1.95MB - トッパンホール

P
R
E
S
S トッパ ン ホールプレス
Vol.74[ Nov. 2014]
隔
月
発
行
74
ティル・フェルナー(2011.12.2)
© 大窪道治
リ ー ト
〈歌曲の森〉~詩と音楽 Gedichte und Musik~ 第14篇/第15篇
ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト)
シュトゥッツマンによせて 藤田 茂
Artist Interview
アラベラ・美歩・シュタインバッハー(ヴァイオリン)
日本の心とともに、
ヴァイオリンの
“歌”
をお届けします。
トッパンホール ニューイヤーコンサート 2015
山根一仁(ヴァイオリン)& 北村朋幹(ピアノ)
トリオ・マリーナ[三浦一馬(バンドネオン)、原 麻理子(ヴィオラ)、有吉亮治(ピアノ)]
清新なエナジーほとばしる、
躍動のステージ
[ Schedule 2014.11 〜2015.4 ]
[ Information ]
ゴーティエ・カプソン(チェロ)&ユジャ・ワン(ピアノ)―スーパー・デュオ再び!
2014/2015シーズン主催公演
[後期]ラインナップ最新一覧
(ピアノ)
ランチタイムコンサート Vol.74 佐藤麻理
津田裕也 ピアノ リサイタル/フォーレ四重奏団
リート
〈歌曲の森〉~詩と音楽 Gedichte und Musik ~ 第14篇/第15篇
ナタリー・シュトゥッツマ
ではなく、歌唱と同時に。弾き振り、すなわち、楽器を演奏しなが
ら指揮をするひとならば、いろいろと思い浮かべることができる
けれど、歌い振り、すなわち歌いながら指揮するひととなると、僕
はシュトゥッツマン以外を知らない。2009年に「オルフェオ55」
という室内オーケストラを設立し、歌い、指揮するための恒常的
な場をつくりあげたシュトゥッツマンはこう述べる。
「わたしはコ
ントラルトであり、指揮者であり、音楽の絶対的な信奉者であり、
演奏家を愛し、録音を愛し、人々を愛し、そうシンプルにいえば、
Nathalie
Stutzmann
人生を愛しているのです」
。このシュトゥッツマンの言葉に触れた
とき、僕が昨年のトッパンホール公演であれほどの衝撃を受けた
理由が、いくらか分かるような気がした。ピアノ伴奏付き歌曲と
いうミニマムなアンサンブルにおいて、シュトゥッツマンは歌を
ピアノに乗せているのではなかったのだ。彼女の歌は、ピアノを
指揮し、ピアノを包み込んで、ひとつの音楽をつくっていたのだ。
今回の公演でシュトゥッツマンが取りあげるのは、ひとつは
。美しい少
シューベルトの連作歌曲《冬の旅》
(第1夜、11月24日)
女との恋に破れた男が、かつて春の輝かしい光のなかで見ていた
思い出の地を、暗い冬に旅をする――テキストとなったミュラー
の詩が語るのは、ひたすら自己の内面に沈んでいく、まさしく内
向の世界である。もうひとつは、ショーソン、グノー、ドビュッ
シー、フォーレ、プーランクからなるフランス歌曲のアンソロジー
。テキストの詩人は、
ユゴー、
ルコント・ド・リー
(第2夜、11月26日)
ル、ゴーティエ、ヴェルレーヌ、アポリネール、アラゴンなど様々
だが、彼らの世界は、隣人への情熱や同情、ときには皮肉、また、
2013年のトッパンホール公演でナタリー・シュトゥッツマンの
声をはじめて間近に聴いたとき、これほどにまで美しく、これほ
フランスのひと。パリの西隣のシュレンヌという街で、声楽家の両
美しい自然へのあこがれなど、むしろ自己の外へと向かっていく。
親のもとに生まれた。
シュトゥッツマンは、トッパンホール公演での伴奏者、インゲル・
どにまで深く、これほどにまで独特な響きがこの世界にあること
ソプラノ歌手の母、クリスティアーヌから歌唱の手ほどきを受
ゼーデルグレンとともに、2004年には《冬の旅》の録音をリリー
に、僕は、ただ驚き、唖然としていた。これがコントラルトという
け、1983年にナンシー音楽院で声楽の一等賞を得たあと、パリ
スしているし、今回選ばれたフランス歌曲についても、多くの録
ものだったのか! もっとも低い女声であり、高いところからくる
でミシェル・セネシャルに学ぶかたわら、ドイツのバス・バリトン
音を残しているから、この機会にまとめて聴いてみた。そのとき
天使の声に対比させて、ひとびとが大地の声とよぶ声なのか! 安
歌手、ハンス・ホッターからも大いなる薫陶を受ける。1986年に
に気づいたのは、シュトゥッツマンが決して自己陶酔に陥らない
心してうっとりと聴き入るというのでもなく、いくぶん小難しい
は、パーセルのオペラ
《ダイドーとイニーアス》
でパリ・オペラ座デ
ということだった。
《冬の旅》
となれば、主人公の男とひとつになっ
文学世界に浸るというのでもなく、僕はただ、シュトゥッツマン
ビュー…その後のシュトゥッツマンの活躍はひとも知るとおり。
て自ら悲しんでみせることもできるし、それが名演の条件だと考
の声が体を通り抜けてホールを満たしていくのを、呆然として見
ドイツ・グラモフォンの専属となる現在までに、50枚以上のディ
えられることもある。しかし、録音に聴くシュトゥッツマンは、旅
ていたのだった。あれから1年、あのシュトゥッツマンの声に再び
スクを多くのレーベルからリリースし、名だたる指揮者とともに、
する男の心情に寄り添いながらも、この男と一体となるよりはむ
出会うことができる。トッパンホールは、演奏家との距離がとて
ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、パリ管、ロンドン響など、世
しろ、この哀れな男を少し離れたところから大いなる眼差しで見
も近く感じられる場所だから、それは、恐ろしいような、うれしい
界的なオーケストラとの共演を重ねてきた。フランス声楽界のサ
つめているようだった。そして、フランス歌曲においては、繊細に
ような、不思議な感覚を呼び起こす。
ラブレッドにして、彼女の世代を代表する大歌手である。
シュトゥッツマンという名前から、僕はいつの間にか彼女をド
しかし、その華々しい経歴もさることながら、シュトゥッツマ
繊細を重ねて消え入りそうになるところでも、スノッブの危険を
感じさせるところがまるでない。歌はつねに肉体性をもって響き、
イツのひとだと信じるようになっていた。昨年のプログラムが、
ンを知れば知るほど僕が感じ入ってしまうのは、彼女が「せいが
マーラー、シューマン、ヴォルフというドイツ歌曲を歌い継ぐもの
く・か」であることに満足しなかったこと、もっといえば「せいが
録音にしてこうなのだ。そして僕は、昨年の公演を通して、自分
であったことも、この記憶の間違いを強める結果となっていた。無
く・や」であろうとはしなかったことだ。シュトゥッツマンは、歌
の体験として、シュトゥッツマンの声に直に触れることの凄さを
理もない。シュトゥッツマンから歌となって発せられる言葉は、ほ
唱に留まらず、ピアノやファゴットを深く学び、そして何よりも
知っている。繰返しになるけれども、トッパンホールは、演奏家と
んとうに美しいのだ。しかし、本当のところ、シュトゥッツマンは
指揮することへの情熱を持ちつづけたのである。歌唱と並んで、
の距離がとても近く感じられる場所なのだ。だから、今回の公演
心を揺さぶる。
清新なエナジーほとばしる、躍動のステージ
毎年、
趣向を凝らしてお届けしているニューイヤーコンサート。
〈ランチタイムコンサート〉
卒業生を中心とした、いま
2015年は、
伸び盛り、乗りに乗っている若手がトッパンホールに集結。
《民族
色豊かな作品群》
をキーワードに、その才を競う。
2002/03シーズンから継続展開している若手発掘プロジェクト
〈ランチタイムコンサート〉。お昼の無料コンサートといっても、
そこは若手が安易に名曲プログラムを演奏する場ではない。演奏
家たちは「30分間に自身のいまを賭けろと言われたら、どんなプ
ログラムを弾きたいか」
あるいは
「ずっと温めていながら弾く場が
ない曲を演奏して欲しい」といったホールのリクエストに応え、
念願の曲で渾身の演奏を披露する。ホールでの入念なリハーサル
の瞬間も含め、極めて厳しい場と時間を克服し迎えた本番のス
テージ。そこで大きな手応えを残し、
〈エスポワール シリーズ〉
や、
その他の主催公演に起用してきたアーティストもいままで数知れ
ない…。
バンドネオンの三浦一馬もその一人。2013年10月の〈ランチ
Kazuhito Yamane
Tomoki Kitamura
Trio Marina
タイムコンサート〉で、自身初となるソロ作品を並べたプログラ
ムを演奏した。気づいてみたら1時間近いステージは、渾身のエ
みなぎ
ネルギー漲る快心の出来。三浦自身にとっても、4年以上にわたっ
Artist Interview
アラベラ・美歩・
シュタインバッハー
マンによせて
日本の心とともに、
ヴァイオリンの“歌”をお届けします。
藤田 茂
には、ただ期待するというのとも違う、どこか恐ろしいような、
のは
“本物”
でいることだと思っていて、それは、自分が感じたものを音
うれしいような、不思議な感覚がするのだ。
楽として正直に表現することと考えています。人の演奏を真似たり、先
シュトゥッツマンによせるこの文章を僕は「僕」という一人称
生に言われたとおりに弾くのではなく、自分の心、体の真ん中で感じた
で書いたけれども、それはシュトゥッツマンの体験が、それほ
ものを自分の力でかたちにする。エラやダイアナの佇まいには、そうい
どに強烈で、生々しいものだったから。今回の公演を通して、こ
う
“本物”
が感じられて魅かれます。
クラシックの音楽家で影響を受けた筆頭は、イヴリー・ギトリスです
の思い入れの強すぎるかもしれない拙文を読んでくださった皆
さんが、今度は皆さん自身でシュトゥッツマンを体験し、皆さ
ん自身の言葉で、シュトゥッツマンを語り始めてくださること
を、切に願っている。分かち合いたくなる音楽ほど素晴らしい
ものはない。
(ふじた・しげる/音楽学者)
フランス歌曲の花束を
フランス歌曲なんて取り澄ましていて取っ付きにくいと思
われている方にこそ、シュトゥッツマンの「フランス歌曲の
ね。音楽表現のうえでは人生経験も非常に大きく影響すると思うので
この12月のリサイタルツアーを、とても楽しみにしています。いまは
すが、19歳のときでしたか、幸運なことに当時住んでいたパリのアパー
コンチェルトの仕事が比較的多いのですが、今回はその合間ではなく、
トに彼も暮らしていて、すぐにドアをノックできる状況でした。レッス
リサイタルのための時間を上手くまとめてとることができました。共
ンは受けませんでしたが、
「ちょっと弾いてごらん」
と言っていただいて
演のクーレックとは10年以上一緒に弾いていて、人間的にもとてもい
彼の前で演奏したり、彼も演奏してくださったり。いろいろなお話を伺
いパートナーシップが組めています。彼の、相手の音に集中して耳を澄
い、そのライフスタイルを垣間見ることでも、非常にインスピレーショ
ます室内楽奏者としての感性、個性的アイディアは素晴らしく、彼との
ンを受けました。実は「ギトリスさんのところへ行ってみたら?」と、ア
デュオを聴いていただけることは喜びです。
イディアをくださったのはチュマチェンコ先生です。先生には本当に
演奏するときに最もこだわっているのは、
“歌う”
ことです。両親がと
感謝しています。
「若いときには、たくさんコンサートをし過ぎないよう
もに歌手で、私は小さな頃からオペラやアリアをたくさん聴いて育ちま
に」と言ってくださったのも先生だし、それで私は勉強の時間がたくさ
夜」
に出かけてほしい。彼女の声は大地の声。冬空の星のよう
した。歌手の呼吸やフレーズの作り方を目の当たりにする環境で音楽
んとれて、音楽以外の経験もいろいろ積むことができました。先生はさ
に輝くフランス歌曲に呼びかけて、これを無限の暖かさで抱
を学びましたので、ヴァイオリンで歌うことは、私にとってとても自然
まざまなかたちで私を導き、守ってくださったのだと感じています。
きしめる。
なことです。チュマチェンコ先生も「声を真似なさい」と常々おっしゃっ
1年に1回、2週間程度ですが、楽器から離れる時間をとるようにして
ていて、非常に共感します。レッスンでも、まず歌わせてから
「いまのよ
いるのも、先生のアドヴァイスからです。今年は実は、その時間を日本
うに弾いてごらん」
とおっしゃるくらいです。先生には
“音楽性は持って
で過ごすんですよ。母が日本人ですので、日本も私の故郷。今回は九州
フランス歌曲なんてどれを聞いたらよいのか分からないと
感じている方にこそ、シュトゥッツマンの「フランス歌曲の
夜」
に来てほしい。彼女はプログラミングの名手。ショーソン、
グノー、ドビュッシー、フォーレ、プーランクから魅惑の名
品ばかりを選りすぐり、彼らからイメージされるそれぞれの
愛を主題に、空想の歌曲集を編み上げる。フランス歌曲の花
(藤田)
束を、シュトゥッツマンから受け取ってほしい!
リート
〈歌曲の森〉~詩と音楽 Gedichte und Musik~ 第14 篇/第15 篇
ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト)
インゲル・ゼーデルグレン(ピアノ)
2014 年11月24日(月・休)17:00 冬の旅
完売
シューベルト:歌曲集《冬の旅》D911
7,000 円/学生 3,500 円 全席指定
2014 年11月26日(水)19:00 フランス歌曲の夜
ショーソン:
《7つの歌》
Op.2より〈ナニー〉
〈蝶々〉
/《3つの歌》Op.27より〈時の
女神〉/《愛と海の詩》Op.19より〈リラの花咲く頃〉/《7つの歌》
Op.2より〈イタリアのセレナード〉
グノー:愛し合おう/その花をぼくにくれないか/夜明け/谷間
ドビュッシー:麦の花 /《2つのロマンス》より〈鐘〉/《3つの歌》より〈海はさ
らに美しく〉
フォーレ:
《2つの歌》Op.46より〈月の光〉
/
《5つのヴェネツィアの歌》Op.58よ
り〈マンドリン〉/《3つの歌》Op.5より〈愛の夢〉/《2つの歌》Op.1
より〈蝶と花〉
/《3つの歌》Op.18より〈ネル〉/《3つの歌》Op.7より
〈夢のあとに〉
プーランク:歌曲集
《月並み》
全5曲/歌曲集
《村人の歌》
より〈浮気娘の歌〉
/
モンパルナス/アラゴンによる2つの詩
6,500 円/学生 3,000 円 全席指定
2 公演特別協賛:清水建設株式会社
いるかいないか”
であって“学べないもの”
という哲学があり、生徒をと
の親戚を訪ねたり、鎌倉へ瞑想しに行ったりするつもりです。私はドイ
るときのオーディションでも、その見極めをいちばん重視されている
ツ育ちですが、子どもの頃は毎夏、
日本の祖父母のもとで過ごしました。
ようでした。テクニックや楽譜を読むこと、曲の背景を学ぶといった基
子供の時の記憶というのは体の深いところにあって、ふとしたときに蘇
本は大前提として、その先にある音楽づくり、演奏の醍醐味といった、
り、人生に影響していくのでしょうね。ステージに上がる前には瞑想す
音楽という冒険の面白さを教えてくださる先生なのです。その部分で、
る習慣があって、心の内側に入り、いろいろ振り返りながら静かに考え
生徒から最大限のものを引き出す手法に長けた素晴らしい方です。
今回のプログラムは、モーツァルトからはじめます。子供時代からた
くさん聴いて多大な影響を受け、幼少時の記憶に強く結びついている
ます。そして自分の深くにあるものを、コンサートで開いていく感じで
しょうか。それも日本の影響、自分のなかの日本人の感覚なのかも知れ
ませんね。
作曲家です。2曲目は、今回のツアーでトッパンホールでだけ弾くベー
今回もしっかり心を整えて、ヴァイオリンの“歌”を一生懸命お届け
トーヴェン。この10番のソナタを言葉にするのは本当に難しいのです
したいと思います。日本音楽財団からお借りしているストラディヴァリ
が、実に豊かな作品です。最初のソナタの、怒りなどの感情を激しくぶ
ウス(1716年製「ブース」
)は、多様な音色を作り出すことが可能で、私
つけたり、自分の才能の凄さを表現しようとしていた時代と比較すると
が“歌う”
のにとても力になってくれます。トッパンホールには、集中力
明らかですが、歳を重ね、人生経験を積んだことが如実に音楽に滲む、
の高い素晴らしいお客さまが集まるとお聞きしました。お会いできるの
なんとも美しいソナタだと感じます。これまでも何度も演奏してきた大
を楽しみに、12月にまた戻ります。
切なレパートリーで、今回はぜひトッパンホールのために弾きたいと思
いました。プロコフィエフは、20世紀音楽が非常に好きなことと、クラ
シックなレパートリーとコントラストをつける意味で選びました。とて
も短いのですが、大変好きな作品です。最後のR.シュトラウスは、典型
的なヴァイオリン・ソナタとは異なる曲ですね。ピアノパートにはオー
ケストラのような音響が要求されますし、ヴァイオリンは、特に2楽章
に歌手が歌うアリアのような部分があります。
“アラベラ”と名づけられ
た私にとって、R.シュトラウスは特別な存在で、大好きな作曲家です。
実は、クラシックのほかにもジャズをよく聴きます。エラ・フィッツ
ジェラルド、ダイアナ・クラールですとか…。音楽家として一番大切な
(2014年7月 写真:藤本史昭/取材・文:トッパンホール)
アラベラ・美歩・シュタインバッハー(ヴァイオリン)
2014 年12月4日(木)19:00
ロベルト・クーレック(ピアノ)
モーツァルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ト長調 K301(293a)
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第 10 番 ト長調 Op.96
プロコフィエフ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ ニ長調 Op.115
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 Op.18
5,500 円/学生 2,500 円 全席指定
特別協賛:株式会社竹中工務店
New Year Concert 2015
て起用の機会を探ってきた私たちにとっても、忘れ得ぬコンサー
トとなった。そんな三浦を核に据えるところから今回のニューイ
ヤーの企画は出発した。人気アーティストにもかかわらず、音楽
へのひたむきさ、バンドネオンへの熱い想い、卓越したアレンジ
力…。これらをどう活かすかと思案していたところに舞い込んだ
のが、トリオ・マリーナ結成の知らせ。14年1月に小樽で出会っ
た三浦一馬、原麻理子、有吉亮治の3人が、音楽的に同じ方向を向
ける喜びと人間的な共感から誕生させた新しいユニット。ヴィオ
ラ、バンドネオン、ピアノという一見、奇妙な編成ながら、かえっ
て三浦の卓越したアレンジ力も、日ごろ光の当たりにくいヴィオ
ラの旋律楽器としての力量も、伴奏には甘んじないアンサンブル
ピアニストとしての有吉の持ち味も活かせるのではと心惹かれ
た。ヴィオラの原は、10月の〈ランチタイム〉の主役であり、8月
もメンバーの一員として名演を残している。いかにもヴィオラ奏
者らしく周囲で起こっていることを見聞きし分析する能力に長
けているのはもちろん、主張と調和のバランス感覚にも卓越し、
優れたアンサンブル力で音楽の要を担う。艶やかな音から寂れた
音まで振幅の大きな音色も魅力だ。ヴィオラのタメスティも高く
評価するピアニストの有吉には、今回その能力の限りを尽くし思
いっきり暴れて欲しいと願っている。ウェーバーとイベールの秘
曲とピアソラ、ガーシュウィンのスタンダード・ナンバー。既に5
月の連休明けからホールでのリハーサルに勤しむトリオ・マリー
ナの面々は、この東京初公演で、ユニットの成功を確かなものに
しようと意気込んでいる。その真摯に音楽を追求する姿勢がとて
も清々しく心地よい。
トリオ・マリーナと対となるデュオには、現在〈エスポワール
シリーズ〉に出演中の山根一仁と北村朋幹を選んだ。まだ10代な
がら、日本人にはめずらしく独創性に長け、同じ曲に同時に多様
なアプローチが可能なアイデアにあふれる山根。持ち前の抜群の
センスを活かし、作品に鋭利に切り込みスリリングなライヴのス
テージを創出する。一方の北村は、楽譜をとことん深く読み込み、
曲と深い対話を交わしながら、卓越した知性と感性で作品や作曲
家の根底に流れるエッセンスを汲み取るタイプ。その音楽は決し
て派手ではないものの、独特の味と輝きを放つ。このように、こ
の二人、性格も音楽性もまるで正反対ながら、なぜか妙にウマが
合い相性抜群。得も言われぬ駆け引きはステージ上でもオフ・ス
テージでも絶妙で限りなく楽しい。
《ツィガーヌ》では、初演時の
ピアノ・リュテアルの音に近い仕掛けを凝らし、コレッリの《ラ・
フォリア》では、北村が日本で初めてフォルテ・ピアノを披露する。
形式美への深い理解が前提となる古典とは異なり、民族色豊か
PRESS 74
な個性あふれる作品群は、こうしたまったくタイプの異なる若き
才能が火花を散らし、寄り添うには、格好の舞台となる。熱く鮮
やかにほとばしる、
清新なエナジーとともに新たな年をあなたへ。
(西巻正史/企画制作部長)
トッパンホール ニューイヤーコンサート 2015
2015 年1月7日(水)19:00
山根一仁(ヴァイオリン)
/北村朋幹(ピアノ)
トリオ・マリーナ[三浦一馬
(バンドネオン)
/原 麻理子
(ヴィオラ)
/有吉亮治
(ピアノ)
]
ラヴェル:ツィガーヌ(演奏会用狂詩曲)
―作曲者自身によるヴァイオリンとピアノ・リュテアルのための作品に基づく演奏―
イベール:2 つの間奏曲
バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ第 1番 Sz75
コレッリ:ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ第 12 番 ニ短調《ラ・フォリア》
ウェーバー:三重奏曲 Op.63
ピアソラ:オブリビオン
ピアソラ:
《ブエノスアイレスの四季》
より 第 3曲〈ブエノスアイレスの冬〉
ガーシュウィン:
《ポーギーとベス》
より〈サマー・タイム〉
ピアソラ:リベルタンゴ
5,500 円/学生 2,500 円 全席指定
特別協賛:鹿島建設株式会社
日時
公 演
11/ 24 (月・休)
特別協賛:東急建設株式会社
協賛:株式会社オルタステクノロジー/タマポリ株式会社/株式会社トータルメディア開発研究所
凸版物流株式会社/株式会社トッパンプロスプリント/株式会社フレーベル館
3/
インゲル・ゼーデルグレン
(ピアノ)
特別協賛:清水建設株式会社
イェフィム・ブロンフマン
3 (火)
19:00
(ピアノ)
レジス・パスキエ
24 (火)
19:00 フィリップ・チュウ
(ピアノ)
特別協賛:東急建設株式会社
特別協賛:株式会社 安藤・間
(ヴァイオリン)
特別協賛:株式会社 安藤・間
〈ランチタイムコンサート〉
トッパンホールが選んだ若手ホープによる30分のミニ・コンサート
アラベラ・美歩・シュタインバッハー(ヴァイオリン)
4 19:00 ロベルト・クーレック
[全席指定]
特別協賛:株式会社竹中工務店
(ピアノ)
若きブラームス、その情熱と野心
(チェロ)
ショスタコーヴィチ ―才能の開花―
ゴーティエ・カプソン(チェロ)& ユジャ・ワン(ピアノ)
16 19:00
(カウンターテナー)
特別協賛:鹿島建設株式会社
トッパンホール ニューイヤーコンサート 2015
山根一仁
/北村朋幹
7 (水)
[三浦一馬
19:00 トリオ・マリーナ
(ヴァイオリン)
(ピアノ)/
(バンドネオン)/原
※やむをえず、
曲目・出演者などが変更になる場合もございます。あらかじめご了承ください。 ※開場は開演の30分前となります。
※未就学児のご入場はご遠慮ください。なお、全主催公演で託児サービスをご利用いただけます[有料・要予約]
。お申し込み・
お問い合わせは(株)マザーズ 0120-788-222まで。
2014年10月中旬現在
麻理子(ヴィオラ)/有吉亮治(ピアノ)]
特別協賛:鹿島建設株式会社
※ 3/7トッパンホール アンサンブル Vol.9は、公演日を再調整して開催いたします。新たな公演日等の詳細につきまして
は、決定次第改めて発表させていただきます。なにとぞご了承ください。
〈おとなの直球勝負 14〉
24 (土)
15:00 伊藤 恵
(ピアノ)
特別協賛:株式会社 安藤・間
INFORMATION
スパークする才能―スーパー・デュオ再び!
2013年12月、企画発表時から大きな反響を呼んでいたゴーティ
エ・カプソンとユジャ・ワンのデュオがトッパンホールに登場し
た。本編のシューマン《幻想小曲集》
、ショスタコーヴィチとラフマ
ニノフのチェロ・ソナタでは、息をもつかせぬ丁々発止を繰り広げ、
アンコールではエキサイティングなピアソラを聴かせた。想像をは
るかに上回る圧倒的なそのパフォーマンスに、客席は熱狂の渦と
化し、万雷の拍手が鳴り響いた。その熱演から1年。早くもそのスー
パー・デュオが帰ってくる。今回はゴージャスにも、2夜連続公演だ。
第1夜は、
それぞれ異なる色彩をまとったチェロ・ソナタ3曲。ゴー
ティエとユジャ、ふたつの個性のぶつかり合いも聴きどころのひと
つだが、前回も演奏したラフマニノフを、また違った解釈で聴かせ
てくれそうなユジャの手腕にもご注目を。続く第2夜は、ブラーム
スのチェロ・ソナタを軸にしたプログラム。緻密な対話なくしては
成立しないロマン派の傑作に、どう肉薄するのか…。ふたりの新た
な境地に期待が高まる。
ライヴの醍醐味を存分に味わうことができるゴーティエ&ユ
ジャ公演は、今回も発売初日で即完売。チケットを手にされたお客
さまには、トッパンホールがお贈りするクリスマスプレゼントを、
存分にお楽しみいただきたい。
ゴーティエ・カプソン(チェロ)
&ユジャ・ワン(ピアノ)
完売
2014年12月15日
(月)19:00
ドビュッシー:チェロ・ソナタ
プロコフィエフ:チェロ・ソナタ ハ長調 Op.119
ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 Op.19
2014年12月16日
(火)19:00
2公演特別協賛:鹿島建設株式会社
日欧のピアノ室内楽に陶酔するひととき
では往々にして軽視されがちな問題)を演奏で見事に体現し我々に
アピールする。トッパンホールの空間が、この表現意欲旺盛な彼ら
の音楽に過不足ないだけのリアリティを与え、充実した時間が創出
されることだろう。
(西巻正史/企画制作部長)
津田裕也 ピアノ リサイタル
2014年11月14日
(金)19:00
メンデルスゾーン:
《無言歌集》より〈甘い思い出〉
〈狩の歌〉
〈羊飼いの
嘆き〉
〈子供の小品〉
〈失われた幻影〉
〈旅立ち〉
メンデルスゾーン:幻想曲 嬰へ短調 Op.28《スコットランド・ソナタ》
ヒンデミット:ピアノ・ソナタ第3番 変ロ調
シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959
チケット料金:4,000円 全席自由
主催・お問い合わせ:ヒラサ・オフィス 03-5429-2399
フォーレ四重奏団
2014年12月12日
(金)19:00
フォーレ四重奏団(ピアノ四重奏団)
[エリカ・ゲルトゼッツァー(ヴァイ
オリン)
/サーシャ・フレンブリング(ヴィオラ)
/コンスタンティン・ハ
イドリッヒ(チェロ)
/ディルク・モメルツ(ピアノ)
]
マーラー:ピアノ四重奏曲 断章 イ短調
R.シュトラウス:ピアノ四重奏曲 ハ短調 Op.13
ブラームス:ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 Op.25
チケット料金:6,000円/学生3,000円(主催者のみ取扱)
全席指定
12/11(木)発売
ジャン=クロード・ペヌティエ(ピアノ) [会員:12/6(土)]
5 /13(水)
〈歌曲の森〉∼詩と音楽 Gedichte und Musik∼
19:00
第16篇/第17篇
12/18(木)発売
[会員:12/13(土)
]
5 /15(金) クリストフ・プレガルディエン(テノール)
19:00
6 / 8(月)
19:00
ルノー・カプソン(ヴァイオリン)
6 /25(木)
ヴァレリー・アファナシエフ(ピアノ)
19:00
7/ 29(水) 〈エスポワール シリーズ 11〉
19:00
山根一仁(ヴァイオリン)Vol.2
7/ 31(金)
日下紗矢子 ヴァイオリンの地平 2―古典
19:00
8/ 2(日)
17:00
マーティン・ヘルムヘン(ピアノ)
1/22(木)発売
[会員:1/17(土)
]
2/18(水)発売
[会員:2/14(土)
]
2/4(水)発売
[会員:1/31(土)
]
※発売日は変更になる可能性があります。最新情報はオフィシャルWebサイトをご確認ください。
ランチタイムコンサート
愛しのブラームス
トッパンホールが自信を持っ
てセレクトした、期待の若手アー
ティストをご紹介する〈ランチタ
イムコンサート〉
。12月に登場す
るのはブラームス国際コンクー
ル2012の覇者、佐藤麻理。昨年
東京で弾いたピアノ協奏曲第1
番では、若きブラームスの情念
を鮮烈な印象を持って描き出し
ました。彼女が今回選んだ作品
は、
もちろんブラームス。
ベートー
ヴェンを意識して作曲された、野
心あふれるピアノ・ソナタに挑戦
します。作曲家が活躍したウィーンで今なお研鑽中の佐藤なら
ではの、若々しい情熱あふれるブラームスに、ご期待ください。
〈ランチタイムコンサート Vol.74〉
佐藤麻理(ピアノ)若きブラームス、その情熱と野心
主催・お問い合わせ:パシフィック・コンサート・マネジメント 03-3552-3831
2014年12月19日
(金)12:15
チケットのお申し込み:トッパンホールチケットセンター
ブラームス:ピアノ・ソナタ第2番 嬰へ短調 Op.2
入場無料(要予約/お一人様2席まで)
編集後記
読書、
スポーツ、
食欲…「○○の秋」
と呼ばれる時期になりました。
みなさ
まどんな「秋」
をお過ごしでしょうか。
トッパンホールは、もちろん「芸術
の秋」
。
ホールは連日、音楽が紡ぐ豊かなひとときを求める多くのお客さ
まで賑わっています。
そんななか広報部は、クリスマスツリーの飾り付け
準備、2015 年の年賀状・ポストカードカレンダー制作など、年末に向
けて忙しい時期に突入。
楽しみに待っていてくださる方も多いので、頭を
悩ませながらアレコレ模索する日々を送っています。お目にかける日は、
あっという間にきそうですが、
もうしばらくお待ちくださいね。 (雪)
受付期間・お申し込み方法:
[一般]11/14
(金)
~11/26
(水)*ハガキ(抽選制・当選者のみ通知)
〒112-0005 東京都文京区水道1-3-3「ランチタイムコンサート Vol.74」受付係
(住所、氏名
(フリガナ)
、電話番号、希望席数を明記ください。
)
[会員]11/7
(金)
~11/26
(水)*窓口・電話・Web
※当紙に掲載している内容について、許可なく複製あるいは転用することを固く禁じます。
誠実な心、清廉な音、奥ゆかしさと優しさを兼ね備えた温かい音
楽性…。これが紛れもない津田裕也の特質だ。そしてそれは、昔か
ら日本人の根底に流れる美意識(美学?)の結晶と云ったらいいす
ぎであろうか。津田の奏でる音楽は、少なくとも私たち聴き手に、日
本人に生まれたことの良さや嬉しさ、誇りを味わわせる稀有な時間
をもたらしてくれる。そんな津田の心に一番響く作曲家がシューベ
ルトだというのも実に納得がいく。しかし今回のメインは、作曲家最
晩年のソナタ イ長調 D959。シューベルトのもう一つの本質である
デモーニッシュな側面にもどっぷり正面から対決しなければならな
い。この作品で、最近、絶好調の津田が、さらなる脱皮をするのを期
待したい。
続いては、12月12日のフォーレ四重奏団。
「フォーレ」を名乗ってい
てもドイツ人のメンバーで結成された、数少ない現代の卓越したピ
アノ・クァルテットだ。このクァルテット、楽譜から生命力あふれる
音楽を引き出す力が素晴らしい。楽譜の表層をいくら丁寧になぞっ
ていてもそれだけでは絶対に作曲家が作品に託した「想い」を宿し
た音楽にはならないという当たり前の事実(だがアジアの音楽教育
2015年
5 / 8(金)
19:00
©TOPPAN HALL 2014.11 KⅠ
ベートーヴェン:
《魔笛》の主題による7つの変奏曲 変ホ長調 WoO46
ブラームス:チェロ・ソナタ第1番 ホ短調 Op.38
ブラームス:チェロ・ソナタ第2番 ヘ長調 Op.99
2014/15シーズン主催公演
[後期]
ラインナップ最新一覧
http://www.toppanhall.com/ 制作:株式会社トッパングラフィックコミュニケーションズ 印刷:凸版印刷株式会社
http://www.toppanhall.com/
詳しくは、
オフィシャルWebサイトでご案内しています ※チケットもお申し込みいただけます
〒112-0005 東京都文京区水道1-3-3 (03)5840-2200
12/ 19 12:15 Vol.74 佐藤麻理
Vol.75 上野通明
2 / 19 (木)
12:15
Vol.76 藤木大地
4/ 23 (木)
12:15
(金)
(火)
1/
(クラリネット)
(ピアノ)
(水) 第1夜 冬の旅
19:00 第2夜 フランス歌曲の夜
12/ 15 (月)
19:00
公 演
(ピアノ)
17:00 ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト)
(木)
03-5840-2222
アンドレアス・オッテンザマー
2/ 26 (木)
19:00 ホセ・ガヤルド
ティル・フェルナー(ピアノ)
〈歌曲の森〉∼詩と音楽 Gedichte und Musik ∼ 第14篇/第15篇
26
(10:00〜18:00 日祝休
[主催公演日は営業]
)
日時
〈ウィーンからの風 16〉
5 (水)
19:00
トッパンホールチケットセンター
主催公演
発行日:2014 年11月1日 発行・編集: 広報部
SCHEDULE 2014.11 〜 2015.4