「ホスピタリティマインド」を軸に サービス精神で取り組む事業所づくり

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「ホスピタリティマインド」を軸に
サービス精神で取り組む事業所づくり
株式会社アール・ケア 常務取締役/通所介護事業部長 大月 博
1975年岡山県生まれ。岡山医療技術専門学校作業療法学科を卒業後,訪問リハビリテーションに魅力を感じ株式会
社アール・ケアに入社。9年間の訪問リハビリテーション業務を経て,通所介護事業所の立ち上げ,運営を経験。現在
は同社取締役,通所介護事業部長を務める。
「マナー」とは,相手に不快感を与えない最低
当社ではこの制度創設による顧客ニーズの変化
限のルールと考えることができる。一方,
「ホス
として,当初からHMを軸として,
「おもてなし」
ピタリティ(hospitality)
」とは,一般的に「思い
や「接遇」
,そして本来の自立支援を目的とした
やり」
「心からのおもてなし」を意味し,特にサー
「リハビリテーション機能の充実」を念頭に置い
ビス業で多く使用される言葉である。さらに,ホ
たサービス提供を信条として事業展開を図ってき
スピタリティマインド(hospitality mind〈以下,
た。本稿では,このような思考を深めると同時に,
HM〉
)とは,サービス業でサービスを提供する前
通所介護における当社の取り組みを具体的に紹介
提となる「相手を想う心」を指し,その意味では
する。
介護サービスを提供する基本となるものである。
近年,通所介護においてもHMの重要性が高まっ
サービス向上のための5つの要素
てきた。2000年4月の介護保険制度創設に伴い,
当社は,以下に示す5項目をサービスづくりの
それまでの措置制度の時代とは次の3つの点で介
基本として重要視している。
護の概念が変化した。
1.介護保険制度のルールにのっとり,提供票に
・「援助」という言葉に代表される「貧しい人や
記載された提供すべきサービスを追求するこ
弱者を助けてあげる」という提供者主体の概念
と。これは事業者としての義務であり,介護
から,平等な立場で支え合う「支援」という言
報酬を受ける以上,決して外すことができな
葉に変更された。
い要件である。
・民間事業者の参入により,介護サービス上で競
争原理が作用しやすくなった。
・応益負担によって「サービスは選んで買う」と
いう制度に変更された。
2.提供票に記載されたニーズを上回る生活機能
や身体機能の向上,つまり理学療法士・作業
療法士・看護師などの専門職によるメニュー
立案と,運動療法をはじめとするさまざまな
つまり,「利用者」は「お客様」に変わり,お
リハビリテーションの提供,そしてその効果
金を支払い,市場で優れたサービスを買う時代に
を視覚化するハードとソフトの導入。
変わったことを意味している。
これらの要件を含む制度創設は,介護事業が一
3.サービス業としてのスタッフの心構えとHM
の醸成。
般サービス業に限りなく近づいたことを意味してい
4.利用者の満足度をさらに高めるサービスとし
る。しかし,未だに,HMを前面に押し出した展開
て,
「相手を想う心」が表現できる「接遇」と
を図る事業者が少ない実情があるように思われる。
「アメニティ整備」
,
「事業所の佇まい」を追求。
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通所介護 &リハ 2014
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たたず
5.これらに「苦情の収集」をもって,総合的に顧
てくれる,自分の携帯電話がいつでも遠慮なく使
客満足度(Customer satisfaction〈以下,CS〉
)
えるなど,こんな小さなことの積み重ねだけでも,
を高めることのできる仕組みづくり。
他社とのサービスの比較が行え,明確に差がつい
サービス提供の基本的信条
ていく。つまり,価格が同じであるため比較要素
が明確になり,付加価値の多い事業所ほど勝利し
当社は,介護事業を「自立した真のサービス業」
やすいという構図になっているのだ。
と明確に位置付けて取り組んでいる。
「どうせ9
ここまでは基本的信条について述べたが,次か
割引のサービスだから,これくらいやれば十分だ
ら具体的な実施事項について話を進めたい。
ろう」という意識を持つことや,
「どうせ80歳の
高齢者だから,この程度でよいだろう」という考
行政用語から社会用語へ
え,さらには限界もあるが,
「介護報酬が低いか
当社では,介護業界で今日まで当たり前のよう
らこれ以上資金は投入できない」という言い訳は,
に使われてきた「利用者」という用語を完全に廃
当社では全く通用しない。
止し,
「お客様」
(以下,
「利用者」を「お客様」
その上で,筆者は,通所介護を業として地域で
と記載)という用語を使うことを徹底している。
勝ち抜くことは,原理原則で言えばそんなに難し
「利用者」は介護保険上での行政用語であり,「お
いことではないと考えている。その理由を,ホテ
客様」はサービス業における社会用語であること
ル業を例に挙げて説明する。
が完全廃止の理由である。本当にサービスを高め
全国各地には,あらゆる価格帯のホテルがあ
ていこうという確固たる意思があるならば,ここ
る。できるだけ出張費を抑えたいのであれば1泊
が入口となるという点で改革した。そして,これ
5,000円を下回る安価なホテルから,一般室でも
については数年前より100%実行されている。
1泊50,000円を超えるホテルまで多岐にわたる。
これは,私たちは「介護」という形のないサー
しかし,どちらが優れていて良いものなのかは顧
ビスを販売する業者であると考えると,当たり前
客の判断に委ねられる。一般的に,学生や新入社
のことである。当社のサービスを利用いただく方
員は前者に価値を求め,富裕層は後者に寄った価
を「お客様」ととらえることにより,お客様にい
値を求めるであろう。ホテルにおいては,価格と
かに満足していただくかという考え方(Customer
サービスを天秤にかけて選択するのであり,一元
satisfaction:CS)を全社員に浸透させることが
的に料金のみで良し悪しの判断はできない。
大きな目的と言える。通常の介護サービスと事業
一方,通所介護は提供時間によって金額設定は
所独自のサービスに加え,プラスアルファのサー
異なるものの,その価格は全国ほぼ一律であり,
ビスを社員一人ひとりが考え,実行することがで
利用者にとっては同じ料金を払った上でサービス
きる組織を目指している。自分たちが行っている
を受けることで,その比較は単純明快である。例
仕事は「相手を想う心」
,
「お客様をもてなす心」
えば,明るい施設で衛生的である,いつも整理整
が基礎にあるという気持ちが,社員教育の入り口
頓されている,生花が各テーブルに生けてある,
と言える。
しっかりとリハビリテーションをしてくれる,お
いしいコーヒーがいつでも飲める,よく褒めてく
3つのスタッフ間ルールと握手
れる(インカムの項で後述する)
,送迎車の中が
事業者は,ケアマネジャーがケアプランを引き
良い香りがする,いつも目線を合わせて握手をし
続き作成してくれてこそ,今月の仕事が生み出さ
➡続きは本誌をご覧ください
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