Application Note | CST モバイル端末の RF 共存問題 スマートフォンの端末には GPS や GLONASS などのナビゲーションシステムをはじめマルチバンドアン テナ、Wi-Fi、Bluetooth、NFC など多岐にわたる RF システムが搭載されます。設計では、これらすべて のシステムを、コサイト干渉が生じないように共存させる必要があります。この資料はスマートフォン のアンテナに生じるコサイト干渉を調べる方法として CST STUDIO SUITE と Delcross EMIT による解析 を紹介すると共に、シミュレーションを通じて干渉対策を検証する方法についてもご説明します。 載置したアンテナの性能 この資料では 3 つの RF システム(セルラー、Wi-Fi、 アンテナの動作周波数にそれぞれ遠方界モニターを GPS)に関する解析をご紹介します。セルラーと 設定し、周波数 0∼6GHz の範囲で時間領域ソルバー Wi-Fi は信号の送受信を、GPS は受信のみを行いま によるシミュレーションを実行します。シミュレー す。使用したスマートフォンモデルは説明のための ションの結果として、アンテナの広帯域結合(アイ もので、実際の製品モデルではありません。 ソレーション)を表す S パラメータ(図 2)と、ハ ンドセット環境における電波品質低下を表す遠方界 スマートフォンモデル(図 1)は CST STUDIO SUITE 内蔵のモデラーで作成しました。このモデルには上 記の 3 つシステムのアンテナが含まれます。 分布が得られます。シミュレーションのパフォーマ ンスを引き上げるために GPU アクセラレーション を使用します。 図 1: スマートフォンモデルとアンテナ 1 Application Note | CST セルラーシステムは送信モード(Tx)と受信モー ド(Rx)で動作し、U-Blox 社 LISA 通信モジュー ルを使用する。同社 LISA 通信モジュールは GSM-800、E-GSM-900、PCS-1900 の各帯域をカ バーし、Tx パスに同社のパワーアンプを含む。 Wi-Fi システムは送信モード(Tx)と受信モード (Rx)で動作し、LSR 社 TiWi シリーズのチップ セットモデルを使用する。 図 2: アンテナの結合を表す S パラメータ RF システムのセットアップ GPS システムは受信モード(Rx)のみで動作し、 一般的な GPS 受信機モデルを使用する。 今回の事例では、上記の 3 システムがアンテナ各 1 を使用しますが、EMIT では送受信がそれぞれ異な CST STUDIO SUITE の組み込みマクロ”Export to るアンテナを使用するデュプレックスシステムのモ EMIT” を使用して、すべての計算を終了した結果デ デリングも可能です。送受信がそれぞれ異なるチャ ータを EMIT に送ることができます。S パラメータ ネルを通して行われるデュプレックスシステムの自 と放射分布、および CAD データを単一ディレクト 己作用を計算することができます。 リに保存し、EMIT からのアクセスを可能とします。 ファイルのインポート後、次のステップとして RF コサイト解析 システムを定義します。EMIT にはラジオ、アンプ、 フィルタなどの部品ライブラリがあり、アセンブル によるシステム定義が可能です。これら部品モデル にはチャネル、モジュレーションやミキサの成分、 ラジオプログラムが含まれます。ライブラリに無い カスタムモデルとして作成することができます。今 回の事例では、下記のようにシステムをセットアッ 定義した RF システムの間に生じる可能性のある干 渉を計算します。コサイト干渉では 2 通りのシナリ オを考慮する必要があります: ひとつはシステムと システムが直接干渉する 1 対 1 シナリオ、もうひと つは複数のシステムが同時に送信することにより相 互変調が生じる N 対 1 シナリオです。 プします: 図 3: EMIT プロジェクトの操作画面 - インポート形状と 放射分布(中央)と広帯域結合データ(右) 図 4: GPS システムの 1 対 1 解析と N 対 1 解析の両方の 結果を示す干渉マトリクス。 2 Application Note | CST N 対 1 解析に比べ 1 対 1 解析はシミュレーションす よって生じるもので、Rx 側にフィルタを挿入して除 るチャネル数が少なく、それだけ早く計算が終了し 去します。 ます。N 対 1 解析は 1 対 1 シナリオのすべての組み 合わせを計算するため時間を要します。したがって 先に 1 対 1 解析を行い、特定された問題を解決する のが効率の良い進め方です。 1 対 1 解析 1 対 1 解析が終了すると EMIT は干渉マトリクスを 生成します。干渉マトリクスでは、干渉問題が生じ る可能性のある組み合わせを赤色で、その他の組み 合わせを緑色で表示します。図 4 の干渉マトリクス 図 5: 2472MHz の EMI。赤い矢印は帯域外干渉を、緑の 矢印は帯域内干渉を示す。 は、セルラー送信機の動作中に Wi-Fi 受信機に干渉 が起きる可能性があることを示します。 赤色のマス目をクリックして詳細を表示し、各チャ ネルの最大 EMI を見ることができます。今回の干渉 問題は 2 つのグループに分けられます: 最初の 3 つ のチャネルは 48dB 程度の EMI マージン、その他の チャネルは 22~25dB の EMI マージンを有します。こ の結果は、2 つの事象がそれぞれ独立して存在する ことを示唆します。 最初のグループについては、広帯域(ポイント)EMI 図 6: 2437MHz の EMI。赤い矢印は、このチャネルにお ける干渉の根本原因を示す。 マージンに 2 つのピークが見られます(図 5) 。ピー クの 1 つは Rx 帯域内(インバンド)に、もう 1 つ は帯域外(アウトオブバンド)にあって、WiFi Rx チャネルが GSM-800/900 から帯域内外で干渉を受 けることが分かります。 N 対 1 解析 1 対 1 干渉問題が特定できたら、N 対 1 解析に進み ます。この解析では複数の送信システムがあるシナ 帯域外の干渉は、GSM からの Tx 基本波が Rx の非 リオについて、システムが同時に動作するシミュレ 理想的なスプリアス応答に入るために生じ、Rx 側の ーションを、すべての組み合わせについて行います。 フィルタリングによって除去可能です。一方、帯域 内の干渉は GSM の Tx 高調波によるもので、Rx 側 のフィルタリングでは除去できず、高調波の低減が 必要となります。これは Tx 側に低域通過または帯 域通過フィルタを挿入することにより実現可能です。 その結果、干渉マトリクスは(個別では問題が無か った)Wi-Fi とセルラー送信機が同時に動作すると GPS システムに干渉が生じることを示し、相互変調 成分(IMP)による干渉であることを示唆します。 2 つめのグループについても、広帯域(ポイント) EMI マージンにピークが見られます(図 6)が、こ の場合は帯域外です。帯域外の干渉は GSM-800/900 と PCS-1900 からの Tx 基本波と Wi-Fi Rx スプールに 3 Application Note | CST タの使用により、Wi-Fi 受信機に干渉する高調波も 軽減することができます。 図 8:フィルタ挿入後の干渉マトリクス 問題が起きないように電波を共存させるには、2 種 類のフィルタが必要です: Wi-Fi 受信機に帯域通過フ 図 7: IMP による干渉: L1 帯域(上)と L2 帯域(下) ィルタを挿入し、帯域外干渉を除去します。またセ ルラー送信機に高調波フィルタを挿入し、帯域内干 解析結果では(図 7)L1 と L2 両方の帯域に干渉が見 渉を除去します。 られます。送信周波数により生じた相互変調を解析 他のコンポーネントと同様に、上記のフィルタもモ すると、干渉の原因が 2 次 IMP(L1) と 5 次 IMP (L2) デルに挿入できます。ここでは EMIT 内蔵の区分的 であることが分かります。たとえば L1 帯域では、 に線形なフィルタモデルで、ジェネリックフィルタ Wi-Fi と GSM-850/900 送信波により (2412MHz – 849 の応答を近似します。実際のフィルタ応答が既知で MHz)=1563 MHz に 2 次 IMP が生じます。L2 帯域 あれば、その Touchstone データファイルをインポー では、Wi-Fi と GSM-900 送信波により (4*915MHz – トしてシミュレーションに使用することができます。 2412 MHz)=1248 MHz に 5 次 IMP が生じます。 フィルタモデルを追加したシミュレーションの結果 モデルの構成要素で IMP を生成する可能性がある を図 8 に示します。干渉マトリクスはオールグリー のはパワーアンプのみです。したがって、セルラー ンで、共存が達成されたことを示します。 アンテナと結合した Wi-Fi 送信波が干渉源であり、 Wi-Fi 信号とセルラー信号がパワーアンプで結合し た結果 IMP が発生し GPS アンテナに再放射したと 考えられます。 まとめ 多数の RF 装置を搭載する端末では、共存問題が重 要な課題となります。CST STUDIO SUITE と EMIT 除去フィルタ によってコサイト干渉問題を解析し、さまざまな対 相互変調の問題は、セルラー送信機にフィルタを挿 策をテストすることができます。 入し、帯域外 Wi-Fi 信号がパワーアンプに到達しな いようにすることで防止できます。帯域通過フィル 禁無断転載 不許複製 ©2014 AET,Inc 株式会社エーイーティー 〒215-0033 神奈川県川崎市麻生区栗木 2-7-6 TEL (044) 980 – 0505 (代)
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