半導体デバイス・アナライザによる高速電流測定手法 - Keysight

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アナライザによる
高速電流測定手法
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1 はじめに
MOS トランジスタの基礎的な特性評価には、従来から直流によ
る電流電圧測定が中心的な役割を果たしてきた。しかし、微細
化が進み、新しい材料や、これまでと異なる構造をもったトラン
ジスタの研究開発が積極的に進められ、さらにシリコンとは異な
る有機半導体の開発も急速に進んでいる。特性評価においても
従来の手法だけでなく、パルス電圧やステップ電圧といった時間
的に変化する信号を印加したときの過渡的な応答特性は重要な
パラメータとなってきた。また、信頼性評価においても、ごく短い
時間で起こる現象の把握や、より実使用に近い条件での評価に
対する要求が高まってきた。
従来、このような測定にはパルス発生器に電流電圧変換器やオ
シロスコープなどを組み合わせた自作のシステムが使われてき
た。しかし、このようなシステムは構築が難しく、接続が煩雑で、
機器間の誤差が累積され、安定した測定結果が得られないなど
の問題があった。そのため、正確で比較可能な測定結果を得ら
れる測定器が強く望まれていた。
キーサイト・テクノロジーが開発した波形生成/高速測定ユニット
(WGFMU:Waveform Generator / Fast Measurement Unit)は
B1500A 半導体デバイス・アナライザ(図 1)用の追加モジュー
ルで、これを装着することで任意波形を発生し、高速に電流・電
圧測定を同時に行うことができる唯一の装置である。
本稿では、まず WGFMU の概要を紹介し、次に WGFMU による
測定例について紹介する。
WGFMU
50 W
Arbitrarily Linear
Waveform
Generator
Output
I/V Conv.
Voltage Sampler
WGFMU Module
RSU
図 2 WGFMU のブロック図
50 W
A
V
V
高速 I/V 電流測定モード
PGモード
高速 I/V 電圧測定モード
図 3 WGFMU の動作モード
高速 I/V モードは、電圧あるいは電流を測定することができる。
出力インピーダンスが非常に低いため、電圧降下を考慮する必
要がなく、正確に電圧・電流特性を測定することができる。
2-2 任意波形発生機能
ALWG は、10n 秒から 10,000 秒まで可変の間隔で記述された
線分を合成することで波形を生成する。また、最大 2,048 点の
波形メモリと、最大 512 個までの波形の出力順序や繰り返し数
を指定できるシーケンス・メモリを装備している。シーケンス・メモ
リは、ステップごとに最大で 1012 回の繰り返し出力を指定するこ
とができ、複雑で長時間にわたる波形の出力を可能としている。
図 4 は ALWG による波形生成の例を示している。
電圧
図 1 B1500A 半導体デバイス・アナライザ
2 概要
WGFMU は、任意線形波形発生装置(ALWG:Arbitrary Linear
Waveform Generator)に高速電流・電圧サンプリング機能が加
わった全く新しいタイプの測定器である。パルス電圧や、任意の
電圧波形を出力し、それと同時に電流あるいは電圧を高速にサ
ンプリング測定することができる。
2-1 WGFMU の構成と動作モード
図 2 に WGFMU のブロック図を示す。WGFMU は本体である
WGFMU モ ジ ュ ー ル と 電 流 ・ 電 圧 測 定 を 行 う RSU(Remote
Sense Unit)から構成される。高速かつ正確な測定を行うために
は、測定器と被測定物との間の配線をできる限り短くする必要
があり、RSU はウェハ・プローバなどのプローブ近くに設置され
る。
図 3 は WGFMU の動作モードを示している。高速なパルス印加
に適したパルス・ジェネレータ(PG)モードと、電流・電圧測定が
可能な高速 I/V モードがある。PG モードはインピーダンス整合
を保つため、50Ωの出力インピーダンスを持ち、反射の影響を
抑えた高速なパルスを印加することが可能である。さらに、被測
定物に印加されている電圧を測定する機能が付加されている。
これにより、従来のパルス・ジェネレータに比べ、より正確な電圧
依存性を評価することが可能となる。
時間
Min 10ns
Max 10,000s
図 4 ALWG による波形発生例
2-3 高速電流・電圧測定機能
WGFMU は ALWG 機能により生成された電圧波形を出力しな
がら、高速に電流または電圧をサンプリング測定することができ
る。サンプリング間隔は 5n秒から 1 秒まで任意の値を設定する
ことが可能である。
また、高速 I/V モードでは、1μA から 10mA までの 5 段階の電
流測定レンジが使用可能で、様々な測定条件で最適な測定分
解 能 を 得 るこ とが で きる 。最小 測 定 分 解 能は 測 定レ ン ジの
0.014%、ノイズフロアはレンジの 0.2%となっており、広いダイナ
ミック・レンジで微小な電流変化も正確に測定することが可能で
ある。
さらに、ハードウェア・アベレージング機能が組み込まれており、
測定ノイズをさらに低減することが可能である。アベレージング
時間は 10n 秒から 20m 秒まで任意の値を設定することができ
る。
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高速に高精度な電流測定を行うには、被測定物に印加する電
圧の安定性も重要な要素である。WGFMU の出力電圧は、
0.1mVrms と低ノイズであることも、安定した微小電流測定を実
現できる理由の一つである。
このように、WGFMU が持つ、任意波形発生機能と高速サンプ
リング測定機能を応用すると、これまでは測定ができなかったり、
正確な測定が難しかったりした分野にも、柔軟に対応することが
可能となる。図 5 は出力波形と測定ポイントの組み合わせ例で
ある。波形の立ち上がりにおける電流遷移や、高速に階段状に
変化する波形と同期した測定、パルスピークにおける測定、パ
ルス印加と測定の繰り返しというように自由に波形生成し、波形
上のあらゆる箇所に測定点を組み合わせることが可能である。
3-1 RTN 発生のしくみと 特徴
RTN は図 6 のように MOS トランジスタのゲート絶縁膜中の欠
陥や、ゲート絶縁膜と半導体界面近傍の欠陥にキャリアが捕獲
されたり、キャリアが欠陥から解放されたりすることによりドレイ
ン電流が図 7 のように 2 値の変化を示す現象で、パワースペク
トル密度が 1/f2 の傾きをもつローレンツ型を示すことが特徴であ
る。
WGFMU は、このような特徴を活かして、以下のような用途で活
用されている。
–
–
–
–
–
–
ランダム・テレグラフ・ノイズ
フラッシュメモリの電流特性
抵抗変化型メモリ(MRAM、ReRAM、PRAM)の評価
SOI デバイスのパルス IV 測定
High-k ゲート絶縁膜のパルス IV 測定
超高速 NBTI 測定
電流測定点
図 6 RTN のメカニズム
印加波形
ステップ電圧の立ち上がりで測定
高速階段波測定
パルスピークとパルスベースで測定
パルスと測定の繰り返し
図 5 可変サンプリング・レートの応用例
3 WGFMU による測定例:
ランダム・テレグラフ・ノイズの測定
次に、WGFMU による測定例として、ランダム・テレグラフ・ノイズ
(RTN : Random Telegraph Noise)測定を紹介する。 RTN
は MOS トランジスタで観測されるランダムノイズの一種である。
MOS トランジスタの面積が小さくなると、ノイズレベルが大きくな
ることから、近年の微細化の進展とともにその影響が無視できな
くなってきている。
RTN が発生すると MOS トランジスタの Vth が変動するため、
SRAM やフラッシュメモリをはじめとする LSI の誤動作が懸念さ
れている。また CMOS イメージセンサにおいては、高精細化に
伴い画素を構成する MOS トランジスタの微細化が積極的に進
められており、RTN による画像ノイズはすでに深刻な問題となっ
ている。さらに 22nm 以降の製造プロセスでは、RTN による
MOS トランジスタの特性ばらつきが、製造時に発生する不純物
ばらつき起因を上回るとみられている。
図 7 キャリアの動きとドレイン電流の変動
このような電流特性は Vth の変化としても観察され、欠陥に捕
獲されたキャリアによって引き起こされる Vth の変化は、キャリ
ア 1 個につき以下の式で表される。
Vth 
q
LWCox
ここで、q は素電荷、L はゲート長、W はゲート幅、Cox はゲート
容量である。この式によると LW つまり MOS トランジスタの面
積が分母にあるため、面積が小さくなるほど捕獲されたキャリア
による Vth 変動が大きくなることがわかる。
キャリアがトラップに捕獲されている時間(Ton)や解放されてい
る時間(Toff)は時定数と言われ、μ秒から数時間程度のものが
観測されている。 実際には、μ秒以下の高速な時定数を持つ
トラップも存在すると言われ、幅広い分布をしている。
さらに、時定数やドレイン電流の変化量、および発生するデバイ
スには規則性がなく、ランダムな現象であることも RTN の特徴
である。
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3-2 RTN 測定の実際
RTN はドレイン電流の時間変化を測定する。WGFMU は一つの
モジュールに、二つの RSU を接続することができるので、図 8
のように MOS トランジスタのゲート端子、ドレイン端子にそれぞ
れの RSU を接続するだけで RTN 測定システムを構築すること
が可能である。
また B1500A には最大 5 枚の WGFMU を装着することができ、
最大 10 チャンネルの RSU を用いて、複数のデバイスを同時に
測定することも可能である。
ドレインは高速 I/V モード、ゲートは PG モードあるいは高速 I/V
モードを使用し、それぞれに定電圧を印加しながらドレイン電流
をサンプリング測定する。
図 8 WGFMU とデバイスの接続
図 10 パワースペクトラム密度
RTN の要因である欠陥は、さまざまなエネルギー準位に分布す
るため、RTN の発生有無はゲート電圧条件に強く依存する。図
11 は図 9 と同じデバイスを、ゲート電圧だけを 0.6V に変えたと
きのドレイン電流を測定したものである。図 9 とは異なる時定数
の RTN が観測されている。特に波形が Low つまりキャリアが
欠陥に捕獲されている時定数が明らかに異なることがわかる。
また、RTN によるドレイン電流の振幅も、時定数と同様に変動す
る範囲が広い。誤動作などの問題を引き起こすのは大きな電流
変化が起こったときであるが、RTN を究明するには微小な変動
も正確にとらえる必要がある。
図 12 では振幅が 40nA 程度の大きな変動が観察できるが、さ
らに一部を拡大するとそこにも RTN とみられる微小な電流変化
が観測されている。このように、RTN による電流変動は微小な
変化から大きな変化まで広範囲にわたっている。また、その変
動を一度の測定で捉える事ができるのは、WGFMU のダイナミ
ック・レンジが広いことを示している。
図 9 はゲート長 0.44μm、ゲート幅 0.24μm の NMOS トランジ
スタにゲート電圧 0.4V、ドレイン電圧 2V を印加して観測したドレ
イン電流で、2 値の変化を示している。これを高速フーリエ変換
しパワースペクトル密度で表したのが図 10 である。傾きが 1/f2
を示しており、図 9 の電流特性が RTN によるものであることが
分かる。
図 11 ドレイン電流波形(Vg=0.6V)
図 9 ドレイン電流波形(Vg=0.4V)
図 12 ドレイン電流の測定例
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4 おわりに
B1500A 半導体デバイス・アナライザに搭載される WGFMU は、
1 台で波形生成機能と高速電流測定機能を実現した唯一の装
置である。従来は測定することが難しかった過渡電流特性や
RTN 評価が一層加速され、先端の半導体研究により貢献できる
ものと確信している。
(出典:日本工業出版 「計測技術 2010 年 12 月号」)
図 13 複数の欠陥による複雑なドレイン電流波形
実際の測定においては、図 9 や図 11 のように明確な 2 値の波
形が観測されることは非常に少なく、多くは複雑な電流特性を示
す。図 13 は図 9 と同じウェハ内の異なるデバイスの測定例で
あるが、ドレイン電流が多値の特性を示し、複数の欠陥による電
流変動が起こっていると判断できる。
3-3 自動測定およびデータ解析
このように、RTN は欠陥の数、時定数、電流振幅、発生するデ
バイスがランダムな現象であるため、測定においては様々な条
件を組み合わせて行うことが必要となる。それらを効率よく行う
にはキーサイト・テクノロジーから提供されている自動測定に対
応したソフトウェアの活用が有効である。バイアス電圧、サンプリ
ング・レート、測定時間、測定レンジなどを任意に組み合わせ、
連続して測定することで、様々な欠陥による RTN を測定するこ
とができる。さらに、欠陥の分布密度によっては欠陥が測定され
ないデバイスも存在するため、オートプローバ制御機能を用いて
ウェハ面内の自動測定を行うことも可能である。 測定したデー
タは、解析ソフトウェア(図 14)に取り込まれ、ヒストグラムを生成
し欠陥数や、キャリアが欠陥に捕獲、解放されている時間(Ton、
Toff)の時定数も算出する。また、IdVg 測定も連続して行うため、
RTN によるドレイン電流の変化を、Vth に換算して解析すること
も可能である。
Idサンプリング
Id ヒストグラム
図 14 データ解析ソフトウェア
パワースペクトル密度
Ton、Toff ヒストグラム
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©Keysight Technologies. 2014
Published in Japan, December 08,2014
5990-8729JAJP
0000-08A