TAO/TRITON ブイで観測された赤道太平洋の大気海洋トレンド ○長谷川 拓也・安藤 健太郎(海洋研究開発機構) [背景] 日本を含め世界の気候に多大な影響を与える熱帯太平洋における長期気候変動の実態を調べるため に、JAMSTEC および NOAA が設置する TAO/TRITON ブイアレイのデータを解析した。ブイアレイの西側 (156 ˚E 以西)を担う TRITON ブイは、 「みらい」の就航を待って、1999 年から JAMSTEC により展開されてい る。本研究では、長期のブイデータを用いて、赤道太平洋における海洋表層水温および海面水温や大 気場の十年規模のトレンドに着目する。TAO/TRITON ブイにおける観測手段やプラットフォームは観測 期間中に大きく変化していないために、観測器具等の変遷によって生ずる見かけの変化を無視するこ とが可能となる。そのために、長期トレンドなどの長期気候変動を解析する上で、ブイデータの信頼 性は高く有益である。 [結果] 2000 年から 2012 年の TAO/TRION ブイデータから得られた海面水温、20℃等温線深度、東西風の線形 回帰係数を図1に示す。図1上段から、海面水温は、日付変更線を中心とする中部赤道太平洋で冷却 傾向を示し、一方、160˚E 以西および 120˚W 以東では昇温傾向を示す。すなわち、日付変更線よりも西 側では、水温傾向の東西勾配が負となるが、それに対応するように東西風の傾向(図1下段)が東風 傾向となっている。日付変更線よりも東側では、東西水温勾配は正となり、それに対応するように東 西風が西風傾向となっている。さらに、この東西風の傾向に対応して、日付変更線の西側では西風傾 向による暖水の蓄積が期待されるが、実際に 20℃等温線深度(図1中段)が深化傾向となっている。 また、東西風が発散場となる 150˚W 付近では 20℃等温線深度は浅化傾向となっている。このような大 気海洋のトレンドは、大気海洋結合系の変化によって、ラニーニャモドキ的なパターンが最近 10 年間 において強化された傾向であることを示唆する。 [議論] 最近の 10 年間において、地球温暖化の進行が停滞していることが指摘され、このような状態 は”Hiatus(ハイエイタス、停止を意味する)”と呼ばれている。温暖化の Hiatus の原因として、赤 道太平洋が広く冷えることの重要性が最近数値モデル実験によって報告された (e.g., Kosaka and Xie 2013)。今回、ブイデータを解析した本研究によって見いだされた最近 10 年間のラニーニャモドキの 強化傾向が、2000 年代の温暖化の Hiatus と関連している可能性が考えられる。加えて、ブイ網の北西 にあたるフィリピン沖の SST が高く、20 度等温線が深くなる傾向であることも、ラニーニャモドキや Hiatus との関連で注目するべきであろう。 図1:2000 年から 2012 年の TAO/TRION ブイデータから得られた海面水温(上段) 、20℃等温線深度(中段) 、東西風(下段)の 線形回帰係数。
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