チタン合金の 制振性向上技術による 振動や騒音の低減化 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 講師 万谷 義和 1 振動や騒音の低減化 性能 事務機器 安全性 信頼性 公害防止 快適性 家電製品 飛行機 工作機械 自動車 商品性 列車 高層建物 2 従来技術とその問題点 対策方法 遮断 • 入力の低減 防振 • 質量と剛性の最適化 • 形状設計 制振 • 減衰機能の付加 • 制振器や制振材料 制振材料の利用により、比較 的簡便に振動や騒音の低減が 可能になる。 制振合金 ゴム等の制振材料による制振技 術が広く用いられるが、強度・耐久 性や耐熱性に問題が生じる場合が ある。 構造体である合金素材のみで制 振が可能となる、制振合金の開発 が望まれる。 しかしながら高強度化、軽量化、 そして費用対効果などの観点で、多 くを兼ね備えた多機能制振合金の 開発は難しく、広く普及させるのは 難しいのが現状である。 3 各種材料中のチタン合金の位置付け 従来 (軽量,高強度,高耐食性,高生体適合性,非磁性) 7.3g/cm3 チタン合金は優れた材料特性を持つが, 制振性は金属材料の中でも特に低い。 アスファルト 制振合金 炭素鋼・軟鋼 SUS アルミ合金 チタン合金 青銅 鉛 コンクリート ・れんが ガラス 合板・コルク・木材 プラスチック 10-4 内部摩擦,Q-1(×10-3) 制振係数,D(%) サンドイッチ型 制振鋼板 6.5g/cm3 10-3 4.8g/cm3 ゴム 10-2 10-1 100 損失係数 η 図.室温にける各種材料の損失係数 (Ref. 制振工学ハンドブック、コロナ社(2008)p.10) 本技術 強度,σ(MPa) 図.金属材料の制振性能と強度の関係 ( Ref. 杉本孝一,金属Vol.71(2001) p.143 改) チタン合金でも適切な組織設計制御法により、汎 用制振合金と同等以上の矢印で伸ばしたあたり まで、制振性を向上させることが可能になった。 4 本技術の組織設計制御法の概要 (軽量,高強度,高耐食性, 高生体適合性,非磁性,etc) 合金 組成 平成25年度A-step採択課題 「軽量低負荷環境を創出する 多機能制振チタン合金の設計開発」 熱処理 条件 塑性加工 (弱加工) 5 新技術の特徴・従来技術との比較 • 軽量・高強度などのチタン合金の優れた特徴 を維持しつつ、飛躍的に制振性を向上させる ことに成功した。 • 本技術は、チタン合金の組成・熱処理・塑性 加工の組み合わせ組織設計制御法に達成さ れる技術である。 • 本技術の適用により他の高強度制振合金より も重量が2/3程度になり、軽量・高強度に加え て制振性が求められる製品や部品への応用 が期待される。 6 チタン合金の制振性を向上させる組織因子 -Ti-Nb合金での実施例- 30 6 40 50 60 Diffraction angle, 2θ 4 30 T20N Ortho. 112α″ 022α″ 120 110 100 90 80 70 60 50 8 110α″ 020α″ 002α″ 111α″ 021α″ T15N HCP Ti-20Nb Relative intensity Relative intensity Ti-15Nb 40 50 Diffraction angle, 2θ 60 2 0 α’マルテンサイト組織 (HCP) 0 10 20 30 40 チタン合金の焼入れマルテ ンサイト組織を積極的に利用 するルことにより、制振性が 飛躍的に向上する。 α”マルテンサイト組織 (斜方晶) 7 チタン合金と比較材の振動減衰挙動の違い 3 Amplitude,(V) Amplitude,(V) Titanium JIS Gr1 0 0.0 0.5 1.0 Time, T(s) Amplitude,(V) 0.0 0.5 1.0 Time, T(s) Ti-15Nb Alloy Annealed 0 0.0 0.5 1.0 Time, T(s) 1.5 High Damping Alloy M2052 0 -3 1.5 Ti-15Nb 3 -3 0 -3 1.5 β-type Titanium Alloy JIS Gr80 3 Amplitude,(V) -3 3 Amplitude,(V) 3 0.0 0.5 1.0 Time, T(s) 1.5 Ti-15Nb Alloy Quenched 0 -3 0.0 0.5 1.0 1.5 Time, T(s) Ti-15Nb合金の焼入れα’マルテンサイト組織で、減衰時間 は二桁ほど早くなり、比較用制振合金にも劣らない。 8 Ti-Nb合金焼入れマルテンサイト組織の 塑性加工に伴う振動減衰挙動の変化 Ti-20Nb 3 1223K Anneal 2 1 0 -1 -2 -3 0.00 3 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 2 1223K Quench 1 0 -1 -2 -3 0.00 3 0.05 2 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 1223K Quench + 5%Reduction 1 0 -1 -2 -3 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 Ti-20Nb合金の焼入れα”マルテンサイト組織で、 わずかな塑性加工により、振動減衰時間はさらに短くなる。 9 Ti-Nb合金焼入れマルテンサイト組織の 塑性加工に伴う構造の変化 36 38 40 42 32 34 36 38 40 42 32 34 38 021α″ 110β 10・1α AN 36 111α″ 002α″ AQ 00・2α 020α″ 10・0α AN 10・1α 10・0α 10・1α 110β 00・2α 10・0α 34 AN AQ 111α″ 5% 10・1α′ 5% 110β 5% 00・2α′ 35% 00・2α 35% 10・0α′ 35% AQ 32 Ti-20Nb Ti-15Nb Ti-10Nb 40 42 図.Ti-(10,15,20)Nb合金の熱処理および圧下率増加に伴うX線回折ピーク位置の変化 Ti-10NbのHCPのピーク位置は、ほとんど変化していない。 Ti-15NbおよびTi-20Nbではピークシフトを伴うため、 格子定数および単位体積の変化が生じている。 10 Ti-Nb合金焼入れ組織の応力-ひずみ曲線 900 600 300 Ti15Nb Exp.-α′ Ti10Nb S.S.-α′ 0 0 20 Ti20Nb α″ 40 Ti25Nb α″ 60 Ti30Nb α″+β 80 Ti35Nb β+α″ 100 Ti40Nb β+incom.ω 120 140 制振性を向上させることができるTi-(15~25)Nb二元合金で、 引張強さは600MPa以上を示し、引張延性は10%以上になる。 合金組成の更なる改良により、 適した強度-延性バランスの構築が可能。 11 Ti-Nb合金焼入れ組織の 負荷除荷サイクル引張試験 800 800 Ti-10Nb 800 Ti-15Nb 600 600 600 400 400 400 200 200 200 0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 800 0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 800 Ti-25Nb 0 0.0 Ti-30Nb 600 400 400 400 200 200 200 1.0 1.5 2.0 2.5 0 0.0 1.0 1.5 2.0 2.5 1.5 2.0 2.5 Ti-35Nb 600 0.5 0.5 800 600 0 0.0 Ti-20Nb 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 0 0.0 0.5 1.0 図.Ti-(10~35)Nb合金の弾塑性変形挙動の特徴 Ti-15Nb合金では、低荷重域での非弾性挙動が特徴。 Ti-20Nbでは、サイクル負荷時に非弾性挙動が発生する。 12 Ti-Nb合金焼入れ組織の 予加工による弾塑性挙動変化 800 Ti-15Nb 600 400 Parabolic curve 200 0 0.0 800 OEYS EL 0.5 1.0 1.5 Ti-15Nb合金では、放物線状の特徴 的な弾性挙動を示し、予加工によって も弾性挙動は変化しない。 2.0 Ti-20Nb Typical nonlinear curve σ /MPa 600 400 Stress, Parabolic curve 200 0 0.0 800 OEYS EL 0.5 1.0 1.5 Ti-20Nb合金では予加工により、非線 形挙動から放物線状の弾性挙動に変 化する。 2.0 Ti-30Nb 600 400 Stress-induced α" 200 0 0.0 OEYS EL 0.5 Strain, 1.0 ε 1.5 Ti-30Nb合金では、予加工により降伏 点が低下し、応力誘起α”変態を生じる 弾塑性挙動に変化する。 2.0 (%) 図.Ti-(15~30)Nb合金の予加工による弾塑性変形挙動の変化 13 塑性加工による制振性向上と 部品・製品化のプロセス 熱処理後の 金属素材 加工プロセス 圧延 押出し 引抜き 曲げ etc. 鍛造 絞り 部品 ・製品 ほとんどの金属部品や製品では、 成形プロセスで塑性加工が施されており、 本チタン合金ではその加工プロセスの中で、 制振性を向上させることができる。 14 Ti-Nb合金焼入れマルテンサイト組織の硬さ 340 320 300 280 260 240 220 200 Ti-15Nb Annealed Quenched 340 320 300 280 260 240 220 200 Ti-20Nb Quenched 図.Ti-(15,20)Nb合金の熱処理に伴う硬さの変化 チタン合金では焼入れによってα’マルテンサイトや α”マルテンサイトが形成された場合,その形成状態 によって表面硬さの低下を伴う。 15 窒化による硬い表面と高い制振性の共存 プラズマ窒化 100 (a) 1200 80 1000 60 800 40 8.0 HV0.1 HV0.01 600 6.0 4.0 400 2.0 0.0 200 図.Ti-15Nb合金のプラズマ窒化に伴う材料特性の変化 Ti-15Nb合金で、450℃(1N,1NH)でのプラズマ窒化では、焼鈍し材程 度の硬さになる。750℃(2N)では硬さは上昇するものの、制振性を失う。 その後の焼入れ(2NQ)により、硬さと制振性の共存が可能。 16 安定した高硬度窒素拡散層の形成 2 3 2N 濃度(mass%) 30 4 20 5 1 Nb N 10 6 0 4 1 2 2NQ 5 3 濃度(mass%) 1 2 3 4 5 スペクトル 30 6 Nb N 20 10 0 1 2 3 4 5 スペクトル 窒化層の形態は少し異なるが2Nプラズマ窒化材を再焼入れして 制振性を得た2NQでも、安定した窒素拡散層が維持されている。 17 想定される用途 振動・騒音低減を必要とする分野で、 強度・耐久性・耐食性等もあわせて必要とする製品・部品 精密機器部品、音響機器 自動車・鉄道等の輸送機器 生体・福祉用機器分野 船舶・海洋機械分野 特に小型軽量化に主眼を置いた 機器性能向上を必要とする場合に、 本研究シーズの応用が期待される。 18 ヤング率,E/GPa 制振チタン合金の設計開発 ニオブ バナジウム クロム マンガン モリブデン 鉄 コバルト タンタル ニッケル 合金元素濃度,[mass%] 図.チタンのヤング率におよぼす合金元素の影響 (金属データブック、丸善(2004)p.204) これまで各種チタン合金における制振性の測定例は少ないが、組織因 子によるヤング率の変化は系統的に調べられている。 これをもとに考えれば、Ti-Nb合金だけでなく、他のチタン合金でも組織 因子を適切に利用すれば制振チタン合金となる。 19 実用化に向けた課題 • 現在、Ti-Nb合金について制振性の向上が可 能なことを実証済み。しかし、汎用性のある合 金組成や、制振性の温度・周波数特性の点で 改良を加える必要がある。 • 今後、Ti-Nb合金に制振性の温度・周波数特 性の実験データを取得し、評価を行っていく。 • 実用化に向けて、適した強度・制振性バラン スや100℃程度の高温でも安定した制振性を 示す技術を確立する必要がある。 20 今後の展開 本技術シーズと製品・ 用途ニーズ間の青写真 だけではなく、ラボレベ ルの評 価から発 展し て 実際の材料製造と熱処 理プロセスを含めた材料 供給の流れを構築する ことによって、実用化へ の展開を図りたい。 21 企業への期待 • 制振性の高いチタン合金の利用が見込める 企業にはニーズを寄せて頂き、必要とする重 量・強度・制振性のバランスを明確にしたい。 • ラボレベルから一歩進んだチタン合金の作製 やその熱処理技術を持つ企業との共同研究 により、最適なチタン制振合金を開発したい。 • 小型の部品なら試作できる可能性があるので、 チタン制振合金のニーズがある企業には、試 作品での評価を希望したい。 22 本技術に関する知的財産権 発明の名称 :チタン制振合金 出願番号 :特願2009-210786 公開番号 :特開2011-58070 出願人 :独立行政法人 国立高等専門学校機構 • 発明者 :万谷義和 • • • • 23 お問い合わせ先 鈴鹿工業高等専門学校 共同研究推進センター 産学官連携コーディネーター 澄野 久生 産学官連携コーディネーター 井上 哲雄 TEL 059-368-1981 FAX 059-387-0338 e-mail: sumino@tc.suzuka-ct.ac.jp e-mail: [email protected] 24
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