におけるADLと退院先についての検討

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)9 : 30∼10 : 20 第 8 会場(4F 411+412)【口述 教育・管理!管理運営系 2】
0679
「大腿骨頸部および転子部骨折」における ADL と退院先についての検討
若尾
勝1),徳村
拓哉1),田中
勇治2),木村
亮介1),針金
知1),福光
英彦3),星
虎男4)
1)
社会福祉法人賛育会 賛育会病院,2)植草学園大学保健医療学部理学療法学科,
目白大学保健医療学部理学療法学科,4)つくば国際大学医療保健学部理学療法学科
3)
key words Barthel Index・大腿骨頚部骨折・転帰
目的
高齢者人口の増加に伴い大腿骨頸部,転子部骨折は,2010 年では 11 万人であったが,2020 年には 22 万人に増加すると予測さ
れている。大腿骨頸部,転子部骨折の治療目的は,下肢の支持性を求め合併症や廃用性症候群を予防し,早期に受傷前の生活を
目指すことであり,骨癒合術や人工骨頭置換術後,早期の立位歩行練習が推奨されている。本研究の目的は合併症を有した大腿
骨頸部,転子部骨折による手術施行例について,退院先,退院時 ADL
「BI」
,認知症の有無などについて調査,検討することで
ある。
対象
2011 年,2012 年に当院(市中急性期)で,大腿骨頸部,転子部骨折により手術を施行し,理学療法を実施した患者 66 名,平均
年齢 81.4±9.5 歳,男性 16 名,女性 50 名で,術式は人工骨頭置換術 20 名,ハンソンピン固定術 5 名,ガンマネイル固定術 41
名であった。合併症を有する患者は,延べ数で認知症 40 名,運動器疾患 30 名,循環器疾患 17 名,代謝疾患 7 名,呼吸器疾患
7 名,脳血管疾患 4 名,消化器疾患 3 名であった。
方法
調査検討項目は,退院先(自宅群,非自宅群)における,1.理学療法開始時,退院時 BI,2.入院前 ADL(自立,介助)
,3.
認知症の有無,さらに,認知症の有無における,4.理学療法開始時,退院時 BI,5.入院前 ADL(自立,介助)
,6.退院先
(自宅,非自宅)とした。各データは入院中の診療記録より抽出した。分析方法は,退院先を 2 群(自宅,非自宅)に分け理学
療法開始時,退院時 BI をそれぞれ t 検定で分析し,入院前 ADL2 群(自立,介助)
,認知症の有無については,それぞれカイ 2
剰検定及びクロス集計表を用いて分析した。同様に認知症の有無における,開始時,退院時 BI を t 検定で,入院前 ADL2 群,
退院先 2 群についてカイ 2 剰検定で分析した。なお統計学的有意水準は 5% 未満とした。
説明と同意
本研究は当院倫理委員会で承認を得た後,対象者に説明を行い,同意を得た。各データは個人識別ができないよう実施した。
結果
退院先では,自宅退院群の理学療法開始時 BI は 25.5±16.6,非自宅群では 13.8±12.3,退院時 BI はそれぞれ 69.9±30.8,34.0±
22.8 であり,入院前 ADL2 群については自立群で自宅退院が 58.5%,非自宅退院が 40.0%,認知症有無については自宅群で
43.9%,非自宅群で 88.0% に認知症が認められた。認知症の有無による BI は,認知症無の群の開始時 BI は 33.7±15.5,認知症
有で 12.9±10.1 であった。また,退院時 BI はそれぞれ 92.1±9.1,33.0±18.4 と認知症を有している患者は理学療法開始時及び退
院時の BI が有意に低かった。入院前 ADL での自立群は,認知症無では 92.3%,認知症有では 25.0% で,認知症無の自立が多く
みられ,自宅退院群は,それぞれ 88.5% 45.0% で認知症無が多くみられた。退院先(自宅群,非自宅群)における入院前 ADL
2 群を除き統計学的有意差が認められた。
考察
自宅退院群は,理学療法開始時 BI は 25 点と,非自宅群 13 点に比べ,約 2 倍の高い BI で理学療法が開始できていることがわ
かった。また,当然のことであるが退院時 BI も自宅群 70 点,非自宅群 34 点と自宅群で有意に BI が高かった。知久は大腿骨頸
部骨折患者の BI と退院先について,開始時 BI が 35 点以上で自宅退院,25 点以下では転院または介護施設への転所の可能性が
高く,自宅退院の退院時 BI は 76.5 点であったと報告しているが,今回我々の結果では開始時及び退院時ともやや低い BI で自宅
退院ができていた。開始時及び退院時 BI が高く,入院前 ADL が自立し認知症が認められなければ自宅退院が可能であるが,入
院前の ADL に介助が必要で認知症を合併している患者は自宅への退院が難しい結果が得られた。とくに非自宅退院者の約 8
割に認知症を合併していた。認知症の有無における,開始時 BI は認知症無で 34 点,認知症有で 13 点,退院時 BI はそれぞれ 92
点,33 点で認知症無が有意に高かった。入院前 ADL では自立群の 9 割が認知症無で,認知症有で 2 割が自立していた,認知症
無の 9 割が自宅退院で認知症有の自宅退院はわずか 4 割であった。寺山らは,大腿骨近位部骨折の自宅退院の要因として個人的
要因と環境的要因が影響し,キーパーソンの続柄と ADL 能力が重要とされている。今回,入院前,退院時 ADL 能力,認知症の
有無で退院先がある程度決定される傾向にあったが,65 歳以上高齢者の独居世帯が 33.7% という墨田区の地域特性もあるので
はないかと思われる。
研究の意義
大腿骨頸部,転子部骨折術後において,入院前 ADL 能力,理学療法開始時,退院時 BI が高く,認知症を合併していない場合は,
自宅退院の傾向にあることがわかった。