血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)(140121)

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血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)(140121)
溶血、血小板減少、腎障害、神経症状、発熱などで疑うべき疾患だ。何かと鑑別に挙がるので
簡単に復習しておこうと思う。
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血栓性微小血管障害症 (thrombotic microangiopathy, TMA)という病理学的診断名がある。
これは 1) 細血管障害性溶血性貧血(microangiopathic hemolytic anemia: MAHA)、2) 破壊
性血小板減少、そして 3) 細血管内血小板血栓を 3 主徴とする病態で、検査診断学的には、
破砕赤血球、血小板減少、血栓による臓器機能障害を特徴とする。この TMA 病態を示す代
表疾患として、血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura; TTP)と
溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome; HUS )、それに様々な基礎疾患に合併す
る二次性 TTP/HUS がある。4)
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TTP と HUS を 包 括し た 病理 学的診 断名で ある 血栓 性微小 血管障 害症 ( Thrombotic
microangiopathy;TMA)が使用されることがある。2)
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HUS は小児に多く、とりわけ近年は腸管出血性大腸菌 O157:H7 株による感染性腸炎に続発
するものが殆どであると一般に認識されてきた。しかし、便中に志賀様毒素(通称、ベロ毒素)
が検出できる O157 感染に併発する HUS を除いて、TTP と HUS の両者は症状のみでは鑑
別困難な例がしばしばある。これ故、近年は TMA という病理学的診断名も多用される傾向に
ある。一方、TMA 類似病態であるが、凝固(フィブリン)血栓を主体とし、凝固異常を伴う播種
性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation, DIC)は、原則として凝固異常がない
TMA とは異なった病態カテゴリーと理解される。4)
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①血小板減少、②溶血性貧血、③動揺性精神神経症状、④発熱、⑤腎機能障害を 5 徴候と
する疾患である。1)
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小児から高齢者まですべての年齢に発症するが、後天性のものは好発年齢は 20~40 歳で
あり、やや女性に多い。1)
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TTP は後天性に生ずるものが一般的であるが、後述のように稀に先天性素因に基づいて起
こるものがある。従って罹患年令は新生児から老人までと幅広く、一般には 10~40 歳代、特
に 30 歳代に発症しやすいとされる。男女比の罹患率は全体ではほぼ 1:1 であるが、20~40
歳では 1:2 の比率で女性に多いとの報告がある。発症率は人口 100 万人に 4 人と推計され
ているが、TTP の診断技術の向上、迅速化により、この疾患概念が一変しつつあるので、今
後頻度は大きく上方修正されると考えられる。4)
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TTP はわが国での正確な症例数は把握されていないが、海外からは人口 100 万人あたり 3.7
人発症するまれな疾患として報告されている。しかし、TTP という病気自体の認識度が高まる
に従って症例数が増えていることが報告されている。2)
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ADAMTS13 活性が著減する定型的 TTP として、ADAMTS13 遺伝子異常に基づく先天性
TTP(別名 Upshaw-Schulman 症候群, USS)と、ADAMTS13 対する IgG、IgA あるいは IgM 型
の中和ないし非中和自己抗体による後天性 TTP が知られている。これに対し、ADAMTS13
活性が軽度低下ないし正常の非定型的 TTP も TTP 全体の約 1/3 を占める。この病因は多
彩で、HUS との鑑別が困難な例が多く、病理学的診断名である TMA が使用される場合も多
い。4)
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(原因と病態)先天性、特発性、妊娠・分娩、薬剤性、HIV 感染、膠原病、造血幹細胞移植、
悪性腫瘍などがある。このなかの特発性と薬剤性(とくに抗血小板薬であるチクロピジン)で
は 、 vWF ( von
Willebrand facter ) の 切 断 酵 素 で あ る ADAMTS13 ( a disintegrin and
metalloprotease with thrombospondin 1-like domains ) に 対 す る 自 己 抗 体 が 出 現 し 、
ADAMTS13 の活性が著減することが多い。1)
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最近では、von Willebrand 因子(VWF)を切断する酵素 ADAMTS13(a disintegrin like and
metalloprotease with thrombospondin type l motifs-13)の登場により、TTP の注目度が増し
ており、TTP と診断される症例数は増えていることが予想される。2)
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光顕所見として典型的なのは、種々の臓器における毛細血管、細動脈、動脈内に形成され
る、血小板とフィブリンによる血栓である。HUS と異なり、TTP では微小血管における血栓形
成は広範囲であり、脳、腎臓、膵臓、心臓、副腎、脾臓にも認められる。1)
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TTP は、その症例数の少なさや特異的な診断指標がないことより、一般臨床医にとって最も
診断が困難な疾患の 1 つといわれている。2)
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神経症状としては、幻覚、妄想、脳神経麻痺、頭痛、失見当識痙攣などが多く認められる。
1)
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古典的 5 徴候とは①血小板減少、②細血管障害性溶血性貧血、③腎機能障害、④発熱、⑤
精神神経障害である。この 5 徴候は、病初期にはすべて認めないことがあり、特に③④⑤は
終末臓器に血小板血栓が形成されることで認められると考えられ、5 徴候が揃うのを待つこ
とは治療開始が遅くなる可能性がある。しかし、この診断基準は TTP にかなり特異的な症状
であり、現在もわが国の多くの臨床医はこの古典的 5 徴候を重視している。2)
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(播種出血管内凝固症候群、子癇など他に原因となる疾患を除外して、血小板減少と溶血性
貧血の 2 徴候のみを TTP の診断基準として使用する)診断基準は非常に簡便で使いやすい
が、問題点としてこの 2 徴候は TTP に特異的なものではなく、特に溶血性尿毒症症候群
(hemolytic uremic syndrome;HUS)との鑑別が困難である。2)
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後天性特発性 TTP の大部分が lgG 型の自己抗体によって ADAMTS13 活性が著減するが、
造血幹細胞移植後、悪性腫瘍、膠原病などに合併した後天性二次性 TTP の大部分の症例
では ADAMTS13 活性は著減しないことが明らかとなった。ADAMTS13 活性著減 TTP は、典
型的な TTP であると思われるが、それ以外の従来 TTP と診断していた症例をどのように診断
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するか、国際的なコンセンサスは得られていない。2)
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溶血に伴う破砕赤血球の出現、血清ハプトグロビンの低下、血小板数の低下、ビリルビンの
上昇、血尿・蛋白尿なども高頻度に認められる。一部の症例では自己抗体や補体の低下が
認められており、自己免疫学的機序の関与も推定される。なお、DIC との鑑別点は PT、
PTT、フィブリノゲン、凝固因子は正常で、FDP も増加しない点であり、一方で DIC では著明
な溶血性貧血は認めない。1)
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現在では ADAMTS13 活性およびインヒビターの測定が可能であるため、ADAMTS13 活性が
著減し、インヒビターが証明されれば後天性の特発性 TTP と診断できる。2)
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血液検査では、細小血管性の赤血球破壊に伴い破砕赤血球が出現する。また血管内溶血
を反映し、網状赤血球数の増加、間接ビリルビン上昇、血清 LDH 上昇、ハプトグロビンの低
下が認められ、ヘモグロビン尿や尿中ヘモジデリンが陽性となる。クームステストは陰性であ
り、自己免疫性溶血性貧血と免疫性血小板減少症を合併する Evans 症候群の鑑別に役立
つ。腎障害は HUS とは異なり軽度のことが多い。骨髄検査では、溶血と末梢での血小板消
費の亢進を反映し、赤芽球の過形成や巨核球数の増加がみられる。凝固検査は正常範囲
のことが多く、異常があっても軽度であり、播種性血管内凝固症候群の鑑別に有用である。
2)
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血栓性血小板減少性紫斑病は、無治療の場合は 90%以上が死亡する予後不良な疾患であ
ったが、現在では新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma;FFP)を置換液とした血漿交換療法で
致死率約 20%にまで低下した。2)
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先天性 TTP である Upshaw-Schulman 症候群に対しては、新鮮凍結血漿を 10ml/kg/2~3
週ごとに輸注して ADAMTSI3 酵素補充を行い、血小板数を維持するという発症予防治療が
行われる。1)
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先天性 TTP(USS):現時点では新鮮凍結血漿 (FFP) 10 ml/kg を 2 週毎に輸注して
ADAMTS13 酵素補充を行い、血小板数を維持し TTP 発症予防治療が行われている場合が
多い。近未来には遺伝子発現蛋白(rADAMTS13)による酵素補充療法が可能となるであると
思われる。4)
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後天性 TTP において第一選択の治療法は血漿交換である。2)
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後天性 TTP: TTP 全体の約 2/3 の症例で ADAMTS13 活性は著減し、これらはほぼ全例
ADAMTS13 インヒビター(自己抗体)陽性である。それ故、FFP のみの投与では不十分で、治
療は血漿交換(plasma exchange, PE)療法が第一選択となる。この際ステロイドもしくはステロ
イドパルス療法の併用が一般的である。PE の効果は、1)ADAMTS13 の補充、2)同インヒビタ
ーの除去、3)UL-VWFM の除去、4)止血に必要な正常 VWF の補充、また、5)炎症性高サイト
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カイン血症の是正も効能とされる。TTP の血小板減少に対して、血小板輸血を積極的に行う
事は「火に油をそそぐ(fuel on the fire)」に例えられ、基本的には予防的血小板輸血は禁忌と
なる。また、難治・反復例に対してはビンクリスチン、エンドキサンなどの免疫抑制剤の使用
や脾摘なども考慮される。最近では、抗 CD20 キメラ抗体であるリツキサンが PE に治療抵抗
性を示し、且つ高力価 ADAMTS13 インヒビターを認める症例に極めて有用との報告が数多く
なされている。しかし、本邦では未だ保険適応外である。4)

後天性の軽症例では新鮮凍結血漿の投与のみで改善する場合もある。しかし、TMA 全体の
約 1/3 の症例で ADAMTS13 活性は著減し、ほぼ自己抗体が陽性であるため、新鮮凍結血漿
だけでは不十分であり、後天性・特発性 TTP の治療は血漿交換療法(plasma exchange)が
第一選択である。保険は週 3 回、3 ヵ月以内が適応とされている。1)

明確なエビデンスはないが、抗体産生の抑制目的にステロイドを併用することも有用と考え
られる。ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン 1g×3 日間)が推奨されている。アスピリ
ンとジピリダモールを血漿交換+ステロイド治療に併用すると予後が改善するとの報告もあ
るが、出血傾向を助長する可能性もあり、積極的には行われていない。難治性の場合は免
疫抑制薬の使用、再発例の場合は脾摘が適応となる。血小板の輸注は、重篤な出血が認め
られなければ施行しない。1)
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TTP の血漿交換の問題点は、原因となっている自己抗体の抗原を補充することであり、体外
から抗原を投与することによって自己抗体産生を刺激することが予想される。そのために、
多くの TTP 治療では、ステロイド治療が追加される場合が多い。血漿交換とステロイド治療
によっても再発した場合、シクロスポリン、シクロフォスファミド、ピンクリスチン、摘脾などが経
験的に行われてきた。近年、このような難治例、再発例に対して抗 CD20 に対するモノクロー
ナル抗体リツキシマブの有用性が報告された。2)
いつでも頭の片隅に置いておこうと思う。DIC(凝固異常あり)との違い、HUS(小児に多い、腎障
害が高度、TTP のように血栓形成が広範でない)との違い、Evans 症候群(クームステスト陽性)と
の違いについては意識していきたい。
参考文献
1.
小田晶, 冨田公夫.TTP, HUS.綜合臨牀 60(6): 1437-1442, 2011.
2.
松本雅則.血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の最近の話題.Pharma Medica 30(5): 43-47,
2012.
3.
伊藤薫樹, 石田陽治.血栓性血小板減少性紫斑病.医学と薬学 63(2): 179-183, 2010.
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血栓性血小板減少性紫斑病(TTP).難病情報センターホームページ
http://www.nanbyou.or.jp/entry/246
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