに近づく機会を最少化さ の傾向は、アルカイダ系組織の従前からの脅威 せるといった判然としないテロ対策を常に迫ら に加え、 「イスラム国(IS) 」の勢力拡大による れることになる。 ものだ。欧米諸国と一部アラブ諸国の有志連合 政変、動乱も駐在員等にとって大きなリスク による IS への攻撃により、IS とその支持者の だ。国外退避か籠城かの判断、確実な退避策、 反発が高まり、報復攻撃の可能性がある。すで 通信手段の確保といった対応策が求められる。 に IS は、欧米のみならずサウジアラビア等へ 安全担当者は現地の声を聞くことも大切だが、 の攻撃を示唆している。欧米やアジア諸国も、 客観的な状況判断の下、早期の国外退避や安全 自国からの IS への参画者およびそれらの帰国 な場所への移動を現地に指示する決断力が必要 後の自国内でのテロ攻撃の脅威について懸念を だ。しかし、単に退避させるだけでなく、帰任 示し、対策を進めている。 のタイミングの判断も安全担当者にとって重要 テロリストと手段の多様化もある。アルカイ 38 Hagi, Ryunosuke 2015年1/2月合併号 な責務と言える。
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