日本の再生可能エネルギー固定価格買い取り制度の制度設計 1

2013 年 9 月 17 日
日本の再生可能エネルギー固定価格買い取り制度の制度設計
海外の事例を参考に
Towards efficient redesigning of Japan’s FIT scheme on Renewable Energy
東京大学教養学部
山口光恒
1、
はじめに
めざましい再生可能エネルギーの伸び
日本の再生可能エネルギー(以下再エネ)は 2003 年の RPS(Renewable Portfolio
Standard)制度導入 1、2009 年の太陽光発電の余剰電力買い取り制度導入(但し発電
事業目的で設置されたもの等は対象外)により着実に増加してきたが、この時点で発
電電力量に占める再エネ(但し水力は除く)の占める割合は約 1%ときわめて低い水
準に止まっていた。これが本格的な伸びを示したのは 2012 年 7 月 1 日の「再生可能
エネルギー特措法(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措
置法)」施行以降である。これにより太陽光、風力、中小水力、バイオマス、地熱(以
下再エネ)を対象に所謂固定価格買い取り制度(FIT)が大々的に導入され、以後再
エネの導入拡大は太陽光を中心に目覚ましいものがあった 2(表 1 参照)。但しこれは
伸び率であり、2012 年度の総発電電力量に占める割合は 1.6%(前年度は 1.4%)にと
どまっており(総合エネルギー調査会総合部会 2013)、このシェアーが大きく増える
にはまだまだ時間が必要である 3。
表 1:2012 年度における再生可能エネルギー発電設備の導入状況(3 月末時点 4)
1
電気事業者に販売量の一定割合を再生可能エネルギーとする義務を負わせ、事業者はこの目標
達成が困難なときには再生可能エネルギーによる電気あるいは証書を購入することで義務の履行
を図ることが可能な制度。対象は風力、太陽光、地熱、小水力、バイオマスによる発電
2 ここでいう再エネとは国の補助を前提とする発電分野の新エネルギーを指す。
3 論文執筆時点では政府による正式統計
(エネルギー白書 2013)は 2011 年度までしかない(1.4%)。
なお、2013 年度の見込みであるが、政府は FIT の賦課金設定の前提発電量見込みとして太陽光 71
億 kWh、風力 44 億 kWh、水力 9 億 kWh、地熱 0.1 億 kWh、バイオマス 37 億 kWh を用いている。
これを合計すると 161 億 kWh となっている、資源エネルギー庁ホームページ良くある質問
http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/kaitori/faq.html#5-4
4 2 月末時点の統計が発表されたのが 5 月 17 日であるが、それから 3 ヶ月以上経った 8 月 20 日に
なって 3 月末時点の数字が漸く発表された(この時点で 5 月末までの数字も同時に発表された)。
これだけ発表に時間がかかったのは何か事情があるものと思うが、このうち特に非住宅用の太陽光
については 2 月末の 1101 万 kW から 3 月末には 1868 万 kW と 1 ヶ月で 787 万 kW も増え、明ら
かに 2012 年度の買取価格適用に向けての駆け込みである(因みに 4 月は 42 万 kW、5 月は 27 万
kW と、それぞれ 2 月分の 5%、3%に過ぎない)。勿論後述の通り現実にはグリッドへの接続に物
理的制限があったり、ファイナンスがつかないなどでこのすべての計画が実現することはあり得な
いが、発電事業者としては 42 円で売る権利は確保したことになる。
1
2011年度以前における
2012年度に運転開始した
累積導入実績
設備容量
太陽光(住宅)
約 440万kW
太陽光(非住宅)
約 90万kW
風力
約 260万kW
中小水力(1000kW以上)
約 940万kW
中小水力(1000kW未満)
約 20万kW
バイオマス
約 230万kW
地熱
約 50万kW
合計
約 2000万kW
[参考]2012年度に認定を受
けた設備容量
()内は2月末の状況
126.9万kW
134.2万kW
(4~6月 30.0万kW)
(124.6万kW)
70.6万kW
1868.1万kW
(4~6月 0.2万kW)
(1101.2万kW)
6.3万kW
79.8万kW
(4~6月 0万kW)
(62.2万kW)
0.1万kW
6.1万kW
(4~6月 0.1万kW)
(2.3万kW)
0.3万kW
1.0万kW
(4~6月 0.1万kW)
(0.5万kW)
3.6万kW *
19.4万kW *
(4~6月 0.6万kW)
(14.7万kW)
0.1万kW
0.4万kW
(4~6月 0万kW)
(0.4万kW)
207.9万kW
(1305.9万kW)
2109.0万kW
2013 年度中に運転を開始した設備容量(2013 年 5 月末まで)の合計は 128.0 万 kW。
* 2012 年度に運転開始した設備容量には、上記の他、35 万 kW の石炭混焼発電設備を認定して
いるが、発電出力のすべてをバイオマス発電設備としてカウントすることは妥当でないため、便宜
上、設備容量に含めていない。
出典:経済産業省資源エネルギー庁 ホームページ
http://www.meti.go.jp/press/2013/08/20130820005/20130820005-2.pdf
他方、2011 年 3 月の原発事故を契機に資源エネルギー庁の基本問題委員会において
日本のエネルギー政策の見直し作業が進められたが、ここで明らかになったのは、少
なくとも 2030 年迄に再エネが原子力に取って代わることは物理的(場所や風況)
・経
済的(コスト)に困難で、原発比率低下を補う最大のものは火力発電であるというこ
とである。
2012 年 12 月の安倍政権誕生に伴い民主党政権下での原発ゼロ政策の見直しが決ま
り、現在新たなエネルギー・環境戦略が論議されている。ここでは温暖化対策も視野
に入れたエネルギー・ベストミックスの検討が行われるが、再エネの位置づけが注目
されるところである。
資源に恵まれない日本にとり再エネは合理的な範囲で最大限伸ばすことが必要で
あることは言を俟たない。しかし上述の通り再エネの急速な普及は FIT という補助金
(市場に対する政府の干渉)によってもたらされたものである。この制度は新産業の
創出と雇用の増加というプラスの面もあることから、しばしばグリーン成長の一つの
2
手段とみなされることもある 5。これに加えて絶えざるコストダウンの圧力にさらされ
る事を通して発電装置のみではなく例えばバッテリーの開発面等での技術革新を促進
する効果も期待される。他方、補助金分は電気料金上昇という形で需要家に転嫁され、
最終的には家計の購買力低下につながると同時に、日本の電力多消費産業の競争力へ
の影響を通して経済に悪影響を及ぼす(但し製造業、非製造業とも売上高に占める電
気購入量の割合が極端に高い業種については大幅減免措置がある)。この間の適切なバ
ランスが必要である。
上記の通り日本で FIT が続く限り中期的には再エネが補助金によって高い伸びを続
けることが予想されるが、欧州の現状を見るまでもなくこのスピードがいつまでも続
くことはあり得ないし、前記特措法でもはじめの3年間に限って利潤配慮期間を設け
ている 6。無理をして急速に再エネを伸ばすことは逆に長期にわたる再エネの健全な発
展に支障を来す恐れもある。このように考えると単純に再エネが伸びれば良いとはい
えず、どこかに国としての最適点があるはずである。これがエネルギー・ベストミッ
クスの議論であるが、本稿ではここまで対象を拡大せず、特に問題の大きい太陽光を
中心に欧米の再エネ促進策に焦点を当てその功罪を論ずる中で、日本における FIT の
制度設計を検討する。この一環として貿易面への影響も取り上げる。
2、
再生可能エネルギー
欧米の現状
2-1
ドイツの太陽光発電(PV)
ドイツにおける太陽光発電の急速な増加は良く日本でも引用されるところであるの
で、この概要と影響をまとめておく。
ドイツで再エネの電力会社による買取制度が導入されたのは 1991 年であったが、
本格的な導入が進んだのは 2000 年の再生可能エネルギー源法(EEG)以降である。
この法律は電力会社(供給事業者)に再エネの固定価格による 20 年間の長期買取を
義務づけ(FIT、ただし水力は規模により 15 或いは 30 年)、この結果、発電電力量に
占める再エネ割合は 2000 年の 6.8%から 2012 年には 22.9%にまで上昇した。2012 年
の内訳は風力 7.7%(洋上はこのうち 1.5%)、バイオマス 6.9%、太陽光 4.7%、水力
5 雇用については完全失業者がこの分野で新たに雇用されれば確実に雇用増につながるが、他の分
野からの労働移動の場合にはネットで考える必要があり、また、その分野と新エネ分野の生産性を
比較してみないと経済への好影響の有無は判定できない。現実の議論はこのような点を欠いたもの
が多いがここではこうした点に深くは立ち入らない。
6 特措法第 7 条は特定供給者が受けるべき利潤に対する特別の配慮として、経済産業大臣は、集中
的に再生可能エネルギー電気の利用の拡大を図るため、この法律の施行の日から起算して三年間を
限り、調達価格を定めるに当たり、特定供給者が受けるべき利潤に特に配慮するものとするとある。
3
3.6%、合計 22.9%である(このほか地熱があるが negligible)。このうち伸び率では
太陽光の高さが目につく(図 1、なお、2000-2012 年の伸びは風力の 4.8 倍に対して
太陽光は 440 倍、2011-2012 でみると風力が 6.2%の減少に対して太陽光は 44.8%の
増加である)。また、発電容量で見ても図 2 の通り太陽光の伸びが目立っている。こ
うしたこと、それに各種の矛盾が太陽光への補助に集中して現れていることからここ
では太陽光に焦点をあてる。
2000 年に施行された EEG で FIT が本格的に導入されたが、ドイツの制度では新エ
ネの技術(種類)ごとに買い取り価格が定められていた。因みに 2000 時点の買い取
り価格(タリフ)は風力(陸上・洋上とも)9.1€c/kWh、太陽光 50.62€c/kWh、バイ
オマス 10.23€c/kWh と圧倒的に太陽光が高く、太陽光の相対的高さは今日まで続い
ている 7。このタリフは再エネ技術ごとのコストに一定の利潤(内部収益率、IRR)を
加えた額を基準にしている(調達価格等算定委員会 2012b では 6%としている)ので、
全ての技術で利益があがる仕組みとなっている。反面このことは電力価格に政府が干
渉することで非効率を招いていることでもあり、再エネ促進のメリット(CO2 および
大気汚染削減、エネルギー安全保障など)とそのコストの両面から功罪を観察する必
要があることを示している。
図 1 発電量の伸びの実績(GWh)
(GWh)
発電量
160,000
図2
(MW)
発電容量の伸びの実績(MW)
発電容量
80,000
140,000
Others
120,000
Photovoltaics
100,000
Wind energy
80,000
Hydropower
70,000
Others
60,000
Photovoltaics
50,000
Wind energy
40,000
Hydropower
60,000
30,000
40,000
20,000
20,000
10,000
0
2000200120022003200420052006200720082009201020112012
0
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
ドイツ環境省 Entwicklung der erneuerbaren Energien in Deutschland im Jahr 2012 を元に作成
太陽光の急速な伸びはそれに伴う様々な影響をもたらした。ドイツにおける太陽光
関連産業の勃興と破綻、補助金の累積による社会的コスト増と電気料金値上げなどで
7
OECD (2011)が IEA の Renewable Energy Database を元に作成した各国のタリフ一覧表によれ
ば、この時点で入手可能なデータではドイツは陸上及び洋上風力はそれぞれ 5.0-9.2 ユーロ¢及び
13-15 ユーロ¢、太陽光 29-55 ユーロ¢、バイオマスは 8-12 ユーロ¢と太陽光が格段に高い状況に
変化はない。但し表 3 の最新の数値を見ると太陽光のタリフは特に近年急速に下落している。それ
でも相対的に最も高いことには変わりはない。
4
ある。前者の象徴は太陽電池メーカーの Q-Cells である。1999 年設立の同社は EEG
開始直後の 2001 年に太陽電池の生産を開始し、2007 年には年間 370MW と世界最大
の太陽電池メーカーに成長し、一時はドイツ国内で従業員が 1000 人を越える規模に
達したが、ドイツ政府の補助金削減と中国勢との競争に敗れ、2012 年 4 月裁判所に
破産申請を行い、同年韓国企業に買収された。
第 2 に太陽光に対する特別に高い買い取り価格(タリフ)の設定に伴う社会的コス
ト問題はどうか。この点については Frondel らによる研究がある(Frondel et al. 2010)。
この論文では FIT による人為的高値買い取りによる社会的コスト(発電コストではな
い)を補助金総額ととらえている。補助金は太陽光の FIT 価格と電力の卸売価格の差
なのでこれに発電電力量を乗じた額が補助金総額、即ち社会的コストになる。この他
この結果としての電力価格上昇に起因する家計や企業の実質購買力の減少という間接
コストもあるが本稿ではこの点は無視して考える。上記を式で表すと下記の通り。
各年度の太陽光発電コスト=補助金総額=(FIT 価格-電力卸売価格)×発電電力量 8
表2:太陽光発電促進のコスト(2007 年価格)
年度
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
累計
発電量
年間増加量
百万 kWh
64
52
72
125
244
725
938
1280
1310
3073
3073
10956
kWh あたりコスト
コスト(補助金)累計
FIT-卸売価格(€c/kWh)
初年度
20 年後の 名目 10 億€
実質 10 億€
最終年度
(2007 年価格)
47.99
42.49
0.581
0.559
47.94
42.15
0.469
0.442
45.36
39.33
0.609
0.563
42.90
36.63
0.989
0.897
47.74
41.21
2.152
1.913
50.23
44.85
6.919
6.027
47.30
41.78
8.385
7.164
44.50
38.86
10.705
8.969
41.82
36.05
10.282
8.409
37.85
31.96
21.515
17.345
30.08
24.07
16.701
13.224
79.307
65.512
8
式のうち各年度の FIT 価格および発電電力量(例えば 2000 年なら 64 百万 kWh)は 20 年間不
変、卸売価格は他の学者の文献から 2010 年の 4.91€¢から 2020 年には 6.34€¢/kWh に若干上昇
すると仮定(従って初年度及び 20 年目のコストはそれぞれ 47.99、42.49€¢/kWh)、FIT 価格に
ついては屋根に設置する 30kW 以下の小型発電の実績値及び 2010 年については大幅改訂を踏まえ
た数値を用いている。各年度の累計コストについて年度ごとに買取期間 20 年の合計数値を求めて
これを得る。これを 2000-2010 年まで総計したのがこの時点での累計名目補助金総額である。なお、
Frondel らは、こうして算定した補助金総額を 2%の割引率で 2007 年の現在価値に引き直している
(実質コスト)。また、2010 年の発電量増加は FIT の引き下げ(インセンティブの低下)もあり
前年同水準と仮定されているが、買い取り価格の下落による補助金の低下で同年の累計コストは減
少している。なお、FIT 価格を屋根設置型の小型発電の実績値を用いているので補助金の額は実際
より大きめとなる。
5
出典:Frondel ら(2010)、なお、コスト累計(名目)の数字は計算間違いと思われるので一部修正
上記の通り 2005 年以降太陽光発電導入促進が進み、累計コスト(補助金)が急増
している。仮に 2010 年で FIT 制度を打ち切りにしても累計コスト(補助金)の現在
価値は実質で 655 億ユーロ(8.5 兆円、以下本稿における円換算率は論文執筆時の€
1=130 円、£1=150 円、$1=100 を用いた)という巨額に達すると言うことである。
実際には 2011 年以後もこの制度が続けられており、この額は更に増加する 9。
コストについてもう1点注意すべき点がある。それは一旦契約をするとその後技術
進歩によって太陽光の発電原価が大幅に下落した場合でも、当該契約については 20
年間にわたって kWh あたり同額の補助金が続くということである。
太陽光の急速な伸びのもう一つの影響は電力料金引き上げとそれに伴う有権者の反
乱である。
ドイツでは 2012 年 6 月、太陽光発電の買い取り価格の 20~30%引き下げと、太陽
光発電の買い取り上限(累計容量が 5200 万 kW に達したとき)が決まった。この時
点での累計容量は 2700 万 kW で、2020 年には上限値に達し、制度の適用が無くなる
見込みである(IEA 2013)。なお、図 1 のドイツ環境省資料によれば 2012 年 1 年間
の増加容量は 760 万 kW である。このほか 2012 年 4 月 1 日に遡及しての適用、同日
以降新規に建物に設置される 10kW 超 1,000kW 以下の設備については、2014 年 1 月
1 月から全量買い取り制度を廃止(発電量の 90%のみを対象)、2012 年5月からの毎
月買取価格 1%引き下げ(但し設備導入量が 250-350 万 kW より大きければ引き下げ
率を引き上げ、逆も真)、10MW 以上の買い取り対象からの除外、も決まった 10。2000
年以降の買い取り価格の変遷は表3の通りで特に 2009 年以降の引き下げが目立つが、
2012 年 5 月以降の毎月の買い取り価格引き下げの結果、2016 年 1 月には建物設置型
は容量に応じて 12.41~8.59€c/kWh に、それ以外のメガソーラー(10MWW 以下)
は 8.59€c/kWh にまで引き下げられる見込みである。これはドイツ政府の大きな方針
転換を意味する。なお、ここで留意すべきは風力についてはこのような問題は一切発
9 IEA (2003)によれば、2013 年に電気使用者に転化される FIT コスト(surcharge、太陽光以外の
再エネを含む)は合計 203.6 億ユーロ(2兆 6500 億円)で前年比 47%の増となっている。この結
果電気代への上乗せは 5.277€c/kWh(前年は 3.592 € c/kWh)に跳ね上がった。この原因は太陽光、
風力、バイオマスの増加が 44%(15%は太陽光)で、この他は電気卸売価格下落(29%)等である。
なお、年間電気使用量が 10GWh を超える企業は使用量の9割まで 0.05€c/kWh(残り1割は通常
の surcharge)、100GWh 超の電力多消費産業で電気代がコストの2割超の場合には全使用電力に
つき 0.05€c/kWh の surcharge との優遇措置あり。
10 2012 年の改訂ではこの他発電量に占める再エネの比率を 35%(2020 年)、50%(2030 年)、
65%(2040 年)、80%(2050 年)とする目標に法的拘束力を持たせることも決まった。2012 年は
22.9%。
6
生していないことである(Frondel ら(2010)によれば 2003 年に設置された風力発
電は 2022 年までには卸売価格上昇の影響で補助金が不要になると指摘している)。
表3
太陽発電の買い取り価格(2000 年 4 月~2012 年 3 月末)
(単位:ユーロセント/kWh)
太陽光発電設備(建物設置設備)
30kW超~ 100kW超~
30kW以下
1MW超
1MW以下
100kW以
2000年4月(施行)
2001年
2002年
2003年
2004年1~7月
2004年8~12月
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年1月1日
2010年7月1日
2011年1月1日
2012年1月1日
50.62
50.62
48.62
45.70
45.70
62.40
59.53
56.80
54.21
51.75
43.01
39.14
32.88
28.74
24.43
59.60
56.87
54.28
51.82
49.78
40.91
37.23
31.27
27.33
23.23
59.00
56.30
53.74
51.30
48.99
39.58
35.23
29.59
25.86
21.98
2012年4月1日
2012年5月1日
40~1MW
16.50
16.34
45.70
43.42
40.60
37.96
35.49
314.94
2009年
EEG法から
適応
33.00
29.37
26.14
21.56
18.33
太陽光発電設備(建物設置設備)
10kW以下 10~40kW
19.50
18.50
19.31
18.32
太陽光発電所
転用地設 空き地設
置
置
1MW~10MW
13.50
13.37
28.43
25.30
22.07
18.76
28.43
24.16
21.11
17.94
太陽光発電所
~10MW
13.50
13.37
出典:海外電力調査会 (2012)及び環境省(2013)より作成
この背景には電力料金引き上げへの有権者の強い反発がある。そもそも太陽光発電
のコストは技術革新と厳しい競争によってかなり下がったにも拘わらず買い取り価格
の引き下げがこれに追いつかず、結果として発電事業者は一旦契約すると規定の価格
で 20 年間電気の販売が保証され、確実な利益が保証される状態にあった。IEA (2013a)
では特にこの点を問題にしており、ドイツ政府に対する勧告の一つとして補助金抑制
と共にコスト引き下げの便益の需要家への反映を挙げている 11。既述の通り 2012 年の
太陽光の増設は 7.6GW と政府予想の倍以上となったが、このつけは需要家に電気代
の引き上げという形でまわるが、このうちエネルギー集約産業は競争力の観点から優
遇措置を受けている(註 9 参照)。従ってつけの大部分は家庭を含む小口需要家の電
気代上昇につながる 1213。太陽光の発電量は FIT により年々増加するので電気料金も
11
因みにドイツに関する前回のレポート(IEA 2007)では太陽光発電の補助があまりに高額にな
っていることを反映して FIT 以外の別の政策の検討を勧告している。たとえばこの時点で太陽光の
FIT 価格と他の電源の発電コストの差が kWh あたり 40€c もあるので、この場合太陽光発電により
CO2 を 1 トン削減する限界コストが 1000 ユーロになると試算している。
12 IEA(2013b)によると、ドイツの家庭用小売り電気料金は元々欧州で最も高い部類に入っていた
が、Network charge(Grid 接続費用)と再エネ賦課金(これだけで電気料金の 14%を占める)に
より更に上昇を続けている。
7
これに応じて上昇する。政府は口頭ではあるがこの上昇分を 3.5€c/kWh に抑えること
を国民に約束していた(筆者によるここ数年間の現地調査による)。この場合ドイツの
平均的家計での追加負担は日本と同じく月に 300kWh として計算すると年間約 126
ユーロ(約 16000 円)程度となる。
ところが上記 2011 年の太陽光の急増で 2012 年には 3.5€c/kWh を超えることがほ
ぼ確実で、そろそろ国民の我慢の限界に達したと言うことのようである。政治家も
2012 年になると 3.5€c/kWh の上限という発言はしなくなっていた。いずれにしても
早急に FIT を廃止しない限り(或いは廃止した場合でも既存契約に関する卸売価格と
の差額は消費者に回るので)この総額がどんどん増える。補助金の縮小は必然となり、
既述の通り方針転換が行われたのである。
本年 1 月 29 日付け Financial Times によると、2011 年に決定した 2022 年までの
原発全廃決定以来家庭用電気料金の急増が続き、太陽光補助の方針転換を図ったにも
かかわらず本年 1 月からは補助金の上乗せ分(電気使用者に対する賦課金)が 3.5€
c/kWh から 5.3€c/kWh(年間 190 ユーロ、約 25000 円)に急上昇し(日本の 2013
年度の賦課金は制度が始まったばかりと言うこともあり 0.4 円/kWh とドイツの 6%程
度である。資源エネルギー庁 2013)、この結果、電気代は 10%上昇して 28€c/kWh
となった。これを受けて今秋の総選挙を控えたメルケル首相は有権者の怒りを回避す
べく 8 月以降の FIT 補助金凍結により電気代上昇緩和を図る案を打ち出し、野党(社
会民主党 SDP と緑の党)に協力を求める事態となっている。これに対して従来 FIT
を積極的に進めてきた野党はエネルギー集約産業への優遇措置を廃止するよう主張し、
政府はこれに応じてごく少額な負担をこれらの業種に強いつつ補助金凍結で打開を図
ろうとしている状況である 14。今後ドイツにおける太陽光発電の新設には大きなブレ
ーキがかかる状況である。既述の通り風の強いドイツでは風力発電についてはあと 10
年程度で Grid Parity が見込める中で、日照時間の短い北国のドイツで太陽光を極端
に優遇した結果、却って制度見直しを早めた結果になったのである。この結果はドイ
ツの脱原発政策に暗雲を投げかけるものである 15。
13 本年 6 月 14 日付 Wall Street Journal によると、産業界にとっても国内の高い電気料金が引き
金で BMW、BASF などがアメリカに投資し、金属労働者が雇用喪失の危機にあるとしている。
14 IEA (2013b)にも似た表現がある。それによると 2013 年 2 月に賦課金の引き下げで電気需要家
の負担軽減を目指す案(詳細についての説明はない)が提案されたが、未だに議論は熟していない。
結果によってはかなりの改訂になる可能性もあるが、短期では投資家にとっての不確実性を増す効
果があるとしている。
15 2013 年 7 月 16 日付 Reiters 記事によれば、
補助金による再エネの増加で火力発電の収益性が下
がりドイツ全体の 2 割が閉鎖の危機にあり、最悪の場合には停電の可能性があるとの電力会社トッ
プの話が孫引きされている。理論的背景は本稿 3―1 参照。
8
2-2
スペインの固定価格買い取り制度(太陽光および風力)
スペインは 1990 年代から再エネを重視しており、1994 年に FIT を、1999 年には
FIT との選択可能システムとして Feed in Premium (FIP)を導入した。FIP とは、
固定価格ではなく卸売市場価格(プール価格)に一定額(プレミアム)を上乗せした
額での買取り義務を供給事業者に負わせるものである。これ以降風力について普及が
進んだが、太陽光の普及が進んだのは 2007 年の政令(Royal Decree/661)公布以降
のことである。この間、2001 年に EU 指令(2001/77/EC)が採択され 16、スペイン
もこれに沿って 2010 年までに再エネの割合を 1 次エネルギーの 12%、発電量の 20%
とする目標を立て、その実現に向けて 2004 年および 2007 年に新たな政令を公布した
(2004 年 RD436/2004、2007 年 RD661/2007)。このうち 2007 年の政令では 100kW
をこえる大型太陽光発電施設からの買い取り価格を 23.2€c/kWh から一挙に 41.75€
c/kWh に引き上げたが、Calzada (2010)によるとこの場合の内部収益率(IRR)は最
高 17%にもおよび投資がこの分野に集中してバブルが発生した 17。こうした補助制度
により、再エネ事業者は投資に対する収益を保証され、この結果、表4の通り 2010
年についてみると、発電容量のうち風力が 19.2%、太陽光は 3.9%、発電電力量ではそ
れぞれ 14.0%、2.3%を占めるに至った。容量、発電電力量共に風力が圧倒的である点
はドイツと同じである。なお、バイオマス等も加えるとスペインの発電量の約 2 割が
FIT/FIP 対象となっているという事実(スペインの電事連である UNESA より聴取)
は、補助金が社会全体にとって大きな重荷になっていることを示している。
(表4)スペインの発電容量・発電量と風力・太陽光の割合
発電容量
合計
単位 MW
101579
構成比
100.0%
上記のうち
(風力)
(太陽光)
発電電力量
合計
(2010 年暫定値)
単位 GWh
構成比
305420
100.0%
42619
14.0%
6974
2.3%
上記のうち
19548
19.2%
3998
3.9%
(風力)
(太陽光)
出典:UNESA (2010)
http://www.thegwpf.org/german-energy-companies-threaten-shutdown-power-plants/
16 2001 年 9 月の再生可能エネルギーによる電力の指令(DIRECTIVE 2001/77/EC)第 3 条 4 項に
は、2010 年までの目標参考値として、1 次エネルギーの 12%及び発電電力量の 22.1%との数値が
あり、Annex には後者に関する各国別の参考値も掲載されている。
17 Calzada (2010)によればこの場合 10 万ユーロを投資すると 25 年間(スペインの太陽光の固定
価格買い取り期間)で 500 万ユーロ強となる。
9
このうち特に太陽光発電に関しては行き過ぎた促進策の結果発電容量が政府の目標を
大幅に超過し、これに伴い、供給事業者の赤字も巨額に達したため(他国と異なり小
売電力市場の規制により供給事業者は卸売市場価格との差額を電力料金に転嫁できな
い)、2008 年 9 月、新たに太陽光の固定価格引き下げの政令(RD1578/2008)を導入
して沈静化を図り、さらに 2010 年には買い取り価格の更なる引き下げ、それに既設
の太陽光発電施設についても買い取り対象稼働時間に制限を加えるなどの対策を導入
した。
2011 年 12 月の保守党への政権交代を受け、新政権はこれに追い打ちをかける形で
2012 年 1 月 28 日の政令法(RDL1/2012)により太陽光のみならず風力も含めた補助
金廃止を決めた。太陽光は 2012 年(但し申請中のものは除く)、太陽熱発電は 2014
年、風力を含むその他は 2013 年以降適用となる(形式上はモラトリアムなので一時
中止であるが、実態は廃止と受け止められている)。これにより太陽光、風力の新設は
事実上無くなる 18。こうした状況の下で 1 月 28 日の政令前に既に風力についても近年
新設が減ってきており、特に太陽光は 2007 年の政令法(RD661/2007)によるバブル
が翌年の政令(RD1578/2008)ではじけて以来低迷が続いていたことがわかる(図 3)
19 。
図3
風力・太陽光発電の新設および累計発電容量の推移
左風力、右 PV、緑:単年度、赤:累計容量、太陽光の急激な落ち込みが顕著
出典:IDEA (2012)
以上スペインの状況であるが、2012 年には再エネ全体への補助金が 80 億ユーロ
(GDP の約 1%、内太陽光 35 億ユーロ)にも達し、供給事業者の累計赤字は 260 億
18
但し既設の発電所は影響を受けない。スペインでの買い取り期間は太陽光 25 年、風力 20 年間
なので今後も既契約分についての補助金が続くと言うことである。FIT 制度に伴う大きな問題点で
ある。
19 詳細は山口光恒(2011)参照
10
ユーロとなり、もはや待ったなしの状況に陥った。これに対して本年 7 月 12 日政府
は新たな施策を発表したが、その内容は、再エネ事業者への補助金削減、供給事業者
のその他収入のカット、更に、再エネ発電事業者の利益への Cap の設定(課税前利益
を 10 年もの国債金利プラス 3%以内に制限)である。しかもこれは既存の設備に対し
て遡及して適用される(2013 年 7 月 20 日付 Economist 記事による)。これは再エネ
による追加コストのつけを電気料金に反映させずに発電事業者及び供給事業者にのみ
負わせる案で、しかも遡及適用のため既存の発電事業者に大きな打撃になる。果たし
てこのままスムースに進むのかどうか、あるいは小口需要家に対する料金自由化の拡
大(従来 10kW 以上であった対象を 3kW 以上に引き下げる案-昨年 2 回にわたる筆
者とスペイン政府担当者との面談の時に出たアイデア)による電気料金値上げなど一
般家計にも負担を共有させるのか、緊縮財政を国民に強いる中で果たしてそれは可能
かなど、今後の動きは予断を許さない。
上記 Economist 記事はスペインの再エネ政策の失敗の原因として、導入量の上限を
設けず補助金が制御不能になるまで放置したこと(この点ドイツも同様としている)
を挙げ、太陽光事業の雇用が万単位で減少していること、今やこの分野に投資をする
人はいないが、既存の施設に対する補助金支出は今後も続くと指摘している。日本の
再エネ政策にも大いに参考になる示唆である。
2-3
イギリス
はじめにイギリスの電力事情を概観しておく。イギリスは老朽化した原子力発電所
の閉鎖、EU 規制による旧式石炭火力発電所閉鎖により何
も対策を打たなければ 2020 年までに 20GW の発電容量を
失い、余裕率(de-rated capacity margin)が 5%を切り
Black-out のリスクを抱えることになる(DECC 2011a)
点が他国との決定的な相違で、これを避ける意味で原子力
と renewable の促進を図るというのが基本的な政策である
20 。この目的のために後述の電力市場改革(Electricity
Market Reform、EMR)が進められている。つまり他の EU 諸国と異なり電力絶対量
不足に直面し、これをすぐ後に述べる温暖化対策等の制約の中でどのように解消する
かとの文脈で全てが進んでいるという点が最大の特徴である(右上の図は 2009 年 8
20
Ofgem(2013)によれば高需要ケースでは 2015 年の余裕率は 2%以下と更に厳しくなっている。
11
月 8 日付け Economist から借用、2015 年に需要が供給を超える図となっている)。
英国は EU 目標とは別に独自の法的拘束力ある CO2 削減目標を有しており、それ
によれば 2025 年(厳密には 2025 年を挟む 5 年平均)排出量を 1990 年比 5 割減とし
ている。加えて EU 指令の 2020 年の最終エネルギー消費に占める renewable の割合
を 20%にする(但しイギリスは 15%)との両方の目標を達成するには原子力と再エ
ネ促進は不可欠であるが、両方とも人為的補助無しには促進が期待できない。しかも
このコストを出来るだけ抑える必要がある。
こうした中で現在進められているのが電力市場改革(EMR)であるが、その前に本
稿のテーマである再エネの現状を確認しておく。2012 年の電源別発電電力量全体にお
ける再エネの割合を見ると、表6の通り前年同期の 9.4%から 11.3%に大きく増加して
いる(発電電力量自体は 363.2 TWh と前年比 1.3%の減) 21。
(表6)
発電電力量、電源別シェアー
石炭
2012 年
39.3%
2011 年
29.5%
ガス
原子力
再エネ
石油
その他
27.5%
19.4%
11.3%
1.0%
1.5%
39.9%
18.8%
9.4%
1.0%
1.5%
出典:DECC (2013b), section 5 electricity
上記のうち再エネに絞ったのが表7である。発電容量、発電電力量とも風力が最大
でバイオマスが続く。太陽光は 2011、2012 の両年に急激な伸びを示しているが、こ
れは上述の FIT 導入の影響であろう。しかし再エネ発電電力量のシェアーで見ると、
風力 47%、太陽光 3.2%で再エネ政策の眼目は風力であることが分かる。なお、洋上
風力が 18%となっている点も注目される。
21
再エネとは直接の関連がないが、この表で興味深いのは石炭とガスのシェアーが逆転している
ことである(ドイツでも同様の傾向が現れている)。この原因は 2012 年はアメリカのシェールガ
ス革命の影響でアメリカで石炭からガスへの燃料転換が起こり、この影響で石炭の価格が下落し、
アメリカからイギリスを含む欧州に安い石炭が流入したこと、EU ETS(EU 排出権取引)の CO2
価格暴落で石炭の相対的競争力が増したこと、また、古い石炭火力が EU の排出規制強化による操
業停止前に所定稼働時間分を消化しようとしていることなどがある(Financial Times, Feb. 4
2013)。
12
表7
イギリスの再生可能エネルギー内訳(2010-2012 年)
風力
( 陸上 )
( 洋上 )
太陽光
バイオエネルギー
大型水力
その他
合計
風力
( 陸上 )
( 洋上 )
太陽光
バイオエネルギー
水力その他
合計
2010年
容量
構成比 %
5378
58.2
(4037)
(43.7)
(1341)
(14.5)
77
0.8
2140
23.2
1453
15.7
190
2.1
9238
100.0
発電容量(MW)
2011年
容量
構成比 %
6488
52.7
(4650)
(37.8)
(1838)
(14.9)
976
7.9
3167
25.7
1471
11.9
208
1.7
12310
100.0
2012年
容量
構成比 %
8871
57.3
(5875)
(37.95)
(2996)
(19.35)
1655
10.7
3260
21.1
1471
9.5
223
1.4
15480
100.0
2010-2012
伸び率 %
65.0
45.5
123.4
2052.1
52.3
1.2
17.2
67.6
発電電力量(GWh)
2010年
2011年
2012年
発電電力量
発電電力量
構成比 %
構成比 % 発電電力量
構成比 %
10181
39.4
15498
45.0
19378
47.1
(7137)
(27.6)
(30.1)
(29.0)
(10372)
(11915)
(3044)
(11.8)
(14.9)
(18.1)
(5126)
(7463)
33
0.1
0.7
3.2
252
1327
11986
46.4
37.7
37.0
12973
15204
3645
14.1
16.5
12.7
5687
5231
25845
100.0
34410
100.0
41140
100.0
2011-2012
伸び率 %
90.3
66.9
145.2
3921.2
26.8
43.5
59.2
出典:イギリスエネルギー気候変動省(DECC 2013b)Energy Trends: March, 2013, Section6 か
ら作成
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/170736/energy_trends_march
_2013.PDF
ここで再び EMR に戻る。EMR の目的は、FiTCfD(Feed in Tariff Contract for
Difference、以下 CfD)導入による原子力・再エネ、CCS(炭素回収・貯留)の促進、
不測の事態に対するキャパシティの確保である 22。CfD は電力売買で予め Strike Price
(発電事業者からの買取価格)を定め、市場(卸売り)価格がそれを上回らない限り
その価格で買い取ることを保証するが、市場価格がそれより高くなった場合には差額
を発電業者が支払うというもので、FIT よりやや合理的な案である(FIT の場合はこ
うした状況でも差額返還の義務はない)。この対象は上述の通り再エネと原子力それに
CCS で、投資家に対して確実性を提供することを目的としている 23。キャパシティ確
保策は Capacity Market と呼ばれ、発電事業者は緊急時に一定の電力を提供すること
を予め約束する代わりに(実際の電力供給の有無を問わず)一定の対価を受け取る
(payment for availability)というものである。
政府は 2011 年 7 月電力市場改革白書(DECC 2011a)を公にし、12 月には詳細設
計に関する Technical Update(DECC 2011b)を発表した。さらに 2012 年 5 月には
22
この他電力セクターを対象にした炭素最低価格(carbon price floor)や排出規制(emissions
performance standard)があるが、ここでは触れない。
23 イギリス政府の試算ではこのため今後 10 年間で£1100 億(16.5 兆円)の投資が必要とされて
いる。”Maintaining UK energy security”
https://www.gov.uk/government/policies/maintaining-uk-energy-security--2/supporting-pages/e
lectricity-market-reform
13
エネルギー法案(Draft Energy Bill、May 2012)を公にし、同年 11 月末に議会に提
出(DECC 2012a)、現在審議中である 24。この法案には CfD、Capacity Market、新
設発電所の CO2 排出基準を 450gCO2/kWh とすることで石炭火力への事実上の CCS
付帯の義務化等を含む電力市場改革が含まれている。このうち再エネと原子力に対す
る CfD については Strike Price の決め方が鍵であるが、再エネでは当初政府はオーク
ションを目指したが時期尚早と言うことで、本年 6 月末に 2014 年から 5 年間の技術
別買い取り価格たたき台を公表した(表5、DECC 2013a)。買い取り期間は 15 年と
他国に比べて相対的に短い。他方、事業者が限られる原子力では政府と業界の交渉と
いう線で進んでいる。なお、Capacity Market の価格はオークションで決まる。イギ
リスの場合特に重要なのは CfD の補助の上限金額が決まっている点である。
2014/2015 年の£33 億に始まり、2020/21 年には£76 億(1.1 兆円)である。
なお、イギリスの再エネ促進策は従来日本の RPS に近い RO
(Renewable obligation、
一定割合の再エネ使用義務制度 25)によっていたが、法案が通れば 2017 年までは CfD
と共存し、それ以降は CfD に吸収される。
(表5)1GW 以上の容量が見込まれる技術の Strike Price 案
再エネ技術
バイオマス転換
水力
洋上風力
陸上風力
大型太陽光
Strike Price案(£/MWh)(2012年 価格)
2014/15
2015/16
2016/17
2017/18
2018/19
105
105
105
105
105
95
95
95
95
95
155
155
150
140
135
100
100
100
95
95
125
125
120
115
110
出典:DECC 2013a
他方、CfD の対象とならない小口(5MW 以下)の太陽光、風力、水力等の再エネ
電源については 2008 年のエネルギー法にて 2010 年 4 月からドイツと同様の FIT が
導入されている。初年度の実績を見ると太陽光が件数で 95%、キャパシティで 72%と
圧倒的であった。これはタリフが高く設定されたこと、技術進歩によるコスト低下が
進んだことから、制度導入時に予定した発電事業者の利益率を上回る利益が期待でき
た結果である 26(DECC 2012b)。この結果は必然的に電力料金引き上げに繋がるとこ
24
審議状況については http://services.parliament.uk/bills/2013-14/energy.html 参照
RO 制度は、電力サプライヤーに対して、年間に販売する電力の一定割合を再生可能エネルギー
から供給することを義務付けており、不足の場合には証書を購入することで義務を果たす。この義
務量の割合は毎年増加する。
26 なお、DECC (2012b)によると 2012 年 8 月以降、適地の太陽光 PV についての収益率(Rate of
25
14
ろから、50kW 超の太陽光に関して 2011 年 8 月以降対象分から最高 72%もの引き下
げが実施され(例えば 50kW 超 100kW 以下については当初の 35.57p/kWh が
13.30p/kWh に、250kW 超 5MW 以下については 33.20p/kWh が 9.18p/kWh という
具合)、次いで 2012 年 3 月には 250kW 以下について更なる引き下げが実施された(こ
のうち 50kW 以下については約 50%の引き下げ、詳細は末尾の資料 1 参照)。その後
も基本的には 3 ヶ月毎にタリフ見直しが行われているが、これは太陽光に関するイギ
リスの FIT の特徴をなすものである 27。もう1点参考にすべきは 50kW 以下の屋根設
置型太陽光については、建物が所定のエネルギー効率を満たしていない場合には買取
価格が半額以下となることである。例えば 4kW 以下については要件を満たしていれ
ば 14.90p/kWh のところを満たしていないと 6.85p/kWh となっている。これも合理的
である。また、固定価格での買い取り期間も当初は 25 年間だったが 2012 年 8 月から
20 年に短縮されている(CfD は既述の通り 15 年)。いずれも我が国の太陽光のタリ
フ検討に際して参考にすべき点である。
以上イギリスの状況について述べてきたが、これを一言で言うと市場メカニズムか
ら政府による介入路線への転換である。サッチャー首相時代の 1990 年の電力・エネ
ルギー分野の自由化断行以来、英国はこの分野の自由化のリーダーと見られてきた。
しかし規制強化による石炭火力の減少に伴う供給不安、EU指令による再エネ比率目
標達成、そしてイギリス独自の GHG 削減のあまりに高い目標のため、市場に任せて
おいたのでは目標達成は無理と判断し、政府の介入が強化されつつある 28。その内容
は再エネおよび原子力に対する CfD(Strike Price 設定)、5MW 以下の再エネを対象
とした FIT、再エネ増大に対する予備としての化石燃料による Capacity Market 創設、
電力業界に対する最低 CO2 価格、それに直接規制(Performance Standard)である。
これらに伴いコストは上昇し、政策の効率も悪くなるといった問題を抱えている。
もう1点補足すると連立政府内部での争いが表面化している。気候変動省(DECC)
の大臣はグリーン政党である自民党(Liberal Democrat)の Davey、財務大臣は保守
党の Osborne でこの二人が何かにつけて対立している。例えば再エネも含めて発電部
門の脱化石燃料化に突き進む Davey と、経済性から安いシェールガスへの転換を主張
Return)として 4.5~8%を見込むとしている。
27 太陽光以外の例えば水力については下記 Ofgem の資料にある通り FIT 発足以来見直しは2回に
止まる。また、250kW 以下については水力の方が買取価格が高い点も注目に値する。
http://www.ofgem.gov.uk/Sustainability/Environment/fits/tariff-tables/Documents1/FIT%20Ta
riff%20Table%201%20April%202013%20Non-PV%20Only.pdf
28 イギリスで興味深いのは、
政府は介入するがその手法はできるだけ市場を用いようとしている点
で、たとえば Capacity Market でのオークションの導入、今回は実現しなかったが Strike Price
でのオークション導入などである。
15
する Osborne という具合に色々な局面で軋轢が高まっているが、最近は財務省の力が
強くなりつつある。既述の再エネに対する補助金上限額の設定もこの一環である。
2-4
アメリカの再生可能エネルギー
ここまで欧州の状況を見てきたが、ここでアメリカの状況に簡単に触れる。アメリ
カも再エネは何らかの補助がないと成り立たない点は欧州と同様である。このうち欧
州と特に違うのは再エネ促進策で、連邦レベルでは FIT/FIP は一切導入せず(州ベー
スで導入しているところは多い)、もっぱら発電税額控除(Production Tax Credit、
PTC、主として風力)或いは投資税額控除(Investment Tax Credit、ITC、主として
太陽光)に頼っている点である。なお、再エネへの現在の補助の理由は電力不足でも
CO2 削 減 で も な く 、 ど ち ら か と い う と 雇 用 創 出 或 い は 新 産 業 育 成 に 重 点 が あ る
(Economist 2013)。
EIA(エネルギー省の外局)の最新データ(表 8)では 2011 年の風力及び太陽光(太
陽熱発電を含む)の全電源に占めるシェアーは、発電電力量では風力が 2.9%、太陽光
が 0.04%、発電容量では風力 4.3%、太陽光は 0.1%で、主力は欧州同様風力である(太
陽光が極端に少ない)。
(表8)アメリカにおける風力と太陽光・熱の状況
風力(構成比)
発電容量 MW
太陽光・熱(構成比)
総発電容量
2010
39135(3.8%)
866 (0.1%)
1039062
2011
45676(4.3%)
1524 (0.1%)
1051251
発電電力量 1000MWh
風力(構成比)
太陽光・熱(構成比)
2010
2011
94652(2.3%)
120177(2.9%)
1212(0.03%)
1818(0.04%)
総発電電力量
4125060
4100656
出典: IAE Summary Statistics for the United States, 2001-2011
http://www.eia.gov/electricity/annual/html/epa_01_02.html
風力への PTC 補助は表9の通り操業開始から 10 年間にわたり最高$22/MWh まで
(kWh では 2.2c、但しインフレ調整あり)でこれは 2012 年 12 月 31 日までに操業開
始したものを対象としていた 29。これに対して風力業界が延長を求めて猛烈なロビイ
ング活動を行い、財政危機のごたごたの中で1年間延長となっているがこの後は不明
である。
29
PTC については http://dsireusa.org/incentives/incentive.cfm?Incentive_Code=US13F 参照
16
表9
発電税額控除の内容
Tax Credit
Production Tax Credit
(PTC)
Incentive
Eligibility
$22/MWh for first 10
years of operation*
Wind, closed-loop
biomass, geothermal
Expiration
Wind projects placed
in service on or before
December 31, 2012.
All other eligible
technologies placed in
service on or before
December 31, 2013.
*Values stated for PTC are from 2010. These values are adjusted annually for inflation.
出典:ITTA(International Technology and Trade Association)から入手
次に、太陽光を中心とする税額控除には 2016 年まで有効な ITC と、2009 年の
American Recovery and Reinvestment Act(ARRA、いわゆる景気回復の Stimulus)
で導入された財務省の Treasury Grant Credit(TGC)の 2 種類があるが、これらは
PTC と異なりいずれも1回限りの税額控除である。しかし太陽光パネルメーカー
Solyndra の失敗に見られるように太陽光への補助は思わしい成果を上げていない。
アメリカの再エネ補助の特色は非継続性にある。Ball(2012)によれば、1978 年
には風力を対象に ITC を導入したがこれは単に風力発電への投資を補助しただけで
所期の成果を挙げなかったので、1992 年に発電量に応じて補助金を与える PTC に切
り替わった。ほぼ同時期に各州で RPS 法を中心に風力の増強が計られ、2012 年半ば
には 29 の州と首都ワシントンでこうした措置が実現していた。この州の措置と連邦
の PTC が相まって風力のシェアーが増えたが、PTC は時限立法であったためにその
終了と共に投資意欲の減退が見られた(太陽光についても時限立法である点は風力と
同様である)。このような状況を示しているのが図4である。ごく最近の補助は 2009
年の ARRA でこれは 2012 年まで延長され、2013 年 1 月の American Taxpayer Relief
Act で更に1年間延長となった。Economist (2013)によれば、2012 年末で税額控除措
置が打ち切られる恐れのあったことから、2012 年には 6700 基もの風力の駆け込み新
設ラッシュがあったとのことであるが、依然として Grid Parity に達せず、この措置
が無くなると競争力を失う状況と報じられている。この背景の一つとして風力につい
ては大型化をはじめとする技術革新でコストが低下したにも拘わらず、シェールガス
の出現で電力卸売価格が下落した点が挙げられている。
17
図4
PTC と風力発電新設容量の関係
出典:Economist June 8, 2013
Ball (2012)にはもう1点注意すべき記述がある。それは PTC の 1/3 は金融機関を
潤したとの説があることを紹介している点である。スペインでも同様のことが発生し
たが、利益が確実視されると銀行が投資に加わったり、顧客に資金を貸し付けて利益
を案分するという状況が起こったことを意味する。日本でも既に一部にこのような兆
候があるが、注意が必要であろう。
もう一点見逃すことが出来ないのは、これが政争の具となってしまったことである。
上記の太陽光にたいする TGC が典型で、オバマ大統領のいわゆる Green Stimulus
政策の一環として導入された補助については共和党が一斉に反発しており、また、loan
guarantee の象徴であった Solyndra の倒産も重なり、今後の見通しは不明である。
いずれにしてもアメリカの財政状況やシェールガスの影響も含め、今後の再エネに対
する補助の動向に注意する必要がある。
3、再生可能エネルギーを取り巻く諸問題
ここまで欧米の再エネを取り巻く状況を概観してきた。いずれの国においても濃淡
はあれ、国の人為的補助でこれを促進しようとしているが事情は少しずつ異なる。ド
イツとスペインは特段電力不足という状況ではなかったにも拘わらず、ドイツでは温
暖化対策とエネルギー安全保障、スペインは EU の再生可能エネルギー指令遵守のた
めに、FIT といういわば劇薬によって短期間に再エネを大幅に伸ばしたが、両国とも
特に太陽光の買取価格の設定があまりに高く、また、導入絶対量の上限を設けなかっ
18
たために遂に制度の大幅改訂を強いられるに至った(スペインでは太陽光以外の補助
につぃても全面休止となった)。今後電気料金引き上げという形で国民の負担が続く。
過ぎたるは及ばざるがごとしとは正にこのことである。ドイツについてはこの結果脱
原発路線の修正を迫られる可能性が現実のものとなるのではないかと思う 30。
イギリスは電力需給の逼迫が近い将来見込まれることが最大の原因であるが、これ
に温暖化対策、EU の再生可能エネルギー指令遵守に向けて再エネのみならず原子力
も同じように伸ばそうとしている点がドイツ・スペインとの相違である。その中でイ
ギリスの特徴としては出来るだけ費用効果的にこれを進めようとしていることで、
FIT に替わる CfD の採用、CfD での買い取り期間も再エネは 15 年(バイオマスのみ
例外)と相対的に短く、さらに Capacity Market へのオークション方式の採用はその
現れである。そうした中で国内で温暖化対策担当省と経済関連の省の間での意見の相
違が表面化してきた点はイギリス・ドイツに共通した点である。
これに比べるとアメリカ(連邦政府)は確かに再エネへの税金面での優遇策を講じて
はいるが、確固たる戦略に基づいていると言うよりは場当たりの感が強い。この背景
としては電力については州に任されている点があるものと思う。
3-1
再生可能エネルギーの増加と化石燃料発電の複雑な関係
再エネのうち特に風力や太陽光の弱点はその間欠性にある。この場合当然のことだ
がバックアップ電源が必要で、多くの場合これは化石燃料によっている。日本でも原
子力に代替できるところまでは無理にしても、FIT が続く限りは今後再エネの割合は
増加していく。これと共に必要とされるバックアップ電源(予備電源)も増える。予
備電源は通常は低い稼働率で余裕を持たせておき、風が吹かない、日照がないような
場合瞬時にこの穴を埋めねばならない。ということは極めてコスト高だと言うことで
ある。イギリスの電力市場改革問題で予備電源に対しての対価支払い方式(Capacity
Market)が議論されているが、これは正に間欠性のコストである。しかし風力や太陽
光が増えれば増えるほど、そして市場の自由化が進めば進むほど予備電源としての化
石燃料発電は採算が悪化するので、これに連れて予備電源のコストも上昇する。以下
図5によりこのからくりを説明する。
日本の場合家庭用小口電力以外は一応自由化されてはいるが、実際には特定顧客と
の相対契約が多く、必ずしも卸売市場で電気の価格が決まらない割合が大きい。しか
30
実際ドイツでは停止になった原発は南部にあるが、再エネは風の強い北部で盛んである。北から
南への送電網の増強に対して地域住民から反対が出ている(Financial Times, Oct. 10, 2012 参照)
19
し今後更なる自由化が進めばそれだけ市場での価格付けが進むものと思われる。自由
化された電力市場では卸売り電力の価格は需要曲線と供給曲線の交点で決まるがここ
で供給曲線とは限界費用曲線のことである。ここで問題は風力や太陽光などバイオマ
ス発電以外の再エネの限界費用(1単位追加的に発電する費用)はほぼゼロである点
である。
図5
卸売り電力価格の決定概念図(1)
A
出典: OECD (2012)
図 5 は横軸が電力の需要及び供給量、縦軸は電力供給の限界費用である。仮に図の
縦の赤い線が横軸に交わる点 A まで需要があったとしよう。この需要を満たすために
、、
発電会社は発電の限界 費用の安い技術から供給する(merit order dispatch)。この図
では限界費用の安い風力・太陽光などを供給能力一杯まで出し、次いでコストの安い
原子力、CHP(熱電併給)、石炭火力からの電力まで動員したところで丁度需要量に
一致する。この場合には限界供給プラントである石炭の限界費用で電力価格が決まり、
発電事業者の利益は青色の面積となる。こうした状況の時に例えば風力の発電量が増
えたらどうなるか。この状態を表したのが図6である。
図5で風力発電の発電量が B から C に増えたとする(網掛けの部分)。この場合発
電の限界費用曲線は点線のように右にずれることとなり、電力需要量が不変であれば
限界プラントは例えば石炭ではなくもっとコストの安い CHP に移る(つまり一番安
い電力から供給していき、CHP で丁度需要に見合う電力が供給されることとなる。図
では Marginal plant with high wind とあるが、これは風力発電割合が大きくなった
場合の marginal plant のことで、図 5 との比較では CHP に該当する。
20
図6
卸売り電力価格の決定概念図(2)
B
C
出典: OECD (2012)
A
この場合卸売り電力の市場価格は水平の赤の点線の間隔だけ下落する。OECD
(2012)ではドイツ、スペイン、デンマークでの実証研究でも風力や日照が強い場合
にこれが顕著に証明されたとしている(20 頁)。この場合当然発電事業者の利益は減
るが、特に化石燃料発電プラントは限界プラントとなっている場合が多く、この事業
者は再エネが増えれば増えるだけ採算割れとなり市場から撤退を余儀なくされる。
しかし既述の通り再エネの増加は間欠性のゆえにそれだけ化石燃料の予備電源を必
要とする。その反面再エネの限界費用が低いために再エネが増えれば増えるほど電力
の卸売り市場価格が下落し化石燃料発電の経営が困難になる。要は再エネが増えれば
増えるだけこうした矛盾が表面化するのである。こうしたことを防ぐにはイギリスが
検討しているように化石燃料のバックアップ発電への補助金が必要で、この場合には
再エネの社会的コストは再エネに対する補助(FIT と市場価格の差など)に加えて化
石燃料発電に対する補助が加わるのである。
勿論こうしたコストを軽減する方法はある。例えばスペインでは風力のキャパシテ
ィ増加によって昨年 11 月初旬に瞬間的に風力発電で全発電量の 64%を賄ったことが
あったが、スペイン全体の広域相互カバーシステムが出来上がっているので間欠性の
影響を最小限に抑えることが可能になったケースがある。さらに例えば EU のような
地域では電力貿易の自由化を進めることで同様の効果を挙げることが可能となる。日
本には後者の例は当てはまらないが、日本全国の周波数を揃えることで似た効果を挙
げることは可能である。しかしこうした工夫は問題を緩和することは出来てもこれを
防ぐことは出来ない。間欠性を有する再エネが増えれば増えるほどこうした問題は大
きくなり、コストも上昇する。この他スマートグリッドによる需要側の調整もあるが、
21
抜本的な解決には安価なバッテリーの開発など技術開発を待たねばならない。技術開
発が重要な所以である。
3-2
エネルギー安全保障への影響
一般的に再エネの長所として良く指摘されるのは、化石燃料と違ってエネルギー安
定供給に寄与するとの説である。しかしオックスフォード大学の Helm 教授はこれに
疑問を投げかけている。同教授の指摘は専ら長期契約が必要なガス発電を対象として
いる。
Helm (2012)によれば、間欠性を有する再エネが増えれば増えるほど予備電源とし
て化石燃料発電が必要となる。ということは少なくとも予備電源燃料である化石燃料
輸入が間欠的になると言うことである。特にガスについては通常長期契約が一般的で
あるが、この場合 Take-or-pay 条項が付帯しているのが通常である。Take-or-pay と
は初期投資が巨額の LNG や PL ガスの場合、契約数量を引き取らなくても、代金は
支払う契約のことで、買手には長期の供給安定性が確保される反面、売手の投資リス
クを買手が負うことを意味する。太陽光や風力が急増すると予備電源となるガス火力
の発電量が大幅に変動するので、ガス需要も間欠的になり、Take-or-pay 方式による
ガス輸入契約は困難となる。この場合ガスの生産者、つまりメジャーやガス輸出国企
業などの売り手は高コストの地下備蓄で対応するか、生産量で調整するなどの需要変
動のリスクを取ることが必要になり、ガス生産のインセンティブが薄れる。ガス田経
営には生産の継続が重要な要素である。しかし再エネの増加の結果生産の継続性が脅
かされ、ガス供給の不安定化につながり、ガス価格の乱高下に結びつくというのであ
る。
筆者はこの程度がどのくらいかについて判断する知見を持ち合わせていないが、確
かにこういう点はあるのかも知れないと思う。
3-3
国内産業・雇用促進策としての再エネ振興策と自由貿易
ここ数年欧州を中心に FIT を中心に市場原理を無視した形で再エネ促進策が図られ
てきた。これに対する高コストとの批判に対して、しばしば産業振興・雇用対策の効
果面のプラスが強調されてきた。一時的にせよ例えばドイツでは目に見える形で太陽
光パネル生産が急発展しこれに伴う雇用も急速に増加した。しかし時間の経過と共に
コストの安い中国製パネルに席巻され、ドイツのみならずアメリカでも Green
Stimulus の目玉であった再エネによる雇用創出はほぼ失敗に帰するに至り、2011 年
22
秋以来先進国の太陽光メーカーが中国の同業者をアンティダンピングとして WTO 規
則違反として訴える例が出てきた。欧州ではドイツ、イギリス等の反対を押し切って
欧州委員会が本年 6 月 6 日から 11.8%の暫定課税を実施し、2 ヶ月の間に中国との交
渉が決着しない場合に 8 月 6 日から 47.8%の懲罰的課税を決定したことは周知の通り
である(7月 28 日付日経新聞朝刊では中国企業側が最低輸出価格を設けることで合
意が成立したと伝えているが、詳細は不明である)。参考までに 2012 年 12 月に OECD
で開かれた貿易と環境に関する政策対話の場に事務局から示された太陽光パネル輸出
に関する図を下に掲げておく。中国からの輸出の躍進(と日本の凋落)が目立つ。
図7
太陽光パネル輸出総額及び国別シェアーの推移
出典: Sumicka, J. (2012)
本当にダンピング輸出であればこれは法律違反であるので厳に取り締まらなければな
らないが、そうでなければ他国から安い製品が入ってくることは経済厚生の増大とい
う意味で良いことである。勿論アフターサービスが悪く売り逃げしてしまうような例
があるので単なる価格だけで判断することは出来ないが、ここではこうした点も考慮
した上で、ダンピングではなく海外から安い製品が輸入されるのは好ましいことであ
る点先ず確認をしておきたい。個別には内容をよく見て判断の必要はあるが、自国産
業の保護を求めて自由貿易を阻害してはならない(理論面については OECD (2012)
参照)。
しかし図8の通り、現実には再エネ促進策を自国企業の振興に役立てる事を目的と
したローカルコンテント規制や再エネ関連物品輸入に対する高関税はかなり広範に実
施されている(詳細についてはOECD 2011参照)。例えば中国では政府調達の入札条
23
件に直接間接のローカルコンテント基準があり、ロシアは輸入品に対する高関税、ア
メリカは州レベルでローカルコンテント基準を満たす場合とそうでない場合の補助に
差を付け、カナダのオンタリオ州とケベック州ではローカルコンテント基準を満たす
場合のみ政府補助を受けられるといった具合である。
図8
世界に広がる再生可能エネルギー物品の貿易障害
出典:Sumicka (2012) 青はローカルコンテント基準を満たす場合のみ補助を受けられる(例えば
FIT の対象となる)。赤はローカルコンテント基準を満たす場合とそうでない場合の補助に差を付
ける。赤点は州レベルでの実施。緑は政府調達の入札条件に直接間接のローカルコンテント基準が
ある場合。茶はローカルコンテントを満たす場合の金融面での優遇措置。オード色は輸入品に対す
る高額関税を指す。このうち二つの要素が混在している場合は、たとえばブラジルでは高額関税と
金融面の優遇措置があることを示す。
再エネのローカルコンテント問題について日本が絡んだ具体例をひとつあげる。事
の始まりは2009年にカナダ・オンタリオ州が導入した風力・太陽光発電を対象とした
FITの適用条件として、同州内で一定割合以上の付加価値(組立てや原材料の調達等)
を付けた発電設備を使用することが求められている点(ローカルコンテント要求)で
ある。日本はこれをWTO違反として提訴した(カナダ
再生可能エネルギー発電分野
に関する措置」に関する紛争案件)。これに対して2012年12月19日にWTOパネルは
日本の主張を正当と認め、カナダの措置の是正を求める最終報告書を出した。カナダ
はこれを不服として上級委員会に提訴したがこれに対しても本年5月6日同様の判断
を下した(WTO 2013) 31。
近年の経済・財政危機の中でコスト高の再エネ支援は国民の理解を得にくくなって
いる。こうした中で再エネ促進の名目として、グリーン成長(新産業振興とそれに応
31
詳細については http://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/cases_e/ds412_e.htm 参照
24
じた雇用増)が前面に押し出されているが、この最もわかりやすい方策がローカルコ
ンテント基準である。基準の設定にもよるかも知れないが、一般的にはローカルコン
テント基準はガットの原則である内国民待遇に違反の可能性が高く、また、輸入国の
経済厚生の向上には結びつかない。また、自国産業を国際競争から隔離・保護するこ
とは却って国内での技術革新を遅らせる効果もある。競争にさらされてこそ自国企業
の競争力が強くなると言う意味では、例外的な場合以外は再エネ促進策として国内産
業保護策は採るべきではない。
4、日本の FIT の制度設計について
4-1
政治先行の FIT 制度
現行の FIT 制度(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措
置法-再エネ特措法-に基づく制度)は菅首相(当時)がある財界人との面談を機に
突然再エネ振興を言いだし、法の制定を退陣の条件としたことで、コストも含めた十
分な議論が全くないまま政治先行で決まった制度である。それまで小規模太陽光につ
いては余剰電力買取制度があり、更にこれを改定して再エネに対する FIT 制度創設法
案が大震災当日閣議決定され国会に提出されていたが、首相退陣を促すため極端に言
えば何が何でも再エネの振興を図るとのただ 1 点のみの観点から法が制定・施行され、
国際的にも極めて高い水準で買い取り価格が決まったものである。価格以外について
も、例えば当時検討されていた案では太陽光以外については一律の買い取り価格・期
間を想定していたが、これを各技術ごとに細分化したこと、3 年間の特別促進期間
、、、、
(boosting period)を設けたこと、3 年ごとの見直しと 2020 年度を目処に廃止も含
、、
、、、、、、
めた 見直しを行うことになっていたが後者は法律の抜本的見直し に後退したこと、一
部事業者に対するサーチャージ(電力料金上乗せ)の減免措置が設けられたことなど
が主たる改定点である。FIT はその制度に基づき一旦契約が成立すると買取期間中必
ず当該価格での買い取りを保証するという意味で、FIT による補助金(上乗せ買い取
り価格分)は極めて Long Tail である。この意味でこの制度自体がいつまで続くのか
(これは買取期間とは別の概念である)は制度による補助金総額に大きな影響を及ぼ
す。実際スペインやドイツではこうした規定がなくずるずると制度を続けた結果、ス
ペインでは 2012 年に FIT 制度が中断され、ドイツでも同年に太陽光の累計容量が
5200 万 kW に達した場合の補助打ち切り(2020 年にこの容量に達する見込み)が決
まった。更にイギリスでも再エネ(CfD、Renewable Obligation、FIT)に対する補
助金の上限値(2020/2021 年に 76 億ポンド)が設定されている。これとの比較では
25
日本の原案が 10 年経過時点で廃止も含めた見直しの規定を有していたのは慧眼とい
うべきであるが、最終的に抜本的な見直しに後退したのは再エネの技術革新を促すと
いう観点も含め残念な次第であった。
なお、従来あまり重視されなかったが、表 1 の通り本年 3 月末現在の太陽光(非住宅)
の FIT 認定容量は 19GW にも達する。現行制度では認定後の運転開始期限の制限は
ないので、一定期限内に発電事業を開始すればこれはすべて初年度買い取り価格 42
円が適用される。これが 20 年続くとすると既にこれだけで補助金の負担が名目で 13.6
兆円(現在のインフレ目標 2%で現在価値にすると 11.3 兆円)に達する 32。これに次
年度以降の受付分が追加されていくので買い取り価格の急激な低下がなければ将来の
累計負担は相当な額になることが容易に予想される。勿論認定を受けても融資を受け
られない、或いは北海道のケースのように系統への接続が容量超過で出来ないなど
種々の理由ですべてが予定通り発電をすることはあり得ないので、上記の数字は現実
的とはいえない。しかし今後の展開によってはスペイン、ドイツの二の舞となる可能
性もあり、制度運営には細心の注意が必要である。
4-2 買い取り価格・期間決定の経緯と国際比較
買い取り価格と期間については調達価格等算定委員会の意見を聞いた上で決めるこ
ととされた。しかし再エネ特措法(以下法)によりこの委員会の議論の範囲が買い取
り価格と期間のみと定められており、極めて限られた裁量しか与えられなかった。と
いうのは法により買い取り価格はコスト+適正利潤とすべきこと(いわば電力の総括
原価方式)、更にはじめの 3 年間は特にこの点に注意を払うべきこと、が決まってお
り、同委員会もこの解釈を容認したからである。従って議論の中心は日本の発電コス
トはいくらか、適正利潤はどの程度か(委員会では欧州の例を基に内部収益率-IRR
-を用いた)に集中したからである。しかし法には別の規定もある。このうち最も重
要な条項は第 3 条 4 項の規定で、そこでは経済産業大臣は価格・期間の決定に際して
はサーチャージの負担が電気の使用者に過重にならないように配慮すべき、とある。
第 1 回の算定委員会でこの点を鋭く突いたのは山地委員で、同氏は価格の決定に際し
ては当然この点を考慮しなければならないとして
32
補助金の額は買取価格-回避可能費用で計算できる。価格等算定委員会の第 2 回資料 5 による
と初年度の回避可能費用は約 6 円であるが、その後の燃料費の高騰などで本年 4 月からの 2 年度の
それは 7.4 円(経済産業省から聴取)である。ここでは後者をとり、これを前提に太陽光の稼働率
を 12%と想定すると 18.7GW の年間発電量は 196.4 億 kWh、この場合の補助額は年間約 6400 億
円、買い取り期間 20 年で 12.8 兆円(割引率 2%だと 10.7 兆円、5%だと 8.3 兆円)となる。
26
「どれぐらい再生可能エネルギーの発電が入ってくるかという量が問題で、効果ですよね。効
果を見極めながら、買取価格と期間を決めないといけないということもあるわけです。負担も
見ながらです。…… 単に価格と買取期間、買ってもらう人の利潤が出るようにということで
いいはずはありません。この制度の目的からしてそうです。そこは、ぜひこの最初のあたりで
考えておかなければといけないと思うので、申し上げておきます。」
と発言している(調達価格等算定委員会 2012a、以下のやりとりについても同様)。
これに対する政府側答弁(資源エネルギー庁、新原省エネルギー・新エネルギー部長
-当時-)は次の通りで、買取価格と期間の決定に際しては、再エネ導入量とそれに
伴う電気使用者の負担、即ち再エネ導入総量の考慮はしない、これは法律改正によっ
て行うとの見解が示された。
「法律自体は価格と買取期間を決めるときに、どれぐらい導入されるかという効果によって買
取価格及び期間を決めるようにとは規定されておりません。今の法律は、単純にここに書いて
あるように、通常要すると認められる費用、これは決められるかどうかは別にして客観的に決
まるものです。どの程度かは別にして、それに適正な利潤を載せて決めてくださいと規定され
ております。そこに、目標値の概念は実はないのです。結果として、もしかしたらそれでやっ
ていくと、先ほど言われたように大量に入り過ぎることが将来あるかもしれない。でも、それ
は恐らくこの法律の見直しによって法律をどうしていくかという議論だと思うのです。」
これに対して山地委員は第1条の法律の目的「(再エネ促進により)我が国の国際競争
力の強化及び我が国産業の振興、地域の活性化その他国民経済の健全な発展に寄与す
ること」を引いて使用者側負担の重要性を強調したが、委員長の裁定でこの問題に終
止符が打たれたのは誠に遺憾であった(この点、即ちこの法律上再エネの導入目標や
見込み量に基づいて買い取り価格を定めることとはされていない点は、本年 3 月 11
日の第 11 回委員会の参考資料 4 頁において改めて明示されている。調達価格等算定
委員会 2013a 33)。欧州での FIT の見直しは、いずれも余りに高い買い取り価格を設定
した結果投資が急増して容量が政府の見通しを大きく上回ったことが原因である中で、
導入量と需要家の許容限度の論議無しでの価格設定は法の趣旨からしても明らかにお
かしいと思う。このままではエネルギー基本計画の変更、或いは3年後の法の見直し
のどちらか早い時期までは国民負担への考慮なしで再エネ事業者の安定的利益享受の
みを基準に買取価格が決まることになる。
それはともかく初年度買い取り価格は太陽光 10kW 未満 42 円(一般住宅用)、同
10kW 以上 40 円、風力 20kW 未満 55 円、20kW 以上 22 円等と決まった(いずれも
33 但し、委員会における検討の過程で太陽光の非住宅用の区分が 10kW 以上の一つしか無く、買
い取り価格算定に使ったのはコストの低い 1000kW 以上のコストである。従って 10kW 以上 500kW
未満の新区分を設けてこちらの買い取り価格を相対的に引き上げるべしとの意見が出たのに対し、
これは電気利用者の付加金の負担上昇になることなど 6 項目を理由に退けられた記録がある(調達
価格等算定委員会 2013b)。
27
税抜き)。このうち 10kW 未満の太陽光の買取期間は 10 年、後は 20 年。この結果 FIT
対象の発電であれば、同業他社の平均と同じコストで経営すれば必ず儲かるという投
資機会が出現したのである。特に現下の経済状況で投資先がなく困っていた投資家に
とりこんなうまい商売はない。特に買取価格が国際価格を遙かに上回るメガソーラー
発電に投資が集中し急激な伸びを示したことは当然のことである 34。筆者にはスペイ
ンの太陽光バブルと同じように見える。スペインではあまりに太陽光のタリフが高く
設定されたので発電事業とは無関係の業種が多数参入し、銀行がここを目当てに融資
競争を行った結果太陽光バブルが発生したが、これをほぼ同じ事が日本でも起こって
いることが報告されている(調達価格等算定委員会 2013c、5 頁、7 頁)。
2 年目については本年 3 月 11 日開催の第 11 回調達価格等算定委員会の案(調達価
格等算定委員会 2013b)の通り、太陽光だけはコストの低下を反映して 10kW 未満 38
円、10kW 以上 36 円(税抜き)に引き下げられ、それ以外は据え置きとされた。ここ
で言うコストとは日本で発電している事業者のコストのことで、これでは技術革新に
よるコスト引き下げのインセンティブが働かない。他方海外では特に太陽光を中心に
急速にコストが低下している。この原因として低コストの中国製品との競争、更に特
に欧州を中心とした再エネ政策の見直しで生産過剰の状況が発生していることがある
が、技術革新による価格低下効果も当然あるはずである。こうした中で例えばドイツ
の太陽光発電の買い取り価格は既述の通り 2012 年 4 月 1 日以降建物設置型で 10kW
超 1000kW が 16.5€¢(21.5 円)、1000kW 超及びメガソーラーは 13.5€¢(17.6 円)
である。IEA (2013a)によればドイツの太陽光コストは小売価格(卸売価格ではない)
に等しいところまで下落している(Retail Grid Parity)。さらにイギリスの Strike
Price 案ではメガソーラーは 12.5p/kWh(18.8 円、2014 年)から 11.0p/kWh(16.5
円、2018 年)、FIT 対象の 5MW 以下の太陽光の場合最低は 6.85p/kWh(10.3 円)と
日本よりも遙かに安い。
法律の規定に縛られて国際的には極めて高い価格での買い取りを決めたのは、法の
目的の一つである「我が国の国際競争力の強化及び我が国産業の振興」の観点から納
34
太陽光については欧州の政策変更で価格が下落する中で、国際的に極めて高い日本に向けて海外
からの輸入比率が高まっている(調達価格等算定委員会 2013c によると、本制度発足直後の 2 ヶ
月分で最も出力の大きい 1 万 kW 以上の海外比率が 58%であるが、今後更に増えるものと思われる)。
なお、参考までに風力の買い取り価格(20kW 以上 22 円/kWh)を英独と比較すると、英国では
>15-100kW で 21.65p/kWh(32.5 円)、>100-500kW で 18.04 p/kWh(27 円、本年 4 月 1 日現在、
http://www.ofgem.gov.uk/Sustainability/Environment/fits/tariff-tables/Documents1/FIT%20Ta
riff%20Table%201%20April%202013%20Non-PV%20Only.pdf)、ドイツでは陸上風力が 8.93€
c/kWh(11.6 円、IEA 2013a による)で、日本は両国の中間値で日本のみが飛び抜けて高いと言う
ことはない(但し 20kW 未満の 55 円はイギリスよりも高い)。
28
得がいかない。このままでは日本の製造業どころか、日本の再エネ産業自体が国際競
争力を失ってしまう。更に、現下の経済・財政状況から日本経済の成長には効率性の
観点の重視が必須であるが、現在の制度は特に太陽光を中心にこの点の配慮が欠けて
いる。仮に法律がこのように規定されているというのであれば、経済学者はこの改訂
に向けて世間に訴えるべきではないか。
もう1点、買取価格見直しのタイミング問題がある。太陽光に関してはドイツでは
2012 年 4 月 1 日以降原則毎月 1%の価格引き下げが決まっているほか、イギリスの
FIT では導入初年度に 1 年間を待たずに最初の引き下げが行われたほか1年経過時点
で再度大幅引き下げを行った実績がある。日本の場合国際水準と大きくかけ離れた価
格体系で既に1年以上経過しているが、現状では原則年に 1 回(但し導入量やコスト
の変動等により必要に応じて半期ごと) 35の見直しのみである。この辺り電気使用者
の負担、日本の国際競争力等の観点に対する配慮が足りないと思う。本年 3 月末の統
計の発表が例外的に長引いていたが 8 月 20 日に公表されたその内容をみると、早急
に買い取り価格見直しに向けた法の改定に動く必要がある。
4-3
既得権益の排除と競争促進
-
制度改革に向けて
、、、
、、、、、、
とはいえ日本のように資源に恵まれない国にとり再エネを長期的 且つ費用効果的に
促進する必要がある。これにはどのような手があるだろうか。
現行制度の問題点は総合的なエネルギー・気候変動政策の欠如である。現在の FIT
制度は再エネだけに利益を保証してこれを伸ばそうという制度である。また、これは
全ての再エネ技術に同等の補助金を与える政策でもある。この結果は既得権益の発生
と競争の阻害、その結果としての価格の高止まりである。既述の通りこの制度は甘い
蜜のようなもので、率直に言えば今なら誰がやっても儲かるビジネスである。従って
ここでうまい汁を吸った事業者は出来るだけこの制度を維持しようとするであろう。
ここに既得権益が生まれ、政治家に対する激しいロビー活動が生じる。そもそも FIT
が現在の姿になったについてはこうした力が働いたのではと疑う理由がある 36。今後
FIT 対象発電施設が増えるに従い益々価格維持に向けて政治に対する働きかけが強く
なることは必須だと思う。
35
特措法第 3 条 1 項。このほか第 8 項に「物価その他の経済事情に著しい変動が生じ、または生
ずる恐れがある場合において、特に必要があると認めるときは、調達価格等を改訂することができ
る」とあるが、導入量の予想外の伸びやコストの変化等はこれには当たらないと思われる。
36 孫正義「東日本にソーラーベルト地帯を-太陽の港、風の港で日本はよみがえる」世界 2011 年
6 月号
29
もう 1 点は全ての技術を同等に扱うことの意味である。現在の制度は全ての生産者
に事業リスクを考慮した上で(リスクに応じて IRR を変えることで)平等に利益を与
える制度であるが、これは別の観点から見ると極めて非効率なシステムである。ある
技術の方が明らかに安く、将来性もあるような場合、何故全てを平等に扱わねばなら
ないのか。いくら再エネ促進とは言え、仮に他の分野で同じ目的のための手段が複数
有りそれぞれコストが異なる場合に、その全てが生き残るように補助金を与える案が
出たら専門家やマスメディアから非効率だとして袋だたきに遭うこと請け合いである。
原発反対の合唱の中でこのように非論理的政策が導入されることに経済学者が黙して
いるのは理解しがたいことである。
上記のロビイングを無力にし、費用効果的に再エネ促進を図る方法は各年度の買い
取り総量を決め、オークションで価格を決めることである(この場合でも一旦決まっ
た価格で契約をした場合にはその価格で買取期間終了まで購入を約束する点は不変で
ある)。政府腹案は既述の通り太陽光以外を一律の買い取り価格とするものであったが、
ここでも買い取り価格の決定には恣意が入る余地がある。オークションにより同じ量
の再エネ電気を最小費用で調達可能となる。イギリスの例から直ちにオークションは
困難かも知れないが、補助金が巨大化する前の3年経過時点でこれ(少なくとも太陽
光とそれ以外の 2 本立てのオークション)を検討することを明記してはどうか。オー
クションのもう一つの利点は競争促進とそれによる技術革新への刺激である。このた
め WTO の内国民待遇(他国の製品を差別しない原則)を徹底しなければならない。
産業育成と雇用の観点からは極力国産品の使用が望ましいが、国産品保護政策により
これを実現することは日本全体の社会的厚生の面からマイナスであるだけでなく、国
産品の競争力を弱めることにもなる。国際的に極めて高い価格で買い取る日本の制度
は電気料金値上げで電気使用者の実質収入を減ずると共に再エネ機器メーカーをぬる
ま湯につけるようなものである。
現在の日本の政策は上記の通り決して推奨出来るものではない。このまま続ければ
いずれ欧州のように電気利用者の受容限度を超えて電気料金が上昇し、制度を突然中
止するという事態が起こる可能性がある。この意味で制度導入時点で政府の人為的干
渉についての経済厚生損失及び電気料金引き上げに対する需要家の許容限度に関する
議論が全くなかったのは甚だ遺憾である。
とはいえエネルギー資源の乏しい日本にとって再エネは重要なエネルギー資源で
あることに変わりはない。学者の見方もこれを裏付けている。例えば現在の欧州の再
、、、
エネ政策について極めて厳しい見方をしている Helm 教授も将来の 再エネ(特に太陽
30
、、、
光)については大きな期待を抱いている。同教授によれば現在の 風力や太陽光には大
きな限界がある。風力については土地の問題や住民の反対運動のため今後は洋上が主
体となると考えているが、陸上・洋上を問わずマストに載せるタービンの大きさは限
られ、5MW とか 7MW と大型化しても稼働率を考えると大変な数を必要とすること、
稼働率には限度があること等から限界的な役割に止まる。現在の太陽光についても
種々技術の改善は見られるものの抜本的な技術革新がない限りやはり限界的な役割に
止まるが、2030 年代以降では大きな役割を期待している。例えば現在進行しつつある
スマート革命(スマートメーターやスマートグリッド、それに需要管理などの進展、
更には将来間欠性対策としての自動車バッテリーの活用)の可能性にふれ、続いて次
世代太陽光発電技術として人工的に光合成を行うことによる無限エネルギーの可能性
に触れている(Helm, 2012)。
日本においても一般論としての再エネ促進策の必要性については大方の支持がある。
問題はこれを出来るだけ効率的に実施することである。これを制度面から考えると上
述のオークションによる買い取り価格設定となるが、最終的には他の電源と十分に競
争出来る水準(卸売価格と比較した grid parity)までコストを下げることである。こ
の他スマート化による間欠性の最小化もある。こうした状況に早く到達して FIT を廃
止することがより高次の目的となる。このために必要なのは技術革新である。現在の
FIT は全ての技術を Winner とする制度であり、長続きするものではない。また、政
府が特定の技術を選んでそれを支援するのは長期的に見るとうまくいかないことが多
い。こうしたことを考えると、今政府として必要なことは再エネ全体の R&D 面での
支援である。この点は強調しすぎることはない。
しかし再エネ振興策は日本のエネルギー・環境戦略の一部に過ぎない。今最も必要
としているのは全てのエネルギー源に関する総合的戦略である。これが正にエネルギ
ー・ベストミックスを目指す戦略である。
4-4
エネルギー・ベストミックスへの道
上記の通り今後再エネの検討に際しては化石燃料、原子力、再エネの全てについて
経済性(日本の国力や成長戦略、競争力向上など)、安全性、安定供給、環境影響、そ
れに日本の軍事面での安全保障という総合的な視点からの検討が必要である。幸い新
政権の下で日本のエネルギー計画の抜本的見直しの議論が始まったので、ここではこ
れまでのいきさつを離れた冷静な目でエネルギーのベストミックスを探る議論が行わ
れることを期待する。この際、現在の FIT 制度はパッチワークの結果で、このままで
31
はいずれ行き詰まる。過大な補助金による余りにも急速な拡大は結果として再エネの
持続的拡大を阻害する。総合的視点に立った早急な見直しが必要である。とはいえ規
制の安定性も必要である。この点を考えるとすぐに手をつけるべきは 10 年後の廃止
を含めた抜本的見直しの明示と共に、導入量(或いは補助金)の上限値の設定(ドイ
ツ、イギリスでは実施済み)、そして 3 年間の特別期間終了後の年間買い取り総量お
よび買い取り価格へのオークション導入検討の明示である。
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35
(資料1) FITタリフの変遷 (太陽光のみ抜粋) p/kWh
屋
根
設
置
型
地
上
設
置
型
≤4 kW (新築)
≤4 kW (既築)
>4 - 10kW
>10 - 50kW
>50 - 100kW
>100 - 150kW
>150 - 250kW
>250kW - 5MW
Year 1
2010.4.1~
2011.3.31
40.83
46.81
40.83
35.57
35.57
33.20
33.20
33.20
2011.4.1~
2011.7.31
40.83
46.81
40.83
35.57
35.57
33.20
33.20
33.20
Year 2
2011.8.1~
2012.3.2
40.83
46.81
40.83
35.57
20.52
20.52
16.19
9.18
2012.3.3~
2012.3..31
21.65
21.65
17.32
15.67
13.30
13.30
13.30
9.18
2012.4.1~
2012.7.31
21.65~9.28
21.65~9.28
17.32~9.28
15.67~9.28
13.30~9.28
13.30~9.28
13.30~9.28
9.18
33.20
33.20
9.18
9.18
9.18
Year
2012.8.1~
2012.10.30
16.50~7.32
16.50~7.32
14.95~7.32
13.92~7.32
11.86~7.32
11.86~7.32
11.34~7.32
7.32
7.32
3 及び Year
2012.11.1~
2013.4.30
15.44~7.10
15.44~7.10
13.99~7.10
13.03~7.10
11.50~7.10
11.50~7.10
11.00~7.10
7.10
7.10
4
2013.5.1~
2013.6.30
15.44~6.85
15.44~6.85
13.99~6.85
13.03~6.85
11.10~6.85
11.10~6.85
10.62~6.85
6.85
2013.7.1~
2013.9.30
14.90~6.85
14.90~6.85
13.50~6.85
12.57~6.85
11.10~6.85
11.10~6.85
10.62~6.85
6.85
6.85
6.85
Ofgem E-Serve: 2012 年 2 月 28 日版 http://www.fitariffs.co.uk/library/regulation/1304_PV.pdf および 2013 年 4 月 30 日版
http://www.ofgem.gov.uk/Sustainability/Environment/fits/tariff-tables/Documents1/FIT%20Tariff%20Table%201%20July%202013%20PV%20Only.pdf により
作成。なお、タリフは 2012 年 12 月時点の小売物価指数 (3.1%)で 2013 年の値に調整したもの。
※1 のように幅で表示されている場合には高い値(Higher Rate)が通常のタリフ、低い値は建物のエネルギー効率が悪い場合のタリフ(Lower Rate)、25 カ所以
上の発電施設所有者は"Higher Rate"の 90%にあたる"Middle Rate"が適用となる(Middle Rate は表では表示していない)。
※2、この期間中 2013 年 2 月 1 日にもタリフの見直しがあったが太陽光については変更がなかったのでここでは一つの欄としてある。
36