ロボット - みずほ銀行

特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(ロボット)
ロボット
【要約】
■ 2015 年は、国内の労働人口減少をベースとしたロボット需要に加え、生産性向上設備投資促進
税制等の政策面の後押しを見込み、内需は堅調に推移すると予想する。外需は、欧米向けの底
堅い需要に加え中国需要が旺盛であることから、引き続き堅調な推移を見込む。
■ 中期的には、2020 年に向けて、国内の労働人口減少に対応したロボット開発が更に進むこと
により、内需は拡大していくと予想する。外需についても、中国市場におけるユーザーの品
質要求への高まりに加え、ロボット用途の拡大等、需要の開拓余地が依然大きいと思われる
ことから、中国需要に牽引される構図は変わらず、グローバル需要は拡大する方向と予想す
る。
■ 日系ロボットメーカーにとってのリスクシナリオとして、産業用ロボットにおける技術的な差別
化が難しくなり、価格競争に陥ることが懸念され、新たな差別化軸の構築に向けた検討が必
要と考えられる。具体的には、ビッグデータの活用やロボットの自律的な運用を可能にする
AI 技術の強化は、有効な技術差別化戦略と考える。また、販売面での差別化軸のために
は、エンジニアリング機能の強化が必要と考える。
【図表10-1】 産業用ロボットの需給動向と見通し
【産業用ロボット実額】
摘要
(単位)
2014年
(実績)
2015年
(見込)
2016年
(予想)
2020年
(予想)
国内需要
億円
1,667
1,869
1,982
2,516
輸出
億円
4,233
4,810
5,342
8,120
輸入
億円
36
37
38
43
国内生産
億円
5,940
6,642
7,286
10,594
グローバル需要
億USD
107
132
162
281
【同増減率】
摘要
(単位)
2014年
2015年
2016年
(実績)
(見込)
(予想)
2015-20年
CAGR
(予想)
国内需要
%
+10%
+12%
+6%
+6%
輸出
%
+20%
+14%
+11%
+10%
輸入
%
+44%
+3%
+3%
+3%
国内生産
%
+21%
+12%
+10%
+9%
グローバル需要
%
+13%
+23%
+23%
+17%
(出所)国内需要、国内生産、輸出:日本ロボット工業会「ロボット産業需給動向 2015」
輸入:財務省「貿易統計」
グローバル市場規模:IFR, World Robotics Industrial Robots 2015 より
みずほ銀行産業調査部作成
(注)ロボット産業需給動向 2015 の国内出荷額を国内需要として使用
みずほ銀行 産業調査部
112
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(ロボット)
I.
内需~2020 年に向け、人と協働するロボットへの需要が顕在化
【図表10-2】 国内需要の内訳
2014年
(実績)
摘要
(単位)
国内
需要
(実数)
2015年
(見込)
(前年比)
(実数)
2016年
(予想)
(前年比)
(実数)
2020年
(予想)
(前年比)
(2015-2020
CAGR)
(実数)
自動車
億円
491
+29.6%
516
+5.0%
541
+5.0%
658
+5.0%
電機電子
億円
670
▲ 8.7%
690
+3.0%
710
+3.0%
799
+3.0%
その他
億円
507
+23.6%
664
+30.9%
731
+10.1%
1,059
+9.8%
計
億円
1,667
+9.6%
1,869
+12.1%
1,982
+6.1%
2,516
+6.1%
(出所)日本ロボット工業会「ロボット産業需給動向 2015」よりみずほ銀行産業調査部作成
2014 年は前年比
10%増加、2015 年
も堅調な推移を
予想
2014 年の産業用ロボットの国内需要は 1,667 億円と、前年比 10%の増加とな
った。2014 年は、生産性向上設備投資促進税制等の政策の後押しにより、老
朽化設備の更新需要が顕在化し、堅調な受注に繋がった。2015 年は、当該
政策の後押しに加え労働人口の減少を背景とした自動化需要を勘案、前年
比 12%増の 1,869 億円と予想する(【図表 10-2】)。
内需は、ユーザ
ーの海外生産移
転に伴い縮小し
てきた経緯
内需は、自動車・電機電子産業の 2 大ユーザーに依存する構造となっている。
グローバル化の進展と共に、製造業の海外移転が進み(【図表 10-3】)、2014
年の内需は、ピークの約 3 分の 1(1991 年 4,711 億円/2014 年 1,667 億円)
に縮小している(【図表 10-4】)。
【図表10-4】 国内出荷額の推移
【図表10-3】
海外現地生産比率
海外現地生産比率
30%
億円
8,000
25%
22.27%
20%
国内出荷額
輸出額
国内出荷額の割合
90.0%
7,000
80.0%
6,000
70.0%
15%
5,000
10%
4,000
60.0%
50.0%
40.0%
3,000
5%
30.0%
2,000
10.0%
0
(出所)内閣府「企業行動に関するアンケート調査」より
みずほ銀行産業調査部作成
今後の内需押し
上げ要因として、
人と協働するロ
ボットに期待
20.0%
1,000
0.0%
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2000年度
2001年度
2002年度
2003年度
2004年度
2005年度
2006年度
2007年度
2008年度
2009年度
2010年度
2011年度
2012年度
2013年度
2014年度
2015年度
2016年度
2017年度
2018年度
2019年度
0%
(出所)日本ロボット工業会「ロボット産業需給動向 2015」より
みずほ銀行産業調査部作成
今後、労働力人口の減少を背景として、人手作業への依存度が高い、いわゆ
る三品産業(食品、医薬品、化粧品)や中堅中小企業において、人手不足が
社会的課題となると思われる。これを受け、ロボットの内需は、ロボット新戦略 1
(【図表 10-5】)にも採り上げられたように、人と協働するロボットへの需要が顕
在化するものと考えられる。
1
「日本再興戦略」改訂 2014 で掲げられた「ロボットによる新たな産業革命」の実現に向け、ロボット革命実現会議が組成され、同
会議で議論された内容を踏まえ、2015 年 1 月に公表。
みずほ銀行 産業調査部
113
(CY)
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(ロボット)
【図表10-5】 ロボット新戦略
ロボット新戦略の重点5分野
重点5分野
課題
ロボットにおける5年間の取組み(抜粋)
ものづくり
自動車・
エレキ以外
中堅中小企業への普及推進
三品領域(食品、医薬、化粧品等)への普及推進
サービス分野
労働生産性向上
介護・医療
介護者の負担軽減
煩雑な手続き
インフラ・災害
建設
労働力不足
老朽化
重要インフラ補修の20%に点検ロボットを導入
農林水産
食品産業
労働力不足
自動走行トラクターの普及促進
新たなロボットを20機種以上投入
製
造
非
製
造
ユーザーニーズを踏まえたロボット開発
各分野における費用対効果の検証
ロボットの介護保険の適用手続きを簡素化
実用化事例100件以上
(出所)ロボット革命実現会議「ロボット新戦略」よりみずほ銀行産業調査部作成
II. グローバル需要~引続き中国がグローバル需要を牽引する構造
【図表10-6】 グローバル需要の内訳
2014年
(実績)
摘要
(実数)
(単位)
グロー
バル
需要
2015年
(見込)
(前年比)
(実数)
2016年
(予想)
(前年比)
(実数)
2020年
(予想)
(前年比)
(2015-2020
CAGR)
(実数)
中国
億USD
27
+44.3%
31
+15.2%
36
+14.9%
62
+14.9%
日本
億USD
10
▲ 14.3%
11
+12.6%
12
+6.6%
15
+6.4%
北米
億USD
18
+2.9%
20
+12.8%
22
+7.9%
30
+8.5%
欧州
億USD
26
+0.1%
29
+8.7%
32
+10.1%
46
+9.7%
その他
億USD
26
+24.1%
40
+55.0%
61
+50.0%
128
+26.2%
計
億円
107
+12.9%
132
+22.6%
162
+22.8%
281
+16.3%
(出所)IFR, World Robotics Industrial Robots 2015 よりみずほ銀行産業調査部作成
グローバル需要
は中国が牽引
2014 年のグローバル需要は 107 億 USD と、前年比 13%の増加となった(【図
表 10-6】)。
【図表 10-7】の通り、台数ベースからも、北米や欧州等の先進国需要が堅調に
推移していることに加え、中国需要が著しく伸長している(中国 CAGR+39.7%
/グローバル水準同+17.4%)。IFR2は、2018 年のロボット出荷台数は 40 万台
(2014 年の 1.7 倍)に達すると予測しており、2020 年に向けグローバル需要は
着実に拡大していくと予想する。
【図表10-7】 グローバル需要の内訳(出荷台数ベース)
地域別
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2010-2014
CAGR(%)
中国
14,978
22,577
22,987
36,560
57,096
+39.7%
日本
21,903
27,894
28,680
25,110
29,297
+7.5%
北米
16,356
24,341
26,269
28,668
31,029
+17.4%
欧州
30,741
43,826
41,218
43,284
45,559
+10.3%
その他
36,607
47,390
40,192
44,510
466,280
+16.0%
120,585
166,028
159,346
178,132
229,261
+17.4%
計
(出所)IFR, World Robotics Industrial Robots 2015 よりみずほ銀行産業調査部作成
2
International Federation of Robotics
みずほ銀行 産業調査部
114
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(ロボット)
① 中国
中国は 2014 年時
点で最大の需要
地且つ今後の成
長が見込まれる
市場
全世界の産業用ロボット出荷市場における中国の割合は、2014 年時点で約
25%(台数ベース)を占めており、欧州を抜き世界最大規模となっている。中
国におけるロボット需要は、「人件費の上昇」と「品質要求の高まりを受けた自
動化ニーズ」を背景として拡大の一途を辿っている。
また、【図表 10-8】の通り、中国産業用ロボットの導入比率は、労働者 1 万人に
対して 36 台と他国対比依然低く(日本 314 台、ドイツ 292 台、アメリカ 164 台)、
今後の導入余地も大きいものと推察される。
需要構成は、【図表 10-9】の通り、日本同様自動車・電機電子の 2 大ユーザー
が全体の約 6 割を占めているが、近年金属加工、プラスチック・化学関連、食
品分野等他の産業にも需要の裾野が広がっている。
【図表10-8】 労働者 1 万人あたりの産業用ロボットの
利用台数の主要国比較
台数
350
314
300
【図表10-9】 中国における需要構成
(2014 年実績)
食品
2%
292
その他
14%
プラスチック、
化学関連
6%
250
200
164
金属加工
12%
150
100
自動車
38%
66
36
50
0
日本
ドイツ
アメリカ
世界平均
中国
(出所)IFR, World Robotics Industrial Robots 2015
よりみずほ銀行産業調査部作成
電機電子
28%
(出所)FNA「中国産業用ロボット市場調査総覧(2016 年版)」
よりみずほ銀行産業調査部作成
② 欧州
自動車、食品、医
薬品関連を中心
に安定的に成長
欧州は、自動車分野を中心にロボット需要は安定的に推移しており、2020 年
は中国に次ぐ規模となる見通し。【図表 10-10】の通り、国別では、自動車を主
要産業とするドイツが欧州全体の約 44%を占め、次いでイタリア、フランスが
大きな市場を形成している。
また、欧州の需要構成は、電機電子の割合が低い一方、金属加工やプラスチ
ック・化学関連、食品分野等需要が幅広く分散している(【図表 10-11】)。
みずほ銀行 産業調査部
115
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(ロボット)
【図表10-11】 欧州における需要構成
(2014 年実績)
【図表10-10】 欧州の需要推移
台数
50,000
45,000
その他
19%
40,000
35,000
食品
7%
その他
30,000
イギリス
25,000
自動車
44%
スペイン
20,000
フランス
15,000
イタリア
10,000
プラスチック、
化学関連
12%
ドイツ
金属加工
15%
5,000
0
2010
2011
2012
2013
(CY)
2014
電機電子
3%
(出所)【図表 10-10、11】とも、IFR, World Robotics Industrial Robots 2015 よりみずほ銀行産業調査部作成
③ 北米
製造業の強化方
針の下、米国内
生産回帰の動き
が需要を底上げ
【図表 10-12】の通り、北米需要の太宗はアメリカが占める。同地域は世界最大
の自動車産業集積地であることから、自動車向けの需要が過半を占めており
(【図表 10-13】)、用途別では溶接ロボットへの需要の比率が高い。また、携帯
電話やコンピュータ等の通信機械産業も発達しており、電機電子向けの半導
体用ロボット需要の比率が高くなっている。
【図表10-13】 北米における需要構成
(2014 年実績)
【図表10-12】 北米の需要推移
台数
35,000
食品
4%
30,000
その他
10%
プラスチック、
化学関連
メキシコ
8%
25,000
20,000
カナダ
アメリカ
15,000
金属加工
9%
10,000
電機電子
14%
5,000
0
2011
2012
2013
2014
(CY)
(出所)【図表 10-12。13】とも、IFR, World Robotics Industrial Robots 2015 よりみずほ銀行産業調査部作成
みずほ銀行 産業調査部
116
自動車
55%
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(ロボット)
III. 生産~中長期的に海外生産台数が増加する可能性に留意が必要
【図表10-14】 生産台数見通し
2014年
(実績)
摘要
(単位)
国内
生産
(実数)
2015年
(見込)
(前年比)
(実数)
2016年
(予想)
(前年比)
(実数)
2020年
(予想)
(前年比)
(2015-2020
CAGR)
(実数)
国内生産
台数
136,917
+25.9%
153,091
+11.8%
167,925
+9.7%
244,162
+9.8%
海外生産
台数
13,191
+64.9%
-
-
-
-
-
-
(出所)日本ロボット工業会「ロボット産業需給動向 2015」よりみずほ銀行産業調査部作成
①国内生産は堅
調に推移する見
通し
国内生産台数は、内需並びに輸出増加に連動し堅調に推移すると見通す
(【図表 10-14】)。
但し、外需対応として、既に主要大手ロボットメーカーは最大の需要国である
中国で生産を開始しており(【図表 10-15】)、2014 年実績で日系企業の生産
台数全体の約 1 割が海外生産となっていることに留意したい。
【図表10-15】 主要大手ロボットメーカーの海外生産
中国内にロボット生産工場を有する主要企業
■日系
安川電機、川崎重工業、不二越、ダイヘン、セイコーエプソン
■欧州系
ABB、KUKA、Comau
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
②海外生産の動
向は、中国の関
税運用に左右さ
れる可能性
近時、中国における産業用ロボットの輸入関税に変化がみられる。従来、日
本から輸入する産業用ロボットの多くは、多機能ロボットに分類され、最恵国
税率により関税は実質 0%となっていたが、2014 年以降ロボットの関税適用区
分が細分化され、一部のロボットでは課税が始まっている(【図表 10-16】)。
中国内に生産拠点が無いロボットメーカーは、販売価格面のマイナス影響が
懸念される。今後の動向次第では、中国現地生産や中国地場ロボットメーカ
ーへの生産委託等、何らかの対応を検討する必要があろう。
【図表10-16】 中国の産業用ロボットの関税について
HSコード
2015年
暫定税率
名称
最恵国
税率
普通税率
備考
8424.8920
吹き付け塗装ロボット
0%
30%
2014年より新規追加
8428.9040
運搬ロボット
5%
30%
2014年より新規追加
8479.5010
多機能ロボット
0%
20%
8486.4031
集積回路工場用運搬ロボット
0%
20%
8515.2120
電気抵抗溶接ロボット
10%
30%
2014年より新規追加
8515.3120
アーク溶接ロボット
10%
30%
2014年より新規追加
8515.8010
レーザー溶接ロボット
8%
30%
2014年より新規追加
5%
(自動車用)
5%
(自動車用)
(出所)FNA「中国産業用ロボット市場調査総覧(2016 年版)」よりみずほ銀行産業調査部作成
みずほ銀行 産業調査部
117
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(ロボット)
IV. 輸出~日系企業は世界ロボット需要の約半分を供給
ロボットは出荷の
8 割が輸出
日本の産業用ロボットは、出荷総数の約 8 割を輸出しており(【図表 10-17】)、
輸出依存型の産業と言える。
【図表10-17】 出荷台数に占める輸出の割合
輸出台数
国内出荷台数
輸出比率
出荷台数
160,000
輸出比率
総出荷 90%
140,000
137,334
80%
70%
120,000
100,000
輸出
105,215
80,000
60%
50%
40%
60,000
30%
40,000
20%
20,000
10%
0
0%
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 (CY)
(出所)日本ロボット工業会「ロボット産業需給動向 2015」よりみずほ銀行産業調査部作成
最大の輸出相手
国は中国
日本の主要輸出相手国は、中国、アメリカ、欧州諸国で構成されており、引続
き中国需要に牽引される形で、ロボット輸出台数は右肩上がりで増加していく
と予想する。
現状、日本は、世界のロボット出荷台数の約 46%を供給しているが、中国や
韓国、台湾等のロボットメーカーが台頭してきた場合、日系はハイエンド領域
に特化していくと考えられる。このため、グローバル需要に占める日系の輸出
割合は、漸減していくと予想する(【図表 10-18】)。
【図表10-18】 出荷台数に占める輸出の割合
ロボットの
輸出台数
輸出割合
250,000
60%
グローバル需要に占める
日系産業用ロボットの
輸出割合
200,000
50%
その他
46%
欧州
150,000
アメリカ
40%
30%
105,125
100,000
27,799
20%
16,695
50,000
中国
27,588
10%
33,133
0
2010
2011
2012
2013
2014
2015e
2016e
2017e
2018e
2019e
0%
2020e (CY)
(出所)日本ロボット工業会「ロボット産業需給動向 2015」よりみずほ銀行産業調査部作成
みずほ銀行 産業調査部
118
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(ロボット)
なお、2015 年 10 月に大筋合意に達した環太平洋経済連携協定(TPP)では、
産業用ロボットの関税(現行 2.5%)は、発効後 5 年目に撤廃される予定である。
TPP 参加国のうち最大市場である米国においては、日本メーカーは既に高い
プレゼンスを有している。米国と二国間 FTA を締結済みの韓国や、TPP 未参
加の台湾、域外の欧州といった海外メーカーとの競争において、関税撤廃は、
米国における日本メーカーの競争力を更に高めることとなろう。
V. 輸入~国内需要に攻勢をかける海外プレイヤーの動向には注視
【図表10-19】 輸入台数と金額
2014年
(実績)
摘要
(単位)
(実数)
2015年
(見込)
(前年比)
(実数)
2016年
(予想)
(前年比)
(実数)
2020年
(予想)
(前年比)
(2015-2020
CAGR)
(実数)
百万円
3,591
+44.4%
3,699
+3.0%
3,810
+3.0%
4,288
+3.0%
台数
1,467
+31.0%
1,511
+3.0%
1,556
+3.0%
1,752
+3.0%
輸入
(出所)財務省「貿易統計」よりみずほ銀行産業調査部作成
輸入台数が国内需要に占める割合は、台数ベースで 5%弱程度となっている。
輸入は国内需要
の 5%弱程度
国内は、日系ロボットメーカーの市場となっており、今後もこの構造は変わらな
い見通し(【図表 10-19】)。
但し、国内市場は労働人口減少を背景として、人と協働するロボットへの需要
が創出される等、新たなビジネススペースが形成されつつある。新たなコンセ
プトやビジネスモデルを構築し、国内需要に攻勢をかける海外プレイヤーの
動向には注視していく必要があろう。
Ⅵ.サービスロボット
【図表10-20】 サービスロボット
摘要
(単位)
業務用向け
グローバル需要
家庭・個人向け
グローバル需要
2014年
(実績)
(実数)
億USD
台数
(前年比)
(実数)
2016年
(予想)
(前年比)
(実数)
2018年
(予想)
(前年比)
+3.8%
57
+50.0%
85
+49.1%
191
+49.6%
24,207
+11.5%
38,247
+58.0%
60,430
+58.0%
152,375
+58.5%
22
+29.4%
38
+72.7%
67
+76.3%
205
+75.4%
4,672,365
+28.3%
7,709,402
+65.0%
12,720,514
+65.0%
35,103,100
+65.8%
(出所)IFR, World Robotics Service Robots 2015 よりみずほ銀行産業調査部作成
(1)サービスロボット市場動向
サービスロボット
市場の本格的な
市 場 形成 はこ れ
から
(2015-2018
C AGR)
(実数)
38
億USD
台数
2015年
(見込)
サービスロボットは、産業用ロボットのように用途が一様ではなく、市場は未だ
形成途上にある。
業務用サービスロボットでは、防衛向けがグローバル需要の約 45%を占め、
欧州、アメリカを中心に普及し始めている。また、欧州では搾乳ロボットを中心
に屋外ロボットの出荷割合が高い(【図表 10-21】)。
家庭・個人用サービスロボットでは、清掃等と娯楽向けが 2 大市場を形成して
いる(【図表 10-22】)。
みずほ銀行 産業調査部
119
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(ロボット)
(2)サービスロボットの概観
サービスロボット市場は、産業用ロボット市場と同様、今後高い成長が期待で
サービスロボット
分野では、ビジネ
ス化に向けたコン
セプトの構築が
重要に
きる分野だ。AI や情報通信技術の進展を受け、様々な用途に対応したロボッ
トが開発され始めている。無限の可能性があるサービスロボット分野において
は、ロボット開発に着手する前に、どのような用途で、いかなる付加価値を創
出し、どうやって収益化するかといった、ビジネス化に向けたコンセプトの構築
が重要となってくるであろう。
【図表10-21】 業務用サービスロボットの
エリア別ロボット需要(台数ベース)
【図表10-22】 家庭・個人用サービスロボットの
エリア別ロボット需要(台数ベース)
欧州
15.4%
アジア/豪州
13%
物流
その他
5%
8%
その他
8%
アメリカ
27%
アジア/豪州
38.4%
防衛
26%
2014年
24,207台
防衛
19%
その他
12%
屋外ロボット
22%
娯楽ロボット
15.0%
清掃等
23.3%
欧州
60%
娯楽ロボット
13.1%
清掃等
2.4%
2014年
4,672千台
清掃等
46.1%
アメリカ
46.2%
(出所)【図表 10-21、22】とも、IFR, World Robotics Service Robots 2015 よりみずほ銀行産業調査部作成
Ⅶ.日本企業のプレゼンスの方向性
産業用ロボットに
おける日本企業
のプレゼンスは
高く、今後も高い
プレゼンスを維持
していく方向
日系ロボットメーカーは、自動車、電機電子の 2 大ユーザーのニーズを肌理
細かく吸上げ、大量生産ラインに適応した産業用ロボットを開発し、世界的な
プレゼンスを築いてきた。様々な用途に応じて精度高くロボットを制御するノウ
ハウの蓄積は、後発の新興国系ロボットメーカーが一朝一夕に獲得出来るも
のでは無く、日系ロボットメーカーの強みとして依然大きな差別化要素となっ
ている。
また、今後様々な産業において変種変量生産ライン構築ニーズが高まれば、
人と協働するロボットへの需要が顕在化し、新たなビジネスチャンスが生まれ
る可能性がある。人と協働するロボット領域でも、他国に先駆けて競争優位性
のある製品開発に成功すれば、先行者メリットを享受することも可能だ。
日本はロボット先進国として、ロボットに関する様々な要素技術や生産技術、
実際のユースケースに基づく運用面のノウハウや経験を有しており、ロボット
産業において極めて大きなプレゼンスを有している。新たな用途や領域にお
いても、技術面や運用のノウハウを積み重ね、更に強みに磨きをかけていくこ
とを期待したい。
みずほ銀行 産業調査部
120
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(ロボット)
Ⅷ.産業動向を踏まえた日本企業の戦略と留意すべきリスクシナリオ
日系ロボットメーカーにとって、今後想定されるリスクシナリオは、既存の技術
で差別化が出来なくなり、コスト競争に巻き込まれることであろう。【図表 10-23】
の通り、近時ロボット単価が下落している事実は、主要ロボットメーカー間の競
争激化によりロボット製品単体での差別化が難しくなりつつある状況を示唆し
ている。
【図表10-23】 産業用ロボット単価の推移
円
8,000,000
7,000,000
6,000,000
5,000,000
4,000,000
3,000,000
2,000,000
1,000,000
0
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(CY)
(出所)日本ロボット工業会「ロボット産業需給動向 2015」よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)ロボット単価は、総出荷額を総出荷台数で除した数値を使用
ロボット単価の下
落傾向を踏まえ
ると更なる差別化
軸の構築に向け
た検討が必要
こうした状況を踏まえ、今後も日系ロボットメーカーがグローバル市場における
プレゼンスを維持し、新たな需要を取り込んでいくために必要となる戦略につ
いて考察する。
(1)テクノロジーの強化
変種変量の生産ラインでは、生産ラインの切り替えが多く、産業用ロボットに
は動作変更の都度、複雑なティーチングが発生する。このティーチングの簡
便化は従来から存するニーズである。今後ティーチングの手間がかからない
自律性の高いロボットが開発されれば、産業用ロボット活躍の場面は更に広
がっていくであろう。
ロボットの知能化
に向けたAIの活
用
ロボットの機能を、頭脳(制御)、センサー、アクチュエーターの 3 要素に分け
た場合、ロボットの自律的な運用を可能にするには、頭脳に相当する AI 技術
の強化が有効な差別化戦略と考える。
AI を活用すれば、現状人手に頼っているティーチング動作を AI に蓄積し、ロ
ボット動作の軌跡を自動で生成することも可能となる。また、ロボットを介して
得られるデータを活用することで、現状人に依存しているエンジニアリングノウ
ハウについても、デジタル化出来る要素については AI 活用の余地もあろう。
更に、知能化したロボット同士がネットワーク化されると、或るロボットの経験を、
瞬時に他のロボットと共有することが可能となり、学習スピードを加速することも
可能になる。
みずほ銀行 産業調査部
121
特集:日本産業の動向〈中期見通し〉(ロボット)
日系ロボットメーカーは、AI 技術の強化を通じて自律性の高いロボットを開発
していくことで、競争力を更に高めていくことが可能と考える。
2015 年 6 月、ファナックは AI ベンチャー企業であるプリファードネットワークス
との協業を開始した。他社に先駆けて AI のロボットへの実装に向けた取組み
を進めていくには自社開発に拘らず、AI 技術に強みがある企業の M&A や協
業等を検討していくことも必要だ。
(2)システム提案力の強化
産業用ロボットは、生産ラインに組み込まれて初めて機能するものであり、ロボ
ットメーカーにとってユーザーのライン構築ノウハウを持つシステムインテグレ
ータ(以下 SIer)との販売連携は欠かせない。日本のロボットメーカーは、各社
エンジニアリング機能を保有している一方で、販売網の拡充やエンジニアリン
グ機能の補完という観点から、SIer を系列化し緩やかな囲い込みを図ってい
る。
日系ロボットメー
カーは、欧州系ロ
ボットメーカー対
比エンジニアリン
グが弱い
これに対して、欧州系 2 大ロボットメーカーである ABB、KUKA は、欧州自動
車メーカーのラインビルディング需要に応えるため、エンジニアリング機能を
充実させてきた。日系自動車メーカーは、ラインビルディングを自身で行うた
め、日系ロボットメーカーのラインビルディング力は欧州系ロボットメーカーに
比べ相対的に弱いとも言われている。現状、ABB、KUKA のエンジニアリング
力は、自動車のみならず、食品加工や化粧品等の変種変量生産が求められ
る生産ラインにおいて差別化要素となっている。
最適な生産ライン
の構築に係るコ
ンサルティング力
を有する有力
SIer を取り込み、
販売力強化や製
品開発強化に繋
げる
エンジニアリング力は、多種多様なライン構築を通じて培われた有形無形のノ
ウハウによって支えられており、これらのノウハウは概してエンジニア個人に固
着していることから、一朝一夕に強化することが難しい。ロボットメーカーには
地道に自社エンジニアを育成していくことに加え、M&A 等を通じて優れた
SIer を囲い込んで短期間にエンジニアリング力を強化する戦略が求められ
る。
また、エンジニアリング力の一部ではあるが、顧客に対して最適な生産ライン
をアドバイスするコンサルティング能力や、ユーザーのロボットに対するニーズ
を自社製品の開発設計にフィードバックして製品力を高めていく取り組みも必
要である。
自社の強みが活
かせる領域を見
極め、エンジニア
リング力を強化
日系ロボットメーカーにとって、限られた経営リソースの下、こうしたエンジニア
リングの強化を行っていくには、自社の強みが活かせる領域を見極め、優先
順位を付け、戦略的に強化していくことが重要と考える。
(自動車・機械チーム 久保田 信太朗)
[email protected]
みずほ銀行 産業調査部
122
特集: 2015 年度の日本産業動向(コラム)
【コラム】~Industrie4.0 に対する一考察~
Industrie4.0 は、ド
イツの政策の一
環で進められて
いるプロジェクト
Industrie4.0 は、ドイツ連邦政府がイノベーション創出を企図して策定した「ハ
イテク戦略3」において、課題解決型のアクションプラン「未来プロジェクト」の
1 つに位置付けられている。Industrie4.0 では、ドイツの立地競争力並びに製
造業の競争力強化と FA システム等の輸出強化を同時に達成するという「デ
ュアル戦略」を打ち出している。
ドイツ政府のこうした取組みの背景には、ドイツ国内に生産立地を有し、ドイ
ツの輸出を支えるミッテルシュタントと呼ばれる中堅中小企業の IoT 活用によ
る競争力の強化を、Industrie4.0 によって推進しようとする意図が窺える。
Industrie4.0 を構成する主要概念として、①CPS4を活用したスマート工場の
実現、②企業間連携を通じたバリューチェーンの水平、垂直統合による全体
最適化、が挙げられる。こうした概念を長期的な国家プロジェクトの下、段階
的に具現化し、ドイツ企業の生産性の向上、コスト削減、売上拡大を実現し
ようとしている。
未だ概念の域を
出ないものや構
想段階 中の もの
等多様
具体化したのは、
Industrie4.0 に係る進捗としては、未だ概念の域を出ないもの、構想に沿って
通信規格の統一
化に向けた動き
と、ドイツ企業内
の各部門間連携
とが明確化されたことが挙げられる。これにより同規格が、欧州域内で広まる
研究が行われているもの、開発中のもの等多様である。
具体化したものの一つに、標準的な通信規格として「OPC-UA」を推奨するこ
ものと想定されるため、欧州で事業展開していく日系 FA メーカーは、同規格
への接続性の確保に向けた検討が必要となろう。
なお、進展したものとして、ドイツ企業内における本社管理部門と生産現場
や R&D 部門間等との連携が挙げられるが、企業内連携については、
Industrie4.0 の 始 動 以 前 か ら 各 企 業 が 取 り 組 ん で い る ケ ー ス も あ り 、
Industrie4.0 を起点とする進捗と位置付けるかは見解が分かれるところであ
る。
企業を越えた連
携は進展してい
ない状況
現状、【図表 10-24】の通り、ドイツ各企業の取り組みは、企業内連携に留ま
っており、一部の例外を除き企業の枠を超えたサプライチェーンの横断的な
連携には至っていない。2015 年 4 月に、業界団体を中心とする推進母体が
解消され、政府や労働組合を含む組織へと発展的解消が行われており、新
たな推進体制により企業間連携が進展していくのか注目したい。
3
4
省庁横断型で、ファンディングから研究開発システムに至るまで、幅広い施策や戦略を網羅
2014 年 9 月以降は新ハイテク戦略に名称変更
Cyber Physical Systems の略。Industrie4.0 の生産システムを実現する上でのコア技術
みずほ銀行 産業調査部
123
特集: 2015 年度の日本産業動向(コラム)
【図表10-24】 ドイツ各企業の取り組み状況
サプライヤー
メーカー
Siemens
BoschG
VWG
ThyssenKrupp
企業内連携
○
○
○
―
顧客との連携
○
○
○
○
同一業界内企業間連携
―
―
―
―
(出所)日本工作機械工業会「工作機械№220」よりみずほ銀行産業調査部作成
Industrie4.0 で掲
げられている主
要概念の実現に
向けては、冷静
な見極めが必要
Industrie4.0 で掲げる 2 つの主要概念が実現すれば、ドイツ企業の生産性が
大幅に改善し、相対的に日系メーカーの競争力が低下する懸念もある。然し
ながら、国家 PJ として推進されている中、企業間連携が進捗していない現状
を鑑みると、実現に向けては依然不透明な部分が多いと言わざるを得ない。
主要概念の実現のために企業連携を推進したいドイツ政府、企業連携によ
り先進的な技術・ノウハウの流出等のデメリットが大きい大企業、標準化や
IoT 活用のメリットが大きい中堅中小企業、企業規模を問わず幅広く機械シ
ステムを拡販したい FA メーカー等、多様な利害関係者は夫々の利益極大
化を図るという目的は同じでも思惑は異なっており、Industrie4.0 という PJ に
おいて、同床異夢を抱いているようにも見える。
Industrie4.0 の実現可能性については議論が分かれるが、主要概念やビジョ
ンが高い注目を集めていることは事実であり、製造業における IoT の活用は、
今後の大きなトレンドとなりつつある。
IoT をアフターサービス領域で活用し、事業展開しているのが GE であり、IoT
を活用した予防保全等の高度化により、自社製品の付加価値向上や顧客の
囲い込みに結び付けている。
日系 FA メーカー
は、製品面での
差別化が難しくな
る方向
日本の工作機械や産業用ロボット及び制御機器メーカーには世界トップクラ
スの企業が多数存在しているが、製品面での技術的な差別化余地が少なく
なりつつある。日系 FA メーカーとしては、IoT を活用したアフターサービスの
高度化により、自社製品の付加価値向上やユーザーの囲い込みを図ってい
くことが重要となってくる。
IT ベ ン ダ ー と の
協業等によるアフ
ターサービスの
高度化が必要に
ユーザーサイドでは、工場の生産性改善を図る観点から、安定稼働を目的と
した産業機器の予防保全や予兆管理へのニーズは既に顕在化している。日
系 FA メーカーとしては、経営資源に制約がある中、IoT を活用していく領域
を見極め、IT ベンダーとの協業等外部リソースの活用も検討していく必要が
ある。
(自動車・機械チーム 久保田 信太朗)
[email protected]
みずほ銀行 産業調査部
124
/53
2015 No.5
平成 27 年 12 月 25 日発行
©2015 株式会社みずほ銀行
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編集/発行 みずほ銀行産業調査部
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