水素吸蔵合金アクチュエータを用いた海水交換システムの運転特性 Operation Performance of Seawater Exchange System Using Metal Hydride Actuator 先川 光弘,森 小松 昌也,窪内 和誉(北大),正 篤(北海道開発土木研究所),○遠藤 松村 強(日本データーサービス), 一弘(道立工業技術研究センター),正 吉田 静男(北大) Mitsuhiro SAKIKAWA, Civil Eng. Res. Inst. of Hokkaido,Hiragishi 1-3-1-34, Toyohira-ku, Sapporo, 062-8602 Masaya MORI, Civil Eng. Res. Inst. of Hokkaido, Atsushi KUBOUCHI, Civil Eng. Res. Inst. of Hokkaido, Tsutomu ENDO, Nippon Data Service Co Ltd. ,N16E19, Higashi-ku, Sapporo, 065-0016, Kazushige KOMATSU, Hokkaido Univ. ,N13W8 Kita-ku, Sapporo, 060-8628, Kazuhiro MATSUMURA,Hokkaido Ind. Tech. Center,379, kikyou-cho, Hakodate, 041-0801, Shizuo YOSHIDA, Hokkaido Univ. , Seawater exchange is being considered as a measure against deterioration of water quality and freezing, which are becoming problems in harbors and fishing ports. We have been developing a seawater exchange system with low running cost using metal hydride (MH) actuator for a practical use, which is powered using the temperature difference between sources in nature. In this study, a seawater-pumping device was produced experimentally using a MH actuator and a laboratory test for its practical application was conducted in a tank. The device consists of a MH container charged with LmNi-type metal hydride, a gas cylinder connected to the container, and a seawater transport pump driven by a chain attached to the cylinder. We acknowledge the performance and characteristics and examine its practical application. Keywords: Seawater Exchange , Thermal Energy , Metal Hydride Actuator 1.はじめに 3. 海水交換システムとして、実用化に向けた水素吸蔵合金 実験の結果 3.1 汲み上げ流量特性 (以下MHという)アクチュエータを用いた汲み上げ型の MHアクチュエータの圧力差と装置の排水流量の関係に 海水交換装置を試作し、室内試験により装置の基本性能・ ついての試験結果を述べる。実験は、揚程 h0 を5cm、 10cm、 特性を明らかにした。 15cm、20cm と段階的に変え、MH容器の低温側には 10℃の 冷水を、高温側に 80℃の温水を通過させ、低圧側圧力を 2.実験の内容 0.09MPa に固定して高圧側圧力のみを変化させて所定の圧 本研究では、試作した海水交換装置(図−1)を用い、 室内試験により装置の性能・特性を明らかにするとともに、 その実用化の可能性について検討を行った。 駆動力伝達系統 力差ΔPを得た時点でバルブを手動により解放し、連続的 に測定を行った。 各揚程のときのピストン 図−2∼3にΔPが 0.8MPa で、 位置、高圧側圧力の変動を示す。 1 ピストン位置 h(cm) 0.9 0 水位 700 海水交換ポンプ 2400 -20 520 -40 500 1600 図−1 y d1 h -60 実験水槽 0 2 4 6 経過時間 t (s) 8 0.6 P 0.5 10 実験装置の作動状況(h0=5cm) 図−2 実験装置断面図 h0 0.8 h' 0.7 高圧側圧力 P(MPa) ΔP=0.8MPa h0=5.0cm 20 1MPa 以下となる合金として希土類系合金に属する LmNi (ランタンリッチミッシュメタル・ニッケル)系合金を選 定した。この合金は高温側 80℃で 0.9MPa、低温側 15℃で 0.1MPa の平衡水素圧を得るものである。なお、合金量は容 器1個当たり 1.75kg(218mℓ)を使用した。この時の水素貯 蔵量はおおよそ 250ℓである。 試作装置の性能試験では、装置運転中のMH容器水素圧、 ピストン位置 h (cm) 設定し、高圧ガス保安法上、高圧ガスと規定されない最大 20 ΔP=0.8MPa h0=20.0cm 0.9 0 0.8 水位 -20 0.7 -40 0.6 h -60 0 図−3 2 4 6 経過時間 t (s) P 8 高圧側圧力 P(MPa) 1 この実験に使用したMHは、使用温度領域を 15∼80℃と 0.5 10 実験装置の作動状況(h0=20cm) MH容器の温度(温水供給恒温槽内水温)、海水輸送ポンプ のピストン位置、汲み上げ水位等を連続的に計測した。 バルブを開くと水素が開放されるためにアクチュエータ が駆動し、その運動が駆動力系統を経てピストンに伝達さ 値は良く一致している。また、他の h' に対しても同様の結 れる。このため、ピストンが短時間に一気に上昇すると同 果を得られた。 時に、水素圧は急速に低下する。これは、本装置が水素圧 貯蔵のためのタンクなどを備えていないため、水素圧伝達 系の貯蔵容積がアクチュエータ容積に比較して小さいこと による。このため、図−2のように揚程が小さい場合には、 ピストンが装置下端から上端まで一気に上昇するが、揚程 揚程 h0 のない条件におけるポンプ内のピストンの運動 は式(2)のように表すことができる。 d2 d12 d 2 y L 2 =Δpπ 2 − f − F (2) 2 M + m + ρπ 4 dt 4 が大きくなると図−3のように一度で上昇することができ ここで、L は海水交換装置ポンプの有効長さである。図 −6は、h' =106cm で揚程のない条件におけるポンプ内ピス なくなる。ピストンが停止と上昇を何度か繰り返しながら トンの位置の時間変動を示しており、実測値と式(2)に 上端に達しているのは、開放状態のMH容器内で逐次行わ よる計算値はほぼ一致していることがわかる。 れている水素供給によるものである。このため、揚程が大 0.8 きい場合に効率よくピストンを上昇させて海水を汲み上げ 0.7 るには、水素圧を蓄える機構としてリザーブタンクなどを 0.6 実測値 MH 容器 計算値 y (m) ここで、MH容器から切り替えバルブの間に水素圧を十 d2 Δp=0.8Mpa 揚程あり 0.5 設けて装置全体の急激な圧力減少を抑える必要がある。 0.4 MH アクチュエータ d1=52cm d2= 4cm 0.3 分に蓄えられるリザーブタンクがあり、ピストンが最下面 0.2 から最上面まで一気に上昇できたとすると、このときの汲 0.1 み上げ流量がこの海水輸送ポンプの能力ということができ 0 d 0.25 0.5 1 1.25 1.5 ピストン位置の時間変動(h0=5.0cm) 図−5 0.8 量Qは圧力差ΔPを一定に与え続けることが可能な場合の 0.7 値で、前述の実験で得られたピストンの最大上昇速度から 0.6 0.5 y (m) 計算したものである。揚程を変化させても最大流量Qは圧 力差にほぼ比例していることがわかる。 0.12 Q(m3/sec) 0.75 経過時間 t (s) を与えた場合の時間当たり流量Qを示している。ここで流 0.09 h h' y る。ここでは、前述した実験結果を基に本装置での能力の 検討を行ってみる。図−4は、ある揚程 h0 で各圧力差ΔP MH 容器 上限 実測値 計算値 Δp=0.8MPa 揚程なし 0.4 0.3 h' L y 0.2 h0=5.0cm h0=10.0cm h0=15.0cm h0=20.0cm 0.1 0 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5 経過時間 t (s) 0.06 図−6 h0 0.03 ピストン位置の時間変動(揚程なし:水没時) 図−5と図−6を比較すると、揚程がない場合は、揚程 があるときよりもピストンの移動量は大きく、海水の輸送 0 0.2 0.4 0.6 0.8 量を著しく増すことが可能であることがわかる。 Δp (MPa) 図−4 圧力差と汲み上げ流量の関係 4.まとめ 3.2 これまでの主要な結論をまとめると以下のようになる。 ポンプ内ピストンの運動 ポンプ内におけるピストンの運動は、ピストンとポンプ ①装置の排出流量は、揚程を変化させても圧力差にほぼ比 内壁間の隙間が無視できるものとすれば式(1)のような 例して増すことが分かった。 運動方程式で表すことができる。 ②揚程の有無によるポンプ内輸送水の運動方程式を提案し、 d 2 y d12 d2 d2 ( h '+ y ) 2 = −ρπ 1 gy + Δpπ 2 − f − F 2 M + m + ρπ 4 4 4 dt 実測値とほぼ一致することを確認した。 (1) ここで、M:ピストンの質量、m:チェーンの質量、d1: ③海水の輸送に際しては可能な限り揚程を生じない状態で 作動させる装置の機構を考えるべきである。 ピストンの直径(あるいは交換ポンプシリンダチューブの 内径)、d2:アクチュエータの内径、ρ:水の単位体積質量、 y:ポンプ内のピストンの位置座標、 h' :ピストンから水 参考文献 1)先川光弘・森昌也・窪内篤・遠藤強・小松和誉・松村 面までの距離の初期値、f:システムの機械的な摩擦力、F: ピストン上下の圧力差による抗力(= ky ' : y ' =dy/dt)を示 一弘・吉田静男;水素吸蔵合金アクチュエータを用いた海 している。なお、本装置の摩擦力 f については予備実験に 講演会予稿集(2003), より 65N とし、k については実験結果により得られた y の 2)先川光弘・森昌也・梅沢信敏・松村一弘・岡田昌樹・ 最大値に合うよう設定して 850kg/s を用いた。 図−5は、 h' =46cm、h0=25cm の条件におけるピストン位 遠藤強・吉田静男:温度差エネルギーと水素吸蔵合金を利 置の時間変動を示している。実測値と式(1)による計算 水交換システムへの応用,ロボティクス・メカトロニクス 用した海水交換装置の開発,海岸工学論文集,第 49 巻 (2002) ,pp1406-1410
© Copyright 2024 ExpyDoc