下水管路における下水熱利用技術の開発 正 会 員 ○三毛 正仁(総合設備コンサルタント) Masahito MIKE 正 会 員 澤部 孝一(総合設備コンサルタント) Koichi SAWABE キーワード:下水熱利用,未処理下水,熱交換器,エネルギー利用 1 はじめに 東日本大震災以降,原発議論が進む中,太陽光や地 中熱などの再生可能エネルギーの積極的な利用が掲げ られている.中でも,太陽光発電は,FIT 制度の支援 などもあり,導入が進んでいる.ここで,図-1 に示す 我が国の最終エネルギー消費量を見てみる.内訳とし 暖房 34% 運輸 23% 給湯 冷房 厨房 化石燃料 92% ガス 業務 19% 動力 電気 暖房 部門の 55%を占めており,その多くが化石燃料で賄わ 産業 44% れているということがわかる.身近な生活環境に視点 55% 給湯 灯油 化石燃料 86% 冷房 厨房 を置くと,お風呂に入るためにお湯を沸かす.このお 湯を沸かすために使用する電気またはガスのエネルギ 電気 図-1 日本の部門別年間最終エネルギー消費量(2010)※1 300 ような,身近な下水からの熱も再生可能エネルギーの 250 本報告では,NEDO(独立行政法人新エネルギ-・ 産業開発機構)から委託を請けて開発を行った下水熱 利用・熱融通システムの技術開発の成果の一部である 下水熱交換器と下水熱利用システムの実環境試験結果 熱通過率(W/m2K) で下水として使い捨てられるということである.この ある. 都市 ガス LPG 動力 ーの源は化石燃料である.さらに勿体ない点は,せっ 一つとして活用することも普及していくことが重要で 石炭 家庭 14% ては,給湯・暖房用の消費量が業務部門の 34%,家庭 かく沸かしたお湯もほとんどの場合は,排水などの形 石油 洗浄回数 0回 1回 200 2回 150 100 50 0 0 20 40 60 80 100 経過時間(h) について報告を行う. 図-2 給湯システム概要図 2 開発した熱交換器の比較 本研究開発では,流下液膜式熱交換器,樹脂金属複 った.流下液膜式熱交換器では,熱通過率が 400~ 合管熱交換器,二重管式熱交換器について未処理下水 1,000[W/m2K]となり,試験を行った熱交換器の中で, を用いた実環境下での試験を実施した.表-1 に各方式 最も高い熱交換性能が得られた.熱交換器では表面を における熱通過率と試験条件,特徴を示す.樹脂金属 流れる流体の流速が大きいほど高い性能を示すが,流 複合管熱交換器は,熱交換水槽内に樹脂金属複合管熱 下液膜式は二重管式に比べ,下水流量が少なくても 交換コイルを設置し,取水した下水を熱交換水槽に導 ある程度の流速を確保することができる. 入 す る こ と で 熱 交 を 行 っ た . 熱 通 過 率 は 120 ~ 180[W/m2K]となり,図-2 に示す様に,運転開始数時間 3 管路外熱交換システムの性能試験 後と長時間経過後で性能低下が殆どなく,散水洗浄に 3.1 実験設備概要 より性能回復効果が見込める結果が得られた.二重管 図-3 に実環境試験設備の全景写真を示す.実環境試 熱交換器では,内管に下水を通し外管に熱源水を通し 験では図-4 の様に,熱需要施設や排熱施設を想定した て熱交換を行った.熱通過率は 300~700[W/m2K]とな 実環境試験設備を構築し,下水管路内を流れる未処理 表-1 管路外設置型熱交換器の比較 熱交換器方式 樹脂金属複合管熱交換器 流下液膜式熱交換器 二重管式熱交換器 120~180 ※汚れ付後着の実測値の例 400~1000 ※汚れ付後着の実測値の例 300~700 ※汚れ付後着の実測値の例 伝熱面積:47.2 m2(外径基準) 熱源水温度 入/出= 約 11/14℃ 熱源水流量約 100L/min 下水温度 入/出= 約 19/15℃ 下水水流量約 100 L/min 熱交換コイル表面が樹脂であるた め,汚れの付着による性能低下を起 こしにくく,散水洗浄による性能回 復効果が見込める. 伝熱面積:0.87 m2(外径基準) 熱源水温度 入/出= 約 4/9℃ 熱源水流量 約 28L/min 下水温度 入/出= 約 25/10℃ 下水水流量 約 15 L/min 熱交換器表面を下水が薄膜状 に流れることで,汚れの付着に よる性能低下を防ぐ. 伝熱面積:3.72 m2(外管内径基準) 熱源水温度 入/出= 約 6/18℃ 熱源水流量 約 25L/min 下水温度 入/出= 約 28/23℃ 下水水流量 約 80 L/min 配管時の接続が容易であり,分解 して清掃も可能であるのでメン テナンス性に優れる.SUS 製であ り,耐食性にも強い. 外観写真 外観 熱通過率 (W/m2K) 試験条件 特徴 コイル ホテル1系 データセンター系 データセンタ系 熱負荷 給湯利⽤ ヒート 65℃給湯 ポンプ 冷房 ⽔冷式 空調機 熱交換器 採熱 図-3 実環境試験設備 全景写真 給湯利⽤ ヒート 65℃給湯 ポンプ 熱交換器 熱交換器 下⽔管路 ホテル2系 排熱 採熱 図-4 実環境試験設備概要図 表-2 実環境試験設備 各系統の熱源機器仕様及び熱交換器 単位 ホテル 1 系 ホテル 2 系 能力 kW 39 30 温水 出口温度 ℃ 60 温水 入口温度 ℃ 項目 単位 データセンタ系 能力 kW 41.5 65 室内乾球温度 ℃ 27 15 9 室内湿球温度 ℃ 19 L/min 12.4 8.3 L/min - 熱源水出口温度 ℃ 10 - 冷却水出口温度 ℃ 40 熱源水入口温度 ℃ 15 15.0 冷却水入口温度 ℃ 35 L/min 85.1 - L/min 163.3 - 3.98 4.01 - 3.39 kW 9.8 - kW 12.25 運転モード - 給湯 給湯 運転モード - 冷房 熱交換器 - 樹脂金属複合管 流下液膜式 熱交換器 - 樹脂金属複合管 伝熱面積 m2 47.2(外径基準) 10.26(外径基準) 伝熱面積 m2 47.2(外径基準) 温水流量 熱源水流量 定格 COP 定格消費電力 項目 冷水流量 冷却水流量 定格 COP 定格消費電力 下水を熱交換槽に取水して熱交換することにより下 ヒートポンプ給湯器 加熱能力[kW] ヒートポンプ給湯器 消費電力[kW] 水熱利用を行う.実環境試験では,熱需要施設での 合計消費電力[kW] 熱交換器 交換熱量[kW] 熱量,消費電力(kW) 採熱利用を想定した熱利用系統をホテル系,排熱施 設での排熱処理を想定した熱利用系統をデータセン タ系とし,下水管路上流側からホテル 1 系,データ センタ系,ホテル 2 系の順に構築した. ホテル系では,管路内を流れる下水を管路途中の マンホール内のスクリーンにてゴミを取り除いた後 に下水取水ポンプによって取水し,熱交換槽で熱源 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 12:00 300 250 200 150 100 50 0 13:00 14:00 15:00 16:00 時刻(h) 水と熱交換する.これにより,熱源水を介して下水 を給湯用ヒートポンプの熱源として利用し給湯する. 図-5(a)熱量,消費電力と熱通過率 ヒートポンプでは供給される補給水を 65[℃]まで加 熱し給湯を行った.ホテル系ではホテルの給湯負荷 COP=0.0418θ COP = 0.0418θw+ 3.3136 w+3.3136 COP(‐) COP[-] ヒートポンプCOP[‐] 効率(COP,システムCOP) 6 55 44 33 22 11 00 6 0 0 5 10 5 15 20 25 30 10 下水入口温度(℃) 15 20 25 30 下水入口温度[℃] 35 35 システムCOP[‐] 6 5 4 3 2 1 0 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 時刻(h) 図-5 (b) COP と SCOP 図-6 ホテル 1 系統に用いたヒートポンプ COP と 下水温度の関係 表-3 各系統の試験条件と結果 季節 上水温度 下水入口温度 下水出口温度 出湯温度 下水取水流量 温水(上水)流量 [℃] [℃] [℃] [℃] [L/min] [L/min] 25.2 62.1 99.5 20.0 32.9 - 98.9 - ホテル 2 系 26.4 65.2 111.6 9.0 ホテル 1 系 23.3 63.0 100.2 15.7 30.8 - 97.1 - ホテル 2 系 21.8 63.6 308.4 8.7 ホテル 1 系 12.1 63.5 100.0 9.8 14.8 - 100.5 - 9.0 64.8 312.8 9.2 系統 ホテル 1 系 夏期 中間期 冬期 25 データセンタ系 30 20 データセンタ系 25 10 データセンタ系 15 ホテル 2 系 表-4 各季節各系統の COP と SCOP COP 季節 SCOP ホテル 1 系 データセンタ系 ホテル 2 系 ホテル 1 系 データセンタ系 ホテル 2 系 夏期 4.64 3.13 4.50 3.77 2.47 3.34 中間期 4.58 3.37 4.60 3.73 2.67 3.10 冬期 4.10 6.21 4.17 3.32 3.70 3.11 熱通過率(W/m2K) 熱交換器 熱通過率[W/m2K] を想定した実験を行うために,給湯した温水を貯湯 4 まとめ 槽に貯湯した後,冷却塔で冷却することで仮想的に 管路外設置型熱交換器の性能を比較し,それぞれ 給湯負荷を与えた.データセンタ系ではホテル系と の特徴について述べた.また,実環境を想定した試 同様の方法で下水を熱交換槽に取水し,冷却水と熱 験設備を構築し未処理下水を用いた下水熱利用シス 交換する.下水が冷却水と熱交換することによって テムの性能把握試験を行った結果,給湯の場合,ヒ 冷却水の温度を下げ,水冷式空調機の冷房熱源とし ートポンプの COP は 4.1~4.6 となった.システム効 て利用し,サーバ室内を冷房する.実環境試験では 率の上昇を目指し,今後,さらなる熱交換器性能の データセンタの年間冷房を想定し,データセンタの 向上と洗浄対策技術の確立を行う必要がある. 熱負荷を想定してヒーターで仮想サーバ室内に熱負 荷を与え水冷式空調機にて連続冷房運転を行った. 実環境試験では下水とヒートポンプに流入する上 【あとがき】 本成果は,独立行政法人新エネルギー・産業技術 水の温度調節を行い,季節性を考慮した試験を実施 総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたも した.なお,ホテル 1 系,データセンタ系では,樹 のです. 脂金属複合管熱交換器を,ホテル 2 系では流下液膜 式熱交換器を使用して採熱,排熱を行っている.表 -2 に各系統の熱源機器,熱交換器の仕様を示す.熱 交換器のついては,ホテル 1 系では,汚れ対策とし て樹脂金属複合管式熱交換器とし,データセンタ系 では, そのコンパクト化をした熱交換器を採用した. ホテル 2 系では,汚れ対策と熱交換性能の向上の ため流下液膜式熱交換器とした. 3.2 試験条件と結果 実環境試験では,各季節を想定し下記の表-3 の様 に下水温度・流量と上水温度・流量を設定した.熱 交換後の下水出口温度は表-3 に示す温度となった. また,ホテル 1 系の冬期の結果として,図-5(a)に 熱交換器の熱通過率,交換熱量,ヒートポンプでの 加熱量,消費電力及び,下水取水ポンプ,ラインポ ンプ等の補機類を含めたホテル系統における合計の 消費電力を示す.図-5(b)にはホテル 1 系のヒートポ ンプ COP 及びシステム COP を示す.熱通過率は時 間と共に汚れが付着し,低下していることが分かる. しかし,交換熱量等は安定しており,熱交換器の性 能低下が起きても採熱ができていることが分かる. なお,低下した熱交換性能は散水洗浄により回復 することを確認している.また,図-6 に下水入口温 度とヒートポンプ COP の関係を示す.これを見ると, 下水温度が上がると COP は上昇し,ホテル 1 系で用 いたヒートポンプにおいては,下水入口温度が 1[℃] 上昇すると,COP が 0.0418 上昇することが分かる. ホテル 1 系,データセンタ系,ホテル 2 系の各季節 における COP,SCOP は表-4 に示す結果となった. 【参考文献】 ※1 EDMC/エネルギー・経済統計要覧(2012 年版), 財団法人省エネルギーセンター
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