超高速ダイオード「WSR シリーズ」 ULTRA FAST RECOVERY DIODES, WSR SERIES 青木 和幸 Kazuyuki AOKI 要 旨 近年,エネルギー利用に伴う環境負荷削減が社会テーマとなっており,パワーデバイスにおいても機 器の省エネ,高性能化,高効率化の要求が年毎に強まっている。 今回紹介する超高速ダイオードは耐圧 600V クラスのダイオードで,100 ~ 200A の大電流用であり, 順方向損失が小さく,高速であり,スイッチング損失が小さい(ソフトリカバリーである)という特徴 を有している。 これらを達成するためには,順方向損失と逆回復特性の最適化が必要で,デバイス構造やライフタイ ム制御が重要な技術となる。また,高信頼性を得るために終端構造はプレーナー・ガードリング構造を 採用し,デバイスシミュレーターによる最適化で,従来製品に比べてチップ面積を小さくし低コスト化 を図った。 Abstract In recent years, society has been facing the challenge of reducing the environmental impacts arising from energy consumption. In the power device market, demand for lower energy consumption, higher performance and higher efficiency has been rising with each year. This paper presents an ultra-fast recovery diode 600 V class. Designed for high current ranging from 100 A to 200 A, it features a low forward voltage loss, high speed and low switching loss (soft recovery). These characteristics could not be attained without optimizing the forward voltage drop and the recovery characteristic. The structure of the device and the lifetime control were vital technologies for this. To secure a high level of reliability, a planar guard ring structure has been adopted for terminals. Optimization with a device simulator has achieved a smaller chip area and a lower cost in comparison with the conventional product. 1.ま え が き 流タイプで,順方向損失と逆回復特性の VF-trr トレー 近年,地球温暖化や地球資源の有効利用など環境問 ドオフを向上させるためにデバイス構造やライフタイ 題への関心が高く,限りあるエネルギーの使用量削減 ム制御の最適化を行い,超高速かつ順方向損失を小さ やエネルギー利用に伴う環境負荷削減が重要な社会 くした。また終端構造はプレーナー・ガードリング構 テーマとなっている。パワーデバイスにおいても使用 造を採用し,デバイスシミュレーターによる最適化で, する機器の省エネ,高性能化,高効率化のために超高 従来品より終端構造のチップ面積に占める割合を小さ 速や低損失などデバイスの性能アップの要求が年毎に くし,チップを小型化した。 強まっている。 WSR シリーズは,高速化が難しい大電流タイプで 今 回 紹 介 す る 超 高 速 ダ イ オ ー ド(WSR シ リ ー ズ ) チップを小型化することやライフタイム制御を最適化 の 特 徴 は, 耐 圧 600V, 電 流 容 量 100 ~ 200A の 大 電 することにより,超高速かつ順方向損失を小さくする Origin Technical Journal No. 77 (2014) II-3 ことができた。 200A の大電流タイプであるため,通電時のキャリア 用途としては,電源機器の二次側整流用ダイオード の量が多く,高速化が難しくなる。そこで,デバイス やインバーターのフライホイールダイオード(還流用) 構造ではi層幅と比抵抗の関係から,耐圧 600V 以上 などの産業機器向けに開発した。 で,i層幅を出来るだけ狭く設計して順方向損失を小 さくした。 2.ダイオードの構造 なお,VF-trr トレードオフ関係を向上させるために, 耐圧設計では,600V 以上の耐圧を得るために,ウ ライフタイム制御では,実績のあるライフタイムキ エ ハ の 比 抵 抗(ρn) と i 層 幅(W) が 重 要 と な る。 ラー導入プロセスを採用し,VF-trr トレードオフ関係 図1の比抵抗ρn と逆方向電圧 VB の関係から,ダイ を最適化することで順方向損失を小さくかつ逆回復特 オードを高耐圧化するためには比抵抗を高く,ⅰ層幅 性を高速化した。 を広くすることが必要となる。 パッケージとしては大電流対応のパワーモジュール また,順方向損失と逆回復特性の VF-trr トレード に搭載予定である。また,海外の顧客要求に応えるた オフを向上させるには,デバイス構造とライフタイム めにウエハ販売も予定している。特に,ウエハ販売で 制御が重要となる。図2の VF-trr トレードオフ関係 は,VF-trr トレードオフ関係から顧客が満足する性能 から,ダイオードを高速化するためにはi層幅を狭く をカスタムメイドで実現することを目指している。 することと,trr に影響を及ぼすキャリアを速く消滅 させることが必要となる。 開発品である WSR シリーズは比抵抗,i層幅,プ 5.73mm(Pitch) 0.1mm レーナー・ガードリング構造などをデバイスシミュ レーションにより最適化することで,耐圧 600V 以上 を確保して終端構造を小型化した。 p + n n 4.88mm ま た, 逆 回 復 特 性 に つ い て は 平 均 整 流 電 流 100 ~ 5.73mm(Pitch) Scribe line 4.88mm + Metal εm 0 W Wm AL(Anode) Passivation SiO2 W VB P N N+ Ti-Ni-Au (Cathode) ρn 図1 ρn−VB 相関図 図3 チップ構造(WSR100P6AL) ρn−VB correlation Structure of chip(WSR100P6AL) n p+ n+ n+ n p+ n p+ n+ trr VF II-4 図2 VF−trr 相関図 図4 チップ(WSR100P6AL) VF−trr correlation Chip(WSR100P6AL) Origin Technical Journal No. 77 (2014) 超高速ダイオード「WSR シリーズ」 表1 製品仕様 Specifications 絶対最大定格 項目 形式 尖頭逆電圧 平均整流電流 接合部温度 保存温度 順電圧 (最大値) 逆電流 (最大値) 逆回復時間 (最大値) 記号 VRM IO Tj Tstg VF IR trr 単位 V A ℃ ℃ V uA ns IF=IO VR=VRM 条件 WSR100Q6 600 100 − 40 〜 150℃ 1.5 10 150 WSR150Q6 600 150 − 40 〜 150℃ 1.5 10 150 WSR200Q6 600 200 − 40 〜 150℃ 1.5 10 150 WSR100P6 600 100 − 40 〜 150℃ 1.8 10 100 WSR150P6 600 150 − 40 〜 150℃ 1.8 10 100 WSR200P6 600 200 − 40 〜 150℃ 1.8 10 100 3.製 品 仕 様 えることが出来る。 現在製品化を予定している超高速ダイオード「WSR ③逆方向特性 シリーズ」の仕様を表1に示す。 逆方向特性比較を図7に示す。WSR100P6AL の逆 方向特性は A 社製品と比較して漏れ電流が約一桁小さ 4.特性比較(WSR100P6AL) く,回路動作の安定につながる。 ①順方向特性 順方向特性比較を図5に示す。WSR100P6AL の順 方向特性はA社製品と比較して同等であるが,10A 以 下 で は A 社 製 品 の VF が 小 さ く,10A 以 上 で は 30 WSR100P6AL の VF が小さくなっており,大電流用 20 として低損失化を図った。 10 A社 I(A) ②逆回復特性 WSR100P6AL 逆回復特性比較を図6に示す。WSR100P6AL の逆 0 -10 回復特性はA社製品と比較して高速かつソフトであ Tj=25℃ り,逆回復電荷量(Qrr)が少ない。順方向特性が同 -20 等である場合,電源の二次側整流ダイオードでは逆回 -30 -50 復損失が電源の効率に影響する。逆回復損失が小さい 50 100 150 time(ns) WSR100P6AL は二次側整流に適している。また,ソ フト波形であるため,逆回復時のサージ電圧を低く抑 0 図6 逆回復特性比較 Comparison of Reverse recovery characteristics 1.E+03 WSR100P6AL WSR100P6AL A社 1.E+04 A社 1.E+03 1.E+02 Tj=150℃ IR(uA) IF(A) 1.E+02 Tj=25℃ 1.E+01 Tj=75℃ 1.E+01 Tj=75℃ 1.E+00 Tj=150℃ 1.E-01 Tj=25℃ 1.E-02 1.E+00 0 0.5 1 1.5 2 VF(V) 0 200 400 600 800 VR(V) 図5 順方向特性比較 図7 逆方向特性比較 Comparison of forward V-I characteristics Comparison of Reverse V-I characteristics Origin Technical Journal No. 77 (2014) II-5 5.用 途 た。今後は,さらに 1200V 超高速ダイオードのシリー WSR シリーズは,電源機器の二次側整流用ダイオー ズ化を進めていきたい。 ドやインバーターのフライホイールダイオード(還流 最後に本素子の開発に際し,ご指導とご協力をいた 用)など産業機器向けに開発したダイオードであり, だいた関係者各位に深く感謝致します。 逆回復時間(trr)が 150ns 以下の Q タイプと,100ns 以下の P タイプの 2 種類がある。 参考 文献 Q タイプ(例 :WSR100Q6AL)は,順方向損失を小 さくすることを目的に設計したダイオードで,周波数 1 ~ 20kHz で動作する,逆回復損失より順損失の比率 が大きい電源機器の二次側整流用ダイオードに適して いる。 P タ イ プ( 例:WSR100P6AL) は, 逆 回 復 損 失 と ⑴ 小 林 秀 雄 ほ か: 超 高 速 ソ フ ト リ カ バ リ ー ダ イ オ ー ド , Origin Technical Journal, No59, pp.39-45(1996) ⑵ 青 木 和 幸: 高 耐 圧 ソ フ ト リ カ バ リ ー ダ イ オ ー ド , Origin Technical Journal, No65, pp.39-44(2002) ⑶ 高 橋 徹 治: 高 ア バ ラ ン シ ェ 耐 量 ダ イ オ ー ド , Origin Technical Journal, No71, pp. Ⅰ -13-17(2008) 順方向損失の両方小さくすることを目的に設計したダ イ オ ー ド で, 周 波 数 20kHz 以 上 で 駆 動 す る IGBT や MOSFET 等のフライホイールダイオードや二次側整 流用に適している。 6.む す び 超 高 速 ダ イ オ ー ド と し て 逆 耐 圧 600V, 電 流 容 量 100 ~ 200A,高速・低損失の WSR シリーズを開発し II-6 Origin Technical Journal No. 77 (2014) 青木 和幸 コンポーネント事業部 パワーデバイス部 1989 年入社,主に高耐圧ダイオードの開発に従 事。
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