排熱利用による GHP システムの成績係数向上に関する研究

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排熱利用によるGHPシステムの成績係数向上に関する研
究
本間, 寛己
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2003-03-23
http://hdl.handle.net/10297/6470
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理工学研究科;本懸鍵鑛
゜°°35°3513R
排熱利用によるGHPシステムの
成績係数向上に関する研究
本間 寛己
嚢1
目 次
1章 序論 1
1−1 研究の背景 1
1−2 パッケージ型GHPの開発の経緯 2
1−3 吸着冷凍サイクルに関する従来の研究 3
1−4 研究目的 5
1−5 本論文の構成 6
参考文献 7
2章GHPシステムの実証試験 11
2−1 GHP(ガスエンジンヒートポンプ) 11
2−2 GHP冷暖房システムの概要 13
2−3 計測方法 ゜ 1g
2−4 計測結果 20
2−4−1 中間期(5.月) 22
2−4−2 冬期(1.月) 23
2−4−3 夏期(7.月) 28
2−5 結論 34
記号 35
参考文献 36
3章 G且Pシステムの排熱を駆動熱源とする吸着サイクルの高効率化 37
3−1 吸着冷凍サイクル 37
3−2 GHPとの連合運転 40
3−3 実験的手法 41
3−3−1 実験装置の構成 41
3−3−2 ユニツトセル 42
3−3−3 シリカゲル等の物性 44
3−3−4 実験手順 48
3−4 数値解析的手法 4g
3−4−1 基礎方程式 50
3−4−2 シリカゲル層の有効熱伝導率 52
3−一一 4 一一3 シリカゲル層の接触抵抗 55
3−4−4 シリカゲル層の圧力損失 56
3−5 結果および考察 56
3−5−1 フィンピッチの影響 60
3−5−2 フィン高さの影響 67
3−5−3 解析によるユニットセルの最適化 71
3−6 結論 81
記号 82
参考文献 85
4章 エネルギー利用効率の試算 87
4−1 G且Pシステムの年間エネルギー効率 87
4−2 吸着サイクルとGHPの連合運転 91
記号 96
参考文献 96
5章 結論 97
謝辞 100
1章 序論
1−1 研究の背景
これからの21世紀は熱の質に対して真剣に考えなければならない.しかし,一
般消費者の多くは化石燃料を燃焼させて得た1000℃以上のエネルギーを直接
100℃以下の暖房や給湯に使用することに疑問を持たない.また,世界的に二酸化
炭素の排出量削減の問題,特定フロンによるオゾン層破壊の問題が取り上げられて
いる.人類に差し迫ったエネルギー資源問題や,これらの環境問題が存在する現在
の状況下において,最も端的な対応は化石燃料の消費を抑制することである.しか
し,化石燃料に変わるクリーンで安全なエネルギー資源の利用はまだ実用に遠く,
しばらくは既存の化石燃料依存型のエネルギー利用体系を維持していくしかない.
省エネルギー化を推進し合理的な熱エネルギー利用を実現するためには,温度レベ
ルごとに多段階にエネルギーを取り出して,高温から低温まで温度に応じた用途に
エネルギーを利用するエネルギーのカスケード利用が極めて有効である.
暖房や給湯を合理的なエネルギー利用で行う手段としてヒートポンプが挙げられ
る.ヒートポンプとは低温の熱源から熱エネルギーを取り出し,それをより高温な
利用しやすい熱エネルギーに変換する装置である。ヒートポンプはエネルギーの有
効利用という点では効果的であるが,あまり広く用いられていない.その主な理由
は,燃焼のエネルギーを直接利用する方式と比べて初期費用が高いためである・し
かし,ヒートポンプの利用によってランニングコストは小さくなり,エネルギー消
費を抑えることができるため,エネルギー経済上でも重要な役割を果たすといえる・
一方,我が国のエネルギー需要に目を向けると,オイルショック以降各分野にお
いて省エネルギー化が進められてきたが,ゆとりと豊かさを求めるライフスタイル
一1 一
はエネルギー需要を拡大させる要因となっている.エネルギー需要の中心である電
力とガスの需要パターンは季節によって逆の傾向を示している.つまり,電力需要
は夏期に集中してピークに達し,ガスは冬期がピークで夏期は需要が激減する.両
者とも需要の季節変動が大きいため,ピークに対応するための過大な設備を保持し
なければならない.加えて,毎年夏期の電力需要は増加しているために,更なる発
電施設が必要とされている.
そこで,夏の冷房がガスで実現できるならば夏期の電力需要のピークを緩和する
ことができ,電気,ガス共に需要の季節変動が平準化され相互に設備投資の合理化
ができるだけでなく,ガスの夏期の需要が確保され石油代替エネルギーとしての天
然ガスの積極的導入も可能となる.
このような社会的ニーズを背景に高効率ガスエンジンヒートポンプ(GHP)が注目
を浴びている.GHPはガスエンジンでコンプレッサを駆動して冷房および暖房を行
うサイクルである.ガスエンジンからの排熱を回収可能なため,エネルギーを有効
に利用することができるシステムである.
1−2 パッケージ型GHPの開発の経緯(1)
第二次オイルショック以降,社会的ニーズもありガス冷房の実用化に向けて開発
が積極的に行われてきた.しかし,中型や大型のガス吸収式冷温水器は実用化され
ていたが,小型ガス冷房機は技術的にまだ確立してはいなかった・その中で(株)東
京ガスは世界に先駆けてパッケージ型ヒートポンプの試作機を完成させ,1980年頃
には実用化の目処を付けることができるところまで開発を進めていた.
そして,1981年に通産省の主導による小型冷房ガス冷房の研究開発の促進を目的
一2一
とする, “小型ガス冷房技術研究組合”が結成された.研究組合では組合員各社が
研究開発を分担し,要素研究や特性試験の結果を試作器の設計にフィードバックさ
せていった.本研究の共同研究者であったヤマハ発動機(株)も組合員としてガスエ
ンジンの開発を担当していた.
各要素技術の基礎研究の後,フィールドテスト機を試作し,組合員のガス事業者
らによってフィールドテストが実施され諸機能の確認が行われた.フィールドテス
ト機の段階ですでに空調機能のみでなく,給湯機能を備えた機器として設計され,
G且Pが省エネルギー機器として優れたシステムであることを実証できる結果が得
られていた.
その後,メーカー・各社によって商品化に向けての開発が推進され,1987年にGHP
は実用化された.
1−3 吸着冷凍サイクルに関する従来の研究
エネルギーのカスケード利用は,エネルギーを合理的に利用し省エネルギー化に
有効な手段である.しかし,高温度レベルは用途が広く比較的有効に利用されてい
るのに対して,低温度レベルは用途が限定されるため利用されず殆どが廃棄されて
しまっているのが現状である.低温度レベルエネルギーの利用用途の一例として暖
房や給湯があり,GHPでもガスエンジンからの排熱を暖房強化や温水の生成に有効
に利用している.しかし,暖房や給湯だけでは不十分であり,他の有効な利用技術
の開発が必要とされている.
ケミカルヒートポンプの一つである吸着冷凍サイクルは,100℃以下の熱源でも
駆動が可能であるので,低温度レベルエネルギーを有効利用できる冷熱生成装置と
一3一
して期待されている.吸着とは,吸着剤の界面に移動してきた吸着質が濃縮されて
バルクよりも濃度が高くなる現象であり,この現象を応用した様々なサイクルが提
案されている.サイクルは吸着質が系外に出る開放式と系外に出ない密閉式の二っ
に分類することができる.
デシカント空調は吸着剤が持つ調湿作用を直接利用した開放式のサイクルであり,
調湿能力を高める研究(2)∼(5)が数多く行われている.
密閉式吸着サイクルは,吸着剤が冷媒蒸気を吸着することで蒸発器における蒸発
を促し冷熱を生成するサイクルである.サイクルに用いられる主な吸着剤としては
ゼオライト(6),活性炭,シリカゲルがあり,冷媒としてはエタノール,メタノール,
水がある.架谷らの研究グループでは,構造状活性炭の製造プロセス(7)や活性炭一
水系(8),より吸着サイクルに適したスーパー活性炭一エタノール系(9)(10),スーパー
活性炭一アルコール系(11)について吸着特性の検討を行っている.また,従来の固体
粒子の吸着剤ではない繊維質吸着剤(12)(13)も稲葉らによって提案されている.
吸着サイクルは本質的に効率が高いサイクルではない.それは,固体吸着剤を用
いるために冷媒蒸気の物質移動と吸脱着反応に伴う熱移動が低速なために出力が小
さいことと,サイクルがバッチサイクルであるために一サイクルごとに吸着器を脱
着温度まで加熱するための熱量が必要になることに起因している.そのため多くの
研究者らによって高効率化のための研究が行われてきた.それは,主に吸着器の改
良によって熱および物質移動の促進を図るというものである.
Wangらはスパイラルフィンの隙間に吸着剤を詰めて熱移動を促進させた吸着器
(14)(15)を試作し実験を行っている,Eunらはシリカゲルと炭素粉末を圧縮して固め
ることで充填層の有効熱伝導率を向上させる検討(16)(17)を行っている.架谷らの研
究グループは伝熱管の周りに薄く吸着剤の層を成形(18)したものや,伝熱管を使わず
に薄い樹脂で吸着剤の層をコーティングした吸着器(19)(20)を試作し,高い熱および
一4一
物質移動特性を実現させている.また,柏木らの研究グループではサイクルシミュ
レーションによるサイクルの最適化(21)(22)や吸着器を四つ用いる二段式(23)や,吸着
器を六っ用いる三段式(24)∼(26)のシステムを提案し,より低レベルの熱源での駆動を
可能にしている.
しかし,熱および物質移動速度の向上とバッチサイクルの一サイクルあたりの出
力の増加はトレードオフの関係にあり,いかに単位時間あたりの出力を向上させる
かが課題となっている。
1−4 研究目的
近年,高効率なエネルギー利用機器として,エネルギー変換装置において発生す
る排熱を回収して利用するシステムが数多く開発されるようになってきた.GHPを
はじめとして,コ・一一ジェネレ・・一一・ションシステムにおいて発電機を回すガスエンジン
やガスタービンで発生する排熱を回収して利用するシステム,実用化されつつある
燃料電池において発生する排熱を回収して利用することを想定したシステム(27)(28)
などである.家庭用の機器であれば,回収した排熱は給湯や暖房等に利用すること
を想定し,高いシステムCOPを実現している.しかし,実際に人が生活の中でど
のように回収した排熱を利用しているかを検証した研究は少ない.
本研究では,排熱利用がエネルギー消費の削減に効果的であることを検討するた
め,実験ハウスに設置したGHPシステムを使って実証試験を行った・このシステ
ムは空調のみではなくガスエンジンからの排熱を実験ハウス内の給湯24時間風呂,
床暖房,浴室乾燥機に利用することが可能である、そのモデルハウスに人が住み込
み季節に応じた生活パターンでエネルギーを消費することで,種々の生活パターン
一5一
がエネルギー利用量およびシステムの成績係数等におよぼす影響を検討したもので
ある.
また,用途が給湯に限られ排熱を有効に利用できない夏期におけるGHPシステ
ムの排熱を,シリカゲルー水系吸着冷凍サイクルの駆動熱源として利用して冷房の
強化を行うことを,より高効率なシステムの構築例として想定した.
しかし,吸着サイクルは一般に効率が高くないので、吸着器における熱および物
質移動の向上による高効率化をはかる必要がある・そこで,吸着器のモデルである
ユニットモデルを考案した.ユニットモデルとは,実際には大型で多数の伝熱管が
取り付けられる吸着器を,小型で1本の伝熱管のみを用いる吸着器にしたものであ
る.小型にすることで伝熱管の形状等の条件を変えた実験が容易に行え,そして1
本の伝熱管において起こる現象を捉えることで,実機の吸着器における現象を推測
することが可能となる.また,シリカゲルを接着した1本の伝熱管をユニットセル
と名付け,このユニットセルの熱および物質移動特性の最適化について実験的およ
び解析的に検討を行った.
亙一5 本論文の構成
本論文は5章で構成されている.2章以下の各章の内容は次の通りである.
2章ではGHPシステムの実証試験について述べている.排熱を回収することがで
きるGHPシステムを設置した実験ハウスに,実際に人が住み込み季節に応じた生
活パターンで,冷房や暖房と24時間風呂,床暖房,浴室乾燥機,給湯を使用した.
季節ごとのエネルギー消費とGHPシステムのCOPの計測結果を示し,それをもと
に排熱利用の有効性について検討している.
一6一
3章ではシリカゲルー水系吸着冷凍サイクルの高効率化について述べている.吸
着器のモデルであるユニットモデル吸着器を用いた実験の結果から,ユニットセル
のフKンピッチ,フィン高さ,および温度条件が吸着プロセスの進行におよぼす影
響について検討を行った.また,シンプルな構造モデルを用いた数値解析の結果か
らユニットセルの最適フィンピッチとフィン高さを示した.
4章では1年を通してGHPシステムを利用した場合の月ごとのエネルギー消費
と年間エネルギー利用効率の試算を行っている.また,GHPシステムに吸着冷凍サ
イクルを組み込んで連合運転することを想定して,連合運転によるCOP向上の可
能性についても検討している.
5章では本研究の総括を行う.
参考文献
(1)吉田邦夫, “GHP便覧”,(1994),29−30,石油化学新聞社.
(2)児玉昭雄,広瀬勉,“デシカント空調プロセス”,太陽エネルギー,27・2(2001),
2・11.
(3)伊藤睦広,浅野達也, “シリカゲルの吸着特性を利用する湿度スイング冷房
(HSA)の特徴と可能性”,太陽エネルギー一,27・2(2001),12−18.
(4)広瀬勉,児玉昭雄,川崎春夫,岡野浩志,“太陽熱利用デシカント空調”,太
陽エネルギー,27・2(2001),19・26.
(5)小泉尚夫,“固体デシカント蓄熱式冷房システム”,太陽エネルギー,27・2(2001),
27・33.
(6)金森道人,平松正義,柴田貴之,渡辺藤雄,松田仁樹,架谷昌信, “低相対水
一7一
蒸気圧下におけるゼオライト/水系の吸着平衡と吸着蓄熱に関する実験的検証”,
化学工学論文集,24・2(1998),243・247.
(7)渡辺藤雄,神谷直美,架谷昌信,“PVF成形体を原料とする構造状活性炭の製
造”,化学工学論文集,10・5(1984),574・580.
(8)渡辺藤雄,杉浦敏史,架谷昌信,“構造状活性炭/水蒸気系吸着ヒートポンプの
作動範囲”,化学工学論文集,15・1(1989),38・43.
(9)渡辺藤雄,小塚淳,伊藤睦弘,架谷昌信,“スーパー活性炭/エタノール系充填
層型吸着ヒートポンプにおける熱・物質移動に関する研究”,化学工学論文集,
22・4(1996), 722・727.
(10)金森道人,葛山弘一,渡辺藤雄,松田仁樹,架谷昌信,辻本聡一郎,柏原義孝,
“平板状スーパー活性炭/伝熱板一体型吸着器で構成されるエタノール系吸着
ヒートポンプの冷熱生成特性”,化学工学論文集,24・1(1998),131−133.
(11)M.Kanamori, M.Hiramatu, K.Katsurayama, F.Watanabe,且.Ma七suda,
M.Hasa七ani,“Production of cold hea七energy by alcohol/ac七iva七ed carbon
adsorption hea七pump wi七h a disk・module・type adsorber”,」. Chem. Eng.
Jpn., 30・3(1997), 434。439.
(12)稲葉英男,尾崎公一,堀部明彦,亀田澄広,木田貴之,“有機系粉末状吸着剤
の流動層化に伴う熱物質伝達”,第35回日本伝熱シンポジウム講演論文集,
(1998・5), 873・874.
(13)稲葉英男,尾崎公一,堀部明彦,下山力生,木田貴之, “繊維系水蒸気吸着剤
充填層の熱物質伝達特性”,第35回日本伝熱シンポジウム講演論文集,(1998・5),
875曹876.
(14)R.Z.Wang, J.Y.Wu, Y.X.Xu, Y.Teng, W.Shi, “EXPERIMENT ON A
CONTINUOUS HEAT REGENERATIVE ADSORPTION REFRIGERATOR
一8一
USING SPIRAL PLATE HEAT EXCHANGER AS ADSORBERS”,Appl.
Thelmal Eng.,18・1・2(1998),13・23.
(15)R.Z.Wang, J.Y.Wu, Y.X.Xu,“A Continuous Hea七Regenerative Adsorp七ion
Refrigerator Using Spiral Plate Heat Exchanger as Adsorbers:
Improvements”,Trans. ASME。 J. Solar Eneヱgy Eng.,121(1999),14・19.
(16)T.H.Eun, H.KSong, J.H.Han, K.H.Lee, JN.Kim, “EIlhancement ofheat
and mass transfer in silica・expanded graphite composite blocks for
adsorption heat pumpsPart I.Characterization of七he composi七e blocks”,
Int. J. Refrigeration,23(2000),64・73.
(17)T.H.Eun, H.KSong, J.且.Han, KH.Lee, J.N.Kim,“Enhancement of heat
and mass transfer in silica・expanded graphite composite blocks for
adsorp七ion hea七pumps Par七H.Cooling system using the composi七e blocks”,
r Int. J. Refrigera七ion,23(2000),74・81.
(18)渡辺藤雄,小塚淳,尾前純也,汲田幹夫,架谷昌信, “多管式吸着熱交換型吸
着器で構成される吸着ヒートポンプの熱・物質移動に関する実験的検討”,化 一
学工学論文集,20・3(1994),339・345.
(19)伊藤睦弘,渡辺藤雄,架谷昌信,“吸着ヒートポンプ用シリカゲルの吸着性能
向上および直接熱交i換モジュールによる伝熱特性改善の検討”,化学工学論文
集, 22・1(1996), 163・170。
(20)伊藤睦弘,渡辺藤雄,架谷昌信, “直接熱交換モジュールを用いる吸着ヒート
ポンプの冷熱出熱特性”,化学工学論文集,22・4(1996),926・929.
(21)KC.A.Alam, B.B.Saha, A.Akisawa, T.1(ashiwagi, “従来型シリカゲル/
水系吸着冷凍機に関する新しいパラメータ解析”,日本冷凍空調学会論文集,
17・3(2000), 323・332.
一9一
(22)K.C.A.Alam, B.B.Saha, Y.T.Kang, A.Akisawa, T.Kashiwagi, “Heat
exchanger design effect on the system performance of silica gel adsorption
refrigeration systems”,Int. J.且ea七Mass Transf.,43(2000),4419−4431.
(23)B.B.Saha, A.Akisawa, T.Kashiwagi, “Solar/waste heat driven two−stage
ad.sorption chiller:七he prototype”,Renewable Energy,23(2001),93・101.
(24)E.B◎elman, B.B.Saha,田中愛治,柏木孝夫,“シリカゲル・水系の吸着冷凍
サイクルにおける駆動熱源低温化の可能性について(従来単段型及びアドバン
ス3段型の検討を中心に)”,日本冷凍協会論文集,11−3(1994),357−369.
(25)B.B.Saha, T.Kashiwagi, “Experimen七al Inves七iga七ion of an Advanced
Adsorption Refrigeration Cycle”,ASHRAE Trans.,103−2(1997),50・58.
(26)B.B.Saha, A.Akisawa, T.Kashiwagi, “SILICA G肌WATER ADVANCED
ADSORPTION REFRIGERATION CYCLE”,Eneオgy,22・4(1997),437−447.
(27)星田敏博,中村直人,浅井広志,架谷昌信,渡辺敏雄,藤澤亮, “低温排熱駆
動型吸着ヒートポンプの開発”,日本冷凍空調学会論文集,17・3(2000),307・312.
(28)藤澤亮,田内吉治,渡辺藤雄,小林敬幸,架谷昌信, “リン酸型燃料電池組込
型吸着ヒートポンプの動作特性”,化学工学論文集,28・3(2002),247−253.
一10一
2章 GHPシステムの実証試験
GHPによる冷暖房システムは,その排熱を給湯や冷暖房強化などに有効に利用で
きるので省エネルギー性が高く,また夏期の電力消費ピーク対策としても期待され
ている.しかし,具体的に排熱利用システムを適用した実績報告はきわめて少ない
のが現状である.
本研究では,排熱を利用するGHPシステムを試作し,それを実験ハウス内に設
置して省エネルギー性の実証を行った.すなわち,ガスエンジンからの排熱を給湯,
24時間風呂,床暖房,浴室乾燥機に利用できるシステムを構築し,種々の生活パタ
ーンがエネルギー利用量およびシステムの成績係数等におよぼす影響を検討したも
のである。
2−1 GHP(ガスエンジンヒートポンプ)
電気式ヒートポンプが圧縮機を駆動する動力源として電気モーターを使用するの
に対し,GHPはガスエンジンで圧縮機を駆動するヒートポンプである.エネルギー
の利用形態として,二次エネルギーである電気で駆動する電気式ヒートポンプと比
較して,GHPは一次エネルギーであるガスを直接利用するので,排熱として放出さ
れるエンジン冷却水,排ガス等の熱を回収することが可能であり,一次エネルギー
を有効に利用することができる.
図2・1に電気式ヒートポンプ(EHP)とGHPの,一次エネルギーを基準にした代表
的なエネルギーフロー(1)を示す.趾IPではモーターを駆動するまでに,発電と送電
における損失で投入した熱量の67%が失われ,ヒートポンプの駆動熱源として投入
一一一
P1一
できるのは33%である.GHPでも,ヒートポンプの駆動熱源として利用できるの
は,投入した熱量の35%ほどである.冷房運転時ではヒートポンプのみによって冷
熱が得られるのでEHPとGHPで出力はほぼ同等である.一方,暖房運転ではGHP
は回収した排熱と,ヒートポンプによって汲み上げられた熱量を合わせて利用する
ことでEHPの約1.5倍の出力を得ることが可能である.
Fuel Fuel
100 100
P聾a論 Pla品
T「ansmi ャi°nl°ss Gene・蓄gl・・s
Generating loss
TranSmiSSiOn IOS$
5
60
Motor
33
Motor loss
2
Motor loss lntake heat
2 99
Exhaust heat
165
Cooling
Heating
132
132
(Cooling) (Hea七ing)
< EHP >
図2・1 エネルギーフロー(その1).
一 12一
Fuel
Fuel
100
lOO
Gas engine Gas engine
Shaft output
Loss 35
Shaft output
35
Loss
Heat『eoove『y
exchange『
H蟹鵬趨溜『y I・t・k・heat
52 Loss
Loss
Exhaust heat
175 227
Cooling
Heating
140
192
(Cooling) (Hea七ing)
< GHP >
図2−1 エネルギーフロー(その2).
2−2 GHP冷暖房システムの概要
試作したGHP冷暖房システムは,21世紀住宅開発プロジェクトとして浜松地域
テクノポリス都田地区静岡大学地域共同研究センター内の実証試験ハウスに設置さ
れた.このハウスは高効率空調技術,高性能住宅設備,高機能住宅建材を実際の住
宅に適用して,その機能性,有効性を総合的に評価する目的で建設された.実証試
験ハウスの概要を図2・2に示す.
一 13一
構造: 木造軸組構造
平屋建て(一部2階建て)
メ、卿『
2/100勾配ルーフデッキ
F
〆’、 . .一噌}
延床面積: 211.9m2(64坪)
熱損失係数:2.7W/(m2・K)
相当隙間面積:2.24cm2/m2
(1) 実証試験ハウス外観
実験時の居住者数:大人2人
(2) 実証試験ハウス仕様
一一
灘蕪
C 緊
蕪一攣難 熱
1 懲鱒適癒舞籔塑器世烈
(3)G且Pシステム室外機 (4) 多機能エネルギー利用システム
図2・2 実証試験ハウス概要.
実験ハウスは多機能エネルギー利用システムとしてGHPシステムを備えている.
GHPによる空調だけでなく,ガスエンジンの排熱を温水として住宅内に送り込み,
暖房強化や給湯,24時間風呂,浴室乾燥機,床暖房に利用することができる.また,
住宅は熱損失係数,相当隙間面積ともに地域区分4(静岡県)における次世代省エネ
ルギー基準をクリアする高い断熱性を有している.
図2−3に実験ハウスに組み込んだGHPシステムの概要と各運転モードにおける
一14一
冷媒とブライン(冷却水)の流れを示す.システムの基本的構成要素は,LPガスを燃
料とするガスエンジン2と排熱回収部3,4,コンプレッサ8と冷媒循環部
9,10,11,17,18,19,空調ユニット部16,給湯用貯湯タンク12,24時間風呂13,浴
室乾燥機15,床暖房14からなる温水利用部などである.
次に,各運転モードについて述べる.給湯モードは空調を行わず温水のみを利用
する運転モードである.温水の熱源となるのはヒートポンプサイクルによる冷媒の
凝縮熱と,エンジン本体および排気ガスの排熱である.熱交換器5において冷媒の
凝縮熱を回収し,熱交換器4において排熱を回収して高温となったブラインは,住
宅内に送られ給湯系に熱を供給する.
冬期における暖房+給湯モードは,暖房と給湯系を同時に利用する運転モードで
ある.ヒートポンプサイクルによる冷媒の凝縮熱は,空調ユニット16に送られ暖
房を行う.冷媒の凝縮熱は暖房に利用されるので,給湯モードとは異なり熱交換器
5は使用されない.排熱を回収することで加熱されたブラインは給湯系で利用され
るほか,空調ユニットの温水熱交換器に送られ暖房の強化にも利用される.暖房モ
ードは暖房+給湯モードとほぼ同じであり,回収した排熱を暖房強化にのみ利用す
る.
夏期における冷房モードは,四方弁10により冷媒の循環方向を変えることで冷
凍サイクル運転を行い,冷媒の蒸発熱によって冷房を行う.ブラインによって回収
された排熱と冷媒の凝縮熱は,ラジエタ17によって外部に放出される.冷房十給
湯モードは,冷房と給湯系を同時に利用する運転モードである.回収された冷媒の
凝縮熱と排熱は給湯系において利用されるため,給湯負荷が大きい場合にはラジエ
タは使われない.ただし,給湯負荷が小さく回収した排熱の全てを利用しない揚合
は,ラジエタによって外部に放出される.
一15一
このGHPシステムの主な構成要素の仕様を以下に示す.
室外機定格能力 給湯 8.6kW
暖房 12.8 kW
冷房 7.6kW
室外機定格消費電力 0.30kW(60 Hz)
室内機定格消費電力 0.27kW(60 Hz)x 2機
ガスエンジン 排気量293cm3
燃料 LPガス
定格出力 2.2 kW/2500 rp m
ブライン(冷却水) エチレングリコール50%水溶液
圧縮機 スクロール式
冷媒 R22
貯湯タンク容量 0.27m3
浴槽容積 0.3m3
床暖房パネル 1500mm×750 mm
放熱能力 140W/m2
一16一
@leemp−pm−一一一ee−一一一・ 一 員
愈
:・:・:・:ii…:・
1
2
@ 翼 17
8
A8
9
囲
10
18
19
12
R
13
.織粛
一一一鵬一回四 @ Refrigerant
18
. 14
・区]一粛
㈱獅纐灘圏灘蝋鐡 @ Brine
ヒ設愚
ロ
含 :
o ・
9
(給湯モード)
礪繍・ 9
iglgi;:iiit・
愈4 − i含 i
6 −mu−Ri i
5
● ,
2
ロ コ
11 三………韓・・闘鱒・鱒叫。三
1
17
8
18
圏 粛
9
10
1:Fuel+Air 10:Four−way valve
2:Gas engine 11;Heat exchang.er
3:Exhaust gas 12:Hot water supply
4:Heat exchanger 13:Bath for 24 hrs
厨粛
13
−twmewa9
14
5:Heat exchanger 14:Floor heater
図一9
6:Water pump 15:Bath room dryer
畢 15
7:Air separator 16:Air conditioning unit
…簸菌嵐灘
‘ 8:Compressor 17:Radiator . i i
ロ
9:Accumulator 18:Expansion valve i i
■
19:Receiver i i
(暖房十給湯モード)
図2・3GHPシステム概略図(その1).
一17一
19
. 12
18
18
(冷房モード)
母鰯[コ㎜算i岬[Σ華
息、
爵粛
G3
⑭秘
図一粛
腎)15
ミ ミ
i____是__.__.1 16
(冷房十給湯モード)
図2−3 GHPシステム概略図(その2).
一18一
2−3 計測方法
家庭におけるエネルギーの消費状況は季節によって異なるので,1年を冬期,夏
期およびその中間期に分けて計測を行った.この場合,実際に実験ハウスに人が住
み込み,それぞれの季節に応じて表2・1に示すような機器構成で空調負荷および給
湯負荷をかけエネルギーを消費した.なお,表中のHWSは給湯を示している.
表2・1運転モード.
Operation mode
Equipments
HWS
Hea七ing
○
Air conditior江ng unit
Heating
{HWS
○
Cooling
○
Cooling
{1迂WS
○
且ot wa七er supPly(且WS)
○
○
Ba七h fbr 24 hrs
○
○
Ba七h room dlyer
○
Floor hea七er
○
実験時に計測したものは燃料消費量,ブラインおよび空調空気の温度,圧力,流
量,住環境の温度,湿度であり,システムの成績係数(COP)を求めるために以下の
計算式を使用した.
エンジン供給熱量
99欝=Hg。、 Gg鋸 (2・1)
空調室内機空気比エンタルピ差
D。、 ” [c,。 T、n+(Es+c,, T、n)x、,,]’一 [c,。 T。ut+(E、 + c,, T。、、t)x。ut] (2・2)
空調能力
2ac=ヱ:)ac Mac (2贋3)
給湯能力
2hwsニdTc/Gci Cci (2・4)
一19一
全利用熱量
2totai=2ac十2hws (2。5)
空調COP
CO鳴。=皇 (2−6)
2gas
給湯COP
C・脂鉦 2gas
(2.7)
全COP
Cαも砂,=鉦 (2−8)
2gas
2−4 計測結果
実験ハウスにおける実証試験に先立ち,本研究で使用したGHPの基本特性を調
べる予備実験を行った.実験はGHPを恒温実験室に設置して,外気温度および室
内温度を一定に保った条件で行った.
図2・4にエンジン回転数を変化させたときの冷房運転時におけるCOPの変化を
測定した結果を示す.温度条件として恒温実験室の室内および外気の温度を3種類
変化させた.いずれの温度に対しても冷房専用COPはエンジン回転数と共に単調
に減少している.これは,測定範囲内においてではあるが負荷が小さいほどCOP
が大きいことを示している.また,外気と室内の温度差が小さい方ほどCOPが大
きくなる結果が得られたが,理論サイクル上から得られる一般的な結果と一致して
いる.
一20一
また,エンジンを定格出力の2500rpmに設定し,外気温度を変化させたときの
冷房COPの測定結果を図2・5に示す.外気温度が27℃において0.9であったCOP
は,外気温度の上昇と共に低下し,38℃において0.75まで低下している。その傾
向は図2・4の結果と同じである.
2.5
T。ut=21°C 7}η呂21°C
2
Tout=35°C Tin”27°C
… 一… …アou∼躍43°C 7}η呂32°C
ao
o
1.5
O.5
0
1200 1600 2000 2400
Revoluti◎n of gas engine[rpm]
図2・4 ガスエンジン回転数とCOPの関係.
0.8
ao
o
0.6
0.4
28 32 36
0utside air temperature [°C]
図2・5 外気温度とCOPの関係.
一21一
2−4−1 中間期(5月)
(a)給湯能力
中間期において,貯湯タンクおよび24時間風呂を沸き上げるのに要した熱量計
測の結果を図2−6に示す.これは17℃の市水をタンク51℃,風呂44℃まで上昇さ
せ,その後間欠的に温水を使用したときの状況を示したものである.平均外気温度
は15℃であった.給湯熱量は17:00∼17:30の間,最大出力を示している.その間
に,風呂加熱用の温水温度が上昇してピークに達する.17:30以降は,風呂加熱用
の熱量が減少するため全体の熱量が減少する.18:30で風呂の加熱がほぼ終了して,
貯湯タンクの加熱のみに給湯熱量が投入され,19:00で加熱が終了している.加熱
中の給湯熱量の75%はヒートポンプによって得られ,残りの25%はエンジン排熱(前
半30%,後半20%)から得られている.また,図中において22:30のピークは間欠
的に温水を使用したときの応答であるが,この場合も沸き上げ時と同様に排熱が利
用されていることがわかる.
20
Total
Heat Pump
re
垂45
一
倉
り
臣10
暮
9
5霜 5
$
工
0
16:00 18:00 20:00 22:00 24:00
Time
図2・6 給湯モードにおける出力変化(中間期).
一22一
このときのシステムの瞬間COPと積算平均COPは図2・7のようになった.給湯
負荷が大きい17:00∼19:00の間では瞬間COPは1.8を越える値を示し,その間の
積算平均COPは1.62であった.間欠的に使用したときのCOPは連続使用時より
も低く1.3であった.そのため,7時間の計測を通しての積算平均COPは, L59
となった.これは燃料の燃焼による加熱に比べて59%以上のエネルギーが節約され
たことを表している.
3
lnstantaneous COP
lntegrating average COP
江
o
o
16:00 18:00 20:00 22:00 24:00
Time
図2・7 給湯モードにおけるCOP変化(中間期),
2−4−2 冬期(1月)
(a)暖房能力
冬期における暖房能力の熱量計測の結果とCOPを図2・8,図2・9に示す.計測時
の温度条件は平均外気温度8℃,初期室内温度12℃,設定温度20℃であった.測定
開始から3:00までの3時間,室温を設定温度まで上げるために,GHPは連続的に
一23一
稼動している.その間,全暖房能力の内の50%が排熱で補われており,暖房能力は
13kWに達している.そして,瞬間COPは1.5に達している.室温が設定温度に
達した後は,室温を保っために間欠的にGHPが駆動している.外気温が高い昼間
は,夜間と比較して必要とする暖房熱量が少ないためGHPが休止する間隔は長く
なっている.間欠運転時も全暖房能力中の40%は排熱回収分が占めている.瞬間
COPは連続運転時よりも低く1.3程度まで低下しているが,1日平均のCOPでは
1.32を示した.
この計測では,常に排熱を回収し暖房の強化に使っているが,その効果を評価す
るため,本GHPシステムで排熱を回収しない暖房モード(2管式)と,排熱を回収し
て利用する暖房モード(4管式)において,それぞれ定格運転した結果を比較してみ
る.2管式では定格出力は9.3kWとなりCOPが1.00であったのに対し,4管式で
は定格出力は12.7kWとなりCOPが1.42であった.排熱回収による暖房の強化に
より,出力は37%増加し,COPは42%向上した.実験ハウスにおける結果と比較
すると,定格時よりもヒートポンプ運転による出力は低下するが,暖房負荷が大き
20
Total
Waste heat
姜15
一
9
の
器10
ぎ
?
’= 5
$
コ:
0
0:00 3:00 6:00 9:00 12:0015:0018:0021:0024:00
Time
図2・8 暖房モードにおける出力変化(冬期).
一24一
いために,排熱回収の熱交換器における熱交換率が上昇し,多くの排熱を回収する
ことができたため,定格時よりも高いCOPを示したと考えられる.このように排
熱利用が,GHPシステムのエネルギー利用効率を効果的に引き上げていることがわ
かる.
3
lnstantaneous COP
− 1ntegrating average COP
比
o
o
0:00 3:00 6:00 9:00 12:0015:0018:0021:0024:00
Time
図2・9 暖房モードにおけるCOP変化(冬期).
(b) 給湯能力
中間期と同様に,冬期における貯湯タンクと24時間風呂の沸き上げを行ったと
きの熱量計測の結果とCOPを図2・10,2・11に示す.冬期であるため中間期と比較
して温度条件は低く,平均外気温度は6℃,市水温度は8℃であった.貯湯タンク
と風呂の設定温度はそれぞれ52℃と44℃である.沸き上げに要する時間は3時間
と中間期よりも60分長くなっている.その間のCOPは1.40となった.沸き上げ
時における,全体の熱量に占める排熱使用の割合は前半が35%で後半が20%であっ
た.これは,給湯負荷が大きいために,より多くの排熱を回収することができたた
めである.しかし,6時間の計測を通しての積算平均COPは,1.38となり中間期
と比較して13%低い値になった.
一25一
20
Total
ii, _=搬鵬
暑
套1°
慧5
工0
12:00 14:00 16:00 18:00 20:00
°rime
図2・10 給湯モードにおける出力変化(冬期).
3
Snstantaneous COP
lntegrating ave rage COP
2
Ω.
o y“ひ一一____
0
1
0
12:00 14:00 16:00 18:00 20:00
Time
図2・11 給湯モードにおけるCOP変化(冬期).
(c) 暖房と給湯の併用能力
暖房と給湯系を連続して同時に作動させたときの測定結果を図2・12,2・13,2・14
に示す.給湯系は床暖房と浴室乾燥機を作動させた.このときの平均外気温度は2℃,
初期室内温度は13℃,設定温度は20℃であった.床暖房は計測中継続して作動さ
一26一
せ,浴室乾燥機は15:00∼18:00の間のみ使用した.図2−13において瞬間COPが
数回3以上の値を示している.これはガスエンジンが頻繁に停止と運転を繰り返し
ているので,ガスエンジンが停止した直後や始動した直後のような場合では,ガス
流量とブライン流量,送風機の風量の変化が同期していないためである.給湯系を
併用している揚合では,回収した排熱の一部を給湯系に供給しなければならないた
め,暖房のみで作動させているときと比較して,暖房能力は15%ほど低下している.
また,給湯系の床暖房と浴室乾燥機が同時に作動している15:00∼18:00では,排
熱は全て給湯系の熱源として使用されるため,暖房はヒートポンプのみで間欠的に
駆動されている.従って,浴室乾燥機が作動する前の暖房COPは1.1であるが,
15:00∼18:00の間は0.9に落ち込々でいる。一方,給湯COPは給湯負荷の増大に
より0.2から0.8近くまで上昇している.計測全体での積算平均COPは1.32であ
り,暖房のみを使用している場合と同じ値となった.
20
Total
§15 _一辮鼎詩,
奮1。
5 、 、
rr l l
◎⊃ 1
=
§5 ・Ilk
エ。. 絶瑠翻撚鰍耀》
0:00 3:00 6:00 9:00 12:0015:0018:0021:0024:00
Time
図2・12 暖房+給湯モードにおける出力変化(冬期).
一27一
To乏al
Air conditioning
………一・ got water supply
」
o
o
0:00 3:00 6:00 9:00 12:0015:0018:0021:0024:00
Time
図2・13 暖房+給湯モードにおけるCOP変化(冬期).
Total
Air conditioning
一一一…一一。−Hot water supply
§
「\…
、kv−一“.一.一__e..,ρ・・一・・P・・一‘’e‘一‘”一■
0:00 3:00 6:00 9:00 12:0015:0018:0021 :OO 24:00
Time
図2−14 暖房十給湯モードにおける積算COP変化(冬期).
2−4−3 夏期(7月)
(a)冷房能力
夏期における冷房能力の熱量計測の結果と計測時の外気温度の変化を図2・15に
一28一
示す.計測時の温度条件は平均外気温度30℃,初期室内温度26℃,設定温度26℃
であった.冷房運転では,GHPの排熱は使用されず全て廃棄されるため,冷房出力
はヒートポンプのみによって供給される.外気温度が低い夜聞ではGHPが聞欠的
に駆動していて,冷房出力はほぼ5kWである.昼間になり気温が上昇すると,GHP
は連続運転され冷房出力は7.3kWまで増加している.
GHPであってもファンやポンプの駆動などのために電力を消費する.電力消費の
計測例を図2−16に示す.冷房出力が抑えられている夜間では,消費電力は0.5kW
であり,60%が室外機で消費されている.一方,最大出力で運転されている昼間で
は,システム全体の消費電力は0.9kWまで増加している.しかし,室外機の電力
消費はほとんど変化がなく,増加分は室内機の運転で消費されていることがわかる.
GHPはコンプレッサをエンジンで駆動するので,室外機全体の消費電力は同出力の
EHP(2)よりも小さいが,室外機のコンプレッサ以外の部分で消費される電力を比較
するとGHPのほうが大きくなる.冷房専用モv…一・・ドでは排熱は使用されないため,
冷媒の凝縮熱だけでなくガスエンジンの排熱も外部に放出しなければならない.そ
20 40
冒
』
一
駕
葱10 20∈
5 Φ
rr −
m 莞
=
’揖 5 Φ
6 で
£ ヨ
8
0
0:00 3:00 6:00 9:00 12:0015:0018:0021 :OO 24:00
Time
図2・15 冷房モードにおける出力変化および外気温の変化(夏期),
一29一
のため,ラジエタを冷却する送風ファンは定格消費電力が0.1kWとEHPの約3
倍の電力を消費する.加えて,ブラインを循環させる冷却水ポンプを駆動するため
に定格で0.15kWの電力が消費される.
式(2・6)のCOPの算出式では電力消費を考慮していないが,一次エネルギー換算
一1・5
3 Total
x
一 〇utCloor unit
=
£1
含
甦
暑α5
§
畠o
0:00 3:00 6:00 9:00 12:0015:0018:0021 :OO 24:00
Time
図2・16 冷房モードにおける電力消費変化(夏期).
3
一Excluding electricity consumption
−Including electricity consumption
2
o
o
1
0
0:00 3:00 6:00 9:00 12:0015:0018:0021:0024:00
Time
図2・17 冷房モードにおけるCOP変化(夏期).
一30一
率として2450kcal/kWhを用いて室外機の電力消費を投入熱量に含めてCOPを算
出したのが図2・17,2・18である.冷房負荷の小さい夜間では,COPは1を超える
値を示している。しかし,負荷の大きい昼間では,COPは0.8まで下がり,電力消
費を考慮するとさらに12%低い値を示している.1日の積算平均では電力消費を考
慮しない場合で1.00,考慮に入れると0.83となり,17%ほど小さい値になる、冷
房運転の場合だけでなく暖房運転の場合でも,投入熱量のうち電力消費が約17%を
占めているが,全体のCOPへの影響はあまり大きくないといえる.
3
一Excluding electricity consumption
−一一
hncluding electricity consumption
2
匹
o
o
1
0
0:00 3:00 6:00 9:00 12:0015:0018:0021:0024:00
Time
図2・18 冷房モードにおける積算COP変化(夏期).
(b) 給湯能力
夏期における貯湯タンクと24時間風呂の沸き上げを行ったときの熱量計測の結
果とCOPを図2・19,2・20に示す.温度条件は,平均外気温度は31℃,市水温度は
28℃である.貯湯タンクと風呂の設定温度は45℃と44℃である.なお,この実験
においては,沸き上げが終了した時点で計測を終了している.沸き上げに要する時
間は,市水温度が高いため,他の季節と比較して最も短く1時間であった.全体の
一31 一
熱量に占める排熱使用の割合は15%であり,排熱の使用量は最も少ない.また,給
湯負荷が小さいためにガスェンジンは常に1200rp皿の低回転数で駆動していた・
そのために,外気温度は高いにもかかわらずヒートポンプの運転効率が向上して,
積算平均COPは2.08という高い値を示している.
20
垂15
一
喜
Total
Heat Pump
−一一。−
vaste heat
ゼ
器10
暮
曾
8= 5
$
工
16:00 18:00 20:00 22:00 24:00
Time
図2・19 給湯モードにおける出力変化(夏期).
3 instantaneous COP
lntegrating aVerage COP
飢
o
o
16:00 18:00 20:00 22:00 24:00
Time
図2・20 給湯モードにおけるCOP変化(夏期).
一32一
(c) 冷房と給湯の併用能力
冷房と給湯系を同時に運転したときの計測結果を図2・21,2−22,2・23に示す.
平均外気温度は31℃であった.夏期には温水の使用量(給湯負荷)が少なく,床暖房
のように継続して使用される用途がないため,エンジンからの排熱を十分に利用す
ることができない.従って,給湯系は間欠的な使用となり,全体の傾向は冷房のみ
の場合と同様の傾向を示している。冷房運転では排熱は利用されないため,給湯を
使用した時間帯では非常に大きな出力を示している.つまり,給湯系の熱源はすべ
て排熱によって賄われるので,給湯系を使用しても冷房出力は低下しないため,給
湯の出力をそのまま冷房出力に上乗せしたのが全体の出力になる.計測中最も給湯
負荷が大きかった18:00∼20:00では全体熱量は平均で7.9kWに達し, COPも平
均で1.5まで上昇している.しかし,1日あたりの積算平均COPでは空調が1.00,
システム全体で1.04となった.
以上のことから夏期には排熱を利用する量が少ないのでGHPのCOPの向上分が
小さいといえる.
20
Total
l ,, __欝麟iε瑠y
;
§1°
慧5
コ:0
0:00 3:00 6:00 9:00 12:0015:0018:0021:0024:00
Time
図2・21 冷房十給湯モードにおける出力変化(夏期).
一33一
3
2
i
o
o
』_髭一瀧」」1一
0:00 3:00 6:00 9:00 12:0015:0018:0021:0024:00
Time
図2−22 冷房+給湯モードにおけるCOP変化(夏期),
3
……一… got water s叩ply
」
oo
0:00 3:00 6:00 9:00 12:0015:0018:0021:0024:00
Time
図2・23 冷房+給湯モードにおける積算COP変化(夏期).
2−5 結論
1年を通じて行った各種計測の結果をまとめると,以下のようになる.
−34一
平均COP
中間期 給湯 1.59
暖房 1.32
冬期 給湯 1.41
暖房十給湯 1.32
冷房 1.00
夏期 給湯 2.08
冷房+給湯 1.04
すべての計測において平均COPは1以上の値であり,これはガスエンジンに投
入した熱量以上の熱量を取り出せたことを示している.
今回の計測から,GHP冷暖房システムにおいてガスエンジンからの排熱を有効に
利用することで,1年を通じてエネルギー利用効率が大きく向上することを実証で
きたといえる.
記号
C。1 :クーラント比熱 [J/(kg・℃)]
Cpa :乾き空気定圧比熱 [J/(kg★・℃)]
Cp,, :水蒸気の定圧比熱 [J/(kg・℃)]
COP.。:空調COP [・]
COPhws: 糸合湯COP [。]
CO.P,。t。i:全COP[・l
Da。 :室内機入口出口空気比エンタルピ差 [J/kg]
Es :0℃における水の蒸発潜熱 [J/kg]
Gci :クーラント質量流量 [kg/s】
一35一
Ggas :燃料ガス標準状態換算流量 [m3/s]
Hgas :燃料ガス低位発熱量 [J/m3]
Ma、 :室内機風量 [kgツs]
2ac :空調能力 [W】
2gas :エンジン供給熱量 [W]
2hw、 :給湯能力 [W]
2,。t。t :全利用熱量 [W]
T :空気温度 [℃】
AT,1 :クーラント室外機入口出口温度差 [℃]
X :空気絶対湿度 [kg/kg“]
添字
in “:室内機入口
out :室内機出口
なお,kガは湿り空気中の乾き空気の質量を示す.
参考文献
(1)吉田監修,“GHP便覧”,(1994),90,石油化学新聞社.
(2)ダイキンエアコン住宅設備用カタログCROO36C,(2001),78,ダイキン工業
(株).
一36一
3章GHPシステムの排熱を駆動熱源とする吸着サイクルの高効率化
2章において述べたGHPシステムの実証試験の結果,冬期については排熱の有効
利用により,高いシステムCOPを得ることができた.一方,夏期については排熱
の利用用途が限られるため排熱を有効に利用できず,システムCOPは排熱を回収
しない場合とほとんど変わらない結果となった.
この解決策として,排熱によりケミカルビV−一一・トポンプを駆動し,得られた冷熱に
よって冷房強化をする方法が挙げられる.これにより,夏期におけるGHPシステ
ムのCOPが向上し,1年を通してより高効率なエネルギー利用が可能となる.GHP
のガスエンジンより得られる排熱は80℃以下であるため,本研究では低レベル熱源
でも駆動が可能なシリカゲルー水系吸着冷凍サイクルを選択した.しかし,吸着冷
凍サイクルは一般に効率が低いため,高効率化を図るための様々な研究が行われて
いるのが現状である.この章では,シリカゲルー水系吸着サイクルの吸着器におけ
る熱および物質移動の向上について実験的および解析的に検討を行った結果にっい
て述べる.
3−1 吸着冷凍サイクル
未利用の低レベルエネルギーの高レベル化利用技術として種々のヒートポンプが
あるが,ケミカルヒートポンプは熱エネルギーを直接駆動熱源とする合理的な熱エ
ネルギー変換機である.その一つである吸着サイクルは,低温の未利用熱エネルギ
ーを駆動熱源として利用することができるサイクルである,加えて,吸着剤・吸着
質の組み合わせと吸着剤物性を選定することで熱源温度範囲を制御できるため,低
一37一
温熱エネルギーを含む中低温排熱を隈なく回収して冷熱,もしくは100℃程度の温
熱の生成を行えるという特徴を持つ.
吸着サイクルは吸着・脱着現象に付随して起こる相変化を利用して,熱の汲み上
げを行うエネルギー有効利用技術であり,蒸気圧縮式や吸収式に代表される他のサ
イクルと比較すると,次に挙げるような特徴を有する.
(1) 熱源温度の低下による能力の低下が少ない.
(2) 100℃程度の低温熱源で操作が可能である.
(3) 蓄熱機能も有している.
(4) 吸着剤・吸着質に毒性および腐食性がない.
(5) 原理的に機械的動力を必要としない.
(5)に挙げるように吸着・脱着過程の切り替え操作時に行うバルブの開閉のみで稼働
することから,原理的に機械的動力を必要としない.また,吸着剤として使用する
シリガゲル,活性炭,ゼオライト等は安価で,かつ国内で十分に供給が可能である.
また,吸着質には主として,水,エタノールを使用するので,安全性の高い脱フロ
ン冷熱製造機器であるといえる.しかし,実用化を促進するには高効率化の達成が
不可欠である.この高出力化には,次の問題点の解決が必要とされている.
(1) 一サイクルあたりの汲み上げ熱量が小さい.
(2) 一サイクルあたりの吸着・脱着時間が長い.
(1)の問題にっいては,吸着剤・吸着質のベストマッチング(1)(2),吸着剤の吸着容量
の増大,吸着剤の細孔径分布の改善等の検討が行われている.しかし,(1)の問題解
決によって,たとえ大容量の熱の生成が達成されたとしても,そのプロセスの進行
速度が低速であれば出力は増加しない.従って,吸着器における熱および物質移動
速度を向上によって,(2)のサイクル時間を短縮させる必要がある.
図3・1に吸着冷凍サイクルの例を示す.このシステムは二つの吸着器と凝縮器,
一38一
蒸発器で構成され,密閉系内には固体吸着剤と冷媒となる吸着質のみが存在する.
基本サイクルはバッチ式サイクルであり,吸着過程と脱着過程の二っの過程から構
成される.
吸着過程では,冷媒は蒸発器において蒸発熱を吸熱して蒸発する.蒸気となった
冷媒は吸着器に流入し,吸着剤に到達する.吸着剤の表面に到達した冷媒の分子は,
吸着熱を放熱して吸着剤表面に吸着される.この際の蒸発器における吸熱によって
冷熱が生成され,同時に吸着器側で発生する吸着熱は系外に放出される.この吸着
は化学反応を伴わない物理吸着であるため吸着熱は凝縮熱とほぼ等しい,冷媒の分
子は細孔内拡散によって吸着剤の細孔内を拡散してから吸着する形態と,吸着剤表
面に吸着してから表面拡散によって拡散していく形態の2種類の拡散によって吸着
剤内部へと進入していく.そして,吸着によって圧力が下げられることにより,蒸
Cooling water
▼ Condenser 春
Hot water
尋 1 、一一 碑
醒幽轟蟻畠遠轟畠
」 ・し’ 肇 灘 型6
R
自〉 一 夢
Cooling water
盤 Evaporator 攣
Chilled water
図3・1 吸着冷凍サイクル.
一39一
発器において次の蒸発を起こさせる.
脱着過程では,吸着剤は駆動熱源から熱を受けて温度が上昇する.これに伴い吸
着剤に吸着していた冷媒は脱着して蒸気となる.凝縮器に流入した蒸気は凝縮して
液体になり蒸発器に戻る.
この過程を二つの吸着器が交互に繰り返すことで疑似連続的に冷熱を得ることが
できる.
GHPの排熱で駆動することを想定した場合,吸着サイクルに投入する温水温度は
80℃以下なのでゼオライトを吸着剤として用いることはできない.また,利用した
い冷熱の温度は0℃以上であるため,冷媒にエタノール等を用いる必要もない.そ
こで,エタノールよりも蒸発潜熱の大きい水を冷媒として選択し,活性炭よりも耐
久性があり低相対圧域における吸着量変化も大きいシリカゲルを吸着剤として選択
した.従って,シリカゲルー水系吸着冷凍サイクルをGHPシステムと連合運転さ
せるサイクルとした.
3−2 GHPとの連合運転
本研究では吸着サイクルをGHPシステムの排熱で駆動し,得られた冷熱はG且P
による冷房の補助的使用を想定している.その運転形態を,GHPと吸着サイクルで
同温の冷熱を生成するのではなく,室内から取り込んだ空気を吸着サイクルである
程度まで冷やし,それをG且Pが吹出し温度まで冷却すると仮定した.このような
補助的使用を想定した吸着サイクルの作動温度条件を以下のように設定した.
温水 冷却水 冷水
80°() 30°C 19°C
一40一
室内吸込み温度が27℃の空気を室内吹出し温度の15℃まで冷却する場合,GHPと
吸着サイクルの出力の比から,吸着サイクルは27℃から24.3℃まで冷却すること
になる.通常クロスフィンを用いて熱交換をするとき,水と空気の温度差は約5℃
必要となる.よって,冷水は19℃と設定した.また,温水はGHPの排熱を使用す
るので80℃,冷却水はクーリングタワーを使用することを想定して30℃と設定し
た.
3−3 実験的手法
3−3−1 実験装置の構成
図3・2に実験装置の概略図を示す.実験装置はモデル化された吸着器であるユニ
ットモデル吸着器5と,蒸発器7から構成される.
吸着器内部に取り付けるユニットセルは,単一管にシリカゲルを接着した吸着剤
熱交換器である.ユニットセルは吸着器のフランジを取り外すことで簡単に交換が
可能であり,フィン付き伝熱管のフィンピッチおよびフィン高さの異なる様々なユ
ニットを使って実験を行った.ユニットセルを取り付けた吸着器は二重管構造にな
っており,環状部ではシリカゲルと蒸発器との間で冷媒の移動が行われる.中心部
すなわちユニットセルの伝熱管内には,シリカゲルを冷却,加熱して吸着器を所定
の温度に保つためにオーバーフロータンク1から一定のヘッドで循環水が流される・
また,蒸発器に用いたフラスコ内の冷媒である水は,恒温水槽8により所定の温
度に保たれる.フラスコ内の水は内部で温度勾配を生じないように,マグネットス
ターラにより十分に撹絆される.
一41 一
吸着器の周りにはリボンヒータと断熱材を巻き,温度調節器によって吸着器の温
度を循環水と等温に制御する.吸着器と配管には電子式圧力計4が取り付けられて
おり,それぞれ吸着器圧力,蒸発器圧力を測定し,熱電対により測定された各所温
度と共にデータロガーに取り込まれコンピュータに記録される.真空ポンプ6は実
験開始前に吸着器内や蒸発器内を脱気するために使用される.
ぐ:Water
磯瀞・:Vapor
1 図:Valve
1 ゆ 1:0ver flow tank
4
量
12:Water pump
欝灘黙灘:瓢一縣3:Water tank
4織54:Pressure gauge
4 蒲 ・ 6 5:Adsorber
噸… 麟 6:Vacuum pump
23 7 7:Evap・rat・r/C・ndenser
8 8:Temperature controlled bath
図3−2 実験装置概略図.
3−3−2 ユニットセル
ユニットセルはべ一スとなる1本の伝熱管と,そこに接着したシリカゲル層で構
成される.伝熱管には外径12。7mmおよび11.9 mmのフィン付き銅管を用いた.
フィン付き銅管}さ削り出しで製作したもので,管部とフィン部は一体成形となって
いる.また,フィンの厚みは1mmである.
シリカゲル粉末(粒径106∼250pm)は,酢酸ビニル接着剤をバインダにして伝熱
管外表面に接着した.そして,乾燥後フィンと同じ高さにシリカゲル層を成形した.
一42一
成形したシリカゲル層には層表面付近と層内部の伝熱管付近に熱電対を埋め込み,
シリカゲル層温度の変化を計測した.
実験に用いたユニットセルを図3・3に示す.本論文ではユニットセルを,フィン
高さが2mmのユニットをFユニット,4mmのモデルをGユニットと称している.
FOOユニットはフィンのない伝熱管に2mmの厚さのシリカゲル層を成形したユニ
ットである.0リングはシリカゲル層を成形する際の目安として取り付けたもので,
伝熱には寄与しない.FO5, FO5’, FO9, F20ユニットは,それぞれ5皿m,5mm,
9mm,20 mmのフィン間隔の伝熱管を用いたユニットである.FO5’ユニットはGO5
C闘tube O騙r匡ng
↓ ↓
FOO闘nit【2mm gayer thickness ]
C闘価nt朋be Si囹ica ge匿 Fin
↓ ↓ ↓
FO5, FO5’, FO9, F20 un祀【2mm layer thEckness 1
GO5 unit【4mm layer thickness 1
図3・3 ユニットセル.
表3・1 ユニットセル諸元.
U】〔1it cel1
Fin itch[mm]
Fin hei ht[mm1
Silica el mass[1
FO5
FO5聖
FO9
F20
FOO
GO5
5
5
20
2
2
9
2
2
50(OTin)
2
4
43.6
33.6
45.0
49.6
53.6
35.3
一43一
5
ユニットとシリカゲルの充填量を等しくしたFO5ユニットである.GO5ユニットは
フィン高さ4mm,フィン間隔5mmのユニットである.このユニットは全体を三
分割して製作し継手で接続している.表3・1は各ユニットセルの諸元である.
3−3−3 シリカゲル等の物性
ユニットセルには富士シリシア化学(株)のRDシリカゲルと,バインダとしてコ
ニシ(株)の酢酸ビニル樹脂エマルジョン系接着剤を用いた.以下にこれらの物性に
ついて述べる.
(a)粒度分布
ユ』1ットセルに用いた粒径106∼250μmのシリカゲル粒子の重量累積粒度分布
100
一
一
当
eg
o3
50
Φ
.≧
駕
ヨ
∈
5
0
0
100 150 200 250
Particle diameter[μm]
図3−4 RDシリカゲルの重量累積粒度分布.
一44一
を図3−4に示す.累積重量が粒径に対して直線的に増加していることから,均一に
粒径が分布していることが分かる.よって,累積重量50%に対応する平均粒径は算
術平均値である178pmとなり,これをユニットセルにおけるシリカゲル粒径とし
た。
(b) 物性値
表3・2はRDシリカゲルの物性値である.このシリカゲルの単位体積あたりの細
孔容積は0.4ml/gである.これより,相対圧1で吸着を行った際は全ての細孔を吸
着した水が満たすとして,飽和吸着率左。qは0.4kg/kgとした.また,シリカ骨格の
みの密度は2200kg/m3であり,細孔を含めた見掛けの密度は細孔容積とシリカ骨
格の密度から算出した.シリカ骨格はSiO2を主成分としており,その物性値は主
成分が同じくSiQ2である石英ガラスと非常に近い値となっている.そこで,シリ
カゲル粒子の有効熱伝導率の推算において,シリカ骨格の熱伝導率は石英ガラスと
同じと考えて1.38W/(m・K)を用いた.
表3・2RDシリカゲルの物性値.
Pore volume Density ApP arent density Porosity Speci丘c heat
励g] [kg/m3] [kg/m3] 卜] [」/(kg・K)]
0.40 2200 1170 0.468 837
(c) 細孔径分布
RDシリカゲルの細孔径分布を図3・5に示す.このシリカゲルは細孔半径が1nm
以下のマイクロ孔が多く,低相対圧域での吸着等温線の立ち上がりが大きくなるよ
うに設計されている.また,細孔半径が1∼25nmのメソ孔は均一な分布を持って
いる.
一45一
×10−4
局6
三5
詳
婁
暮3
蓬
81
Pore radius [nm]
図3・5 RDシリカゲルの細孔径分布(2).
(d)抜着等温線
図3−6はRDシリカゲルの吸着等温線である.この吸着等温線は式(3・1)の
Freundlichの式(3)より求めたものである.
14・,q 一 k,q〔奇〕券 (3−・)
n−−4・6〔鳶〕2+4・2〔鳶〕+1・ (3・2)
ここで、nは吸着剤と吸着質の組み合わせにより決定される値で通常は定数を用い
るが,RDシリカゲルの吸着等温線に近づけるため,式(3・2)のような相対圧の関数
の形で用いた.
一46一
0.5
0.4
2
もo・3
占
trO.2
ゴ
0.1
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
Relative pressure [一]
図3・6 RDシリカゲルの吸着等温線.
吸着サイクルは一般に低相対圧域において運転されるので,低相対圧域における
平衡吸着率の変化が大きいRDシリカゲルは,吸着サイクルに用いるのに適してい
るといえる.ただし,ユニットセルでは伝熱管へのシリカゲルの接着に,酢酸ビニ
ル接着剤をバインダとして使用している.そのため,シリカゲルの細孔はバインダ
によって一部が塞がれ,平衡吸着率は図3・6の吸着等温線が示す吸着率よりも低い
値となる.加えて,細孔が塞がれることにより細孔径分布が変化して吸着等温線の
形状が変化することも考えられる.しかし,バインダの量が少ないことから吸着等
温線の形状は変化しないと仮定して,飽和吸着率k。qを調節することによってバイ
ンダの影響を考慮した.
(e)バインダの物性値
バインダに使用した酢酸ビニル樹脂エマルジョン系接着剤の物性について示す.
接着剤は55%の酢酸ビニルエマルジョンと45%の水から構成されている.酢酸ビニ
一47一
ルエマルジョンは約90%がべ一スとなるポリ酢酸ビニルであり,残りの約10%が乳
化剤であるポリビニルアルコールである.表3・3,3・4はポリ酢酸ビニルとポリビニ
ルアルコールの物性値である.これらの物性値から,水分が蒸発して乾燥した状態
の酢酸ビニル接着剤の物性値を推算したのが表3・5である.密度,比熱については
加成性により算出した.しかし,混合物の熱伝導率の算出には加成性を用いること
ができないので,熱伝導率は酢酸ビニルエマルジョンの主成分であるポリ酢酸ビニ
ルの値をそのまま用いた.
表3−3 ポリ酢酸ビニルの物性値.
Den、i七y[kg/m3】Sp・・i丘c h・a七[J/(kg・K》】 Thermal・・nductivi七y[W/(m・K)]
1191 1183 0.16
表3・4 ポリビニルアルコールの物性値.
Den、ity臣9!m3]Speci且・h・at[J/(kg・K》] Therma1・・ndu・tivi七y[W/(m・K)]
1309 1670 0.21
表3・5 酢酸ビニル樹脂エマルジョン系接着剤の物性値.
Densi七y[kg/m3】Specifi・h・a七[J/(kg・K)] The・mal c・ndu・tivity[W/(m・K)]
1203 1230 0.16
3−3−4 実験手順
実験準備として,吸着器を加熱しシリカゲルに吸着している水および装置内の余
分な水蒸気を真空脱気する.次に,フラスコに水を600g入れて装置に取り付け,
吸着器,蒸発器および循環水を所定の温度に保ち,真空ポンプにより蒸発器内圧力
を飽和水蒸気圧まで下げていく.そして定常状態になった後に吸着器のバルブを開
一48一
け吸着実験を行った。温度条件を表3・6に示す.温度条件は,GHPとの連合運転を
想定した吸着器30℃/蒸発器19℃と相対圧が等しい条件とした.相対圧とはシリカ
ゲル粒子の雰囲気の蒸気圧力と,シリカゲル温度における飽和蒸気圧の比である.
平衡吸着率は相対圧によって決まるので,相対圧が等しければ平衡吸着率は等しく
なる.
実験では吸着器のシリカゲル温度,蒸発器の冷媒温度と吸着器圧力,蒸発器圧力
について測定を行った.シリカゲルの吸着量としてフラスコ内の水の重量変化を,
吸着時間15秒,30秒,60秒,120秒,240秒,480秒,960秒,1920秒について
測定した.
表3・6 吸着実験の温度条件.
Adsorber℃/Evap orator℃
Relative pressure願
0,516
0,515
0,521
0,506
42/30
30/19
20/10
15/5
3−4 数値解析的手法
ユニットセルを用いての実験と同時に数値解析的手法によってもユニットセルの
最適化にっいて検討を行った,シリカゲル層とフィンにおける熱および物質移動に
ついては,差分法を用いて解析を行った.その際,シンプルな構造モデルを採用し,
シリカゲル層の粒子問を流れる水蒸気の流れについては,圧力損失の推算のみを行
った.
一49一
3−4−1 基礎方程式
図3−7は解析を行ったユニットセルのモデル図である.このモデルはシリカゲル
を充填したフィン付き伝熱管の断面の一部分である.解析においてユニットセルの
x方向とθ方向には圧力の分布は存在せず,温度もθ方向の分布を持たないと仮定し
た.また,伝熱管内を流れる伝熱流体は十分な流量で流れているため,温度は分布
を持たず一定とした.従って,フィンとフィンに挟まれた空間の半全が計算領域と
なる.
式(3−3)はシリカゲル層における熱伝導の基礎方程式である.前述の仮定より,熱
移動は吸着による発熱を考慮した円筒座標系の二次元熱伝導として取り扱った.同
様に,式(3・4)は伝熱管における熱伝導の基礎方程式である.また,式(3・5)は境界条
件である.計算領域の左右端は断熱条件とした.吸着器内の水蒸気の流れは希薄で
あるため計算領域の上端も断熱条件とした.伝熱管と伝熱流体間の熱移動量は円管
内強制対流熱伝達におけるDi七七us・Boelterの相関式(4Wα=0.023Re o・8Pr o・4から熱
伝達率hoを2500 W/(m2・K)とした.
ら考一㌔激讐〕+滞+嶋 (3・3)
嘱駆藩⊂ア讐〕+礎 (3④
x・O, X= Xe:
r・re:
Q一讐一・
、一・
(3・5)
T=・ri:・、, 一/M = ho (Tn,−Tf)
一50一
r
「黙難ii
iiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii羅
ロ l・.・‘
.一」 1晶混二藍祐’
’一一一一一一脚一瞬一一一一9
│’
O Xwx,
X
図3・7 解析モデル.
解析においてシリカゲル粒子間を移動する水蒸気の物質移動は無視した.しかし,
シリカゲル層内の圧力分布は吸着速度に大きな影響を与えるので,後述の手法によ
り圧力損失による勾配を持たせた.
シリカゲル粒子内の物質移動,すなわちシリカゲル粒子の吸着速度は式(3・6)を用
いた(5)∼(7).ここでD。Oは定数であるが,実験系に適した値を与える必要がある.吸
着速度を表す式として球座標系の一次元物質拡散の式もよく用いられているが,実
測した吸着履歴にフィッティングさせて粒子内拡散係数を決定しなければならない.
また,拡散係数は粒子径および温度によって変化するため文献値を引用することも
困難である.そこで,伊藤らが測定した拡散係数(8)を使って一次元物質拡散の式よ
り計算した吸着履歴と,同じ粒子径,同じ温度条件において式(3・6)より計算した吸
着履歴が最もよく一致する7.3×10’5m2/sを刀。oの値として採用した.
窪=畢叫一w) (3−6)
シ一翻 (3・7)
D・ ” D・・ exp
一51 一
3−4−2 シリカゲル層の有効熱伝導率
ユニットセルではシリカゲル粒子を酢酸ビニル樹脂で層状に成形しているため,
シリカゲル層の有効熱伝導率は粒子のみの充填層よりも大きくなる.シリカゲル層
の有効熱伝導率の推算には,森らによるゼオライト層の有効熱伝導率の推算(9)にお
いて用いられたHayashiらのモデル(10)とLuikovらのモデル(11)を使用した.
シリカゲル層を成形する過程では,水に溶いた酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着
剤とシリカゲル粉末を混合したものを乾燥させる.推算においては以下のような仮
定を行った.
(1)酢酸ビニル接着剤の水溶液は,成形の段階でシリカゲル粒子内部の細孔および
粒子間の空隙を全て満たす.
(2)水溶液は乾燥により体積が14%に減少し,粒子内部では細孔の一部に酢酸ビニ
ル樹脂が残り,また粒子間の空隙では粒子同士の接触点付近に酢酸ビニル樹脂
が残る.
(3)シリカゲル粒子の飽和吸着率k。aは細孔容積が14%減少するため,飽和吸着率
も14%減少する.
(4)シリカゲル層のシリカゲル粒子のみを考えたときの空隙率は約0.46であり,正
方配列における空隙率0.476に近い値である.よって,シリカゲル粒子は正方
配列で並んでいるとみなす.
酢酸ビニル樹脂が細孔内に入ったシリカゲル粒子の有i効熱伝導率をLuikovらの
式(3・8)により推算した.細孔内部の有効熱伝導率λ。。idを,細孔容積の14%を占める
酢酸ビニル樹脂と残りの86%の容積に吸着する水の体積分率と熱伝導率から並列
の式(3・9)を使って求めた.そして,多孔質材料の有効熱伝導率を推算する式(3・8)
に,シリカ骨格の熱伝導率と細孔内部の有効熱伝導率砺湿を代入し,シリカゲル粒
一52一
子の有効熱伝導率を算出した.
森らはゼオライトの充填層について,バインダを使う場合と使わない場合の有効
熱伝導率を測定しHayashiらのモデルと比較を行い,このモデルをそのままバイン
ダを使った充填層に適用できないことを報告している(9).Hayashiらのモデルは球
同士の接触を想定しているが,バインダにより粒子を接合した充填層では粒子同士
の接触面積が増大するため,低圧になるほどバインダを用いない場合との有効熱伝
導率の差が大きくなり,130Paで5倍,0.1Paで20倍になるからである.
そこで,このモデルによってシリカゲル層の有効熱伝導率推算を行うための補正
を行った.式(3・11)において接触部の熱伝導を表す第三項については,接触面積の
大きさを示す式(3・1e)中のαの値を大きくして接触点周りの酢酸ビニル樹脂も含め
た断面積で熱伝導が起こるとして,式(3・12)によって有効熱伝導率λ物を推算した.
また,接触点付近の粒子間の距離が近い領域において自由分子熱伝導によって起こ
る熱移動を表す第二項については,粒子表面への酢酸ビニル樹脂の付着により粒子
表面間の距離が縮まり熱移動量が増大するとして,補正係数Czを粒子間流体…薄膜無
次元厚さφ“に乗じた.補正係数α淋,吸着サイクルの作動圧力付近において,森ら
のバインダを用いたゼオライト充填層の有効熱伝導率のデータとよく一致するよう
な値0.318を用いた.
嘉〔2)2+篭⊂1−2丁+
ソ鶉 (3−8)
ノLリo,d=ノしPレtAcSPP、/Ac十,ZmつSH,o (3脚9)
zR 2 sin2α
δ= P (3−10)
πR2 sin2θ
P
一53一
λ呈凱+
Q(91’ Q/c・φ*+(1−c・φ*)2 (3…)
・・
bg〔1+書G−c・sα傷1〕〕
履一 3 1・PVAc (3.、2)
?閧P一等〕
’1’puAc
図3・8に算出したシリカゲル層の有効熱伝導率の水蒸気圧力に対する変化を示す.
なお,シリカゲルは周りの水蒸気と吸着平衡になっているとして,吸着率を圧力に
応じて変化させている.圧力が低圧のときは自由分子熱伝導率や水蒸気の熱伝導率
がとても小さいので,シリカゲル層における熱移動は粒子同士の接触による熱伝導
が主となる.圧力が100Pa付近まではその傾向が続き,有効熱伝導率は0.08 W/(m・
K)で1定である.圧力が100Pa以上になると自由分子熱伝導率が大きくなり,粒
0.4
冨・・3
と
}α2
壕
ぺ0.1
0.1 1 10 100 1000 10000
Vapor pressure [Pa]
図3・8 シリカゲル層の有効熱伝導率.
一54一
子同士の接触点付近における自由分子熱伝導による熱移動が:増加していく.また,
シリカゲルに吸着する水の量が増加し,シリカゲル粒子の有効熱伝導率も大きくな
る.その結果,圧力の上昇に伴ってシリカゲル層の有効熱伝導率が上昇していき,
10000Paでは0.3W/(m・K)になる.
3−4−3 シリカゲル層の接触抵抗
シリカゲル層と伝熱管の接触面では粒子と壁面が点で接触し,加えて接触の状態
も一様ではないため接触熱抵抗は小さくないと考えられる.また,壁面付近ではシ
リカゲル層の空隙率が上昇するため有効熱伝導率も小さくなる.矢木らは壁面付近
における熱移動を,壁面と壁面から離れた充填層間の伝熱係数を定義して簡潔に取
de
闊オえる手法(12)を示した.前述のモデルから壁面付近におけるシリカゲル層の有効
熱伝導率λwは式(3・13)のようになり,伝熱係15( h.は式(3・14)のようになる.この伝
熱係数を求める手法では壁面付近の空隙率εtがおおよそ0.7になるとして定義され
ている.しかし,シリカゲル層では粒子間の空隙の一部を酢酸ビニル樹脂が埋める
ことで空隙の体積が14%縮小すると仮定しているので,壁面付近の空隙率も同様に
取り扱い0.6とした.
iL・=嫉+
λ,IL
乃・= i “’w一『eaλ一〇.5λ ea w)D, (3願14)
一55一
3−4−4 シリカゲル層の圧力損失
吸着の過程ではシリカゲル層内に水蒸気が流入していくが,粒子間の小さい空隙
を流れていくので圧力損失が発生する.そして,水蒸気がシリカゲル層の奥に進む
ほど,吸着によって水蒸気の密度が低下していくため損失は増大する.吸着率は圧
力に依存するのでシリカゲル層が厚くなるとシリカゲル層の上部と下部の吸着率の
差は増大し,ユニットセルの物質移動特性は低下する.
シリカゲル層内の圧力勾配を推算する手法としては,水蒸気の粒子間空隙におけ
る移動を物質拡散として取り扱い,拡散係数を実験的に求める手法や,多孔質物質
内の流れとして流れの方程式を解析する手法が挙げられる.前者は実験条件ごとに
拡散係数を求める実験が必要になり,後者は数値計算が複雑化する.本研究では水
蒸気が吸着速度と等しい質量流量で,シリカゲル層の上部から下部へ一次元的に流
れると仮定した.そして,体積流量よりDarcy速度UDを求め,式(3・15)のErgun
の式(13)より水蒸気流れの圧力損失を算出することで,シリ,カゲル層内の圧力分布を
簡易に予測した.なお,解析における吸着器内の圧力変化は,実験における圧力履
歴を使用した.
釜15・°ヂ毒%+1・75≒拳 (3−・5)
3−5 結果および考察
ユニットモデル吸着器に取り付けた様々なユニットセルにより熱および物質移動
の最適化について検討を行うためには,吸着プロセスの進行がユニットセル以外の
一56一
部分で律速されないようにする必要がある.しかし,実験装置を製作した当初は蒸
発器から吸着器へとつながる配管に小型のバルブ(バルブA)を使用していたために,
吸着器手前のバルブにおいて水蒸気の流れが制限されていた可能性があった.この
問題の対応策として,バルブを大型のバルブ(バルブB)に交換することを行った.
そして,予備実験としてバルブの交換の前後に吸着実験を行い,バルブを通過する
水蒸気の流れが吸着プロセスの進行に与える影響について比較を行った.なお,実
験にはFOOユニットを用いた.二つのバルブの仕様を表3・7に示す.ここで, Ov
値はバルブの流量制御特性を表す値で,一種の流量係数である.同条件であれば,
Ov値が2.8のバルブBはOv値が1のバルブAの2.8倍の流量を流すことができる.
表3−7 バルブの仕様.
Valve Orifice[mm] Oyvalue
A 7.1 1
B12.72.8
図3・9にバルブA,バルブBにおける吸着器内の圧カーP。dsの変化と,蒸発器圧力
から算出した臨界圧力Pcの変化を示す.蒸発器圧力は流量制限が起こっていると推
測されるバルブの手前で測定しているので,バルブの一次側圧力と見なすことがで
きる.実験開始前の吸着器内の圧力は,予め真空脱気をしているのでほぼ0である・
バルブを開き吸着実験を開始すると吸着器に水蒸気が流入し,吸着器内の圧力は上
昇していく.計測を終了した実験開始から1920秒経過時では,蒸発器温度やシリ
カゲル層温度は初期温度にほぼ回復している.従って,吸着は平衡状態に近づき,
吸着器圧力は蒸発器温度における飽和水蒸気圧に近づいている.また,二っのバル
ブを比較すると圧力変化に大きな違いが現れている.バルブAでは750秒付近まで
吸着器圧力が臨界圧力以下となっている.その間,圧力は直線的に上昇している.
一57一
Ov値が大きいバルブBではバルブAよりも吸着器圧力が臨界圧力以下となる時間
が短く,90秒経過すると吸着器圧力は臨界圧力まで達している.バルブBは流す
ことができる蒸気の流量が多いので90秒を経過するまでは吸着器の圧力は急激に
上昇しているが,それ以降は緩やかに上昇している.
生5
『
o疇 1
1.5
『
Ω。 1
菖
邑
2
2
コ
$ o・5
$o・5
9
2
匹
n.,
0
0 500 1000 1500 2000 0 500 1000 1500 2000
Time[s] Time[s]
(バルブA) (バルブB)
図3・9 吸着器の圧力変化.
次に,吸着量の変化を図3・10に示す.図中のマークは測定値であり,それをス
プライン曲線でフィッティングしている.吸着器圧力の上昇が遅いバルブAは,吸
着プロセスの進行が遅くなっている.また,実験初期では吸着量が直線的に増加し
ている.一方,バルブBでは,吸着量変化は対数的な変化を示している,両者の比
較から圧力変化の違いが吸着プロセスの進行に影響を与えていることが分かる.
図3−11にフィッティングした吸着量変化の曲線から求めた吸着速度の変化を示
す.両バルブとも実験開始直後は,測定のばらつきが大きいので吸着速度は一時的
に大きな値を示している.そして,バルブAでは500秒付近まで吸着速度が一定の
値を示している.吸着器圧力が臨界圧力以下となっている時間は約750秒であり,
一58一
その大部分の時間で吸着速度が一定となっていることになる.吸着速度が吸着器に
流入する水蒸気の流量と一致するわけではないが,バルブAにおける吸着速度の変
15
!!ブタ剛
10 !!
一 /ew
2
≧
−Valve A
d −Valve B
O 500 1000 1500 2000
Time[s]
図3・10 各バルブにおける吸着量変化.
0.04
一〇、03
迎
2
も0・02
ミ
O.Ol
0 500 1000 1500 2000
Time[s]
図3−11 各バルブにおける吸着速度変化.
−59一
化が吸着器圧力の上昇,つまり流入する水蒸気の流量に律速されていることは明ら
かである.
以上のことから,バルブにおいて流量が制限される一種のチョーク現象が起こっ
ていたと見なすことができる.また,バルブをOv値が2.8倍のバルブBに交換す
ることで上記の影響を大幅に縮小することができた.これにより,吸着プロセスの
進行がユニットセル以外の箇所で律速されないようになり,ユニットセルの特性を
比較することができる.
3−5−1 フィンピッチの影響 {
まず,フィン高さ2mmのFO5, FO9, F20, FOOユニットを用いた吸着実験の
結果から,フィンピッチが吸着プロセスにおよぼす影響について検討を行った.
図3・12に吸着実験におけるフィンとフィンの中間点のシリカゲル層表面の初期
温度からの温度変化ATを示す.実験開始と共に吸着器に流入した水蒸気は,シリカ
ゲルに吸着され吸着熱を発生するためシリカゲル温度が上昇する.急激に上昇した
シリカゲル温度は約30秒でピークに達し,その後は緩やかに初期温度に回復して
いく.これは,シリカゲル温度が上昇すると相対圧力が低下するために飽和吸着率
は減少し,吸着プロセスの進行速度が減速するためである.ユニットセルの熱移動
特性はフィンピッチが小さいほど向上するので,ピーク温度は低くなり初期温度へ
の回復も速くなる.また,高い温度条件ほど蒸気密度が高く,蒸発器からシリカゲ
ルまでの水蒸気の流動の影響が小さくなるために,温度の立ち上がりが速くピーク
温度が高くなっている.
一60一
温度履歴からユニットの熱移動特性がフィンによって向上することが確認できる.
しかし,伝熱管の素材である銅と比較してシリカゲル層の有効熱伝導率は極めて小
さいため,フィンによって熱移動特性が向上してもシリカゲルを冷却するにはある
程度の時間を要している。
次に図3・13に各温度条件における吸着量Wの変化を示す.各温度条件において,
30
u
』
5
』
20
ト
20
ト
0 500 100e O 500 1000
Time [s] Time [s]
(吸着器15℃/蒸発器5℃) (吸着器20℃/蒸発器10℃)
40
一一一一一一
@FO9
……・・……・
eO5
一一一一 eOO
F20
−一一一一一
30
u』
一
一20
@FO9
…………… @FO5
20
ト
≒
\\ミ\
10
\こ・、\
0 500 1000 0 500 “1000
Time[s] Time[s]
(吸着器30℃/蒸発器19℃) (吸着器42℃/蒸発器30℃)
図3・12 Fユニットにおけるシリカゲル層の温度変化.
一61 一
吸着量は初期段階では急速に増加しており,吸着時間500秒付近からは緩やかにな
り平衡状態に近づいている.また,吸着量は低い温度条件ほど少なくなっている.
これは,蒸発器から吸着器へ水蒸気が移動する際に配管のバルブにおいてわずかな
時間であるが流量の制限が起こっているためである.そして,蒸発器温度が低いほ
ど水蒸気密度が低くなり,この一種のチョーク現象の時間が長くなるためだと考え
15
15
10
10
局
局
一
一
≧
≧
0 500 、 1000 0 500 1000
TEme[s] Time[s]
(吸着器15℃/蒸発器5℃) (吸着器20℃/蒸発器10℃)
15
15
10
10
局
局
一
一
≧
≧
0 500 1000 0 500 1000
Time [s] Time [s]
(吸着器30℃/蒸発器19℃) (吸着器42℃/蒸発器30℃)
図3−13 Fzニットにおける吸着量の変化.
一62一
られる.図において、FOOよりもF20, FO9, FO5の方がフィンによる熱移動特性の
向上により吸着プロセスの進行が速くなっているのが確認できる.また,フィン付
きユニットでもフィンピッチが狭くなるほど吸着プロセスの進行が速くなっている
のが確認できる.しかし,吸着時間が長くなると吸着量はF20, FO9, FO5に比べ
FOOの方が多くなつている.高い温度条件ほど吸着の立ち上がりが速いためFOOの
吸着量がフィン付きのユニットを上回るまでの時間が早くなっている.また,いず
れの温度条件においてもフィンピッチが狭くなるに従い吸着量の逆転は速くなって
いる.これはフィンのためにシリカゲルの充填量が減っているためである.
次に,図3−14に各温度条件における吸着剤単位質量あたりの吸着量である吸着
率wの変化を示す.各温度条件において、吸着率の変化は吸着量変化と同様に初期
段階では急速に立ち上がっており,吸着時間500秒付近からは緩やかになり収束へ
と向かっている.吸着量と同様に吸着率変化においても,温度条件の違いにより変
化に差が現れている.これは,蒸発器温度の違いにより水蒸気密度が異なるためと
考えられる.ここでも,FOOよりもF20, FO9, FO5の方がよりフィンによる熱移
動特性の向上により吸着プmセスの進行が速くなっているのが確認でき,フィン付
きでもフィンピッチが狭くなるほど吸着プロセスの進行が速くなっているのが確認
できる1飽和吸着率は相対圧によって決定し,蒸発器圧力はほぼ一定であるので,
相対圧はシリカゲル温度における飽和水蒸気圧によって決定する.っまり,吸着の
進行を速くするためには,シリカゲル温度変化を低く保つ必要があり,フィンによ
る熱移動特性の向上が重要となる.
ここで,数値解析の結果と実験結果を比較して,解析結果の検証を行う.図3−15
は吸着器30℃/蒸発器19℃におけるフィンピッチに対する吸着率と,前述のモデル
による数値解析の結果を示している.図においてフィンピッチ50mmは50 mm間
隔でOリングを取り付けたFOOユニットを示している.解析結果ではフィンピッチ
一63一
の最も小さいFO5ユニットが最も吸着率が高く,フィンピッチが拡大するにつれて
吸着率は低下するが,フィンピッチが9mm以上になると240秒経過時では約0.14
kg/kg,480秒経過時では約0.19 kg/kgで一定の値となっている.これは,シリカ
ゲル層が2mmと薄いためにある程度までフィンの間隔が広がると,シリカゲル層
からの熱がフィンよりも管壁へと移動していくのが主となるためである.しかし,
0.3
O.3
20.2
葛
菖
20.2
も
出
t““”’”t
≧
≧
O.1
O.1
ム FOO
◇ F20
ロ FO9
重 ・F・5
0 500 tOOO O 500 1000
Time [s] Time [s]
(吸着器15℃/蒸発器5℃) (吸着器20℃/蒸発器10℃)
0.3
0.3
畠
20.2
も
菖
o ム
20.2
扇
菖
≧
e ム
e A
≧
O.1
馨・
O、1
屡血
A FOO
o
◇ F20
ロ FOg
o FO5
0 500 1000 0 500 1000
Time [s] Time [s]
(吸着器30℃/蒸発器19℃) ° (吸着器42℃/蒸発器30℃)
図3−14 Fユニットにおける吸着率の変化.
一64一
実験結果ではFO5において解析結果とほぼ等しい吸着率であるが,フィンピッチの
拡大に比例して吸着率は減少している.実験終了後に取り出したユニットセルを観
察したところ,シリカゲル層が収縮しフィンとの間に空隙が生じていた.収縮は,
吸着脱着を繰り返すことによる膨張と収縮の繰り返しが原因であると考えられる.
また,フィンとの間の空隙はフィンピッチが大きいほど大きく,フィンは付いてい
ないが50mm間隔で0リングを取り付けてあるFOOユニットが最も空隙が大きか
った.一方,フィンピッチの最も小さいFO5 L :ットでは空隙はほとんど観察でき
なかった.加えて,空隙の大きいユニットではシリカゲル層と管壁の接触面にも収
縮による影響があり,シリカゲル層が非常に剥がれやすい状態になっていた.この
ようなシリカゲル層の状態では,伝熱管との接触抵抗が増大しユニットの熱移動特
性が著しく低下する.
0.30
O,25
局0・20
芝
20.i5
一
≧0.10
0.05
00 1020304050≒n。fin
Fin pitch [mm]
図3・15 吸着率の実験値と計算値の比較.
一65一
数値解析において,シリカゲル層と伝熱管との接触抵抗は式(3・14)のように取り
扱っているが,壁面付近におけるシリカゲル層の空隙率Swをフィンピッチの関数と
して変化させて収縮の影響を考慮に入れた.管壁付近の空隙率を,FO5ユニットを
0.60,0リングの間隔が50mmのFOOユニットをO.95として, swをフィンピッチ
の一次関数とすると,図3・16のように解析結果は実験結果と同じような傾向を示
す.よって,シリカゲル層の収縮が生じない小さいフィンピッチにおいては,解析
結果は妥当であるといえる,
フィン高さ2mmのユニットを使用した実験から,フィンによって熱移動特性を
向上させることで吸着プロセスの進行が速くなることが分かった,しかし,フィン
ピッチが大きくなるに従って,シリカゲル層の収縮による接触抵抗の増大も吸着プ
ロセスの進行に影響を与えていることが分かった.
O.30
1 一
.−i.一.。・・…一一・‘一一一”
@ 1
0.8一
〇.6ぽ
0.25
『∋0・20
芝
20.15
一
x.”.。... 麟
)O.10
0.05
06 1020304050≒n。fin
Fin pitch [mm]
図3・16 フィン壁における空隙率の吸着率への影響.
一一
U6一
3−5−2 フィン高さの影響
次に,フィン高さ4mmのGO5ユニットとGO5ユニットとシリカゲルの量をほ
ぼ等しくしたFO5’ユニットを用いた吸着実験の結果から,フィン高さが吸着プロセ
スにおよぼす影響について検討を行った.
図3・17に吸着過程におけるシリカゲル表面の初期温度からの温度変化量ATを示
す.Fユニットを用いた実験と同様に,実験開始から約30秒でFO5’ユニット,GO5
ユニット共に温度はピークに達し,その後は緩やかに初期温度に回復していく.ピ
ーク温度はいずれ温度条件においてもGO5ユニットよりもFO5’ユニットの方が低
く,ピーク後は熱移動特性が高いFO5’ユニットの方が初期温度への回復が速くなっ
ている.また,低い温度条件ほどピーク温度の差が広がっている.蒸発器温度が低
いほどシリカゲル層への蒸気の流入のよる圧力損失が大きくなり,GO5ユニットの
シリカゲル層下部はFO5’ユニットよりも十分に水蒸気が届いていない状態となる.
そのため,GO5ユニットではシリカゲル層上部のみで吸着が起こりFO5’ユニットよ
りもピーク温度が高くなると考えられる.
図3・18に吸着率wの変化を示す.各温度で吸着率の変化は初期段階では急速に
立ち上がっており,時間が経過するに従い吸着率の変化は緩やかになり平衡状態へ
と収束していく.各温度条件を比較すると15℃/5℃と20℃/10℃では,実験初期は
バルブにおけるチョークの影響もあり両ユニットで吸着率に差がない.しかし,チ
ョークの影響がなくなるとFO5’ユニットの方が吸着率は高くなる.これは,熱移動
特性の差と圧力損失の両方の影響によるものと考えられ、る.30℃ノ19℃と42℃/30℃
では,チョークの影響がないため実験初期からFO5’ユニットの方が吸着率は高くな
る.
FO5’ユニットとGO5ユニットは,吸着プnセスの進行を比較するため充填するシ
一67一
リカゲルの量をほぼ等しくしている.しかし,ユニットの長さを等しくするとシリ
カゲル層厚さが2倍のGO5ユニットの方が吸着量は多くなる.特にユニットセルの
ように円管の周りにシリカゲルを円筒形に充填している場合,層の厚みが増して円
筒の径が大きくなるほどシリカゲル層下部と上部の体積の差が広がっていく.そし
て,仮に圧力損失が大きいためにシリカゲル層下部まで水蒸気が到達できなくても,
40
40
30
30
一
筥2。
一20
ト
10
0
0 500 1000 0 500 1000
Time[s] Time[s]
(吸着器15QC/蒸発器5℃) (吸着器20℃/蒸発器10℃)
40
40
FO5’
GO5
30
30
5
’5i
E]20
0−
k
≒
10
10
Q0
\____
0 500 1000 0 500 1000
Time[s] Time[s]
(吸着器30℃/蒸発器19℃) (吸着器42℃/蒸発器30℃)
図3・17 FO5’ユニットとGO5ユニットにおけるシリカゲル温度の変化。
一68一
上部における吸着のみでシリカゲル層厚さが薄いときよりも吸着量が多くなると考
えられる.しかし,これは吸着が行われない無駄なシリカゲルが増えるだけで効率
が良いとはいえない.
そこで,単位長さのユニットセルあたりの吸着量を伝熱管や伝熱流体の流路の面
積も含めたユニットセルの断面積で除した値,すなわちLニットセル単位体積あた
0.3
0.3
20.2
20.2
も
菖
も
菖
≧
≧
0.1
0.1
0 250 500 0 250 500
Time[s] Time[s]
(吸着器15℃/蒸発器5℃) (吸着器20℃/蒸発・器10℃)
0.3
0、3
ほ
90.2
も
邑
三∼o.2
葛
菖
≧
≧
O.1
0.1
0 250 500 0 250 500
Time[s] Time[s]
(吸着器30℃/蒸発器19℃) (吸着器42℃/蒸発器30℃)
図3・18 FO5’ t・ニットとGO5ユニットにおける吸着率の変化.
一69一
りの吸着量G。p。を求め,ユニットセルの効率を判断する指標とした.図3・19に算
出したG。p。の値を示す. GO5ユニットはFO5’ユニットよりも吸着率は低いが,い
ずれの温度条件でもG。p。はGO5ユニットの方が大きくなっている.30℃/19℃の条
件ではG。p。は240秒経過時では32%,480秒経過時では38%大きい値となってい
る.これはユニットセルの用いている伝熱管は管径が12.7mmと太いために,シリ
80
80
轟「60
6「60
∈
∈
葛
尚
菖40
菖40
0sq
qtS
e
20
q)
20
O FO5’
ぎ) 。 GO5
0 250 500 0 250 500
Time[s] Time[s]
(吸着器15℃/蒸発器5℃) (吸着器20℃/蒸発器10℃)
80
80
cJ一60
一60
ク w
「°
∈
尚
、 o
m
出40 ・ 。
菖40
〉 マ
魯
審 o
0
20
e20さ
o FO5璽
Oo
v GO5
0 250 500 0 250 500
Time[s] Time[s]
(吸着器30℃/蒸発器19℃) ・ (吸着器42℃/蒸発器30℃)
図3・19 FO5’ユニットとGO5ユニットにおけるG。pvの値.
一70一
カゲル層厚さが2mmのFユニットでは伝熱流体の流路の体積に対してシリカゲル
の充填量が不足しているためだといえる.
フィン高さの異なるユニットを用いて実験を行った結果,フィン高さが高くなる
ことで圧力損失や熱移動特性の低下により,吸着プロセスの進行速度が遅くなるこ
とが確認できた.しかし,G。p。の値によってユニットセルの効率を比較すると,FO5’
ユニットよりもGO5ユニットの方が効率がよいユニットであることが分かった.
3−5−3 解析によるユニットセルの最適化
実験結果と解析結果の比較により,解析によって吸着量を予測できることが確認
できたので,より厚いシリカゲル層については数値解析により検討を行った.なお,
シリカゲル層の収縮は生じないとして,シリカゲル層の壁面近くの空隙率は全て
0.6としている.また,実験における吸着率の経時変化から,480秒経過時が吸着
率の変化が緩やかになる直前なので,480秒を比較する基準の時間とした.
フィンピッチおよびフィン高さを変化させたときのG。p。の値の変化を図3・20に
示す。
まず,フィンピッチに対するG。pvの変化について注目する.温度条件が変わって
もフィンピッチに対するG。p。の変化は同じ傾向を示している.実験では最小のフィ
ンピッチは5mmであったが,解析結果からはフィンピッチ4mmにおいてG。pv
が最大になっていることが分かる.フィンピッチが開いていくと熱移動特性の低下
により吸着プロセスの進行は遅くなり吸着率は低下するが,フィンによるシリカゲ
ル充填量の減少は小さくなる.反対にフィンピッチが狭くなれば吸着率は上昇する
が,充填量は減少する.シリカゲルの充填量はフィンピッチの拡大に対して対数的
一71 一
に増加し,特にフィンピッチが6mm以下では充填量の変化が非常に大きくなる.
従って,G。p。が最大となるフィンピッチ4mmが熱移動特性と充填量のバランスの
とれた点であるといえる.また,30℃/19℃の条件においてフィン高さが8mmか
ら12mmまで変化しても最適なフィンピッチは4mmであり,三っの曲線はほぼ
重なっている.フィン高さが変わることによりフィンを通して伝熱流体へと移動す
100
100
80
80
壱}60
壱960
菖
ボ
∈
ボ
∈
邑
ヒ40
it 40
げ
げ
20
20
0
1 2 3 4 5 6 2 4 6 8 10 12 14
Fin pitch [mm] Fin height[mm]
(吸着器15℃/蒸発器5℃)
100
100
80
80
ボ
∈
ボ
∈
為60
壱}60
菖
菖
§4°
ヒ 40
げ
0
20
20
0
1 2 3 4 5 6 2 4 6 8 10 12 14 、
Fin pitch [mm] Fin height[mm]
(吸着器20℃/蒸発器10℃)
図3・20 フィンピッチとフィン高さに対するG。p。の値(その1).
一72一
る熱量が変化するため,フィン高さが高くなるほどより高い熱移動特性が要求され,
最適なフィンピッチが狭くなることが考えられる.しかし,今回のユニットセルで
用いているフィン厚さは1mmと厚いために,フィンの高さが変わって移動熱量が
変化してもフィンの温度はピーク時でも2∼3℃変化する程度であった.よって,フ
ィン高さの変化による熱移動特性の変化の影響が小さいために,三っの曲線がほぼ
100
100
80
80
擢
ボ
∈
曹6°
葛60
M
♂4°
it 40
20
20
げ
123456 2468101214
Fin pitch [mm] Fin height[mm]
(吸着・器30℃/蒸発器19℃)
100
100
80
80
訂
∈
ボ
∈
も60
/’
も60
ノ
出
亀40
げ
菖
−一一
20
き40
Fin height
0
P0mm
20
−12mm
…− P4mm
0
123456 2468101214
Fin pitch [mm] Fin height[mm]
(吸着器42℃/蒸発器30℃)
図3・20 フィンピッチとフィン高さに対するG。pvの値(その2).
一73一
重なったと考えられる.
次に,フィン高さに対するG。p。の変化について注目する.フィン高さが変化した
揚合も,温度条件が変化すると6勧。は同じような傾向を示している.フィン高さが
低くシリカゲル層への水蒸気流入における圧力損失の影響が小さい場合,管壁に近
いシリカゲル層下部の方がフィンと管壁の両方で吸着熱を逃がすことができるため
に,上部よりも下部の吸着率が高くなる.フィン高さが2mmの場合,フィンピッ
チ2∼6mmの中では最も充填量が多いフィンピッチ6mmが最も(7。p。の値が大き
い.しかし,伝熱流体の流路が占める体積に対するシリカゲル層の占める体積を考
えるとユニットセルとしての効率がよいとはいえない.反対にフィン高さが高くな
ると水蒸気流入における圧力損失が増大するため,シリカゲル層の下部は上部より
も圧力が低い状態が続き,下部は上部よりも吸着率が低くなる.充填量が多くなる
ため全体の吸着量は増加するがユニットセルの体積が増大するので,こちらも効率
がよいとはいえない.G。p。の値は,フィン高さが4mm以上になると管壁よりもフ
ィンへの移動熱量の方が多くなりフィンピッチ4皿mが最も大きくなる.30℃/19℃
の場合,フィン高さ10mmでG。p。は最大となり,フィン高さが10 mmを超える
と上述の理由により(7、p。の値は下降する.従って, G。p。が最大となるフィン高さ
10mmが圧力損失と充填量のバランスのとれた点であるといえる.また,30℃/19℃
よりも高い温度条件では圧力損失の影響が小さくなるために最適なフィン高さはよ
り高くなり,30℃/19℃よりも低い温度条件では圧力損失の影響が大きくなるため
に最適なフィン高さはより低くなっている.
よって,伝熱管の管径が12.7mmでフィン厚さが1mmのユニットセルにおいて
最適なフィンピッチは4mmであり,最適なフィン高さは42℃/30℃では12 mm,
30℃/19℃では10mm,20℃/10℃では8血m,15℃/5℃では6mmとなった,
G。p。の値を比較することで,最も効率の良いフィンピッチとフィン高さを得るこ
一74一
とができたので,次に最適な条件におけるシリカゲル層内の各種分布にっいて考察
を行う.図3・21は各温度条件の最適フィンピッチとフィン高さにおける圧力分布
を示している.圧力分布はシリカゲル層上部における圧力との比で表している.初
期条件は圧力0,吸着率0となっているので,吸着開始した直後は吸着速度が速く
そして圧力も低いので圧力の勾配が大きくなっている.特に20℃/10℃では,15秒
1
黙
0。8
゜’8
ゴo・6
げo・6
120s
へ
....,
q“
αご o.4
潤D4
0.2
0.2
60s
30s
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 0、2 0、4 0.6 0.8 1
(r。一り1《r。−rw) (rdイ)1(r♂rw)
(吸着器15℃/蒸発器5℃) (吸着器20℃/蒸発器10℃)
1
tW−一==:==餐1:
0.8
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げo・6
qe o・6
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q”
30s
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(なη1(re・−rw》 (reイ)1(r♂rw》
(吸着器30℃/蒸発器19℃) (吸着器42℃/蒸発器30℃)
図3・21 シリカゲル層内の圧力分布.
一75一
経過時において圧力分布は直線的でありシリカゲル層下部の圧力はほぼ0となって
おり,水蒸気が十分に届いていないことが分かる.最適フィン高さが20℃/10℃よ
りも2mm低い15℃/5℃では15秒経過時は20℃/10℃よりも圧力勾配が緩やかで
ある・しかし,20℃/10℃では時間の経過と共に圧力の勾配が緩やかになるのに対
して,15℃/5℃では60秒経過するまで圧力の勾配がほとんど変化していない.15℃
/5℃において20℃/10℃と同t カフィン高ざ8mmの場合,圧力損失が大きく20℃
/10℃よりも長い時間シリカゲル層下部に水蒸気が届いていない状態となる.温度が
低い条件ほどフィン高さの変化による影響が大きくなっている.温度が高い条件で
は,吸着の開始直後には圧力が勾配を持っているが,フィン高さが高くてもすぐに
勾配が小さくなっていく.
図3−22は各温度条件の最適フィンピッチとフィン高さにおける温度分布を示し
ている.温度はフィンとフィンの中間点における温度である.吸着開始直後はシリ
カゲル層内の圧力勾配が大きく,そのためにシリカゲル層上部から吸着が進行する
のでシリカゲル層の温度勾配は大きく直線的である.シリカゲル層上部における温
度がピークに達すると温度勾配は緩やかになり,(r。・r)/(r。・r,,)が0.7付近までは温度
が一定になっている.これは,(r。・r)/(r。・r,,)が0.7まではシリカゲルで発生した吸着
熱はフィンへと移動していくのが主であり,フィンは銅製のため温度勾配をほとん
ど生じないためシリカゲルの温度が一定になると考えられる.そして,(r。・r)/(r。マ分
が0.7以上になるとフィンと管壁の両方に熱が移動するので温度が下がっていく.
また,温度がピークに達するのと,圧力の勾配が緩やかになり始めるのが同期して
いることも分かる.このとき吸着プロセスの進行は熱移動律速になっていると推測
される.また,経過時間が480秒に近づくにつれて,温度分布において最も温度が
高い点がシリカゲル層上部から中間部へと移動していることが分かる.この理由に
ついては後述する。
一76一
30
30
8)20
一
8)20
一
ト
ト
10
10
\\\、 \
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
(r,−r) 1(re−−r〃》 (r,一一r) 1(re−・rw)
(吸着器15℃/蒸発器5℃) (吸着器20℃/蒸発器10℃)
30
30
き8§一・ __一
8)20
1号9§\ \\
一
8)20
一
ト
ト
10
10
48・・
480s一一一一『へ\
_
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 0.2 0.4 0,6 0.8 1
(r』一》 / (r』・−r〃》 (r』一・r) /(re−−rw)
(吸着器30℃1蒸発器19℃) (吸着器42℃/蒸発器30℃)
図3・22 シリカゲル層内の温度分布.
図3・23は各温度条件の最適フィンピッチとフィン高さにおける吸着率分布を示
している.吸着開始直後ではシリカゲル層内の圧力の勾配が大きいので,吸着率は
シリカゲル層上部が高く下部は低い分布となっている,シリカゲル温度がピークに
達し吸着プロセスの進行が熱移動律速となると,温度の低いシリカゲル層下部の吸
一77一
着率が上昇する.さらに時間が経過するとシリカゲル層の中間部が最も吸着率が低
くなり,シリカゲル層下部が最も吸着率が高い分布となる.従って,温度分布にお
いてシリカゲル層中間部の温度が最も高くなるのは,中間部の吸着率が低いために
他の部分と比較して吸着速度が速くなっているためだと考えられる.温度が低い条
件では,圧力損失の影響が大きいためにシリカゲル層上部と中間部の吸着率の差は
0.2
0.2
0.15
OA5
局
局
芝
20.1
\一一滋/48・・
一
芝
\一一_/48°s
20.1
一
£
ぎ
0.05 −x−___−240s
0.05
0
〉一一一一一一一
0
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 0,2 0.4 0.6 0.8 1
(な・り1(な㌦》 (なり1(re−−rw》
(吸着器15℃/蒸発器5℃) (吸着:器20℃/蒸発器10℃)
0.2
OA5
0.2
__/48°s
局
0.15
局
ilE
ζ
20.1
20.1
一
一
婁
§
0.05
0.05
。ここここS詞9§
0
0 0.2 0、4 0.6 0.8 1 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
(r,一一r)1(re・一・rw) (なη1(1』イw)
(吸着器30℃/蒸発器19℃) (吸着器42℃/蒸発器30℃)
図3・23 シリカゲル層内の吸着率分布.
一78一
大きいが,温度が高い条件では上部と中間部の吸着率はほぼ一定となっている.
以上の吸着のプロセスをまとめると,吸着開始直後はシリカゲル層内の圧力の勾
配が大きいのでシリカゲル層上部において吸着速度が最も速い・シリカゲルの温度
がピークに達した後は,熱移動律速になりシリカゲル層下部の吸着速度が速くなる.
熱移動特性が下部よりも低いシリカゲル層中間部は,上部と下部の吸着速度が先に
低下するため最後に相対的に吸着速度が速くなる.
最後に,より実用に近いユニットセルの形状における最適化について検討を行っ
た.実験に用いたユニットセルの伝熱管は管径が12.7mmであり,伝熱流体の流路
である内径は10.7mmである.吸着器を小型化することは高効率化にもつながるの
で,管径はより細い方が効率的であるといえる.また,フィン厚さも1mmより薄
い方がシリカゲルの充填量が増加するので望ましいといえる。よって,実用的な条
件として,30℃/19℃における管径6.35 mm,フィン厚さ0.25 mmのユニットセル
を想定した.
G。p。の値の変化を図3・24に示す.管径が12.7 mmのユニットと比較して管径が
6.35mmのユニットでは,流路が占める体積が小さくなるので最適なフィン高さは
低くなる.そして,フィン厚さが0.25mmになることで熱移動特性とシリカゲル充
填量のバランスのとれたフィンピッチは1mmのユニットよりも小さくなる.図よ
り最適なフィンピッチは2mm,最適なフィン高さは6m皿となることが分かった.
無駄な流路の体積が減少したために,G。pvの値は管径が12.7 mmのユニットの最
適値における値よりも32%高くなり,より効率の良いユニットセルであることが分
かった.フィンピッチは2mm,フィン高さは6mmのユニットにおける吸着率の
分布を図3・25に示す.管径12.7mmのユニットよりもフィン高さが低いので圧力
損失の影響が小さく均一に吸着していることが分かる.
このユニットセルの条件ではフィン厚さを0.25mmとしているが,充填量が増え
一79一
ると同時にフィンが薄くなることによる熱移動特性の低下も懸念される.しかし,
同じ管径でフィンの厚さのみを変えて比較を行った結果,その影響はとても小さい
ことが分かった.吸着率を比較すると,その差はわずか3%であった.シリカゲル
の温度がピークに達するときのフィン温度を比較すると,フィン厚さが0.25mmの
方が2∼3℃高くなるが銅と比較してシリカゲル層の熱伝導率が小さいために吸着
率に大きい差は表れない.このことは,実験において製作の都合上フィン厚さを1
fOO IOO
80 80
6一 轟一
∈ ∈
葛60 壱060
菖 菖
84° ♂4°
20 20
0 0
1 2 3 4 5 6 2 4 6 8 10 12 14
Fin pitch [mm] Fin height[mm]
図3・24 管径6.35mmのユニットセルにおけるG。p。の値.
0.2
0.15
局
ifl
20.1
一
§
0.05
0
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
(re−−r) 1 (re−rw)
図3・25 管径6.35mmのユニットセルにおける吸着率分布.
一80一
mmとしているユニットセルでも,吸着の進行を検討する上で問題がないことを示
している.
3−6 結論
本研究ではシリカゲルー水系吸着サイクルにおける吸着器のシンプルなモデルと
してユニットモデルを製作した.そして,フィン付き管にシリカゲルを接着したユ
ニットセルの最適なフィン高さとフィンピッチについて,実験的および解析的に検
討を行った.
ユニットセルを用いた実験から,以下の結論を得た.
(1)伝熱管にフィンを設けることによりユニットセルの熱移動特性は向上し,吸着
熱によるシリカゲル温度の上昇が抑制された.伝熱管のフィンはピッチが小さ
いほどピーク温度が低くなり,初期温度への回復も速くなった.
(2)フィンによる熱移動特性の向上は吸着プロセスの進行を加速させ,フィンピッ
チが最も小さいフィンピッチ5mmのユニットセルにおいて最も高い吸着率が
得られた.また,フィンピッチの大きいユニットセルではシリカゲル層の収縮
が起こり,伝熱管との接触抵抗の増大が吸着プロセスの進行を遅延させること
が分かった.
(3)フィン高さ2mmと4mmのユニットセルの結果の比較から,フィン高さ4mm
のユニットセルは圧力損失の影響や熱移動特性の違いにより,フィン高さ2
mmよりも吸着プロセスの進行が遅くなった.しかし,ユニットセル単位体積
あたりの吸着量はフィン高さ4mmのユニットセルの方が多いことが分かった.
一81 一
シンプルな構造モデルを用いた数値解析からは,以下の結論を得た.
ωフィンピッチが最適値よりも小さレ暢合・熱移動特性は向上する力流填量力職
少するため,吸着率は増加するが吸着量は減少した.反対にフィンピッチが最
適値よりも大きい場合,充填量は増加するが熱移動特性は低下するため,吸着
率が減少し吸着量も減少した.
(2)フィン高さが最適値よりも低い場合,シリカゲル粒子間の水蒸気の流動による
圧力損失は減少するが充填量が減少するため,吸着率は増加するが吸着量は減
少した.反対にフィン高さが最適値よりも高い場合,充填量は増加するが圧力
損失も増加するため,吸着率が減少し吸着量も減少した.
(3)シリカゲル層の吸着プロセスの進行は,最初に圧力が高いシリカゲル層上部に
おいて吸着が多く起こる.次に,熱移動特性の高いシリカゲル層下部において
吸着が多く起こり,最後にシリカゲル層中間部が上部と下部の吸着速度が先に
低下するため吸着が多く起こる.
これらの結果,特に数値は単純化されたモデルに対する一つの例示であるが,フ
ィン付き吸着器の一般的な取り扱いの方向性を示すものとして位置づけられる.
記号
C :比熱 [J/(kg・K)]
Cl :式(3・10)における補正係数
Dp :シリカゲル粒子直径 [m】
Ds :粒子内拡散係数 [皿2/S]
D、o :式(3・7)における係数 [m2/s]
一82一
Ea ;表面拡散の活性化エネルギー [J/mo1]
G。p。 :ユニットセル単位体積あたりの吸着量 [kg/m3]
H :吸着熱 [J/kg]
ho :円管内の熱伝達率 [W!(m2・K)]
編 :フィン壁面における伝熱係数 [W/(m2・K)1
h/L :多孔質粒子における形状係数
k,q :食包禾p吸着率 [kg/kg]
n :式(3・1)における係数
P :圧力 [Pa]
R :気体定数 [J/(K・mo1)]
Rp :シリカゲル粒子半径 [m]
r :ユニットセル径方向 [m]
7 :温度 [K]
t :時間 [s]
UD :Darcy速度 [m/s】
7 :細孔内の体積率
w :吸着率 [kg/kg]
Weq :平衡吸着率 [kg/kg]
x :ユニットセル軸方向 [m]
α :粒子間の軸と接触部の境界間の角度
β’ :粒子間の軸と熱流方向の相関係数
St :シリカゲル層の空隙率
φ* :粒子間流体薄膜無次元厚さ
μ :粘性係数[Pa・s]
一83一
λ。a :シリカゲル層の有効熱伝導率 [W/(m・K)]
Z、p :シリカゲル粒子の有効熱伝導率 [W/(皿・K)】
*
λ。p :粒子接触部における有効熱伝導率 [W/(m・K)]
ネ
λ。g :粒子i接触部付近における流体の有効熱伝導率 [W/(m・K)】
Zgノ :粒子間空隙における流体の熱伝導率 [W/(m・K)1
ρ :密度 [kg/m3]
θ :粒子間の軸と熱流面積の境界間の角度
添宇
a :シリカゲル層
ads :吸着器
c :臨界
e t :計算領域終端(図3・7参照)
! :伝熱流体
H20 :水
i :管内壁
m :フィン材料(金属)
PVAc :酢酸ビニル樹脂
Sio2 :シリカ骨格
sat :飽和水蒸気
v :水蒸気
void :シリカゲル粒子内細孔
w :壁面
一84一
参考文献
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ートポンプの吸・脱着に伴う発・吸熱特性”,化学工学論文集,19・1(1993),
83・90.
(2)渡辺藤i雄,小塚淳,汲田幹夫,架谷昌信, “シリカゲル・活性炭/水蒸気・エタ
ノール系の吸着平衡および各吸着系のヒートポンプへの適用性の検討”,化学
工学論文集,19・6(1993),1165・1170.
(3)近藤精一,石川達雄,安部郁夫, “化学セミナー16吸着の科学”,(1991),
34・35,丸善.
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ADSORPTION”,」. Chem. Eng. Jpn.,16・4(1983),293・299.
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ADSORPTION COOLING SYSTEM”,J. Chem. Eng. Jpn.,17・1(1984),52・57.
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Closed Type Adsorption Cooling Sys七em Utilizing Solar Hea七”,Trans.
ASME. J. Solar Energy Eng.,108(1986),239−245.
(8)伊藤睦弘,渡辺藤雄,架谷昌信, “多管式熱交換型吸着器で構成される吸着ヒ
ートポンプ操作の理論的検討”,化学工学論文集,22・3(1996),582・589.
(9)森英夫,濱本芳徳,吉田駿, “吸着剤充填層の有効熱伝導率”,日本冷凍空調
学会論文集,17・2(2000),171’182,
(10)S.Hayasi, K.Kubota, H.Masaki, Y.Shibata, K.Takahasi, “ATheoretical
Model for the Estimation of the Effective Thermal Conduc七ivity of a Packed
一85一
Bed of Fine Particles”,Chem. Eng. J.,35(1987),51−60.
(11)A.V.Luikov, A.G.Shashkov, L.L.Vasiliev, Yu.E.Fraiman, cc Thermal
Conductivity of Porous Systems”,Int. J. Heat. Mass. Trans£,11(1968),
117。140.
(12)森芳郎,吉田文武,“詳論化学工学単位操作1”,(1962),621・622,朝倉書
店.
(13)S.Ergun,“FLUID FLOW T亘ROUGH PACKED COLUMNS”,Che皿. Eng.
Prog., 48−2(1952), 89・94.
一86一
4章 エネルギー利用効率の試算
ここまで,2章では実験ハウスにおいて行ったGHPシステムの実証試験について
述べ,3章ではGHPシステムの排熱を利用して駆動することを想定した吸着冷凍サ
イクルの高効率化について述べた.この章では,GHPシステムを通年で使用した揚
合のエネルギー利用効率について述べる.
GHPシステムの実証試験では,1年を中間期,冬期,夏期の三っに区分した代表
的な運転パターンによる計測のみだった.このデータを元に,1年を通して使用し
た場合のエネルギー利用効率の試算を行った.また,G且Pシステムと吸着冷凍サイ
クルを組み合わせて連合運転をさせた場合の,効率向上の可能性についても検討を
行った.
4−1 GHPシステムの年間エネルギー効率
GHPシステムの実証試験を行った実験ハウスは延床面積が広く,また寒冷地にお
いて用いられる住宅と同程度の高い断熱性も有しているため,通常の住宅とは条件
が大きく異なる.そこで,新エネルギー一・産業技術総合開発機構より公募された住
宅・建築物高効率エネルギーシステム導入促進事業において定められている条件(1)
を,システムを稼働する条件として用いた.
まず,システムを設置する住宅は,温暖地域における延床面積が面積125m2の
一般的な一戸建て住宅を想定した.この住宅における標準消費エネルギー量を以下
に示す.
一87一
消費エネルギー[MJ/(年・世帯)]
暖房 14823
冷房 1013
糸合湯 17351
標準消費エネルギーには空調と給湯以外にも調理や照明,その他に消費されるエネ
ルギーも規定されているがここでは取り扱わない.次に,同じように規定されてい
る各機器のCOPを以下に示す.なお,暖房と冷房は電気式のヒートポンプであり,
COPは二次エネルギー基準の値である.
COP
ヒートポンプ式暖房 2.97
ヒートポンプ式冷房 2.67
ガス給湯器 0.75
このCOPから用途別のエネルギー負荷を逆算すると次のようになる.
エネルギー負荷[MJ/(年・世帯)]
暖房 44024
冷房 2705
糸合湯 13013
合計 59742
一88一
また,これらの機器を使用した場合の一次エネルギー基準のCOPは以下のように
なり,その場合の年間の総合COPは0。96となる.
COP
ヒートポンプ式暖房 1.04
ヒートポンプ式冷房 0.94
ガス給湯器 0.75
実験ハウスでは1994年11月から1995年10月の間,天候データを毎日計測し
ていたので計測結果から日平均外気温度を求め,そこから月平均外気温度を求めた,
GHPの運転モードは,平均外気温度が24℃以上となった7月∼9月前半を夏期と
して冷房モー一ド,15℃以下の11月∼4月前半を冬期として暖房モード,それ以外を
中間期として給湯専用モードとした.月あたりの冷房負荷は,年間の冷房負荷を夏
期の期間の長さで除した1082MJIMonthとした.暖房についても同様の方法で求
め8004MJIMon七hとした.給湯負荷については,それぞれの時期に行った沸き上
げ実験時の給湯負荷に応じた重みを持たせて月あたりの給湯負荷を決定し,夏期は
667MJIMon七h,冬期は1335 MJ/Month,中間期は1001MJ/Monthとした.なお,
GHPシステムでは空調を使用しているときは給湯を排熱で賄うことができるので,
夏期における給湯は排熱のみによって行われるものとした.しかし)・冬期の1月と
2月にっいては,外気温度が低いため排熱のみでは賄うことができずヒートポンプ
運転による供給も行うとし,それ以外の月は排熱のみによって行われるとした.
GHPシステムの各運転モードおけるCOPは,計測結果から式(4・1)∼(4・3)のよう
に外気温TOA Tの一次関数に近似して決定し,月あたりのエネルギー消費量を算出
した.
一89一
給湯
COP・w・ :O・025 T・A・+0・969 (4.1)
冷房
COPc・・伽9−−0・01砺+1・269 (4.2)
暖房
COLP・・ating :O・016T…+1・178 (4.3)
GHPシステムを使用した場合の年間消費エネルギー量および年間COPの試算結
果を表4−1に示す.なお,表中のHWSは給湯, OATは平均外気温度, EHは排熱
を示している.試算した値を上述の標準的な機器を使用した揚合のCOPと比較す
ると暖房は25%高く1・32となり,冷房はほぼ同じ0.99となった.給湯は1年の半
分の期間が,空調時の排熱で賄えることから2.52と非常に高い値となった.そして,
年間の総合COPでは1.45と,効率が50%向上する結果となった.
冷房COPは暖房や給湯と比較して低く,またGHPシステムの導入によるCOP
の向上もほぼ無い.しかし,想定している稼働条件では全体のエネルギS−・ fi荷に占
表4・1 GHPシステムの年間エネルギー効率.
Sea80n
Intewenih9
Sum凱er
Opera憾on m。de
Month OA質℃]
Hot water SUPPly
@ (HWS)
C。o㎞9+HWS
4
15.7
5
18.8
6
7
22.0
8
9
Intewelゴng
Wintef
HWS
Heating÷HWS
Sub t。ta1【MJIYea司
T。ta1【MJ/Yea司
26.8
29.4
25.3
Load[MJ/Montb]
Coolin
Heath1
HWS
1082
1082
541
21.9
10
11
12
122
1
5.0
19.1
9.0
2
6.1
3
9.3
4
12.1
2705
8004
8004
8004
8004
8004
4002
44024
59742
501
1001
1001
667
667
334
501
1001
1335
1335
1335
1335
1335
667
13013
COP
Coolin
Heatin
Energy co118umption【N【J∠Month】
HWS
Coohn
Heatin
1.44
1.52
1082
1110
530
1.00
0.98
1.02
E}1
EH
Eヨ
329
690
1.52
1.45
1.37
1.32
L26
LO9
1.28
1.12
HWS
368
695
659
1.36
1.33
1.37
2722
5843
6064
6353
6253
6018
2921
33452
41332
EH
EH
1224
1192
EH
EH
5158
α99 1.32 2.52
Total COP
1.45
一90一
める冷房負荷の割合は5%と小さいことから,全体のエネルギー消費量に与える影
響は小さいといえる.エネルギー負荷の中で最も大きな割合を占めるのが暖房負荷
である.暖房負荷は全エネルギー負荷の75%を占め,一般家庭において最も多くの
エネルギーが消費される用途である.そのため,排熱利用による暖房COPの向上
はエネルギー消費量の削減に大きく影響する.標準的な機器として想定している電
気式ヒートポンプの暖房と比較して,GHPシステムによる暖房ではエネルギー消費
量を20%削減できることが分かる.これは,エネルギー消費量の削減の40%を,暖
房COPの向上によって得られることを示している.試算では, GHPシステムの導
入によって,給湯によるエネルギー消費が最も多く削減される結果となった.給湯
負荷は全エネルギー負荷の20%程度であり,全体に占める割合は大きくはない.し
かし,GHPシステムでは空調利用時において給湯のためにエネルギーを消費しなく
てもよいことが,給湯の年間エネルギー消費量を30%に縮小する結果となった.そ
のため,エネルギー消費量の削減の60%は,給湯COPの大幅な向上によって得ら
れることになる.また,効率の悪いガス給湯器を標準的な機器として想定している
ことも,エネルギー消費の削減幅が大きくなったことに寄与しているといえる.
以上のことから,一般的な一戸建て住宅にGHPシステムを導入することによっ
て,冷房,暖房,給湯で1年間に消費するエネルギーを35%削減することができる.
4−2 吸着サイクルとGHPの連合運転
年間エネルギー利用効率の試算の結果,GHPシステムを使用することで高効率に
エネルギーを利用できることが分かった.ただし,冷房のエネルギー消費は電気式
クーラーを用いる場合とほとんど変わらない結果となった,電力消費がピークとな
一91一
る夏期では,少しでもエネルギー消費を減らすことが重要であるといえる.本節で
は,GHPシステムに吸着冷凍サイクルを組み込み,冷房の連合運転をした場合のエ
ネルギー利用効率について試算を行う.
3章において述べたように,GHPと連合運転することを想定した吸着サイクルの
作動温度条件は温水80℃,冷却水30℃,冷水19℃と設定して実験を行った.しか
し,この条件は実験を行いやすいように吸着量変化を大きくした理想的な条件であ
る.そこで,吸着サイクルの作動温度とCOPの関係として,(株)前川製作所より製
品化されているシリカゲルー水吸着冷凍機「アドレフ」の性能特性(2)を用いる.図4−1
に「アドレフ」の性能曲線を示す.温度条件は,冷却水入口温度を29℃で一定にして,
温水入口温度と冷水取出し温度を変化させている.この性能曲線から,一サイクル
で変化する(君)11nとCOPの関係を求めたのが図4−2である.温度条件が変化しても
A(瓦)1!・が同じであればほぼ同じCOPとなっているので,∠(Pr)1ノ・とCOPを次式の
ような一次関数で近似した.
!
COPadS=0.64∠!LR,”+0.4 (4・4)
0.70
0.65
紹0.60
ノ ’ !/
∼ ! //.−IChill・d w・t・
Q0°C
O ノ ノ // / OO.55
! ////1−16℃
一・−9°C
! ////
・・……
°・5°
^〃/≡≡il
O.4
0 60 70 80 90 100
Hot water temperatu re [°C]
図4−1 アドレフ性能曲線.
一92一
0.8
紹0.6
ゴ
o
O O.4
0.2
y=0.64x+0.40
/づ灘法ピ馴
.ン冠’Chill。dw。t。
グぢ男ク __20・C
騨一一 16°C
−・−9°C
−・−7°C
−…5°C
−一・3°C
0
O O.1 0.2 0、3 0.4 0。5
∠P/1n卜]
図4・2 相対圧とCOPの関係.
GHPを冷房十給湯モードで運転している場合,エンジン冷却水の温度は約60℃
で給湯機器に投入され約45℃でGHPに戻ってくる.エンジン冷却水は温度が15℃
低下しているが,これは排熱を25∼40℃の水の加熱に使用しているためであり,吸
着サイクルの熱源として使用した場合は温度低下の幅は小さくなると考えられる.
これは,吸着サイクルの熱源として必要な温度は60∼80℃であり,加熱をする対象
の温度炉給湯の場合より高いためである.従って,温水として取り出せる温度も給
湯の揚合よりも高くなると考えられる.GHPを冷房モードで運転している揚合,エ
ンジン冷却水の温度は70℃以上になるので,吸着サイクルの熱源として投入できる
温水温度は70℃,吸着サイクルからの出口温度は「アドレフ」を参考にして65℃と
した.
連合運転の形態は,2章において想定した形態のように吸着サイクルとGHPでそ
れぞれの冷熱源を生成して冷却をする方法と,吸着サイクルとGHPで一つの冷熱
源を生成して冷却する方法が考えられる.前者の場合,吸着サイクルで得られる冷
熱は室内から取り込んだ空気を予冷してG且Pによって吹出し温度まで冷却する形
一93一
態や,外気から取り込んだ空気を全熱交i換機において室内空気と熱交換する際にそ
れを補助する形態,吸着サイクル用とGHPのダクトを分ける形態となる.これら
の運転形態は,ダクトを分ける形態以外では,吸着サイクルで生成する冷水温度を
高く設定することができる.吸着サイクルは冷水温度や冷却水温度の変化によって
COPが大きく変動するので,冷水温度を高く設定できれば高いCOPで運転させる
ことができる.しかし,配管が複雑化し熱交換機も大型化するため,家庭用として
は不適切であるといえる。後者の場合は,GHPと吸着サイクルで一っの冷水を生成
し空気の冷却は冷水で行う形態となり,吸着サイクルのCOPは低下するが装置の
構造は複雑化しない.また,この運転形態では二つのサイクルの並び方によって直
列式と並列式がある.直列式は冷水を取出し温度まで冷却する過程を二っに分ける
方式で,並列式は冷水を二股に分けそれぞれのサイクルで取出し温度まで冷却する
方式である。並列式よりも直列式の方が吸着サイクルのCOPは高くなるので,直
列式で連合運転することを想定する.冷水は12℃で吸着サイクルに投入され,最終
的にG且Pによって7℃まで下げられる.
次に冷却水温度の設定を行う.まず,装置の大型化を防ぐため冷却塔を使わず空
冷で行う場合を考える.冷房標準条件における外気温は35℃となっているので,空
冷の冷却器で得られる冷却水温度は40℃となる.しかし,温水70℃,冷却水40℃
の温度条件では冷水温度を10℃付近とすると冷凍サイクルとして成立しなくなる.
従って,この温度条件では冷却塔の使用が必要になり,冷却水温度は30℃となる.
次に,吸着サイクルに投入できる熱量を求めるため,GHPの熱勘定を考える.暖
房定格試験において排熱を使用しない2管式運転のCOPは1.00で,排熱を使用す
る4管式運転のCOPは1.42であった.ガスエンジンの熱効率は約30%なので,投
入熱量に対して70%の排熱が発生し,排熱中の60%を回収して利用できたことにな
る.冷房運転時の標準外気温35℃におけるGHPのCOPは式(4−2)より0.92であり,
一94一
暖房の場合と同様に吸着サイクルには投入熱量の42%の熱量を駆動熱源として利
用できるとする.
GHPと吸着サイクルの出力の比から吸着サイクルのCOPは0.57となり,吸着サ
イクルの冷水取出し温度は11℃となる.
以上の条件において連合運転した場合のエネルギーフn・一一を図4・3に示す,吸着
サイクルとの連合運転によって,システムCOPは1.16となりGHP単体による運
転と比較して26%効率を向上できる試算となる.よって,吸着サイクルによる冷房
強化は夏期における排熱利用の有効な手段であるといえる.
Fuel
lOO
Shaft output
Heat recovery
exchange「
Cooling
116
図4・3 連合運転におけるエネルギーフロー.
一95一
記号
COP :成績係数 日
Pr :相対圧力 [・]
TOAτ :外気温度 [℃]
添宇
ads :吸着サイクル
cooling:冷房
heating:暖房
hws :給湯
参考文献
(1)住宅・建築物高効率エネルギーシステム導入促進事業公募説明会資料,(2001),
新エネルギV−一… 産業技術総合開発機構.
(2)吸着冷凍機AdRefカタログ,No.0100276J・SI・420C,(1999),(株)前川製作
所.
一96一
5章 結論
熱エネルギーを高効率に利用するためには,エネルギーを取り出した後の排熱を
有効に使うことが必要である.GHPシステムでは,ガスエンジンによって得られた
力学エネルギーでコンプレッサを駆動し冷媒の圧縮を行う.力学エネルギーを取り
出したガスの燃焼エネルギーの残りは,エンジン冷却水によって回収され,次の用
途で利用される.
本研究では,排熱を暖房強化や給湯,風呂,床暖房に利用できるGHPシステム
を実験ハウスに構築し,排熱利用の省エネルギー性について検討を行った.また,
夏場の冷房強化の手段として,シリカゲルー水系吸着冷凍サイクルを排熱により駆
動することを想定した.一般的に効率の高くない吸着サイクルの高効率化を図るた
め,伝熱管を1本のみ用いる小型の吸着器モデルを製作し,吸着器における熱およ
び物質移動の最適化について検討を行った.そして,GHPシステムを1年通して使
用したときのエネルギー消費量とエネルギー利用効率の試算を行った.また,GHP
システムにシリカゲルー水系吸着冷凍サイクルを組み込んで連合運転をした場合の
エネルギー利用効率への効果についても検討を行った.
以下に本研究で得られた主な結果の要約を示す.
《GHPシステムの実証試験》
(1)暖房では,排熱により生成される温水を熱交換器に投入して暖房の強化を行う
ことで排熱を利用しない場合よりも30%効率が向上する.
(2)給湯では,給湯のみを行う場合は排熱利用により30%効率が向上する.また,
暖房や冷房と同時に利用する場合は排熱のみで需要を賄えるため,エネルギー
消費を削減できる.
一97一
(3)冷房では,排熱を冷房強化に利用できるシステムではないので電気式と同等の
効率となる.また,夏期全体のエネルギー利用効率も,給湯を排熱で賄うこと
はできるが夏期は使用量が少ないので効率はあまり向上しない.
(4)排熱を有効に利用することでエネルギー利用効率が向上するが,1年を通して
より高効率にエネルギーを利用するためには,夏期における排熱を有効に利用
することが必要である.
《シリカゲルー水系吸着冷凍サイクルの高効率化》
実験結果から以下の結論を得た.
(1)伝熱管にフィンを設けることにより二・ニットセルの熱移動特性は向上し,吸着
熱によるシリカゲル温度の上昇を抑制することが吸着プロセスの進行を加速さ
せる.
(2)フィン高さが高くなると圧力損失の影響や熱移動特性の違いにより,吸着プロ
セスの進行が遅くなる.
(3)フィンピッチの大きいユニットセルではシリカゲル層の収縮が起こり,伝熱管
との接触抵抗の増大が吸着プロセスの進行を遅延させる.
解析結果から以下の結論を得た.
(1)フィンピッチが最適値よりも小さい場合,熱移動特性は向上するが充填量が減
少するため,吸着率は増加するが吸着量は減少し,反対に最適値よりも大きい
場合,吸着率が減少し吸着量も減少する.
(2)フィン高さが最適値よりも低い場合,シリカゲル粒子間の水蒸気の流動による
圧力損失は減少するが充填量が減少するため,吸着率は増加するが吸着量は減
少し,反対に最適値よりも高い場合,吸着率が減少し吸着量も減少する.
一98一
(3)シリカゲル層における吸着プロセスの進行は,最初に圧力が高いシリカゲル層
上部において吸着が多く起こる.次に,熱移動特性の高いシリカゲル層下部に
おいて吸着が多く起こり,最後にシリカゲル層中間部が上部と下部の吸着速度
が先に低下するため吸着が多く起こる.
《エネルギー利用効率の試算》
(1)1年間を通してGHPシステムを使用した場合,既存の機器を使用した場合と比
較して年間エネルギー効率が50%向上し,エネルギー消費量を35%削減するこ
とができる.
(2)吸着サイクルによって冷房の強化を行う場合,GHPシステムの効率を25%向
上できる.
・ 以上の研究を通じて,排熱を有効に利用することはエネルギー消費の削減にきわ
めて有効であることが明らかになった.今後,本研究結果が熱エネルギーのカスケ
ード利用の促進に寄与できることが望まれる.
一99一
謝 辞
本研究は,静岡大学工学部 荒木信幸教授のご指導のもとに行われたものであり
ます.荒木信幸教授には,終始一貫して懇切なご指導,ご鞭捲を賜りました。ここ
に深甚なる謝意を表します.静岡大学工学部 中山顕教授には,本研究を遂行する
にあたりご指導とご助言をいただきました.ここに心から感謝の意を表します.ま
た,論文作成にあたっては,静岡大学工学部 牧野敦教授,長谷隆教授,須藤雅夫
教授に有益なご意見とご教示をいただき,謹んでお礼申し上げます.
本研究は,ヤマハ発動機株式会社との共同研究として始められたものであり,ご
支i援,ご協力いただいた新村修三郎氏,鈴木由則氏,大坪豊生氏ならびに関係者諸
氏に厚くお礼申し上げます.なお,GHPシステムの実証試験,およびユニットモデ
ル吸着器の初期の設計は,当時大学院生の丸山淳氏によって行われたものであり,
ここに記して謝意を表します.
最後に,本研究を進めるにあたり有益なご助言をいただいた,唐大偉助手,島田
和彦技官,実験にご協力いただきました,榊原泰弘氏,今村陽祐氏,春日慎治氏,
大谷晃弘氏,増田鎮氏,山本慎氏,ならびに熱および物質移動研究室の皆様に感謝
いたします.
一dOO一