JHOSPITALIST network 施設入所者が大腿骨頸部骨折を 起こすと予後は悪いのか? Survival and Functional Outcomes After Hip Fracture Among Nursing Home Residents JAMA Intern Med. 2014;174(8):1273-‐1280. doi:10.1001/jamainternmed.2014.2362 Published online June 23, 2014. 2015.1.6 亀田ファミリークリニック館山 山下 洋充 監修:亀田総合病院 総合内科 森 隆浩 症例 < Journal Club用に、 実際の症例をもとに作成しました > 【主訴】右股関節痛、歩行困難 【現病歴】認知症のため介護老人福祉施設に入 所中の82歳女性。居室で転倒し、右臀部を打撲。 歩行困難となったため、当院へ搬送となった。 【既往】アルツハイマー型認知症、糖尿病 【生活歴】ADL:歩行自立、食事軽介助、 排泄軽介助、整容半介助、着替え半介助 入院後経過 右大腿骨頸部骨折の診断となったが、来院 時に発熱が判明した。 初療の結果、単純性腎盂腎炎があることが 判明し、内科入院となった。 CQ: 研修医の時、指導医から大腿骨頸部骨折は 下手な癌よりも予後が悪い、と聞いたことがある・・・。 症例の疑問点のまとめ ・この症例における死亡率は どのくらいあるのか? ・今後、どの程度のADLになるのか? EBMの実践 5 steps Step1 疑問の定式化(PICO) Step2 論文の検索 Step3 論文の批判的吟味 Step4 症例への適用 Step5 Step1-4の見直し Step 1 疑問の定式化(PICO) • P : 施設入居中の人 • I : 大腿骨頚部骨折を発症 • C : 発症しない • O : 予後はどうなるか Step 2 論文の検索 ・DynaMed にアクセス ・キーワード:femoral neck fracture ・Prognosis の項目を参照 ※2015/1/1 参照 Step 3 批判的吟味 論文の背景 ・股関節骨折の発症により、死亡率が大きく上昇し ADLが低下することが知られている JAMA. 2009;302(14):1573-‐1579. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2000;55(9): M498-‐M507. ・長期の施設入居者は、市中に住む人に比べて 約2倍 股関節骨折を起こしやすい Age Ageing. 1996;25(5):381-‐385. ・施設入居者の方が、股関節骨折後の予後が悪い Osteoporos Int. 2003;14(6):515-‐519. ・先行研究は施設入居者が除外されていたり、サンプル サイズが小さいなどの制限があった。 論文のPICO • P : Medicareに加入し施設入居中の人 • I : 大腿骨頚部骨折を発症 • C : • O : 入院後180日以内の死亡率とADLはど うなるか。また、それらに影響を与える 危険因子は何か。 →Retrospective Cohort studyで検証 結果は妥当か? ①患者群は代表的であったか ②患者は予後リスクに関して十分均質で あったか ③追跡は十分に行われたか ④客観的でバイアスのかからないアウトカ ムの基準が適応されたか ①患者群は代表的であったか 患者群:2005年7月1日∼2009年6月30日の間 に股関節骨折のため入院した、全ての Medicareに加入している施設入所者。 →この期間にアメリカで生じた、 全ての症例がサンプルとなっている。 ②患者は予後リスクに関して 十分均質であったか • 患者群がどのような転帰を辿るのかを解析。 • その後、予後を悪化させるような危険因子が何で あるかを解析(補正分析) • 危険因子:性別、年齢、人種、Charlson score、元 の認知機能、元の移動能力、ADL、骨折部位、治療 方法 →予後リスクに関しては十分均質と考える ③追跡は十分に行われたか ・100% Medicare Provider Analysis and Review ・Long Term Care Minimum Data Set (MDS) :アメリカでは、施設入所者のADL・認知機 能を約90日毎に登録することになっている。 →包括的にほぼ全てのサンプルが もれなく追跡されている ④客観的でバイアスのかからない アウトカムの基準が適応されたか • Primary outcome:骨折後180日の時点での死亡率 死亡率:客観的でバイアスがかかりにくい • Secondary outcome:骨折後180日経過した時点で のADL、新たに全介助となる率 ADL:主観的だがretrospective studyなので既に評価済。 全介助:定義の記載あり。(1週間、全ての機会に おいて、スタッフが全介助する必要があったもの) 結果は何か ①時間経過とともにアウトカムはどれくら い生じやすいか ②確率の推定はどのくらい精密であったか ①時間経過とともにアウトカムは どれくらい生じやすいか 患者群の数 • 724,699 人のMedicare加入者が 股関節骨折を発症。 • そのうち、施設入居者は 60,111人 (8.3%)であった。→これを解析 生存曲線 中央生存期間 377日 Primary outcome ・60111 人のうち21766人 (36.2%)が骨折後180日以内に死亡した。 男性の方が優位に多かった。 Secondary outcome ・もともと全介助でなかった人 52734人のうち、 53.5%が180日以内に死亡か、全介助となった。 男性の方が優位に多かった。 患者群の特徴について 自立度 • 7つのADL : 移動、着替え、整容、排泄、 食事、 ベッド上の移動、 ベッドでの起居動作 • 全介助の定義:1週間、 スタッフが上記全て の内容について全介助を要したもの。 認知機能 • Cognitive Performance Scale (CPS)を使用 7段階の評価 (正常∼最重症の障害) MMSEと逆相関することが知られている Charlson score 予後予測に用いられるスコアリング。 基礎疾患を総計してスコア化している。 J Chronic Dis. 1987;40(5):373-‐83. ・26.6%がCharlson score 4以上 ・9.3%の人が、認知機能は保たれていた ・31%の人が歩行は自立していた。 ・歩行以外のADLが完全に自立している人は5.8%のみだった。 ・11.8%の人が手術されていない 骨折後のADLについて ・バーは、元々のlocomotionから変わらないラインを示す ・歩行がある程度保たれていた人のうち、 およそ20%程度しかもとのADLを維持できなかった 予後の危険因子について 左:全患者対象、 右:移動が全介助でなかった人 ・依存するADL項目が多いと予後が悪い ・頸部骨折が一番予後がよい ・内固定された患者が一番予後がよい Step 4 症例への適応 • 具体的な予後を予測することは困難。 • しかし、本患者は併存疾患をもち、高齢・ADL半 介助であることから、骨折後180日以内の死亡率は 30%程度あり、ADLの低下も予想されうる。 • これまでの認識以上に死亡率や全介助となる可能 性が高いことが判明した。その結果をご家族にも お伝えすることでAdvanced care planningに役立て ることができた。 Step 5 Step1∼4までの評価 • Step 1 問題の形式化を適切にできた • Step 2 短時間で行うことができた • Step 3 妥当性の高い論文であると判断できた • Step 4 本文献をもとに情報提供を行うことができた。 論文のまとめ 施設入居者が股関節骨折を発症した際、180日 以内の死亡率は36.2%であった。また、もとも と全介助でなかった患者のうち、半数が死亡、 または全介助となった。 予後の危険因子としては、男性・高齢・黒人・ 多数の併存疾患・認知機能低下・ADL依存・骨 折部位・治療方法があげられる。
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