PDN - Keysight

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Keysight
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E5061B を用いた PI(パワー・インテグリ
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ティ)を向上させる、PDN(パワー・ディスト
Space
リビューション・ネットワーク)の実測手法
02 | Keysight | E5061B を用いた PI(パワー・インテグリティ)を向上させる、PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)の実測手法
【1 章:PI 対策[PDN(Power Distribution Network)インピーダンスの最小化]
の必要性】
パワー・インテグリティ向上の必要性
高速ディジタル回路の低電圧化・大電流化
電流
⊿I
バイパスコンデンサ
IC
DC-DCコンバータ
時間
電圧
⊿V
IRドロップ
グランド
電源プレーン
PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)
時間
Zpdnが共振ピークを持つ
→EMI放射
Zpdn(PDNインピーダンス)が大きい
→LSIコア回路動作時の大電流変動⊿Iにより
Vddのゆらぎ発生 (ΔVdd = ΔI x Zpdn)
LSIの動作が不安定になる。
LSIの安定動作 / EMI対策のために、パワーインテグリティを向上するには・・・・
PCBレベル PDN (パワー・ディストリビューション・ネットワーク) のインピーダンス(Zpdn)を、
低周波~高周波まで、低く抑える事が重要かつ必須。
マイクロプロセッサ、メモリ、FPGA、システム LSI 等の高速ディジ
タル IC は低電圧化、大電流化が進む傾向にあり、これらを搭載
したシステムの DC 電源周りの特性(パワー・インテグリティ:PI)
を向上させることが強く望まれている。パワー・インテグリティの
向上において最も重要なことは、IC が消費する電流量に急激な
変化があった場合でも、常に IC に安定した DC 電圧を供給し続
けられることである。そのためには、IC からみた電源プレーンと
グランド間の PDN(Power Distribution Network)インピーダンス
Zpdn を極めて小さい値に抑えることが必要になる。IC の消費電
流量の変化を⊿I とした場合、電源電圧 Vdd には⊿Vdd=⊿I x
Zpdn の変化が現れる(この現象は IR ドロップと呼ばれる)。昨
今の IC の消費電流は数 10A といった大電流を消費するものが
あり、⊿I が非常に大きな値となることから、⊿Vdd を低く抑える
ためには Zpdn を mΩオーダの極めて小さな値に抑える必要が
発生する。
PCBレベルPDN設計でのターゲット・インピーダンスの例
マイクロプロセッサユニット、etc
PDNのインピーダンスは非
常に小さい!!
100 mohm
10 mohm
mΩオーダ以下
例)
Vdd=1.2 Vdc、Imax=150 Adc
Vddの変動許容量 1.2 Vdc x 5%=0.06 Vdc
過渡電流変動最悪値 150 Adc x 50% = 75 Adc
1 mohm
∴ Ztarget at LF ≒ 0.06/75 = 0.8 mΩ
DC
【ターゲットZpdn】
・電流
・ターゲットZpdn
1 kHz
1 MHz
100 MHz
1 GHz
Freq.
:数10Adc ~ 100 Adc以上の大電流。
:低周波ではmΩオーダー以下のターゲットZ。
【キーとなるポイント】
・低周波から極めて低いZを実現するVRMの設計・選定。
・100 MHz帯までの低いターゲットZをバイパスCで実現するPDN設計。
電源電圧 Vdd の値も 1.2V といったような低電圧化が進む傾向
にあり、小さな電圧変動⊿Vdd(例:1.2V の 5%である 0.06V)でも
IC の動作を簡単に不安定にしてしまう。
また、こういった Zpdn の不要な共振は EMI 放射の観点でも問
題を生じる可能性があるため低減が望まれる。
上記のような Zpdn を従来よりも大幅に低減する必要性が増す
中、Zpdn を定量的に捉えている設計者はまだまだ少ないのが
現状である。Zpdn 低減のために経験則や予測からバイパス・コ
ンデンサを過剰に配置するといった対策を行う設計者が多いが、
コンデンサの増加は基板サイズ、コストの増加を意味する。対策
03 | Keysight | E5061B を用いた PI(パワー・インテグリティ)を向上させる、PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)の実測手法
した結果、期待した効果が得られない、むしろ悪化するといった
ことが発生するも、評価方法はオシロスコープで電源電圧を観
測するといった程度にとどまり、定量的に対策の効果を確認でき
ないといったケースも多くみられる。
特に IC がある動作周波数では正常に動作するものの、異なる
周波数では動作しないといったような現象を周波数ドメインでは
なく、タイムドメインの測定器であるオシロスコープで評価してい
ては、周波数依存性を定量的に解析することができず、どの周
波数で IC が動作した際に不具合が発生するか解らないまま不
安が尽きない状態に陥る。
また、IC の動作が不安定になった際、IC の設計者が電源ユニッ
トの特性を疑い、電源ユニットの設計者に原因を問うものの、原
因が解らない、電源ユニットの性能を定量的に示せないというこ
とは協調設計において大きな障壁と言える。
本文書はパワー・インテグリティを定量的に示すパラメータおよ
び、それらを測定する手法を紹介し、上記の数々の問題を解決
する手助けになることを望むものである。
【2 章:PDN インピーダンスを決める要素と必要となる測定】
PDNの特性評価:測定要求
受動PDNデバイスのZ測定:
DC-DCコンバータ (VRM、POL)
ループ測定:
DC-DCコン、大容量C
ミリオームZ測定:
・安定性を確保したい。
・帯域を稼ぎ追従性を良くしたい。
*ループ特性の測定評価
・低周波のインピーダンス特性に影響
低く抑えたい。
*超低インピーダンス測定評価
Feedback loop
High freq.
bypass
caps
Ferrite
beads
・回路設計用デバイス特性をより正確に把握
してシミュレーション等に用いたい。
・DC・AC依存性がある場合がある。
*実動作状態に近いDC・AC
印加状態での測定評価
Power plane
inductances &
capacitances
…
Large
bypass
caps
Load devices
(MPUs, FPGAs, SoC, etc)
Vdd
i
…
DC-DC
converters
(VRM, POL)
システム・レベルPDN Z測定:
PDN |Z|
…
・PDNデバイスを実装した状態での
PCBのトータルZ特性を評価したい。
・回路設計の妥当性確認したい。
*広帯域に低インピーダンスを評価
100 mohm
10 mohm
1 mohm
DC
1 kHz
1 MHz
100 MHz
1 GHz
Freq.
PDN インピーダンスは、低周波、中周波、高周波においてそれ
ぞれ異なる要素により決定される。
 低周波(DC~数 100kHz)
低周波における PDN インピーダンスは主に DC-DC コンバー
タのループ特性により低く抑えられる。ある程度高い周波数
(数 10kHz 程度)になると DC-DC コンバータのループ特性だ
けでは抑えられなくなるため大容量コンデンサにより抑える。
特に IC の動作モードが切り替わる際、例えば 20A から 40A
といったように大きな消費電流量の変化が比較的ゆっくりと発
生するようなことが起きる場合に、低周波における PDN イン
ピーダンスが十分低くないと IR ドロップの原因となる。従って
DC-DC コンバータ及び大容量コンデンサの低周波における
インピーダンスは、測定により特性を抑えておく必要があるが、
1mΩ程度といった極めて小さなインピーダンスであることから
通常の測定手法では測定が困難となる。
また、DC-DC コンバータのループ・ゲイン、及び位相マージン
を測定することも重要である。より高周波数までループ・ゲイ
ンを高くキープすることは、高速な電流変動にコンバータが追
従することを意味するが、あまり高い周波数までゲインをキー
プすると、位相マージンがなくなり最悪のケースでは DC-DC
コンバータが発振のような不安定な動作を引き起こしてしまう
可能性もある。これらのトレードオフを考慮しつつ最適なルー
プ・ゲイン、位相マージンを測定、調整することが、高速な応
答性と安定性を両立させる重要なポイントとなる。
 中周波数~高周波(数 100kHz~数 100MHz)
中周波数~高周波になるに従い、基板のインダクタンス成分
等によりインピーダンスが上昇するが、これを抑えるにはバイ
パス・コンデンサを使用する。また、ノイズの伝搬を抑える効
果を得るためにはフェライト・ビーズ等のコンポーネントを使用
する。
電源周りの設計をされる際に用いる、もしくはシミュレータに
入力するコンデンサの値はどのような値を使っているだろう
か?コンポーネントに記載されている 1uF といった値をその
まま入力する、デバイス・メーカから供給されるモデルを用い
る等、様々かと思われる。ところで、コンデンサは周波数特性
を持ち、DC バイアスをかけると、簡単に容量が倍半分に変化
するものがある。MLCC などはその典型的な例である。コンデ
ンサに記載された 1uF 等の値はあくまである周波数における
代表値にしかすぎない。
また、デバイスのデータは DC バイアスをかけずに値付けさ
れていることがほとんどである。一方、実際の電源回路では
DC バイアスがかかった状態でコンデンサは使用される。両者
の結果が一致しないことは自明である。一番恐ろしいケース
では、容量が変化したことにより、特定の周波数(例えば IC
の動作周波数)においてインピーダンスが予想外に共振して
大きくなり、電源周りのトラブルが発生することも十分あり得る
話である。そういった意味からも、DC バイアスをかけたうえで、
コンポーネントの周波数特性を測定して特性を知っておくこと
は非常に重要である。
 低周波~高周波(DC~数 100MHz)、PCB システムレベルの
評価
DC-DC コンバータ及び各コンポーネントを評価することも重
要だが、最終的には PDN 全体のインピーダンスを測定、問
題が発生しそうな共振(インピーダンスピーク)が発生しない
04 | Keysight | E5061B を用いた PI(パワー・インテグリティ)を向上させる、PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)の実測手法
こういった従来の測定器では評価が困難な PDN 評価を
1Box で包括的にカバーする新製品 E5061B ネットワーク・ア
ナライザが弊社(キーサイト・テクノロジー(合))からリリースさ
れている。
この新製品を用いた PDN の各パラメータの評価手法を、そ
れぞれ次章以降で紹介する。
か、広帯域にわたってチェックする必要がある。後述するが、
PDN 全体のインピーダンス特性を実測、そのデータをシミュ
レータに引き込むことにより、電流変化に対する電圧変動(IR
ドロップ)をシミュレートさせて評価することもパワー・インテグ
リティを向上する上で非常に効果的である。
上記のような PDN のインピーダンス、ループ特性の評価は、
一般的なゲインフェーズ・アナライザや、ネットワーク・アナラ
イザでは実施することが困難である。
PCBレベルPDN測定ニーズを包括的にカバーする
最新のネットワークアナライザE5061B
DC-DCコンバータ
ループ・ゲイン測定
ミリオーム出力Z測定
PDNの包括的な評価を1BOXで実現
E5061B-3L5, 5 Hz to 3 GHz
DC-DC
converters
Large bypass
capacitors/
output cap.
of converter
High freq.
bypass-C
Ferrite
beads
受動PDNデバイス測定
Power plane
inductances &
capacitances
Vdd
…
…
i
Load devices
…
システム・レベルPDN Z測定
…
NEW
PDN | Z|
100 mohm
10 mohm
1 mohm
DC
1 kHz
1 MHz
100 MHz
1 GHz
Freq.
05 | Keysight | E5061B を用いた PI(パワー・インテグリティ)を向上させる、PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)の実測手法
【3 章:PDN 測定、各項目の測定手法】
DC-DCコンバータのフィードバック・ループ
Vin
Error Amp.
+
PWM
Vref
-
C3
Switch
Output
LC filter
Vref
Vout
A β = ループゲイン
R4
C2
β
R2
R1
Vout
A
R3
Vout
A

Vref 1  Aβ
C1
• ループ帯域を稼ぎ、負荷変動時の追従性を向上。
Gain
クロスオーバー
周波数
パワー・インテグリティを向上するためには・・・・
0 dB
• かつループ安定度は確保し、
Gain margin
Phase
負荷変動時の電圧リンギングを防ぐ。
0 deg
位相マージン
Freq.
DC-DC コンバータのループ・ゲイン特性評価
まず、DC-DC コンバータの基本的な動作原理を簡単におさらい
する。
フィードバック制御で ON/OFF されるスイッチによって入力 DC
電圧がパルス電圧に変換され、それが LC フィルタによって平滑
化されて出力 DC 電圧が得られる。出力電圧レベルはパルスの
Duty 比によって決まる。
また、DC-DC コンバータは等価的に基準電圧 Vref を入力、出
力電圧 Vout を出力とする負帰還制御システムと見なすことがで
きる。|Vout/Vref| = |A/(1+AB)| はクローズド・ループ・ゲイン、|AB|
はループ・ゲインと呼ばれる。ループ・ゲイン|AB|が大きいほど出
力電圧を一定に保つ制御が強く働く。出力電圧の変動周波数が
高くなるとループ・ゲインは下がっていき、制御が働かなくなり、
出力の安定化が効かなくなる。|AB|=0 dB となる周波数はクロス
オーバ周波数と呼ばれ、ループの帯域幅を示す。クロスオーバ
周波数が高いほどより高い周波数の変動に対してループ制御
が働くので、負荷変動に対する応答性が良くなる。
次に、ループ一周伝達関数-AB の位相遅れに着目する(ルー
プを一周したときの伝達関数は誤差増幅器での反転の要素が
加わり-1 xAB=-AB となる)。位相遅れが 360 度に近くなると正
帰還に近い状態になり、このときにループ・ゲイン|AB|が 0dB 以
上あると、発振しやすい不安定な状態となる。ループ・ゲイン
|AB|= 0 dB となる周波数(クロスオーバ周波数) における-AB の
位相が、発振を起こす位相角である-360 度(=0 度) よりも何度
余裕があるかという指標は位相マージンと呼ばれ、ループの安
定度を示す重要な評価パラメータである。
06 | Keysight | E5061B を用いた PI(パワー・インテグリティ)を向上させる、PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)の実測手法
ループゲイン |-Aβ|
0 dB
クロスオーバー周波数
(=33kHz)
位相
0 deg
-Aβ
位相マージン
(=81deg)
100 Hz
上図は E5061B により測定したループ・ゲイン、及び位相マージ
ンの測定結果である。クロスオーバ周波数が 33kHz であり、こ
の程度までの高速な負荷変動に追従できることが解る。クロス
オーバ周波数における位相マージンには 81 度と余裕が十分あ
1 MHz
る。位相補償目的の素子の値を調整し、より高速な負荷変動に
追従できるようクロスオーバ周波数を高く変更する余地があるこ
とが測定結果から解る。
07 | Keysight | E5061B を用いた PI(パワー・インテグリティ)を向上させる、PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)の実測手法
DC-DC コンバータの出力インピーダンス(超低
インピーダンス)測定
DC-DC コンバータの出力インピーダンスは特に低周波において
非常に小さな値(mΩ)オーダとなる。こういった超低インピーダ
ンスの測定は、測定器にとっては非常に困難な測定の一つであ
る。ここでは低インピーダンスに適した測定手法を紹介する。
ネットワークアナライザによる
代表的なインピーダンス測定方法
S11=VT/VR
VTで測定
されるAC電圧
50
反射法
50
* 中インピーダンスDUT向け
* Zdut = 50 x (1+S11)/(1-S11)
Zdut
50
VT
50
VR
50
シャントスルー
S21=VT/VR
50
シャントスルー法
* 小インピーダンスDUT向け
* Zdut = 50 x S21/(2 x (1-S21))
0.1
ohm
50
50
VT
Zdut
50
50
感度良い
領域
反射法
50
ohm
10 k 測定
ohm インピーダンス
シャントスルー
反射法
VR
E5061Bで用いる事ができるシャントスルー法は、
低インピーダンス領域でVT が大きく変化、感度良く インピーダンスを測定可能。
mΩオーダの低インピーダンスを評価するPDN測定に最適な手法。
まず VNA(ベクトル・ネットワーク・アナライザ)でインピーダンスを
測定する際、一般的に思いつくのは反射法である。50Ω系の測
定器から信号を出力、測定物から反射してくる量を VT レシーバ
で検出して測定する。50Ω近辺のインピーダンス測定には非常
に有効であるが、1mΩや 10mΩといった低インピーダンスの変
化に対しては、VT で測定される電圧に差がなくインピーダンス
差分を検出できなくなる。
一方シャント・スルー法という方法は、50Ω信号出力と 50Ωレシ
ーバ(VT)の、信号ライン同士、グランドライン同士を接続、その
間に縦に測定物を挟んで測定する手法である。
シャント・スルー法は反射法とは異なり、低インピーダンス領域
における測定物のインピーダンス変化に対して、ダイナミックに
VT での電圧が変化する。そのため 1mΩや 10mΩといった
PDN の低インピーダンスを分解能良く検出することが可能な方
法である。
このシャント・スルーによる低インピーダンス測定を、DC 近辺の
低周波から一般的なネットワーク・アナライザを用いて行うことは
困難である。
まず、一般的なネットワーク・アナライザは測定可能な下限周波
数が kHz オーダの物が殆どであり、そもそも DC 近辺の周波数
を測定できない。一方 E5061B は測定可能な下限周波数が
5Hz であり、DC-DC コンバータの特性等、低周波帯に表れる特
性も取りこぼすことなく測定が可能である。
また、約 100kHz 以下の低周波における mΩオーダのインピー
ダンスは、一般的なネットワーク・アナライザでは不要なグランド
電流の影響により誤差が増大して測定できない。
これはシャント・スルー法で低インピーダンス測定を行う際、測定
に使用する同軸ケーブルのグランドラインを電流が流れることに
より発生する現象で、結果として測定物のインピーダンスだけで
はなく、測定用ケーブルのグランドラインのインピーダンスも合わ
せて測定してしまう。
測定用ケーブルのグランドラインのインピーダンスは一般的に
10mΩ~数 10mΩ程度あり、mΩオーダの測定物のインピーダ
ンスと比較して非常に大きな誤差となる。
一方、E5061B は低周波においてレシーバのグランドを 30Ω程
度のインピーダンスでフローティングにするという(セミフローティ
ングと呼ばれる)特別な仕掛けがしてあり、不要なグランド電流
を遮断している。
E5061B は低周波における mΩオーダの PDN インピーダンスを
測定可能な、非常に特別なネットワーク・アナライザである。
下図に E5061B による DC-DC コンバータの出力インピーダンス
の測定結果を示す。
5Hz からという低周波において 8mΩというオーダの低インピー
ダンスが測定できている。ループ・ゲインの測定結果が示すよう
に数 10kHz のオーダでは DC-DC コンバータのループ・ゲイン
が効かなくなり、インピーダンスが一度上がっている。その後、
大容量コンデンサにより再度低インピーダンスに抑えられている
が、周波数の上昇に伴いインピーダンスも上昇していることが解
る。
DC-DC コンバータ出力インピーダンス(Ω)
08 | Keysight | E5061B を用いた PI(パワー・インテグリティ)を向上させる、PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)の実測手法
40mΩ
8mΩ
5Hz
10kHz
30MHz
周波数
09 | Keysight | E5061B を用いた PI(パワー・インテグリティ)を向上させる、PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)の実測手法
バイパス・コンデンサの DC バイアス重畳測定
バイパスコンデンサ:容量値(F)
5.E-05
4.E-05
DCバイアス=0V
1V
3.E-05
2V
3V
4V
2.E-05
5V
1.E-05
0.E+00
1.E+01
1.E+02
1.E+03
1.E+04
1.E+05
1.E+06
周波数(Hz)
上図はバイパス・コンデンサの DC バイアスを重畳した際の、周
波数(Hz)vs 容量値(F)を E5061B により測定した結果である。
DC バイアス電圧が 0V(デバイス・メーカで容量が測定される際
の一般的な条件)においては約 40uF の値になっているコンデン
サでも、DC バイアスが 5V 印加されている状態 (実際の電源回
路に使用されている状態) では 20uF という半分以下の値になっ
ている。デバイス・メーカが示す 40uF という値を信じて、設計、
シミュレーション等を行えば出来上がってくる実際の電源回路の
動作が異なるのは想像することがたやすい。また、100kHz 程度
まではコンデンサとして動作しているが、それ以上の周波数では
ESL によりコンデンサとしては使用できないことも示されている。
実際に使用するコンポーネントの真の特性を知っておくことは、
電源回路設計において非常に重要なことであることが解る。
10 | Keysight | E5061B を用いた PI(パワー・インテグリティ)を向上させる、PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)の実測手法
基板レベルの ZPDN 測定
DC-DCコンバータ & PCボードを組み合わせた物のZ測定
DC-DC
3.3V
22uF
Id=2A
DC-DCコンバータ = ON
0.1uFx10
IC=Off
DC-DCコンバータ単体
PCボード&キャパシタ単体
22uF
DCDC
3.3V
・DC-DCコンバータ単体
及び
・PCボード&キャパシタ単体
Id=2A
0.1uFx10
DC-DCコンバータ = ON
IC=Off
2つを合体したインピーダンスを
E5061Bで測定。
DC-DCコンバータ&PCボード
擬した電流シンクが載った PC ボード単体、③DC-DC コンバー
タ及び PC ボードの 2 つを組み合わせたもののインピーダンスを
測定した。ただし、インピーダンス測定時に電流シンクは OFF に
した。
最終的には基板レベルのトータルインピーダンスを測定する。今
回は測定結果の理解を深めやすいように、非常にシンプルな3
種類の測定物を測定した。①DC-DC コンバータ単体、②22uF
のコンデンサと 0.1uF のコンデンサ x10 個(=1uF)及び IC を模
100
インピーダンス(Ω)
10
共振が発生
PCボード単体
1
0.1
0.01
DC-DCコンバータ単体
PCボード&DC-DCコンバータ
0.001
1.E+00
1.E+01
1.E+02
1.E+03
1.E+04
1.E+05
1.E+06
1.E+07
1.E+08
周波数(Hz)
PC ボ ー ド 単 体 の グ ラ フ ( 緑 色 ) は 低 周 波(~1kHz)に お い て
22uF のコンデンサのライン、高周波(100kHz~4MH)において
1uF のコンデンサのラインでインピーダンスが低下、その後
4MHz 以上では ESL によりインピーダンスが上昇していることが
解る。
DC-DC コンバータ単体のインピーダンスの変化は前述の測定
通り赤色の挙動を示している。
最終的に PC ボードと DC-DC コンバータを組み合わせたインピ
ーダンスは、両者のインピーダンスの低い方の値を採用した青
のラインとなっており、ここで約 10kHz 及び 1.2MHz においてイ
ンピーダンスの上昇(ピーク)が見られる。IC がこれらの周波数
で電流を引くと不具合が起きそうであることが定量的に解る。こ
のように広帯域にインピーダンス特性を把握し、不要なインピー
ダンスピークがないかを確認しておくことが、最終的なパワー・イ
ンテグリティ向上において極めて重要なこととなる。
11 | Keysight | E5061B を用いた PI(パワー・インテグリティ)を向上させる、PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)の実測手法
【4 章:PI 測定結果の有効活用法(測定結果とシミュレータによる解析の融合)】
前述の PCB レベルのインピーダンス測定結果から、どのような
周波数で IC が動作すれば不具合が発生しそうかある程度予測
は可能である。しかし、様々な波形で電流が IC に流れ込んだ際、
時間に伴いどのように電源電圧が変化するのか詳細に予測す
ることは、周波数ドメインの結果からだけでは困難となる。
そこで、弊社が取り扱う IR ドロップシミュレータというソフトウェア
に PCB レベルのインピーダンス測定結果を読み込み、IC に流
れる電流の条件を指定、電圧の変動を解析させた例を示す。
(IR ドロップシミュレータは E5061B 上で動作し、IR ドロップ解析
が可能なソフトウェアである。)
まず IC が前述の 1.2MHz における共振特性近辺で電流を引い
た場合の例を示す。
E5061Bで測定したデータをシミュレータに読み込み、解析
22uF
IRドロップ
シミュレータ
Id=2A
DC-DC
3.3V
インピーダンス測定結果
読み込み。
0.1uFx10
DC-DCコンバータ = ON
IC=Off
DC-DCコンバータ&PCボード実測結果
①DC-DCコンバータ&PCボードの
インピーダンス測定結果を読み込み。
②ICが矩形波で2Aの電流を
引き込んだ際の
電源電圧変動をシミュレート
③引き込む電流の周波数は
800kHz、1.2MHz、1.5MHzでシミュレート
22uF
DCDC
3.3V
0.1uFx10
DC-DCコンバータ = ON
2A
Id=2A
IC=ON
DC-DCコンバータ&PCボード
Tr=Tf=100nsec
0A
800kHz /1.2MHz/1.5MHz
ICが矩形波で電流を引いた場合の
時間 vs 電源電圧変動をシミュレート
12 | Keysight | E5061B を用いた PI(パワー・インテグリティ)を向上させる、PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)の実測手法
E5061Bによる実測データ
1
特定の周波数でインピーダンス
ピークがある場合、
その周波数でICが電流を引くと
大きなIRドロップが発生する。
インピーダンス(Ω)
0.1
0.01
0.001
電源電圧変動(mV)
1.E+00
1.E+01
1.E+02
1.E+03
1.E+04
1.E+05
1.E+06
IC消費電流
周波数=約1.2MHz
IC消費電流
周波数=約800kHz
1.E+07
1.E+08
周波数(Hz)
約600mV
約300mV
IC消費電流
周波数=約1.5MHz
約400mV
時間(ms)
IRドロップシミュレータによるシミュレーション結果
上図の下の3つのグラフは先程測定した PC ボードと DC-DC コ
ンバータを組み合わせたものから、IC が 0~2A の消費電流を
800kHz、1.2MHz、1.5MHz という周波数の矩形波で消費した際
の、DC 電源電圧の変動をシミュレーションした結果である。
800kHz や 1.5MHz における PDN インピーダンスと比較して、
1.2MHz における PDN インピーダンスは大きなピーク値を持っ
ている。従って、同じ IC の消費電流であったとしても 1.2MHz で
動作した場合に大きな電源電圧変動が発生し、IC を誤動作させ
る危険性を示している。
次に、先程測定した PC ボードと DC-DC コンバータを組み合わ
せたもののインピーダンス測定結果に対して、430us 周期(約
2.3kHz)という低速な周期で 2A の電流を矩形波で IC が消費す
る場合の、電源電圧変動をシミュレートする。ただし、矩形波の
立ち上がり時間は 100ns と高速な物とした。こういった信号は、
基本波である 2.3kHz の成分だけではなく、100ns という立ち上
がり時間に依存して MHz 帯まで周波数成分を持つ。
このような解析結果を、シミュレータを使用せずに予測すること
は困難である。
13 | Keysight | E5061B を用いた PI(パワー・インテグリティ)を向上させる、PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)の実測手法
E5061Bで測定したデータをIRドロップシミュレータ上に読み込み、解析
22uF
Id=2A
DC-DC
3.3V
IRドロップ
シミュレータ
0.1uFx10
インピーダンス測定結果
読み込み。
DC-DCコンバータ = ON
IC=Off
DC-DCコンバータ&PCボード実測結果
①DC-DCコンバータ&PCボードの
インピーダンス測定結果を読み込み。
②ICが430us周期の矩形波で
2Aの電流を引き込んだ際の
電源電圧変動をシミュレート。
③引き込む電流の立ち上がり、立下り時間
Tr=Tf=100nsとした。
22uF
DCDC
3.3V
Id=2A
0.1uFx10
DC-DCコンバータ = ON
IC=ON
DC-DCコンバータ&PCボード
2A
Tr=Tf=100nsec
0A
ICが矩形波で電流を引いた場合の
時間 vs 電源電圧変動をシミュレート
430us周期
E5061Bで測定したデータを元にIRドロップシミュレータで解析した結果
IC消費電流(A)
・ICの矩形波電流変動に同期して、電源電圧が変動。
430us
2A
・低速なリンギングと高速なリンギングが存在。
それぞれのリンギングの発生理由とは?
時間(ms)
400mV
電源電圧変動(mV)
400mV
~約800ns
拡大
~約60us
70us程度の低速なリンギング
時間(ms)
800ns程度の高速なリンギング
先程測定した PC ボードと DC-DC コンバータを組み合わせたイ
ンピーダンスに対して、左上のグラフのように 430us 周期で 2A
の電流を矩形波で引いた場合の電圧変動は左下や右下のグラ
フのようになる。
左下のグラフは左上の消費電流のグラフと同じタイムスケール
であり、60us 程度で収束するリンギングが見て取れる。また
60us の低速な各リンギングの初期に、非常に高速なスパイク的
時間(ms)
なリンギングが表れている。それをズームしたものが右下のグラ
フで約 800ns 周期でリンギングしている。
これらの低速及び高速なリンギングの原因は何なのだろうか?
それはリンギング周期の逆数となる周波数(1/60us=約 17kHz、
1/800ns=約 1.2MHz)近辺のインピーンダンス測定結果と見比
べれば見えてくる。
14 | Keysight | E5061B を用いた PI(パワー・インテグリティ)を向上させる、PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)の実測手法
PDNインピーダンス
E5061Bで測定したデータを元にIRドロップシミュレータで解析した結果
E5061B
実測結果
IRドロップ
シミュレータ
解析結果
電源電圧変動(mV)
低速なリンギングは、
DC-DCコンバータのループ特性と
大容量コンデンサの特性で決定され
るインピーダンスピークにより発生
1
0.1
0.01
0.001
1.E+00
1.E+01
1.E+02
1.E+03
1.E+04
1.E+05
1.E+06
1.E+07
1.E+08
高速なリンギングは、
DC-DCコンバータの出力インピーダンスと
1uFのバイパスコンデンサの共振で発生
周波数
~約60us
~約800ns
時間(ms)
時間(ms)
発生原因となるコンポーネントについて対策を行えば電源電圧変動が低減できる。
低速なリンギングは DC-DC コンバータと大容量コンデンサによ
り発生している 17kHz 周辺におけるインピーダンスの盛り上が
りにより発生している事が解る。また、高速なリンギングは約
1.2MHz における DC-DC コンバータの出力インピーダンスと
PC ボード上のバイパス・コンデンサによる並列共振のピークに
より発生している事が解る。
上記の結果から、
 周波数ドメインの測定結果から、各コンポーネントの影響によ
り、どの周波数で PDN インピーダンスが劣化する(ピークが
存在する)か解る。それにより、どの周波数で IC が誤動作す
る危険性がありそうなのかが解る。
 タイムドメインのシミュレーション結果から、各コンポーネント
の影響により、IR ドロップにどれくらいの影響を与えるかが解
る。
といえる。
逆に言うと、これらの解析結果からどのコンポーネントを対策
(DC-DC コンバータのループ特性の変更や、異なる特性(ESR
や容量)のバイパス・コンデンサの選択等)すれば、周波数ドメイ
ンでのインピーダンスピークや、IR ドロップのリンギングを低減で
きるかもおのずと見えてくる。
更にはバイパス・コンデンサの搭載量を減らした状態で上記の
ような評価を行い、インピーダンスのピークや IR ドロップが許容
範囲内であることを確認すれば、基板サイズやコストの削減を誤
動作の危険性を排除した上で安全に行うことができると言える。
異なる使い方としては、電源設計者が電源の定量的なデータと
して PDN インピーダンスの測定結果を IC 設計者に渡せば、IC
設計者はそのデータを使用して様々な IC の電流プロファイルに
対してシミュレーションを行うことが可能になり、協調設計に大い
に有効な手段となるだろう。
15 | Keysight | E5061B を用いた PI(パワー・インテグリティ)を向上させる、PDN(パワー・ディストリビューション・ネットワーク)の実測手法
【補足】
4 章では、ネットワーク・アナライザによる実測結果を取り込んだ
IR ドロップのシミュレーション結果の例を示した。このようなシミ
ュレーション結果は、実際の回路の動作と本当に一致するの
か?という事がしばしば興味の対象になる。
IR ドロップシミュレータでは、PDN インピーダンスの実測結果を
元に、IC が引く電流の条件を与えて、電源電圧変動をシミュレー
トした。
その結果の信頼性を確認すべく、実際に PC ボード上の電流シ
ンクを動作させ、電源電圧変動をオシロスコープにより実測した。
電流シンクで引き込む電流の条件は、IR ドロップシミュレータで
シミュレートした際に与えた引き込み電流の条件とほぼ同じであ
る。
電源電圧変動の実測結果とシミュレーション結果の両者間には
良好な相関性が見られ、シミュレーション結果に信頼性がある事
を示している。
実際にICにより電流を引いた際の電圧変動を測定
シミュレーション結果と比較
22uF
DC-DC
3.3V
オシロスコープ
DC-DCコンバータ = ON
Id=2A
0.1uFx10
IC=ON
DC-DCコンバータ&PCボード
ICをエミュレートした電流シンクをONにして動作させる。
IRドロップシミュレータでシミュレートした条件と同じ条件の電流変動を発生させた際の、
電源電圧変動をオシロスコープで実測した。
電流変動に伴うDC電圧の変動
(オシロスコープによる測定結果とIRドロップシミュレータの比較)
オシロスコープ実測波形
DC
電源
電圧
IRドロッシミュレータ計算波形
DC
電源
電圧
【5章:まとめ】
パワー・インテグリティ向上のため、定量
的に評価する必要があるコンポーネント、
パラメータを示し、その測定、評価結果
の例を示した。また、周波数ドメインでの
PDN インピーダンスのみならず、測定し
た PDN 全体のインピーダンス測定結果
をシミュレーションに読み込み、タイムド
メインでの IR ドロップ解析の例も示した。
これらの測定、パラメータ解析を行う際
は弊社(キーサイト・テクノロジー(合))
の E5061B ネットワーク・アナライザ及び
IR ドロップシミュレータが有効なツールと
な る 。 更 に 弊 社 が 取 り 扱 う
ADS(Advanced Design System)というシ
ミュレーションソフトウェアを用いれば、
IR ドロップシミュレータと同様の解析だ
けではなく、より詳細なシミュレーション
を行う事も可能となる。これら解析ツー
ルのデモ及び、貸し出しは随時受け付
けているのでご興味があればご連絡い
ただきたい。
キーサイト・テクノロジー合同会社
本社〒192-8550 東京都八王子市高倉町 9-1
計測お客様窓口
受付時間 9:00-18:00(土・日・祭日を除く)
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©Keysight Technologies. 2014
Published in Japan, December 08,2014
5990-9031JAJP
0000-08A