2 先進的な事例紹介 - APPLIC(一般財団法人 全国地域情報化推進協会)

地域情報化
特集1
あなたが住む街の電子自治体への取組 その1
2 先進的な事例紹介
2.
1 中核市で初の共同利用型クラウドの導入
(愛知県岡崎市・豊橋市)
〔概要〕
豊橋市は、愛知県の東南端に位置しており、人口約3
8万人(平成24年4月現在)
の中核市であり、東三河の中
心都市です。江戸時代には城下町として、東海道の宿場町として、当代交通の要衝としての役割を担うとともに、
豊川の水利と三河湾における海運により物資の集散地としても発展しました。
近年では、物流拠点港「三河港」
とし
て発展し、国内外の自動車メーカーの集積地として不動の位置を占めています。
一方、岡崎市は、愛知県の旧三河国のほぼ中央に位置し、人口約3
8万人(平成24年4月現在)
の中核市であり、
西三河の中心都市です。
徳川家康公の生誕の地、そして、江戸幕府の礎を築いた三河武士発祥の地であり、戦
国時代以前から、我が国の東西南北の交通の要衝としての役割を担ってきました。
また、交通の拠点だけでなく、
多様な人々や価値観、産物や情報の交流の拠点としての機能を発揮した結果、独自性のある産業や歴史的な文
化を育み、西三河の中心都市としての役割を果たしてきました。
情報化に関しては、これまで両市は、それぞれ独自に
ホストコンピュータによる開発・運用を中心に、国民健康保
険・国民年金システム
(以下、
「国保・年金システム」)
など
業務ごとにシステムを導入してきました。
両市ともに、現行システムを維持管理していくにあたり、
法制度改正対応への負担や費用の高止まりなどが大きな
課題となっており、今回、これまで各市単独で導入してき
た国保・年金システムを両市が共同で導入し、オープン化
及び、クラウド化によるシステム刷新を推進しています。
現在、岡崎市が、平成2
4年7月2日に国民年金システム
を稼働させたのを皮切りに、平成2
5年3月の豊橋市の国
保・年金システム、平成2
5年4月の岡崎市の国民健康保
険システムと、順次プロジェクトを推進しているところです。
従来、中・大規模自治体の情報システムは、独自仕様が多く、共同利用は難しいとされていました。
今回、両市のパッケージシステムにあわせる、ノンカスタマイズを徹底する姿勢により、全国初の中核市による
共同利用が実現できました。
また、結果として、システムの導入及びその後5年間の運用にかかる経費が約5億円
節約でき、単独導入に比べて、ほぼ半分に抑えることが可能となりました。
両市は、今後オープン化するシステムも、共同利用型の自治体クラウドを導入する方向で推進しています。
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2 先進的な事例紹介
〔コラム〕
(1)
システムの現状と課題
両市のこれまでの国保・年金システムには大きく以下の3つの課題がありました。
① システムの複雑化と法制度改正・新制度対応への負担
(運用上の負担)
前述のとおり、両市は、これまでホストコンピュータによって、システム開発・運用を継続してきました。
度重
なる法制度改正への対応を経て、システムが複雑化しており、運用者、業務主管課職員も含め属人的なスキ
ルやノウハウに依存する状況になっています。今後、社会保障と税の一体改革が進められると自治体の業務
システムに影響がでるため、現在のシステム形態では対応が困難な状況となります。
② 費用の高止まり
(財政上の負担)
上記に関連し、特定ベンダとの随意契約やベンダ側のホストコンピュータ技術者の減少も相まって、開発・
運用費用が高止まりとなり、財政面の負担が大きいものとなっています。
③ 業務継続性に対する懸念
愛知県三河地方では、東海地震及び東南海地震などの発生の切迫性が指摘されています。両市とも災害
発生時には住民データの消失やサービスの復旧の遅れなど業務継続性に懸念があります。
(2) 課題解決の方向性
両市は、上記課題を解決するため、共同利用型の自治体クラウドを導入することとしました。
共同利用型の
自治体クラウドは、大きく以下の3つの効果があります。
① クラウドによる運用負担の大幅な軽減
クラウドを導入することで、システム開発・運用負担が大幅に軽減されます。
また、所有からサービス利用に
移行することで、法制度改正・新制度対応にもより柔軟に対応できるようになります。
② パッケージシステムの共同利用による経費削減
ホストコンピュータから脱却し、パッケージシステムをベースに、ノンカスタマイズを徹底することで、経費削
減を実現することができます。
また、両市とも仕様を統一し共通化を図ることにより、単独導入に比べ大幅な経
費削減ができます。
③ データセンターによる信頼性・可用性
耐震を施した堅牢な建物の構造並びに電源設備、空調設備及び防犯設備などファシリティに優れたデー
タセンターに機器やパッケージシステムを設置することにより、BCP
(業務継続)
を重視したシステムとなります。
(3) 共同利用型の自治体クラウドの概要
今回の共同利用型の自治体クラウドによる国保・年金システムの構成を図1に示します。ハードウェア、ソフトウェ
ア及び地域情報プラットフォームに準拠したパッケージシステムを基本構成とし、両市には別々の他の業務システ
ムとの連携を行うための共通基盤システムをおきます。
また、両市とデータセンター間の回線はLGWANを利用しま
す。
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図1 システム構成
(4) 共同利用型の自治体クラウドの実現ポイント
最後に、共同利用型の自治体クラウドの実現ポイントを以下に示します。
① 共同化に向けた協定及び体制の整備
一つめのポイントは、共同利用に向けた両市の取り組みです。当初は各市単独でシステム再構築の計画を
立て、実施に向けた検討を進めていました。
両市の更新時期が近いことから、共同調達ができないか検討を
開始して、幾度となく納期や仕様の調整を行った結果、共同利用が実現可能であると判断しました。
平成23年7月11日に
「国保・年金システムに関する基本協定」
を締結し、これに基づき、両市でプロジェクト
体制を整備しました。
両市の情報管理主管課がマネジメントを行いながら、再構築の対象とする業務ごとに両
市の業務主管課の横断的なグループ体制により、システムの企画・調達について検討を行いました。
この早期
に結んだ協定と横断的な体制が共同利用型の自治体クラウドを実現しました。
もちろん、両市だけでなく、事
業者とも横断的な体制をとり、事業者と一体となって、各種作業(要件定義、設計、構築、テスト、データ移行
及び研修等)
を進めていくことも重要です。
なお、運用・保守のフェーズにおいても、基本的にこのプロジェクトを継続させていく予定です。
② パッケージシステムにあわせる
二つめのポイントは、両市とも、業務を選定するパッケージシステムにあわせるということです。
まず、両市
の幹部・業務主管課・情報管理主管課の全員で、
「経費削減に向けて、業務を選定パッケージにあわせるん
だ!」
をスローガンに、ノンカスタマイズ意識の徹底を図りました。
また、
「要件の洗い出し ⇒ パッケージシステムのF
i
t&Gap分析 ⇒ パッケージシステムのカスタマイ
ズ」
というステップではなく、業務フローを用い、
「さまざまな業者からパッケージシステムに具備する機能の説
明・デモの実施 ⇒ 業務のF
i
t&Gap確認 ⇒ 業務調整」
という、
「最初にパッケージありき」
の考え方で
要件定義を進めました。
さらに、仕様調整会議については、業務主管課同士が直接会って会話するだけではなく、Web会議や電
を何度も
子メールなどを利用することで、頻繁に話し合いの場を持ち、現場では「どうしたらあわせられるか」
検討しました。
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③ 段階的・柔軟なクラウド化
三つめのポイントは、現場において、まずはシステム刷新のニーズの高かった国保・年金システムをオープ
ン化し、クラウド化をすることです。両市のような中・大規模の自治体では、全システムを一気にホストコン
ピュータからのオープン化やデータセンターを利用したクラウド化をするのではなく、ニーズの高いところから
はじめ、順次段階的に拡大していくということが、クラウド化の実現のポイントです。
また、ネットワークは、平成24年7月稼働の岡崎市の国民・年金システムでは、VPNを活用しておりますが、
両市の国保システムの稼働については、現在、第3次LGWANへの移行を検討しています。
その時その時の
状況にあわせて、最適なものを柔軟に選ぶという考え方でクラウド化を推進しています。
(問い合わせ先)
愛知県豊橋市総務部情報企画課 林 英樹 様
TEL:
0532−51−2084
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愛知県岡崎市企画財政部情報システム課 新實 健治 様
TEL:
0564−23−6050
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