新設された特許異議の申立て制度

2014.11
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 新設された特許異議の申立て制度
新設された特許異議の申立て制度
1.法改正の概要
2014年の特許法改正により、特許異議の申立て制度が新設された。特許異議の申立て制度は、広
く第三者に対して特許の取り消しを求める機会を与え、特許権の早期安定化を可能とすべく審査による
特許付与の見直しを簡易かつ迅速に行うことを目的としている。
なお、特許異議の申立て制度の新設に伴い、当事者間の具体的紛争の解決を主たる目的とする特許無
効審判については、請求人適格が利害関係人に限られることとなった。
2.特許異議の申立て制度の具体的内容
特許異議申立人適格(113条柱書前段)
特許異議の申立ては、何人も行うことができる。
すなわち、匿名で申立てをすることは出来ないが、本人以外の第三者を申立人とすることはできる。
特許異議の申立て期間(113条柱書前段)
特許異議の申立ては、特許掲載公報の発行の日から6月以内に限り行うことができる。
特許異議の申立ての理由(113条各号)
特許異議の申立ての理由は公益に関するものに限られ、例えば、冒認出願や共同出願要件(38条)
違反については特許無効の理由(123条1項2号、6号)となっているが、特許異議の申立ての理由
とはなっていない。これら私益に関する理由については、当事者間の具体的紛争の解決手段としての特
許無効審判において争われるのが適切であるためと考えられる。
具体的に特許異議の申立ての理由は113条各号に限定列挙されている。
1号
新規事項追加違反(17条の2第3項)
2号
外国人の権利享有違反(25条)
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1
特許要件違反(29条、29条の2)
不特許事由違反(32条)
先願違反(39条1項~4項)
3号
条約違反
4号
記載要件違反(36条4項1号、6項(4号を除く))
5号
外国語書面からみた新規事項追加違反
特許異議の申立ての方式(115条1項)
特許異議の申立ては、特許異議申立書を特許庁長官に提出することにより行う(同条1項本文)。
特許異議申立書には、
・特許異議申立人の氏名等(同項1号)
・特許異議の申立てに係る特許の表示(同項2号)
・特許異議の申立ての理由及び必要な証拠の表示(同項3号)
を記載する必要がある。
特許異議申立書の要旨変更補正(115条2項)
原則として、特許異議申立書の要旨を変更する補正は認められない(同項本文)。
ただし、特許異議の申立ての理由及び必要な証拠については、特許異議の申立て期間が経過する時又
は特許権者に対して取消理由の通知がある時のいずれか早い時までであれば、要旨を変更する補正も認
められる(同項ただし書)。
特許異議の申立ての庁手数料(195条別表)
特許異議の申立て
16,500円+(請求項の数×2,400円)
特許異議の申立ての審理方式
特許異議の申立ての審理は、3人又は5人の審判官の合議体により(114条1項)、全件書面審理で
行われる(118条1項)。
職権審理(120条の2)
特許権者や特許異議申立人等が申し立てない理由についても、職権によって審理されることがある(同
条1項)。
特許異議の申立てがされていない請求項については、職権によって審理されなることはない(同条2
項)。
特許権者等の意見書の提出機会(120条の5第1項)
審判長が取消決定をしようとするときは、相当の期間を指定して、特許権者及び参加人に対して意見
書を提出する機会が与えられる。
訂正請求(120条の5第2項、3項)
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特許権者は、意見書提出期間内に限り、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正の請
求することができる。訂正の請求は請求項ごとにすることができる。特許異議の申立てが請求項ごとに
された場合は、請求項ごとに訂正の請求をしなければならない。
特許異議申立人の意見書の提出機会(120条の5第5項)
特許権者から訂正の請求があったときは、相当の期間を指定して、特許異議申立人に対して意見書を
提出する機会が与えられる。
取消決定(114条3項)
特許異議の申立てに係る特許を取り消すべき旨の決定が確定したときは、その特許権は、初めから存
在しなかったものとみなされる。すなわち、特許権は、取消決定の確定により遡及的に消滅することと
なる。
維持決定(114条4項、5項)
特許異議の申立てに係る特許が特許異議の申立ての理由に該当しないときは、その特許を維持する決
定がされる。その決定に対して不服を申し立てることはできない。なお、その決定に不服がある場合は、
別途特許無効審判を請求することで争うことはできる。
一事不再理効
特許法167条を準用しておらず、一事不再理効はない。すなわち、決定が確定した後であっても特
許異議申立人と同じ者が、同一証拠、同一理由で再度特許異議の申立てを行うことは可能である。
特許公報への掲載(193条2項)
特許異議の申立て(同項6号)、特許異議の申立てについての確定した決定(同項7号)は、特許公報
に掲載される。
なお、2014年の特許法改正の施行日以降に特許掲載公報が発行された特許が特許異議の申立ての
対象となる。施行は2015年4月1日の予定である。
(参考)
・平成26年特許法等の一部を改正する法律について(日本国特許庁)
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3.特許異議の申立てと特許無効審判の対比表
特許異議の申立て
申立人適格(請求人
何人(113条1項柱書)
特許無効審判
利害関係人(123条2項柱書)
適格)
申立期間(請求期間) 特許掲載公報の発行の日から6月以内(1
なし(いつでも請求可)
13条1項柱書)
申立理由(請求理由) 公益的理由(113条1項各号)
公益的理由、権利帰属、後発的事由(12
3条1項各号)
審理及び決定(審決) 3人又は5人の審判官の合議体(114条
3人又は5人の審判官の合議体(136条)
の主体
1項)
取消決定確定(無効
特許権が遡及的に消滅(114条3項)
特許権が遡及的に消滅(125条)
審理方式
全件書面審理(118条1項)
原則口頭審理(145条1項)
参加
特許権者を補助するため参加可(119条
当事者の一方を補助するため参加可(14
1項)
8条3項)
申立により又は職権で可(120条で準用
申立により又は職権で可(150条1項)
審決確定)の効果
証拠調、証拠保全
する150条1項)
職権審理
申し立てない理由についても職権で審理
申し立てない理由についても職権で審理可
可(120条の2第1項)
(153条1項)
同一の特許権に係る2以上の特許異議の
当事者の双方又は一方が同一である2以上
申立ては、特段の事情がある場合を除き、
の審判については、その審理の併合が可能
併合される(120条の3第1項)
(154条1項)
審理を併合したときはさらにその審理を
審理を併合したときはさらにその審理を分
分離可(120条の3第2項)
離可(154条2項)
申立て(請求)の取
取消し理由の通知があった後は、取り下げ
審決確定後は取り下げ不可(155条1項)
り下げ
不可(120条の4第1項)
訂正請求
特許権者は、意見書提出期間に限り訂正請
被請求人は、答弁書提出期間に限り訂正請
求可(120条の5第2項)
求可(134条の2第1項柱書)
規定なし
審決確定後、当事者及び参加人は同一の事
審理の併合
審理の分離
一事不再理
実、証拠に基づいて無効審判の請求不可(1
67条)
特許公報への掲載
特許異議の申立て、確定した決定は特許公
特許無効審判の請求、確定審決は特許公報
報に掲載される(193条2項6号、7号) に掲載される(193条2項6号、7号)
手続料金
16,500円+[請求項の数×2,40
49,500円+[請求項の数×5,50
0円](195条別表)
0円](195条別表)
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執筆:北山
高雅
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