Become an independent learner at KUIS.

学生が
自分で育つ。
神田外語大学の
教育力
Become an independent learner at KUIS.
「大学生になったら何して遊ぼうか」と考えているなら、
神田外語大学を選ばないほうが良いかもしれない。
学生たちは「かわいそうだ」と言われるぐらいに、
とにかくよく勉強する。特徴的なのは、
学生たちはとても楽しげに「自ら進んで」学んでいるということ。
酒井学長が言う「教えて教えて育てる大学ではなく、
学んで学んで育つ大学」という学生の意識は
どこから来ているのか。その教育力の源泉を紹介する。
You can stand up and enjoy yourselves!
教員の声を合図に学生たちは立ち上がると、
活発に英語でのウォーミングアップを始めた。
イーエルアイ
「 E LI( English Language Institute )」の教員による授業である。
彼らは、外国語としての英語教育の修士・博士号学位を持つ、
選りすぐりのプロフェッショナル集団。
全学科・専攻の学生が、ここで世界水準の学びにふれる。
活きた教育の現場を見てみよう。
日本語は聞こえてこない教室
主に ELI 教員による授業が行われる 1 号館のガラス張り
の教室。同時通訳用の機能を持つ教室もある
1960 年代にスタート
グローバル教育の先駆け
世界中から教員をリクルート
全員が英語教育のプロ
時代に合わせて
常に最先端の英語教育を実践
神田外語大学がめざす教育を実現し
「自立学習」という先鋭的な理念を実
多国籍の ELI 教員を通じて、文化も、
た組織。それが、英語教育のプロフェッ
現するには、当然ながら教える側の教員
発音も異なる英語にふれることは、学生
ショナル集団 ELI( English Language
にも高い能力が要求される。そこで「英
たちに多くの気付きをもたらす。実際に
Institute )である。1960 年代から日本の
語を母語としない人への英語教育」で修
世界に出れば、英語を使うのはアメリカ
英語教育をリードしてきた神田外語学院
士・博士号の学位を持つことを必須条件
やイギリスに代表される英語圏のみと
が、グローバル人財の育成を掲げて 87
に、ELI 英語教員のワールドワイドな採
は限らない。アジアや中南米、アフリカ、
年に神田外語大学を創立した。開学間も
用活動が始まった。現在も ELI にはアメ
中東でも、各国の人が集まる場となれば、
ないこの大学で、国内では前例のない英
リカやイギリス、オーストラリアなど 8 カ
英語が国際共通語だ。
語教育への挑戦が始まる。それが、学生
国 75 名の教員が在籍。実に専任教員の
さまざまな英語と接する ELI の教育で
が自ら学ぶ人として成長する教育理論「自
半数以上が外国人教員で、いずれも競
は、そんなグローバルシーンを見越した
立学習」の導入だった。そこで、この研究
争率約10 倍の難関をくぐりぬけた精鋭だ。
環境に、学生は日常的に身を置くことが
の第一人者として知られる故フランシス・
彼らの職務は教鞭をとるだけではな
できる。また、教員を任期制にして新し
C・ジョンソン神田外語大学名誉教授を、
い。専門ごとに10 以上のプロジェクトチー
いメンバーが定期的に入ることで、ELI
アメリカから招聘。コロンビア大学大学
ムに分かれ、教育方法の研究にも取り組
には常に最新トレンドを取り入れた教育
院で言語教育の博士号を取得し、世界の
んでいる。研究成果は関連学会などで
が持ち込まれている。
名門大学の教壇に立ってきたジョンソン
盛んに発表。その数は年々増え続けて
こうした多様なバックグラウンドを持
名誉教授とともに、ELI を誕生させた。
いるという。
つ教員の熱意と努力により、ELI の教育
は進化しつづけているのだ。
ELI
世界各国出身の70 名を超える
英語教育のプロ集団 ELI(イー・エル・アイ)
世界中から集まった英語教育のプロたち
70 名以 上の英 語 教 員 で 構 成される ELI。
全員が英語教育関連の修士・博士号を持つ。
世界各国から集まってくる語学教育のプロ
集団
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Danielle Fischer
ダニエル・フィッシャー語学専任講師
「アメリカの大学院時代に出会った神田外語大学の学生は、
それまで私が出会ったどの日本人留学生とも違いました。
彼らは、誰よりも積極的で、自信に満ちていました。そん
な学生がいるからこそ、私は ELI の教員になることを強
く望んだのでしょうね」
英語で考え、発信する力を磨く
「英語運用能力」を高めるということは、英
会話力を付けるということではない。文化、
政治、広告戦略など扱うテーマは様々だが、
共通しているのは英語で考え、調査し、討
論し、プレゼンテーションすること
授業は全て「English Only」
英語で考え、表現する力
「英語を母語としない人へ
英語を教える」プロの授業
Myth 神話に見る文化的価値」をテーマ
生自身に解決策を探らせる。こうするこ
にオリジナル教材で行う授業では、学生
とで一方的に教えるのではなく、学生が
たちはグループごとに、ギリシャや中国、
自らの手で答えに辿り着くようサポート
ELI の語学専任講師、ダニエル・フィッ
日本など世界の神話の主人公から 1 人
する教育を実践しているのである。 シャー先生はアメリカ・ニューヨークの
を選び、協力して応援プレゼンテーショ
さらにこれは、単なる空想上の選挙キャ
出身。学生時代は日本留学も経験し、日
ンに挑む。めざすは最終回で行う投票で、
ンペーンにとどまらない。フィッシャー
本の宗教を研究していたという経 歴の
自分たちの推す英雄を「ヒーロー・オブ・
先生は続けていう。
「学生たちが卒業後
持ち主だ。留学中に英語を教えたことを
ザ・イヤー」に選出すること。学生は英
に国際ビジネスの場に出れば、自分の担
きっかけに、英語教育の道を選ぶ。神田
語文献からその魅力を分 析。さらには
当する商品について英語でプレゼンテー
外語大学の教壇に立ってみると、いずれ
スローガンを立案し、ポスターをつくり、
ションすることになるでしょう。そこで
も物怖じせず、意欲的な学生ばかり。
「入
最終プレゼンテーションの戦術を練る。
商品の魅力を的確に伝え、聞き手の心を
学当初は隣を探りながらディスカッショ
トップ当選をめざし学生たちが白熱する
しっかりとつかみ、投げられた質問にも
ンに参加していた学生たちも、英語が上
授業は、あたかもアメリカ大統領選の様
きちんと返すことができれば、クライア
達するにつれてより大胆に個性を発揮
相だ。
ントから選ばれる。これは現役のビジネ
して、めきめきと力をつけていくのがわ
かります」。3 年にわたって学生たちの
成長を見続けてきた彼女は、そんな言葉
とともに顔をほころばせた。
「英語で」学ぶ授業が見据える
卒業後のシーン
スパーソンでも難しいことです。でも、
そのための力を鍛えるのが、この授業の
狙いなのです」。
フィッシャー先生の授業に代表される
白熱する教室は
まるでアメリカ大統領選
「理解度は学生によって違います。で
ように、ELI の学習では、想定した場面
も、学生同士で知識を共有して理解すれ
を取り込むことで、より実践的な英語運
ばいい。グループワークはこうして互い
用能力を育むのだ。
フィッシャー先生の授業のひとつを紹
す手立てです」
(フィッシャー講師)
。学
介しよう。
「 Cultural Values through
生が行き詰った時は一緒に振り返り、学
に補いながら、自分たちで答えを導き出
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と説く。そして常に最新の教育に取り組
ソチ冬季五輪で英語のボランティア通
んでいる ELI で、現在導入を進めている
訳に選抜されたのである。
のが iPad を使った教 材の開発だ。
「電
「 English Only 」の ELI ラウンジを訪
子書籍アプリ『iBooks 』でオリジナル・
ねると、常駐する教員からマンツーマン
テキストが読めるなど、学生の評判も上々
の学習アドバイスを受ける学生の姿が多
です」
(マーフィー准教授)
。
く見られる。教室だけにとどまらない学
英語を学びながら
課題解決力を身に付ける
びが、ここにある。
これらは ELI が実践する教育のほんの
一部に過ぎない。だが、学生たちの活き
活きとした表情が、彼らの大きな変化を
ELI の授業で確かな手ごたえを得て、
雄弁に物語っている。ELI の目指すゴー
将来は海外で働くことを見据える樫村
ルについて、マーフィー先生は次のよう
さん。
「英語にもカジュアルな英語と、き
に語った。
「私たちの教育は、ただ英語
ちんと教育を受けた人のフォーマルな英
運用能力を習得させることだけではあり
語があることを大学に来て初めて学びま
ません。卒業して国際社会に出た時、与
した。国際舞台で活躍するための英語は、
えられた仕事を自ら学んで進められる。
ELI の授業だからこそ学べます」。こうし
て樫村さんは、1 年足らずでめざましい
そんな課題解決力のある人間を育てる
成長を遂げた。海外留学や海外生活の
教えているのですよ」。
のが私たちのゴールです。それを英語で、
経験がないにもかかわらず、2014 年の
Dr. Philip Murphy
Director, English Language Institute
フィリップ・マーフィー准教授
ELI ディレクター
「インターネットをはじめとするメディアは、どんどん多
様化しています。だからこそ私たちは、学生たちにより
多様なリテラシーにふれてもらいたい。そのためのツー
ルのひとつが iPad なのです」
授業外でも英語にふれる「 ELI ラウンジ」
ソファーに深々と腰をおろし、ELI 教員に学習相談をする人もいれば、友人、留学生た
ちとリラックスした会話を楽しむ人も。学生たちの社交場ともいえるラウンジだ
授業外でも英語漬けの環境を完備する
ELIラウンジ
全て英語で行う
リサーチ、プレゼンテーション
習から英語の細部を学びとる喜びを実
感している。
「例えば英文レポートを書
きプレゼンテーションする授業では、英
「高校時代は、丸暗記して学ぶだけが
文の資料探しや、同級生との対話を通じ
英語の勉強だと思っていました。でも大
て、おもしろいと感じたことを伝えるた
学に入学してからの数か月間で、それは
めの手段を考えます。その過程の中で
180 度違うものだと分かりました。ELI
文法や構文にも自然と目が向き、しっか
の先生による授業はまず自分で考えるこ
り理解しているのです」
(樫村さん)
。
と。そして率先して発言しなければ評価
されません。でもこれは、グローバル社
会ではあたりまえのことです」。英米語
学科の樫村真さんは、熱っぽくそう語っ
プレゼンテーションやディスカッショ
児だった樫村さん。野球の道を断念し
ンの進め方、レポートの書き方などを「英
た彼は、得意だった英語を活かしたいと、
語で」学ぶことで、語学力とコミュニケー
神田外語大学に入学。そして ELI の授
ション能力の両方をしっかりと鍛えてい
業に出合い、ひとつの変化を体験した。
く。それが、ELI が進める教育の根幹に
彼の意識をまず変えたのは、
「 英語で」
ある。ディレクターとして ELI 全体を統
学ぶというスタイルそのものだ。もちろん、
括するフィリップ・マーフィー先生は、
「ク
リーディングやライティングなど基礎の
オリティーと実用性の高い教育を英語で
授業はあるが、樫村さんは総合的な学
提供する。それが私たちのコンセプト」
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樫村真さん
英米語学科 2 年
千葉日本大学第一高等学校出身
「 Writing Center でエッセイを 1 行書いて先生に見てもら
うと、その時点で悪い点に細部まで修正を入れて戻してく
れました。おかげで、自分の弱点を理解した上で進めました」
進化しつづける教育
iPad の導入も
た。高校野球の強豪校で白球を追う球
15
Makoto Kashimura
Tatsuki Deguchi
出口樹さん
国際コミュニケーション学科
国際コミュニケーション専攻 2 年
東京都立日野台高等学校出身
「私が神田外語大学を選んだ決め手は、
『English Only 』
の ELI ラウンジでした。この環境であれば実践的な英語
が学べるに違いないと、直感しました」
iPad を活用した新教材も研究
iPad を使ったより効果的な授業スタイルの研究など、ELI 教員たちは新しい取り組み
に積極的にチャレンジ。ペーパーレス教育のシンポジウムも開催した
Practice Center と Writing Center
「 Practice Center 」と「 Writing
ELI 教 員たちは授 業 以 外 でも学 生をサポート。
Center 」では、学生の個別復習やレポートの書き方のアドバイスなどを行っている
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イングリッシュガーデンを望む大きな窓から、柔らかな光がふりそそぐ。
サ
ル
ク
そんな開放感あふれる 6 号館の 2 階に「 S ALC( Self-Access Learning Center )」はある。
ここは、世界で盛んに研究されている教育理論「自立学習」を成功させた拠点として、
国内外から注目を集めている施設である。
専任の語学学習のアドバイザーが常駐。
豊富な英語教材や TV、PC などの機材をはじめ、
プレゼンテーションを練習するための個室もそろっている。
ここ SALC での学びを、ひとりの学生が成長する姿から紹介する。
ラーニングアドバイザーが
常駐して学習をサポート
「今日は私を予約してくれてありがと
う」。英米語学科 2 年生に進級したばか
りの石井杏さんは、SALC にあるラーニ
ングアドバイジングルームを訪ねた。迎
いっぱい。力の差に焦る気持ちばかりが
先立ち、何をどうすればよいのか、ひとり
では全くわからなかったという。
学習を「習慣づける」ための
専任アドバイザーの存在
えたのは 10 名いる SALC 専任のラーニ
そんな危機感を抱いた石井さんの脳
ングアドバイザーのひとり、ブライアン・
裏に浮かんだのが、前年にクラスに来て
モリソン先生。耳になじみやすい先生の
SALC について説明してくれた、ラーニ
英語と笑顔で次第に緊張もほぐれ、石井
ングアドバイザーのモリソン先生だ。そ
さんは自身が直面している「ひとつの壁」
の時の彼女には、SALC が自身にとって
を語り始めた。
どう必要なのかわからなかった。しかし
この日、相談に訪れた彼女には、大学
行き詰まった末に頼ったのは、
「空いて
での1年間を経て、英語でプレゼンテー
いる時間に気軽に来てほしい」と言い残
ションやディスカッションする力が向上
して教室を後にした先生だった。
しているという自負があった。しかし進
ひと通り語り終えると、モリソン先生
級して目の当たりにしたのは、自分以上
は思いがけない言葉を返した。
「ディスカッ
に成長した友人たちの姿だった。授業中
ションで自分の意見をきちんと伝えられ
の英語ディスカッションでは友人たちの
ないんだね。でも、なぜできないのだろう。
勢いに圧倒され、あいづちを打つのが精
それを一緒に考えていこう」。
SALC
国内外から注目を集める
「自立学習」の成功拠点 SALC(サルク)
Anzu Ishii
石井杏さん
英米語学科 3 年
東海大学付属浦安高等学校出身
「 SALC のラーニングアドバイザーは、素晴らしいアドバ
イスをくれます。でも多くは私からの問いかけに対して、
『じゃあどうしたらいいと思う?』と、返してきます。問い
かけから入って、実は自然と学生に考えさせるのです」
Brian Morrison
Learning Advisor,
Self-Access Learning Center
ブライアン・モリソン講師
SALC ラーニングアドバイザー
びっしり書き込まれた石井さんのモジュールノート
石井さんがつづった一つひとつの小さな達成、そして見えてくる次の目標。そこへラー
ニングアドバイザーのモリソン先生は助言に加え、さらなる問いかけを記していった
英語教育の修士号を持ち、教員としても 10 年以上のキャ
リアを持つ。2009 年、SALC 専任のラーニングアドバイザー
に就任。
「ラーニングアドバイザーのようなユニークな仕
事は、私にとってもチャレンジでした。かつては、学生た
ちに学習プランを与え、それなりに成功していました。し
かし今は学生自身にプランを考えさせる SALC のメソッ
ドで、より成功することを実感しています」
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コーチングのトレーニングを積んだラーニングアドバイザー
SALC 専任のラーニングアドバイザーは、大学院で語学教育を修めたプ
ロフェッショナル。カウンセリングやコーチングなどの勉強会を重ねながら、
日々学生たちのサポートに務めている
8 週間の自立学習プラン「モジュール( Module )」
SALC では 1 ∼ 4 年生を対象に、合計 8 種のモジュールを用意。TOEIC や
TOEFL の対策に集中して取り組める試験対策モジュールもある。iPad を
利用したモジュール開発も進めている
アドバイザーは、学生が持つアイデアを
コーチングで具現化する
English Only の快適な学習空間
英語教材が豊富にそろう SALC を特徴づけているのが、
「 English Only 」というルール。学生たちはまじめな話も
冗談も、全て英語で行っている
「教わる」のではなく、
「自ら学ぶ人」を育てる教育とは
弱点の解決法を
学生に気付かせるアドバイス
自立学習プラン「モジュール」で
やることを明確にする
学生一人ひとりの
「学習カルテ」で、
長所・短所を的確に把握
課題を解決するために、
自ら考えた学習への取り組み
ルノートに全てを細かく書き込んでいっ
ジを書いている。
「キミはこんなに素晴
た。
「一度失敗すれば、同じミスを繰り
らしい前進を、どう感じているんだい?」。
返さないよう反省し、成功すれば次の目
石井さんは、
「自ら学ぶ人」としての一歩
石井さんが秋に取り組んだ学習内容
標が見えてきました」
(石井さん)
。
を踏み出したのだ。
を見ていこう。定めた目標は「Express
振り返っては再度作戦を練り直すこと
Myself in English(英語で自己表現す
で、彼女は着実に次のステップへとつな
る)
」。石井さんは、考えた末にリーディ
げていく。こうして 8 週間かけて次第に
ングとディスカッションを組み合わせた
相手の意見を引き出せるようになり、つ
学習プランを練った。彼女はまず、ELI
いにはディスカッションの流れもコントロー
の教員ふたりに、自分と同じ短編小説を
ルできるまでになっていた。
読んだ後にその内容をディスカッション
するよう頼み込む。
「そんな依頼は初め
てよ」と、彼らは驚きながらも快く引き受
けてくれ、1作品につきふたりと15 分間ディ
「自ら学ぶ人」へ
第一歩を踏み出した
石井さんの「自立学習」はモリソン先
モリソン先生からのコーチングを受け
「モジュール」とは、目的ごとに学習ス
生を伴走者に、自己を分析することから
て、石井さんは初めて客観的に自己を見
テップを明確にした 8 週間のプランのこ
スカッションする手はずを整えた。選ん
ノートは石井さんとモリソン先生の間
始まった。多くの人は学習のつまずきを、
つめ直した。そして、ボキャブラリー不
と。
「これで一緒に作戦を立てないか?」。
だのは、オー・ヘンリーやマーク・トウェ
で交わされた、たくさんの言葉で埋め尽
足こそ自身の欠点であることに気付いた。
くされた。毎日のように話し合い、アド
「できない」の一言で片づけてしまうが、
ヒントを得た石井さんに、モリソン先生
インなど、世界中で有名な英米文学だ。
自立学習を成功させるには、このあいま
「ディスカッションにも『作法』があるん
は、モジュールで使用する専用ノートを
これであれば、ウェブ上の英米文学の掲
バイスが書き加えられた。彼女の目を見
いな「できない」をアドバイザーの手を
だ。使える言葉、フレーズもきちんと押
手渡した。中身は「目標」
「学習プラン」
示板に書き込まれたさまざまな意見も参
張る成長には「Excellent!」
と賛辞を送り、
借りながら明確にすることがスタート。
さえていけば、ディスカッションの導入
「実行した理由」
「次のステップ」などの
アドバイザーは、相談に来た学生に「学
はまるで違ってくるよ」と、モリソン先生
項目を1週間ごとに自分で記入し、それ
習方法」という回答は与えない。学生か
はさりげなく付け加えた。そんなキャッ
を振り返りながら進める内容になってい
ら学習の問題点を丁寧に聞き出し状況を
チボールをしながら、アドバイザーは学
る。ここに何を書き込むかで、一人ひと
深く理解した上で、
「なぜ、できないか」
生を問題に向き合わせ、自らの手で答え
り全く違った学習プランができあがる。
考に読める。
失敗も、成功も、
もれなくつづった記録
分析が足らないところには「もっとほか
のアイデアを持っている?」と再考を促
した。いつしかモジュールノートは、彼
女が徹底的に考えぬいた戦略と実行の
記録になっていた。石井さんは語る。
を問いかける。
「ディスカッションがで
を出させていく。そして次のステップで、
また、学びの履歴はアドバイザーによっ
学習プランが始まると、石井さんは作
「最初はアドバイザーというと、全て
きない理由をたずねられて、改めて考え
その解決策として何をすれば良いかと
て「学習カルテ」として記録され、長所と
品の背景や作者の意図を意識して読み、
彼らが準備してくれると勘違いしていま
ました。そしてボキャブラリーはある?
いう、必要な学習法までも学生自身に考
短所が明確にされる。
「学習のためのア
教員と意見をぶつけあった。その会話
した。でも一緒に話していくうちに、実
と聞かれ、確かにこれが弱いことに気付
えさせる。こうしたステップを実現させ
イデアなんて、どんな学生も持っています。
を録音して聞き返してはミスをチェック。
はいつのまにか自分で考えてやっている
きました。ひとりでは見えなかった英語
るのが SALC の自立学習プラン「モジュー
アドバイザーの役目はそのアイデアに気
ある時は問いかけに口ごもってしまったり、
ということに、後から気付かされるのです」。
の弱点が、次々と引き出されていたのです」
ル( Module )
」だ。
付かせ、具現化させることなのです」
(モ
またある時は「 OK 」と返したものの先が
ゴール間近となった7週目のモジュール
リソン先生)
。
続かなかったり…。石井さんはモジュー
ノートに、モリソン先生はこんなメッセー
(石井さん)
。
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ワークショップも定期的に開催
自主的な学びをサポートする以外にも定期的にワークショッ
プも開催。
「CNN の活用法」や「楽しく TOEFL スコアを上
げよう」など、バラエティ豊かなテーマが用意されている
外国人教員たちが学習をサポート
SALC と同じフロアにある ELI の Practice Center と
Writing Center には、外国人教員が常駐し学習をサポー
トする。石井さんもこの Practice Center を利用し、ディ
スカッションのトレーニングをした。ホワイトボードに貼
られた教員リストに名前を書き込めばすぐに予約ができる
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Self-Access Learning Center
A Edutainment Booths
エデュテインメントブース
SALC MAP
B Writing PC Area
ライティング PC エリア
C Group Access Area
グループアクセスエリア
D Reading Lounge
リーディングラウンジ
BLS
Blended
Learning
Spaces
ELI
E
Speaking Booths
スピーキングブース
ELI
ELI
Lounge
ELI Practice Center
E
F
Individual Study Area
インディビジュアルスタディエリア
G Multi-Purpose Rooms (MPR)
マルチパーパスルーム
Speaking Booths
C Group Access Area
(Tables & PCs)
自立学習者として歩き始める学生たちを支援す
ELI Writing Center
るために設けられた各設備。教材探しや相談に
2
F
乗るスタッフも常駐し、カウンターでは学生スタッ
4
3
フも活躍している
5
6
1
Individual Study Area
7
A Edutainment Booths
9
G
MultiPurpose
Rooms
10
8
Learning
Advising
Room
Writing
PC Area
11
B
12
自ら課題を発見して解決方法を見出す。
生涯「自立学習者」、それが神田外語大学の教育論
15
D Reading Lounge
14
13
1日 700 名以上が利用する
「自立して学ぶ」ための施設
16
石井さんのように自ら考えて学ぶスタ
17
18
Learning
Help Desk
イルを身に付けていく学生は、彼女に限っ
SALC
Counter
た話ではない。
「アドバイザーの役目は
学生自身に、本当に必要な学習方法を見
つけさせることです」と、SALC ディレ
F
教材一覧
Individual Study Area
SALC
Entrance
Learning
Community
バイザーにとって大きな喜びはありません。
かみたい」。その手には、使い込まれた
なく、例えるならば、個々の目的地に導
1冊のノートが、
しっかりと握られていた。
く
『ガイド』ですね」
(マイナード准教授)
。
「自ら学ぶ姿勢」が
自然と身に付く
クターのジョアン・マイナード先生は語っ
だが、SALC の最終目標は英語を習
た。
「それは学ぶための手段も、教材も、
得させることだけではない。マイナード
継続するための目標も、学生が自ら考え、
先生は続けて言う。
「 SALC での自立学
発見することにほかなりません」。
習の経験を通して、結果的に学生は自ら
現在1日あたり 700 名余りの学生が利
の学習には教員を必要としないレベルに
1 Media English
10 Movies
2 Study Abroad
11 Business English
3 Countries & Cultures
12 Presentation
4 Japanese
13 Reading
5 Hobbies and Interests
14 Listening
6 Group Activities
15 Speaking
7 Learning with Movies
16 Learn How to Learn
で一連のプロセスを経た学生は、文字通
嬉しそうにこんな言葉を口にした。
「今
8 Examination
17 Vocabulary
り
「自立して学ぶ人」
として成長する。
「はっ
ではディスカッションをひとつ終えると、
9 Writing
18 Grammar
とした表情とともに見せる、学生の気付
もっと改善できるのではないかと考える
きの瞬間。これを目にする時ほど、アド
ようになりました。より高みをめざす、そ
BLS( Blended Learning Spaces )
SALC と同じフロアには、語学学習のための専用
教室 BLS( Blended Learning Spaces )がある。
SALC と ELI ラウンジ、BLS はそれぞれが結びつ
いたひとつの空間として、
「学習の循環」を創り出す
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んな挑む姿勢で、私は自分の未来をつ
アドバイザーは知恵を授ける教員では
用する SALC。その根幹には「Learner
到達します。そしてどんなことに対しても、
」という学習理
Autonomy(自立学習)
自主的に学び、考える人になっているで
論がある。イギリスや香港、ニュージー
しょう。それこそ社会に出て、真に求め
ランドなど世界各国で研究されており、
られる人の姿です」。
神田外語大学の SALC はその成功事例
自ら定めた数々のゴールを乗り越え、
として国内外から注目されている。ここ
確かな手ごたえを感じている石井さんは、
Dr. Joanne Mynard
Director, Self-Access Learning Center
ジョアン・マイナード准教授
SALC ディレクター
「 SALC のアドバイザーは、学生一人ひとりのニーズに応
じてガイドをしています。アドバイジングで必要なのは、じっ
くり学生の話を聞く力ですね。一方、英語を学ぶ姿勢と
して学生に最も求められるのは、自己管理能力かもしれ
ません」
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