みずほ欧州経済情報 2014年12月号 [欧州経済の概況] [トピック:“Grexit”再び? ] ◆ギリシャの政局が不安定化している。サマラス首相が大統領選挙の前倒し を発表したことがきっかけだ。ギリシャ議会が大統領候補の選出に失敗す れば、来年初にも解散総選挙が行われ、急進左派連合(SYRIZA)が政権を 獲得する可能性が高まる。市場参加者は、トロイカとの融資交渉の行き詰 まりによる、ギリシャのEU離脱(Grexit)を再び意識し始めている。 ◆VARモデルにより、Grexitの南欧国債市場への影響を推計すると、債務 危機後のギリシャ国債変動の南欧国債への影響は、イタリア<スペイン< ポルトガルの順で大きくなっており、Grexitのようなイベント・リスクが、 南欧国債利回りにも一定の影響を与える可能性を示唆している。 ◆債務危機後の南欧国債利回りに最も影響を与えているのは国内要因であり、 最終的に危機波及の防波堤となるのは自国経済の強さだ。債務危機後の制 度的進展も併せて考えれば、Grexitにより南欧国債利回りが上昇したとし ても、影響は限定的なものに止まろう。 [ユーロ圏経済] ◆10~12月期のユーロ圏合成PMIは、51.6と前期(52.8)より低下し、景 気は低迷が続いている。しかし、低水準の油価継続は景気の追い風となり、 2015年の実質GDP成長率を0.2%ポイント押し上げる見込み。 ◆11月の消費者物価指数は、エネルギー物価の下落が重石となり、前年比 +0.3%と低位推移が継続。ECBは金融政策の据え置きを決めたが、来 年初の政策再評価を表明し、年明けにも国債購入に踏み切る公算。 [英国経済] ◆英国では、政策決定と議事録の同時発表などを含む、イングランド銀行(B OE)の透明性向上策が発表された。経済面では、民間セクターの賃金上 昇が継続。住宅価格は上昇ペースの低下が鮮明に。 2014年 12月 2 5日 発行 欧米調査部上席主任エコノミスト 吉田 健一郎 03-3591-1265 kenichi ro.yoshid a@mizuho- ri.co.jp ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではあり ません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確 性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されるこ ともあります。 1.トピック:“Grexit”再び? “Grexit”への懸念が再 ギリシャの政局が不安定化している。きっかけは与党・新民主主義党(ND) び高まる のサマラス首相が大統領選挙の前倒しを発表したことだ(12/8) 。現職のパプーリ アス大統領の任期満了は 2015 年 3 月とまだ先だったため、 予想外のイベントとな った。この発表を受けてギリシャの株式市場は約 20%の大幅下落となり、10 年国 債利回りは一時 9%台まで急騰した(図表 1) 。大統領選挙の実施により急進左派 連合(SYRIZA)への政権交代が起こり、ギリシャのデフォルトやユーロ圏離脱 (Grexit)につながるリスクを、市場参加者が意識し始めたためと思われる。 大統領選挙は 12/29 日が ギリシャにおける大統領選挙は議会選挙と密接につながっている。ギリシャの 山場 大統領は国民の直接投票ではなく議会が選出し、議員投票で 3 分の 2 以上の賛成 票が必要となる。最初の投票で大統領が決まらない場合は 3 度まで投票をやり直 すことが可能で、3 度目は議員の 5 分の 3 の賛成票があれば大統領を選出するこ とが出来る。現在、ギリシャ議会の定数は 300 名であるため、大統領が選出され るには、 初回 (12/17) 、 2 回目 (12/23) の投票では 200 票の賛成票が、 3 回目 (12/29) の投票では 180 票の賛成票が必要となる。 現時点で連立与党の占める議席数は 155 議席に過ぎず、初回(160 票) 、2 回目(168 票)ともに、3 分の 2 の賛成票を得る には至らなかった。29 日の最終投票で与党が 180 票を獲得できるかが焦点だが、 現時点では、 最終投票でも 180 票の賛成票を確保出来ない可能性が高まっている。 3 度の投票でも大統領が選出されない場合、議会は 3 回目の最終投票から 10 日以 内に解散され、議会選挙が行われる。 SYRIZA 政権実現ならば、 図表2にみられるとおり、 最近の支持率調査ではSYRIZAがNDを上回っている。 トロイカとの融資交渉は SYRIZA は、欧州委員会・ECB・IMF(以下トロイカ)に課された緊縮財政策 難航 の見直しを主張しており、SYRIZA 政権になれば、トロイカとのこれまでの融資交 渉の大幅な修正を求めるだろう。SYRIZA のツィプラス党首は現時点では Grexit については否定をしているが、最悪の場合、ギリシャがトロイカとの交渉不調に よりデフォルトに陥り、ユーロ圏からの離脱を選択する可能性もゼロではない。 図表 1 ギリシャの株価と国債利回り (ポイント) 大統領選挙発表 (12/8) 1,100 アテネ総合株価指数 図表 2 ギリシャの政党支持率 (%) (%) 9.5 30 25 1,050 ギリシャ10年国債利回り (右目盛) 9 20 15 1,000 8.5 10 950 5 8 7 800 11/1 (資料)Bloomberg 11/14 12/1 12/15 (月/日) 決めていない その他 独立ギリシャ ギリシャ共産党 黄金の夜明け 川 全ギリシャ社会主義運動 急進左派連合 7.5 850 新民主主義党 0 900 (資料)12月12日付VIMA紙よりみずほ総研作成 1 みずほ欧州経済情報(2014 年 12 月号) Grexit の南欧国債市場へ Grexit のようなショックが起きた場合に、ギリシャ国債の利回り上昇が、スペ の影響 イン、イタリア、ポルトガル(以下南欧)など周辺国債利回りに与える影響が懸 念される。以下では、これらの南欧諸国を対象に、自国、米国、ドイツ、ギリシ ャの各国 10 年債利回りの変化を変数としたVARモデルを組み、 分散分解という 手法を用いて各国金利の変動要因の分析を試みた。分析は、欧州債務危機前の 2000 年~2009 年と、債務危機中の 2009 年~2012 年、債務危機後の 2012 年~2014 年に分けて行った(図表 3) 。この分析により、各期における南欧国債の変動が、 自国、米国、ドイツ、ギリシャのうち、どの要因から影響を受けていたかが読み 取れる。 欧州債務危機後もギリシ 図表 3 からは、欧州債務危機前は、米国債やドイツ国債の利回り変動が南欧国 ャ国債の変化が一定の影 債利回りに影響を与えていたのに対し、欧州債務危機時は、自国要因の影響が高 響を与えている可能性 まり独米からの影響が低下したことが分かる。欧州債務危機後は、依然自国要因 の影響が大きいものの、ドイツやギリシャ国債利回りの影響も高まった。ギリシ ャ国債変動の南欧国債への影響は、イタリア<スペイン<ポルトガルの順で大き くなっており(図表 3 赤枠内) 、Grexit のようなイベントリスクが、南欧国債利 回りにも一定の影響を与える可能性を示唆している。 危機波及につながるかど とはいえ、債務危機後の南欧国債利回りに最も影響を与えているのは国内要因 うかは、結局「自分次第」 であり、 最終的に危機波及の防波堤となるのは自国経済の強さということになる。 ギリシャの国債利回り変動の相対的影響が大きいスペイン、ポルトガルの国内状 況をみると、スペインでは労働市場改革が進み労働コストは低下、輸出主導の景 気回復過程を辿っている。ポルトガルも緩やかに失業率が低下しており、欧州委 員会によれば、来年は財政収支もGDP比▲3.3%まで縮小が見込まれている。 また、現在は欧州安定メカニズム(ESM)や、ECBによる国債購入の仕組 みであるオーバーナイト・マネタリー・トランザクション(OMT)といった危 機波及防止策が既に出来上がっており、 債務危機当時と比べて投機余地は少ない。 以上を総合的に判断すれば、仮に Grexit の可能性が高まり、ギリシャ国債の金 利上昇に南欧国債利回りが反応したとしても、債務危機時のような 6%を超える 急速な金利上昇には至らないだろう。 米国、ドイツ、ギリシャ国債の変動が南欧各国債利回りに与える影響 (%) 2000/1~2009/10 欧州債務危機前 2009/10~2012/7 欧州債務危機中 100 2012/8~2014/12 欧州債務危機後 自国 90 80 70 ギリシャ 60 50 ドイツ 40 30 米国 20 10 ポルトガル イタリア スペイン ポルトガル イタリア スペイン ポルトガル イタリア 0 スペイン 図表 3 (資料)Bloombergよりみずほ総合研究所作成 2 みずほ欧州経済情報(2014 年 12 月号) 2.ユーロ圏景気全体観:景気は依然低迷も、油価下落は来年のGDPを押し上げ 12 月のユーロ圏合成PM 12 月のユーロ圏合成PMI(速報値)は、51.7 と前月(51.1)から小幅上昇し Iは小幅上昇も、10~12 た(図表 4) 。業種別には、製造業PMI(50.8) 、サービス業PMI(51.9)と 月期を通じてみると前期 もに前月(各 50.1、51.1)から改善した。 より低下 国別にはばらつきがみられ、 フランスの合成PMIは 49.1 と 4 カ月ぶりの高水 準に上昇した一方、ドイツでは 51.4 と 3 カ月連続で低下した(図表 5) 。特に、 サービス業PMIが、フランスでは 49.8 と景気判断の節目となる 50 を僅かに下 回る水準まで上昇したのに対し、ドイツでは 51.4 と 50 に近い水準まで低下した (図表 6) 。12 月は、独仏のPMIがともにユーロ圏全体の実績を下回り、スペイ ンなどその他ユーロ圏の業況が域内の景気を下支えする構図となった。 先行きについては、依然として楽観は出来ない。PMIを構成するサブ・イン デックスをみると、雇用指数の改善傾向が続いている点はポジティブに捉えられ るものの、先行きについては懸念もある。新規受注指数は引き続き 50 近傍で低迷 しており、新興国を中心とした景気後退懸念と不確実性の上昇は、企業の新規投 資を慎重なものにするだろう。10~12 月期の合成PMIは、51.6 と前期(52.8) より僅かながら低下しており、発表元の Markit は、同期のPMI水準は、GDP 成長率に直すと「+0.1%に相当する」とコメントしている。 原油価格の低位推移は、 もっとも、足元の油価下落は景気の押し上げ要因となる。WTI期近物原油価 GDPを 0.2%ポイント 格は 1 バレル=50 ドル台まで下落しており、みずほ総合研究所は、60 ドル/バレ 押し上げ ル近傍の低水準が続けば、来年の実質GDP成長率を 0.2%ポイント程度押し上 げると見込んでいる。油価の下落により、産油国からの所得移転を通じて個人消 費の押し上げが見込まれるうえ、インフレ率に低下圧力が加わることで緩和的な 金融政策が期待される。これらが、設備投資の増加を通じて景気を押し上げるこ ととなろう。但し、設備投資への波及にはラグがあり、プラス効果が出てくるの は来年後半となる公算だ。 EU理事会では「欧州投 12 月 18 日に開催されたEU理事会では、欧州の投資を活性化させるための、 資プラン」が正式に承認 総額 3,150 億ユーロの「欧州投資プラン」が正式に承認され、 「欧州戦略投資基金 (EFSI) 」は 2015 年半ばの稼働を目指すこととなった。但し、ユンケル議長が期 待していた各国政府による基金への出資は今回は見送られ、声明文では「EFSI に はいつでも自由に各国政府が参加出来る」との表現に留められた。 図表 4 ユーロ圏合成GDP 図表 5 (Pt) 各国合成PMI 図表 6 (Pt) (Pt) 拡張 56 拡張 58 拡張 60 54 56 58 52 54 54 52 50 48 製造業PMI 48 46 サービス業PMI 46 合成PMI 44 縮小 56 52 50 13 縮小 14 (注)PMIは50が景況感判断の節目となる。 (資料)Markit 50 48 ドイツ フランス スペイン イタリア 44 42 (年) 各国PMI(サービス業) 42 40 13 14 (注)PMIは50が景況感判断の節目となる。 (資料)Markit 3 ドイツ フランス スペイン イタリア 46 44 縮小 42 40 13 (年) (注)PMIは50が景況感判断の節目となる。 (資料)Markit 14 (年) みずほ欧州経済情報(2014 年 12 月号) 3.ユーロ圏内外需要動向:10 月の生産は微増、クリスマス商戦はまだら模様 10 月のユーロ圏輸出は前 10 月のユーロ圏域外輸出(国際収支統計ベースの財・サービス輸出)は、前月 月からの反動により下落 比▲4.1%と下落に転じた。前月(同+8.0%)の大幅増の反動とみられ、均して みれば概ね増加基調を維持している(図表 7) 。財・サービス別に見ると、財輸出 (同▲5.0%) 、サービス輸出(同▲1.7%)ともに減少した。国別の財輸出は、フ ランス(同+0.6%)で前月から増加した以外は、ドイツ(前月比▲1.6%) 、イタ リア(同▲3.6%) 、スペイン(同▲0.3%)ではともに減少した。 10 月の鉱工業生産は微増 10 月のユーロ圏鉱工業生産は、前月比+0.1%と前月(同+0.5%)に続き増加 した。2 カ月連続の増加とはいえ、前月の下方修正と併せて考えると、依然、慎 重なペースでの生産が続いていると言えそうだ。財別には、非耐久消費財(同+ 1.8%) 、耐久消費財(同+0.9%) 、中間財(同+0.3%)の生産が増加した一方、 エネルギー(同▲1.9%)や資本財(同▲0.2%)では減産となった。2014 年後半 の動きを国別にみると、ドイツやフランスの生産はおおむね横ばい、スペインは 微増である一方、イタリアでは減産傾向が続いている(図表 8) 。 失業率はイタリアで悪化。 雇用所得環境に目を向けると、10 月のユーロ圏失業率は、11.5%と 3 カ月連続 ユーロ圏全体では横ばい で同水準となった。国別には、ドイツ(4.9%)は 0.1%ポイントの上昇、フラン 続く ス(10.5%)は横ばい推移となった。スペイン(24.0%)は横ばいを挟み 18 カ月 連続の改善が続く一方、イタリア(13.2%)では年初から 0.6%ポイント悪化し た。今後 3 カ月の雇用動向を問う雇用期待DIをみると、11 月はユーロ圏全体で は▲7.3 と、判断の節目となるゼロを引き続き下回るとともに、2 カ月連続で低下 した。国別にみると、前月(▲6.1)に指数が低下したドイツが▲7.2 と更に低下 しており、歴史的な低失業率の下、徐々に雇用の飽和感が出始めている(図表 9) 。 10 月の小売売上高は反転 10 月のユーロ圏実質小売売上高は、前月比+0.4%と前月(同▲1.2%)から反 増加も勢いは鈍い 転増加した。ドイツが同+1.9%の増加となったことが主因だが、前月の大幅減か らの反動としては限定的なものに止まった。11 月のユーロ圏小売業PMIは、 48.9 と前月(47.0)から 2 カ月連続で上昇しており、小売売上高も 2 カ月連続の クリスマス商戦はまだら 増加が見込まれる。クリスマス商戦はまだら模様で、ドイツでは「11 月・12 月の 模様 小売売上は前年比+1.2%が見込まれる」 (ドイツ小売業者連盟)一方、フランス では、 「セール後期の追加値下げが売り上げを押し上げる」 (仏フィガロ紙、 12/23) ため、足元の出足は鈍いとの報道もみられる。 図表 7 ユーロ圏域外輸出 (10億ユーロ) 230 8 輸出合計額 3カ月移動平均 220 各国鉱工業生産 図表 9 (2009/1=100) 10 輸出前月比(右目盛) 225 図表 8 (前月比、%) 6 ドイツ フランス イタリア スペイン 107 106 ドイツ フランス 10 イタリア スペイン 5 105 104 0 103 ▲5 2 102 ▲ 10 0 101 200 ▲2 100 195 ▲4 190 ▲6 215 4 210 205 ▲ 15 ▲ 20 99 ▲ 25 98 13/1 7 14/1 (注)国際収支統計ベースの財・サービス輸出 (資料)ECB 7 ▲ 30 97 13 (年/月) 各国の雇用期待DI (%Pt) 14 (資料)Datastreamよりみずほ総合研究所作成 4 (年) 12 13 14 (資料)欧州経済総局 みずほ欧州経済情報(2014 年 12 月号) (年) 4.ユーロ圏物価動向・金融政策:低インフレが継続、金融政策の変更は無し インフレ率は小幅低下。 11 月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)は、前年比+0.3%となり、前月(同 エネルギー物価下落の影 +0.4%)から小幅低下した(図表 10) 。エネルギー、食品等の影響を除いたコア・ 響が拡大 インフレ率は、同+0.7%と前月から横ばいとなった。 内訳では、輸送燃料(同▲4.2%) 、通信費(同▲2.8%) 、暖房油(同▲10.4%) の価格下落が全体を押し下げた一方で、レストラン・カフェ(同+1.5%) 、家賃 (同+1.4%) 、タバコ(同+2.7%)などの価格上昇が押し上げに寄与した。サー ビス価格は、同+1.2%と前月(同+1.2%)から横ばいに推移したものの、非エ ネルギー産業財価格は同▲0.1%と 2 カ月連続で低下した。 インフレ率変動の要因 は先月と変わらないものの、エネルギー価格下落の影響が拡大した。 国別にはまちまち。スペ 国別にはまちまちで、ドイツ(同+0.5%)やフランス(同+0.4)ではインフ インでインフレ率が大き レ率が小幅低下した一方、イタリア(同+0.3%)では 3 カ月連続の改善となった く低下 (図表 11) 。スペイン(同▲0.5%)では、前月(同▲0.2%)から下落幅が拡大 している。スペイン統計局によれば、輸送燃料物価の下落に加え、電気料金や飲 食料品物価のインフレ率低下等が影響を与えた模様だ。 ECBは、来年初の政策 ECB政策理事会(12/4)では、金融政策の変更は行われなかった。しかし、 再評価を表明 声明文の中にはこれまでの金融政策の再評価を「来年の早い段階で行う」との文 言が追加された。また、先月追加された 2012 年初のバランスシート水準への拡大 を「期待する」という文言は、 「意図する」というより能動的な表現に修正された。 ドラギ総裁は、政策決定 政策発表後の記者会見では、コンセンサスを重視するか?との問いに対し、ド は「全会一致である必要 ラギ総裁は「 (政策決定には)全会一致である必要はない」と答えた。国債購入が はない」とコメント 財政ファイナンスに当たるため違法ではないか、という質問にも「違法と考えて いる政策手段を検討すると思いますか?」と返答し、その合法性に自信を示して いる。いずれもドイツの反対を視野に入れた質問であり、ドラギ総裁の回答から は、ドイツの反対があっても政策変更を行うという意思がにじみ出ている。2015 年初の経済統計や市場動向を確認し、大きな改善が見られない限り、ECBは年 明けにも国債購入を含む追加緩和に踏み込むと予想される。なお、来年より、E CBの金融政策変更を含む政策理事会は、6 週間ごとの開催に変更され、投票権 を持つメンバーも、各国中銀総裁は各回持ち回りとなる。ECBによる国債購入 については、現時点では、約 6 名のメンバーが反対・懐疑的だ(図表 12) 。 図表 10 ユーロ圏インフレ率 図表 11 各国インフレ率 図表 12 (前年比、%) (前年比、%) 3.5 3.5 総合 エネルギー・食品・タバコ・アルコール除くコア 3.0 3.0 2.5 2.5 ECBメンバーの国債 購入に関するスタンス ドイツ イタリア ラウテンシュレーガー理事(独) バイトマン中銀総裁(独) スペイン フランス 反対, 2人 賛成, 4人 2.0 2.0 1.5 1.5 1.0 懐疑的, 4人 ドラギ総裁 コンスタンシオ副総裁 クーレ理事(仏) メルシュ理事(ルクス) 0.5 1.0 0.0 0.5 前向き, 6人 ▲ 0.5 ▲ 1.0 0.0 11 12 (資料)Datastreamよりみずほ総合研究所作成 13 13 14 (年) 14 (年) 中立/不明, 5人 ノワイエ中銀総裁(仏) リイカネン中銀総裁 (フィンランド) (資料)Eurostat (資料)各種報道よりみずほ総合研究所作成 5 みずほ欧州経済情報(2014 年 12 月号) 5.英国動向:BOEは透明性向上策を発表。経済面では民間部門の賃金上昇が続く BOEは、政策決定と議 英イングランド銀行(BOE)は、2016 年から金融政策委員会(MPC)を年 事録の同時発表などを含 8 回に減らすことなどを盛り込んだ改革案を発表した(12/11) 。本改革は、本年 5 む、透明性向上策を発表 月に議会からの要請を受け、ウォーシュ元FRB理事が行った報告に基づくもの で、BOEの透明性、説明責任、ガバナンスを高めるための措置とされている。 上記以外に、議事録とインフレ報告書の発表を政策決定会合と同時に発表するこ と(2015 年 8 月から)や、速記録についても 8 年後に公表すること、マクロプル ーデンス政策を決定する金融行政委員会(FPC)とMPCの合同開催を行うこ と(2016 年中)などが発表された。 もっとも、今回の改革は必ずしも前向きな動機で始まったことではない。議会 がBOEに改革の検討を要請した背景には、 MPCで議論されていた内容のうち、 議事録で公表された以外の内容がこれまで廃棄されていたことが判明したことや、 利上げ時期をめぐるBOEメンバーの発言が二転三転したことなどに対する不信 がある。財務特別委員会のマクファデン議員は、BOEは、 「 (移り気な)信頼置 けないボーイフレンドのようだ」と批判している。2015 年後半の利上げも視野に 入りつつあるなか、改革の動機は別としても、金融政策決定に関する速報性が高 まることは、市場参加者にとっては朗報であろう。 11 月の合成PMIは再び 上昇。高水準を維持 経済面では、11 月の合成PMIは 57.6 と、前月(55.8)から上昇した(図表 13) 。製造業(53.5)が 2 カ月連続で上昇すると同時に、サービス業(58.6)も 3 カ月ぶりに上昇した。発表元の Markit は、11 月までのPMIデータからは、10 ~12 月期のGDP成長率が「+0.6%の上昇に相当する」としている。 民間部門の賃金上昇が継 続 雇用所得環境に目を向けると、8~10 月の失業率は 6.0%となり、3 カ月連続で 横ばいとなった。また、10 月の週間平均賃金(定例給与分)は前年比+1.8%と 前月と同水準の伸びとなった(図表 14) 。部門別にみると、民間部門が同+2.3% と 3 カ月連続で伸びが拡大しており、雇用改善が民間賃金に波及しつつある。 住宅価格上昇は一服感が 鮮明に 12 月のライトムーブ住宅価格指数は、前年比+7.0%となり、前月より伸びが 鈍化した(図表 15) 。他の住宅価格指数も同様の傾向を示しており、2013 年以降 景気回復とともに大きく上昇してきた住宅価格は、調整局面入りしつつある。こ れまで英国では、株価や住宅価格上昇による資産効果が、貯蓄率低下を伴いつつ 消費を下支えしてきた面があった。足元の賃金上昇ペースの加速により、持続的 な経済成長局面に移行できるかどうかが今後の焦点となる。 図表 13 英PMI 図表 14 英週間平均定例賃金 (前年比、%) (Pt) 15 2.0 10 60 1.5 55 50 45 0 合成PMI 0.5 ▲5 製造業PMI 0.0 40 13 (注)PMIは50が景況感判断の節目となる。 (資料)Markit 5 1.0 サービス業PMI 縮小 英住宅価格 20 2.5 拡張 65 図表 15 (前年比、%) 合計 民間部門 ▲ 0.5 公共部門 14 (年) ▲ 1.0 13 (年) 6 ライトムーブ住宅価格指数 ▲ 15 ネーションワイド住宅価格指数 ▲ 20 ハリファックス住宅価格指数 ▲ 25 07 14 (資料)ONS ▲ 10 08 09 10 11 12 13 14 (資料)Datastreamよりみずほ総合研究所作成 みずほ欧州経済情報(2014 年 12 月号) (年) 巻末資料:欧州主要経済指標 実質GDP成長率(前期比、%) ユーロ圏 ドイツ フランス イタリア スペイン 英国 11Q4 ▲ 0.3 0.0 0.2 ▲ 0.8 ▲ 0.4 ▲ 0.0 12 Q1 ▲ 0.1 0.3 0.2 ▲ 0.9 ▲ 0.6 0.1 Q2 ▲ 0.3 0.1 ▲ 0.2 ▲ 0.4 ▲ 0.6 ▲ 0.2 Q3 ▲ 0.1 0.1 0.2 ▲ 0.4 ▲ 0.5 0.8 ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ Q4 0.4 0.4 0.2 0.8 0.8 0.3 13 Q1 ▲ 0.4 ▲ 0.4 0.0 ▲ 0.9 ▲ 0.3 0.6 Q2 0.3 0.8 0.7 ▲ 0.2 ▲ 0.1 0.6 Q3 0.2 0.3 ▲ 0.1 0.0 0.1 0.7 Q4 0.2 0.4 0.2 ▲ 0.1 0.3 0.4 14 Q1 0.3 0.8 ▲ 0.0 ▲ 0.0 0.3 0.6 Q2 0.1 ▲ 0.1 ▲ 0.1 ▲ 0.2 0.5 0.8 Q3 0.2 0.1 0.3 ▲ 0.1 0.5 0.7 ユーロ圏統計 *設備稼働率(%) 雇用者数(前期比、%) 妥結賃上げ率(前年比、%) 労働生産性(前年比、%) 雇用コスト指数(前年比、%) *経常収支(10億ユーロ) 名目GDP比(%) 11Q4 79.9 ▲ 0.2 2.0 0.8 2.8 5.3 0.2 12 Q1 80.0 ▲ 0.1 2.1 0.7 1.9 12.7 0.5 Q2 80.1 ▲ 0.2 2.2 0.9 2.7 40.7 1.7 Q3 78.2 ▲ 0.2 2.2 0.6 2.4 48.1 2.0 Q4 77.2 ▲ 0.3 2.2 0.7 2.4 45.6 1.9 13 Q1 77.6 ▲ 0.4 1.9 1.1 2.0 51.7 2.1 Q2 77.5 ▲ 0.1 1.7 0.3 1.0 60.0 2.4 Q3 78.3 0.0 1.7 0.7 0.8 46.2 1.9 Q4 78.4 0.1 1.7 0.6 1.0 54.7 2.2 14 Q1 80.1 0.1 1.9 0.5 0.7 59.3 2.4 Q2 79.5 0.3 1.9 0.7 1.6 60.2 2.4 Q3 79.9 N/A 1.7 N/A 1.2 70.9 2.8 前月比 Jun-14 102.1 4.0 ▲ 0.4 1.1 ▲ 0.2 Jul-14 102.2 4.1 0.7 0.2 0.3 Aug-14 100.6 4.5 ▲ 1.1 ▲ 0.6 0.6 Sep-14 99.9 5.4 0.5 0.3 ▲ 1.0 Oct-14 100.7 5.6 0.1 N/A 1.3 Nov-14 100.8 5.1 N/A N/A N/A 前年比 Jun-14 Jul-14 Aug-14 Sep-14 Oct-14 Nov-14 0.0 2.4 0.0 1.6 3.5 ▲ 0.5 ▲ 0.6 0.9 0.7 0.1 1.0 ▲ 0.7 0.7 N/A 1.8 N/A N/A N/A 25.7 1.6 4.0 26.3 ▲ 2.2 ▲ 2.7 26.1 ▲ 2.5 ▲ 2.7 31.9 8.0 6.0 24.9 ▲ 4.1 ▲ 1.2 N/A N/A N/A 4.6 4.8 1.2 0.4 ▲ 0.7 ▲ 1.4 6.4 2.8 1.4 ▲ 0.3 N/A N/A ▲ 7.5 11.6 0.4 1.1 ▲ 8.3 11.6 ▲ 0.4 0.7 ▲ 10.0 11.5 0.9 0.0 ▲ 11.4 11.5 ▲ 1.2 ▲ 1.2 ▲ 11.1 11.5 0.4 2.9 ▲ 11.5 N/A N/A ▲ 2.7 2.0 3.0 0.7 4.9 1.6 0.3 0.6 6.6 1.5 4.6 N/A ▲ 0.2 1.6 ▲ 0.1 0.5 0.8 1.8 ▲ 0.1 0.4 0.8 2.0 ▲ 0.2 0.4 0.9 2.5 ▲ 0.2 0.3 0.8 2.5 ▲ 0.2 0.4 0.7 N/A N/A 0.3 0.7 前年比 Jun-14 Jul-14 Aug-14 Sep-14 Oct-14 Nov-14 0.1 ▲ 1.8 1.6 2.8 5.9 4.8 ▲ 2.0 0.8 0.4 0.2 ▲ 0.6 2.1 0.9 2.2 4.4 N/A N/A N/A ▲ 0.6 1.1 0.3 ▲ 0.3 ▲ 0.4 1.2 ▲ 0.3 0.3 ▲ 1.0 ▲ 0.1 N/A ▲ 1.1 0.8 1.3 1.4 0.8 1.1 N/A ▲ 11.2 ▲ 5.4 3.3 ▲ 4.6 ▲ 4.2 2.5 ▲ 5.0 ▲ 7.5 3.7 ▲ 1.9 ▲ 4.9 2.4 ▲ 0.1 ▲ 4.5 4.6 N/A N/A 6.4 1.9 11.8 ▲ 0.6 4.6 1.6 10.6 ▲ 1.0 4.5 1.5 11.0 ▲ 1.4 4.7 1.2 9.4 ▲ 2.5 4.8 1.3 9.0 ▲ 2.6 4.9 1.0 8.5 N/A N/A *景況感指数(欧州委員会) *鉱工業最終品在庫DI(同) 鉱工業生産指数 製造業受注指数(除く大型輸送機器) 建設業生産指数 *貿易収支(名目、財・サービス、10億ユーロ) 域外輸出(同上) 域外輸入(同上) *消費者信頼感指数 *失業率 小売数量指数 乗用車新規登録台数 マネーサプライ(M3) 生産者物価指数・最終財コア 消費者物価指数 コア(エネルギー・食品・アルコール・煙草を除く) 0.1 0.0 0.1 0.0 ▲ 0.1 ▲ 0.1 0.15 0.21 1.25 3,228.2 1.369 138.8 0.15 0.21 1.17 3,115.5 1.339 137.6 0.15 0.16 0.89 3,172.6 1.313 136.7 0.05 0.08 0.95 3,225.9 1.263 138.5 0.05 0.09 0.85 3,113.3 1.252 140.6 0.05 0.08 0.70 3,250.9 1.245 147.6 前月比 Jun-14 Jul-14 Aug-14 Sep-14 Oct-14 Nov-14 ドイツ *ifo景況感指数(2005年=100) 鉱工業生産指数(除く建設業) 製造業受注指数 同コア(除く大型輸送機器) *失業率 *DAX株価指数(末値) 109.6 0.3 ▲ 2.4 2.2 6.7 9,833.1 107.9 1.0 4.8 0.5 6.7 9,407.5 106.3 ▲ 2.5 ▲ 4.2 ▲ 1.0 6.7 9,470.2 104.7 1.4 1.1 1.2 6.7 9,474.3 103.2 0.0 2.5 2.2 6.6 9,326.9 104.7 N/A N/A N/A 6.6 9,980.9 フランス *INSEE製造業景況感指数 鉱工業生産指数(除く建設業) 家計財消費支出 *CAC株価指数(末値) 97.5 1.3 0.9 4,422.8 97.1 0.4 ▲ 0.7 4,246.1 96.3 ▲ 0.1 0.9 4,381.0 96.0 0.0 ▲ 0.7 4,416.2 97.5 ▲ 0.8 ▲ 0.8 4,233.1 98.6 N/A 0.4 4,390.2 32 0.1 ▲ 3.0 ▲ 1.3 ▲ 1.7 0.2 6.3 26 0.2 ▲ 3.7 1.3 2.8 0.0 6.2 31 0.2 2.5 1.6 4.0 0.4 6.0 27 0.7 ▲ 2.8 2.6 3.1 ▲ 0.3 6.0 18 ▲ 0.1 ▲ 2.0 0.5 ▲ 1.3 1.0 6.0 12 N/A N/A N/A N/A 1.5 N/A 1.0 0.2 0.8 ▲ 0.2 0.5 0.3 0.50 2.67 6,743.9 1.710 173.3 0.50 2.60 6,730.1 1.688 173.6 0.50 2.37 6,819.8 1.660 172.8 0.50 2.43 6,622.7 1.621 177.8 0.50 2.25 6,546.5 1.600 179.7 0.50 1.93 6,722.6 1.565 185.6 *ECB主要政策金利(末値、%) *Euribor3カ月レート(末値、%) *ドイツ10年国債利回り(末値、%) *ダウユーロ50種株価指数(末値) *ユーロドル(末値、$/€) *ユーロ円(末値、円/€ ) 各国統計 英国 *CBI製造業生産見通し 鉱工業生産指数 *貿易収支(名目、財・サービス、10億£) 輸出(同上) 輸入(同上) 小売数量指数 失業率(ILOベース、後方3カ月平均) 消費者物価指数(CPI) Nationwide住宅価格指数 マネーサプライ(M4) コア(その他金融の資金仲介を除く) *イングランド銀行政策金利(末値、%) *英10年国債利回り(末値、%) *FT100株価指数(末値) *ポンドドル(末値、$/£) *ポンド円(末値、円/£) ▲ ▲ ▲ ▲ (注) *は水準。ユーロ圏乗用車新規登録台数、同消費者物価指数、英国住宅価格指数は前月比を季節調整値、前年比を原数値で算出。 (資料) Eurostat、欧州委員会、ECB、ACEA、ドイツ連銀、ドイツ連邦統計庁、ifo、INSEE、ONS、BOE、CBI、Nationwide、Bloomberg、EcoWin 7 みずほ欧州経済情報(2014 年 12 月号)
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