抄録 - UMIN

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白質刺激による脊髄硬膜外誘発電位:皮質下マッピングへの応用
日本大学医学部脳神経外科・大学院医学研究科応用システム神経科学
深谷 親、四條 克倫、永岡 右章、小林 一太、大島 秀規、山本 隆充、片山 容一
【目的】運動野近傍手術における皮質マッピング法の技術は進歩したものの、皮質下での皮質
脊髄路の同定に関しては確実な方法は確立していない。本研究では、皮質下白質線維の刺激に
より、皮質脊髄路の機能を反映する電位が脊髄硬膜外から記録されるかを検討した。
【方法】運動野近傍に glioma を有する8症例を対象とした。いずれも、腫瘍摘出の1週間前に硬
膜下グリッド電極を留置し、皮質マッピングによって一次運動野が明確に同定されている症例であ
る。腫瘍摘出の際は、皮質刺激による誘発筋電図と cortico-spinal MEP を経時的にモニタリング
した。切除範囲が皮質下におよんだ際、双極(極間距離5mm)及び単極電極を用いて、白質を刺
激強度 10-20mA、頻度 5Hzにて刺激し、頸髄硬膜外から誘発電位の記録を試みた。
【結果および結論】全例で皮質刺激による cortico-spinal MEP の記録は可能であった。 4 例に
おいて白質の単極刺激により、頸髄硬膜外から cortico-spinal MEP の D 波とほぼ同一の波形の
誘発電位が記録された。記録不可能であった 4 例は、切除範囲が運動野から 10mm 以上離れて
いる症例であった。また、白質の双極刺激で頸髄硬膜外から誘発電位を記録することは困難であ
った。刺激点から皮質脊髄路までの正確な距離の判定は困難であったが、推測される皮質脊髄
路の走行から考えると、5mm 以内であれば頸髄硬膜外から誘発電位の記録は可能と考えられた。
白質深部における切除限界を決定する上で、単極刺激−硬膜外導出電位による皮質下マッピン
グは有用であると考えられた。
2
術中皮質脳波による焦点同定に対する麻酔法の影響について
奈良県立医科大学 麻酔科学教室
栗田 直子
【目的】てんかん手術では、術中皮質脳波測定による焦点同定が重要であるが、全身麻酔下で
行う場合には、てんかん波に対する麻酔薬の影響が問題となる。今回我々は、術中皮質脳波に
よるてんかん焦点同定に対する麻酔法、特に揮発性麻酔薬であるセボフルランと過換気の影響
について検討した。
【対象と方法】難治性てんかん 13 症例に対して、硬膜下にグリッド電極を留置し、1)セボフルラ
ン 0.5MAC (0.85%)、2) セボフルラン 1.5MAC (2.5%)、3) セボフルラン 1.5MAC (2.5%)+過換気の 3
条件で皮質脳波を 10 分間測定した。皮質脳波の解析は、最後の 5 分間の棘波数と 7 分目の棘
波を有する電極の割合を検討した。
【結果】棘波数はセボフルラン 0.5MAC に比べ、セボフルラン 1.5MAC (median;57 vs. 143,
P<0.05)、セボフルラン 1.5MAC+過換気 (median;57 vs. 139, P<0.05)で有意に増加した。しかし、
セボフルランの増加により棘波の出現頻度が減少した症例もあった。棘波を有する電極の割合は、
セボフルラン 0.5MAC に比べ、セボフルラン 1.5MAC では有意ではないが増加傾向を示し(43% vs.
75%)、セボフルラン 1.5MAC に比べ、セボフルラン 1.5MAC+過換気では有意に増加した(75% vs.
92%, P<0.05)。しかし棘波が広範囲に誘発されたことにより、焦点部位同定が困難になった症例も
あった。
【結論】セボフルラン及び過換気は、棘波の出現頻度や範囲を増大させた。しかし出現頻度が
減少したり範囲が広範囲に誘発され焦点同定が困難になった症例もあり、各症例に応じた賦活
法(セボフルランの濃度、過換気など)を考慮する必要があると思われた。
3
セボフルランとプロポフォールがてんかん病変部位の術中皮質脳波に及ぼす影響
都立神経病院 麻酔科(1)、脳神経外科(2)
中山 英人(1)、清水 弘之(2)、川合 謙介(2)、須永 茂樹(2)、菅野 秀宜(2)
【目的】術中皮質脳波によるてんかん病変部位の同定に有用な麻酔薬を検索するため,セボフ
ルラン吸入時とプロポフォール注入時のてんかん病変部位における術中皮質脳波を同一患者の
同一部位で比較した.
【対象と方法】てんかん外科治療に先立ち硬膜下電極を留置されたが,てんかん外科治療の適
応とならなかった患者 4 名を対象とした.5%セボフルランの吸入で麻酔を導入した.ベクロニウム
を用いて気管挿管を行い,セボフルランと酸素で麻酔を維持した.硬膜下電極を留置した後,呼
気セボフルラン濃度を 2.5%に維持して術中皮質脳波記録を行った.終了後患者を覚醒させ,ICU
に収容して連続皮質脳波記録を行った.硬膜下電極抜去が予定された 4 名に対して Target
Controlled Infusion (TCI) を用いてプロポフォールで麻酔を導入した.2 名ではフェンタニル
0.02mg/kg を併用した.ベクロニウムを用いて気管挿管を行い,プロポフォールで麻酔を維持した.
プロポフォールの目標血中濃度を 5μg/ml,4μg/ml,3μg/ml に設定して術中皮質脳波記録を行
った後,硬膜下電極を抜去した.連続皮質脳波記録で棘波が最も頻発した部位の術中皮質脳波
をセボフルラン吸入時とプロポフォール注入時で比較した.
【結果】セボフルラン吸入時の術中皮質脳波ではてんかん病変部位で活発な棘波がみられた.
プロポフォール注入時ではフェンタニル併用の有無にかかわらず各濃度ともに棘波の出現頻度
が低く,棘波がみられないものもあった.
【結論】術中皮質脳波によるてんかん病変部位の同定に用いる麻酔薬としては,プロポフォー
ルよりもセボフルランが優れている.
4
術中皮質脳波が有用であった難治性側頭葉てんかんを伴う脳動静脈奇形の 1 例
大阪市立大学 脳神経外科
川原 慎一、 森野 道晴、宇田 武弘、石黒 友也、一ノ瀬 努、 露口 尚弘、 原 充弘
難治性側頭葉てんかんを伴った脳動静脈奇形(AVM)に対して AVM 摘出前後に術中皮質脳波を
測定し、興味ある所見を得たので報告する.
症例は 27 歳の女性。2 歳時より月に 1 回の頻度で上腹部不快感を前兆とする意識減損発作が出
現した。画像診断上、海馬萎縮はなかったが、右中側頭回に angular artery と temporo-occipital
artery を feeder とし、vein of Labbe、sylvian vein、basal vein を drainer とする径 2.8cm の AVM を
認めた。間欠期 FDG-PET および ECD-SPECT では右側頭葉に糖代謝と脳血流の低下を認めた。
AVM と右側頭葉内側部がてんかん原性の可能性があるため、術中に AVM を含む右側頭葉外側
皮質と側頭葉内側底部の皮質脳波を測定した。皮質脳波所見は nidus および周辺の側頭葉外側
皮質、さらに側頭葉内側底部からも spike を認めた。AVM を摘出した後、nidus の後上方に spike
が残存したので同部の皮質切除を追加した。右側頭葉内側底部の spike は頻度が減少したため、
側頭葉内側部は切除しなかった。神経脱落症状はなく、術後 7 ヶ月になるが発作は消失してい
る。
術中皮質脳波所見から側頭葉内外側部の異常波は AVM およびその周囲のてんかん原性域から
波及したものと考えた。側頭葉内側部の摘出を行っていないため dual pathology の可能性も否定
できないが、発作は消失しており側頭葉内側部が独立したてんかん原性域になっていないと思わ
れる。本症例の病態について文献的考察を加えて報告する。
5
非典型的側頭葉てんかんの外科治療
大阪市立大学 脳神経外科(1)、 ツカザキ病院脳神経外科(2)
宇田 武弘(2)、森野 道晴(1)、川原 慎一(1)、一ノ瀬 努(1)、石黒 友也(1)、露口 尚弘(1)、
原 充弘(1)
【目的】当施設では側頭葉てんかんの術前精査として MRI(FLAIR 法)、蝶形骨誘導留置下での
頭皮脳波−発作ビデオモニタリング、PET、SPECT、MEG、高次機能検査(三宅ベントン式記銘力
検査、WAIS−R、WMS-R)を行っている。MRI、頭皮脳波、発作型から典型的な一側性側頭葉てん
かんと診断できれば、その焦点切除を施行している。しかし、側方診断が困難な症例、つまり非典
型例には、頭蓋内電極留置下の発作モニタリングにより焦点診断を行っている。この非典型的側
頭葉てんかんの診断、手術、発作予後について報告する。
【方法】最近の 2 年 7 ヶ月間で非典型的側頭葉てんかんの外科的治療を 16 例に行った。男性 8
例、女性 8 例で平均年齢は 39 歳であった。術後の平均経過観察期間は 9 ヶ月である。全例で
MRI(FLAIR 法)において一側海馬に高吸収域を認めなかった。脳波所見は 16 例中 14 例で両側側
頭葉に異常波を認めた。発作型は全例で側頭葉起始の複雑部分発作を呈した。頭蓋内電極留置
下の発作モニタリングを行い、12 例で発作起始部を一側に同定できたが 4 例では両側側頭葉が
独立した発作起始部であった。一側に同定できた 12 例は、同側の焦点切除を行い、両側側頭葉
が発作起始部であった 4 例は発作頻度の高い側の焦点切除を施行した。
【結果】発作予後は 16 例中 6 例で発作消失、9 例で改善、1 例で不変であった。神経脱落症状
の合併症は 1 例も認めていない。
【結論】発作消失率は典型的側頭葉てんかんに比べると低いが 16 例中 15 例で改善しており、
非典型的側頭葉てんかんについても積極的な外科治療が望まれる。代表例を提示し、文献的考
察を加える。
6
開口合成法を用いた脳磁図(SAM)による言語優位半球同定
大阪大学大学院神経機能制御外科学講座
平田 雅之、加藤 天美、齋藤 洋一、谷口 理章、二宮 宏智、押野 悟、馬場 貴仁、吉峰 俊樹
【目的】我々は以前より開口合成法を用いた脳磁図(SAM)により言語優位半球の同定を試みて
きた。今回、より定量的な評価のため laterality index を導入し、Wada test の結果と比較した。
【方法】対象は Wada test を施行した 14-60 歳の脳外科患者 20 名(脳腫瘍 6、てんかん 11、血
管障害 3)。平仮名 3 文字有意味単語を 3 秒間提示する黙読課題を 100 単語について施行し、
SAM を用いて周波数帯域別に電流密度変化の Student t 値の 3 次元分布を求めた。周波数帯域
別に、有意な電流密度変化の得られた領域とこれと対側領域との Student t 値の差から laterality
index を算出し、これを Wada test の結果と比較した。また 1 例では硬膜下電極刺激により言語機
能局在を調べ、SAM の結果と比較した。
【結果】SAM 解析では鳥距溝周囲、中前頭回背外側部、下前頭回三角部・弁蓋部、後頭側頭
葉底面、角回、中上側頭回後部に電流密度変化を認めた。変化を認めた各領域で周波数帯域別
に laterality index を算出したところ、25-50Hz、13-25Hz の脱同期の中前頭回背外側部、下前頭回
三角部・弁蓋部の laterality index は 19 例で Wada test の結果と合致した。また、硬膜下電極刺激
と比較した症例では、課された言語課題が異なるものの、その局在は高い一致を示した。
【考察】中・下前頭回における 25-50Hz、13-25Hz の脱同期の laterality により言語優位半球を
同定できると考えられた。今後は硬膜下電極刺激との比較についても症例を増やして行きたい。
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術前評価における近赤外線脳機能マッピング(NIRS)---言語優位半球判定に際しての解
析法の工夫--
東京警察病院脳神経外科
磯尾 綾子、渡辺 英寿、真柳 佳昭
てんかんの術前評価には言語優位半球の決定が欠かせず、アミタールテストに替わって NIRS は
その有用性が注目され、普及しつつある方法のひとつである。我々の施設ではアミタールテストと
比較できた 32 例のうち 20 例で言語優位半球の側方性の完全な一致をみとめ、特異度(86.2%)、
偽陰性率(3.85%)、正確度(84.4%)であり、検査として十分な診断能力を有すると考えられた。一方、
NIRS の短所のひとつとして実際のデータ解釈が症例によっては難しいことがある点が挙げられる。
我々は近年導入された主成分分析がデータ解釈にどのように寄与できるかを調べた。(方法)言語
タスク下での NIRS とアミタールテスト(AMT)の双方を行った 21 例を対象に(1)目視法(2) raw data
から言語タスクと time-lock した部分で laterality index を求める方法(3)主成分分析により raw data
から主成分を抽出後言語タスクと time-lock した成分から laterality index を求める方法の 3 つの
方法を用いて AMT の結果と比較した。(結果)21 例中 19 例で NIRS で良好な反応が得られ 19 例
中 16 例で目視法の結果が AMT と一致した。目視法、方法 3、AMT が一致したが方法 2 では逆の
結果であった例が 2 例あった。目視法で判定困難な例が 1 例あったが、この例では方法 2 では
AMT と逆、方法 3 では AMT と一致し、主成分分析が有用であった。(結論)NIRS のデータは慣れ
た判定者が波形、タスクとの time-lock、分布等を目視で総合的に判断するのが最も妥当な解釈
になると考えられた。しかし主成分分析等の導入で定量解析も信頼性を向上させており自動解析
の可能性も期待される。
8
皮質電気刺激による言語野の同定
奈良県立奈良病院 救命救急センター(1)、奈良県立医科大学 脳神経外科(2)
星田 徹(1)、榊 寿右(2)
【目的】慢性頭蓋内電極を用いて、もしくは術中覚醒下に皮質部位を電気刺激し言語野を同定
した。てんかん患者における言語野の特徴について述べる。
【対象】51 例に皮質電気刺激による脳機能マッピングを施行した。言語機能を評価したのは 10
∼57 歳、平均 29 歳の 33 例であった。優位半球側の言語野は 30 例、非優位半球側でも 3 例に言
語野を同定した。
【方法】電気刺激の条件は 0.2msec、50Hz、1-10mA の極性が交代する矩形波で、刺激には
Ojemann Cortical Stimulator を用いた。陽性運動野や陰性運動野と厳密に区別した後に、6 種類
の言語課題(自発言語、物品呼称、聴覚性理解、反応性呼称、音読、復唱)を用いた。検査中に
脳波ビデオモニタリングを行い、刺激後に後発射が出現しないことを確認した。
【結果】Broca 野や Wernicke 野よりも広い範囲に言語野が存在するため、中心溝よりも前方に
存在する言語野を前部言語野、後方に存在する場合を後部言語野と表現している。前部言語野
を同定した 19 例中 8 例はシルビウス裂直上から存在し、11 例(58%)はシルビウス裂から少なくと
も 1cm 以上離れた上方に存在した。優位側上前頭回の 3 例に言語野を確認した。後部言語野は
26 例で、上側頭回に 21 例(81%)、下側頭回に 10 例(38%)の言語野を同定した。中心溝より前方
の側頭葉先端に存在する言語野は 26 例中 10 例(38%)であった。言語非優位側の 3 例で側頭部
言語野を確認し、2 例は上側頭回、1 例は下側頭回に存在した。
従来 Broca 野や Wernicke 野と呼ばれる部位であっても、言語野を正確に同定することにより 3 例
で焦点部位の切除が可能になった。また、術中覚醒下に言語機能を同定した 1 例で、以前に施行
した慢性頭蓋内電極による脳機能マッピングと全く同様の結果であることを確認した。
【結論】言語機能評価は解剖学的指標のみでは不十分であり、特に eloquent area 近傍であれ
ば、術前もしくは術中に各個人の脳機能を正確に評価し、裁断的切除法を選択することが重要で
ある。
9
言語優位半球は何で決めるか?
―術前評価における機能的 MRI の有用性と問題点―
広南病院脳神経外科、東北大学高次機能障害学
社本 博、鈴木 匡子、中里 信和
【目的】言語優位半球推定のための術前検査として従来用いられてきたアミタールテスト(AT)と
近年普及した機能的 MRI(fMRI)検査結果の比較を行い,fMRI の有用性を検討し,さらに硬膜下電
極を留置した症例では言語機能マッピング(ECoGM)と fMRI の結果を比較し,有用性に加え,問題
点・今後の課題を検討した.
【対象・方法】術前に fMRI 検査を行った 46 例(女性 19 例,男性 27 例,平均年齢 29.7 歳,難治
性てんかん 39 例,AVM6 例,脳腫瘍 1 例)を対象とした.
AT+fMRI 施行群は 22 例(+ECoGM 9 例含),fMRI 施行群は 24 例(+ECoGM4 例含)であった.AT
は両側内頸動脈で行い,ECoGM はてんかん焦点側 (2 例は両側)で行った.fMRI は GE 社製
SIGNA 1.5T を用い,言語課題は語想起,しりとりを用い,解析は相関係数法(3 例)と SPM99(43
例)を用いた.
【結果】AT+fMRI 施行群 22 例中 20 例で言語機能の側方性が一致(左側 13 例,右側 4 例,両
側 3 例),1 例で解離 (AT 左側,fMRI 右側),1 例は AT で結果が得られず,fMRI で側方性を推
定した(左側). このうち ECoGM 施行群では,AT+fMRI で一側言語優位だった 5 例全例(左 4 例,
右 1 例)で一側,両側だった 3 例中 1 例で両側に言語野が同定されたが,2 例は留置側に言語野
は同定されなかった. fMRI 施行群は左側 18 例,右側 0 例,両側 4 例,解析不能 2 例であり,こ
のうち ECoGM 施行群の 4 例中 2 例は一側で一致したが(左側),2 例は fMRI で両側性を呈したも
のの,留置側に言語野は同定されなかった.
【結語】fMRI の結果は AT とほぼ一致,ECoGM とも概ね一致しており,術前検査として言語機能
の側方性推定には有効であるが,解析結果の解釈・客観的評価に注意が必要であり,検出感度
向上のために言語特異的賦活を引き出せる課題および解析方法導入が必須である.
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アミタール輸入・使用に関する諸問題
第 26 回日本てんかん外科学会会長 渡辺英寿
本学会を開催するにあたり、多くの先生方よりアミタールの製造中止とその後の対策について当
学会でも検討してほしいとの要請を受けました。このため、アミタール代替法についてのシンポジ
ウムを企画するとともに、輸入使用の道がないかを検討しました。
わが国でのアミタール製造中止の経緯:
アミタールは薬事法 GMP の変更となった。
米国での状況:
Eli Lilly がやはりアミタール製造を中止し、米国内でも供給が危機に瀕している。
FDA は Ranbaxy という会社で 2003 年 8 月より製造販売できるようアレンジしたという情報が、
American Epilepsy Society から米国精神科医には通達されている模様。
以上のことから、輸入して使うという可能性は存在する。そこで、輸入して使うまでの方法を検討し
た。以下は、渡辺が東大脳神経外科川合謙介講師とともに、厚生労働省の下記の方と面談して
取得した情報である。
厚生労働省 厚生科学科:迫井正深、医薬品食品局麻薬対策課:野澤勇一、山本順二、医政局
研究開発振興課:廣田光恵、
輸入に関して:
アミタールは麻薬扱いのため、「麻薬及び向精神薬取締法」上の扱いとなるので「厚生労働省 地
方厚生局 麻薬取締部」の管轄下となる。向精神薬試験研究施設(麻薬及び向精神薬取締法の
免許基準に適合した者が登録されている施設が申請できる)の設置者が上記 麻薬取締部に申
請すれば輸入許可が得られる。向精神薬試験研究施設の間で共同研究契約を結べば施設間で
の譲り渡しは可能らしい(各地方の麻薬取締部に詳細を問い合わせる必要あり)。その他の輸入
許可申請は不要である。
臨床使用に当たって:
未承認薬として扱われる(イソミタールソーダであれば何でもよいわけではなく、あくまでも商品と
しての“アミタール”が薬事承認されているのみである)。
そのため、これを使用した場合はその入院中のすべての経費が自由診療として扱われる。
血管撮影+アミタールテストのみの入院・退院を切り離して手術などは別個に入院すれば実質的
にはアミタールテストの部分のみを自由診療とすることは可能であるが、間に置くべき日数など検
討事項は多い。詳細は検討を要す。
上記関門をパスできても、アミタールを使用したことを申請しないでその他を保険請求すると違反
となるので、当学会からもくれぐれも慎重な対応をお願いします。
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高次脳機能の偏在と局在
昭和大学 神経内科
河村 満
ヒトの大脳で遂行される高次機能に関して、偏在(または側性化、lateralization)と局在(または
定位、localization)という概念がある。前者は左右半球の機能の不対称が成立する過程を意味し、
例えば利き手が決まる過程である。言語機能は左、行為も左、しかし視空間認知は右という高次
脳機能偏在の原則もよく知られている。後者は大脳機能と各皮質部位の相関を指し、中心溝より
前の大脳前方部分が基本的には運動脳であり、後ろの後方部分が感覚脳であるといったことで
ある。ヒトの大脳高次機能の発達は、偏在と局在の成立過程である。偏在と局在は系統発生的な
由来を持ち、遺伝的に定められており、発生の進行と共に実現する。確かに左利きには家族性が
あり、内的な生物学的素因が大脳機能発達に大きく関与しているということは否定しにくく、考え
やすい。
しかし大脳機能発達には同時に、環境や学習といった外的要因がかかわっていることも想像に
難くない。本講演では、言語、行為、方向感覚などの障害を呈したヒトの大脳病変例を検討するこ
とから、高次脳機能の偏在( lateralization )と局在( localization )の発達について考察する。
言語については、交叉性失語と大脳機能の偏在について考察し、偏在の逆転( reversed
laterality )という新しい概念を紹介する。言語機能の偏在には生物学的素因がかかわっている
可能性が提唱されている。行為については、前頭葉性行為障害と手の機能の局在について検討
し、大脳機能の前後モデルを示す。手の機能の前頭葉局在には環境要因が関係していることが
示唆される。方向感覚については、タクシーの運転手の道順認知について検討し、専門技術の局
在について考察する。学習によって専門技術に関する偏在・局在の脳部位が変化する可能性が
ある。
これらは大脳機能偏在と局在の決定に、生物学的素因、環境、学習の3つの要因が複雑に絡
み合っていることを示している。
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NIRS はいったい脳活動の何を見ているのか?:
ヘモダイナミック・ブリッジ理論による理解
財団法人濱野生命科学研究財団、 小川脳機能研究所
加藤 俊徳
脳活動を計測する指標として、脳の電気活動や脳血流代謝などが利用されてきた。近赤外分光
法(NIRS)を利用した脳活動の計測は、患者でも、ベッドサイドで計測が可能なことから、およそ10
年の間に世界中で、新しい脳活動計測装置を生み出し、応用されるようになった。しかし、この計
測法は、光技術の上でも発展途上であり、計測パラメータの生理的理解が完成したわけではない。
PET, MRI などの計測法と、どのように NIRS の計測パラメータが結びついているのか理解を深め
ていくことは、今後の応用性と計測精度の向上につながると思われる。例えば、1cmの立方体の
脳実質を PET, T2*強調-fMRI, NIRS、脳波(脳磁計)で同時計測したとき、それぞれの計測データは、
どのような領域からえられているのだろうか?PET は、毛細血管外の組織からの情報である。T2*
強調-fMRI は、1cmの立方体の中のもっとも太い静脈の信号に依存する。超高磁場の MRI で高
解像度にしても最も直径の太い静脈血管に信号が依存してしまうので、単純に統計を強くすると
信号の強い静脈由来の領域を抽出し、毛細血管由来の信号を抽出することは困難である。NIRS
は、T2*強調-fMRI とは全く正反対に、太い静脈では、光が吸収されてしまうために毛細血管由来
の信号が検出されやすい。PET を用いた方法では、ミリセコンドオーダーの時間変化をモニターす
ることは困難であるために、電気活動とより相関して、毛細血管の代謝循環を計測できるのは,
NIRS である。また、NIRS は、頭表から情報を取得しているために空間分解能が低いと考えられて
いる。しかし、PET や T2*強調-fMRI の画像解析で1ピクセル約3mmの解像度で、4ピクセル以上
を有意とするならば、おおよそ1cm平方の空間選択性において、NIRS と優劣はつけがたい。
T2*強調-fMRI によって常磁性体還元型 Hb の変化を計測するとした仮説は、NIRS の汎用化によ
っていまや根拠に乏しくなっている。脳の NIRS のみならず筋肉の NIRS の結果は、そのほとんど
が T2*強調-fMRI の信号が、還元型 Hb の変化とは相関しない結果を導き出している。むしろ、逆
に信号を減少に導くとされた総Hbと正相関している。この事実にそぐわない従来の仮説の根拠は、
どこからきたのであろうか?従来の考え方は、1932 年以来のポーリングらの記述に基づいて、2
つのヘモグロビンの物性がそのまま生体内でも当てはまると信じて、推測を現実そのものである
かのように in vivo においても反磁性体の酸化型 Hb の関与を無視できるとする仮説から導かれて
いる。しかし、常磁性体還元型 Hb と反磁性体の酸化型 Hb の関係が、{in vivo では成立してない}
とすれば、生物物理モデルの出発点が誤りで、酸化型 Hb の関与や脳微小循環によるヘマトクリッ
トの影響を仮説から除外する理由がなくなる。そして、従来の仮説が、より生理的なヘモダイナミッ
ク・ブリッジ理論によって否定される。物性イコール生理学とする極端な仮説に無理があったので
あり、物性学イコール生理学にはならないと考えればよい。このように NIRS による脳活動の生理
学的理解は、ますます重要になっている。
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てんかん外科の合併症
東京警察病院脳神経外科
長堀 幸弘、 渡辺 英寿、 真柳 佳昭
【目的】てんかん外科に伴う手術合併症、術後の記憶障害及び精神障害について考察する。
【対象と方法】1978 年から 2002 年まで、難治性てんかん患者で外科的治療を目的として当科に
入院し精査を行った 202 例を retrospective に検討する。
【結果】Ⅰ.頭蓋内電極設置術に関しては、定位手術により深部電極を挿入した患者が述べ 95
人、開頭手術にて硬膜下電極を設置した患者が述べ 52 人存在した。深部電極挿入に伴う合併症
は脳出血 3 例(3.2%)であったが、硬膜下電極設置に伴う合併症は感染症 3 例、硬膜下血腫 1 例、
脳挫傷 1 例(9.6%)であった。Ⅱ.治療手術は合計計 151 例(側頭葉切除術 106 例、新皮質焦点切
除術 29 例、脳梁離断術 13 例、MST3 例)であり、そのうち 120 例(79.5%)で class1、2 の結果が得
られた。一方、器質的合併症は、脳梗塞 3 例、視野障害 3 例、脳出血 1 例、動眼神経麻痺 1 例、
硬膜外膿瘍 1 例の合計 9 例(6.0%)であった。Ⅲ.側頭葉てんかん患者に対する術後記憶に関して
は、術前後で WMSR を比較した結果、言語優位側切除群では差が認められなかったが、言語非
優位側切除群では、むしろ術後の言語性 MQ の有意な上昇を認めた。
Ⅳ.術後、精神障害を生じた患者は 151 例中 15 例( 9.9% )で、そのうち 7 例に改善が認められた。
【結論】頭蓋内電極留置も含めたてんかん外科手術に伴う器質的な合併症は 5.7%であったが、
全例 ADL の自立が得られている。術後記憶に関しては、有意な低下は認めなかった。術後の精
神障害は約 50%で改善が得られている。
14
術後の精神医学的問題
国立療養所静岡神経医療センター(てんかんセンター)
井上 有史、三原 忠紘
国立療養所静岡神経医療センターで切除外科治療を行った部分てんかん症例について、精神病
性障害、感情障害等の精神医学的評価を次の基準で行った。1群:術前障害が消失、2群:術前
障害が改善、3群:術前後で変化なし、4群:術前障害が悪化、5群:術後に出現。
対象は、現在年齢 16 歳以上、IQ50 以上、術後2年以上が経過した 412 例で、切除部位は側頭葉
331、頂頭葉 8、前頭葉 45、後頭葉 14、複数の脳葉 14 であった。現在年齢 34.7 歳、手術時年齢
26.6 歳、発症年齢 10.7 歳、術後観察 7.7 年(2-19)、術前観察 4.3 年(0-23)、左切除 207、右切除
205、IQ 平均 79、男 239、女 173 であった。
精神病状態に関しては、1群 11 例、2群 11 例、3群 20 例、4群6例で、12 例は術前術後に
episodic に反復し、発作、薬物、環境・心因等により誘発されていた。25 例では慢性の経過をとっ
ていた。5群は 10 例で、発作で誘発された2例をのぞけば術後の発作経過は良好であった。5例
は慢性の経過をとった。
気分障害では、1群4例、2群 2 例、3群 6 例、4群はなく、5 群は 24 例で、このうち術直後に軽度
のものを含め 21 例でみられ、3例で術後数ヶ月してから抑鬱症状がみられた。
以上の結果を、評価法の問題点等にも触れながら詳論する。
15
言語性脳機能温存、改善のための難治性側頭葉てんかん(TLE)の手術
京都大学 脳神経外科(1) 京都大学神経内科(2) 国立循環器病センター 脳神経外科(3)
多喜 純也(1)、宮本 享(3)、三國 信啓(1)、高橋 淳(1)、池田 昭夫(2)、橋本 信夫(1)
【目的】TLE における詳細な高次脳機能検査と手術前後のその変化を検討することによって機
能温存、改善のための術式を明らかにする。
【方法】 TLE 症例に対して術前、術後(1,3,6,12 ヵ月後)に WMS-R、WAB、Boston naming
test など(その他 MMSE、三宅式記名力テスト、Rey 聴覚的言語学習テスト、Benton visual
retention test)を施行した。対象は平成 13 年 12 月から平成 15 年 4 月までに当科にて手術を行っ
た難治性 TLE 9 症例(MTLE 7 例、脳腫瘍 2 例)。男性 2 例、女性 7 例でいずれも右利きであった。
年齢 23−38 歳、痙攣初発から手術までの経過年数は 9−30 年であった。MRI、FDG-PET、長時
間ビデオ脳波モニタリングを行い手術適応を決定した。Wada test にて言語優位半球は全例で左
であり、優位側手術(6 例)では慢性硬膜下電極を留置し、発作焦点の同定と言語機能マッピング
を行い二期的に焦点切除を行った。手術は側頭下到達法にて collateral sulcus より側脳室下角に
至り海馬切除術を行った。術中 ECoG にて棘波の頻出する部位に対しては言語機能を認めない
部位のみ皮質切除を追加した。
【結果】術後平均追跡期間は 9 ヶ月。術後発作コントロールは 6 例で発作消失(その内 3 例では
前兆も消失)、残り 3 例でも発作の頻度は 50-90%減少した。神経学的所見、言語機能において特
に悪化を認めた症例はなかった。WMS-R にて言語性記憶、遅延再生において術直後から有意な
改善を認め、優位側手術でも同様の改善傾向を認めた。
【結論】優位側手術においても言語機能マッピングを行うことで言語機能温存が可能であり、術
後早期からの言語性記憶の改善を達成することができる。
16
側頭葉切除術後の視野障害例における視放線のテンソルイメージ
奈良県立医科大学 放射線科(1)、東大阪市立総合病院 放射線科(2)、
奈良県立救命救急センター(3)、奈良県立医科大学 脳神経外科(4)
田岡 俊昭(1)、中川 裕之(1)、岩崎 聖(2)、坂本 雅彦(1)、福住 明夫(1)、廣橋 伸治(1)、
吉川 公彦(1)、星田 徹(3)、榊 寿右(4)
【目的】側頭葉てんかんに対する側頭葉切除術は側頭葉内の視放線(Meyer's loop)の一部を切
断することにより、術後に視野障害が出現することがある。側頭葉切除術症例の視放線のテンソ
ル画像を撮像し、視野障害と視放線の障害の関連について検討した。
【対象と方法】対象は側頭葉てんかんに対して側頭葉切除術が施行された 6 例であり、視野障
害の程度は手術側眼の手術反対側の上 1/4 視野のうち、内側の扇形領域(medial sector)と外側
の扇形領域(lateral sector)の障害に基づいて分類した。テンソル画像(EPI 法,b=3000,6 軸エンコー
ド)は 1.5TMR 装置を用いて取得した。画像解析ソフト(Dr.View Linux、旭化成情報システム)を用い
て 患 側 と 健 側 の 視 放 線 の FA(fractional anisotropy) 値 を 測 定 し て 検 討 し た 。 ま た 視 放 線 の
tractography
を 東 京 大 学 の 増 谷 ら の 開 発 し た ソ フ ト ウ ェ ア 、 d TV
ver1.3(http://www.ut-radiology.umin.jp/people/masutani/dTV.htm)を用いて作成し、Meyer's loop
の描出の程度を検討した。
【結果】6 例中、Medial sector が中等度に障害され lateral sector の障害のなかった群(a 群)が 2
例、medial が完全に障害され lateral に中等度の障害がみられた群(b 群)が 2 例、medial、lateral
ともに完全に障害された群(c 群)が 2 例であった。患側の FA 値の平均は a+b 群が 0.44、c 群が
0.38 であり、a+b 群と c 群の間に有意差(p<0.05)がみられた。Tractography の検討では、a 群で 2
例とも Meyer's loop の描出が確認できた。B 群では 1 例で不完全な描出がみられ、もう 1 例では
描出不可能であった。C 群では全例で描出不可能であった。
【結論】側頭葉切除術後の視放線は健側と比較して、FA 値の低下がみられ、低下の程度は半
盲の程度との相関が示唆された。また tractography により術後の Meyer's loop の状態が観察可
能と考えられた。
17
新皮質焦点の術後症状
東京都立神経病院 脳神経外科
川合 謙介、清水 弘之、須永 茂樹
新皮質焦点に対する外科的治療として、切除可能領域に対しては焦点切除を、広範
囲または多脳葉にまたがる領域に対しては線維離断、critical area に対しては MST を
適用した。新皮質焦点の術後症状について、我々の経 験を主に文献的考察を交えて
解析した。
前頭前野に対する一側の広汎な焦点切除または前頭前野離断術では前頭葉 機能検
査の低下をきたさなかった。前帯状回領域や眼窩面など前頭葉辺縁系領域 は両側病
変により情動障害出現の可能性が知られているが、自験例では両側眼窩面 の選択的
切除症例では術後症状の出現は見られなかった。運動前野および補足運動野 の焦点
切除後の運動障害は一過性である。前頭葉内側背外側面では中心前回直前までの切除 が可
能だが、間裂面では切除の角度や架橋静脈の存在により最後端までの切除は困難
なことが多い。優位半球の運動前野下外側の焦点には原則的に MST を用いている。
ローランド野顔面領域の切除では永続的障害の遺残はなく、Montreal の報告では術
前 mapping・術中刺激により優位半球切除でも障害は出現していない。我々は両側優
位例で MST 後の血腫により永続的な言語障害が遺残した症 例を経験した。上下肢領域
に対する MST では血管閉塞や血腫の出現がない限り運動障害は一過性であるが、下肢
の領域では、操作が困難であり文献状も後遺障害の報告が散見される。
頭頂葉・後頭葉外側面の MST または部分切除では永続的な神経学的障害を経験して
いない。後頭葉から側頭葉を含む多脳葉性てんかん原性領域に対しては、線維離断術
を適用することにより、術中出血と手術時間の短縮が可能となった。
18
側頭葉てんかん術後の精神症状
九州大学 脳神経外科
森岡 隆人、河村 忠雄、橋口 公章、佐々木 富男
側頭葉てんかんに対する前側頭葉切除(ATL)後に様々な精神症状が出現することは知られて
いる。1994 年 9 月以降 55 例の側頭葉てんかんに対して ATL を行ってきたが、術後に精神科・心
療内科的治療が必要であった精神症状を呈した 4 例を経験したので報告する。
症例 1 28 歳女性 左 ATL の 2 年後、海馬の追加切除の半年後から、側頭部の手術創に対す
る自傷行為で創が離開したままとなり、創が治癒しないのは“てんかん発作(偽発作)”で頭部を打
撲するためと装り、Munchausen 症候群と診断した(てんかん研究 20: 174-9, 2002)。
症例 2 28 歳女性 統合失調症の既往がある。右 ATL(脳外速報 8: 373-8, 1998)の術後、発作
は消失したが、結婚問題を契機に統合失調症が再燃した。精神科に入院し薬物治療を行い軽快
した。
症例 3 30 歳男性 右 ATL の術後、発作は前兆のみとなったが、半年後より就職問題を契機と
してうつ状態となった。様々な治療を試みたが 3 回の自殺未遂を経て、術後 2 年半後に自殺した。
症例 4
38 歳女性 MRI で左側頭葉先端部に腫瘍(ganglioglioma)があり、左 ATL を行った。術
後発作は消失したが、術直後よりうつ状態となった。抗うつ剤の投与で 3 カ月後には軽快した。
術後の精神症状は(1)ATL の直接的生物学的影響、(2)magical cure への期待と失望、(3)発作の
ない生活への適応困難の 3 つの側面から検討することが必要であるが(兼本)、今回の 4 症例につ
いては(3)や(2)の要素が強く、(1)の影響は少ないと思われ、術前にこれらの精神症状の出現を予
想することは困難である。
19
Functional MRI による運動野の同定
中村記念病院 脳神経外科
知禿 史郎、伊東 民雄、鷲見 佳泰、尾崎 義丸、溝渕 雅広
【目的】神経疾患症例を対象とし用いて、2 次元 MRI、MEG や術中皮質刺激から同定された中
心溝と Functional MRI (F-MRI)で同定された運動野を比較し、その有用性を検討した。
【方法】運動野近傍に器質性病変を持つてんかんを合併する神経疾患疾患 6 症例を対象として、
1.5T MRI を用いて F-MRI を施行した。1 分間の第 1-5 指のタッピングタスクを 1 セットとして、タス
クを 2 セット行い再現性についても確認した。この方法で、健側と患側の両方の手指でタスクを施
行した。タスクにより活性化された運動野を MRI 画像上に示し中心溝を推定し、2 次元 MRI、MEG
もしくは術中皮質刺激の結果から同定された中心溝と比較した。MRI 画像上の中心溝の同定と運
動野の決定の方法は、IWASAKI 等の方法に準じて行った。MRI 画像上の中心溝の同定が困難な
症例に関しては、術中の運動野電気刺激に夜同定や、MEG を用いた運動野の同定の結果と比較
を行った。
【結果】すべての症例で、運動野の同定が可能であった。6 例中 3 例に器質性病変により MRI
では運動野の同定が困難であり、2 例は MEG による運動野と比較し、1 例は術中の運動野刺激に
より同定された運動野と比較し高い相関が得られた。
【結語】F-MRI は器質性病変により同定が困難である運動野近傍腫瘍においても解剖学的な中
心溝の推定が可能であり、手術支援の手段として有効であった。
20
側頭葉前方切除術による神経心理学的変化
東北大学 高次機能障害学(1)、 広南病院 脳神経外科(2)
鈴木 匡子(1)、安部 光代(1)、社本 博(2)、岡田 和枝(1)、中里 信和(2)
【目的】側頭葉前方切除術による神経心理学的機能の変化を検討する.【対象】側頭葉前方切
除術を行った連続症例の中から VIQ80 以上の 23 人を選択した(優位半球切除群 10 人、非優位半
球切除群 13 人)。平均年齢は 27.87 歳であった。両群間で年齢、発症年齢、VIQ に有意な差はな
かった。
【方法】術前と術後(約 1 ヵ月後)に、WAIS-R、WMS-R、Rey 聴覚性言語学習検査(RAVLT)、Rey
図形検査、100 単語呼称、語列挙(動物、語頭音)を行った。語頭音の語列挙では(ふ、あ、に)の合
計の産生数を、RAVLT ではリスト A の 5 回の総再生数用いた。
【結果】RAVLT(p<.05)、語列挙(カテゴリー)(p<.01)、語列挙(語頭音)(p<.01)において検査時期と
群の交互作用を認め、優位半球切除群は術後の成績が有意に低下していた。WMS-R の言語性
MQ 及び論理記憶、Rey 図形では両群とも術後に有意な改善がみられた。WAIS-R、100 単語呼称、
言語性対連合、RAVLT の干渉後再生、再認は、両群とも術前後で有意差はなかった。
【結論】両群とも呼称、一般的知能、記憶は術前後で不変または改善を示すが、優位半球切除
群では術後に RAVLT と語列挙の低下がみられた。RAVLT の干渉後再生と再認の成績が変化せ
ず、WMS-R の言語性 MQ は改善したことから、術後の RAVLT 総再生数の低下は記憶そのもの
の障害ではないと考えられた。RAVLT 再生と語列挙に共通する過程として,自ら一定の方略を用
いて多数の単語を検索する機能が推定され、言語優位半球側頭葉前方がこの機能に重要である
ことが示唆された。
21
言語機能局在の非侵襲的画像計測の glioma の外科治療への応用
東京医科歯科大学 脳神経外科(1)、東京都老人総合研究所 ポジトロン医学研究施設(2)
成相 直(1)、前原 健寿(1)、太田 禎久(1)、田中 洋次(1)、大野 喜久郎 (1)、石渡 喜一(1)、
石井 賢二 (2)
【目的】 非侵襲的画像計測法による言語機能局在の描出は脳機能の研究に大きく貢献してい
るが、個々の患者の治療に用いる際の有用性と限界に関してはまだ検証すべき点が多い。
Glioma 患者の術前に PET を用いて行った言語賦活試験の結果を検証した。方法 正常被検者で
標準化された言語課題を患者に対し用いた。PET による H215O 静注による血流測定下に単語の
復唱を 10 名、動詞生成課題を 6 名、物品呼称課題を 4 名に行い、安静時と比較した統計学的標
準化を SPM99 を用いて行った。11 名の言語野近傍 glioma 患者の術前に動詞生成課題あるいは
単語復唱課題による PET 言語賦活試験を行ない SPM99 と Dr.View を用いた解析にて、有意な言
語反応部位を患者自身の脳表三次元画像上で表現した。4 名で脳表電気刺激による言語抑制試
験の結果と対比検討した。
【結果】 1)正常被検者群での標準化によって全ての言語課題で左半球の有意な言語反応が
示されるが、個々の患者ではこれらの部位以外でも反応が見られた。2)硬膜下電極での言語反
応が得られる部位は正常者で共通に賦活される反応部位に一致していた。3)複数の言語課題で
の共通の賦活部分で、硬膜下電極刺激による強い反応が得られた。4)特定の課題で賦活される
部位と同じ課題で抑制を受ける部位には discrepancy があった。5)PET による言語機能局在の画
像計測は特に広範囲に分布するとされる側頭葉の言語機能の中から最も反応の強い部位を同
定するのに有用であった。
【結論】 画像計測による言語機能 mapping を個々の glioma 患者の術前に用いる際には注意す
べき点も多いが、正常者で標準化された複数の言語課題を組み合わせて用いることで言語機能
に不可欠な保護すべき脳回を同定する補助手段として有効に活用できると考えた。
22
前側頭葉切除術後の記憶障害について
市立堺病院 脳神経外科(1)、 大阪大学 脳神経外科(2) 同小児科(3)、同精神科(4)
二宮 宏智(1,2)、加藤 天美(2)、今井 克美(3)、池尻 義隆(4)、平田 雅之(2)、斎藤 洋一(2)、
若山 暁(1)、吉峰 俊樹(1)
【目的】前側頭葉切除術を施行した症例について,WMS-R による記憶指標の成績と手術側,年
齢を比較検討する.
【方法】1997 年 11 月から 2003 年 3 月までに,前側頭葉切除術を施行した症例のうち,WMS-R
にて術前術後の評価をしえた 12 例(男性 4 人,女性 8 人,平均年齢 27 歳,側頭葉てんかん 10
例,脳腫瘍 2 例)について,言語性記憶,視覚性記憶,一般的記憶,注意,遅延再生の各指標の
変化を分析した.
【結果】手術側が右側の 2 例では,言語性記憶,視覚性記憶,一般的記憶いずれも指標は上昇
した.1 例で,注意力で 3 点減少,また 1 例で遅延再生が 5 点減少を示した.左側の 10 例では,
言語性記憶の上昇が,6 例(平均 12 点,平均 16 歳),減少が 4 例(平均 20 点,平均 41 歳).視
覚性記憶の上昇は,6 例(平均 13 点,平均 18 歳),減少が 4 例(平均 14 点,平均 38 歳),一般
的記憶の上昇は,5 例(平均 13 点,平均 17 歳),減少が 5 例(平均 17 点,35 歳).言語または視
覚のいずれかで指標の減少した 5 例は,全例一般的記憶の指標も低下した.注意力の上昇は,6
例(平均 11 点,平均 22 歳),減少が 4 例(平均 14 点,平均 31 歳).遅延再生の上昇は,3 例(平
均 15 点,平均 25 歳),減少が 7 例(平均 17 点,平均 26 点).
【結論】前側頭葉切除術では,右側に比し,左側の手術時に記憶の障害をともなう傾向があっ
た.また,年齢が高くなるほど,言語性記憶,視覚性記憶,一般的記憶のいずれも障害をともなう
傾向があった.また,遅延再生の低下をともなう傾向があり,その年齢差はみられなかった.今後
症例数を重ね,検討する必要があると考えられた.
23
Sessile type 視床下部過誤腫の焼灼術
大阪大学 脳神経外科(1)、 小児科(2)
加藤 天美(1)、二宮 宏智(1)、藤本 康倫(1)、齋藤 洋一(1)、谷口 理章(1)、平田 雅之(1)、
今井 克美(2)、馬場 貴仁(1)
【目的】視床下部過誤腫は生下時よりの笑い発作を主とする難治性てんかん、性格変化、重度
知能障害、思春期早発症などをきたし、難治である。侵襲を最小限にとどめ、てんかん源性領域
を視床下部より遮断する目的で焼灼術を応用した。
【症例 1】13 歳男児。1 歳時に 1/4 の部分摘出術、9 歳時γ-knife 治療を受けたが、てんかん、
知能発達遅延、性格変化が進行した。過誤腫は MRI で T2 高信号の sessile type であり、定位的
焼灼術を計画した。まず術前に MRI より腫瘍を3次元再構成し、脳実質内を通り、周囲の重要組
織を損傷せず腫瘍内部の焼灼体積が最大となるよう電極の進路、焼灼部位を決定した。術前計
画での MRI と定位フレームを装着して撮影した CT とを術直前融合合成し、左右計 5 本の穿刺経
路より腫瘍内に 13 箇所のターゲットを設け焼灼した。術後 MRI で計画通りの焼灼巣が確認できた。
笑い発作は消失し、攻撃的性格が著明に改善した。
【症例 2】25 歳男子。重度知能障害。Sessile type であり、2 歳時に約 80%の腫瘍摘出術、放射
線治療施行。過誤腫は第3脳室底に板状に残存しており、定位的焼灼術は技術的に困難なため、
開頭による直視下焼灼術を計画した。Transcallosal transsubchroidal 法で到達した第3脳室底の
形態と、手術ナビゲータの誘導をもとに過誤腫の範囲を同定し、凝固電極を挿入して焼灼した。術
後、明かな合併症はなく、大発作の頻度が著しく減少した。
【結論】Sessile type 視床下部過誤腫に対し定位法ならびに開頭下の焼灼術は安全に施行で
き良好な結果がえられた。
24
島・弁蓋部てんかんの手術
奈良県立奈良病院 救命救急センター(1)、奈良県立医科大学 脳神経外科(2)
星田 徹(1)、金 永進(2)、中瀬 裕之(2)、榊 寿右(2)
【目的】島弁蓋部てんかんの臨床症状、術前検査所見、手術予後は未だ不明な点が多い。わ
れわれが経験した 3 例から、島・弁蓋部てんかんの特徴と手術について述べる。
【症例】症例 1、男性。22 歳から幻聴、反応停止から左方を向いて硬直し全身発作へと進展する
発作で発症。27 歳時に右側頭外側皮質切除術を施行。術後 5 年で発作は消失している。症例 2、
男児。5 歳から左手のしびれ、耳鳴の前兆を伴い、言語停止・流涎・左上肢硬直発作から左へ回
旋し二次性全般化発作を来たした。10 歳時に右前頭側頭皮質切除術を施行。術後発作は持続す
るため 12 歳時に前頭弁蓋と島皮質切除を行った。術後 8 ヵ月間発作は消失している。症例 3、女
性。8 歳時に左もしくは右手のしびれや耳鳴の後に、左上下肢硬直や反応性低下、さらに二次性
全般化発作で発症。19 歳時に他院で右縁上回の焦点切除術を受けた。発作持続のため 29 歳時
に再度電極留置術を行う。両側島・弁蓋部から発作が出現し、右島・弁蓋部の焦点切除術を施行
した。術後 2 ヶ月の現在発作は消失している。
【特徴】運動もしくは知覚症状に耳鳴を伴う前兆と、その後にけいれん発作を伴い全般化する。
術前脳波は 2 例で明確な spike を認めず、発作時脳波で全例側頭部に発作波の出現を認めた。3
例とも MRI で異常なく SPECT や PET 検査で異常所見を確認した。全例で頭蓋内電極を留置した
が焦点同定は容易でなく、うち 2 例は再手術を行い良好な結果を得ている。
【結論】MR 検査で異常がなくても SPECT、PET 検査で島皮質・弁蓋部焦点が疑われる場合に
は、侵襲的検査も含めて積極的に焦点を同定し、島・弁蓋部皮質切除を十分に行うことが必要で
ある。
25
経シルビウス裂到達法による選択的海馬扁桃体摘出術
大阪市立大学 脳神経外科
森野 道晴、原 充弘
Transsylvian selective amygdalohippocampectomy(TSAH)は側頭葉てんかんに対し、側頭葉内側
構造を選択的に摘出する手術法である。2001 年より 3 年間に一側内側側頭葉てんかんと診断し
た 26 例に TSAH を行った。発作予後は経過観察期間(平均 12.5 ヶ月)において 23 例(88.5%)が
発作消失、2 例(7.6%)が著明な改善、1 例(3.8%)が不変と良好な結果を得ている。この手術法
の長所は前側頭葉切除による海馬扁桃体摘出術後にみられる上 1/4 の同名半盲が出現しないこ
とや焦点が優位側の場合に言語中枢を損傷する可能性が少ないこと、また側頭葉内側部が焦点
と診断した例に対しては低侵襲の焦点切除を行えることである。しかし、シルビウス裂を大きく開
放する必要があること、中大脳動脈に手術操作がおよぶこと、狭い術野で海馬周辺の神経や血
管の剥離を行わなければならないという点で手術操作が難しい。手術手技はシルビウス裂を末梢
まで大きく開放し、insula の最後下方部である inferior periinsular sulcus を確認する。この sulcus
に沿って皮質切開を約2cm 設け、脳白質を吸引除去しながら側脳室下角へ到達する。この過程
で側頭幹を一部、切断することになる。側脳室下角に到達することが時に困難であるが、海馬を
真上から観察できるため海馬采の剥離が容易となり、hippocampal fissure で海馬の導入・導出血
管の処理が行いやすいという利点がある。この手術法に必要な微小外科解剖を示しながら実際
の手術を供覧する。
26
前頭葉神経膠腫に対する拡大前頭葉切除術−てんかん手術法の応用−
大阪市立大学 脳神経外科
石黒 友也、森野 道晴、川原 慎一、露口 尚弘、一ノ瀬 努、宇田 武弘、原 充弘
【目的】神経膠腫は画像で確認できる腫瘍の主座のみでなく、周囲組織に腫瘍細胞の浸潤があ
り、この部の残存が後に局所再発の原因となる.摘出率と予後の相関は、悪性度が高い例でも肉
眼的に全摘出できた場合は有意に予後が良い.当施設では前頭葉神経膠腫に対し、てんかんの
手術で行われる前頭葉眼窩面切除を応用した拡大前頭葉切除術を行い、良好な結果を得ている
ので報告する.
【対象・方法】1999 年から拡大前頭葉切除術を行った神経膠腫 7 例を対象とした.年齢は 31 歳
から 60 歳(平均 42.5 歳)で、男性 2 例、女性 5 例であった.腫瘍の内訳は星細胞腫 3 例、乏突起
神経膠腫 2 例、乏突起星細胞腫 1 例、神経膠芽腫 1 例で、いずれも主座は右前頭葉であった.て
んかん発作は 7 例中 5 例に認めた.術前の神経学的所見は 2 例に軽度の片麻痺があり、残りの
5 例は脱落症状はなかった.画像上、7 例とも運動領野への浸潤はなかった.
手術法は術中 SEP で中心溝の確認を行い、腫瘍を含めた前頭葉を切除することを基本とした.腫
瘍の浸潤範囲により脳梁の切除や補足運動野の切除を加えた.
【結果】治療は 5 例で前頭葉切除を、残り 2 例は脳梁に浸潤を認めたため脳梁の部分切除を加
えた.脳梁部分切除を加えた 1 例で術後に自発性の低下を認めたが、他 6 例に神経症状の増悪
は認めなかった.術前にてんかん発作を認めた 5 例はいずれも、術後に発作が消失している.
【結論】前頭葉神経膠腫に対する拡大前頭葉切除術は、てんかん発作の抑制だけではなく、神
経脱落症状を来たさずに腫瘍切除が出来る有用な手術法と考える.代表症例を提示し、実際の
手術と手術手技に必要な解剖学的要点を示す.
27
Glioneuronal tumor に合併する皮質形成異常
群馬大学 脳神経外科
高橋 章夫、宮城島 孝昭、渡辺 克成、平戸 政史、齊藤 延人
【目的】難治の局在関連てんかんをきたした glioneuronal tumor のてんかん原性についてはまだ
議論の多いところである。そこで発作制御を目的に切除術を行った症例について検討した。
【 方 法 】 対 象 は 1995-2003 年 に て ん か ん 外 科 手 術 を 施 行 し た 8 例 ( ganglioglioma 2,
dysembryoplastic neuroepithelial tumor 3, gangliocytoma 1, pleomorphic xanthoastrocytoma 1、
central neurocytoma1)。いずれもMR画像で描出される病巣と、慢性硬膜下電極/術中皮質脳波
記録で推定された ictal onset zone, irritative zone を機能欠落をきたさない範囲で切除し、病理組
織学的所見、電気生理学的所見と画像所見を評価した。
【結果】6 例で腫瘍性病変の周辺皮質に ictal onset zone, irritative zone が推定され、同部位に
は grade1-2 の皮質形成異常が認められた。このうち3例は MR 画像(FLAIR)で描出される病変内
に存在すると考えられた。FDG-PET では 5 例で低集積として描出されていた。発作制御について
は Engel class 1 が 7 例、class 2 が 1 例であった。
【結論】glioneuronal tumor のてんかん原性については腫瘍に合併する形成異常病変が関与し
ている可能性があり、これらを含めて切除することが良好な発作制御を得るために必要と思われ
る。
28
失語発作を有した脳腫瘍の一手術例
横浜市立大学 脳神経外科
田邉 豊
失語発作を有した再発脳腫瘍症例に対し手術を行い、発作の消失と言語機能の改善を認めた。
症例は、37 歳男性。34 歳右手が突然動かなくなる発作が起こるようになり、複雑部分発作も起こ
るようになったため、当科で MRI を撮影し、左前頭弁蓋部に腫瘍を指摘され、腫瘍亜全摘出術を
受けた。病理は、astrocytoma grade 2 であった。術後、強直間代発作が出現したため、抗てんか
ん薬を調整したが、複雑部分発作さらには失語発作が見られるようになり、薬剤抵抗性であった。
37 歳 MRI で局所再発を認めた。再入院時 VIQ 88、PIQ 89、FIQ 88 で、軽度失語も認められた。
頭蓋内電極を留置し、ビデオ脳波モニタリングを施行し、発作焦点を同定し、続いて言語機能のマ
ッピングを行い、発語停止が得られる部位も同定した。これらの結果に基づき、腫瘍摘出術および
MST を行った。この際、さらに言語反応を確認するために、覚醒下手術を行った。術後失語発作
は消失した。病理は、astrocytoma grade 3 であったため、術後放射線治療を行った。術後 2 年が
経過したが、発作は消失し、知能、言語機能ともに改善した。
再手術例で、硬膜と脳表の癒着などがあり、頭蓋内電極留置も決して簡単とは言えなかったが、
頭蓋内電極によるてんかん焦点検索と言語マッピングを行うことによって、言語野を温存した脳腫
瘍の安全な摘出を行うことができ、てんかん発作抑制も十分な効果を挙げることができた。脳腫
瘍に限らず、失語発作を有するような症例では、fMRI などによる術前の詳細な検討のみならず、
頭蓋内電極による皮質脳波とマッピングが不可欠であろうと考えられる。
29
てんかんで発症した meningioangiomatosis の 2 例
国立病院長崎医療センター 脳神経外科(1)、病理(2)
日宇 健(1)、馬場 啓至(1)、戸田 啓介(1)、伊東 正博(2)、小野 智憲(1)、案田 岳夫(1)
【はじめに】meningioangiomatosis は稀な疾患である。我々はてんかんで発症した 2 症例の
meningioangiomatosis を経験した。これらの症例を呈示し、文献的考察を加え報告する。
【症例】症例 1 は 8 歳男児。1996 年けいれん発作にて発症した。頭部 CT 上左前頭葉皮質に一
部石灰化を伴った病変を認め、MRI 上 T2 強調画像にて低信号域を認めた。両側前頭開頭にて摘
出術を行った。病理組織所見では meningothelial cell が増殖し、Virchow-Robin space へと波及し
ており meningioangiomatosis と診断した。約 7 年経過しているが発作の出現を認めていない。 症
例 2 は11歳男児。2002 年嘔吐・腹痛発作にて発症した。MRI 上左側頭葉内側に T2 強調画像に
て低信号域を認め、同部位脳表に沿って一部造影された。発作間欠期 SPECT にて同部位の血
流低下を認めた。脳波ビデオモニタリングでは左側頭葉に棘波を認め二次性全般化も認めた。左
前側頭葉切除を行った。腫瘍は扁桃体、鈎回が主座でありそれを含めた切除を行った。病理組織
所見では表層にメラニン沈着が見られメラニン保有細胞と連続性があるため menincus の細胞由
来であり meningioangiomatosis と診断した。術後経過は良好であり約 1 年経過しているが発作の
出現を認めていない。
【結語】CT 及び MRI 所見・病理所見を中心に供覧し考察を加え報告した。
30
グリオーマ患者におけるてんかん発作
山形大学 脳神経外科
朽木 秀雄、嘉山 孝正、櫻田 香、園田 順彦、佐藤 慎哉、斎藤 伸二郎
グリオーマの初発症状や再発時症状として、てんかん発作の意味、および、初期治療終了後
の発作のコントロールについてはあまり論じられていない。今回、自験例をもとに、初期治療後の
てんかん発作のコントロール、腫瘍再発とてんかん発作頻度増加の関係につき検討した。
過去 8 年間に生検を含む手術治療を行ったテント上グリオーマ 73 例を対象とした。(1)このうち
21 例(28.8%)が腫瘍関連のてんかん発作を初発症状としていた。術後の経過観察期間中(平均
25.5 ヶ月)、てんかん発作の消失が得られているのは 14 例(66.6%)を占め、てんかん発作の再出
現をみたものは 7 例(33.3%)であった。この 7 例のてんかん発作再出現までの期間は 5∼24 ヶ月
(平均 12.3 月)であった。(2)再発 25 例中、経過観察期間(平均 15.4 月)にてんかん発作の再出
現や頻度増加を認めた症例は 5 例(20%)であり(平均術後 9 月)、 5 例全例でその後の MRI にて腫
瘍再発を認めた。
てんかん発症のグリオーマの術後のてんかん発作のコントロールは概ね良好であった。てん
かん発作の再出現や頻度の増加は、グリオーマ再発の指標としても重要であり、MRI 撮像間隔を
より短くするなどの管理が必要と考えられた。
31
Malignant rolandic epilepsy を呈した一例
東京女子医大 脳神経外科
佐藤 慎祐
今回,malignant rolandic epilepsy を呈した症例に外科治療を施行し発作が完全に消失した症
例を経験したので報告する。
【症例】2歳4ヶ月の男児。主訴は、痙攣発作。生後 5 ヶ月より痙攣発作出現。9ヶ月時に検診に
て発達の遅れを指摘。発作型は首を前方に倒れ込むという姿勢運動性失立発作で、発作回数が
1−4 回/day と頻回となり、外科的治療目的にて当科紹介入院となった。患児は片言を話す 9 ヶ月、
独歩 1 歳10ヶ月。現在約20の有意語、言語理解は 1 歳3ヶ月と発育遅延を認めた。全身の筋緊
張の低下および両下肢の痙性対麻痺を認めるが装具にて歩行は可能。脳波では右の中心∼頭
頂領域に棘波多数,ビデオ EEG で起始は右の中心から頭頂部と考えられた。CT にて右頭頂部に
高吸収域(石灰化)、MRI にて右中心溝の正中付近に T1 高,T2 で低信号域を認め,脳回構造の
異常を認めた。PET,SPECT で同部の代謝および血流の低下を認めた。脳磁図では、右中心溝近
傍で病変の外側部に多数の棘波双極子の集積を認めた。
【手術】本症例に対して,右前頭頭頂開頭,病変の広がりをナビゲーションにて確認し,中心溝
より後方に存在した頭頂葉病変(脳回異常部位)を摘出,さらに皮質下の硬い組織(石灰化)も摘
出した.摘出後,脳皮質脳波を施行周囲に MST を追加した。術後発作は完全に消失(現在術後
6 ヶ月,発作を認めていない),また痙性対麻痺も改善した。また、摘出した腫瘍の病理所見は、
cortical dysplasia を伴う gangliocytoma と診断した。
【結語】中心頭頂葉に病変を有する難治性てんかんの場合,病変の摘出によって発作の改善
が期待される。発作焦点の存在をビデオ脳波にて検討し,早急な外科治療を施行する必要があ
る。
32
難治性ローランドてんかん症例に対する治療方針
広南病院 脳神経外科
社本 博、中里 信和
【目的】16 歳以降も発作持続する難治性ローランドてんかんの治療方針を確認するため,当施
設症例の臨床的検討を行った.
【方法】対象は 10 例(年齢 16∼48 歳,発症年齢 1∼32 歳;平均 15.5 歳)で,発作型・頻度・MRI・
脳波・脳磁図所見をまとめ,治療方針・予後を検討した.
【結果】発作型は SPS 主体で, 6 例は一側あるいは両側口角,眼瞼から始まる強直・間代・強
直間代性発作,4 例は一側上肢の異常体性感覚あるいは間代性発作,5 例は高頻度に GTC に移
行した.発作頻度は 1 日 20-30 回から,1 年に 2-3 回出現する症例まであった.MRI で Roland 領
域病変 3 例,Roland 領域皮質下 heterotopia 3 例,局所脳回信号変化 2 例,脳回形成異常1例,
所見なし 1 例であった.脳波異常は前頭・側頭・中心・頭頂部に広がり,脳磁図で推定された信号
源は一側あるいは両側弁蓋部 4 例,Roland 近傍 4 例,所見なし 1 例,未検 1 例であった.外科治
療は 6 例で検討,器質病変有さない 3 例は硬膜下電極留置
33
異所性灰白質のてんかん原性焦点についての電気生理学的検討
山口大学 脳神経外科
藤井 正美、盛岡 潤、野村 貞宏、秋村 龍夫、加藤 祥一、鈴木 倫保
【目的】両側性の層状 heterotopia による難治性てんかん症例に外科治療を行い、その頭蓋内
脳波所見および皮質電気刺激より heterotopia におけるてんかん原性焦点について若干の知見
を得たので報告する。
【症例】症例は 28 才女性。4才より複雑部分発作が出現、以後多種抗てんかん薬服用しても1
日数回の意識減損発作、転倒発作、強直発作が認められた。脳波は両側性に前頭部優位(やや
左側優位)の棘徐波複合が認められた。MRI では両側大脳深部白質内に層状の heterotoopias が
認められた。また和田テストでは右側が優位半球であることが確認された。28 才時転倒発作の軽
減を目的に脳梁前半部離断術を施行したが、発作の軽減には至らなかった。しかし術後発作は
右上下肢の強直発作から始まり、棘波は左前頭中心部に限局化する傾向が認められた。そこで
離断術後3ヶ月目に硬膜下電極を左前頭頭頂葉に、深部電極を heterotopia に留置し頭蓋内脳波
を記録した。発作時脳波では、low voltage fast activity は heterotopia からではなく表層の前頭葉
皮質より出現していた。また皮質電気刺激においても heterotopia の刺激では発作が誘発されず、
脳波上焦点と思われる皮質の刺激により発作が誘発された。以上の所見より左前頭葉皮質焦点
と判断、heterotopia 及び運動野を温存し左前頭葉皮質切除術を施行した。術後発作は軽減した。
【結論】heterotopia にはてんかん原性焦点となり得ない部分が存在し、また表層の皮質にはて
んかん原性焦点となりうる部位が存在する可能性があることが示唆された。
34
乳幼児 catastrophic epilepsy の外科治療 -9症例の経験-
国立精神・神経センター武蔵病院 脳神経外科(1)、小児神経科(2)、臨床検査部(3)
仲間 秀幸(1)、新村 核(1)、金子 裕(1)、大槻 泰介(1)、須貝 研司(2)、有馬 邦正(3)
【はじめに】乳幼児の難治性てんかんは、しばしば広汎な形成異常を伴い、発作の頻発とともに
発達障害が進行し、catastrophic epilepsy と呼ばれる病態を呈する。今回、最近われわれが経験
した3歳以下の乳幼児 catastrophic epilepsy 外科治療症例9例につき報告する。
【対象・方法】2000 年 12 月から 2003 年 3 月まで、当施設において外科的治療を行った乳幼児
難治てんかん9例(男:女=6:3、手術時年齢は3ヶ月-3歳5ヶ月(平均年齢1歳5ヶ))で、術前診
断、手術法、術前術後の発作頻度、精神運動発達を検討した。
【結果】術前診断は、片側巨脳症3例、広範な皮質形成異常3例、Sturge-Weber 症候群1例、
Hemiatrophy1例、Ganglioglioma1例で、4例に機能的半球離断術、4例に広範な皮質切除術、1
例に腫瘍摘出術を施行した。術後は8例で発作消失、1例で発作頻度が著明に減少した。術前に
発達遅滞を呈していた5例は全例術後に改善を認めた。死亡例及び重篤な合併症例は経験しな
かった。
【考察・結論】乳幼児期の難治性てんかんは、頻発するてんかん発作にとともに精神運動発達
の停止及び後退が進行することから、早期の外科的治療が求められる。しかし、手術手技と周術
期管理には経験が必要であり、また小児科との治療上の連携も良好な予後を得る上で重要と考
えられる。
35
カイニン酸全身投与による辺縁系発作重積モデルラットに対する視床下核刺激の効果
名古屋大学 脳神経外科、第一病理学
臼井 直敬、梶田 泰一、前澤 聡、遠藤 乙音、竹林 成典、吉田 純
【目的】脳深部刺激療法は、切除外科が適応とならない難治てんかんに対する治療方法として
注目されており、中でも視床下核(STN)が刺激のターゲットとして有望視されている。著者らはカ
イニン酸投与による辺縁系発作重積モデルにおいて一側 STN 刺激の有効性を検証した。
【方法】脳波記録電極を両側前頭部硬膜外、両側海馬に留置、基準電極を olfactory lobe 上に
留置した。STN は、stereotactic に細胞外電気記録を行い同定した。同位置に同心円電極,(径
50um,電極間距離 200um)を留置し固定した。翌日カイニン酸を皮下投与し辺縁系発作重積を誘
発した。カイニン酸投与直後より STN 刺激を開始し慢性刺激を行った群、脳波上の発作出現時に
刺激を on とする間欠刺激群、及び刺激電極を留置しなかったコントロール群にて、カイニン酸投
与後から初回発作出現までの時間、脳波上の全般発作、及び部分発作の持続時間、臨床発作
頻度、を比較した。刺激は 130Hz, 60us、ジスキネジアを生じる閾値以下の強度で行った。
【結果】一側 STN 刺激は全般発作の持続時間を著明に減少させた。
【結論】一側の STN 刺激によって辺縁系発作の二次性全般化が抑制された。今後の臨床応用
には、STN 刺激が適応となるてんかん症候群を明らかにすることと、より効果的な刺激パラダイム
の検討が重要と考えられる。
36
側頭葉てんかん焦点診断における血管内脳波の意義と適応
京都大学 脳神経外科(1)、神経内科(2)、神戸中央市民病院 脳神経外科(3)、
国立循環器病センター 脳神経外科(4)、三重大学 脳神経外科(5)
三國 信啓(1)、池田 昭夫(2)、国枝 武治(3)、宮本 享(4)、滝 和郎(5)、橋本 信夫(1)
【目的】我々は、難治性てんかんの焦点同定を目的とした術前半侵襲的検査として血管内脳波
測定を施行してきている。頭皮上脳波、慢性硬膜下電極や深部電極などとの比較をし、さらに手
術結果を検討することにより、難治性側頭葉てんかんにおける血管内脳波の意義とその適応を
明らかにする。
【方法】難治性側頭葉てんかん12症例を対象とした。7例では発作時頭皮上脳波や MRI,
PET/SPECT, MEG 検査では焦点の側方性が不明であった。脳血管撮影と Wada test に続いて頚
部内頸静脈から両側の海綿静脈洞、上錐体静脈洞内に脳波記録用 guide wire を挿入した。平均
2 日間の血管内脳波を頭皮上脳波と、一部の症例は慢性硬膜下電極と同時記録した。
【結果】海綿静脈洞、上錐体静脈洞内脳波により片側側頭葉内側部前方あるいは後方に限局
したてんかん性放電や発作時脳波を記録でき、頭皮上脳波との比較によってその放電の伝播形
式についても推察可能であった。非侵襲的検査では焦点の側方性が不明であった7症例におい
て、5例で血管内脳波によって焦点側方性同定が可能であり、術後経過良好である。
【結論】海綿静脈洞、上錐体静脈洞内脳波と頭皮上脳波を記録検討することにより、側頭葉内
でのてんかん原性放電の始まりとその伝播形式が検索できる。深部電極、卵円孔電極、硬膜下
電極留置と比較して全身麻酔を必要とせず、静脈の血管内操作を用いて比較的簡単かつ低侵襲
的に留置できることが最大の利点である。てんかん原性の側方性決定に特に有用であり、手術適
応決定のための侵襲的検査に代わりうると考えられる。
37
難治性てんかんにおける Magnetoencephalograpy (MEG) の限界 ―主に頭蓋内脳
大阪市立大学大学院医学研究科 脳神経外科
露口 尚弘、森野 道晴、坂本 真一、石黒 友也、原 充弘
【目的】難治性てんかんにおいて、発作型、持続頭皮脳波、PET などの検査では epileptogenic
zone の同定が困難な場合が多い。そのため、時に侵襲性がある頭蓋内電極の留置が必要となる。
我々は MEG と頭蓋内電極脳波を同時記録した難治性てんかんの5例において MEG の有用性と
限界について考察した。
【症例】側頭葉てんかん(蝶形骨誘導を含めた頭皮脳波で病側の同定ができなかったもの)4例、
皮質形成異常1例。
【方法】睡眠導入剤投与後、全頭型 160 チャネル MEG にて 12 極の頭蓋内脳波を同時記録しサ
ンプリング周波数 500Hz にて 30 分の検査をおこなった。
【結果】頭蓋内電極で検出したスパイク波にたいし、同時点での MEG を計算するとダイポール
が求まったものと求まらなかったものがあった。ダイポールが計算できた例でも、MEGで明らかに
強い振幅は認めない場合があり、MEG 単独で推定するには困難であった。ダイポールが計算で
きなかった例では、MEG での振幅が強くても等磁場図で単一ダイポールのパターンは示さなかっ
た。
【考察】一般に MEG では側頭葉内側のてんかん波は検出されにくく、側頭葉外てんかんの焦点
推定に有用とされるが、我々の結果では、深部でも推定される場合や脳表でも検出できない場合
があった。異常波の強さ、大きさ、方向によって MEG の有用性が左右されるため、現時点では頭
蓋内電極脳波モニタリングは必要な検査と考える。
38
大脳皮質形成異常におけるてんかん原性の診断:ECoG vs MRI
京都大学 脳神経外科(1)、京都大学 神経内科(2)、京都大学 医療技術短期大学部(3)、
国立循環器(4)
林 直樹(1)、三國 信啓(1)、西田 南海子(1)、池田 昭夫(2)、早瀬 ヨネ子(3)、天野 殖(3)、
高橋 淳(1)、宮本 享(4)、橋本 信夫(1)
【 目 的 】 難 治 性 て ん か ん の て ん か ん 原 性 焦 点 の 一 つ に 大 脳 皮 質 形 成 異 常 ( CD;cortical
dysplasia)がある。しかしその手術適応についてはいまだ確立されたものはなく、各施設で手術適
応、手術法につきばらつきがあるのが現状である。我々は過去に当施設で行われた難治性てん
かんの手術症例につき、病理診断にて皮質形成異常を認めたものを中心に、術前 MRI 画像並び
に術後経過を検討した。
【方法】1992 年 4 月から 2003 年 3 月までの 11 年間に当施設で行われた難治性てんかんの手
術症例 82 例につき、術前の MRI 画像、摘出脳の病理組織所見、術後経過(Engel 分類)を検討し
た。全例で術中 ECoG を用いて焦点切除を行っている。
【結果】全 82 例中病理組織学的に CD を認めたものが 48 例(58.5%)あり、そのうち 21 例
(43.8%)で術前 MRI にて CD の存在が示唆されていた。組織学的に CD を認めた 48 例中 31 例
(64.6%)で他の組織型を合併(dual pathology)しており、内訳は mesial temporal sclerosis が 18
例(58.1%)、次いで腫瘍 13 例(41.9%)であった。また、病理学的に CD を認めた側頭葉てんかん群
および腫瘍群ともに、術前 MRI での CD の存在の有無による術後経過の違いは認められなかっ
た。
【結論】CD を含むてんかん焦点切除に際しては、術前画像診断のみならず、電気生理学的診
断が必要不可欠であり、たとえ術前 MRI で明らかな CD を認めていても、切除時にはそれ以上に
広範に ECoG を施行し、確実に焦点を切除することが望ましい。
39
側頭葉てんかんにおける局所脳血流量自動定量プログラム (3DSRT)の有用性
国立病院長崎医療センター 脳神経外科
戸田 啓介、小野 智憲、馬場 啓至、米倉 正大
【目的】側頭葉てんかんにおいて良好な外科的治療成績を得るには、焦点の側方性を明らかに
する必要がある。今回我々は発作間欠時脳血流 SPECT 検査において局所脳血流量自動定量プ
ログラム(3DSRT)を用いて側頭葉てんかん患者の脳血流量を定量化し、有用性について検討し
た。
【方法】2000 年 1 月より 2003 年 4 月までに外科的治療を行った側頭葉てんかん患者 18 名(14
∼50 歳、平均 28.8 歳)を対象とした(海馬硬化症 13 例、皮質形成異常 2 例、DNT2 例、AVM1 例)。
SPECT 画像は最近開発された three dimensional stereotaxic ROI template (3DSRT)によって構
成された1側 12 区域毎の平均血流値を自動算出し、反体側との血流値の比較を行った。
【結果】焦点側の視床に 5 %以上の血流低下を示したものは 11 例 (61%)、また海馬の血流低下
を 10 例 (55%)に認めた。側頭葉の血流低下は 5 例に認められたに過ぎなかったが、側頭葉・海
馬・視床のいずれかの血流低下を示したものは 16 例(88.9%)に達した。
【結論】我々はこれまでに側頭葉てんかんの発作間欠時 SPECT の視察において側頭葉内側部
の脳血流の低下が良好な手術成績に関与していることを明らかにしてきた。このたび開発された
3DSRT は、大脳動脈の主要な一次分枝の支配領域に基づいて ROI が設定されており、解剖学的
脳領域区分毎に脳内循環の評価が視覚的・定量的に可能となった。今回の検討では側頭葉てん
かん患者の多くで焦点側の側頭葉・海馬・視床の血流低下が明らかとなり、3DSRT は焦点の側方
性の診断に有用と考えられた。
40
複数回の硬膜下電極留置を要した症例の検討
国立療養所西新潟中央病院 てんかん・機能脳神経外科
増田 浩、亀山 茂樹、本間 順平、上野 武彦、大石 誠
【対象】当院において 1995 年 12 月より 2003 年 6 月までに行われたてんかん手術のうち,複数
回の硬膜下電極(SE)留置を必要とした 4 例でその診断過程,臨床像について検討した。
【結果】4 例とも頭部を回旋して二次性全般化する複雑部分発作を有していた。1 例は非侵襲的
検査で焦点の推定が困難であったため,段階的に 3 回の SE 留置を行い焦点を絞り込み左側頭
葉底部焦点と診断,切除を行った。他の 3 例は非侵襲的検査で焦点を推定し SE 留置を行ったが
発作起始を確認できず,SE の再留置を行ったものであった。このうち 1 例は MEG や SPECT で焦
点を絞り込めず脳波所見より側頭葉てんかんと診断し SE 留置を行ったが,再留置の結果,前頭
葉底部∼弁蓋部焦点であった。他の 2 例は MEG での電流双極子(ECD)の集積部,発作時 SPECT
での高灌流部を中心に SE 留置を行ったが発作起始をとらえられず,1 例は下側頭回焦点で,1 例
は再留置でも焦点診断ができず焦点切除に至らなかった。
【考察】新皮質てんかんの手術治療において SE 留置は必須であるが,その留置範囲の決定に
は MEG や発作時 SPECT が有用である。特に MEG は発作間欠時の ECD の集積部でも発作焦点
と高い一致率を示す。しかし前頭葉/側頭葉底部に焦点が存在する場合,MEG では感度が低い
ため ECD が本当の焦点を捉えていない可能性があるため注意を要する。特に本例のような頭部
を回旋し二次性全般化する発作を有する場合,段階的なあるいは広範な(前頭葉・側頭葉底部を
含む)SE の留置が有効であると思われた。
41
二次性両側同期活動の脳磁図診断
広南病院 脳神経外科(1)、Neurology Department, Taipei Veterans G(2)
中里 信和(1)、 尤香玉(1)、 岩崎 真樹(2)、 永松 謙一(2)、 社本 博(1)、 冨永 悌二(2)、
吉本 高志
【目的】両側同期活動は全般性と局在関連性てんかんの両病型で出現しうる.一側から対側へ
の伝播による二次性両側同期活動の診断は,治療方針の決定に有用である.頭皮脳波では左
右の電位分布が重畳し分離が難しいが,脳磁図の磁界分布は小さいため,左右活動の分離に有
利と予想される.
【方法】当院で空間微分型ヘルメット脳磁計と頭皮脳波による自発活動の同時計測を行ったて
んかん症例 364 例(のべ 525 回)のうち,両側同期活動が観察された 18 例(男 10 例,女 8 例)を
対象とした.年齢は 3∼27(平均 19.4)歳.棘波や棘徐波バーストのなるべく早い時刻において,
双極子モデルによる信号源解析を行った.
【結果】18 例中 14 例においては,脳波では一側性と考えられても脳磁図では両側性棘波が観
察された.脳磁図によって起始半球を再現性よく特定でた症例は 9 例であり,起始部の棘波信号
源は比較的限局して推定された.これら 9 例中 3 例では硬膜下電極留置によって発作焦点を確認
でき,2 例では切除術にて良好な発作予後を得た.残る 1 例では言語野が焦点であり切除を断念
した.9 例中の他の 1 例では,棘波先行側の側頭葉前方切除で発作消失と両側棘波の消失を得
た.また 9 例中 2 例では前医から処方されていたバルプロ酸をカルバマゼピンに変更して発作の
消失を得た.
【結論】頭皮上脳波に脳磁図を付加することにより,二次性両側同期活動の診断精度が増すと
考えられる.一側半球の起始が特定できなかった 9 症例では,皮質下の活動が同期の原因となっ
ている可能性と,一側皮質に起始焦点があっても背景活動に埋もれて検出できなかった可能性
が考えられる.
42
脳梁全離断術を行った症候性 West 症候群の1例
大分医科大学 脳神経外科(1)、小児科(2)、国立長崎医療センター 脳神経外科(3)
丸山 崇(1)、上田 徹(1)、中嶋 浩二(1)、藤木 稔(1)、古林 秀則(1)、松田 光展(1)、
泉 達郎(2)、馬場 啓至(3)
【目的】両側大脳半球に広範な滑脳症を呈した症候性 WEST 症候群の乳児に対して、発症後比
較的早期に脳梁全離断術を行い、良好な結果を得たので報告する。
【症例】11 カ月女児で、生後 2 カ月目より眼球上転発作が出現。3 カ月目には全身性の強直発
作と体幹を激しく前屈させる発作がシリーズを形成。薬物加療に難治を示し、徐々に精神運動発
達の退行を認めるようになった。頭部 MRI では両側大脳半球に広範囲に滑脳症を呈しており、発
作間欠期脳波では、周期的にヒプスアリスミアを認め、発作時脳波ではびまん性に多棘波を認め
た。生後 11 カ月目に一期的に脳梁全離断術を施行し、発作頻度の著減と発達退行の阻止がみら
れた。
【結論】両側大脳半球に広範な形成異常を有する WEST 症候群において、脳梁全離断術は有
効であった。また、薬剤抵抗性で頻発する発作により、精神運動発達の退行がみられ始めたとき
に外科治療を考慮すべきと思われた。
43
bilateral synchrony を示したてんかん 4 症例の手術
国立療養所西新潟中央病院脳神経外科
本間 順平、増田 浩、大石 誠、上野 武彦、亀山 茂樹
【目的】MEG 上 bilateral synchrony を示した前頭葉及び側頭葉てんかん 4 症例における外科治
療について報告する。
【 方 法 】 術 前 の MEG に て 両 側 大 脳 半 球 に お い て 対 称 性 に 発 作 間 欠 期 spike に よ る
ECD(electrical current dipole) cluster を形成した4症例中、3 症例で両側硬膜下電極留置に基づ
いた焦点切除を、1 例で片側硬膜下電極留置による焦点切除を行い、術後 MEG 上での変化を検
討した。
【 結 果 】 術 前 右 側 頭 葉 中 心 に 両 側 頭 頂 、 側 頭 葉 に ECD cluster を 形 成 し た 右 側 頭 葉
ganglioglioma の症例では術後一過性に cluster は左側優位に変化し、発作が消失した 1 年目の検
査では棘波は確認されなかった。術前両側前頭葉に cluster を形成した皮質形成異常症例では術
後速やかな発作の軽減とともに両側の MEG spike は消失している。術前両側前頭葉に ECD
cluster を形成した左前頭葉外傷性てんかんの症例では術後速やかな発作消失と両側 MEG spike
の消失を認めた。
【結論】このような bilateral synchrony を示す症例において慢性硬膜下記録に基づいた片側の
焦点切除が有効であり、synchronous spike を示した対側の活動も手術によって抑制される可能
性が示唆された。1症例において発作抑制と対側の ECD cluster 消失までに一定期間を要してい
る。このことは secondary mirror focus が単独でてんかん源性を持ちながら、primary focus の切除
によって徐々に reset される可能性を示唆している。
44
難治性てんかんに対する脳梁離断術
久留米大学 脳神経外科(1)、島本脳神経外科医院(2)
倉本 晃一(1)、山口 真太朗(1)、笹平 俊一(1)、坂田 清彦(1)、徳富 孝志(1)、重森 稔(1)、
島本 宝哲(2)
【目的】脳梁離断術は Lennox-Gastaut 症候群など頻回な転倒発作を起こす症例において、発
作の減少や ADL の改善に有効と考えられている。しかし、anterior callosotomy だけでは不十分で、
2期的に total callosotomy を施行した症例を経験したので報告する。
【対象】1999年から2001年に Lennox-Gastaut 症候群の診断にて anterior callosotomy を施
行した5症例を対象とした。内訳は男性4例、女性1例、初回手術時年齢は2歳から19歳、平均
10.8±6.8 歳であった。
【結果】術後経過中に発作の再燃を来した3例に posterior callosotomy を追加した。この3例の
初回手術時の年齢は12歳、15歳、20歳で、追加手術を必要としなかった2例は2歳と6歳であっ
た。全例で初回手術後、発作は著減したが、追加手術が必要となった3例では、初回術後、約7ヶ
月∼16ヶ月の間に発作が再燃したため追加手術を行った。術後は発作は著減し ADL も改善した
が、2例では dissconection syndrome が一過性に認められた。
【まとめ】本症例では anterior callosotomy を施行した5例中3例が2期的に total callosotomy を
必要とした。初回手術後、発作症状の再燃が示唆された時点で積極的に total callosotomy を考
慮する必要があると考えられた。
45
難治てんかんにおける両側同期性棘徐波の術中皮質脳波による解析:
両側同期の機序と脳梁離断効果について
国立病院長崎医療センター 脳神経外科(1)、横尾病院(2)
小野 智憲(1)、馬場 啓至(1)、戸田 啓介(1)、小野 憲爾(2)
【目的】脳梁離断術後に両側同期性棘徐波が両側非同期化或いは一側化することは多く見ら
れ、両側同期に対する脳梁の重要な関与が示唆される。我々はこの機序について、従来考えら
れてきたような発作波の半球間伝導ではなく、両半球で互いに発生するてんかん性活動の同期
的半球間動員であることをいくつかの観点から提唱してきた。これまでの検討では、両側同期性
棘徐波の棘波頂点間の潜時は、同一患者においても時間的に揺らいでおり、その分布は患者間
で様々であった。すなわち両側同期の強さは患者により異なることが予想された。本研究ではこ
の両側同期の強さと脳梁離断後の脳波変化との相関を検証した。
【方法】脳梁離断施行患者 20 例において、術中記録した左右前頭葉皮質脳波を解析した。両
側同期性棘徐波の一側棘波頂点を基準として左右各々の棘波の加算平均波形を作成し、その
左右振幅比をもとに両側同期度を評価し、術後脳波変化との比較を行った。
【結果】術後の棘波が両側非同期性に変化した群(10 例)の両側同期度は一側化した群(10
例)と比べ有意に高値であった(0.51 vs. 0.34、p = 0.04)。
【結論】術後棘波の非同期化群では両半球に同程度の強いてんかん原生が存在していたこと
が推測されるが、そのような場合には両半球間でのてんかん性活動の動員がより急速に行われ、
ほとんど同時に両側棘徐波が発生し(同期度が高い)、他方一側化群では両半球のてんかん原生
が非対称性であり、各々の半球でてんかん性活動が動員されるのに時間差を要する(同期度が
低い)のではないかと考えられた。脳梁離断の術後効果予測に両側同期度の評価は有用である
かもしれない。
46
転倒発作を伴った側頭葉てんかんの一例
東京都立神経病院 脳神経外科(1)、東京大学 脳神経外科(2)
須永 茂樹(1)、清水 弘之(1)、川合 謙介(2)
【はじめに】今回我々は、転倒発作を伴った側頭葉てんかん患者を経験したので、若
干の文献的考察を加えて報告する。
【症例】53 歳の女性、17 歳時に複雑部分発作で発症した。発作型は不快感の前兆の後に意識
減損し自動症に移行した。50 歳頃から上記発作以外に、前兆の直後に突然意識を失って後方へ
転倒する発作が月に 1 回程度見られるようになった。転倒は極めて激しいもので、転倒による右
前腕の骨折や右大腿の火傷を経験している。内服治療を行ったがいずれも無効であった。脳波に
て左側頭葉から棘波や徐波を認めた。MRI では FLAIR 像で左海馬の萎縮と高信号域を認め左海
馬硬症に符合する所見と思われた。左海馬硬化症による側頭葉てんかんの診断で左側頭葉切
除を施行した。現在、術後約 1 年が経過しているが、転倒発作を含めて発作は完全に消失してい
る。
【結語】転倒発作を伴った左海馬硬化症による側頭葉てんかんの一例を報告する。転倒発作を
伴う側頭葉てんかんの機序に関して、これまでの報告例を含めて考察する予
定である。
47
側頭葉てんかん術後、幻聴、妄想症状を呈した症例の解析
東京医科歯科大学 脳神経外科(1)、保健衛生学科(2)
前原 健寿(1)、太田 禎久(1)、大久保 善朗(2)、大野 喜久郎(1)
【はじめに】側頭葉てんかん患者では高率に精神症状が合併することが知られている。精神症
状は外科治療後に認められることもあり、手術による合併症か否か判断が難しい例もある。今回、
側頭葉てんかん術後に幻聴、妄想症状を呈した症例について検討した。
【対象】2000 年以後、当科で難治性側頭葉てんかんにて外科治療を受けた 18 例(男性 8 例、
女性 10 例。左側頭葉 15 例、右側頭葉 3 例。腫瘍および血管性病変 8 例。14 例で海馬を切除。
手術時年齢は平均 29.9 才。手術までの期間は平均 15.7 年)のうち術後に幻聴、妄想症状を呈し
た 2 症例の特徴および治療を検討した。
【結果】1)幻聴、妄想状態を呈したのは左側頭葉切除後の 18 才と 27 才の女性で、手術までの
期間は 17 年、13 年であった。2 例とも海馬硬化を認めたが、腫瘍および血管性病変は認めなかっ
た。術後も抗てんかん薬の投与を続けていた。2)前者は術後 2 ヶ月目の全身痙攣以後は発作を
認めていなかったが、約 1 年後に幻聴、妄想状態を呈したため、ハロペリドールにて治療し症状は
消失した。3)後者は術前にも抑うつ気分と軽度の幻聴症状を呈し、抑うつ状態の判断でスルペリド
による治療を受けていたが、術後発作の消失に伴い向精神薬投与は中止となった。その後発作
は消失したものの術後 9 ヶ月目に幻聴、妄想状態を呈したため、スルペリドに加えリスペリドンを
併用し症状は消失した。
【結語】側頭葉てんかん手術患者では、術後の発作とは関係なく幻聴、妄想状態が出現するこ
とがある。外科治療前に患者、家族に精神症状出現の可能性を話し、症状出現時には早期に専
門医による投薬治療を受けることが必要と考えられた。
48
恐怖発作を主症候とする側頭葉てんかんの一例
東京女子医科大学 脳神経センター 脳神経外科
鈴木 咲樹子、落合 卓、山根 文孝、堀 智勝
【はじめに】恐怖発作を主症候とする側頭葉てんかんの一例を報告する.
【症例】患者は 33 歳女性.発作の初発は 11 歳.全般性けいれんが出現した.以後,全般性け
いれんは 4∼5 回程度あり.19 歳より恐怖をともなう発作を認めるようになった.発作型:恐怖感が
出現し,のどをふさがれているような感じとなり,恐怖の自覚を認め,その後息苦しくなり呼吸が早
くなる.さらに発作が持続すると言葉を話そうとしても話せない,理解できないという状態が 2∼3
分持続する.発作頻度は週に 4∼5 回.恐怖のみに関しては一日数回とかなり頻発していた.脳
波にては左側頭頭頂部に徐波を認めた.MRI 上左海馬扁桃体に萎縮を認め,SPECT では特記す
べき事無く, FDG-PET にて左側頭葉前部および内側部に代謝の低下を認めた.脳磁図では左
側頭葉外側部に棘波双極子の集積をみた.本症例に対してストリップ電極を左右側頭葉底部,海
馬傍回,側頭葉極部に置き,グリッド電極を左側頭葉外側部,左頭頂葉に留置した.発作間欠期
脳波では恐怖を感じるたびに主に左海馬傍回を中心に数秒程度持続するバーストを認めた.さら
に発作時には左側頭葉内側部から側頭葉極部にかけてバーストの波及を認めた.本症例に対し
て側頭下選択的海馬扁桃体摘出術を施行し,術後発作は認めなくなった.
【結語】本症例における恐怖発作は症状学的に特徴的であり,発作波は左側頭葉内側部に起
始を有し,側頭葉極部,外側部に波及した.恐怖の発現には側頭葉内側部辺縁系の関与が不可
欠であった.
49
頭皮脳波で前頭極部に突発波を認めた側頭葉てんかんの手術例
名古屋大学 脳神経外科
梶田 泰一、臼井 直敬、前澤 聡、遠藤 乙音、竹林 成典、吉田 純
頭皮脳波で前頭極部に突発波を認め、頭蓋内脳波記録を施行した側頭葉てんかんの症例を報
告する。症例は33歳の男性、既往歴に1歳1ヶ月熱発時に約4時間半の片側痙攣重責。9歳時
に、自動症を伴う複雑部分発作で初発した。CBZ 1500mg の他、PHT, ZNS, Tiagabine, Topiramate
は無効で、発作が月に3−4回の頻度で出現していた。発作型は、epigastric ascending sensation
に続いて、oral automatism となり、発作中に意識は保たれていることが多かった。長時間脳波中
には、睡眠中に開眼、左上肢が硬くなり、proximal movement もみられる自動症発作もあった。頭
蓋 外 脳 波 所 見 は 、 発 作 間 欠 期 に regional right frontal (Ep2>F8, F4) spikes. regional right
fronto-temporal continuous slow wave、発作時に、right fronto-temporal を起始とする ictal
discharge を記録した。MRI では、右海馬委縮と flair 法で高信号の所見、SPECT 検査で発作間欠
期に右前頭葉、側頭葉の血流低下が示された。アミタールテストでは、言語優位側は左であった。
側頭葉てんかんに加え、脳波所見より右前頭葉のてんかん原性の存在が疑われ、右前頭葉、側
頭葉外側、底部に Grid, Strip 電極を留置した。頭蓋内脳波・発作同時記録にて、側頭葉内側と前
頭葉からのそれぞれ独立した発作起始を確認した。手術は右側頭葉切除術を施行し、術後6ヶ月
間、発作は消失している。
50
Pilomotor seizure を呈した側頭葉てんかんの 1 例
名古屋大学 脳神経外科
臼井 直敬、梶田 泰一、前澤 聡、遠藤 乙音、竹林 成典、吉田 純
【目的】pilomotor seizure は稀とされ、その責任領域として側頭葉や島、あるいは帯状回が推定
されているが、頭蓋内脳波の報告は少ない。
【方法】著者らは、片側性の鳥肌を呈する発作、いわゆる pilomotor seizure を呈する一例を経験
した。
【結果】症例は 41 才男性。1歳前後に熱性けいれんの既往あり。24 歳頃から発作性に左上肢
に鳥肌が生じることがあった。25 歳より複雑部分発作が出現し、月 2―3 回の頻度でみられるよう
になった。抗てんかん薬の投与がなされたが、発作は難治であり、外科治療の適応を検討した。
単純部分発作として、左上肢の鳥肌、複雑部分発作の際は、動作停止、表情変化、両上肢の強
直がみられた。頭皮脳波にて、発作間欠期には左蝶形骨誘導に棘、左上肢の鳥肌を訴える単純
部分発作時には、左蝶形骨誘導に律動性の棘を認めた。頭部 MRI で明らかな異常を認めなかっ
た。慢性頭蓋内脳波記録を行い、3 回の複雑部分発作、及び6回の単純部分発作が記録された。
うち 4 回は pilomotor seizure であり、脳波で左側頭葉内側の誘導に限局した発作波を認めた。複
雑部分発作においても同じ誘導に発作起始を認め、左の側頭葉前部切除術を施行した。
【結論】文献上、pilomotor seizure の責任領域としておもに側頭葉内側が推定されているが、こ
のことを頭蓋内脳波によって立証した報告はなかった。著者らは、片側性の pilomotor seizure の
際の頭蓋内脳波で同側の側頭葉内側の発作発射を認めた。この症例からは、片側性の鳥肌はて
んかん原性焦点の側方性および局在を示唆する有用な所見と考えられた。
51
側頭葉に存在する海綿状血管腫の外科治療:てんかん発作の予後
東京女子医科大学 脳神経センター 脳神経外科
山根 文孝、落合 卓、堀 智勝
【目的】側頭葉に存在する海綿状血管腫に対する外科治療成績について検討した.
【対象および方法】対象は 2000 年以降,経験した 7 症例.年齢平均 34.4 歳.男:女=5:2.左:
右=4:3,内側部 4 例,外側部 2 例,底面 1 例.出血症例は 2 例.発作の初発年齢,発作型,治療
成績などについて調べた.
【結果】発作の初発から治療までは 7 例中 4 例で 1 年以内,7 年以上は 2 例.発作型は 1 例が
CPS のみ,6 例で GTCS であり,そのうち 1 例では視覚性前兆を伴っており,1 例で CPS および時
に怒りっぽくなるという行動異常の既往があった.治療は発作型が CPS で罹患期間が 7 年の 1
症例にストリップ電極および深部電極設置術を行ったがその他 3 症例は病変の摘出のみ,さらに
1 例で海馬,1 例で扁桃体、1 例で海馬扁桃体の摘出を追加した.摘出に際しては周囲組織のヘ
モシデリン沈着部位を含めて摘出した。術後の経過観察期間 0.5∼2.5 年(平均 1.7 年),7 症例中
4 症例にて術後てんかん発作を認めず,2 例では術直後数回発作を認めたものの、その後発作は
完全に消失した.罹患期間が 10 年に及んだ症例では経過観察 6 ヶ月にて術後 3 回の CPS を認
めたものの発作の頻度は著明に減少した.
【結語】側頭葉に存在する海綿状血管腫の予後は病変の摘出のみによって良好な発作のコント
ロールがえられる.特に GTCS にて発症した場合は発症後1∼2 年以内と早期の摘出が推奨され
る一方、罹患期間が長期に及ぶ症例の場合には深部電極からの記録を行い海馬扁桃体などに
発作焦点が存在しているかどうか診断したうえで摘出範囲を決定する必要があると考えられた.
52
激しい身振り自動症を伴う前頭葉てんかん患者の発作時 SPECT 所見
新潟大学 脳神経外科(1)、 国立療養所西新潟中央病院脳神経外科(2)
福多 真史(1)、増田 浩(2)、本間 順平(2)、亀山 茂樹(2)、田中 隆一(1)
【目的】激しい身振り自動症を伴う前頭葉てんかん患者の発作時 SPECT を解析し,その発作症
状の起源について検討した.
【対象と方法】前頭葉外側部に病変を有する前頭葉てんかん患者5例(focal cortical dysplasia
3例, tuberous sclerosis 2例).5例とも発作時に激しい身振り自動症を伴い,薬物でのコントロー
ルが不良であったため,てんかん外科が施行された.術前に発作間欠時,発作時 SPECT を行い,
3D-SSP にて個々の症例での発作時の高環流領域の検討を行い,Statistical parametric mapping
99 (SPM99)にて発作時と発作間欠時の SPECT 画像を paired t-test を用いて比較検討した.
【結果】術後観察期間は 4-78 ヶ月(平均 36.6 ヶ月)で,全例てんかん焦点としての病変部を切除
して発作は消失している.3D-SSP による発作時 SPECT 所見では,全例病変部およびその周辺
に高環流領域を認め,同時に Supplementary motor area (SMA)に高環流領域が認められたのが
3例,SMA と anterior cingulate gyrus に認められたのが1例であった.SPM99 では発作時 SPECT
は発作間欠時 SPECT に比べて anterior cingulate gyrus で有意に局所脳血流の増加が認められ
た(p < 0.01).
【結論】前頭葉てんかんに伴う激しい身振り自動症患者では,発作波が前頭葉内側面,特に
SMA や anterior cingulate gyrus に伝播する傾向が認められ,この領域が発作症状の起源と関係
している可能性が示唆された.
53
皮質異形成異常を伴う難治性前頭葉てんかんの 2 手術例
−頭蓋内電極留置による発作焦点の同定と焦点切除時の術中皮質脳波の併用について−
和泉市立病院 脳神経外科(1)、大阪市立大学 脳神経外科(2)
一ノ瀬 努(1)、森野 道晴(2)、石黒 友也(2)、宇田 武弘(2)、川原 慎一(2)、露口 尚弘(2)、
原 充弘(2)
皮質形成異常はそれ自体にてんかん原性を有し、その切除により発作の抑制が期待できる。しか
し、皮質形成異常の周囲にてんかん原性域が存在している場合があり、このような例は発作起始
部および周囲のてんかん原性域の同定が必要である。今回、皮質形成異常を伴う難治性前頭葉
てんかんの 2 例に対し、頭蓋内電極留置による発作起始部の診断と術中皮質脳波を用いた焦点
切除により、良好な結果を得た。症例 1 は 30 歳女性。6 歳より頚部と体幹を右へ捻転させる発作
を認めていた。MRI で左上前頭回に皮質形成異常が認められた。皮質形成異常の直上と周囲の
前頭葉に頭蓋内電極を留置し、発作モニタリングを行ったところ、発作時の皮質脳波で皮質形成
異常部を中心に異常波を認めた。焦点切除時に術中皮質脳波を測定し、皮質形成異常とその周
囲に異常波を認めた部位を切除した。神経脱落症状は認めず、術後 1 年 8 ヶ月になるが発作は
認めていない。症例 2 は 21 歳男性。生後 6 ヶ月より頚部を左に回旋、左上肢を伸展、右上肢を屈
曲させる発作を認めた。MRI では右上前頭回に皮質形成異常を認め、症例1と同様に頭蓋内電
極留置下での発作モニタリングを行い、術中皮質脳波を用いて焦点切除を行った。術後に一過性
の左手の脱力が出現したが発作は消失している。前頭葉てんかんは一般に頭蓋内電極留置によ
る発作起始部の同定は非常に困難であり、発作予後についても側頭葉てんかんに比べると成績
が悪い。しかし、病変部が画像で診断できる皮質形成異常を伴う前頭葉てんかんは発作起始部
の同定および周囲のてんかん原性域の切除に頭蓋内電極留置と術中皮質脳波の併用が有用と
思われる。
54
電極留置に工夫を要した前頭葉てんかんの2例
京都大学 脳神経外科(1)、神経内科(2)、高次脳機能研究総合センター(3)
高橋 淳(1)、宮本 享(1)、池田 明夫(2)、松橋 眞生(3)、佐藤 岳史(1)、松本 理器(2)、
三国 信啓(1)、橋本 信夫(1)
【目的】側頭葉外てんかんに対する手術においては正確な焦点同定と周囲の機能マッピングが
必須である。今回我々は電極留置に工夫を要した前頭葉てんかん2例を経験したので報告する。
【症例1】42 才、男性。10 才頃から始まり 30 才頃からひどくなった前頭葉てんかん。夜間睡眠中
に突然起きあがって叫びながら頭を床に打ち付ける発作を繰り返していた。MRI で上前頭回沿い
に高信号域 (FLAIR)が認められたが、発作時脳波と PET study で左右差なく何らかの侵襲的検
査が必要と判断された。発作時に激しく暴れるので硬膜下電極は危険であると考え左右の硬膜
外電極を留置し記録を行ったところ、MRI での異常領域に一致して速波バーストが認められこの
部位が焦点であると考えられた。手術時にはさらに sulcus を剥離して sulcus 面の cortiogram も記
録し sulcus の両側が焦点であると同定し、焦点切除術を行った。術後、発作は 4 年間にわたり消
失している(Ia)。
【症例2】26 才、男性。10 才頃から右上肢を挙上する tonic seizure がみられるようになり 15 才
頃から喉の不快感を伴うようになった。発作時脳波、MRI から lt. insular cortex に焦点があると考
えられたが、言語野同定の必要もありシルビウス裂を開いて電極留置を行った。硬膜下電極から
の発作時脳波記録によって lt. frontal operculum に焦点があることが分かり、言語機能・運動機能
に関係がないことを確認して焦点切除術を行った。術後、発作は軽快した(Ib)。
【考察】側頭葉外てんかんにおいても工夫して電極留置を行い焦点を確実に同定することによ
って良好な結果を得ることができる。
55
前頭葉発作を示した外傷性てんかんの 1 例
和歌山県立医科大学 脳神経外科
西林 宏起、 上松 右二、 寺田 友昭、 中井 國雄、 板倉 徹
【目的】頭部外傷による脳挫傷後に、顔面強直と自動症を主体とする複雑部分発作が頻発する
前頭葉てんかんに対し、切除外科手術を行った 1 例について報告する。
【症例】症例は 25 歳男性。18 歳時に転落事故で前頭部打撲し、右前頭葉中心に脳挫傷認めら
れ開頭術を施行される。術後精神症状や神経脱落症状は残存せず。術後 1 年半、予防的に抗て
んかん剤が投与されていた。薬剤中止後全般性強直間代発作が出現したため薬物療法が再開さ
れた。その後、数秒間意識が減損する発作が週に 3,4 日出現するようになり、多いときで 1 日十
数回群発した。種々の抗てんかん剤が試されたが発作頻度が減少しないため当院紹介された。
頭皮脳波では発作間欠期に右前頭部に棘徐波律動がみられ、発作時には顔面強直と自動症の
出現とともに背景脳波が平坦化した。MRI では右前頭葉に広範囲に、また左前頭葉底部に軽度
の挫傷後の変化を認めた。発作症状から前頭葉てんかんと診断し、脳波所見から焦点は右側と
判断した。皮質脳波記録をもとに裁断的右前頭葉切除術を行った。術後発作は消失し、新たな精
神神経症状も出現しなかった。病理組織診断はグリオーシスであった。
【結語】外傷性前頭葉てんかんの 1 例に対して切除手術を行った。両側性に病変が存在したが、
脳波所見から右前頭葉てんかんと診断した。切除範囲の決定に皮質脳波が有用であった。
56
Non-lesional Frontal Lobe Epilepsy の手術適応の検討
国立療養所静岡神経医療センター(てんかんセンター)
馬場 好一、三原 忠紘、鳥取 孝安、松田 一己、井上 有史、藤原 建基
【目的】てんかんの手術成績はさまざまな要因に左右されるが、器質性病変を認めない症例の
予後は一般に思わしくない。前頭葉の切除例を対象として、このような症例の手術適応を検討し
た。
【対象・方法】1.5T の MRI 導入以降、前頭葉の切除手術を行った 84 例のうち、MRI で異常を認
めず、術後 1 年以上が経過した 14 例を対象とした。手術時年齢は 13∼37 歳(平均 26.3 歳)であ
った。MRI は、T1 強調、T2 強調、プロトン、FLAIR で、5mm スライスの水平、冠状、および矢状断
画像を検索した。全例に硬膜下電極による慢性頭蓋内脳波記録を行った。術後追跡期間は 1∼8
年、術後 2 年未満の 3 例を含み、平均 4.1 年であった。手術成績は、Engel の Class- I が 6 例(43%)、
Class-II が 1 例、Class-III が 3 例、Class-IV が 4 例であった。術前の検査所見のうち、発作症状、
MEG、SPECT(発作時は 13 例で実施)、および頭蓋内脳波所見について、Class- I∼II の 7 例(良
好群)と、Class-III∼IV の 7 例(不良群)を比較した。なお、病理診断は、5 例が皮質形成異常、他
の 9 例では特定しうる所見を認めなかった。
【結果】1)発作症状について、良好群では、局所運動症状や非対称性強直姿位を主徴とするも
のが多かった。2)発作時 SPECT で限局性の高潅流域を呈した 6 例中、4 例が良好群であった。
3)MEG dipoles が限局性集積を示した 9 例中、5 例が良好群であった。4)頭蓋内脳波で臨床発作
に先行する領野性発作発射を認めた 7 例中、5 例が良好群であった。
【結論】MRI で異常を認めない症例では、慢性頭蓋内脳波が必須である。しかし、万能ではない
ので、最終的な手術適応の決定に際しては、発作症状、発作時 SPECT 所見、MEG 所見などを参
考に、きわめて慎重な判断が求められる。