レジデント制度による薬剤師の育成 レジデントの立場からみたレジデント制度の魅力とは 研究活動への参加は レジデントならではの 貴重な機会 充実した病棟研修を通じて 将来の可能性が見えてくる 私は、医療現場でファーマシューティカ レジデント制度は、特に進路を迷っている学 ルケアを実践する病院薬剤師を志望して いました。実務実習ではその思いを再確 PGY 2 生には有意義な制度だと思います。私自身も、 PGY 1 認できましたが、短期間で目標とする専 友松 拓哉 先生 薬剤師の活動領域が広がっていることから進 丸山 拓実 先生 Vol.12 薬学部卒業後の薬剤師 が報酬を得ながら研修を 行う レジデント制度 。こ の制度を導入する施設は、6年制教育の卒 業生の登場を機に増加し、2014年度には約40 施設に上っています。今回は、2013年度から当制度 を開始した東京女子医科大学病院(東京都新宿 門分野や活動内容等のビジョンを描くことができず、現場を経験し 路の決定には慎重になっていたため、 レジデント制度を活用してキャリア 区)で、その背景や具体的な内容についてお話を てから方向性を決めたいと考えてレジデント制度を選択しました。 プランをたてようと考えました。 伺いました。 特に当院は、 3つの診療科で4ヵ月ずつ、計1年間にわたって病棟 当院を選んだ決め手のひとつは、研究活動に参加できることです。 業務に携わることができます。今、 まさに病棟で研修中ですが、 当 大学では薬物動態の研究をしていましたが、 当院には関連研究が起ち上 初考えていた領域とは別の分野、複数の病棟での体験を通じて興 げられているので、 この研究への参加をPGY3の大きな目標としています。 味が広がり、 新しい選択肢が得られたと手応えを感じています。 また、 カリキュラムが充実しており、 3年間の目標がたてやすいことも また、今年は海外研修に参加して、米国の薬学部教育とレジデ 信頼できた点です。特に研修医の基礎セミナーでは薬学教育とは違った ント制度、病院薬剤師の活動等を知ることができました。医療制度 視点から医療を学ぶことができ、将来、 チーム医療に参画するときに必ず の違いもありますが、米国の薬剤師は薬物療法のベースとして深 プラスになると考えています。 い医療知識を持っていることに大きな刺激を受けました。今後は日 このように、就職後では得難い経験が可能となるのもレジデント制度 本でも、薬物療法に限らず幅広い知識を兼ね備えた薬剤師が必 の魅力です。 まだ1年目ですが、先輩方に中央業務を指導していただき 要とされるはずです。 当院での恵まれた環境での研修経験を活か ながら、忙しく充実した毎日を送っています。 これからの2年間も全力で し、 力のある薬剤師を目指していきます。 知識の習得に励みます。 ファーマシスト ビュー 2015.01 ジェネラルな臨床能力と高い専門性 これからの薬剤師の育成に貢献する レジデント制度の運営 チーム医療への参画、病棟業務による薬物療法の有効性や安全性 への貢献等、病院薬剤師に求められる専門性が広がるにつれ薬剤師 教育も変化しています。薬学部の6年制導入はもとより、新卒者を対象 としたレジデント制度の増加もそのひとつです。 東京女子医科大学病院でも、昨年度から3年制のレジデント制度を 導入しました。薬剤部部長の木村利美先生は、 「当院のような高度医療 機関が包括的な卒後臨床研修を提供することは、 ジェネラリストとして の職能のボトムアップと臨床能力の高いスペシャリストの育成、 つまり 時代のニーズに応じた薬剤師の教育として有効である」 とその意義を捉 東京女子医科大学病院 薬剤部 部長 木村 利美 先生 えています。 また木村先生は、在学中の実務実習だけでは期間が短く経験が限ら とって、実務の経験値を上げながらさまざまな臨床を れてしまうこと、 さらに就職後となると、OJTのシステム化や部署間の 体験できるレジデント制度は、 キャリアパスとして有益 ローテート等、長期の教育制度の構築は困難である等の現状から、 であるに違いありません。 「卒業直後かつ就業前にこそ、 このような研修期間が必要」 だと考えて います。特に、 目指すべき進路を見いだせず不安を感じている薬学生に 一方、導入施設にとっては経営的観点からどのよう な利点があるのでしょうか。 たとえば病棟薬剤業務実施加算の算定をベテラン スタッフのみで行うとなると、 人材確保が困難なうえに 収支が見合いません。同院のレジデントは臨時職員 待遇ですが、実務として病棟業務を行うことで、教育 面の充実と同時に収益の適正化にも貢献しています。 また、 レジデント修了者から採用選考を進めることで 即戦力となる優れた薬剤師が獲得でき、安定した人 員配置計画の確立にもつながるなど、評価すべき利点 は数多くあります。 BA-XKS-369A2014年12月作成 東京女子医科大学病院 このような点から、木村先生は 「レジデント制度は 所在地/〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1 病床数/1,423床 常勤薬剤師定数 91名(レジデント枠17名含む) 臨床に即した薬剤師の育成に必ず貢献する」 とし、 P HARMACIST V I E W 制度の発展を確信しています。 Vol.12 ファーマシスト ビュー 2015.01 ワーキンググループによる運営の下 “初期研修プログラム” の クオリティを維持 WGやプリセプターが手厚く対応 レジデントの心身を支えるフォロー体制 レジデント制度による薬剤師の育成 薬剤部では、担当部署や年代が違う3年目以上のスタッフ8名による レジ WGでは、 より効果的な教育を行うため、半年に1回レジデントに無記名アンケー デント・ワーキンググループ (以下「WG」)が制度の運営にあたってきました。 トを実施し、 プログラムの改善に役立てています。 たとえば、初年度の教育講義は5ヵ の修得への意欲がうかがえるということです。 それぞれが経験を活かし、 プログラムの構築からレジデントのケアまでのすべ 月間で実施されましたが、 「内容が濃密で短期間では消化しきれない」 「業務の勉強 一方、 業務の指導にはすべての薬剤師が関わり ての管理、 進行に携わっています。 も並行して行うため満足のいく予習復習ができない」等の向上心のある意見が聞か ますが、進捗状況の把握はプリセプターの役割で 同院ではレジデント制度プログラムとして、PGY1(post graduate year 1 れたため、本年度は講義内容はそのままに、8ヵ月間へと余裕を持たせたスケジュー す。 評価チェック表 を用いて習熟度を確認し、 =1年目) とPGY2(2年目) の期間で、調剤・製剤等の中央業務と病棟業務等 薬剤部 主任 薬剤部 ルに再編しました。 一定レベルに到達するように指導しています。 大竹 の実務、 および教育講義や勉強会等で知識の修得を行う 初期研修プログラ 吉岡 我佳命 先生 中村 誓子 先生 また、知識の習得に集中できるように、生活面のサポート体制としてプリセプター 先生は、 「私自身、指導は不慣れで、最初は負担に ム の二つが設定されています (図1)。 制度を導入しました。PGY1にはPGY2を、PGY2に 感じることもあった。 しかし、彼らの熱心な姿勢と 初期研修プログラムの構築について、WGを統 は3∼4年目の薬剤師を配置し、 さらにWGの担当 確実な成長という成果を前にして、医療に貢献す 者が統括するなど、手厚いフォロー体制を整備して るすぐれた薬剤師の育成をサポートすることが指 います。WGのメンバーであり、3年目薬剤師として 導の目標であるのだと、広い視野で理解すること PGY2のプリセプターを担当している大竹翔先生に ができた」 と、 プリセプターの経験が自身の気づき よると、生活面だけではなく勉強時間の捻出方法や となったと振り返ります。木村先生は、教育に興味 具体的な業務への相談や質問も多く、知識と実務 をもつレジデントも多いことから、今後はティー 括する主任薬剤師の吉岡我佳命先生は 「当院は 将来の方向を定め 土台を形成する3年目は レジデント制度の要 従来からスタッフの教育プログラムが充実してい たので、 それがベースとなった」 と話します (図2)。 中でも、研修医の卒後臨床研修の基本セミナー への参加を 「大学病院ならではの貴重な機会」 だ 同院のレジデント制度は3年間にわたりますが、他の施設の制度と比較しても と話すのは、WGのリーダーを務め、 プログラム構 もっとも長く、 同院の特徴のひとつとなっています。 これは、最初の2年間で実務や臨 築の中心的役割を果たす中村誓子先生です。 レ 床を習得しながらキャリアの見極めを行い、 その準備と専門性を高める期間を3年 ジデント制度の目的は包括的に医療を学ぶことで 目としているためです。 「薬剤師としての今後の基盤を確立する1年であり、 レジデン あり、基本的な医療知識は薬剤師も医師と同じレ ト制度でしか経験できないはず」 と、木村先生は話します。 ベルであるべきだという観点から必修としました。 また、PGY3(3年目) では研究活動が必修であり、 チーム医療の一員として臨床 木村先生はこの点に、 「薬物療法の適正性を評価 を担当しながら、診療科と共同で研究に携わります。研究を必修とするのは、 ひとつ して処方提案を行う薬剤師にとっては、医師の処 は大学病院の責務からです。同院ならではの難しい症例や新薬の評価として有害 方決定のベースとなる医学的根拠を知ることは当 事象や実臨床のデータをまとめることは、医療の発展と患者さんへの貢献であり大 然」 だと付け加えます。 学病院の薬剤師の使命です。 もうひとつは、研究手法の習得を日常での臨床現場 また教育講義には、 「概論」 と 「薬物治療」 の2つ でも役立てるためです。 目的意識を持って問題を抽出し、研究計画の立案・実行、 ア を設けています (図3)。 これらの講義はすべて、 そ セスメントまでを行ってひとつの形にまとめあげるステップは、 まさにPDCAサイクル のテーマや疾患の病棟担当薬剤師等が講師と の実践となります。 なってテキストとスライドを用意し、WGが監修して このほか、PGY2以上の希望者は、 スタッフ同様に米国のアイオワ大学での研修 質を担保しています。 自身の知識の見直しととも に参加することができます。 これは、 日本とは異なる教育体制や就業環境を学ぶこと に、伝えるノウハウを得る機会にもなり、 「患者さん で気づきにつなげ、 スキルアップやパフォーマンスの改善につなげる機会として導入 への説 明や服 薬 指 導にも活かすことができ、 されました。 自身も参加経験のある中村先生は、 「レジデント制度導入50年を迎える スタッフの教育的側面も持つ」 (吉岡先生) という 米国では制度も成熟し、 この研修から得ることが多いはず」 と話します。 また吉岡先 ことです。 生も、 「レジデントはこのようなさまざまなカリキュラムを積極的に活用して成長につ なげてほしい」 と期待しています。 図1 ■ レジデント制度プログラム PGY 1 調剤室 医薬品管理供給室 各6ヵ月 図2 ■ 主な初期研修プログラム〈PGY1∼2の期間で修了〉 ■ 教育講義 ( 「概論」 、 「薬物治療」 )※基本的にはPGY1で修了 中央業務 + 初期研修プログラム ■ 専門領域別院内勉強会 (がん医療薬学研究会、糖尿病領域、 精神科領域、感染制御領域、妊婦・授乳婦領域) への参加 3診療科 各4ヵ月 PGY 2 (内科系・外科系から各1必修、化学療法を行う診療科を含むこと) 臨床業務 + 中央業務 + 初期研修プログラム PGY 3 研究活動 + 臨床業務 + 中央業務 …等 ■ 医療人統合教育学習センターを活用 ① スキルスラボを活用したフィジカルアセスメント研修 ② ICLS (Immediate Cardiac Life Support) 講習会の受講 … 等 ■ 卒後臨床研修センター基本セミナー参加 ■ 語学教育への参加 … ほか チング・スキルの講義をプログラムに加えることを 図3 ■ 教育講義 薬剤部 ■ 1. オリエンテーション、 薬剤部案内 2. 薬剤部の組織とビジョン 3. 医薬品安全管理 4. 電子カルテシステム 5. 事務手続き 6. 防災 7. 規制医薬品の管理 8. 治験審査委員会と 倫理委員会 9. 麻薬管理 10.試験薬管理 11.服薬指導と心理教育 12.医薬品情報 13.事務手続き 14.防災 15.院内製剤 ■ 大竹 翔 先生 概論 16.褥瘡 17.臨床薬剤管理 18.TDM 19.外来化学療法 20.NST 21.HIV 22.緩和ケア 23.在宅医療 24.神経精神科調剤室 25.癌化学療法 26.院内感染対策とICT 27.PET 28.オペ室 29.当直 (縣) 30.院外処方せんの 発行と薬−薬連携 で薬剤師がマネージメント力を発揮できるよう、 マネージメント・スキルの講義も取り入れたい」 と プログラムの充実に意欲を示しています。 認証制度の確立に向け 全国の導入施設が団結して研究会を設立 レジデント制度の発展への期待は高まる 現在は個々の施設が独自に管理・運営しているレジデント制度ですが、制度の発 展に向けた協力体制の構築が徐々に進められています。 同院でも、近隣の医療機関を中心とした相互研修の体制整備に着手しています。 たとえば、同院で行われている英語の医学論文のリーディング講義にはすでに他院 から聴講希望の打診もあり、1年以内の実現を目指しているということです。 また、 近隣地域に留まらず、 レジデント制度導入施設間の関係構築はすでに全国規 薬物治療 1. 呼吸器疾患 2. 妊婦・授乳婦 3. 脳神経疾患 4. 上部消化管疾患 5. 下部消化管疾患 6. 腎臓内科 7. 肝臓疾患 8. 眼科疾患 9. 精神疾患 10. 血液疾患 11. 整形外科疾患 12. 腎臓外科 移植領域 13. 循環器内科 14. 心臓外科 検討しています。 また同時に、 「チーム医療の現場 15. 糖尿病疾患 16. 皮膚疾患 17. 内分泌疾患 18 乳腺疾患 19. 婦人科疾患 20. リウマチ疾患 21. ICU管理 22. 膵・胆道系疾患 23. 小児 24. 口腔外科疾患 25. 救命救急 26. 調剤室の管理薬 27. 神経内科疾患 模で進められています。2014年には、西日本で活発に行われていたレジデント交流会 を基盤に、 全国の約40の導入施設が参加する 「日本薬剤師レジデント制度研究会」 が 設立されました。 今後の制度のあり方を検討し、 認証制度としての確立に向けて広く展 開していくことが第一の目的です。 そのためにも、 「薬学部と良好な連携関係を構築し、 薬学生への制度の周知に努めることも課題のひとつ」 だと木村先生は話します。 同院では、来年度には初めてのPGY3が、 その翌年には最初のレジデント修了者が 輩出されます。 「当院のレジデント制度が評価されるとき。就業先施設から優秀な人 材を育成したと認められるよう、教育の質を担保していかねばならない」 と、吉岡先生 をはじめWGのメンバーは異口同音に語ります。木村先生は、 「レジデント制度の広が りは緒に就いたばかり。今後、薬剤師教育に不可欠な存在となるよう、成果につなげ ていく」 と、 さらなる進化を約束してくれました。
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