NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE Title プロペラファンの翼端渦によって発生する周期的な空力騒音に関す る研究(羽根枚数の影響) Author(s) 佐々木, 壮一; 村上, 寛明 Citation 長崎大学大学院工学研究科研究報告, 44(83), pp.7-12; 2014 Issue Date 2014-07 URL http://hdl.handle.net/10069/34564 Right This document is downloaded at: 2015-01-31T23:39:45Z http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp 7 長崎大学大学院工学研究科研究報告第 44 巻第 83 号 平成 26 年 7 月 プロペラファンの翼端渦によって発生する周期的な 空力騒音に関する研究(羽根枚数の影響) 佐々木壮一* ・村上寛明** Study of Periodical Aerodynamic Noise Generated due to Tip Vortex of a Propeller Fan (Influence on Number of Blades) by Soichi SASAKI* and Hiroaki MURAKAMI** In order to discuss the major factor on the noise characteristics of a propeller fan, the influence of the number of blades on the periodical fan noise generated due to the tip vortex is analyzed. The influence of the tip vortex on the fan noise is argued by the measured internal flow. For the analysis of the structure on the mean flow in the blade passage, the phase of the unsteady signal of the wake is locked by the trigger signal synchronized with the rotation signal. The noise generated from the tip vortex became 200 Hz even if the number of blades was different. We clarified experimentally that the periodical noise due to the tip vortex became small according to the scale of the tip vortex. Key words: Fan, Turbomachinery, Tip Vortex, Aerodynamic Noise, Wake, Velocity Distribution 1.はじめに 端渦と離散周波数騒音との関係については今後の課題 エンジン冷却に使用されるプロペラファンは、その となっている.2003 年に,深野らは(4) ,低流量域にお エンジンブロックが抵抗となるために低流量域の非設 ける軸流ファンの翼先端近傍の相対流れ場を解析し、 計点で運転される.また、エアコンの室外機で利用さ 羽根周りの流れ場と発生騒音との関係を検討している. れる空冷ファンも、その熱交換器が抵抗となるために 同研究では,設計点よりも低流量域で翼端漏れ渦と隣 低流量域で運転される (1) .このため,従来のプロペラ 接翼の干渉が生じると,隣接翼圧力面近傍で大きな圧 ファンの空力騒音に関する研究では、低流量側の特性 力変動が生じ,音圧レベルを上昇させる原因になるこ が議論されてきた.深野ら (2)は,1990 年にプロペラフ とが指摘されている.これらの研究成果の貢献によっ ァンの騒音特性に及ぼす設計パラメータの影響につい て,軸流ファンの翼端渦によって発生する空力騒音は て議論している.同研究では,ファン騒音に及ぼす軸 隣接翼干渉によるものであるとの見解が定着した.著 方向相対位置や翼先端隙間の影響が評価されているが, 者らの研究グループは (5) ,プロペラファンの空力騒音 翼端渦と空力騒音との関係については言及されていな に関する研究において、(1) 最高効率点近傍において い.張ら (3)は,2002 年に低圧軸流ファンの設計作動点 も設計条件次第では翼通過周波数とは異なる周波数に における翼端漏れ流れの挙動ついて調査している.同 同期した空力騒音が存在すること、(2) 流れが低比速 研究グループは漏れ渦中心の比較的高い周波数に離散 度型羽根車の流動様相となるとき,その周期的な騒音 的成分が含まれていることについて触れているが,翼 が増加することなど,従来とは異なる翼端渦による空 平成26年7月3日受理 * システム科学部門(System Science Division) ** 総合工学専攻(Department of Advanced Engineering) 8 佐々木壮一・村上寛明 力騒音の特徴を実験的に示した.この周期性騒音もま た翼端渦と羽根周りの構造物との干渉によって生成さ れる.しかし,プロペラファンのようにダクトケーシ ングを有さないファン騒音については必ずしも従来の 軸流ファンと同じ議論ができず,翼端渦による周期性 騒音に対する優位な干渉の機構については慎重な議論 が必要である.また,このファン騒音に及ぼす羽根枚 数の影響を翼端渦の挙動に注目して検討した研究はほ (a) P7 とんど見当たらない. 本研究では,プロペラファンの騒音特性に及ぼす主 要な因子を検討するために、羽根枚数が翼端渦による ファン騒音に及ぼす影響を解析する.ファン騒音の特 性と内部流動の関係を比較しながら、翼端渦が及ぼす ファン騒音への影響について考察する. おもな記号 D;羽根車直径(mm) (b) P14 f;周波数(Hz) L;軸動力(W) Lp ;音圧レベル(dB) N;回転数(rpm) Ps ;静圧(Pa) Q;流量(m3/s) R;羽根車半径(mm) r;半径方向位置(mm) U;周速度(m/s) (c) P24 Vx;絶対速度の主流方向成分(m/s) Vy;絶対速度の水平方向成分(m/s) Fig. 1 Test impeller Vr ;絶対速度の半径方向速度成分(m/s) vθ ;絶対速度の周方向速度成分(m/s) v’;絶対速度の速度変動(m/s) x;主流方向距離(m) Table 1 Main dimensions of impeller Impeller y;水平方向距離(m) Number of Blades , Z z;垂直方向距離(m) Chord (tip side) , C (mm) Z;羽根枚数 Diameter , D (mm) P7 P14 P21 7 14 21 Hub Tip Ratio , ν φ;流量係数 Thickness , t (mm) 122 613 0.424 3 ψs ;静圧係数 λ;動力係数 ハブ比 ν は 0.424 である.以下の説明では、羽根枚数 7 η;効率 3 ρ;密度(kg/m ) 枚,14 枚および 21 枚の羽根車によるファンを P7,P14 ν;ハブ比 および P21 と呼ぶことにする. 図 2 には,ファン性能の試験装置の概略図が示され 2.実験装置および測定方法 ている.測定胴の断面は 1m×1m であり,その全長は 図 1 は羽根車の外観を示したものである.表 1 には 約 3.5m である. 羽根車の取り付け基準位置から 600mm その主要寸法が整理されている.羽根車の寸法は、羽 上流側の動圧がピトー管によって測定され,送風機の 根枚数を除いて同じである.羽根車の直径 D は 613mm, 流量はその動圧によって決定されている.流量は測定 9 プロペラファンの翼端渦と空力騒音に関する研究(羽根枚数の影響) z x 5-hole Pitot Tube Static Pressure Tube Pitot Tube Hot-wire y z 400 3990 300 300 1000 700 1050 Main flow component, Vx x Meridian Meridian Plane plane 500 Torque Motor Meter 1000 Strut y Impeller Horizontal component, Vy Damper Main Flow Fig. 2 Experimental apparatus of the propeller fan for (a) Horizontal plane measurement of the aerodynamic characteristics Vertical Plane 1000 Noise Level Meter Torque Strut Meter Motor z Main flow component, Vx x Impeller r Damper Radical component, Vr y Fig. 3 Measurement method of the fan noise Main Flow 胴の出口側に設けられたダンパーによって調整される. (b) Vertical plane 送風機の静圧は測定胴の出口側から 400mm 上流側に 設けられた静圧管によって測定される.電動機の軸動 Fig. 4 Measurement plane for the internal flow 力がトルク計(小野測器,SS-500)によって計測され, 送風機の効率を算出することができる.送風機の無次 ルが得られる. 元特性は式(1)で定義される。 4Q , π (1 ν2 ) D 2 U s 8L , (1 ν2 ) D 2 U 3 図 4 には,流れの測定断面が示されている.ファン 2 Ps U2 の内部流動は X 型プローブ(KANOMAX, 0249R-T5) (1) s によって測定される.図 4(a)の子午面では、主流方向 成分 Vx と水平方向成分 Vy が測定される.図 4(b)の垂 直面では、翼間流路の時間平均的な流れの構造を解析 ここで、φ は流量係数、ψ s は静圧係数、λ は動力係数、 するために、主軸の回転に同期したトリガー信号を利 η は効率である。主軸の回転数は 1200rpm となるよう 用して、後流の時間変動信号の位相を固定させた.こ にインバータで制御されている. のとき X 形熱線プローブでは主流方向と半径方向の二 図 3 はファン騒音の測定方法を示したものである. つの速度成分 Vx および Vr が測定される.各測定位置 ファン騒音は羽根車の回転軸上 1.0m 上流側の点で, における位相が固定された時間変動信号には 64 回の 精密騒音計(小野測器,LA4350)に取り付けられた 加算平均処理が与えられている.図 5 はトラバース装 1/2 インチマイクロホンによって測定される.精密騒 置による流れ場の測定面を示したものである.翼先端 音計からの出力信号は FFT アナライザ(小野測器; 近傍の流れ場を詳 細に解析する ために,主 流方向に CF5210)へ入力され,周波数分析された騒音スペクト 160mm,水平方向に 80mm の範囲を 5mm 間隔で合計 10 佐々木壮一・村上寛明 10 160 110 P7 P14 P21 80 Lp , dB 100 Measurement Plane 80 Impeller 300 90 N = 1200rpm Driving Shaft 70 0 0.1 φ=0.3 0.2 0.3 φ 0.4 0.5 Fig. 7 Relation between the flow rate and the sound Fig. 5 Measurement plane for the internal flow at the flow pressure level of the fan noise field of blade tip side 100 0.5 0.5 N = 1200rpm P7 P14 P21 0.3 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 0 0 80 0.4 η ψs 0.4 φ=0.3 0.1 0.2 0.3 0.4 P14, φ=0.3 (87.0 dB) P14, φ=0.15 (89.9 dB) P21, φ=0.3 (84.9 dB) DFN 0 0.5 Lp , dB 0.6 60 N = 1200 rpm 40 BPF (280Hz) 20 BPF (420Hz) 102 103 104 f, Hz φ Fig. 6 Comparison of the aerodynamic characteristics by Fig. 8 Comparison of the spectral distribution of the fan the difference of the number of blades noise in the different operation point 561 点測定した. 通過周波数はそれぞれ 280Hz と 420Hz である.設計 流量では,いずれのファンとも翼通過周波数に同期し 3.結果および考察 図 6 は三種類のファンの空力特性を比較したもので た離散周波数騒音が発生している.本実験装置の構成 では,羽根車の後方 に干渉物がな いことから,こ の ある.ファンの特性を解析するための設計点には,最 BPF 騒音は動翼回転騒音であると考えられる (6).一方, 高効率点近傍の流量係数(φ=0.3) が採用されている. 200Hz に同期した周期性騒音は低流量の運転状態で 設計流量では,P7 の静圧が三者の中では最も低く, 大きくなり,その騒音レベルは BPF 騒音よりも大き P21 の効率が最高になった.図 7 では,ファン騒音の くなる. 音圧レベルの特性が比較されている.設計流量では, 図 9 は流量係数と周期性騒音の音圧レベルの関係を P7 と P14 の音圧レベルは約 87dB であり,P21 の音 整理したものである.白抜きの凡例が翼通過周波数に 圧レベルはそれらよりも約 2dB 小さくなった.以下の 同期した BPF 騒音であり,黒塗りが 200Hz に同期し 考察では,特に,P14 と P21 に焦点を当てながら騒音 た周期性騒音である.例えば,P14 の BPF 騒音の音 の特徴を比較する. 圧レベルは 200Hz に同期した周期性騒音よりも 10dB 図 8 は設計点におけるファン騒音の音圧レベルのス 以上大きく,設計流量におけるファン騒音の支配的因 ペクトル分布を比較したものである.P14 と P21 の翼 子は BPF 騒音であることがわかる.一方,設計流量 11 プロペラファンの翼端渦と空力騒音に関する研究(羽根枚数の影響) 100 90 Lp , dB N = 1200 rpm P14 BPF Noise P21 BPF Noise P14 DFN in 200Hz P21 DFN in 200Hz -0.4 -0.4 0 80 0 20 0 0 60 -0.4 -0.4 -0.4 -0.4 0 0 50 40 30 20 40 60 80 x, mm -0.4 0.4 0.4 0 70 -0.4 70 0 -0.4 -0.4 N =-0.4 1200-0.4 rpm φ = 0.3 -0.4 -0.4 -0.4 -0.4 0 -0.4 -0.4 80 -0.4 -0.4 -0.4 y, mm -0.4 100 120 10 -0.4 -0.4 0 160 140 φ=0.3 60 0 0.1 0.2 0.3 φ 0.4 0.5 Fig. 11 Distribution of the velocity fluctuation on the tangential component of the absolute velocity in the blade tip side Fig. 9 Noise characteristics of the blade passing frequency 0.3 N = 0.31200 rpm 0.3 φ = 0.3 500 450 15 20 0.3 35 30 250 15 10 200 100 φ=0.3 50 0.7 0.6 0.6 0.7 50 0.6 0.9 0.7 0.9 0 20 40 0.9 10.9 0.8 0.8 0.9 0.8 1 1 60 0.9 0.7 0.7 0.8 0.8 0.5 0.8 0.9 0.8 1 0.9 0.8 0.9 0.8 0.9 0.8 0.8 80 x, mm 100 120 140 0.9 40 30 20 10 0 160 Fig. 12 Distribution of the velocity fluctuation of the absolute velocity in the 200 Hz 500 450 350 400 250 300 150 200 100 0.5 70 60 0.7 0.3 0.4 0 0 50 0.6 0.6 0.4 150 N=1200rpm 0.5 0.3 0.4 y(r),mm 300 80 0.4 0.8 350 20 0.3 0.4 400 25 0.3 0.3 0.3 y, mm noise and the periodical noise in 200 Hz x, mm を決定する因子は 200Hz に同期した周期性騒音であ (a) P14 ると考えられる. 500 20 25 35 30 図 10 は子午面における軸方向速度の分布を示した 400 350 ものである. 図 10(a)が P14 の速度分布であり,図 10(b) 300 15 250 10 200 が P21 の分布である.いずれのファンともその速度分 y(r),mm 15 450 150 N=1200rpm φ=0.3 度型羽根車の流動様相となる場合,翼端渦と羽根車の 円周上に配置される構造物との干渉による騒音は発生 50 しにくいと考えられる. 450 500 400 300 350 200 250 100 150 0 なる.文献(5)を参考にすれば,その後流が高比速 100 0 50 布は軸方向へ分布する高比速度型羽根車の流動様相と x,mm (b) P21 図 11 には,P14 の翼端近傍の流れ場(図 9 の破線 の領域)における絶対速度の周方向成分の変動量の分 布 が示 さ れ てい る . その 速 度 変動 量 は 60mm から 80mm 下流の領域で強くなっている.半径方向へ広が る翼端渦がこの位置で強く巻き上がり,この渦流れは Fig. 10 Velocity distribution in the meridian plane 100mm 下流側より拡散すると考えられる.図 12 は軸 方向速度の 200Hz における変動量の分布を示したも よりも低流量域では,BPF 騒音が低下するのに対して, のである.この速度変動量の分布も 100mm 下流の位 200Hz の周期性騒音は増加している.図 7 のファン騒 置を境にして,その変動量が弱くなっている.以上の 音の特性を勘案すれば,低流量域におけるファン騒音 結果から,プロペラファンの近距離場後流における翼 12 佐々木壮一・村上寛明 1.4 1.2 r/R 1.0 0 -1 -10 0.8 0.6 -1 P14 翼端渦が隣接翼に干渉することによって発生する騒 0 -1 210 -1 期性騒音は P14 よりも小さくなったと考えられる. 4.おわりに -1 0 -1 d 0 -1 210 -1 0.4 ルに応じて,P21 の設計流量における 200Hz 近傍の周 0 0 0 効率点近傍で羽根枚数 21 枚のプロペラファンから発 -1 0 0.2 音の周波数は羽根枚数によらず 200Hz になった.最高 生する翼端渦の発生周波数に同期した音圧レベルは、 0 210-1 羽根枚数 14 枚のものよりも小さくなった.この翼端 0 -1 -1 0.0 -1 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 r/R 渦によって発生する周期性騒音は翼端渦のスケールに 応じて小さくなることを明らかにした. (a) P14 参考文献 1.4 (1) 中島, 他 2 名, プロペラファン周りの流れ場と騒 1 1.2 r/R 1.0 0.8 P21 d 端流れ挙動の違いと騒音の関係について, 日本機 0 10 械学会論文集(B), 76(767), 2010, pp. 32-37. 0 -1 1 10 0.6 0 0 0.4 0.2 音の関係に関する実験的研究 : 動作点による翼 (2) 深野徹,川越和浩,福原稔,原義則,木下歓治郎, 0 -1 10 -1 10 -1 0 00 0 0 プロペラファン の騒音低 減化に関す る実験的 研 1 究(第 2 報, 騒音特性), 日本機械学会論文集(B), 00 1 0 1 0 -1 0.0 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 r/R (b) P21 56(531), 1990, pp. 3383-3388. (3) 張春晩, 緒方伸好, 古川雅人, 深野徹, 軸流ファ ンにおける翼端 近傍の三 次元流れ場 と速度変 動 特性(騒音発生に関連して), 日本機械学会論文 集(B), 68(673), 2002, pp. 2460-2466. (4) 深野徹, 緒方伸好, 張春晩, 軸流ファンの翼端漏 れ流れと隣接翼の干渉により発生する騒音, 日本 Fig. 13 Velocity distribution of the radial component in the 機 械 学 会 論 文 集 (B), 69(685), 2003, pp. vertical plane 2010-2016. (5) 佐々木壮一,鳥瀬一貴,村上寛明,プロペラファ 端側には 200Hz の周波数で変動する構造的な渦流れ が存在することがわかった. 図 13 は垂直断面における半径方向速度の分布を比 較したものである.いずれも翼端渦が隣接翼の正圧面 と干渉し、上向きの流れが生成されている.また、P21 の翼間ピッチが狭くなるために、P21 の翼端渦のス ケールは P14 よりも小さくなる.この翼端渦のスケー ンの翼端渦と空力騒音に関する研究(軸方向相対 位置の影響), 長崎大学大学院工学研究科研究報 告, 43(81), 2013, pp. 1-6. (6) C. L. Morfey, H. K. Tanna, Sound Radiation from a Point Force in Circular Motion, Journal of Sound and Vibration, 15(3), 1971, pp. 325-351.
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