徹底解剖 ! 802.11ac

徹底解剖 !
802.11ac
特集2
規格策定にも関わった第一人者が解説
ギガビット無線LAN技術に迫る
あ さ い
2014年 1月、最新の無線LAN規格「IEEE 802.11ac」の策定
作業が完了した。最大 6.9Gビット/秒という超高速伝送に加え
て、伝送効率の向上や既存規格との相互運用性など、様々な工夫
が盛り込まれている。今回は、標準規格の策定にも関わった国内
の第一人者が 11acの技術を徹底解剖する。
(編集部)
アイトリプルイー
ハチマルニテンイチイチエーシー
マ
イ
モ
ゆ う す け
浅井 裕介
NTT 未 来 ねっと研 究 所 所 属。無 線
LAN 技術の研究開発、IEEE 802.11
に関わる国内外の標準化活動に従事。
11ac 標準を策定するIEEE 802.11
TGacにおいて、既存規格との共存を
議論するcoexistence ad-hocグルー
プの共同議長を担当。
I E E E 8 0 2 . 1 1 a c pは、 現
MIMOp」(MU-MIMO)という新
共存する仕組みなどについて解説
在広く普及している無線LAN規格
技術を取り入れました。これらに
していきます。
である 11nの後継です。2014 年
より、端末間の単一リンクスルー
1 月に策定されたばかりの最新規
プ ッ ト は 500Mビ ッ ト/秒以上、
格になります。
アクセスポイント(AP)当たりの
最初の無線LAN規格 802.11 が
11ac規格では、11n規格で導入
システムスループットは 1Gビッ
登場したのは 1997 年ですが、無
された伝送速度の高速化技術を拡
ト/秒以上を達成しています。
線LANが 広く 普及し 始めたのは
張し、さらなる高速化を実現しま
本特集では、11ac規格の位置付
2000 年頃です。普及の原動力に
した。加えて、高い伝送効率を実
けや利用形態、高速化技術や高効
な っ たのは、 ノ ー トパソコン や
現するために、
「マルチユーザー
率化技術、既存の無線LAN規格と
PDA(携帯情報端末)などを手軽に
図
1
高速化が進む無線LAN
IEEE 802.11規格と国内の周波数割り当ての推移
最初の無線LAN規格「IEEE 802.11」は1997年に策定された。最新の規格「IEEE 802.11ac」は2014年1月に策定されたばかりである。なお、 周波
数帯域を示す領域(青色の部分)はイメージで、 実際の帯域幅や間隔を正確に示しているわけではない。
周波数
59G ∼ 66GHz
802.11a
[1999年9月]
60
GHz帯
802.11ad
[2012年12月]
57G∼59GHz
5.47 ∼ 5.725GHz
5.25G ∼ 5.35GHz
802.11n
[2009年9月]
5.15G ∼ 5.25GHz
5.03G ∼ 5.091GHz*
5
GHz帯
802.11ac
[2014年1月]
802.11j
[2004年9月]
4.9G ∼ 5.0GHz
2.4G ∼ 2.5GHz
2.4
GHz帯
802.11
802.11b
802.11g
[1997年6月] [1999年9月][2003年6月]
916M∼928MHz**
802.11ah
[2016年3月予定]
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
2016
920
MHz帯
2018 年
*)2017年11月30日まで暫定的に割り当てられた帯域
**)RFID向けに開放された帯域
48
2014.04
以降、
IEEE 802.11acを
「802.11ac」
あるいは「11ac」と略記します。他の
規格も同様です。ちなみに
「802.11ac」
は英語では「エイトオーツー・ドット・
イレブン・エーシー」と読みます。
▼MIMO
Multiple Input、Multiple Outputの
略です。送信機と受信機の双方が複
数のアンテナを持ち、送受信アンテナ
の組み合わせと同数の無線伝搬路を
構成します。
「MIMO」はもともと、こ
の「多入力・多出力」無線伝搬路の略
称でしたが、これが転じて、MIMO伝
搬路を活用した空間多重伝送技術や
空間ダイバーシティ技術、あるいはそ
れらの伝送形態に対する広義な総称
として使われるようになりました。
SG)は、IEEEにおいて新たな標準規
格の策定に向けた議論を行うグルー
プです。後述するタスクグループ(TG)
を設立する趣意書(PAR+5C文書:
Project Authorization Request
and Five Criteria)を作成します。
SGはTGを立ち上げる際、趣意書を
上 部 組 織 で あ るIEEE Standard
▼規定されました
参考文献:
「そこが知りたい最新技術
高速無線LAN802.11入門」
(インプ
レスR&D)
。
▼スタディグループ
スタディグループ(Study Group:
という 2 つの要求条件を満たすよ
でした。
です。特に駅や空港といった公共
う策定されました。この目標値は、
並行して、高速化を実現する追
スポットにおいて、トラフィック
以下の経緯により決められました。
加規格の策定も進みました。物理
増加により帯域が逼迫しているモ
2007 年 5 月、11nの後継規格策
層で最大 54Mビット/秒を達成す
バイル回線(3G/LTE)の代わりに
定に 向けた スタデ ィ グル ー プp
る 11aが 1999 年に、11gが 2003
無線LANを使う「トラフィックオ
「VHT SG」が設立されました。約
年にそれぞれ策定されました。そ
フロード」が今後ますます広がっ
1 年半の議論の末、2008 年 11 月
して2009年には有線の100Mビッ
ていくでしょう。
に規格の具体的な内容を検討する
トイーサネット以上のスループッ
トを実現する 11nを策定。この後
ひっぱく
システム全体で1G超を実現
タスクグループp「TGac」が設立
され、議論が始まりました。
継 と な る 最新 の 高速化規格 が
11acの仕様は(1)端末間の単一
VHT SGで議論が進められてい
11acです(図 1)。
リンクスループットは 500Mビッ
た 2007 〜 2008 年の時点で、既
ト/秒以上、(2)AP当たりのシス
に 11n規格のドラフト策定が進ん
テム容量は 1Gビット/秒以上──
でおり、伝送速度を 600Mビット
家庭や企業、モバイルで活躍
無線LANの接続形態は、初期規
格の 802.11 で規定され、11acを
含む以降の規格にも引き継がれて
います。802.11 規格はもともと、
イーサネット(IEEE 802.3 規格)
の無線化を実現すべく策定されま
図
2
3種類の利用モード
家庭や企業で最もよく使われる形態は、アクセスポイントで多数の端末をつなぐ「インフラストラクチャー
モード」である。
(a)
インフラストラクチャーモード
(b)
アドホックモード
最も一般的な接続形態。アクセスポイントと複数の
端末を接続する
即席のネットワークを形成する接続形態。端末同士が
1対1で接続するため、
アクセスポイントが不要
した。そのため、初期規格では有
イーサネット
(有線LAN)
線LAN同様の接続形態に対応した
3 つの利用形態(モード)が規定さ
れましたp(図 2)
。このうち、主
流となっているのが 1 台のアクセ
スポイントに複数の端末を収容す
アクセスポイント
(AP)
端末
(STA)
る「インフラストラクチャーモー
ド」です。
11acでは、高速伝送が活用され
る場面として、
「家庭内における高
(c)
無線ブリッジモード
アクセスポイントを1対1で接続する形態。拠点間をケーブルで接続する代わりに無線を利用する
アクセスポイント
(無線LAN ブリッジ)
品質映像伝送」と「オフィス内のイ
ントラネット」が想定されていま
す。これらに加えて、第 3 の有力
な利用ケースとなるのがスマート
フォンやタブレット端末といった
AP:Access Point STA:STAtion
2014.04
49
11
ac
「ポストPCデバイス」による利用
インターネットに接続するニーズ
.
特集2 徹底解剖 ! 802
▼IEEE 802.11ac