消費回復のカギを握るのは低所得者対策と原油安だ - みずほ総合研究所

リサーチ TODAY
2015 年 1 月 9 日
消費回復のカギを握るのは低所得者対策と原油安だ
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
2014年の日本経済が期待外れに終った要因の一つは消費の低迷である。みずほ総合研究所は、消費
環境の改善の鍵は低所得者対策と原油安にあると分析した1。下記の図表は年収階層別に増税前後の消
費動向をみたものだ。図表から低所得者ほど回復が鈍いことがわかる。高所得者層(第5分位)では、1997
年時を上回る駆け込み需要が今回は生じたが、増税直後の落ち込みは小さく、その後需要は穏やかに持
ち直した。一方、低所得者層(第1分位、第2分位)は、増税直後の落ち込みが大きく、その後も1997年時
に比べて回復が鈍い。
■図表:年収階層別消費支出(二人以上世帯)
(基準年=100)
108
2013年Q4~2014年Q3
106
1996年Q4~1997年Q3
104
102
100
98
96
94
92
90
4Q 1Q 2Q 3Q
第1分位
4Q 1Q 2Q 3Q
4Q 1Q 2Q 3Q
第2分位
第3分位
収入が少ない
4Q 1Q 2Q 3Q
4Q 1Q 2Q 3Q
第4分位
第5分位
収入が多い
(注)1.1996 年 Q4 からの値は二人以上の世帯(農林漁業除く)ベース、1996 年=100 とした。
2.2013 年 Q4 からの値は二人以上の世帯(農林漁業含む)ベース、2013 年=100 とした。
3.みずほ総合研究所による実質季節調整値。
(資料)総務省「家計調査」よりみずほ総合研究所作成
みずほ総合研究所は、低所得者層に対する即効性を重視した重点的対策が必要と提言した。具体的に
は、現行の「臨時福祉給付金」の支給対象者に対する追加支給の実施である。政府は当初1回きりの予定
だった「臨時福祉給付金」の支給について、2015年度は支給額を減額した上で継続する方針を示しており、
一定の効果が生じうると考えられる。
これまで低所得者を中心に消費回復の動きが弱かった理由は、物価上昇に対して賃金の上昇ペースが
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2015 年 1 月 9 日
鈍いことが挙げられる。昨年、当初予想以上の賃金上昇が生じたものの、消費増税も含めた物価上昇率が
賃金上昇率を上回り、実質賃金の低下が続いた。しかも、賃上げの動きは中小企業には波及しなかった。
法人企業統計を用いて、人件費の増加が企業収益に与える影響を考えると、下記の図表のように、中小企
業においては人件費が1%・2%・3%増加した場合、経常利益はそれぞれ、4.8%ポイント、9.7%ポイント、
14.5%ポイント押し下げられると試算される。一方、大企業の場合はそれぞれ、▲1.4%ポイント、▲2.8%ポ
イント、▲4.2%ポイントとなっており、人件費増加によるマイナスの影響は中小企業のほうが大きい。
■図表:人件費増加による企業収益への影響(2013年度ベース)
(単位:%Pt)
人件費増加幅
大企業
1%
経常利益への影響
2%
3%
▲ 1.4
▲ 2.8
▲ 4.2
0.5
1.1
1.6
経常利益のマイナスを
カバーできる売上増加幅
人件費増加幅
中小企業
1%
経常利益への影響
経常利益のマイナスを
カバーできる売上増加幅
2%
3%
▲ 4.8
▲ 9.7
▲ 14.5
0.8
1.6
2.4
(注)人件費が 1%、2%、3%増加した場合の経常利益押し下げ幅と、経常利益のマイナス分を相殺できる売上高の増加
幅を試算。ベースとなる売上高、変動費、固定費などは 2013 年度から変わらない前提。
(資料)財務省「法人企業統計」よりみずほ総合研究所作成
ただし、2015年における大きな変化は2014年に比べ大幅に原油価格が下落していることだ。原油安の
効果は中小企業の収益に及ぼす影響が大きい。2014年は円安の影響が中小企業にマイナスの影響を及
ぼし、それを補完する要因が乏しかった。しかし、2015年は、2014年後半以降に生じた原油安の影響が中
小企業の収益を改善に向かわせる可能性がある。さらに、2015年は賃上げ率の拡大が見込まれるのに加
え、消費税率の引上げが延期されたことから、実質賃金がプラスに転じると見込まれる。
世界経済は依然として下振れリスクを抱え、原油価格の下落がエネルギーセクターを中心に不安要因と
して認識されやすい。今週の世界的な株式市場の調整もその一環だ。ただし、2015年を展望すると原油価
格の下落により米国を先導者とした先進国経済での緩やかな回復がドライバーになろう。時間をかけつつ
も先進国経済にとって原油価格の下落が予想外のプラスになると考えている。2014年の日本の経済不振
の原因は、消費増税に伴う低所得者層と円安の中小企業への負担にあったが、2015年は双方の抑制要
因が低下すると展望される。
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「消費の回復は期待できるのか」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2014 年 12 月 19 日)
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