Keysight Technologies Sパラメータ・モデルを使用したFPGAのパワー

Keysight Technologies
Sパラメータ・モデルを使用した
FPGAのパワー・インテグリティ・
シミュレーション
Application Note
概要
シミュレーションによりPDN自身のインピーダンス・プロファイルを求める以前に、そのシミュレーションにより得られ
た結果を読み解く力が重要です。そのためには、まず基礎的な項目を十分理解しておく必要があります。
– 直列共振回路とインピーダンス最小点
– 並列共振回路とインピーダンス最大点
– 信号の周波数構成
– デカップリング・キャパシタのSパラメータ・モデルと集中定数RLCモデル
電源分配ネットワーク
(Power Distribution
直列共振回路とインピーダンス最小点
Network:PDN)の役割は、システム内の
キャパシタ(C)とインダクタ(L)が直列に接続されると、直列共振回路になります。XC
(容
電気的デバイスに電源を供給することで
す。システム内の各デバイスは、自身の動
作のための電源仕様だけでなく、電源レー
ルの電圧変動に対する要求仕様も存在し
ま す。 ザ イ リ ン ク ス 社 のFPGAで あ る
量性リアクタンス)とXL
(誘導性リアクタンス)が同じ大きさ(マグニチュード)、かつ、正
反対の位相となると、電流が最大になります。このような状態のとき、インピーダンス
が最小になります。このような状態になる周波数は直列共振周波数と呼ばれ、式1で表さ
れます。
1
ƒ = ̶̶̶̶̶
2π√‾‾‾
LC
Kintex-7とVirtex-7で は、 ア ナ ロ グ 電 源
レールの入力電圧の電源変動が、10 kHz
から80 MHzの周波数レンジで10 mVppを
越えないことが要求されています。デバイ
式1
代表的な直列共振回路として、プリント基板(Printed Circuit Board:PCB)に実装され
ス自身が生成する電源レールの電圧変動
たキャパシタが、そのキャパシタンス成分(C)と寄生インダクタンス成分(L)により形成
は、周波数の関数としてオームの法則で表
されるものがあります。図1はその構造を回路図で表したもので、図2にこの回路の周波
現されます。
数ドメインでのインピーダンス・プロファイルを示しています。
電 圧( 周 波 数 )= 電 流( 周 波 数 )
*自 己 イ ン
ピーダンス(周波数)
従って、PDNの各周波数ごとの自己イン
ピーダンスが既知で各周波数における電
流がわかれば、その周波数での電圧を求め
ることができます。本アプリケーション・
ノートでは、このようなPDNの各周波数
ごとの自己インピーダンス・プロファイル
が、周波数ドメインでのシミュレーション
を行い求められることを示します。
直列共振回路
直列共振回路
1.6
R
R3
R = R_PCB_Capacitance
C
C2
C=C_PCB_Capacitance
L
L2
L=L_PCB_Cap_Inductance
1.2
Series_Resonance
P3
Num = 3
1.4
P4
Num = 4
図1. PCBに実装されたキャパシタの等価回路
1.0
0.8
インピーダンス
最小点
0.6
0.4
0.2
0.0
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
Freq, GHz
図2. 周波数ドメインでのインピーダンス・プロファイル
3
0.7
0.8
0.9
1.0
並列共振回路と
インピーダンス最大点
並列共振回路
キャパシタ(C)とインダクタ(L)が並列に
接続され、並列反共振回路になります。
XC(容量性リアクタンス)とXL( 誘導性リ
P1
Num = 1
アクタンス)が同じ大きさ(マグニチュー
R
R1
R = R_Die_Capacitance
R
R2
R = R_Package_Inductance
C
C1
C = C_Die_Capacitance
L
L1
L = L_Package_Inductance
ド)、かつ、正反対の位相となると、双方
に分流する電流もまた、同じ大きさ、かつ、
正反対の位相になります。このような状
態のとき電流が最小となり、よってイン
ピーダンスが最大となります。このよう
な状態になる周波数は並列反共振周波数
と呼ばれ、式2で表されます。
1
ƒ = ̶̶̶̶̶
2π√‾‾‾
LC
P2
Num = 2
式2
図3. ダイとパッケージの特性を表した等価回路
並列共振回路
代表的な並列反共振回路として、ダイの
ダクタンス成分により形成するものがあ
0.7
ります。図3はその構造を回路図で表した
もので、図4にこの回路の周波数ドメイン
でのインピーダンス・プロファイルを示
しています。
Parallel_Anti_Resonance
キャパシタンス成分とパッケージのイン
0.8
インピーダンス
最大点
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
図4. 周波数ドメインでのインピーダンス・プロファイル
4
0.5
Freq, GHz
0.6
0.7
0.8
0.9
1.0
信号の周波数成分
周波数ドメインのVCCO電流プロファイル
を図5に、FFG1761パッケージでのザイリ
ン ク ス 社Virtex-7 XC7VX485T FPGAの、
電源BGAボールでのシミュレーションし
た結果を図6に示します。
この例では、シミュレーションはデータ・
パターンはPRBS15、レート1.866 Gb/s
で実行されています。VCCOのパワー・ス
まで広帯域に広がっています。データ・
1 kHz以下の自己インピーダンス・プロ
パターンが変化すると、パワー・スペク
フ ァ イ ル で は、 電 圧 レ ギ ュ レ ー タ・ モ
トラム密度の周波数分布も変化すること
ジ ュ ー ル(Voltage Regulator Module:
がシミュレーションでわかります。この
VRM)の特性が支配的です。また10 GHz
結果からPDNノイズは広帯域にわたる現
以上では、ダイ上のキャパシタンスが支
象であることを示しており、周波数ドメ
配的です。従って、ザイリンクス社では
インにおけるPDNの自己インピーダンス・
1 kHzか ら10 GHzの 範 囲 で シ ミ ュ レ ー
プロファイルを得るためには、シミュレー
ションすることを推奨しています。
ションを広帯域に行わなければならない
ことがわかります。
ペクトラム密度は、10 MHzから10 GHz
DDR3 Die Input 1,866 Mb/s
mag(FS_Kintex_7_SSTL15), mV
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
0.0
0.1
0.2
0.4
0.5
0.6
Time, nsec
0.7
0.8
0.9
1.0
1.1
SSTL15 HPIO VCCO Current
30
Kintex_7_SSTL15_Current, mA
0.3
25
20
15
10
5
0
-5
-10
0
01
20
30
40
50
60
Time, nsec
70
80
90
100
mag(FS_Kirtex_7_SSTL15_Current), mA
DDR3_Die_Input_Eye_Diagram, Volts
2.0
Frequency Spectrum DDR3 Die Input
30
25
20
15
10
5
0
IE7
IE8
Freq, Hz
IE9
IE10
Frequency Spectrum SSTL15 Current
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
IE7
IE8
Freq, Hz
IE9
IE10
図5. PRBS15でのメモリ・インタフェース・シミュレーション
–
+
Power
V_DC
SRC1
V DC = 1.5V
+
+
PRBS
PU
T
PC
O
インピーダンス
DDR3
40 Ω
3インチ・ パッケージ
寄生成分
トレース
DDR3 Die Input
Output
GC
PD
VtPRBS
VPRBS1
PRBS15
IBIS_O
IBIS1
K7325TFF900
SSTL15 HP IO
SLIN
TL1
Subst = ”SSub1”
W = 5.0 mil
L = 3000.0 mil
L
L1
L = 1.38 nH
R = 0.25656
C
C1
C = 0.33 pF
図6. シミュレーション・セットアップ
5
Eye_Probe
Eye_Probe1
PU
V IN
I/O
DigO
PC T
GC L
PD
DDR3
1.866 Gb/s
DQピン
IBIS_IO
IBIS4
+ V_DC
SRC2
– V DC = 1.5V
デカップリング・キャパシタに
おけるSパラメータ・モデルと
集中定数RLCモデル
PDNシミュレーションにおいて、集中定
数RLC回路とSパラメータの比較をおこな
う場合、まず始めにPDN回路のデカップ
リング・キャパシタの部分を検討します。
ここでは、EIAが規定するサイズの0201、
0402、0603、0805、1206、1210の一般
的なX5RキャパシタのSパラメータ特性を
シミュレーションによりカーブフィット
し、等価回路化を行います。容量性リア
クタンス成分の値を式1により与えらる直
列共振周波数に合わせた後、100 MHzに
おける誘導性リアクタンス成分の違いを
+ Term
セラミック・
コンデンサ
+ Term
Term1
Num = 1
– Z = 50 Ω
Term2
Num = 2
– Z = 50 Ω
+ Term
+ Term
Term4
Num = 4
– Z = 50 Ω
Term3
Num = 3
– Z = 50 Ω
+ Term
+ Term
– Z = 50 Ω
– Z = 50 Ω
Term16
Num =16
Term15
Num = 15
+ Term
+ Term
Term14
Num = 14
– Z = 50 Ω
Term13
Num = 13
– Z = 50 Ω
S2P
SNP1
L
L2
L= 320 pH
R= 10 m Ω
0201 1uF
4V X5R
C
C2
C = 0.69 uF
セラミック・
コンデンサ
S2P
SNP4
L
L3
L = 500 pH
R = 8 mΩ
0402 4.7uF
4V X5R
C
C3
C = 3.7 uF
図7. デカップリング・キャパシタ・等価回路シミュレーション 1
パーセント(% Error)で評価します。
シミュレーションは室温25 ℃で、DCバ
イ ア ス な し で 行 い ま す。 図7か ら 図9は、
カーブフィットにより得られた等価回路
を示しています。図10から図11は、シミュ
レーション結果を示しています。
+ Term
+ Term
– Z = 50 Ω
– Z = 50 Ω
Term12
Num = 12
Term11
Num = 11
+ Term
+ Term
Term10
Num = 10
– Z = 50 Ω
Term9
Num = 9
– Z = 50 Ω
+ Term
+ Term
– Z = 50 Ω
– Z = 50 Ω
Term17
Num = 17
Term18
Num = 18
+ Term
+ Term
Term19
Num = 19
– Z = 50 Ω
Term20
Num = 20
– Z = 50 Ω
セラミック・
コンデンサ
S2P
SNP3
L
L4
L = 800 pH
R = 4 mΩ
0603 22uF
4V X5R
C
C4
C = 14 uF
セラミック・
コンデンサ
S2P
SNP5
L
L6
L = 800 pH
R = 3.5 m Ω
0805 22uF
4V X5R
C
C6
C = 14 uF
図8. デカップリング・キャパシタ・等価回路シミュレーション 2
+ Term
Term21
Num = 21
– Z = 50 Ω
Term22
Num = 22
– Z = 50 Ω
+ Term
+ Term
Term23
Num = 23
– Z = 50 Ω
Term24
Num = 24
– Z = 50 Ω
+ Term
+ Term
– Z = 50 Ω
– Z = 50 Ω
Term32
Num = 25
セラミック・
コンデンサ
+ Term
Term31
Num = 26
+ Term
+ Term
Term30
Num = 27
– Z = 50 Ω
Term29
Num = 28
– Z = 50 Ω
S2P
SNP6
L
L5
L = 1,360 pH
R = 2.75 mΩ
C
C5
C = 50 uF
セラミック・
コンデンサ
S2P
SNP8
L
L7
L = 1,200 pH
R = 1.9 m Ω
図9. デカップリング・キャパシタ・等価回路シミュレーション 3
6
1206 100uF
4V X5R
1210 100uF
4V X5R
C
C7
C = 60 uF
インピーダンス0201
1E-1
1E-2
1E7
1E8
1E9
6E9
1
1E-1
1E-2
1E-3
1E5
1E6
1E7
phase(Ceramic_0201_1uF_RLC), deg
phase(Ceramic_0201_1uF_S), deg
位相0201
95
80
65
50
35
20
0
-10
-25
-40
-55
-70
-85
-100
1E5
1E6
1E9
1E1
1
1E-1
1E-2
1E-3
6E9
1E5
1E6
1E7
Freq, Hz
1E7
1E8
1E9
phase(Ceramic_0603_1uF_RLC), deg
phase(Ceramic_0603_1uF_S), deg
Freq, Hz
1E8
位相0603
95
80
65
50
35
20
0
-10
-25
-40
-55
-70
-85
-100
1E5
1E6
1E7
1E8
1E9
Freq, Hz
Freq, Hz
1E8
1E9
6E9
Freq, Hz
phase(Ceramic_1206_1uF_RLC), deg
phase(Ceramic_1206_1uF_S), deg
1E6
1E1
mag(Ceramic_1206_1uF_RLC)
mag(Ceramic_1206_1uF_S)
mag(Ceramic_0603_1uF_RLC)
mag(Ceramic_0603_1uF_S)
mag(Ceramic_0201_1uF_RLC)
mag(Ceramic_0201_1uF_S)
1
1E5
インピーダンス1206
インピーダンス0603
1E1
位相1206
95
80
65
50
35
20
0
-10
-25
-40
-55
-70
-85
-100
1E5
1E6
1E7
1E8
1E9
Freq, Hz
図10. シミュレーション結果(EIAサイズ0201 / 0603 / 1206)
インピーダンス0805
1
1E-1
1E-2
1E-3
1E6
1E7
1E8
1E9
6E9
1E1
1
1E-1
1E-2
1E-3
1E5
1E6
1E7
位相0402
95
80
65
50
35
20
0
-10
-25
-40
-55
-70
-85
-100
1E5
1E6
1E7
1E9
6E9
1E1
1
1E-1
1E-2
1E-3
1E5
1E6
Freq, Hz
1E8
1E9
phase(Ceramic_0805_22uF_RLC), deg
phase(Ceramic_0805_22uF_S), deg
phase(Ceramic_0402_4_7uF_RLC), deg
phase(Ceramic_0402_4_7uF_S), deg
Freq, Hz
1E8
位相0805
95
80
65
50
35
20
0
-10
-25
-40
-55
-70
-85
-100
1E5
1E6
1E7
Freq, Hz
Freq, Hz
図11. シミュレーション結果(EIAサイズ0402 / 0805 / 1210)
7
1E7
1E8
1E9
6E9
Freq, Hz
1E8
1E9
phase(Ceramic_1210_100uF_RLC), deg
phase(Ceramic_1210_100uF_S), deg
1E5
インピーダンス1210
mag(Ceramic_1210_100uF_RLC)
mag(Ceramic_1210_100uF_S)
mag(Ceramic_0805_22uF_RLC)
mag(Ceramic_0805_22uF_S)
mag(Ceramic_0402_4_7uF_RLC)
mag(Ceramic_0402_4_7uF_RLC)
インピーダンス0402
1E1
位相1210
95
80
65
50
35
20
0
-10
-25
-40
-55
-70
-85
-100
1E5
1E6
1E7
Freq, Hz
1E8
1E9
以下の表1が、結果をまとめたものです。
表1. デカップリング・キャパシタ・シミュレーション結果
サイズ
EIAサイズ
キャパシタ(μF)
Sパラメータ
100 MHzにおけるインピーダンス
データシート値
% Error
Sパラメータ
RLCモデル
% Error
直列共振周波数
1210
60
100
66.7
0.209
0.751
259.3
600 KHz
1206
50
100
100.0
0.255
0.845
231.4
700 KHz
805
14
22
57.1
0.18
0.501
178.3
1.5 MHz
603
14
22
57.1
0.178
0.501
181.5
1.5 MHz
402
3.7
4.7
27.0
0.15
0.313
108.7
3.5 MHz
201
0.69
1
44.9
0.129
0.198
53.5
10 MHz
代表的なキャパシタ・ベンダはその容量
しかしながらこの方法によるインピーダン
しかし幸いなことに、S11測定をS21測定
値 をDCバ イ ア ス な し の0.5 VrmsのAC電
ス測定は、ほとんど測定系の50 Ωの入力
に変更することで、PDNインピーダンス
圧で規定しており、一方、多くの場合Sパ
インピーダンスに対し、PDNは非常に低い
のより良い結果を得ることができます。
ラメータ・モデルは0 dBmのAC電圧で測
インピーダンス
(ほとんどの場合、ミリオー
この方法は、Zdut=25*
(S21)で得られま
定されています。
ム・レンジ)であることに起因する不確か
す。この測定方法を使えば、デカップリ
さがあります。この方法により得られた
ング・キャパシタの半田部分も測定に含
デカップリング・キャパシタのSパラメー
データは、おおよそS11
(この場合、反射係
めることができます。この方法を活用す
タ・モデル生成については、様々な手法
数としてはほぼ1)
として1 %から2 %の不
れば、インピーダンスの不確かさはミリ
が試みられています。
確かさに起因するエラーを含んでいます。
オーム・レンジの10分の1に減少させるこ
とができます。加えて、プローブの寄生
Sパラメータを用いた
デカップリング・キャパシタの
モデル
一見すると、キャパシタのPDNのインピー
ダンス・プロファイル(インピーダンス対
周波数の特性)での測定は単純に思えるか
もしれませんが、しかし精度の高い結果
を得るためには、ある程度の詳細な情報
が必要になります。
周波数ドメインでの測定は、多くの場合
ベ ク ト ル・ ネ ッ ト ワ ー ク・ ア ナ ラ イ ザ
(Vector Network Analyzer:VNA)で行わ
れます。よく用いられる測定方法として
これはインピーダンスの不確かさとして
成分と直列となる50 ΩはDUTのインピー
は、0.3 Ωから0.4 Ωのレンジに相当しま
ダンスと直列にはならず、その影響を無
す。もしPDNのインピーダンスがミリオー
視できるレベルにまで軽減することがで
ム・レンジの測定が行われた場合、この
きます。このトピックについての詳細は、
測定の不確かさに埋没してしまい、所望
DesignCon 2010で発表された以下の資料
のインピーダンス測定は不明瞭なものと
を参照してください。
なってしまいます。
Accuracy Improvements of PDN Impedance
Measurements in the Low to Middle
二番目に考慮すべき点として、プロービ
Frequency Range presented by Istvan
ング方法の違いによる寄生インダクタン
Novak of SUN Microsystems and
Yasuhiro Mori and Mike Resso of
Keysight Technologies*.
スが、容易にDUTのインダクタンスを越
えてしまうということです。測定結果か
らプローブの寄生成分を取り除くことは、
簡単なことではありません。
は、PDNにプローブを接続してS11測定
を行い、測定したSパラメータを式3の関
係式によりインピーダンスへ変換する方
法です。
1+S11
Zdut=50 ̶̶̶̶
1−S11
*
式3
http://www.home.keysight.com/upload/cmc_upload/All/DC10_ID2696_Novak-Mori-Resso.pdf
8
RLCを用いたデカップリング・
キャパシタのモデル
多くの場合、ベンダが提示するデカップ
リング・キャパシタの特性は、R(抵抗)、
L( インダクタンス)、C(キャパシタンス)
の3つのパラメータにより表されます。C
はデカップリング・キャパシタが持つ容
量値であり、Lはそのインダクタンス値で
す。さらにRはデカップリング・キャパシ
タ の 等 価 直 列 抵 抗(Equivalent Series
Resistance:ESR)です。この単純なRLC
でのデカップリング・キャパシタのモデ
ル が 精 度 の よ いPDNモ デ ル と と も に シ
ミュレーションに使用されると、実装す
ることによるインダクタンスとパッケー
ジやPCBに起因するインダクタンスがデ
カップリング・キャパシタの持つインダ
クタンスとが合わさり、実効的なループ・
インダクタンスのモデルとなります。こ
のパッケージのインダクタンスが加わっ
たループ・インダクタンスがダイのキャ
パシタンス並列反共振回路を形成するこ
とで、固有のインピーダンス・プロファ
イルとなります。
デカップリング・キャパシタの直列RLCモ
デルを理解するのは容易で、ほとんどの場
合何も問題なく周波数ドメインとトラン
ジェント
(時間)シミュレーションを高速
に行うことができます。先に述べたとお
り、モデルのRLCの値はベンダのデータ・
シートから得られます。もしくは、測定し
たSパラメータをフィッティングし、単純
精度の良いPDNシミュレーションを実現
するために、この単純なRLCモデルでは
不十分である理由は大きく2つあります。
積層構造のデカップリング・キャパシタ
の場合、実装面に対し垂直方向に分布定
数的なインダクタンスと抵抗が存在しま
す。これは直列RLC回路のL、に周波数依
存性をもたらします。多くのシミュレー
タでは、Lは周波数に依存しないものとし
て扱われます。最初に、低周波と高周波
のどちらにおいても、十分に精度の良い
直列RLCモデルを構築することはできま
せん。2番目に、精度よく周波数依存性を
表すために多くの素子を用いたモデルを
構築しても、そのようなモデルのデザイ
ンや扱いは非常に困難になります。
従って、広い帯域において精度が劣るこ
とが自明のこの単純なRLCモデルや、よ
り複雑な多素子のモデルを構築し使用す
るよりもPDNをシミュレーションする場
合は、ザイリンクス社の推奨するデカッ
プリング・キャパシタを広帯域で測定し
たモデルを使用することで、シミュレー
ションを簡単かつ精度良く行うことがで
きます。
注釈:セラミックのデカップリング・キャ
パシタのモデルは、大きな電圧依存性を持
ちます。したがって、キャパシタ・ベンダ
からSパラメータ・モデルを入手する場合、
使用が想定されるDCおよびACの電圧で測
定されたものでなければなりません。
な直列のRLC値に置き換えることで得るこ
とができます。特に低周波では、この単純
な直列RLC回路で十分に機能します。しか
し、PDNのインピーダンス・プロファイ
ルをDCから数GHzにおよぶ広帯域で得た
い場合、このような単純な手法では、ほと
んどの場合うまくいきません。
9
キーサイトADSによるPDNシミュレーション
ザイリンクス社は、周波数ドメインでの
PDNのインピーダンス・プロファイルの
シミュレーションでキーサイト社のADS
ソフトウェアを推奨しています。このソ
フトウェアは、高速デジタル・デザイン
における最適なツールです。パワー・イ
ンテグリティにまつわる各種問題を解決
PDNシミュレーション例
この例では、FFG1761パッケージを使用
したザイリンクス社 7シリーズ
XC7VX485T FPGAのMGTAVCCと
MGTAVTTアナログ電源レールのPDNシ
2つのケースでシミュレーションを行いま
した。ケース1は表2に示すように、ザイ
リンクス社Virtex-6で推奨されているも
のに近いキャパシタを使用します。
ミュレーションを行います。
するためには、それに対応するテクニッ
クが必要です。例えば、PDN解析では以
下が必要です。
表2. ケース1のキャパシタ
各電源レールのキャパシタ数
キャパシタ(μF)
1. PDNの並 列反共振と直 列 共振の た め
の、堅牢なSパラメータ・ハンドリン
グとPassivityとCausalityが保証された
MGTAVCC
MGTAVTT
MGTVCCAUX
4
4
2
0.022
4
4
0
0.47
周波数ドメイン・シミュレーション
2
2
1
1
2
2
1
4.7
2. 周波数ドメイン・モデル(測定モデル、
電磁界解析)から時間ドメインの応答
(アイパターン、ビット・エラー・レート、
ジ ッ タ 分 離 )を 実 現 す る、KramersKronigの 関 係 に 基 づ く コ ン ボ リ ュ ー
ケース2は表3に示すようにPCBキャパシタを使用しません。
ション・エンジン
(特許取得済み)
表3. ケース2のキャパシタ
3. DCからGHzレンジで精度の高い、モー
メント法などの解析手法の使用
各電源レールのキャパシタ数
MGTAVCC
キャパシタ
(μF)
MGTAVTT
MGTVCCAUX
0
0
0
0.022
0
0
0
0.47
0
0
0
1
0
0
0
4.7
10
図12は前に示したMGTAVCCとMGTAVTT
パッケージの
キャパシタ
電源レールにおける回路です。ケース2
S2P
SNP50
File=“GRM033C80G104KE19series(for_Fuji2_AVTT_AVCC).s2p”
(PCBキャパシタなし)では、VRMモジュー
ル・ベンダにより指定されたバルク・キャ
パシタ1つだけです。
S2P
SNP51
File=“GRM033C80G104KE19series(for_Fuji2_AVTT_AVCC).s2p”
S2P
SNP52
File=“GRM033C80G104KE19series(for_Fuji2_AVTT_AVCC).s2p”
ダイのキャパシタ
+
–
+
Term
Term13
Num=13
Z=50 Ohm –
Term
Term14
Num=14
Z=50 Ohm
C
C30
C=22.16 nF
R
R8
R=10 mOhm
S2P
SNP53
S6P
File=“GRM033C80G104KE19series(for_Fuji2_AVTT_AVCC).s2p”
SNP48
File=“fga2034_485t_ff1761_031411_Avcc_G10.s6p”
S2P
SNP105
File=“GRM155R61C223KA01_022uF_0402 S2P”
VRM
S2P
SNP104
File=“GRM155R61C223KA01_022uF_0402.S2P”
S20P
SNP47
File=“VC7203_MGTAVCC_092611_175001_S.s20p”
L
L28
L=25 nH
R=1 mOhm
+
–
S2P
SNP49
File=“T520V337M2R5ATE025.s2p”
V_DC
SRC7
Vdc=1.2 V
S2P
SNP112
File=“GRM188R60J475KE19_47uF_0603.S2P”
S2P
SNP113
File=“GRM188R60J475KE19_47uF_0603.S2P”
S2P
SNP105
File=“GRM155R61C223KA01_022uF_0402.S2P”
S2P
SNP111
File=“GRM152R60J474ME15_047_0402.S2P”
S2P
SNP110
File=“GRM188R61C105KA93_1uF_0603.S2P”
S2P
SNP105
File=“GRM155R61C223KA01_022uF_0402.S2P”
S2P
SNP108
File=“GRM152R60J474ME15_047_0402.S2P”
S2P
SNP107
File=“GRM152R60J474ME15_047_0402.S2P”
S2P
SNP106
File=“GRM152R60J474ME15_047_0402.S2P”
S2P
SNP109
File=“GRM188R61C105KA93_1uF_0603.S2P”
図12. 電源レール・シミュレーション回路
11
シミュレーション結果を図13に示します。
MGTAVCC - マグニチュード
MGTAVCC - マグニチュード
1300
mag(Competitor_Tx_Rx_Supply_With_PCB_Caps)
mag(MGTAVTT_Die_Without_PCB_Caps)
mag(MGTAVTT_Die_With_PCB_Caps)
mag(Competitor_PLL_Supply_With_PCB_Caps)
mag(MGTAVCC_Die_Without_PCB_Caps)
mag(MGTAVCC_Die_With_PCB_Caps)
1300
1200
1100
1000
900
800
Typical Competitor
700
600
500
400
300
200
100
0
1E3
1E4
1E5
1E6
1E7
1E8
1E9
1200
Typical Competitor
1100
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
1E10
0
1E3
1E4
1E5
1E6
1E7
1E8
1E9
1E10
freq, Hz
freq, Hz
図13. シミュレーション結果
図14は、Windows7 64ビットOSの稼動する代表的なノートPCでシミュレーションを
双方のケースで、周波数ドメインにおけ
行ったログを示していますが、わずか11.68秒しか要していないことがわかります。
るMGTAVCCとMGTAVTT電源レール自体
のインピーダンス・プロファイルはほと
んど同じですが、これはMGTVCCAUX電
源レールはダイ内部に低ドロップ・レギュ
レータが統合されており、そのため双方
で同等の性能が出ていることが予想され
ます。単純な比較として、このような機
能のないデバイスを同じPCBキャパシタ
を用いてシミュレーションした例を示し
ます(図13のDevice_A)。このインピーダ
ンス・プロファイルから、VRMのベンダ
が指定する1つのバルク・キャパシタだけ
で、その先のPCBにキャパシタのない場
合は、アナログ・レールのインピーダン
ス が 優 に2 Ω(2000 mΩ )を 越 え る イ ン
ピーダンスのピークとなってしまうこと
図14. Windows7 64ビットOSでのシミュレーション時間
が容易に想像できます。
12
トランスミッタ測定
図15から図18は、PRBS15データ・パター
図15は、ケース1での6.25 Gb/s CPLLでのアイパターンとジッタ分離の結果を示してい
ます。
ン を 用 い、QPLLで の10.3125 Gb/sと
CPLLで の6.25 Gb/sの ア イ パ タ ー ン を、
キーサイト社Infiniium DCA-J広帯域オシ
ロスコープで測定した一連の結果です。
以下に、本測定において、86108Aプレシ
ジョン・ウェーブフォーム・アナライザ
を搭載したキーサイト社の86100Cを選択
した理由を示します。
1. 広帯域、低ノイズ、超低残留ジッタ性能
2. トリガ入力の不要な、シンプルな接続
3. ループ帯域、ジッタ・トランスファを
含むPLL特性解析機能
図15. ケース1、6.25 Gb/sアイパターン
図16は、ケース2
(PCBキャパシタンスなし)での6.25 Gb/s CPLLでのアイパターンとジッ
タ分離の結果を示しています。
4. ループ帯域やピーク特性を業界標準を
越えて設定可能な、統合されたハード
ウェア・クロック・リカバリ機能
図15から図18のオシロスコープの画面が
示すとおり、双方のケースのトータル・
ジッタは許容範囲内にあることがわかり
ます。従って、測定はトランスミッタの
正常動作には0個のPCBキャパシタンスで
よい、というシミュレーション結果を裏
付けるものとなりました。
図16. ケース2、6.25 Gb/sアイパターン
図17は、ケース1での10.3125 Gb/s QPLLでのアイパターンとジッタ分離の結果を示し
ています。
図17. ケース1、10.3125 Gb/sアイパターン
図18は、ケース2
(PCBキャパシタンスなし)での10.3125 Gb/s QPLLでのアイパターン
とジッタ分離の結果を示しています。
図18. ケース2、10.3125 Gb/sアイパターン
13
レシーバ測定
Summary
表4は、eyescanループバック・テストで
のどちらにおいても、電圧ノイズ振幅は
測定により裏づけされたPDNシミュレー
のレシーバ測定の結果です。表4の値は、
すべてのPCBキャパシタを取り除いても
ションで、ザイリンクス社のKintex-7お
パッケージ内のすべてのトランシーバが
ほぼ同じか低い値になっています。
よびVirtex-7デバイスの正常動作のために
非同期に動作したときの電圧ノイズの振
は、VRMベンダの指定するキャパシタ以
幅値です。値が示すとおり、CPLL、QPLL
降のPCBにおけるキャパシタは必要ない
ことが示されました。
表4. デカップリング・キャパシタの有無による電圧ノイズ振幅の比較
PLL
CPLL
一方、トランシーバの正常動作のために
QPLL
MGTAVTT
All Caps
No Caps
All Caps
No Caps
PCBキャパシタが必要なくとも、パッケー
ジのBGAボールにおける入力電圧のリップ
ル・ノイズの仕様である10 mVpp
(10 kHz
から80 MHz)
を満たすため、PCB上に適切
MGTVCCAUX
All Caps
No Caps
All Caps
No Caps
なフィルタ回路が必要になることがあり
%フルスケール
3.6 %
3.3 %
5.0 %
4.5 %
データレート
6.25 Gb/s
10.3125 Gb/s
MGTAVCC
All Caps
No Caps
All Caps
No Caps
ます。
現在、ザイリンクス社は7シリーズFPGA
図19は、ケース1と2においてパッケージ内のすべてのトランシーバが非同期に動作した
のすべての電源(デジタルとアナログ)に
ついてサポートする、いくつかのキーサ
ときのレシーバのジッタ・トレランス(ジッタ耐性)を示しています。
イトADSパワー・インテグリティ・デザ
イン・キットを用意しています。これら
キーサイトADSデザイン・キットの入手
に関しては、お近くのザイリンクス社に
100.00
お問い合わせください。
SI, UI
10.00
1.00
0.100
0.01
0.10
1.00
10.00
100.00
Frequency, MHz
キャパシタあり BER12
キャパシタなし BER12
図19. デカップリング・キャパシタの有無によるジッタ・トレランスの比較
値が示すとおり、ジッタ・トレランスは
すべてのPCBキャパシタを取り除いても
ほぼ同じか低い値になっています。ジッ
タ・トレランス解析は、データレートが
10.3125 Gb/sでBERが10−12の点で行わ
れています。
以下のアドレスから、キーサイトADSの30日間評価ライセンスの申し込みができます。
https://software.business.keysight.com/TrialLicense/TrialLicenseRequest.aspx?ProdNum=W2200F-1U1-TRL
14
15 | Keysight | Sパラメータ・モデルを使用したFPGAのパワー・インテグリティ・シミュレーション - Application Note
myKeysight
www.keysight.co.jp/find/mykeysight
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www.keysight.co.jp/find/HSD
© Keysight Technologies, 2012 - 2014
Published in Japan, December 12, 2014
5991-0169JAJP
0000-00DEP
www.keysight.co.jp