本文ファイル - 長崎大学学術研究成果リポジトリ

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Title
長崎県の蝶類
Author(s)
山口, 鉄男; 浦田, 明夫
Citation
長崎大学教養部紀要. 自然科学. 1965, 5, p.25-57
Issue Date
1965-03-29
URL
http://hdl.handle.net/10069/16436
Right
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Bulletin of Faculty of Liberal Arts, Nagasaki University
Natural Science Vol. 5
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長崎県の蝶類
山口鉄男・浦田明夫
Butterflies From Nagasaki Prefecture
Tetsuo YAMAGUCHI and Akio URATA
(昭和39年9月30日受理)
ツシマウラボシシジミ
対馬の佐須奈を中心として,同島北端部に産する熱帯系の珍蝶である。 (20K-1959佐須京産,若林氏撮影〕
工序
長崎県の昆虫相も,種類によっては,その分布の状態も可なりはっきりしてきたものがあ
る。
長崎県の蝶類に関しては,各地の同好者が断片的な報告として,また綜合的なものとして
は,山根孝夫氏の長崎県産蝶類目録,生島貞利氏他の長崎県蚊類の研究などがあるが,これも
長崎県の媒類
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6月には可なり多い。幼虫はヤマビワを食う。
4. Bibasis aquilina chrysaeglia (Butler, 1881)
キバネセセリ
九州では珍らしい種としてとり扱われている。長崎県内に於ける記録は,浦田が1955年6
月13日,対馬厳栗で採集した1♀を唯一としているo幼虫は-リギリを食う。
5. Aeromachus inachus (Menetries, 1859J
ホシチャバネセセリ
本州中部地方の山岳地帯以外では稀な種で,北海道,四国,九州本土には産しない本種が,
対馬で容易に得る事が出来るのは,分布上,実に興味ある事である。対馬に於ける出現は, 6
月中旬より7月中旬迄と, 8月下旬より9月下旬頃迄の2回である。本種は対馬全島に分布す
るが,一般に平地には産せず,山地にみられる。
6. Thoressa varia (Murray, 1875j
コチャバネセセリ
県下各地に採集例があるが,対馬,壱岐,五島には産しない。幼虫はゴキダケを食するとい
う。
7. Isoteinon lamprospilus C. et R. Feleder, 1862
ホソバセセリ
壱岐には記録は無いが,その他の地域では普通に産する。食草はススキ。
8. 0chlodes ochracea rikuchina (Butler. 1878)
ヒメキマダラセセリ
壱岐,対馬,五島には産しないが,県下の他地区には産する。食草はヤマカモジグサ。
9. Potanthus flavun (Murray, 1875〕
キマダラセセリ
壱岐以外の地ではどこにも普通に産する。小型の美しい蝶で,年2回の発生をする。食草は
ススキo
10. Polytremis pellucida (Murray, 1875〕
オオチャバネセセリ
長崎県全体にわたって分布するが,対馬では非常に稀な種である。五島からは記録がない。
食草はゴキダケ。
ll. Pelopidas mathias oberthiiri (Evans, 1937)
チャバネセセリ
壱岐には産しない。 oサ/サyの各月に主としてみられる0年3[司の発生をなすものと思
う。食草はチガヤ。
山口鉄男・浦田明夫
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12. Parnara guttata (Bremer et Grey, 1853)
イチモンジセセリ
セセリチョウ科中,各地に最も普通な種で個体数も多い。壱岐と五島からは記録されていな
いが分布するものと思はれる。食草はよくイネの葉を食べるが,メヒジワ,オヒジワ,チガ
ヤ,ススキ霊どのイネ科植物0
13. Motocrypta curcivifascia (C. et R. Felder, 1862)
クロセセリ
熟帯系のセセリチョウである。長崎附近では余り多い方ではないが時折採集される。他の地
域でも時折とれる。
対馬と壱岐,五島には産しない。食草は-ナミョウガ,アオノクマタケランなど。
Fam. PAPILIONIDAEアゲハチョウ科
14. Byasa alcinous alcinous (Klug, 1836〕
ジャコウアゲ-
長崎県全体にわたって分布する普通種であるが,対馬では,わずかに,上対馬町豊において
1955年8月9日江口卯三夫氏により採集された1♀があるだけである。この大型の目につき易
い蝶が,他に1回も採集されないのは,おそらく対馬には生息せず,この一例は迷蝶ではなか
ったかと思われる。食草はウマノスズクサ。
15. Graphium sarpedlon nipponum (Fruhstorfer, 1903)
アオスジアゲ-
熟静性の蝶で県下に広く分布し, 4月∼10月迄見られる普通種。食草はクス,タブなど。
16. Graphium doson albidum CWileman. 19033
ミカドアゲハ
本種の県下に於ける記録は長崎市,佐世保市及び対馬の三地域で,非常に稀な種と考えられ
ていたが,長崎市では近年諏訪神社,松森神社などで多数が採集された。
尚,対馬で採集された個体は全て,裏面の紋が紅色で,赤斑型に属する。食草のオガタマノ
キは県内各地にやゝ普通に産するので,壱岐,五島, ,島原半島,平戸西彼杵等の各地に発見
されるものと思う。
17. Papilio machaon hippocates C. et K. Felder,ユ864
キアゲ県下各地に見られる普通種,食草はミツハゼリ,ニンジン,ツクシゼリなどで,海岸ではマウド,ボタンボウフウによくつく。
!. Papilio xuthus Linne, 1767
長崎県の蝶類
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アゲ-チョウ
全県下に分布する普通種である。食草は,ミカン類,カラタチ,サンショウ,イヌザンショ
ウ,カラスザンショウなど。
19. Papilio protenor demetrius Gramer, 1782
クロアゲハ
全県下に分布,普通種である。食草はミカン類カラタチなど。
20. Papilio macilentus Janson, 1877
オナガアゲハ
全県下に分布するが,対馬には産せず,五島には記録がない。雲仙などには多産するが,他
では個体数は比較的少い。食草はカラタチなど。
21. Papilio memnon thunbergii von Siebold, 1824
ナガサキアゲハ
熱帯系の美しい大型の蝶で壱岐を除く全県下に分布する。長崎,佐世保附近では,ナツダイ
ダイ,ザボン等によく飛来する。対馬での記録は1951年7月26日,豆酸で採集され,その後,
久原,厳原で記録されたが,非常に稀なものらしく,その後は得られていない。食草はザボ
ン,ナツダイダイ,ウンシュウミカン,ポンカン,カラタチなど。
22. Papilio helenus niconicolens Butler, 1881
モンキアゲ-
南方系の蝶で5月頃より10月初旬頃迄出現する。ミカン,サンショウなどを金する。県下全
体に広く分布する。
23. Papilio bianor dehaanii C. et R. Felder 1864
カラスアゲハ
大型の美しい蝶で各地に分布する。平地より山地に多く,多良岳では7月下旬のオオキツ
ネノカミソリの開花期にはこの花に群がる。食草はミカン類,コクサギ(福田,田中)
24. Papilio maackii tutanus Fenton, 1881
ミヤマカラスアゲハ
壱岐,五島を除く県下に広く分布する。国見,多良,雲仙など山地ではよく採れるが,平地
では少い。カラスアゲ-に比して個体数は,はるかに少いようであるが,対馬では前程よりむ
しろ本種の方が多いようである。食草はミカン類である。
Fam PIERIDAEシロチョウ科
25. Eurema hecabe mandarina (de I'orza, 1869)
キチョウ
山口鉄男・浦田明夫
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全県下に産し,平地,山地を問わずいたる所にいる普通種。食草はネムノキ,ヤマ-辛,ネ
コハギ,メド-辛,エビスグサ(福田,田中)
26. Euremalaeta bethesba (Janson, 1878)
ツマグロキチョウ
壱岐には記録は無い。全県下に分布するが前程に比べるとずっと少い。食草はカワラケツメ
イ。
27. Colias erata poliographus (Motschulsky, 1860〕
モンキチョウ
全県下に分布する普通種であるが,キチョウに比べるとはるかに少ない。食草はスズメノエ
ンドウ,レンゲ(福田,田中),シロツメクサ,ミヤコグサなどであるが,大豆にも産卵す
/_,
28. Catopslia pomona (Fabricius, 1775〕
ギンモンウスキチョウ
長崎市に於いて1958年8月21日,北郷雅子氏によって採集されたのが最初の記録である。
その後,長崎市,茂木,岩屋山,五島福江市で採集された。 (後述)
29. Catopsiha pyranthe LINNE, 1758
ウラナミシロチョウ
熱帯系の喋で, 1929年若松, 1931年都城で数頭採集され, 1953年9月には佐賀県下で多数の
発生を見て話題になった蝶である.本県では記録がなかったが,今回五島高校教諭中村隆一氏
によって採集された。標本は同校に保存されている。
Anthocaris scolymus (Butler, 1866)
ツマキチョウ
3月-4月頃の初春の短期間だけ発生する(対馬では5月上旬迄)小型の美しいかれんな蝶
である。県下に広く分布する。食草はタネツケバナ,イヌガラシ,バクザオ。
31. Pieris rapae curcivora (Boisduval, 1836)
モンシロチョウ
全県下に分布する普通種である。キャベツを最もよく金するが,ダイコン,アブラナ,バク
サオにもつきイヌガラシも食う。ギョボク(フウチョウソウ科)も食するという(福田,田
中)
32. Pieris melete melete Menetries, 1857
スジグロシロチョウ
県下に広く分布するが対馬では厳原,上対馬で採集されたが稀である。五島からも記録はな
いが産すると思はれる。山地に多い。食草はイヌガラシ。
長崎県の蝶類
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Pieris canidia iuba Fruhtorfer, 19 10
タイワンモンシロチョウ
東亜の熱帯から温帯にかけて広く分布する蝶であるが,本邦では,対馬に限って分布する。
3月中旬から10月下旬迄,年6-7回発生し, 5月が発生の盛期で8月には急滅する。蛸
で越冬。食草はミズガラシ,クネッケバナ,イヌガラシなどの野生アブラナ植物である。
Fam LYCAENIDAEシジミチョウ科
Arhopala japonica (Murray, 1875)
ムラサキシジミ
県下に広く分布する普通種。食草はアラガシである。
35. Arhopala bazalus turbata (Butler, 1881)
ムラサキツバメ
県下に広く分布するが,対馬では割に個体数が少く,成相山,有明山で数頭を得たにすぎな
い。五島からは記録がない。食樹はマテバシィ,シリブカガシ。
Japonica
lutea
(Hewitsonノ1865)
アカシジミ
長崎県本土では採集例がなく,対馬で,わずかに, 1958年5月24日,美津島町大船越で1♀
を得たにすぎない. (九州では霧島山高千穂,宮崎県大崩山,熊本市立田山).昼間はほとんど
活動しないから,梢上をたたき,飛び立つのを捕える。食樹はクヌギ,コナラ,クリ,ナラ,
カシワなど。
Antigius attilia (Bremer, 1861)
ミズイロオナガシジミ
長崎県本土には産せず,対馬にのみ産する。大船越では現在でも普通にみられる1958年6
月15日美津島大船越で,同年6月18n上対馬町大増で採集. 6月に年一回の発生をするO生息
地にはカシワ,コナラなどが白生している。 (鹿児島では可なり多く採れている。福田,田中)
Chrysozephyrus kirishimaensis kirisimaensis COkajima, 1922)
キリシマミドリシジミ
対馬の有明山及び佐世保国見山には多産するoまた,多良岳,雲仙岳にも記録されているO
美しい蝶である0年1回の発生で,有明山での観察では7月中旬に合が姿を見せ,その為に,
8月中旬迄合♀混飛しているが・下旬になると合が姿を消し♀のみ9月上旬迄飛んでいる。最
盛期は7月中下旬から8月上旬になる。食樹はアカガシ。
39. Favonius saphirinus (Standinger, 1887)
ウラジロミドリシジミ
山口鉄男・浦田明夫
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対馬久原及び大船越の二個所だけに産する。本種は海外ではウスリー,アムール,朝鮮など
に産し,国内では本州,北海道には普通に産するが,四国,九州では確認されていない。本種
は1955年6月30日津田美智夫氏が久原,唐の崎一帯のカシワの林で発見した。その後,浦田
が1958年6月24日美津島町大船越で第二の産地を見つけたO久原では相当に採集され,Z。対
馬に於ける本種の発生は,本州より約1カ月も早く, 6月上旬頃で大体7月上旬頃迄見られ
る。食樹はカシワ。
40. Favonius orientalis (Murray, 1875)
オオミドリシジミ
対馬自岳及び大船越に産するが,前程に比べると少い1941年6月8日白水隆氏によって上
見坂で1合1♀が採集されたのが,対馬での最初の記録であるが, 1958年6月13日,浦田が大
船越で1合を採集した。現在迄ここでは少数が採集される。ミズイロオナガシジミやウラジロ
ミドリシジミと混飛している。食樹はクヌギ,コナラ,カシワなどと思はれる。
41. Rapara arata (Bremer, 1861J
トラフシジミ
日本全土の低山地帯に分布し,県下では各地の山地で採れるが個体数は少い。壱岐,五島に
は記録がない。金柑はマルハウツギ。
42. Ahlbergia ferrea (Butler, 1868)
コツノヾメ
県下では早春に見られるが採集例は少く,壱岐,対馬,五島には記録がない。食草はミヤマ
キリシマ,シャシャンポ,ネジキ,ガマヅミなどの花穂。
43. Lycaena phlaeasdaimio (Seitz, 1909}
ベニシジミ
早春から出現する。ヤマトシジミと共に県下では最普通種。食草はギシギシ,スイバ。
44. Taraka hamada (Druce, 2875^)
ゴイシジミ
幼虫は,ササ類に寄生するアブラムシを金するE]本庄蝶具申唯一の食肉性で成虫もアブラム
シの分泌する液をなめる。 5月頃から現われ,夏になると個体数を増す。県下全地域に分布す
るが,五島には記録がなく長崎附近でも極めて少ない。
45, Pithecops fulgens tsushimana Shirozu et Urata, 1957
ツシマウラボシシジミ
熟帯系の喋で,対馬の北端部のみに産し,年3-4回発生する。終令幼虫で越冬し,幼虫は
ヌスビト-辛,ケヤブハギの花穂を食する。本県では巌も注目すべき種である。 (詳細は後
逮)
上∴ 1I '"','・・'
33
46. Niphanda fusca Shijima Fruhstorfer, 1917
クロシジミ
県下では7-8月に対馬有明山のみに発生する。幼虫はコナラ,クヌギ等に付くクワナケク
ダアブラムシの分泌液をなめて成長し, 3齢になるとオオクロアリが地下に運んで養い,幼虫
は蜜をアリに与えて共生する奇習がある。個体数は少い。
47. Lampides boeticus (Linne, 1767)
ウラナミシジミ
壱岐では記録されていないが,その他の地区には産する。幼虫はフジの豆の英の中に入って
食害する。他にエンドウ,ソラマメ, -マエンドウにつく。 (福田,田中)
48. Euchrysops cnejes (Fabricius, 1768)
オジロシジミ
対馬厳原と長崎市で記録されており,迷蝶と思われる。食草はオオヤブツルアヅキ,アヅ
辛,ヤブマメ,ヤマハギ等(福田,田中)
49. Zizeeria maha argia (Menetries, 1857)
ヤマトシジミ
春から夏,秋まで至る所に見られる普通種。幼虫はカタバミを食う。
50. Zizina otis emelina (de p orza, 1869〕
シルビアシジミ
壱岐,対馬,五島には記録は無いが,本土に産する。個体数は少い。食草はミヤコブサ(描
田,田中〕
51. Celastrina argiolus La donides (de I'orza, 1869〕
ルリシジミ
県下ではごく普通種である。食草はクス,フジ, -辛,コマツナギ,クララ等の花,苔を食
べる。
52. Celastrina albocaerulea sauteri Fruhstorfer, 1917
サツマシジミ
南国の喋で壱岐には産しない。対馬での記録もわずかであるが見られる.3その他の県下では
山地に普通に見られる。特に雲仙,五島の七岳,父ケ岳などには普通。食樹はバクチノキ,ク
ロキ,ナナミノキ,サンゴジュなど。
53. Evres Lacturnus Kawaii Matsumura, 1926
タイワンツバメシジミ
長崎,佐世保,北高高来町,五島福江二本楠から記録されている。幼虫はシバ-ギの花穂を
食べる。
山口鉄男・浦田明夫
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54. Everes argiades hellotia Menetries, 1857
ツノヾメシジミ
県下各地に産する普通種である。食草はコマツナギ,ヤ-ズソウ,ミヤコグサ,コメツブウ
マゴヤシなど。
55.
Tongっ三a
fischeri
(Eversman,
1843〕
クロツバメシジミ
県下では対馬と長崎市だけで採集されていて,その発生地は小地域に極限される。 4月∼11
月迄見られる,一見ヤマトシジミに似ている。幼虫はイワレンゲ,ツメレンゲ等を食べる。長
崎ではナガサキマンネングサ,対馬ではツシママンネングサも食べている。
Fam CURETIDAEウラギンシジミ科
56. Curetis acuta paracuta de Niceville, 1901
ウラギンシジミ
全地域に分布する普通種で,個体数も多いが,五島からは記録されていない。対馬産のもの
は別亜種である。食草はフジ,ナツフジ,クズなど。
Fam LIBYTHEIDAEテンゲチョウ科
57. Libythea celtis celtoides Fruhstorfer, 1909
テングチョウ
壱岐,五島では記録されていないが,他の地区に産する。対馬産,長崎産のものが,
Fruhstorferによるceltoides原記載の材料の一部となっている。山地でよく採集される。
4月頃から見られるが,これは越冬したもので,第一化のものは6月頃出る。個体数はあまり
多い方では無い。食草はエノキ。
Fam. DANAIDAEマダラチョウ科
58. Cadua sita niphonica Moore, 1883
アサギマダラ
壱岐以外(五島には少い)の地域で得られる。マダラチョウ科の美しい喋である。平地には
稀であるが,山地では普通,特に雲仙には多い。食草はキジョラン,カモメゾル。
59. Tirumala limniace (cramer, 1775)
ウスコモンアサギマダラ
平戸市で1961年5月27日に採集された記録があるだけである。
長崎県の蝶類
3D
60. Salatura genutia (cramer, 1779)
スジグロカバマダラ
長崎市,島原半島,田平及び対馬に記録されている迷蝶である。
61. Euploea mulciber barsine Fruhstorfer, 1904
ツマムラサキマグラ
長崎地方で1合が採れた事が記録されている0
62. Limnas chrysippus (Linne, 1758)
カバマダラ
島原半島国見町で高橋氏により採集された記録があるだけである。幼虫はロクオンソウを食
べていた。 (種子島,屋久島,大島などでは,トウワタを食うという。福田,田中)
Fam. NYMPHAI。IDAEタテハチョウ科
63. Argyronome laodice japonica (Meneter, 1877〕
ウラギンスジヒョウモン
県下全域に分布する。食草はスミレ類,オニシモツケ。
64. Argyronome ruslana lysippe Janson, 1877
オオウラギンスジヒョウモン
県下全域に分布するが個体数は多くない。
65. Argynnis paphia geisha Hemmg, 1941
ミドリヒョウモン
壱岐,五島には記録がないが,県下ではヒョウモン類中では最も普通なものである。対馬産
のものは別亜種として記載されている。食草はスミレ類。
66. Argynnis anadyomene mides Butler, 1866
クモガタヒョウモン
全県下に分布するが,個体数は余り多くない。然し対馬,壱岐ではこの種は多産し普通種で
SS^k^E
67. Damora sagana liane (Fruhstorfer, 1907)
メスグロヒョウモン
全県下に分布する普通種である。個体数はさほど多くない。
63. Fabnciana adippe pallescens (Butler, 1873〕
ウラギンヒョウモン
県下全地域にわたって分布するが,対馬では非常に稀であり,五島には記録がない0
69. Fabriciana nerippe (C et R. Felder, 1862)
山口鉄男・浦田明夫
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オオウラギンヒョウモン
壱岐,五島には産せず,また対馬でも極く稀にしか得られない,他地域でも個体数は多くな
l¥
70. Argyreus hyperbius CLirnie, 1763)
ツマグロヒョウモン
全県下に産する普通種O食草はスミレ0
71. Phalanta phalanta (Drury, 1773〕
ウラペニヒョウモンモドキ
1880竿に彼杵で1頭記録されている。
72. Ladoga Camilla janica Menetries, 1857
イチモンジチョウ
壱岐,対馬には産しないが,他の地域では低山地には極く普通に産する。食草はスイカズラ,
ヒョウタンボク,ツキヌキニンドゥなど。
73. Limenitis helmanni Lederer
ナガサキイチモンジ
長崎に於て, Leechにより記録されている。しかしその後一回も採集されたことがなく,
採集地の長崎にも疑問をもたれている種である。
74. Neptis aceris intermedia W. B. Fryer, 1877
コミスジ
県下全般に最も普通に産し,個体数は多い。食草はフジ,ナツフジ,ニセアカシア,タンキ
リマメ,ハギなど。
75. Kalkasia philyra excellens (Butler, 1878)
ミスジチョウ
対馬で一回採集されているにすぎず,県下の他地区には産しない。
76. Araschnia burejana strigosa Butler, 1866
サカバチチョウ
県下では山地に産する。多良岳ではよく採れる,五島,壱岐,対馬からは末記録,春型は別
種の観がある。食草はコアカソ。
77. Polygonia c-aureum (Linne, 1758)
キタテハ
壱岐,五島には記録がないが,他地区には産する。食草はカナムグラ0
78. Kaniska canace no-japonicum (von Siebold, 1824〕
ルリタテハ
長崎県の蝶類
37
県下に広く分布するが,個体数は多い方ではない。食草はホトトギス,オニユリ,サルトリ
イバラなど。
79. Nymphalis xanthomelas joponica (Stichel, 1902)
ヒオドシチョウ
壱岐,対馬,五島以外の地では平地にも山地にも産する。エノキの栗を会し,大村ではエノ
キの青葉の頃,その葉を食い,枝に蛸が鈴なりに附く事が時々ある。
80. Vanessa cardui (Linne, 175^
ヒメアカタテハ
広く分布するが,個体数は余り多くないようである。食草はハ-コグサ,ゴボウ,ヨモギ,
アザミなど。
81. Vanessa indica (Herbst. 1794)
アカタテ-
全県下にどこにも産する普通種,個体数は多い。食草はカラムシ,ラミーの某を食する。
82. Precis orithya (Linne, 1758)
アオタテハモドキ
迷喋であるが,壱岐を除く県下の各地で採集されている。長崎では茂木附近,道之尾附近で
時々採れる。食草はキツネノマゴ,キンギョソウ。
3. Precis almana (Linne, 1753〕
タテハモドキ
対馬及び長崎市,多良見村で採集されている。食草はイワダレソウ,スズメノトウガラシ
(福田,田中)
84. Hypolimnas misippus (Linne, 1764)
メスアカムラサキ
壱岐以外の地域で得られた事の有る迷喋である。合♀の色が別種と思われる程異る。食草は
スベリヒユ。
85. Hypolimnas bolina philippensis (Butler, 1874)
リュウキュウムラサキ
対馬,壱岐,長崎,高島,佐世保など各地域で採集されている。食草はサツマイモ。 (田
中,福田)
86. Cyrestis thyodamas mabella Fruhstorfer, 1898
イシガケチョウ
壱岐,対馬,五島には産しないが,他地域の山地で採集される。雲仙には少く,椎子落滝の
あたりで,小野田正和が,絹笠山で吉村暁が採った二例があるだけであるが,国見山や多良山
山口鉄男・浦田明夫
38
系では相当採れる。食草はイヌビワ,ホソバイヌビワ,オオイクビ,イクビカズラなど。
87. Dichorragia nesimachus nesiotes Fruhstorfer, 1903
スミナガシ
壱岐,五島には産しない,他地区でも個体数は余り多くない。食草Ipiヤマビワ,リュウキニ
ウアワブキ。
Apatura ilia substituta Butler, 1873
コムラサキ
壱岐,対馬,五島には産しない。他地域でも個体数は余り多くない。食草はヤナ卓、
Hestina japonica (C. et R. Felder, 1862〕
ゴマダラチョウ
県下全域に分布する。食草はエノキ。
Fam SATYRIDAEジヤノメチョウ科
90. Ypthima argus Butler, 1866
ヒメウラナミジャノメ
対馬を除いて最も普通に見られるジャノメチョウ科の一種で少し山手に入ると個体数は多
い。食草はススキ,チガヤ(福田,田中),チヂミザサ,シバ。
91. Ypthima motschulsky (Bremer et Grey, 1853)
ウラナミジャノメ
県下に広く分布するが個体数は非常に少い。対馬では6月-7月, 8月∼9月の2回に多産
する。本土に多いヒメウラナミジャノメを産せず,本土に少いこの種を多産する事は興味ある
事である。食草はメヒジワ。
92. Minois dryas bipunctatus (Motschulsky, 1860〕
ジャノメチョウ
対馬では有明山,長崎では岩屋山に多産する。雲仙山系,国見山その他の山地で採れる。壱
岐では得られていない。食草はススキ。スズメノカタビラ。
93. Lethe diana 「Butler, 1866〕
クロヒカゲ
壱岐では得られていないが,他地域では普通に見られる。個体数は多い。食草はクレタケ,
ゴキダケ, (福田,田中)クマザサ。
94. Neope goschkevitschi goschkevitschi (Menetries, 1855)
キマグラヒカゲ
九州本土では山陰のような所なら何処でも採られる普通な種であるが,対馬には産せず,ま
_
A.,,
;i.i
39
た壱岐,五島にも記録されていないo幼虫はイネ科,カヤツリグサ科の草本を食べるという。
95. Mycalensis gotama fulgima Fruhstorfer, 1911
ヒメジャノメ
県下各地に普通に産する。母喋は日陰のチヂミザサ,メシジワ,スズメノヒエなどに産卵す
る。食草はススキ,ニワホコリ,オヒジワ,チガヤ(福田,田中)ササ,イネ。
96. Mycalensis francisca perdicas Hewitsom, 1862
コジャノメ
県下各地に普通であるが対馬には産しない。又,壱岐,五島にも記録されていない。食草は
ススキ,チヂミグサ。
97. Kirrodesa sicelis (Hewitson, 1862)
ヒカゲチョウ
対馬,五島以外の県下各地に産する。メダケ,クマザサが食草。
!. Melanitisleda Linne, 1758
ウスイロコノマチョウ
神谷氏による高島の記録があるが本土では少い。壱岐,五島には産せず,対馬では稀な種で
ある。
99. Melanitis phedima oitensis Matsumura, 1919
クロコノマチョウ
壱岐,対馬以外の全県下に産する。食草はジュヅダマ,ススキ,アワ,トウモロコシなど。
Ⅱ分布上注目すべき種類
長崎県内に記録される蝶は99樺を数えるOこの中には,日常見なれた種類も数多くいるが,
また分布上興味のあるものもかなり多いO `(数字はⅡの数字と合せたもの)
A分布上注目すべき種類
4. (i)キバネセセリ
本種は北海道には普通であるが,九州では祖母山には見られるが珍らしい種である。長崎県
内に於ける記録は浦田が1955年6月13日,対馬厳原で採集した1♀があるだけである0
5. (2)ホシチャバネセセリ
本種は旧北区系の蝶で,本邦以外では朝鮮,満州,台湾,中国,アム-ル等に分布し,国内
では,本州中部以外の地では稀な種で,北海道,四国,九州には産しないが,対馬には多産す
山口鉄男・浦田明夫
40
る。 6月中旬より7月中旬迄と8月下旬より9月下旬迄の二期が出現期である。
16. (3)ミカドアゲハ
鹿児島,宮崎,福間,高知の各県下では,相当多いと言われているが,長崎県ではアゲハチ
ョウ科の中では稀種に属するO県内で記録されている地域は,長崎,佐世保,多良岳及び穴馬
の各地で,特に長崎市内に於ける採集記録は, 1941年8月15口西山町に於て白石邦子氏により
採集された1合を最初とし, 20頚を越え,更に幼虫,蛸の採集数も多数にのぼっている。また
対馬に於ける記録は1955年8月豆蟹に於て,立花薫氏の採集によるものが最初で,その後浦EB
が大船越に於て1958年5月UI吊7:採集している。この外,・対馬で採集された個体数は相当数に
のぼっている。本種はその食草かオガタマノキ(モクレン科)であり,この樹の分布と本種の
採集記録が大体一致している(池崎善博こがねむし, 1960年〕ことより調査すれば今後の分布
も広がるものと思う。
32. (4)スジグロシロチョウ
本種は県下の山地には広く分布するものであるが,対馬では次の記録があるにすぎない。即
ち1954年7月12口,浦田が1♀を採集,更に1957年6月10日,同じく厳原で植村芳布氏が,そ
の後, 1958年6月23日上対馬町人増で,西村峰男氏が採集されているだけである。
本種の対馬に於ける生息はFruhstorferがタイワンモンシロチョウPieris canidia jaba
を対馬から記載して以来,疑問とされていたのである。即ちFruhstorferはjabaを最机
Pieris meleteの-亜種として記載したからである.然しその後jabaはcanidiaの-亜種で
ある事が,判明したのであるが,その後の採集の結果,上記の記録を得て対馬にズジグロシロ
チョウが確実にいる事を証明したのである。
(5)タイワンモンシロチョウ
東亜の熟音から温帯にかけて広く分布するが,本邦では対馬特産桂として有名である。対馬
の各地に産し,モンシロチョウと混飛している。食草はミズガラシ,タネツケバナ,イヌガラ
シなどの野生のアブラナ科植物である。一般に平地に少く山地性である。発生は3月中旬-10
月下旬に及び,年6-7回発生するものと推定する。最盛期は5-6月で8月には急激に減少
する。越冬態は蛸である。
(6)アカシジミ
長崎県内に於ける記録は1958年5月24日浦田が対馬大船越で1♀を得たのがあるにすぎな
い。
37. (?)ミズイロオナガシジミ
本種の長崎県内に於ける記録は,対馬のみである。最初の記録は浦田が1958年6月15日,対
馬大船越に於て1台2♀♀を得たもので,同所でit毎年採集されているO叉1958年6月180上
長崎県の喋類
41
対馬町大増ヱ於て2頭採集されたが,その後は得られていない模様である。
(8)キリシマミドリシジミ
木理は,ミドリシジミ中で最も華麗な蝶で,長崎県では佐世保国見山がその多産地として著
名である。毎年多数の本種が採集されている。その他雲仙岳及び多良岳でも記録されている。
また対馬では,浦田が1955年8月11日有明山のアカガシの林で1合3♀を初めて採集記録し
た。有明山に於ける観察では7月中旬には既に合は姿を見せ, 8月中旬頃迄は合♀共に混飛し
ているが,下旬になると合は姿を見なくなり, ♀のみが飛び9月上旬まで続く。
ミドリシジミ類に見られる遺伝的逮表型は一般に本種はB型又はAB型を示すと言われてい
るが,対馬産のものはB型のみでAB型は末だ得られていたい。
対馬産の本種と,三重県,在所山及び佐世保国見山のものと比較してみると対馬産のものは
合では,前後遁其外縁の黒胃は細いOまた♀では,前逮表面の紫色紋は一般に広い。
39. 0)ウラジロミドリシジミ
本種の分布は,海外ではウスリー,アム-ル,朝鮮等に産し,国内では,北海道,本州には
普通に産するが,四国,九州にはその生息の確認されたものは見出せないO然し対馬では,檀
田美智夫氏により,対馬久原で1955年6月3日発見され,又浦田は1958年6月24日,対馬大船
越:こ於て,本種の第二の生息地を発見確認した。現在も毎年,採集されている。
対馬に於ける本種の発生は,本州に於ける発生時期よりも,約1ケ月も早く, 6月中旬に於
て既に合は朽損し,完全なものは得がたい。中旬以後♀の発生に入るが,大体7月上旬迄みら
れる。
♀の週表は,一般に0型,時としてA型, B型も表われると云われてるが,久原産のもので
は, 0型を表わしていたものは1頭のみで,他はA型を示していた。また一方,大船越産のも
のは全て0型で, A型B型は得られていない。いずれもカシワの林に飛掬している。
40.オオミドリシジミ
良埼県内に於ける記録は対馬のみである1941年6月8日,上見坂で白水隆氏が1合1♀を
採業されたものか最初で,その後浦田が1958年6月13[]対馬大船越で1台を採集し,第二の産
地を発見した.
45. (IDツシマウラボシシジミ
本種の発見は, 1954年8月4日浦田が対馬佐須奈の杉林の中で採集した7頭である。近年国
外では台湾,琉球でも本種が発見されている。
対馬に於ける分布地は,北端の上県町,上対馬町の二町で他のいずれの地にも産しない。本
種のような熱帯系のものが,対馬の北端のみに,しかも極限られた範囲に生息する事は,対馬
の昆虫の特異性を物語る興味ある事実である。
局,幼虫及び蛸の色が地色に赤と緑の二種が見られるが,これはミドリシジミ類♀にみられ
42
山口鉄男・浦田明夫
る麹表紋のように,遺伝的な性質を持ったものであるかもしれない。成虫に於てほ,このよう
な特微は見出せない。
分布本種の近似種はDohertyが記載したfulgensがアッサムに産するO
木簡'ま小形のシジミチョウで佐須奈を中心として,佐護,仁田∼佐護,比田勝などに局限さ
れて産す/I a
生息環境一般の蝶と異り,照度低く,小さな小川のある杉林の陰湿な処である。
飛翔余り活発でなくゆるやかに飛び, 1回の飛朔距離も短くてすぐに植物にとまる。
産卵ヌスビト-ギの花穂に1個づつ産卵する。数個産み付けられたものはおそらく他の母
蝶によるものと思はれる。
食草ススビト-ギ及びケヤブハギで,その花穂を食する。老令のものは果実を食うことも
ある。
発生年4-5回で5-10月にわたって発生し終令幼虫で越冬する。
46.クロシジミ
本種:ま本州,四国,九州の各地に分布するが,その産地はかなり局部的である。長崎県では
対馬のn明山のみに産し,対馬ではキリシマミドリシジミと同場所,同時期に出現する。
52.サツマシジミ
本種は熱帯系の蝶で,多良岳や雲仙岳,及びその山系,佐世保国見山には多産する。また五
島福江では以前から知られており山口は七岳でも多数採集した。その他長崎市でも採集されて
いる。九州以外では四国,本州に産し台湾にも産する。
53. (i㊨タイワンツバメシジミ
本種は台湾その他東洋熱帯に広く分布するが, 1920年9月五島二本楠で川合修二氏が2頭を
採集し,これを桧村松年博士が記載されたものが本邦最初の記録である。その他,県内では渡
辺博信氏が1950年8月佐世保市愛宕山で,同じく1951年8-9月愛宕山で採集,尚,国見山西
南麓,長崎市八郎岳,風頭山,彦山等に記録されている。山口は1957年7月28日北高高来町湯
江の轟の滝へ行く途中の道から少し入り込んだ処で1♀を採った。池辺博氏は幼虫をシバ-ギ
を食べさせて飼育に成功した。
壱岐,対馬からは得られていない。
55. (15)クロツバメシジミ
本種の分布は非常に局所的で,九州では大分,福間の二県及び長崎県では,長崎市,佐世保
愛宕山,それに対馬各地に分布するだけである。対馬では本種が生息する事は,以前から知ら
れており,街中でも容易に採集が可能である。それは対馬の街の構造上,厳原は石垣でかこま
れた城下町であり,それに本種の食草であかツメレンゲ等が着生していることの理由によるも
のであろう。
長崎県の媒類
43
長崎市で¥t,浦田が1955年9月10日寺町,風頭山に於て10頭を得たのが最初であり,その後
呑刃,池崎,野中諸氏が,道の尾六地蔵附近に産地を発見した。ここには食草のナガサキマン
ネンが多い。佐世保の記録は渡辺博信氏の佐世保市愛宕山からの記録がある。
56. (16)ウラギンシジミ
対馬竜のものは, Curetis acuta tsushimana Fruhstorfer, 1908が示す通り,本土産のも
のと別亜種にされている。これは・,対馬産のものが舎逮表の赤斑が小型でより明かるく, ♀で
揺,蒼白紋が減退して,黒褐色となる点,及び秋型では,前辺境のとがりが甚だしいと云う点
でjap〇nicaと区別され記載されたものである。対馬の各地に産する,普通のウラギンシジミ
は県下全地域にわたって分布する。
65. (17)ミドリヒョウモン
対馬産のミドリヒョウモンは別亜種Argynnis paphia tsushimana Fruhstorfer, 1906と
して記載されているO然し我々は麹の裏面が濃色であることの外には大した差異を見出し得な
い。本種は壱岐には産しない。
75. (is)ミスジチョウ
本種は,九州では稀な種と思はれ,長崎県内,佐賀県からの記録はなかったが1958年5月31
日,対馬厳原町に於て,木柱の1♀が吉田憲司氏により採集された。これ以外には末だ記録は
.>・'..
B長崎県の迷蝶(偶産蝶〕
ここでは現在までに確認し得た長崎県の迷喋について,その記録をまとめてみることにす
る。
Fam PIERIDAEシrjチョウ科
Catopsilia pomona (Fabricius 1775)
(1)ギンモンウスキチョウ
九州の迷蝶の中でも,数少い種類の一つであったが,近年各地で採集記録が生れた。特に鹿
児島県では極めて多数が採集されている。
長崎県での記録は,
L-¥1-′58 1台長崎市東山手(北郷雅子)
1合長崎市
Ⅶ-′61 1♀長崎市茂木(石原毅)
8-VII-′63 1台長崎岩屋山(石原毅)
山口鉄男・浦田明夫
44
Ⅷ-′63 1合福江市(翁頭中,長門博美)
以上の5例がある。
29. (2) Catopsilia pyranthe LINNE, 1758
ウラナミシロチョウ
熟帯系の既で,若松,都城から報告され,更に1953年9月には,佐賀県下で大発生をした事
がある。幼虫は-ブ章を食し,那,幼虫,蛸も多数採集された。
本県からは採集例がなかったが,今回五島高校教諭中村隆一氏によって1合が採集された。
Fa^i LYCAENIDAEシジミチョウ科
I. (3) Euchrysops chejus (Fabricius, 1798)
オジロシジミ
6-X-′57 1合対馬厳原(浦田明夫)
9-Ⅹ-′60 1♀長崎小江小浦(吉井顕正)
長崎県で本種が初めて採集されたのは上記の厳原であった。その後同年10-Xに2合合, ll
-xに1合, 14-Xに1合17-Xに1台と, 10日間に6合合1♀が採集されたが,その後は
採集されず,その年限りの出現に終ってしまった。
本種の本邦に於ける記録地は,奄美大島,四国,九州で,対馬の記録は本種の北限記録でも
t!i*、.
Fam. DANAIDAEマダラチョウ科
(4) Tirumala limniace (Cramer, 1775)
ウスコモンアサギマダラ
27-V-′61平戸市(寵手田安定)
白水隆篇日本産藻類分布表によれば,本種は鹿児島県と熊本県の両県に記録されているにす
ぎない。長崎県での記録は上記の通りである。
60. (5) Salatura genutia (Cramer, 1779)
スヂグロカバマダラ
10-Ⅵ-′53 1台南田原(中村豊二)
10-Ⅶ-′60 1合対馬大船越(中村忠治)
本種は大分県を除く九州各県で採集されているo本県での最初の記録は,堀川安市氏が副奇
地方に産することを昆虫世界に記載されたものであるoまた金子遺啓氏が島原産亜熱帯性昆虫
のこと,として昆虫世界に報ぜられたが,両者ともデータは全く記録されていないQ
長崎県の蝶類
45
61 (6) Euplosa mulciber barsime Fruhstorfer, 1904
ツマムラサキマグラ
堀川安市氏が,昆虫世界に(1913)昆虫雑片として本種が長崎地方で得られた事を報じてい
るが,デ-タは記載されていない0
62. (7) Limnas chrysippus (Linne, 1758)
カバマダラ
16-K′60南高固見町(高橋時重)
国見中学校教諭高橋時重氏の採集は,本県では初めてのカバマダラの採集であった。
同定を依頼して送附された標木は山口と池崎が見たが,見るとハネも全然損傷がなく,新鮮
な個体であったので,これは同地で羽化したものに違いないと思った。すると発生場所を探せ
ば幼虫も得られるかも知れないと思い,後口山口,池崎は同地を訪ねて,高橋氏の案内で発生
地を探し,幼虫,桶を得た。 (白水隆氏も同地を調査された)尚高橋氏は飼育して10月下旬11月にかけて羽化に成功された。幼虫はロクオンソウを食べていた。然し翌年は全く発生を見
なかった。
Fam NYM:PHALIDAEタテハチョウ科
71. (8) Phalanta phalantha CDrury, 1773)
ウラペニヒヨウモンモドキ
1880年にAndrewが東彼,彼杵で採集したものをPryerが記録したものが残っているが,
これは日本最初の,また日本に於ける唯一の確実な記録である。
73. (9) Limenitis helmanni Lederer
ナガサキイチモンジ
Leechによる長崎の記録が本邦における唯一の採集記録である。
82. (10) Precis Orithya (Linne, 1758〕
アオタテハモドキ
この種は台湾,琉球には普通で,花に飛来し,各季節に採集される。分布は中国,比島,局
来,印度などで,本邦でも稀に採集され,九州では福間,長崎,熊本(天草) ,鹿児島,宮崎
などの諸県で採集されている。本県では,
9** V ′49長崎市道ノ尾(LLI根孝夫)
28-K-′49 Pノ津(布施康隆)の採集が初めで,三宅義一氏は五島奥清宮原で,
6月∼7月の問に10頭を目撃された。その後昆虫同好会の諸氏によって長崎市,雪ノ浦,為
石,矢上,高島,長与,茂木,諌早,福江,三重,対馬で採集され,ごく最近では五島高,中
山口鉄男・浦田明夫
46
村隆一氏により福江市で,川棚高の杉本寛人氏により本年6月に川棚で採集された。迷蝶の中
では最も採集例が多く,特に1953年には長崎市,茂木,道ノ尾,長与方面では大発生をしたの
で多数採集された。
1962年西彼三重村で,池埼善博氏はキツネノマゴから幼虫6頭を採集し,飼育に成功した。
翌63年にも16頭の幼虫を採集飼育した。結局アフタテハモドキは同地では二年連続して発生し
たわけである。
本種の採集記録を見ると6, 7, 10, 11月に採集されており,特に秋期に多発する傾向が見
られる。幼虫が発見されたのはいづれも10月で,最終世代のものと考えられる。幼虫飼育の場
合は10月には幼虫の発育が悪く,また加温の必要性があることから見て,余程の好条件に恵ま
れない限り,自然状態での越冬は不可能と思はれる。
83. (ll) Precis almana (Linne 2758)
タテハモドキ
3-Ⅶ-′57対馬三根(波多野幸子)
28-VH-′61対馬仁田(浦田明夫)
Ⅶ-′57長崎市戸町(池内一三)
Ⅵ-′58西彼多良見村喜々津(喜々津小,奥野教諭)
この種は種子島,奄美大島以南では普通種である。前柱に比してその生息北限地が,ずっと
北によっているにも関らず,確認し得る採集例は以外に少く上記4例にすぎない。
喜々津でとれた3個体は, 5-6頭が一緒に飛んでいた由であるが,-ネも損傷せず美しく,
同地方で羽化したものと考えられた。
別Hypolimnas misippus (Tinne, 1764)
メスアカムラサキ
神谷,小測,池崎諸氏その他によって,長崎市,西彼高島,五島,佐世保,西彼三重,対馬,
壱岐などで採集され,その後いくらかは毎年県下で採集されている。特に1954年には高島でか
なりの成虫が採集された。神谷寛之氏が採集された1♀は同年8月24日産卵,これから成虫を
得られた1961年9月25[]池崎善博氏は野外で終令幼虫を見つけ,飼育(スベリヒユで)して
大部の羽化に成功した。然しこの年限りで翌年は幼虫を全く見なかった由。
85. (13) Hypolimnas bolina philippensis CButler, 1874)
リユウキユウムラサキ
大村,南高南串山,西彼高島,茂木,壱岐,対馬の各地で採集されているが,前のメスアカ
ムラサキに比べると著しくその採集個体数が少い。
47
!主I.'I里、 I:;二':;
Ⅳ長崎県産蝶類の分布表
五可芸蓋引九州
Fam HESPERIIDAEセセリチョウ科
1.ミヤマセセリ
2.ダイミョウセセリ
3.アオバセセリ
4.キバネセセリ
5.ホシチャバネセセリ
6.コチャバネセセリ
7.ホソバセセリ
8.ヒメキマグラセセリ
9.キマグラセセリ
10.オオチャバネセセリ
ll.チャバネセセリ
12.イチモンジセセリ
13.クロセセリ
Fam. PAPILIONIDAEアゲハチョウ科
14.ジャコウアゲ15.アオスジアゲ16.ミカドアゲハ
17.キアゲハ
18.アゲハ
19.クロアゲ20.オナガアゲ21.ナガサキアゲ22.モンキアゲ23.カラスアゲハ
24.ミヤマカラスアゲハ
Fam. PIERIDAEシロチョウ科
+
⊥
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
25.キチョウ
28.ギンモンウスキチョウ
I
27.モンキチョウ
+
26.ツマグロキチョウ
山口鉄男・浦田明夫
48
29.ウラナミシロチョウ
30.ツマキチョウ
31.モンシロチョウ
32.スジグロシロチョウ
33.タイワンモンシロチョウ
Fam. LYCAENIDAEシジミチョウ科
+
34.ムラサキシジミ
一
37.ミズイロオナガシジミ
l
36.アカシジミ
+
35.ムラサキツバメ
38.キリシマミドリシジミ
I
39.ウラジロミドリシジミ
I
I
41.トラフシジミ
I
40.オオミドリシジミ
42.コツバメ
43.ベニシジミ
44.ゴイシジミ
45.ツシマウラボシシジミ
46.クロシジミ
47.ウラナミシジミ
I
48.オジロシジミ
-
49.ヤマトシジミ
+
50.シルビアシジミ
一
51.ルリシジミ
T
I
+
I
53.タイワンツバメシジミ
+
52.サツマシジミ
+
+
54.ツバメシジミ
÷
Fam. CURETIDAEウラギンシジミ科
56.ウラギンシジミ
Fam. LIBYTHEIDAEテングチョウ科
I
55.クロツバメシジミ
長崎県の蝶類
57.テングチョウ
Fam. DANAIDAEマダラチョウ科
+
+
r
-f+
-
58.アサギマダラ
59.ウスコモンアサギマダラ
+
I
一
60.スジグロカバマグラ
+
一
61.ツマムラサキマグラ
÷
Fam. NYMPHAI.IDAEタテハチョウ科
63.ウラギンスジヒョウモン
64.オオウラギンスジヒョウモン
65.ミドリヒョウモン
66.クモガタヒョウモン
67.メスグロヒョウモン
68.ウラギンヒョウモン
69.オオウラギンヒョウモン
70.ツマグロヒョウモン
71.ウラペニヒョウモンモドキ
72.イチモンジチョウ
73.ナガサキイチモンジ
74.コミスヂ
75.ミスヂチョウ
76.サカ-チチョウ
77.キタテハ
78.ルリタテ79.ヒオドシチョウ
80.ヒメアカタテ81.アカタテハ
82.アオタテ-モドキ
83.タテ-モドキ
84.メスアカムラサキ
85.リュウキュウムラサキ
一
62.カバマグラ
山口鉄男・浦田明夫
50
.1--・
九
+
+
+
+
I+
88.コ1,ラサキ
I+
+I-t-
87.スミナガシ
の他城
下の地-十+++
県その
「&.qII
対
86.イシガケチEウ
89.ゴマダラチョウ
Fam. SATYRIDAEジヤノメチョウ科
+
+
十
+
+
++
I
9つ.ヒメウラナミジャノメ
91.ウラナミジャノメ
+
+
+
+
+
92.ジャノメチョウ
1
93.クロヒカゲ
I
÷
一
1
94.キマダラヒカゲ
十
+
'
+
1
r
95.ヒメジャノメ
÷
一
96.コジャノメ
1
+
1
97.ヒカゲチョウ
十
4
99.クロコノマチョウ
-
十
98.ウスイロコノマチョウ
V長崎県産蚊規の極致の比較
合
計
長崎県に産する蝶で,我々が確認したものは99種に及び,その数を科別に比較したものが上
表である。
長崎県の喋類
51
昆崎県には口本に産する蝶の約47%を産する。
また対馬に約70,壱度に約70,五島に約70,県本土に約41%を産している。
県本土の楳棺はよく調査されているが,尚若干は今後増加するかも知れない。対馬のものは
巌もよく調査されていて,迷蝶を得る以外は,種数増加は望めない程である。五島及び壱岐は
特に壱岐は調査が不充分で,当然産すると思はれるものも記録がない状態で,今後よ!調査す
る必要がある。
Ⅵ速蝶(偶産蝶)の採集地
次に本県で採集された偶産喋とその採集地を示した。種名は数字で現はしている。
1.ギンモンウスキチョウ
2.ウラナミシロチョウ
3.オジロシジミ
4.ウスコモンアサギマダラ
5.スヂグロカバマダラ
6.ツマムラサキマダラ
7.カバマダラ
8.ウラペニヒヨウモンモドキ
9.ナガサキイチモンジ
10.アオタテハモドキ
ll.タテハモドキ
12.メスアカムラサキ
13.リユウキウムラサキ
山口鉄男・浦田明夫
52
Ⅶ主な参考文献
白水隆外原色昆虫大図鑑北隆館
白水隆
日本産喋類分布表(1958)
五島福江島の喋敷Zephyrus vol. 5の2-3
漬山光夫
原色日本既監図鑑保育社
高島春控
五島列島動.'b相の一班五島,九十九島,平戸島学術調査書(長崎県)
山根孝夫
長払県のアオタテ-モドキに就てこがねむしvol. 1の2
長蛇県産喋類目録こがねむしvol. 2の3, 4vol. 3の1
梅田倫平
五島の喋Zephyrus vol. 3の3-4
浦田明夫
対馬の媒I新虫報1の1 (1960)
対鳥の蝶Ⅱ新虫報1の2
対馬の喋類(1960)
ツシマウラボシシジミの生態に関する知見こがねむしvol. 5の1
対馬の迷蝶と迷媒雑考こがねむしvol. 7の2
池崎善博
迷喋3種の食草と幼虫の発見筑紫の昆虫9の1, 2
津田美智夫
対鳥産鱗週目目録(1957)
神谷寛之
高島の昆虫こがねむしvol. 2の3, 4
中洲善男
西彼高島でリュウキュウムラサキを採る。こがねむしvol. 4の1, 2
渡辺博信
佐世保附近の喋こがねむしvol. 2の2
タイワンツバメシジミの新産地こがねむし
∴ I'.'
長崎市に於けるクロツバメシジミの新産地についてこがねむしvol. 5の1
長崎東校生物部長崎県媒類の研究染色体No. 9 (1955)
福田晴夫,田中洋鹿児島県の蝶類(1962)
第一図版
5
6
1.キバネセセリ13-VI一一1955対馬厳原
2.ミカドアゲハ18-V-,1961対馬厳原
3.ムラサキツバメ3-VI-1958対馬厳原
4.タイワンモンシロチョウ23-VI-1958
5.アカシジミ24-5-1958対馬大船越
6.キリシマミドリシジミ甘6-W-1959
対馬厳原
対馬有明山
第二図版
6
5
1.ツシマウラボシシジミ21-Ⅷ-1964
2.クロシジミ2--Ⅷ-一一1957対m有明山
佐須森
3.オジロシジミ分41-X1957厳原
4.ウラギンシジミ(対馬亜種)
28-班-1958厳原
5.スジグロカバマグラ10-Ⅵn-1960
対馬大船越
6.カバマグラ31-X-1961両高国見町
第三図版
6
5
1.ミドリヒョウモン(対篤亜種)
28一-1959有r柚[」
2.アオタテハモドキ!訂21- -1960
3.メスアカムラサキ甘23-IX-1960
4.メスアカムラサキ♀ 28- -1954
小茂田
5.タテハモドキ3-YD-1961仁田
大舟斜竣
年知
6.ウスイロコノマチョウ28-VK-1955
厳原