平成27年12月24日 お 件 名 知 ら せ 北極海航路に関する衛星AISデータの活用による共同研究成果 ~平成27年度の北極海航路の航行実態~ お知らせ内容 北海道開発局と国土交通省国土技術政策総合研究所(国総研)、独立行政法人宇宙航空 研究開発機構(JAXA)及び青森県は、人工衛星から取得されるAIS*データの北極 海航路の利活用の可能性を検証する共同研究(別添「参考資料」)を実施しており、この たび、平成27年(2015年)の北極海ならびにその周辺海域での航行実態等を別添資 料のとおり取りまとめました。 *AIS(Automatic Identification System):船舶の識別符号、種類、位置、針路、速力、航行状態及びその他の安全に関 する情報を自動的にVHF帯電波で送受信し、船舶局相互間及び船舶局と陸上局との間で情報の交換を行うシステム。 ★★ポイント★★ 本年(平成27年7月~11月)の航行実態を分析した結果、以下の情報を得ることが できました。詳細については、別添のとおりです。 ①北極海航路を横断した船舶の航行数 ・北極海航路(ロシア側)を横断した船舶は24航行(前年は31航行)。 ※前年の航行数はノルウェーの研究機関CHNLの分析結果。 ②北東アジアから北極海航路への船舶航行数 ・北東アジア海域から北極海航路内に入った(またはその逆)船舶の航行数は123航 行。このうち、津軽海峡を利用したのは少なくとも19航行、宗谷海峡を利用したの は少なくとも30航行。 ➂新たな船舶の航行を把握 ・ロシア側航路において、前年には確認できかったコンテナ船の航行があった。 今回の成果により、多くの船舶が北海道沿岸に接する宗谷海峡や津軽海峡を経由してい ることが明らかとなりました。北海道開発局は、引き続き共同研究の枠組みに参加しなが ら、北海道港湾の利用の可能性を検討する基礎資料として、最新動向を継続的に把握して いく予定です。 所 問 合 せ 先 属 北海道開発局 港湾空港部 港湾計画課 役 職 港湾企画官 調査係 氏 名 早川 哲也 島谷 奈緒美 電 話 番 号 011-709-2311 内線5612 内線5567 平成 27 年 12 月 24 日 別添 平成 27 年の北極海航路航行状況について 1 研究の内容 JAXA(宇宙航空研究開発機構)、国土技術政策総合研究所、北海道開発局 及び青森県による共同研究の一環として、北極海航路(図 1)の航行時期である 平成 27 年 7 月~11 月において北極海航路を航行した船舶についてJAXAに よる衛星 AIS データに基づき分析した。 1-1 北極海横断航行数 衛星 AIS データ(平成 27 年 7~11 月)により、北極海航路(ロシア側)1) の東西両方の境界を横断した船舶の航行数を把握した。 北極海横断航行数は 24 航行であり、同様な分析を行ったノルウエーの研究機 関 CHNL(Centre for High North Logistics)による平成 26 年の横断実績 31 隻と比較すると、減少した結果となった。また、船種毎の航行実績は以下のと おりであり、24 の航行船舶の内訳リストを表1に示す。 貨物船等(バルク船、タンカー、コンテナ船等):19 航行(22 航行) 客船 :1 航行(3 航行) その他 :4 航行(6 航行) なお( )内は平成 26 年の CHNL による分析結果である。 1-2 北極海航路から北東アジアへの船舶航行ルート 北極海航路(ロシア側)を横断または北極海航路(ロシア側)内の港湾から 出港し、北東アジア海域まで達した船舶(あるいは北東アジア海域から北極海 航路内に入った船舶)については 123 航行であり、このうち津軽海峡を航行し た船舶は少なくとも 19 航行、宗谷海峡を航行した船舶を少なくとも 30 航行確 認できた。 なお 123 航行の船種別内訳は以下のとおりである。 貨物船等(バルク船、タンカー、コンテナ船等) :86 航行 客船 :2 航行 その他 :35 航行 1-3 特徴的な船舶の航行実績 北極海航路(ロシア側)において、昨年は確認できなかったコンテナ船の航 行を 2 航行確認した。Lloyd’s List Intelligence 社2)が提供している寄港実績デ 1 ータによると、これらは、中国からスウェーデン(図 2)、ドイツから韓国への 航行であることが確認できた。 また、クルーズ船についても確認され、北極海航路(ロシア側)の他、北極海 航路(カナダ側)において、クルーズ船 2 隻(2014 年は 1 隻のみ)が観測され た(図 3)。平成 28 年においてはさらに大型となる 7 万トンクラスのクルーズ船 の北極海航路(カナダ側)の航行(8 月~9 月)が公表されている。なお、北極 海航路のクルーズではないが、当船は同年 4 月には青森港、小樽港への寄港が 予定されている。 1-4 北極海地域での航行の可視化 衛星 AIS データを利用することで、平成 27 年 7 月~11 月の北極海航路(ロ シア側)を対象に、航行状況と海氷位置が把握できる概観図(アイスクラス3) 毎に横軸の月日、縦軸に東経をプロットしており、各プロット一つ一つが衛星 AIS データで捕捉された船舶の位置・日付を示している)を作成することがで きた(図4)。夏季においてアイスクラスを有していない船舶の航行も確認した。 本情報により定時性をはじめとした船舶の航行実態が詳細に把握でき、今後 の北極海航路の利用判断等に有効に活用されることが期待される。 2.終わりに 衛星 AIS データは北極海ならびにその周辺地域での船舶航行に関し、航行実 績や海氷状況の双方の把握が可能であり、海氷の状況に応じた船速の変化等の 有益な分析が可能である。これらの情報は、北極海航路の関係者(研究者、船 舶運航者等)等によって今後有効に活用されることが期待される。このような モニタリングは引き続き行う予定であり、今後も成果が得られた場合には随時 公表していく予定である。 本研究の概要やこれまでの成果等については下記 URL(国総研 HP 内)をご 参照ください(http://www.ysk.nilim.go.jp/kakubu/kouwan/keikaku/ais.htm)。 1)本分析では北極海航路(ロシア側)はノバヤゼムリヤ島からウランゲリ島周辺海域までとしている。これはノ ルウエーの研究機関 CHNL(Centre for High North Logistics)による範囲と同じである。 2)英国の船舶情報サービス会社。 3) 船舶が氷海を航行するために必要な砕氷・耐氷性能を証明する公的な等級。アイスクラスを備えた船舶の建造費 は一般の船舶よりも高いとされている。本研究では砕氷船の他 1AS,1A,1B,1C に区分している。 2 カナダ 図1 船種 種別 貨物船 客船 その他 北極海を通過する航路の概要 コンテナ船 コンテナ積載対応貨物船 コンテナ積載対応貨物船 タンカー(化学品・油兼用) 冷蔵貨物船 コンテナ積載対応貨物船 RORO船 タンカー(化学品・油兼用) 冷蔵貨物船 コンテナ積載対応貨物船 プロダクトタンカー 一般貨物船 コンテナ積載対応貨物船 コンテナ積載対応貨物船 プロダクトタンカー 一般貨物船 コンテナ船 一般貨物船 プロダクトタンカー クルーズ船 重量物運搬船(半潜水式) 重量物運搬船(半潜水式) 重量物運搬船(半潜水式) タグ/サプライ船 表1 航行方向 西向き 西向き 東向き 東向き 西向き 西向き 東向き 西向き 東向き 東向き 西向き 西向き 西向き 西向き 東向き 西向き 東向き 西向き 西向き 東向き 東向き 西向き 西向き 西向き 北極海航路入域日 北極海航路出域日 (年月日) (年月日) 150731 150802 150805 150811 150814 150814 150902 150909 150905 150912 150917 150920 150930 151002 151003 151007 151022 151023 151025 150821 150827 150915 150925 151011 北極海航路(ロシア側)を横断した航行の一覧 3 150812 150811 150815 150826 150825 150830 150920 151004 150913 150919 150926 151003 151014 151011 151017 151030 151102 151111 151110 150903 150903 150930 151010 151024 スウェーデン着 中国発 全体図 図2 14,000GT 級貨物船(コンテナ積載対応) 図3 10,000GT 級クラスクルーズ船 4 経度 240 □砕氷船 ○1AS ○1A ○1B,1C ○無し ○不明 232°バンクーバー 220 おおよその 海氷位置 200 191°ベーリング海峡 180 170°ペヴェック 160 140°サニコフ海峡 東経(度) 140 120 102°ビルキツキー海峡 100 80 73°ヤマル半島 60 58°カラゲート 40 33°ムルマンスク 20 ※東経30度(ムルマンスク西部)からベーリング海峡を表示(一部を除く) ※航海中(Status”0”)のログのみ表示し、錨泊や係留中等のログは含まない 0 7/1 7/8 7/15 7/22 7/29 8/5 8/12 8/19 8/26 9/2 9/9 日付 経度 240 □砕氷船 ○1AS ○1A ○1B,1C ○無し ○不明 232°バンクーバー 220 おおよその 海氷位置 200 191°ベーリング海峡 180 170°ペヴェック 160 東経(度) 140 140°サニコフ海峡 120 100 102°ビルキツキー海峡 80 73°ヤマル半島 60 58°カラゲート 40 33°ムルマンスク 20 ※東経30度(ムルマンスク西部)からベーリング海峡を表示(一部を除く) ※航海中(Status”0”)のログのみ表示し、錨泊や係留中等のログは含まない 0 9/16 9/23 9/30 10/7 10/14 10/21 10/28 11/4 11/11 11/18 11/25 日付 図4 北極海船舶航行の概観図(平成 27 年実績、36 隻対象) (北極海ロシア側航路のみを対象としている。) 5 共同研究の概要 参考資料1 契約締結日:平成26年10月1日 実施期間 :平成26年10月~平成27年12月31日 平成 年 月 平成 年 月 日 実施者 ・独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 第一衛星利用ミッション本部 ・国土技術政策総合研究所(国総研) 港湾研究部 ・北海道開発局(北開局) 港湾空港部 ・青森県 青森県 県 県土整備部 整備部 目 的: 近年の北極圏での海氷面積の減少などによる夏季の航行可能時期の拡大に伴い,北極海航路の商業利 用への期待が高まっている。このため、今後の北極海航路整備に向けて、陸域観測技術衛星2号(ALOS- 2)及び小型技術実証衛星(SDS-4)で取得される衛星AISデータを用いて、北極海航路の輸送コスト算定 や北極海航路整備への活用についての実証を実施する。 経 緯: 北極海航路のアジアの入口である北海道の港湾政策を担う北開局、ロジスティクス戦略で同航路寄 港に取り組む青森県が、衛星AISの同航路における利用可能性と機能向上を共同で研究してきた国 総研及びJAXAと連携することによって、それぞれの政策や研究がより発展すると判断したため。 ①北極海航行船舶の航行追跡頻度、海氷把握等の評価及び改善(JAXA、国総研) ②北極海航行船舶の速度把握による輸送コスト算定への活用研究(国総研、北開局) ③北極海航行船舶の北東アジア海域での航路選択の把握能力評価及び拠点港整備への衛星AISデータの活用 研究(国総研、北開局、青森県) ④北極海、オホーツク海での調査船動静分析能力評価及び調査船基地港整備への衛星AISデータの活用研究 (国総研、北開局) ⑤北極海観測における衛星AISデータのマネジメントシステムの検討(JAXA、国総研、北開局、青森県) 衛星AISを活用した北極海航路の現状把握 SDS-4 ALOS-2 AIS信号 陸上局 Japan Coast Guard JAXA 国総研 北開局、青森県 2 AIS:Automatic Identification System 船舶自動識別装置 「ALOS-2」及び「SDS-4」について 陸域観測技術衛星2号(ALOS-2) 小型技術実証衛星(SDS-4) ©JAXA ©JAXA ・2014年5月24日打ち上げ ・衛星高度628km、重量2トン ・「だいち2号」:だいち(ALOS)の後継機 年 打 げ ・2012年5月17日打ち上げ ・衛星高度670km ・50kg級の小型衛星 ・高分解能観測する合成開口レーダが 主ミッションとして搭載 →災害状況把握 農林漁業 資源探査 →災害状況把握、農林漁業、資源探査、 海洋観測などの多目的用途 ・機器・部品などの新規技術を事前に 宇宙空間の軌道上で実証・実験 ・衛星AISおよび赤外カメラを搭載 衛星AISおよび赤外カメラを搭載 ・衛星AIS、平板型ヒートパイプ(FHP)、 熱制御材実証実験(IST)、水晶発振式 微小天秤(QCM)の4つの機器を搭載 【参考資料2】 北極海航路の概要 • 近年 近年、気候変動の影響により北極海における海氷域面積が 気候変動の影響により北極海における海氷域面積が 減少し、夏期の航行が可能になった。(6月後半~11月後半) • 「北極海航路」はスエズ運河を経由する「南回り航路」と比較 して、約6割の航行距離。また、海賊リスクも少ない。 ■北極域の海氷分布図 北極海の海氷面積は 年前 比 、減少傾向 北極海の海氷面積は10年前に比べ、減少傾向 にある (2012年に海氷面積が過去最小) ■横浜港からハンブルグ港(ドイツ) への航行距離の比較 北極海航路 北極海航路 約13,000km 南回り航路 約21,000km 南回り航路 ☆約6割に距離短縮 スエズ運河 海賊多発海域 2002年9月15日 2012年9月15日 出典:気象庁HP等をもとに国土交通省作成 マラッカ海峡 欧州とアジアを結ぶ新たな選択肢 としての可能性が高まっている。
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