Global Tax Update:2014年12月号/ドイツ - Deloitte

Global Tax Update
ドイツ
税理士法人トーマツ
2014 年 12 月
※本ニュースレターは、英文ニュースレターの翻訳版です。
日本語訳と原文(英文)に差異が生じた場合には、原文が優先されます。
PE 帰属利益に係る規則の最終版を承認
2015 年 1 月 1 日以後開始事業年度より適用、ドイツに PE を有する納税者等の留意点
ドイツ議会上院は、2014 年 10 月 10 日に恒久的
施設(Permanent Establishment:以下「PE」)に
対する独立企業原則適用に係る規則の最終版を
承認した。
当該支店帰属利益に係る規則は、昨年ドイツ税法
に取り入れられた、ドイツにおける OECD 承認ア
プローチ(Authorized OECD Approach:以下
「AOA」)に係る広範で詳細なルールを含んでい
る。
AOA の主な考え方としては、税務上、PE をあたか
も(ほぼ)独立し、分離された法人として扱うことで
ある。これは、結果として、PE と本店間の、および
同一法人内の PE 間における内部取引に対する
独立企業原則の適用を含むものである。
支店帰属利益に係る規則は、法令であり、納税者、
税務当局、および租税裁判所を拘束するものであ
る。そして、次の点を規定している。
 資産、機会およびリスクの PE への帰属
 支店への資本の配賦
ドイツは、一般的に、OECD により 2010 年 7 月 22
日に公表された「PE 帰属利益に係る報告書」のガ
イダンスに従っている。しかしながら、いくつかの
点に関し、ドイツ支店帰属利益に係る規則は
OECD のディスカッションよりもさらに詳細なルー
ルを提示しており、納税者が適用可能な代替的ア
プローチの範囲を狭めるものとなっている。これは、
特に、支店への資本の配賦に関し、OECD のコン
センサスからは乖離したドイツ法規のいくつかの
反証可能な仮定についていえ、また、建設、据付、
探鉱現場 PE に対する特別条項についても同様で
ある。
(1)
2013 年 8 月のドラフトからの変更点
2013 年 8 月 5 日のドラフトと比較して、ドイツ財務
省(MoF)は、産業界や税務専門家からの修正要
望について積極的に対応している。特に次の修正
は歓迎されるべきものである。
 PE に対する人的機能の帰属に関しては、出
向者に依拠する PE であっても可能である
 みなし契約(取引)関係の認識
 PE 帰属利益に対し、同時作成の文書要件が
導入されていないことの明確化
 銀行、保険会社、建設および探鉱現場への
AOA の適用
 短期間(30 日未満)の PE での業務は、人的機
能として割当不要
 マクロヘッジ取引の帰属に関する簡素化
1
 新ルールの遡及適用の回避:新ルールは
2014 年 12 月 31 日後開始する事業年度に適
用
ただし、残念ながら、次の点に関して、財務省は産
業界および税務論説による厳しい批判を考慮して
いない。
 国内と外国の PE 間の根本的な相違。これは
EU の観点からは特に疑問である。特に、通常
の会社、銀行、保険会社間の支店資本の配賦
は不均整な取扱いとなっている
 監督当局に提出が要請されている事実と状況
を記載した適切な文書によってのみ、保険契
約プロセスに関係のない支店責任者に対する
保険契約の割当が回避可能なこと
(2)
AOA の 2 ステップアプローチ
OECD の PE レポートに即し、2 ステップアプロー
チにより支店帰属利益が算定される。その中の第
1 ステップにおいては、現地で雇用されている従業
員の活動に基づき、PE における人的機能が特定
される。次に、当該事業体の他の部分に帰属する
ものとして、人的機能に関連し利用されている資
産と想定されるリスクを帰属させる。最後に、PE に
より行われる機能と想定されるリスクを考慮して、
支店の資本が PE に帰属させられる。
当該帰属の基礎として、本店と PE との内部取引、
および同一事業体の PE 間の内部取引は特定さ
れ、独立企業間利益が決定される。これについて
は、OECD の移転価格ガイドラインの条項が類推
適用される。
(3)
補足計算
支店帰属利益に係る規則は、また、PE に関して、
AOA の原則に即した独立した貸借対照表と損益
計算書の作成を義務付けるものである(補足計
算)。
当該補足計算は、PE に帰属する資産、支店の資
本、およびその他の負債から構成されている。ま
た、内部取引からなるみなし収益および費用は計
上されなければならない。納税者は、各会計期間
の期初から補足計算を行い、期中すべての取引を
記帳し、期末に帳簿を締めなければならない。
時文書作成義務につながることを避けるために、
新規則においては、資産の帰属理由および内部
取引の特定については、一般的な移転価格文書
のみに記載するとされている。なお、ドイツの法令
においては、移転価格文書作成の特定の期限は
設けていない。しかしながら、納税者は、税務調査
官から要請があったときは、提出遅延によるペナ
ルティーを避けるために、60 日以内に関連者間取
引に関する移転価格文書を提出する必要がある。
ただし、当該ルールはあるものの、提出される税
務申告書と移転価格文書の整合性を確保するた
めに、納税者は、税務申告書を作成する際に、資
産の帰属の理由を適切に文書化しておくことが望
ましい。
(4)
帰属資産
支店帰属利益に係る規則の目的は、PE に帰属す
る資産を明確化することである。概して、資産の帰
属は、次の人的機能に基づいていなければならな
い。
 有形資産:使用
 無形資産:購入/創設
 投資/金融資産:事業活動に対する機能的関
連性
 その他の資産:購入/創設
 営業取引:営業取引の促進
 機会およびリスクは、関連する資産や人的機
能の帰属による
 ヘッジ取引は、ヘッジされる資産の帰属による
なお、これらのあらゆる資産に関し、他の人的機
能が当該資産に対してより重要であることを納税
者が証明できる場合においては、他の人的機能に
対する資産の帰属を容認する条項が設けられて
いる。
分割して帰属させることは、一般的には認められ
ておらず、直接帰属させることが不可能な例外的
な場合における無形資産のみに適用される可能
性がある。しかしながら、国内税法および一つの
PE に対する直接帰属と、サポート機能や結果とし
て生じる取引について独立企業利益を認識するこ
とを推奨している AOA の背景からすると、分割し
て帰属させることは疑問に思われる。
補足計算は、遅くとも当該 PE が、関連する事業年
度の税務申告書を提出するまでに行わなければ
ならない。当該規則が、支店帰属利益に関する同
2
(5)
支店への資本配賦および金融費用の帰属
支店へ資本配賦に関し、財務省の最終ドラフトは、
多くの関係者から厳しく批判されていた当初のドラ
フトで提案されていた国内と外国の PE に対する
非対称的なアプローチを踏襲している。
新ルールによれば、資本配賦法は、外国会社の
国内 PE の支店資本の決定に望ましい方法である。
これに関し、外国企業の資本はドイツ税法に従い
決定され、また、資産、機会、リスクが PE に帰属
するかに関連して、当該資本は PE に帰属させら
れる。簡素化ルールとしては、仮に、ドイツ税法と
重要な差異がなく、あるいは、重要な差異がある
場合に適切な調整がなされることを前提に、納税
者は外国の貸借対照表に示されている資本を利
用することができる。
逆に、ドイツ法人の外国 PE について、過少資本ア
プローチがまず適用されなければならない。当該
不整合なアプローチは、OECD の PE レポートと矛
盾し、明らかにドイツの課税ベースの最大化を目
的としたものである。したがって、二重課税の発生
可能性が高くなっている。なお、仮に納税者が推
奨されている方法よりも他の方法が、独立企業原
則をより反映していることを証明できるのであれば、
追加の規定の下、当該他の方法を適用することも
認められている。
資本配賦アプローチに基づくと、他の負債および
関連する金融費用は、当該貸借対照表がバラン
スするまで、望ましくは直接的に、帰属させられる。
仮に、金融費用が直接的に帰属させられない場合、
あるいは、不相応に負担が大きいと考えられる場
合には、負債に直接関連するもの以外のすべて
の金融費用の平均が使用されなければならない。
もし、直接割り当てられる負債が、PE に帰属する
負債を超過する場合には、直接割り当てられる負
債であったとしても、関連する金融費用は比例的
に減少させる必要がある。すなわち、損金算入可
能費用の額を減少させる。
(6)
みなし契約関係
AOA によれば、本店と PE 間の、および同一法人
内の PE 間の内部取引(ドイツ税法におけるみなし
契約関係)は、独立企業原則に基づき、適切に利
益配分がなされなければならない。当該規則によ
ると、他の PE に対する再帰属(資産の移転)は、
みなし契約関係を構成するものとしている。さらに、
非関連者とであれば契約を締結するであろう、あ
らゆる経済活動(例えば、内部役務提供)は、取引
として扱われる。
ただし、OECD の PE レポートと同様に、当該 PE
で期中においては計上され、明らかに当該事業体
の他の PE により期末までに利用されない過剰流
動性がある場合には、当該内部貸付は除外され
る。
一般的に、ファイナンシング PE、すなわち当該事
業体の流動性管理を行う PE は、他のグループ会
社に対するサービス提供会社と考えられ、コストプ
ラス法により利益計上されなければならない。ただ
し、仮に、フィナンシング PE が重要な活動を行っ
ており、当該金融資産が当該ファイナンシング PE
自体に帰属すべきである個別の場合につき、納税
者が証明できる場合には、当該仮定によらないこ
とが認められている。ファイナンシング PE と当該
会社の他の部門との間の内部調整勘定について
は、利子の計上は必要ない。
(7)
銀行、保険会社および建設会社の PE に関
する特別規定
支店帰属利益に係る規則は、鉱山、石油、および
ガス会社の PE だけではなく、銀行、保険、建設、
据付会社の PE について、独立したセクションを有
している。当該セクションは、当該業界の固有の事
項に対応するものである。
(8)
銀行および保険会社
金融セクターは、非常に規制が多い。このため、
銀行および保険会社の国際間の利益の帰属は、
基金に関する規定のような、規制の要件を考慮し
なければならない。リスクの引受は、銀行(信用リ
スク)および保険会社(保険リスク)にとって事業活
動の中心であるので、OECD の PE レポートは、主
要なリスク引受(Key Entrepreneurial
Risk-Taking:以下「KERT」)機能に係る活動を行
う PE に信用および保険契約を帰属させるものとし
ている。
ドイツの支店帰属利益に係る規則は、OECD の論
法に従い、銀行の主要なリスク引受機能を、信用
契約を結ぶ責任のある機能と定義している。ところ
が、OECD の PE レポートとは違い、伝統的な銀行
業務における、現在進行中のリスク管理機能は、
一般的に、主要なリスク引受(KERT)機能とはさ
れない。したがって、信用契約をリスク管理機能に
帰属させることができるのは、納税者が当該アプ
3
ローチの方が、より独立企業原則を反映すること
を証明できるときだけである。
保険会社の場合においては、OECD の PE レポー
トと完全に一致しており、保険引受機能は、主要な
リスク引受機能と定義されている。ただし、保険引
受がドイツにおいて行われていない場合には、外
国保険会社のドイツ PE は、次の点の文書化が必
要である。
 保険会社の国内支店が、実際に、保険引受手
続の中で最も重要な役割を担っていないこと
 支店の総括責任者が、保険の引受業務につ
いて積極的な意思決定を行っておらず、管理
していないこと
機能を担わないのであれば、これらの資産は、当
該事業体の他の部門に帰属し、無償で建設/据
付 PE に提供されていると考えられる。このため、
当該資産にかかる費用は、コストプラスのベース
に含まれない。別の言い方をすれば、建設/据付
PE は、委託製造会社のように扱われる。
仮に、建設/据付 PE が、単なる所定の活動を超
える活動をするときは、利益分割法の適用が規定
されており、ここにおいて分割ファクターは費用とさ
れる。
なお、探鉱現場 PE の規定は、建設/据付 PE に
対する帰属利益の規則に沿ったものである。
(10) 新規則の施行日
 リスク引受機能が実際に担われる場所
加えて、外国保険会社は、ドイツおよび母国の監
督当局に当該情報を提出する必要がある。仮に、
納税者が当該文書を作成しない場合には、保険
契約とすべての関連する機会とリスクは、ドイツ支
店に帰属することとなる。
内部取引の認識に関し、内部的な再保険は、無条
件に取引の定義から除外されている。
信用と保険契約の帰属は、関連するリスクの帰属
についての詳細を決定し、当該リスクは十分な資
本より裏付けられる必要がある。外国銀行の「無
償資本」および外国保険会社の剰余金の適切な
配分額は、銀行の場合には、リスクを反映した未
回収額、保険会社の場合には技術的準備金を配
分のキーとして、資本配賦法に基づき、国内の PE
に帰属させられる。これとは対照的に、ドイツの銀
行と保険会社の外国 PE については、過少資本ア
プローチが推奨される方法とされている。
支店帰属利益に係る規則に関する詳細なルール
は、2014 年 12 月 31 日後に開始するすべての事
業年度に適用される。一方で、AOA の一般原則
は、2012 年 12 月 31 日後に開始するすべての事
業年度にすでに適用になっている。財務省は、「支
店帰属利益に係る税務調査のための運営指針」
を現在準備しており、これは 2015 年に公表され、
ドイツにおける AOA の適用についてさらなるガイ
ダンスを提供することが予定されている。当該運
営指針は、また、支店帰属利益に係る規則による
固有ルールと AOA の一般原則の異なる適用日か
ら生じる論点をカバーするものとされている。
(11) 帰属利益に関するヘルスチェック
ドイツに PE を有する納税者は、国際間の利益の
帰属が、詳細で新しいドイツのルールと整合して
いるかについて確認することが望ましい。特に、次
の点に関して確認が必要と思われる。
 資産、機会およびリスクの帰属
支店の資本の配賦に関する新規則は、保険会社
にとって未知の領域であるものの、銀行に対する
実際のルールは、ほぼ変更がないものとなってい
る。なお、小規模銀行(総資産の 3%)に対する簡
素化規定が、10 億ユーロまでの貸借対照表を持
つ銀行に拡大されたことは、評価される。
(9)
 支店への資本の配賦および金融費用の帰属
 みなし契約(取引)関係および独立企業間利
益の特定
 補足計算の準備
建設、据付および探鉱現場 PE
建設および据付会社に関し、支店帰属利益に係る
規則は、建設/据付 PE が当該会社の他の部分
にサービス提供し、コストプラス法により利益が計
上されるという、反証可能な仮定をおいている。仮
に、建設/据付 PE が、配置されている有形資産
(機械や建設資材)の利用を超えて、重要な人的
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