「おれもティラノサウルスだ」 wq パペットシアター『わたししんじてるの』 (20分間ふれあい読書) 平成26年1月24日(金) 1 2 8:25~8:45 月組教室 指導者 深津 幸弘 ねがい パペットシアターを通して特別支援学級の子どもたちが本の世界を味わう姿を見てもらいたい。 子どものようすと教師の思い (1)子どものようす 6年生のAとBは、Aが昨年1月に、Bが本年度4月から相次いで通常の学級から月組に編入した。 Aは衝動性が強く、通常の学級ではすぐに友達に手が出てしまうことの多かった。また、Bは通常の 学級では周囲に気を取られがちで落ち着かず、周囲とトラブルになることも多い。しかし2人とも、 月組では別人のように落ち着き、にこやかな表情で日々の授業に取り組むことができており、卒業後 はそれぞれ中学校の特別支援学級に就学することが決まっている。 ふれあい読書でもAは、通常の学級での長編ものではなく、身の丈に合った絵本の読み聞かせの聞 き、本の内容を読み取ることができるようになった。 「ちっちゃなトラックレッドくん」(宮西達也・ 作・絵、ひさかたチャイルド)を読んだ次の日に続編の「ちっちゃなトラックレッドくんとブラック くん」(宮西達也・作・絵、ひさかたチャイルド)を読んだ後、「昨日のレッドくんはみんなにバカに されて自信がなさそうだったけど、今日の本のレッドくんはブラックくんを注意したり、一緒に山火 事を消す手伝いができたりして、立派だった」と主人公の成長を読み取ることができた。 (2) 本にかける教師のねがい 編入してきた6年生の2人にはなじみが薄いパペットシアターだが、月組の教室環境は『ティラノ サウルス』シリーズであふれており、言わば月組の代名詞でもある。また乱暴者と見られがちだった Aが、今は月、星組の下級生たちに囲まれて遊び相手となっている姿は、まさにティラノサウルスそ のものだ。5年前、自閉症のCがより本の世界を楽しめるように始めた「パペットシアター」は、人 数が増えると、学級のみんなで取り組む活動になった。1年前、編入してきたばかりのAが、卒業間 近のCとDの2人が行うのを見たのが本作『わたししんじてるの』 (宮西達也・作・絵,ポプラ社)の 「パペットシアター」である。この作品をパペットシアターで行うことで、Aも昨年のCやDと同じ く、まもなく根石小学校の月組を巣立っていくことを自覚してほしいと思って『ティラノサウルス』 シリーズの中でも本作を題材に選んだ。 また、本作のもうひとりの主人公であるトリケラトプスの少女リケラは家族の身を案じ、自らを犠 牲にしてまで家族を助けようとする。介護士になることを目標に、特別支援学級で落ち着いて学習す ることを選んだBに、ぜひ演じてもらいたいと思った。 通常の学級では変わり者として見られがちなAとBが、パペットシアターを演じる姿を6年松組の 友達に見てもらい、月組では2人が落ち着いて、生き生きとしていることを知ってもらいたい。さら に、特別支援学級で過ごすことで成長した姿を見せ、それが今後も2人にとっていかに必要なことで あることを、同級生たちが理解するきっかけとさせたい。また、先輩であるCやDがそうだったよう に、通常の学級でのそれとは異なる姿を見てもらい、同級生たちに認められることで、それぞれが自 信を持ち、中学校に進学しても頑張っていく原動力にしてもらいたい。 (3) 本との出会わせ方 事前に『ティラノサウルス』シリーズから数冊を読み、シリーズの特徴でもあるティラノサウルス の性格や「あかいみ」の役割について、よく理解しておけるようにしたい。本時では、パペットシア ターで『わたししんじてるの』(宮西達也・作,絵 ポプラ社)の読み聞かせを行う。地震で閉じ込め られた家族を助ける内容で、家族の絆や、救助にあたる恐竜たちの姿は東日本大震災での救助活動を 彷彿させる。相手から信じられることで変化する主人公の気持ちになり、信頼することの大切さ、絆 の深さを読み取ってほしいと思う。そして、月、星組の下級生たちに6年生の2人のパペットシアタ ーを見せる機会を通して、自分もパペットシアターをしたいと思い、障がいや学年は異なるが、この 教室で、一緒にティラノサウルスの世界を楽しめる仲間であることを深く味わわせたい。 3 計画 (○教師の思い) 『きみはほんとうにステキだね』 パペットシアター ○友だちができてよかったね。 ○せっかく友だちになれたのに残念だね。 本時 『わたししんじてるの』 パペットシアター ○みんなティラノサウルスを怖がっていたね。 ○ティラノサウスルはリケラを食べなかった ね。 「ティラノサウルスシリーズ」や宮西達 也さんの他の本を読んでみたいな。 ぼくたちも「ティラノサウルスシリーズ」のパ ペットシアターをやりたいな。 4 本時の活動 (1)ねがい ・卒業する2人とティラノサウルスのパペットシアターを行い、お話の世界を楽しませたい。 (2)授業の流れ 内 容 子 ど も の 活 動 教 師 の 活 動 1 本の紹介 ○人形劇を見てくれる6年松組の友 ○本の題名と作者名を書いた短冊黒板 達に本の題名、作者名を知らせる。 を提示する。 ・ティラノサウルスシリーズだね。 ・大型TVに本の表紙を表示する。 2 パペットシア ター ○『わたししんじてる』のパペットシ アターを演じる。 ・閉じ込められたお父さんとお母さ ん は大丈夫かな。 ○恐竜たちがトリケラトプスを助け ようとする場面を操演する。 ・いろいろな恐竜が助けに来たね。 ・お父さんたちは助かるのかな。 ・リケラがかわいそうだね。 ○リケラがティラノサウルスと救助 を試みる場面を操演する。 ・ティラノサウルスなら大丈夫かな。 ・リケラたちは食べられちゃうかな。 ○トリケラトプスのお父さんの頼もし い様子やリケラの不安さが伝わるよ うに読み聞かせをする。 ・Bに操演のし方を手振りで指示する。 ○恐竜たちが必死に救助を試みるもこ とごとく失敗する様子が伝わるよう に読み聞かせをする。 ○リケラの必死な気持ちをせりふに込 めるようにBに促す。 ○親子を食べようとしているのがよく わかるよう読み聞かせをする。 ・ティラノサウルスの悪者然とした口調 で読むようにAに促す。 ○お父さんたちを助け出す場面を操 ○リケラのティラノサウルスを信じる 演する。 気持ちが伝わるように読むのを促す。 ・恐竜たちの言うとおりなのかな。 ・Bに明るく、自信を持った感じで読む ・お父さんたちが助かってよかった。 ように指示する。 3 感想発表 ○読書ファイル ○感想を発表する ・お父さんたちが助かってよかった。 ・リケラはティラノサウルスにはも う会えないのかな。 ○それぞれ感想を書名、作者名など をファイルに書く。 ○A、Bから感想を発表させる。 ・感想に共感し,考えを補足する。 ・6年松組の子にも感想を発表させる。 ・A、Bと6年松組の双方にお礼のあい さつをするよう促す。 ○お話の内容、パペットシアターをした ことに関して、どちらの感想でもよい ことを伝える。 5.感想交流と教師の声掛けの分析 (パペットシアターの前に) T:A君、Bさんが何でこっち(特別支援学級)にきているといいのか、ということが理解してもれ たらいいなと思います。 T:本文の読み聞かせをしながら、背景の変更やその他の登場人物などシアターの操作をする。 A:ティラノサウルスのパペットを操演しながらせりふを言う。 B:リケラの パペットを操演しながらせりふを言う。 (感想交流) T:じゃあ、感想を言ってもらおうと思います。まずA君。 A:上手にできたのでよかったと思います。 B:どっちを言えばいいの? T:お話のことでも人形劇のことでもいいよ。 B:緊張したけど、きちんとできてよかたっと思います(声とても小さい)今日は声が小さかったの で、もっと大きな声でやればよかったと思いました。 C1:えっと、リケラはティラノサウルスに食べられるのかもしれないのに、あきらめなかったからす ごいと思いました。お父さんやお母さんを助けたいと思っている。 C2:ティラノサウルスは1日目はリケラを食べようと思っていたけど、2日目からは助けたいと思っ ていたのでやさしいなと思いました。 T:ティラノサウルスの気持ちが変わっていったね。 C3:ティラノサウルスはリケラのお父さんやお母さんのために怪我をしてくれたのでやさしい。 C4:リケラのやさしさがティラノサウルスに伝わったので、ティラノサウルスは本当はやさしいなと 思いました。 T:ただの乱暴ものじゃなかったんですね。 C5:ティラノサウルスは恐ろしいやつだと思っていたけど、本当はやさしいなと思いました。 T:そう、本当はやさしいんですね。 C6:ティラノサウルスが本当はやさしい心を持っていて、そのおかげで家族が助けられてよかったと 思いました。 C7:ティラノサウルスはリケラの家族のために洞窟の岩をどかしてあげたから、やさしいなと思いま した。 C8:ティラノサウルスははじめからリケラをたすけるためにやったんじゃないかなと思いました。 C9:赤い実は傷だけではなく、 心もよくしてくれるから、現実にあったら高く売れるなと思いました。 T:前に「作家と出会う会」で作者の宮西達也さんが根石小にみえた時、この「ティラノサウルスシ リーズの主人公は、赤い実なんです」っておっしゃっていたんですよ。 C10:真実で心を癒してくれているなと思いました。 C11:リケラはティラノサウルスのすみかまで行って、 「私を食べて」と言ったので、勇気があるなと思 いました。 T:家族のために一生懸命だったんですね。 C12:リケラが森のみんなに助けを呼んだら、みんな来てくれたからすごくやさしいと思いました。 T:みんなも一生懸命になってくれていましたね。 6.協議会より ① 本は子供たちに合っていたか ・昨年度、同じ話をやった。卒業生がパペットシアターを行い、それを見たのが当時、特別支援 学級に編入したばかりのA君だった。 (パペットシアターの)練習をしていて「これ卒業すると きにやるんでしょ?」とAが言ったのを聞いたときには、 (Aも小学校を卒業する実感を得られ たようで)やってよかったなと思った。 ・月、星組の他の子供たちが、あいさつだけで出番がなかったが、何か役割を持たせてあげられ たらよかった。 ・A、B2人のために選んだ本で、星組の下級生には内容的に少し難しかったかもしれない。で も人形劇を楽しんで集中してみていたし、特別支援学級なのだから、これくらい個別な対象を しぼってもいいのかなと思った。 ② 読み聞かせの技術 ・普段は高学年相手に抑揚を抑えて読んでいるが、今日位抑揚をつけたほうがよいのか? ・基本は子供の想像力の邪魔をしないために、できるだけ教師の脚色は抑えたほうがよい。 今日は、演じている2人がより感情表現しやすいように大げさに読んだが、聞いている6年生 には違和感があったと思う。ただ、低学年相手には、多少大げさに読むなど、聞き手に応じて 臨機応変に変えることも必要である。日頃は特別支援学級の子たちが相手なので、やはり抑揚 をつけている。 ③ 切り返しについて ・はじめにBさんが、本の内容について感想を言うのか、人形劇について言えばいいのか迷って いた。聞いていた6年松組の子供たちも同様だったと思うので、そのあたりで先生から声賭け があってもよかったのではないかと思う。 ・C9 がせっかく途中までいいことを言って、 「おっ!」と思ったが、最後は「高く売れると思う」 といつもの感じに戻ってしまった。その後で教師が作者の発言を引用して、上手にフォローし ていた。 ④ 感想発表について ・上記のように、感想交流のポイントに子供たちが戸惑っていた部分があった。 ・昨年度の主役だった子達は入学した時から特別支援学級の子がいたので、6年間交流し、お互 いに理解できていたため、通常の学級の子供たちが特別支援学級に対する接し方がとても上手 だった。感想交流にもその姿勢が表れていたが、その点で、今年の6年生は特別支援学級に子 供に接する機会がなく、その経験の違いが感想交流にも表れたと思った。インクルーシブ教育 の視点からも、今日の経験は貴重だったと思う。 ⑤ その他 ・Aが休み時間に「おれ、今日いろんな先生からすっごくほめられるんだけど」とうれしそうに 言っていた。まるでティラノサウルスのように「手のつけられない乱暴者」で通ってきた彼だ けで、学校でほめられる機会も少なかったと思う。
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