中継ネットワーク大容量化 100Gデジタルコヒーレント R&D パケットトランスポート 100Gパケットトランスポートシステム(100G-PTS) の実用化 NTTネットワークサービスシステム研究所 ほりぐち まこと しまざき だいさく ささくら 堀口 真 /島崎 大作 よしあき /笹倉 芳明 い な み まさあき /井波 政朗 やまもと しゅうと /山本 秀人 NTTネットワークサービスシステム研究所では,モバイルサービス,クラウドサー ビスの拡大などに伴い,急激なトラフィックの増加が見込まれるNTTグループの中 継ネットワークを経済的に構築するとともに,運用性,信頼性の向上にも資する 「100Gパケットトランスポートシステム(100G-PTS)」を開発しました.ここで は,本システムの概要および特長を紹介します. ■100Gデジタルコヒーレント技術に て開発を進めてきました. 100G-PTS開発のねらい NTTネットワークサービスシステム研 究所は,今後急激な増加が見込まれる 100G-PTSの 技 術 的 特 長と メリット よる大容量化 従来の波長分割多重伝送システムの 最 大 帯 域 は10 Gbit/sや40 Gbit/sで す 中継ネットワークのトラフィックを効率 100G-PTSの主な特長は,①100Gデジ が,今後の急増するトラフィック量に対 良く伝送するため,100Gデジタルコヒー タルコヒーレント技術による大容量化, 応するためには,装置増設による対応 ②高機能光スイッチによる運用性 ・ 信頼 では限界があり,伝送システムのさらな * レント技術 とパケットトランスポート 技術を使った「100Gパケットトランス 性の向上,③MPLS-TP(Multi Proto る高速 ・ 大容量化が求められています. ポートシステム(100G-PTS) 」を開発 col Label Switching-Transport Profile) 100G-PTSでは,100Gデジタルコヒーレ しました.本システムでは,大容量化に による柔軟な帯域のパス設定と保守運 ント技術によって 1 波長当り100 Gbit/s 加えて,低消費電力化や運用性 ・ 信頼 用性の両立,④光波長スイッチ(L0機 性の向上をねらっており,今後の中継 能部)とパケットスイッチ(L2機能部) ネットワークの中核システムと位置付け の統合による低コスト化です(図 1 ) . ③MPLS-TPによる柔軟な帯域のパス設定 と保守運用性の両立 リンクアグリゲーション GbE/10GbE /100GbE 10GbE/100GbE L2機能部 ④光波長スイッチとパケットスイッチ の統合による低コスト化 リンクアグリゲーション 大容量 ルータ トランス ポンダ ②高機能光スイッチによる運用性・信頼性の向上 波長 クロスコネクト 最大 8 方路 トランス ポンダ ⋮ L0機能部 ⋮ ①100Gデジタルコヒーレント技術による 大容量化 波長クロスコネクト 100G×80λ トランス ポンダ 波長 クロスコネクト L0機能部 ⋮ トランス ポンダ (SDH/Ether) ライン カード ライン カード ライン カード ライン カード L2機能部 トランス ポンダ ⋮ インターネット 100GbE 中継網・ 法人向けIP系 サービス網 10G×10 パケット スイッチ (MPLS-TP) ライン カード ⋮ 高速専用線網・ 法人向けIP系 サービス網 パケット スイッチ (MPLS-TP) EMS ⋮ ライン カード ライン カード ライン カード ライン カード NMSなど *デジタルコヒーレント技術:超高速デジタル信 号処理により,光ファイバにおける波形歪が原 因で生じる伝送距離制限を大幅に緩和する技術. 100G波長 MPLS-TP ラベルパス NMS: Network Management System EMS: Element Management System 図 1 100G-PTSの特長とメリット 54 NTT技術ジャーナル 2014.10 R ありましたが,デジタルコヒーレント技 ような大規模災害において,別に確保 高密度多重することにより, 1 本の光 術を適用した100G-PTSでは,こうした された 3 ルート目を使って,トラフィッ ファイバで 8 Tbit/sの大容量化を実現し 波形補正のための測定や設計,補正用 クを救済する場合などが想定されます. ています. 品コストの削減が可能となります(図 2 ) . ■MPLS-TPによる柔軟な帯域のパス 設定と保守運用性の両立 ■高機能光スイッチ技術による運用 伝送容量の拡大のためには,周波数 利用効率を向上することが必要であり, 性 ・ 信頼性の向上 無線通信分野で用いられる多値符号化 波長分割多重システムでは,サービ 従来,固定電話や専用線等のレガシー 系サービスのトラフィックを多重伝送す 技術を光伝送に取り入れています.し スノードなどの外部接続装置から受信 る場合,主に国際標準規格であるSDH かし,多値符号化を行うと光ファイバ した信号を波長多重するために適正な (Synchronous Digital Hierarchy) 技 術 内部で生じる雑音の影響を受けやすく 信号フォーマット,信号レベル,信号光 を適用してきました.SDHでは,回線 なり,伝送可能距離が短くなるという 波長に変換するトランスポンダと呼ばれ やパスを束ねる際に固定的な帯域を割 課題が生じます.また,光ファイバの る用品が必要となります.従来のシステ り当てるため,伝達する情報がない状態 偏波モード分散や波長分散による遅延 ムでは,トランスポンダの搭載位置に でも帯域を占有する必要がありました. 特性も伝送距離制限の要因となります. よって光の方路や波長が固定的に決 今回100G-PTSが採用したMPLS-TP デジタルコヒーレント技術では,これ まっていたため,災害などにより方路や 技術では,パケット多重によってきめ細 らの距離制限の原因となる課題を,超 波長を変更する必要が発生した場合は, かいパス帯域の設定ができ,かつ,従 高 速 な デ ジ タ ル 処 理(DSP: Digital 現地作業でトランスポンダの搭載位置 来技術と同様にエンド~エンドを指定し Signal Processing)による強力な信号 を変更し,光パスを再設定する必要が た仮想パスであるLSP(Label Switched 補正により,飛躍的に改善しています. ありました.これに対して100G-PTSで Path)の設定 ・ 管理が可能です. デジタルコヒーレント技術の適用は, は,高機能光スイッチをオペレーション 100G-PTSで は,複 数 のLSPを 波 長 ネットワークの構築作業や運用面におい システムから遠隔操作することにより, パスに多重する際,帯域保証型の高品 ても大きなメリットがあります.従来の 方路や波長の変更が可能であり,現地 質なLSPや帯域非保証型の低コストな 技術では,伝送装置の導入前に,高機 への作業員派遣なしに障害対応が可能 LSPを混在収容し,帯域の有効利用を 能な測定器を用いた光ファイバの測定 となります(図 3 ) . 図ることもできます.また,LSPは設定 こうした機能の利用シーンとしては, を行い,中継ビルの間隔に適した波形 障害発生時に50 ms以下の高速で切替が 冗長化された伝送路が二重障害となる 劣化を補正する用品を選定する必要が 区間ごとに冗長構成をとることができ, ・大容量化: 周波数利用効率の向上による大容量化 ・長距離化: 光コヒーレント検波の受信感度向上 ・分散補償: デジタル信号処理による受信端でのみの分散補償が可能 ②設計・管理 (a) 従来技術 Cビル用用品 Bビル用用品 Aビル用用品 光ケーブル (用品不要) 光ケーブル Aビル ①事前測定 Bビル (用品不要) (用品不要) 10/40 Gbit/s 信号 Aビル∼ Bビル 間でファイバ 測定 高機能 測定器類 (b) デジタルコヒーレント技術 100 Gbit/s 信号 伝送 装置 Cビル ③支障移転 対応 伝送 (支障移転) 装置 Bビル Aビル (高機能測定器 不要) ①導入前に,種々のファイバの測定が必要(高機能な測定 器の配備,全ビルでの測定稼動が必要) ②中継ビル間隔に適した波形劣化を補正する用品の選定が 必要(高度な設計スキル要) .各ビル(装置)ごとの用 品の管理が必要( 1 装置当り60用品程度) ③支障移転(道路工事等に伴うケーブル変更工事)でファ イバ種別が変更になった場合には①∼②の作業を再度実 施する場合あり 伝送 装置 (高機能測定器 不要) Cビル (高機能測定器 不要) 左記の①∼③に対して, デジタル信号処理技術により,高度な測定,設計,用品 の管理が不要(波形劣化の補正用品が不要) さらに,補正用品が不要になることにより伝送遅延が削減 図 2 デジタルコヒーレント技術の特長 NTT技術ジャーナル 2014.10 55 &Dホットコーナー の高速伝送レートで,80波長の信号を 可能な瞬断プロテクション機能,パケッ 可能です. Back) な ど, 豊 富 なOAM(Operation トロスなく切替が可能な無瞬断プロテク 保守運用面では,LSPの接続性を定 Administration and Maintenance) 機 能 ション機能を具備しており,用途に応じ 期的に確認するCC(Continuity Check) により,高い保守運用性を実現してい て異なる信頼性グレードのパスを提供 や折り返し試験を実現するLB(Loop ます(図 4 ) . ・波長パスの波長変更,経路変更を遠隔操作で実施可能 →迂回波長パスの設定を行う状況で,従来は必要であった現地作業が不要 (a) 既存システム(DWDMの場合) EMS (b) 100Gパケットトランスポートシステム ・設備登録(シェルフ,パッケージ等) ・光パス削除・再設定 EMS 現地作業員派遣 ・トランスポンダ搭載 ・新規配線接続 設計システム等と連動した 自動切替・手動切替 現地作業員派遣なし 現地作業員派遣 ・トランスポンダ搭載変更 ・配線変更 現地作業員派遣 ・トランスポンダ搭載変更 ・配線変更 方路 1 方路 2 方路 3 方路 1 方路 2 方路 3 光アンプ 波長スイッチ部・光アンプ 波長多重部 トランスポンダ 波長多重・切替部 トランスポンダ 多重故障時にも遠隔にて 波長切替可能 トランスポンダは搭載位置により方路,波長が固定される. 災害等により方路や波長を変更する場合には,トランス ポンダの搭載位置の変更が必要 DWDM: Dense Wavelength Division Multiplexer 図 3 高機能光スイッチ技術の特長 ・さまざまなQoSに対応 ・柔軟な帯域設定 ・豊富なOAM機能による高い運用性 QoS 帯域保証型の高品質パスから統計多重効果をねらった帯域 非保証型の低コストパスまでさまざまな品質のパスに対応 可能 波長パス容量を 10G(帯域非保証) 超える低優先の パケットは廃棄 優先度(低) max min 10G(一部帯域保証) 優先度(中) 優先度(高) 10G(帯域保証) ⋮ 優先度(高) OAM機能 各種OAMフレームによりSDH,ATMと同等の保守運用性を実現 ・Continuity Check(CC) ⇒正常性を定期的に確認 ・Loop Back(LB) ⇒指定したノードに対する応答確認 ・Delay and Loss Measurement ⇒遅延,ロス測定 など EMS 優先度(低) 優先度(中) 優先度(高) 帯域設定 パス帯域はきめ細かく設定でき,SDHと 比較して収容効率が向上 波長パス(100G) CC CC 部品コスト クロスコネクト部にパケットスイッチの部品を流 用でき低コスト.SDH部品枯渇後も長期間の運用 が可能 パケットトランスポート網 図 4 MPLS-TP技術の特長 56 NTT技術ジャーナル 2014.10 R &Dホットコーナー 中継ネットワークにおける多様な領域に適用し, ①ネットワークの効率化,②高品質・高信頼化,③運用性の向上,に寄与する EMS NMS 多様なインタフェース 激甚災害時の遠隔第 3 経路切替 ・GE ∼ 100GE (論理パス多重可) DCN 遠隔機能拡張 (FWバージョンアップなど) 専用線 L2スイッチ ルータ 100G×80λ 大容量化・ レイヤ統合 ①効率化ポイント DCN: Data Communication Network FW: Firmware PTS(L2機能部) ②高品質・高信頼化ポイント PTS(L0機能部) ③運用性向上ポイント 図 5 100G-PTSの中継ネットワーク適用イメージ ■光波長スイッチ(L0機能部)とパケッ トスイッチ(L₂機能部)の統合によ る低コスト化 従来は,光波長多重系の伝送装置と 電気多重系の伝送装置はそれぞれ別の 今後の展開 100G-PTSは,今後の伝送インフラの 基盤システムとして開発を進め,現時点 までに基礎となる部分は完成しました. 装置であり,両者を接続してネットワー 今後は,装置をさらに機能アップさせて クを構築する際は,装置間に高額なトラ いき,ネットワークを一層効率化してい ンスポンダがインタフェースとして必要 きたいと考えています.また将来的には, でした.100G-PTSではL0機能部とL2 400Gや1Tといった大容量化を実現して 機能部を一体化した装置構成が可能で, いきます. 装置間のトランスポンダが不要となり, 従来よりも安価にネットワークの構築が 可能となります.また,L0機能部とL2 機能部の統合は,設置スペースや消費 電力の削減にもつながります. 100G-PTSは大容量でサポートするイ ンタフェースも多く,方路も多数設定で きるため,ネットワークのさまざまな場 所に適用することができます.例えば, 図 ₅ に示した中継ネットワークへの適用 イメージでは複数のリングネットワーク 間の効率的な接続や,大規模災害など を想定した信頼性向上のための第 3 経 路切替を100G-PTSで実現しています. (左から)堀口 真/ 島崎 大作/ 笹倉 芳明/ 井波 政朗/ 山本 秀人 中継ネットワーク構築 ・ 運用コスト削減 に向けて,さらなる大容量化等の研究開発 を進めていきます. ◆問い合わせ先 NTTネットワークサービスシステム研究所 ネットワーク伝送基盤プロジェクト TEL ₀₄₂₂-₅₉-₆₇₁₅ FAX ₀₄₂₂-₅₉-₃₄₉₄ E-mail horiguchi.makoto lab.ntt.co.jp NTT技術ジャーナル 2014.10 57
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