(A-18) 極低剛性を持つ反発型磁気浮上装置の提案と構成

(A-18) 極低剛性を持つ反発型磁気浮上装置の提案と構成
神保
1.
清典
(エネルギー変換工学講座)
z
はじめに
S
一般的な磁気浮上状態では,浮上体が能動制
御され安定に非接触支持される。このとき制御
電磁石と浮上体は非線形バネで支持されたのと
同等となる。バネ剛性が強いほど制御方向への
外乱に対し強固であり,例えば秤量の大きなバ
ネばかりのようなものである。一方,バネ剛性
が極めて小さい状態では,ごく僅かな外乱でも
変化してしまう状態といえる。この状態を磁気
力で作り出すことができれば,極めて高感度な
微弱振動計等に応用できる可能性がある。本稿
では,浮上体の支持剛性が無限小となるような
極低剛性を持つ反発型磁気浮上装置を提案し,
FEM 解析による極低剛性状態の確認,実機製
作,浮上制御を行った。
2.
(Coaxial position)
F1z F2z
S
F2r
F1r
PM1
N
mg
(Levitated)
N
S
図1
PM2 (Fixed)
r
永久磁石配置例と吸引力,反発力の方向
PM3
PM1
PM2
基本原理
Yonnet の剛性定理に基づくと,静磁場中での
各座標方向への剛性が kx,ky,kz のとき,kx+ky+kz=0
となることが知られている。ここで,円形磁石
を同軸配置し中心軸を z 軸とすると,半径方向
剛性 kx と ky は同値となる。これを kr とおけば
kz= - (kx+ky) = -2kr と表せる。円形磁石が同極対
向の場合,z 方向には反発力が生じ,kz> 0, kr<0
となり,異極対向ならば kz<0, kr>0 となる。さら
に 3 枚の永久磁石を同軸配置し,上の 2 枚を異
極対向,下の 2 枚を同極対向とし PM2,3 の位置
を適切な位置に固定したとする(図 1)
。このと
き反発力 F1z と吸引力 F2z が発生し,PM1,2 間と
PM1,3 間の剛性をそれぞれ添字 1,2 にて表すと,
z 軸方向の剛性は kz=k1z+k2z= 0,半径方向の剛性
は kr=k1r+k2r=0 となり,理論上,剛性がゼロにな
る。反発力 F1z と吸引力 F2z によって浮上体の自
重 mg を支え半径方向を能動制御すれば,剛性
が極めて小さくなると考えられる。
3.
PM3
N
FEM 解析
図 1 のようにリング状永久磁石を同軸配置し,
PM2,3 間を 85mm とし PM1 の高さを変化させ
PM1,2 間の距離を変化させた場合の F1z+F2z の変
化を FEM 解析した。
解析モデルおよび諸元をそ
A-18
z
y
Iron core
x
Coil
図 2 FEM 解析モデル
(ただし,空気層,メッシュは不可視)
表1
解析諸元
Permanent magnet (PM1, PM2, PM3)
Neodymium-Iron-Boron
Material
Dimentions
54 f mm× 38 fmm × 5 mm
1
Relative permeability
0 [S/m]
Electric conductivity
955 [kA/m]
Coercive force
Electromagnet (EM1, EM2, EM3, EM4)
Iron core
Dimentions
Electric conductivity
50 mm×15 mm× 20 mm
0 [S/m]
4000
Relative permeability
1
Relative permittivity
Coil
Diameter of copper wire 0 . 6 f mm
No. of turns
900
Relative permeability
1
Relative permittivity
1
Electric conductivity
5.998× 10 7 [S/m]
60
F1z +F2z
mg
Fz [N]
40
F1z +F2z = mg
kz = 0
20
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
図4
Gap [mm]
図3
永久磁石間距離と上向きの力 Fz
40
Angle [deg.]
れぞれ図 2,表 1 に示す。4 つの電磁石は PM1
周辺の磁場分布への影響が小さくなるように
PM2 付近に設定する。メッシュ形状による誤差
を防ぐため各 PM 間に永久磁石と同形状の空気
層を設け,材質を変えることで PM1 の移動を表
現した。
z 方向の力 Fz の解析結果を図 3 に示す。
40 mm より左側では F1z,右側では F2z が支配的
となる。また 40 mm 付近で PM2 の自重と Fz が
釣合い,グラフの概形から剛性がほぼゼロとな
る場所が存在することがわかる。
4.
装置構成(H-1~H-4 はホール素子)
X_angle
Y_angle
20
0
-20
-40
0
1
2
3
4
5
Time [s]
図5
実機構成と制御実験
実機の写真を図 4 に示す。図 1 では 3 枚の永
久磁石を使用したが,ここでは試作として 2 枚
の反発力で安定化を試みる。また永久磁石,電
磁石の寸法は表 1 に示す。
170mm 四方の土台
(白
色部分)の中央を原点とし,永久磁石(PM2)の
中心を原点に合わせて設置する。また,同軸で
アクリル円柱(Center column)を設置し,浮上体
(PM1)に通すことで PM1 の横滑りを制限してい
る。電磁石 EM1~4 を(x,y,z) = (±65, ±65, 5)
[mm]の位置に配置し,電磁石からの磁束の影響
が小さい箇所(x,y,z) = (±23,±23, 35) [mm]にホ
ール素子 1~4 を固定した。ホール素子は浮上体
の傾きを測定しており,信号増幅,A/D,DSP,
D/A, 電力増幅の順で所望の電圧値をフィード
バックする。なお,制御環境として
Matlab/Simulink/RTW を使用し PID により安定
A-18
x, y 軸の回転角の制御結果
化を図った。一例として,ホール素子 1,2 の信
号を使用してそれぞれ x, y 軸方向の回転角を制
御した結果を図 5 に示す。制御開始から振動が
徐々に減少し,約 1.5 秒後からは約 5 度程度で
不規則な揺らぎが生じている。実際には PM1
は非接触浮上が実現されておらず,円柱に一部
接触している。浮上体の水平方向への移動に対
するセンシングが必要であると考えられる。
5.
まとめ
極低剛性を持つ反発型磁気浮上の考え方と
FEM 解析による検証により,実際に極低剛性な
状態を作り出すことができると考えられる。現
在,試作機では回転角の制御はなされているが
安定な非接触浮上状態は得られていない。今後
は水平方向への移動に対しても制御し浮上状態
を確立し,実際の支持剛性や外乱に対する感度
を評価する予定である。